説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】 外径成長を抑制しながら、スチールコードの芯抜けによるセパレーション故障の発生を抑制することを可能にした空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】 1本のスチールワイヤ芯線11と、該スチールワイヤ芯線11の周囲に撚り合わされた複数本のスチールワイヤ側線12とからなるスチールコード10をタイヤ構成部材の補強材として用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、スチールワイヤ芯線11を型付けなしの直線状とする一方で、スチールワイヤ側線12の各々に螺旋状の型付けを施し、スチールコード10の直径Hcに対するスチールワイヤ側線12の型付けの波高さHfの比率からなる型付け率が70%以上100%未満であり、かつ、スチールワイヤ側線12に付与された残留応力に基づく該スチールワイヤ側線12の締付方向への残留応力回転数がスチールコードの6m当たり2回以上6回以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1+N構造のスチールコードをタイヤ構成部材の補強材として用いた空気入りラジアルタイヤに関し、更に詳しくは、外径成長を抑制しながら、スチールコードの芯抜けによるセパレーション故障の発生を抑制することを可能にした空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラック・バス用空気入りラジアルタイヤのベルト層のスチールコードとして、複数本のスチールワイヤを撚り合わせてなる1×N構造のオープンコードが使用されている。このような1×N構造のオープンコードはゴム浸透性が良好であるため耐腐食性に優れ、しかも低コストで製造することができるという利点がある。ところが、1×N構造のオープンコードは低荷重時の伸びが大きいため、タイヤの外径成長を助長し、延いては、タイヤの耐久性を低下させるという欠点がある。
【0003】
これに対して、1本のスチールワイヤ芯線の周囲に複数本のスチールワイヤ側線を撚り合わせてなる1+N構造のスチールコードが種々提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。その中で、スチールワイヤ芯線に型付けを施していない1+N構造のスチールコードは、外径成長抑制の点では非常に有効であるが、芯抜けが発生し易く、その芯抜けに起因してセパレーション故障を生じ易いという問題がある。また、スチールワイヤ芯線に波状や螺旋状の型付けを施した場合、芯抜けを抑えることは可能であるものの、外径成長の抑制効果が低下することになる。そのため、外径成長の抑制と芯抜けの抑制とを両立することは困難である。
【0004】
【特許文献1】特開平9−31874号公報
【特許文献2】特開2001−329476号公報
【特許文献3】特開平10−53982号公報
【特許文献4】特開平9−256282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、外径成長を抑制しながら、スチールコードの芯抜けによるセパレーション故障の発生を抑制することを可能にした空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りラジアルタイヤは、1本のスチールワイヤ芯線と、該スチールワイヤ芯線の周囲に撚り合わされた複数本のスチールワイヤ側線とからなるスチールコードをタイヤ構成部材の補強材として用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、前記スチールワイヤ芯線を型付けなしの直線状とする一方で、前記スチールワイヤ側線の各々に螺旋状の型付けを施し、前記スチールコードの直径に対する前記スチールワイヤ側線の型付けの波高さの比率からなる型付け率が70%以上100%未満であり、かつ、前記スチールワイヤ側線に付与された残留応力に基づく該スチールワイヤ側線の締付方向への残留応力回転数が前記スチールコードの6m当たり2回以上6回以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、スチールコードを構成するスチールワイヤ芯線を型付けなしの直線状とすることにより、タイヤの外径成長を抑制するようにしているが、その一方で、スチールワイヤ側線の各々に螺旋状の型付けを施し、その型付け率を70%以上100%未満とすることにより、スチールワイヤ側線に対するスチールワイヤ芯線の相対的な移動を抑制し、スチールコードの芯抜けによるセパレーション故障の発生を抑制することができる。また、上記型付け率を単に小さく設定した場合、スチールコードにバラケを生じ易くなるが、スチールワイヤ側線に付与された残留応力に基づく該スチールワイヤ側線の締付方向への残留応力回転数をスチールコードの6m当たり2回以上とすることにより、バラケを抑制することが可能になる。更に、スチールワイヤ側線に付与された残留応力に基づく残留応力回転数をスチールコードの6m当たり6回以下に規制することにより、スチールコード全体に回転応力が残存しなくなるため、タイヤ構成部材をシート状に成形する際に、そのタイヤ構成部材が反り返るような不都合を生じることもない。
【0008】
本発明において、スチールワイヤ側線に付与された残留応力に基づく残留応力回転数はスチールコードの6m当たり2回以上4回以下であることが好ましい。また、スチールワイヤ側線の型付け率は70%以上96%以下であることが好ましい。これにより、更に好ましい作用効果を得ることができる。
【0009】
上記スチールコードを適用するタイヤ構成部材としては、ベルト層、カーカス層、ビード部補強層等を挙げることができるが、特にベルト層に上記スチールコードを適用することが好ましい。これは、ベルト層を構成するスチールコードには外径成長の抑制と芯抜けの抑制が強く求められるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の実施形態からなる空気入りラジアルタイヤを示し、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架され、そのカーカス層4の端部がビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層6が埋設されている。これらベルト層6は補強コードがタイヤ周方向に対して傾斜し、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層6の補強コードとしては、1+N構造(N=3〜8)のスチールコード、より具体的には、1+5構造のスチールコードが使用されている。更に必要に応じて、ベルト層6の外周側には、補強コードをタイヤ周方向に巻回してなるベルトカバー層を配置しても良い。
【0011】
図1はトラック・バス用の空気入りラジアルタイヤを図示するものであるが、本発明は図2に示すような乗用車用又はライトトラック用の空気入りラジアルタイヤにも適用することが可能である。
【0012】
図3は本発明の空気入りラジアルタイヤのベルト層に使用される1+5構造のスチールコードを示す平面図であり、図4は図3に示すスチールコードの断面図である。また、図5は図3のスチールコードから分離したスチールワイヤ側線を示す平面図である。
【0013】
図3〜図5に示すように、スチールコード10は、1本のスチールワイヤ芯線11と、該スチールワイヤ芯線11の周囲に撚り合わされた5本のスチールワイヤ側線12とから構成されている。スチールワイヤ芯線11には型付けが施されておらず、このスチールワイヤ芯線11は実質的に直線状をなしている。一方、スチールワイヤ側線12の各々には螺旋状の型付けが施されている。ベルトコードとして、スチールワイヤ芯線11及びスチールワイヤ側線12の素線径は0.15mm〜0.45mmの範囲にすると良い。
【0014】
スチールワイヤ側線12の型付け率Rは、70%以上100%未満、より好ましくは、70%以上96%以下に設定されている。これにより、スチールワイヤ側線12に対するスチールワイヤ芯線11の相対的な移動を抑制し、スチールコード10の芯抜けによるセパレーション故障の発生を抑制することができる。型付け率Rが小さ過ぎるとスチールコード10にバラケを生じ易くなり、逆に型付け率Rが大き過ぎると芯抜けを抑制する効果が不十分になる。
【0015】
スチールワイヤ側線12の型付け率Rは、スチールコード10の直径をHc(mm)とし、スチールワイヤ側線12の型付けの波高さをHf(mm)としたとき、下式(1)から求めることができる。
R=Hf/Hc×100(%) ・・・(1)
【0016】
一方、スチールコード10の直径Hc(理想直径)は、スチールワイヤ芯線11の直径をds(mm)とし、スチールワイヤ側線12の直径をds(mm)としたとき、下式(2)から算出することができる。
Hc=ds+2ds ・・・(2)
【0017】
また、スチールワイヤ側線12の型付けの波高さHfは、スチールコード10を適当な長さに切断して全てのスチールワイヤ側線12をほぐし、投影機により各スチールワイヤ側線12をコード長手方向と直交する方向に投影し、その波高さHfを1本につき4箇所で測定し、全てのスチールワイヤ側線12の測定値を平均した値とする。
【0018】
スチールワイヤ側線12には、以下のような残留応力を付与されている。即ち、スチールワイヤ側線12を残留応力が開放されないようにスチールコード10から分離した後、その残留応力に基づくスチールワイヤ側線12の回動を許容したとき、スチールワイヤ側線12の締付方向(撚りが引き締まる方向)への残留応力回転数がスチールコード10の6m当たり2回以上6回以下、より好ましくは、2回以上4回以下となるような残留応力がスチールワイヤ側線12に付与されている。
【0019】
スチールワイヤ側線12の型付け率Rを単に小さく設定した場合、スチールコード10にバラケを生じ易くなるが、スチールワイヤ側線12に付与された残留応力に基づく残留応力回転数を2回以上とすることにより、バラケを抑制することが可能になる。更に、スチールワイヤ側線12に付与された残留応力に基づく残留応力回転数を6回以下、より好ましくは、4回以下に規制することにより、スチールコード全体に回転応力が残存しなくなるため、タイヤ構成部材をシート状に成形する際に、そのタイヤ構成部材が反り返るような不都合を生じることもない。
【0020】
上述した空気入りラジアルタイヤによれば、スチールワイヤ芯線11を型付けなしの直線状とする一方で、スチールワイヤ側線12の各々に螺旋状の型付けを施し、スチールワイヤ側線12の型付け率R及び残留応力回転数を規定したスチールコード10を、ベルト層6の補強材として用いているので、タイヤの外径成長を抑制しながら、スチールコード10の芯抜けによるセパレーション故障の発生を抑制することが可能になる。
【0021】
以下、本発明で使用するスチールコードの製造方法について簡単に説明する。図6はスチールコードの製造装置の全体構成を示し、図7はプリフォーマ(型付け機)を示し、図8は残留応力調整装置を示すものである。
【0022】
このスチールコードの製造装置は、図6に示すように、ボビン21から供給される1本のスチールワイヤ芯線11と複数のボビン22から供給される複数本のスチールワイヤ側線12を案内ローラ23を介して集合器24で集め、これらを撚線機25に供給するようになっている。撚線機25は1本のスチールワイヤ芯線11の周囲に複数本のスチールワイヤ側線12を撚り合わせ、得られたスチールコード10をボビン26に巻き取るように構成されている。撚線機25は、その構成が特に限定されるものではなく、公知のものを使用することができる。
【0023】
スチールワイヤ側線12を供給するボビン22と案内ローラ23との間には、プリフォーマ30及び残留応力調整装置40が配置され、各スチールワイヤ側線12がプリフォーマ30及び残留応力調整装置40を通過するようになっている。
【0024】
プリフォーマ30は、図7に示すように、スチールワイヤ側線12の供給方向に対して回転軸が直交するように配置された3本の回転ピン31a,31b,31cと、これら回転ピン31a〜31cを回転自在に保持する筒体32とから構成されている。スチールワイヤ側線12は回転ピン31a〜31cに対してジグザグ状に掛け渡されている。そして、スチールワイヤ側線12が回転ピン31a〜31cを通過する際に該スチールワイヤ側線12が扱かれて型付けが施される。型付け率は回転ピン31a〜31cの間隔や配置位置等に基づいて適宜調整することができる。
【0025】
残留応力調整装置40は、中空回転軸41を軸受46により回転自在に支持し、該中空回転軸41の一端に筒体42を固定し、回転軸41の他端にプーリ43を固定した構造になっている。プーリ43にはベルト44が掛け回され、不図示のモータの動力をベルト44を介してプーリ43に伝達し、それによって筒体42を回転させるようになっている。筒体42には、スチールワイヤ側線12の供給方向に対して回転軸が直交するように配置された2本のロール45a,45bが回転自在に搭載されている。スチールワイヤ側線12は、筒体42内において、ロール45aの側方を通過してロール45bの第1の溝に掛けられ、続いてロール45aの第1の溝に掛けられている。スチールワイヤ側線12は、ロール45aの第1の溝から更にロール45bの第2の溝、ロール45aの第2の溝に掛けられ、ロール45bの側方を通過した後、筒体42の外部に送り出されるようになっている。
【0026】
筒体42が回転すると、スチールワイヤ側線12は筒体42の入口側で捩じられ、かつ出口側ではその捩じりが戻される。筒体42を比較的高速に回転させることにより、スチールワイヤ側線12は弾性域(捩じり完全に元に戻る程度の捩じれ)を超えて塑性域(捩じり完全に元に戻らない程度の捩じれ)に達するまで捩じりが加えられ、かつ捩じりが戻される。これにより、スチールワイヤ側線12に残留応力が付与される。残留応力の大きさは、スチールワイヤ側線12の捩じり回数(筒体42の回転速度)に基づいて調整することができる。なお、筒体42の回転方向は撚線機25による撚り方向と同一方向とする。これにより、スチールワイヤ側線12に付与される残留応力は、開放されたスチールワイヤ側線12を締付方向に回転させるように作用する。
【実施例】
【0027】
タイヤサイズ295/75R22.5で、1本のスチールワイヤ芯線と、該スチールワイヤ芯線の周囲に撚り合わされた複数本のスチールワイヤ側線とからなるスチールコード(1×0.32+5×0.37)を、4層のベルト層のうちカーカス層側から数えて2番目及び3番目のベルト層の補強材として用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、スチールワイヤ芯線への型付け(波状)の有無、スチールワイヤ側線の型付け率、スチールワイヤ側線の残留応力に基づく残留応力回転数を表1のように種々異ならせた実施例1〜6、比較例1〜4及び従来例1の空気入りラジアルタイヤを製作した。
【0028】
なお、スチールワイヤ側線の型付け率及びスチールワイヤ側線の残留応力回転数は、以下の方法により測定したものである。また、各スチールコードについて、以下の方法によりバラケ及び芯抜けを評価した。
【0029】
スチールワイヤ側線の型付け率:
スチールコードの直径Hcは、スチールワイヤ芯線の直径dsとスチールワイヤ側線の直径をdsとから、Hc=ds+2dsの式により求めた。スチールワイヤ側線の型付けの波高さHfについては、スチールコードを適当な長さに切断して全てのスチールワイヤ側線をほぐし、投影機により各スチールワイヤ側線をコード長手方向と直交する方向に投影して投影像をスクリーンに映し、その波高さHfを1本につき4箇所で測定した。そして、全てのスチールワイヤ側線の測定値の平均値を波高さHfとした。スチールワイヤ側線の型付け率Rは、スチールコードの直径Hcとスチールワイヤ側線の型付けの波高さHfとからR=Hf/Hc×100(%)の式により求めた。
【0030】
スチールワイヤ側線の残留応力回転数:
スチールコード(被試験体)を6mの長さに切断し、スチールコードの全体を撚り方向とは逆方向に回転させながら、残留応力が開放されないように、即ち、スチールワイヤ側線自体が回転しないようにしてスチールワイヤ側線を分離した。分離されたスチールワイヤ側線の一端を固定してスチールワイヤ側線の他端を開放すると、スチールワイヤ側線が残留応力に基づいて締付方向に回転するので、スチールワイヤ側線の他端の回転数(静止に至るまでの回転数)を1/4回転単位で測定した。この測定を被試験体を構成する全てのスチールワイヤ側線について行い、その平均値を被試験体のスチールワイヤ側線の残留応力回転数(回/6m)とした。なお、スチールコード自体についても残留応力回転数を測定した。
【0031】
バラケ:
スチールコード(被試験体)のバラケについては、次のようにして、A判定からD判定までの4段階の評価を行った。即ち、切断部から50mm離れたところを保持した状態でコードをペンチで切断し、切断端末を軽く叩いてもバラケが発生しないという結果が3回連続で得られた場合を「A」で示した。切断部から50mm離れたところを保持した状態でコードをペンチで切断してもバラケが発生しないという結果が3回連続で得られた場合を「B」で示した。切断部に隣接する部位を保持した状態でコードをペンチで切断し、静かに保持を開放した時にバラケが発生しないという結果が3回中2回得られた場合を「C」で示した。切断部に隣接する部位を保持した状態でコードをペンチで切断し、静かに保持を開放した時にバラケが発生しないという結果が得られない場合を「D」で示した。
【0032】
芯抜け:
スチールコード(被試験体)の芯抜けについては、次のようにして、芯抜けの有無を評価した。即ち、数m程度のスチールコードを直径150mm程度のコイル状に巻回したものを用意し、このコイル状のスチールコードを両手で持って変形(例えば、両手を近付けたり、離したりする)を繰り返した。そして、スチールコードの端部からのスチールワイヤ芯線の飛び出し(芯抜け)の有無を判定した。
【0033】
上述した実施例1〜6、比較例1〜4及び従来例1の空気入りラジアルタイヤについて、下記の方法により、成形作業性を評価し、更にベルトエッジセパレーション及び外周成長量を測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0034】
ベルトエッジセパレーション:
各試験タイヤを車両に装着し、一般の舗装路を15万km走行した後、各試験タイヤを分解し、3番ベルト層のエッジにおける剥離量を全周にわたって測定し、その最大剥離量(mm)を求めた。この値が小さいほど、耐ベルトエッジセパレーション性が優れていることを意味する。
【0035】
外周成長量:
各試験タイヤを標準リムに装着し、インフレート(空気圧900kPa)させた状態でオーブンに入れ、70℃の温度条件下に120日間放置し、溝底でのタイヤ外周長を劣化前後で測定し、その測定値から外周成長量(mm)を求めた。この値が小さいほど、外径成長抑制効果に優れていることを意味する。
【0036】
成形作業性(平坦性):
各試験タイヤの成形時におけるシート状の部材の跳ね上がり状態を評価した。評価結果は、ベルト部材の跳ね上がり高さが0〜3mmとなる比較的良好な状態を「○」で示し、4〜5mmとなるやや不良の状態を「△」で示し、6mm以上となる不良の状態を「×」で示した。
【0037】
【表1】

【0038】
この表1から明らかなように、実施例1〜6のタイヤは、耐ベルトエッジセパレーション性、外径成長抑制効果、成形作業性がいずれも優れていた。これに対して、従来例1のタイヤは、スチールワイヤ芯線に型付けを施しているため、耐ベルトエッジセパレーション性と外径成長抑制効果が不十分になっていた。比較例1のタイヤは、スチールワイヤ側線の型付け率が小さ過ぎるため、スチールコードのバラケに起因して耐ベルトエッジセパレーション性が不十分になっていた。比較例2のタイヤは、スチールワイヤ側線の型付け率が大き過ぎるため、スチールコードの芯抜けに起因して耐ベルトエッジセパレーション性と外径成長抑制効果が不十分になっていた。比較例3のタイヤは、スチールワイヤ側線の残留応力回転数が少な過ぎるため、スチールコードのバラケに起因して耐ベルトエッジセパレーション性が不十分になっていた。比較例4のタイヤは、スチールワイヤ側線の残留応力回転数が多過ぎるため、ベルト部材の反り返りにより成形作業性が不十分になっていた。
【0039】
次に、タイヤサイズ165R14で、1本のスチールワイヤ芯線と、該スチールワイヤ芯線の周囲に撚り合わされた複数本のスチールワイヤ側線とからなるスチールコード(1+5×0.25)を、2層のベルト層の補強材として用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、スチールワイヤ芯線への型付け(波状)の有無、スチールワイヤ側線の型付け率、スチールワイヤ側線の残留応力に基づく残留応力回転数を表2のように種々異ならせた実施例11〜16、比較例11〜14及び従来例11の空気入りラジアルタイヤを製作した。
【0040】
これら実施例11〜16、比較例11〜14及び従来例11の空気入りラジアルタイヤについて、下記の方法により、成形作業性を評価し、更にベルトエッジセパレーション及び外周成長量を測定し、その結果を表2に併せて示した。
【0041】
ベルトエッジセパレーション:
各試験タイヤを車両に装着し、一般の舗装路を5万km走行した後、各試験タイヤを分解し、2番ベルト層のエッジにおける剥離量を全周にわたって測定し、その最大剥離量(mm)を求めた。この値が小さいほど、耐ベルトエッジセパレーション性が優れていることを意味する。
【0042】
外周成長量:
各試験タイヤを標準リムに装着し、インフレート(空気圧475kPa)させた状態でオーブンに入れ、70℃の温度条件下に120日間放置し、溝底でのタイヤ外周長を劣化前後で測定し、その測定値から外周成長量(mm)を求めた。この値が小さいほど、外径成長抑制効果に優れていることを意味する。
【0043】
成形作業性(平坦性):
各試験タイヤの成形時におけるシート状の部材の跳ね上がり状態を評価した。評価結果は、ベルト部材の跳ね上がり高さが0〜3mmとなる比較的良好な状態を「○」で示し、4〜5mmとなるやや不良の状態を「△」で示し、6mm以上となる不良の状態を「×」で示した。
【0044】
【表2】

【0045】
この表2から明らかなように、実施例11〜16のタイヤは、耐ベルトエッジセパレーション性、外径成長抑制効果、成形作業性がいずれも優れていた。これに対して、従来例11のタイヤは、スチールワイヤ芯線に型付けを施しているため、耐ベルトエッジセパレーション性と外径成長抑制効果が不十分になっていた。比較例11のタイヤは、スチールワイヤ側線の型付け率が小さ過ぎるため、スチールコードのバラケに起因して耐ベルトエッジセパレーション性が不十分になっていた。比較例12のタイヤは、スチールワイヤ側線の型付け率が大き過ぎるため、スチールコードの芯抜けに起因して耐ベルトエッジセパレーション性と外径成長抑制効果が不十分になっていた。比較例13のタイヤは、スチールワイヤ側線の残留応力回転数が少な過ぎるため、スチールコードのバラケに起因して耐ベルトエッジセパレーション性が不十分になっていた。比較例14のタイヤは、スチールワイヤ側線の残留応力回転数が多過ぎるため、ベルト部材の反り返りにより成形作業性が不十分になっていた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態からなる空気入りラジアルタイヤを示す子午線半断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態からなる空気入りラジアルタイヤを示す子午線半断面図である。
【図3】本発明の空気入りラジアルタイヤのベルト層に使用される1+5構造のスチールコードを示す平面図である。
【図4】図3に示すスチールコードの断面図である。
【図5】図3のスチールコードから分離したスチールワイヤ側線を示す平面図である。
【図6】スチールコードの製造装置の全体構成を概略的に示す側面図である。
【図7】プリフォーマ(型付け機)を示す側面図である。
【図8】残留応力調整装置を示す側面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ベルト層
10 スチールコード
11 スチールワイヤ芯線
12 スチールワイヤ側線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本のスチールワイヤ芯線と、該スチールワイヤ芯線の周囲に撚り合わされた複数本のスチールワイヤ側線とからなるスチールコードをタイヤ構成部材の補強材として用いた空気入りラジアルタイヤにおいて、前記スチールワイヤ芯線を型付けなしの直線状とする一方で、前記スチールワイヤ側線の各々に螺旋状の型付けを施し、前記スチールコードの直径に対する前記スチールワイヤ側線の型付けの波高さの比率からなる型付け率が70%以上100%未満であり、かつ、前記スチールワイヤ側線に付与された残留応力に基づく該スチールワイヤ側線の締付方向への残留応力回転数が前記スチールコードの6m当たり2回以上6回以下であることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記残留応力回転数が前記スチールコードの6m当たり2回以上4回以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記型付け率が70%以上96%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記タイヤ構成部材がベルト層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−79312(P2009−79312A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248307(P2007−248307)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】