説明

空気圧縮機およびそれを用いたガスタービン

【課題】 IGVを過度に閉じても、圧縮機の環状流路内での氷の生成を抑制でき、翼曲がり等の動翼損傷を防ぐことができる空気圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】 ロータ4とケーシング3との間に形成される環状流路5の空気取入口にIGV6を設置し、その下流にロータ4側に設けられた動翼8Aないし8Eとケーシング3側に設けられた静翼9Aないし9Eとを交互に多段に配設するとともに、静翼9Aないし9Eの少なくとも一部を可変静翼9Aないし9Cとした空気圧縮機1において、空気取入口2または環状流路5内の空気温度を検出する温度センサ11Aないし11Cと、IGV6が過度に絞られた状態で、かつ温度センサ11Aないし11Cによる検出値が設定温度以下のとき、可変静翼9Aないし9Cの少なくとも1つを更に閉じて氷の生成を抑える制御部12とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンの空気圧縮機に係り、特に、IGVを過度に絞った(閉じた)運転時において、圧縮機内部での氷の発生を抑制することができる空気圧縮機およびそれを用いたガスタービンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンは、空気圧縮機と、燃焼器と、タービンと、排気室とを備えており、空気圧縮機により取り込んだ空気を圧縮して高温高圧の空気とし、この高温高圧の空気中に燃焼器から燃料を供給して燃焼させ、その高温高圧燃焼ガスを作動流体としてタービンの複数の静翼と動翼間を通過させることによりロータを回転駆動し、ロータに連結されている発電機等を駆動するとともに、排気ガスを排気室の排気ディフューザを通して放出するように構成されている。
【0003】
上記ガスタービンの空気圧縮機は、ロータとケーシングとの間に形成されている環状流路の空気取入口にIGV(Inlet Guide Vane)を設け、その下流にロータ側に設けられた動翼とケーシング側に設けられた静翼とを交互に多段に設けた構成とされており、空気取入口からIGVを経て取り込んだ空気を多段の動翼と静翼との間を流通させる過程で圧縮し、高温高圧の空気とするものである。
【0004】
上記のような構成を有する空気圧縮機において、静翼を角度が調整可能な可変静翼としたものが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。この多段の可変静翼は、一般にIGVと或る比例関係で制御されるようになっており、その関係は、部分負荷時のガスタービン効率と空気圧縮機の運転安定性とを考慮して決定されるのが通常である。
【0005】
【特許文献1】特開平11−303650号公報
【特許文献2】特開2000−291449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかして、ガスタービンでは、運転開始時、定格回転でガスタービン負荷を無負荷(部分負荷)としたまま待機状態とすることがある。この場合、流量を低下するため、空気圧縮機のIGVを過度に絞って(閉じて)運転することになる。かかる運転時、1段動翼では空気を圧縮せずに膨張させる事態が生じることがあり、空気温度が更に低下する。このため、圧縮機入口の空気温度が低くなる低大気温条件下では、1段動翼の下流側で空気中の水分が氷結し、生成した氷が1段静翼に付着する事象が発生することがある。
【0007】
これは、IGVおよび可変静翼を過度に絞って(閉じて)運転した場合、図6に示されるように、IGV下流および1段動翼下流では、IGVが通常角度での速度三角形はそれぞれ破線で示されるようになり、また、仕事は、u×(Vt2−Vt1)に比例し、Vt2>Vt1の場合、圧縮機仕事となる。これに対して、IGVが過度に絞られた角度での速度三角形はそれぞれ実線で示されるようになり、仕事は、逆にVt2<Vt1となってタービン仕事となる。このため、空気が膨張して温度降下し、氷結に至る場合がある。
【0008】
上記により生成した氷は、1段静翼に付着し、或る大きさに成長すると、静翼から離脱して下流側に至り、2段動翼以下に衝突する。これによって、翼曲がり等、動翼損傷のトラブルが発生する場合がある。IGV以外に前方段側の静翼を可変静翼とした場合、1段動翼下流の軸流速度が低下するため、氷結が発生し難い傾向となるが、IGVおよび可変静翼を過度に閉じた場合(深絞りした場合)には、依然として氷結発生の可能性は解消されていない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、IGVおよび可変静翼を備えた空気圧縮機において、IGVを過度に閉じても、圧縮機の環状流路内での氷の生成を抑制でき、翼曲がり等の動翼損傷を防ぐことができる空気圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の空気圧縮機は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる空気圧縮機は、ロータとケーシングとの間に形成される環状流路の空気取入口にIGVを設置し、その下流にロータ側に設けられた動翼とケーシング側に設けられた静翼とを交互に多段に配設するとともに、前記静翼の少なくとも一部を可変静翼とした空気圧縮機において、前記空気取入口または前記環状流路内の空気温度を検出する温度センサと、前記IGVが過度に絞られた状態で、かつ前記温度センサによる検出値が設定温度以下のとき、前記可変静翼の少なくとも1つを更に閉じて氷の生成を抑える制御部とを備えていることを特徴とする。
【0011】
ガスタービンでは、スタート時に定格回転でガスタービン負荷を部分負荷としたまま運転待機することがある。この場合、流量を低下するために、空気圧縮機のIGVを過度に絞って(閉じて)運転(以下、深絞り運転と称する)することになる。この際、1段動翼では空気を圧縮せずに膨張することがあり、空気温度が更に低下するため、圧縮機入口の空気温度が低くなる低大気温条件下では、1段動翼の下流側で空気中の水分が氷結し、この氷が静翼に付着して成長することがある。
本発明によれば、IGVを過度に絞った深絞り運転時、空気取入口または環状流路内に設けられている温度センサが氷の生成条件を検知すると、制御部が可変静翼の少なくとも1つを更に閉じるようにしているため、1段動翼下流での軸流速度を低下して絶対系速度を増大させ、圧縮仕事をさせることができる。これによって、1段動翼で空気が膨張して温度降下し、空気中の水分が氷結することによる環状流路内での氷の生成を抑制することができる。このため、生成した氷が静翼に付着して成長し、それが離脱して下流側の動翼に衝突することに起因して発生する翼曲がり等の動翼損傷トラブルを解消でき、製品信頼性を高めることができる。
【0012】
さらに、本発明の空気圧縮機は、上記の空気圧縮機において、前記制御部は、前記IGVが過度に絞られた状態で、かつ前記温度センサによる検出値が設定温度以下でその状態が設定時間以上継続したとき、前記可変静翼を更に閉じることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、IGVが過度に絞られた状態で、かつ温度センサによる検出値が設定温度以下でその状態が設定時間上継続したとき、可変静翼を更に閉じるようにしているため、温度センサにより検出される温度と時間との関係から氷の生成有無をより正確に予測して氷の生成を抑制するための制御、すなわち可変静翼を更に閉じる制御を行わせることができる。これによって、制御精度を向上させ、環状流路内での氷の生成に起因するトラブルを確実に解消することができる。
【0014】
さらに、本発明にかかる空気圧縮機は、ロータとケーシングとの間に形成される環状流路の空気取入口にIGVを設置し、その下流にロータ側に設けられた動翼とケーシング側に設けられた静翼とを交互に多段に配設するとともに、前記静翼の少なくとも一部を可変静翼とした空気圧縮機において、前記環状流路内に設けられ、該流路内での氷の発生を検知する氷検知センサと、前記氷検知センサが氷の発生を検知したとき、前記可変静翼の少なくとも1つを更に閉じて氷の生成を抑える制御部とを備えていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、IGVを過度に絞った深絞り運転時、空気取入口または環状流路内に設けられている氷検知センサが氷の発生を検知すると、制御部が可変静翼の少なくとも1つを更に閉じるようにしているため、1段動翼下流での軸流速度を低下して絶対系速度を増大させ、圧縮仕事をさせることができる。これによって、1段動翼で空気が膨張して温度降下し、空気中の水分が氷結することによる環状流路内での氷の生成を抑制することができる。このため、生成した氷が静翼に付着して成長し、それが離脱して下流側の動翼に衝突することに起因して発生する翼曲がり等の動翼損傷トラブルを解消でき、信頼性を高めることができる。
【0016】
また、本発明の空気圧縮機は、上述のいずれかの空気圧縮機において、前記制御部は、氷の生成を抑える制御時、前記可変静翼のうち1段静翼を更に閉じることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、制御部が氷の生成を抑える制御時、可変静翼のうち1段静翼を更に閉じるようにしているため、IGVを過度に絞った深絞り運転時、1段動翼での空気の膨張による温度降下をその直下流の1段静翼により抑え、氷の生成を効率よく抑制することができる。これによって、環状流路内での氷の生成に起因する翼曲がり等のトラブル発生を解消することができる。
【0018】
また、本発明の空気圧縮機は、上述のいずれかの空気圧縮機において、前記制御部は、氷の生成を抑える制御時、前記可変静翼の全てを更に閉じることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、制御部が氷の生成を抑える制御時、可変静翼の全てを更に閉じるようにしているため、一般に部分負荷時のガスタービン効率と空気圧縮機の運転安定性を考慮して決定されているIGVと全ての可変静翼との比例制御関係を維持したまま可変静翼を更に閉じることができる。これによって、ガスタービン効率と空気圧縮機の運転安定性を保持しながら、IGVを過度に絞った深絞り運転時における環状流路内での氷の生成を抑制し、氷の生成に起因する翼曲がり等のトラブル発生を解消することができる。
【0020】
さらに、本発明にかかるガスタービンは、空気圧縮機で圧縮した圧縮空気に燃焼器で燃料を供給して燃焼させ、その燃焼ガスをタービンに供給することにより回転動力を得るガスタービンにおいて、前記空気圧縮機は、空気取入口に設けられたIGVと、その下流に交互に多段に配設された動翼および可変静翼とを備えた構成とされ、前記ガスタービンが部分負荷状態であって、かつ前記IGVが過度に絞られた状態での運転中に、氷の生成条件が検出されたとき、前記空気圧縮機の前記可変静翼を更に閉じる制御部を備えていることを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、空気圧縮機がIGVの下流に交互に多段に配設された動翼および可変静翼を備えた構成とされ、ガスタービンが部分負荷状態であって、かつIGVが過度に絞られた状態での運転中に、氷の生成条件が検出されたとき、空気圧縮機の可変静翼を更に閉じる制御部を備えているため、低大気温条件下、ガスタービンが部分負荷運転時におけるIGVの深絞り運転時、空気圧縮機内において氷の生成条件が検出されると、制御部が可変静翼を更に閉じることによって、1段動翼下流での軸流速度を低下して絶対系速度を増大させ、圧縮仕事をさせることができる。これにより、1段動翼で空気が膨張して温度降下し、空気中の水分が氷結することによる空気圧縮機内での氷の生成を抑制することができる。このため、生成した氷が静翼に付着して成長し、それが離脱して下流側の動翼に衝突することに起因して発生する翼曲がり等のトラブルを解消でき、ガスタービンを安定的に運転することが可能となり、信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の空気圧縮機によると、圧縮機内で空気が膨張して温度降下し、空気中の水分が氷結することによる環状流路内での氷の生成を抑制することができるため、生成した氷が静翼に付着して成長し、それが離脱して下流側の動翼に衝突することに起因して発生する翼曲がり等の動翼損傷トラブルを解消でき、製品信頼性を高めることができる。
【0023】
また、本発明のガスタービンによると、空気圧縮機内で空気が膨張して温度降下し、空気中の水分が氷結することによる氷の生成を抑制することができるため、生成した氷が静翼に付着して成長し、それが離脱して下流側の動翼に衝突することに起因して発生する翼曲がり等のトラブルを解消でき、ガスタービンを安定的に運転することが可能となり、信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1ないし図5を用いて説明する。
図1には、本実施形態にかかるガスタービンの空気圧縮機の縦断面図が示されている。空気圧縮機1は、一端側に空気取入口2が設けられているケーシング3と、ケーシング3内において図示省略の軸受を介して回転自在に支持されているロータ(タービンロータ)4とを備えており、このケーシング3とロータ4との間に環状流路5が形成されている。
【0025】
環状流路5の入口には、ケーシング3に対してロータ4回りに多数のIGV(Inlet Guide Vane)6が設置されており、駆動部7によってその開度(角度)が調整できるように構成されている。このIGV6の下流側には、ロータ4側に設けられた動翼8Aないし8Eとケーシング3側に設けられた静翼9Aないし9Eとが交互に多段に配設されている。これらの動翼8Aないし8Eおよび静翼9Aないし9Eは、上流側の動翼および静翼から下流側に向って順次、1段動翼8A、2段動翼8B、3段動翼8C・・・および1段静翼9A、2段静翼9B、3段静翼9C・・・とされている。なお、本実施形態では、便宜上動翼および静翼は5段まで図示されているが、10段、15段といった圧縮機が実用に供されている。
【0026】
多段の動翼8Aないし8Eは、ロータ4と共に回転されるようになっている。また、多段の静翼9Aないし9Eのうち、上流側の1段静翼9A、2段静翼9B、3段静翼9Cの3つは、駆動部10A,10B,10Cによって開度(角度)が調整できるように構成された可変静翼とされている。この可変静翼9Aないし9CとIGV6とは、図3に示されるように、或る比例関係で開度が可変されるようになっており、その関係は、部分負荷時のガスタービン効率と空気圧縮機1の運転安定性を考慮して決定されている。
【0027】
上記の空気圧縮機1において、環状流路5内での氷の生成を抑制するために、空気取入口2および/または1段静翼9Aの前後いずれかに温度センサ11A,11Bもしくは11Cが設けられている。これら温度センサ11Aないし11Cは、それぞれの位置で空気温度を検出し、その検出値を氷の生成を抑制制御する制御部12に入力するように構成されている。制御部12には、温度センサ11Aないし11Cからの温度検出値以外に、別途IGV6および可変静翼9Aないし9Cの開度信号が入力されるようになっている。
【0028】
制御部12は、IGV6が予め設定されている開度以下に過度に閉じられた(深絞りされた)状態において、上記温度センサ11A,11Bまたは11Cの検出値から氷の生成条件が検知されたとき、図3に示されるように、駆動部10Aないし10Cを介して可変静翼9Aないし9Cを更に閉じるように構成されている。
【0029】
なお、上記空気圧縮機1の下流側には、図示省略の燃焼器が設けられ、空気圧縮機1で圧縮された高温高圧の空気中に燃焼器から燃料を供給して燃焼させ、その高温高圧燃焼ガスを作動流体として、その下流側に設けられているタービンの複数の静翼と動翼間を通過させることにより、タービンロータ(ロータ4)を回転駆動するガスタービンが構成されている。
【0030】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
ガスタービンは、空気圧縮機1の空気取入口2より取り込んだ空気を圧縮して高温高圧の空気とし、この高温高圧の空気中に燃焼器から燃料を供給して燃焼させ、その高温高圧燃焼ガスを作動流体としてタービンの複数の静翼と動翼間を通過させることによりロータを回転駆動し、ロータに連結されている発電機等を駆動するとともに、排気ガスを排気室の排気ディフューザを通して放出することによって運転される。
【0031】
このガスタービンの運転履歴の一例が図5に示されている。ガスタービンは無負荷もしくは部分負荷状態で運転が開始される。運転開始時、空気圧縮機1のIGV6は、閉状態から徐々に中間開度まで開かれ、この間、ガスタービン(ロータ4)の回転数は徐々に上昇し、定格回転数に到達する。この状態において、ガスタービン負荷がないと、空気圧縮機1は、流量を低下するために、IGV6を過度に絞って(閉じて)運転する、いわゆる深絞り運転状態とされ、可変静翼9Aないし9CもIGV6に比例して閉じられる。その後、ガスタービン負荷の上昇に伴って、IGV6および可変静翼9Aないし9Cの開度が大きくされ、ガスタービンが100%負荷の状態では、IGV6も全開とされる。
【0032】
IGV6の深絞り運転時、空気圧縮機1入口の空気温度が低くなる低大気温条件下においては、空気圧縮機1の環状流路5内で氷が生成されるおそれがある。これは、前述したように、IGV6が過度に絞られることにより、1段動翼8Aの下流で空気圧縮機1がタービンアクションを起こし、空気が膨張して温度降下するためである。つまり、図4に示されるように、空気圧縮機1の内部温度分布は、圧縮機吸気部(空気取入口2)では大気温度であり、IGV6を経て1段動翼8Aに至る間に若干低下するが、IGV6が通常角度であれば、1段動翼8Aで圧縮されて温度上昇し、以降各段動翼で順次圧縮されて高温高圧の空気となって行く。ところが、1段動翼8Aでタービンアクションを起こすと、1段動翼8Aの下流(1段静翼9Aの前)で温度降下し、この時の温度が結氷条件を満たした場合、空気中の水分が氷結して氷を生成することになる。
【0033】
本実施形態では、温度センサ11A,11Bまたは11Cの検出値から氷の生成条件が検知されると、制御部12は駆動部10Aないし10Cを介して可変静翼9Aないし9Cの開度を更に閉じる(絞る)ように動作(図3参照)する。このように、可変静翼9Aないし9Cを更に閉じることによって、1段動翼8Aでのタービンアクションの発生を抑えることができる。このため、図4に示されるように、IGV6が過度に絞られても、1段動翼8A下流域での温度降下を防止することができ、結氷条件を解消して氷の生成を抑制することができる。
【0034】
これは、図2に示されるように、1段静翼9Aのスタッガ変化スケジュールが通常のIGV6と可変静翼9Aないし9Cの変化スケジュールのままであると、1段静翼9Aのスタッガ(角度)は実線図示の状態となり、1段動翼8A下流の速度三角形は、実線三角形のようになる。この場合、仕事は、Vt2<Vt1となってタービン仕事となるが、1段静翼9Aないし9Cのスタッガ変化スケジュールを図3右側図示のように変更し、図2の破線図示位置まで更に閉じることにより、1段動翼8A下流の速度三角形は、軸流速度が低下されて絶対系速度が増大され、破線三角形のようになる。このため、仕事をVt2>Vt1とし、圧縮仕事をさせることができる。
【0035】
以上により、低大気温条件下、IGV6を深絞り運転としても、1段動翼8Aで空気が膨張して温度降下し、空気中の水分が氷結することによる環状流路5内での氷の生成を抑制することができる。このため、生成した氷が可変静翼9Aに付着して成長し、それが離脱して下流側の2段動翼9B等に衝突することに起因して発生する翼曲がり等の動翼損傷トラブルを解消することができる。また、空気圧縮機1内での氷生成によるトラブル発生を解消できるため、ガスタービンを安定的に運転することが可能となり、空気圧縮機1およびガスタービンそれぞれに対する信頼性を向上させることができる。
【0036】
なお、本実施形態では、制御部12による氷の生成抑制制御時、可変静翼9Aないし9Cの全てを更に閉じるようにし、部分負荷時のガスタービン効率と空気圧縮機1の運転安定性を考慮して決定されているIGV6と可変静翼9Aないし9Cとの比例制御関係を維持したまま、ガスタービン効率と空気圧縮機1の運転安定性を保ちながら、氷の生成を抑制制御しているが、1段目の可変静翼9Aだけを更に閉じるようにしてもよく、この場合でも略同等の効果を得ることができる。
【0037】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態では、上記した第1実施形態に対して、制御部12の構成が一部異なる。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、制御部12に温度センサ11A,11Bまたは11Cの検出値と時間との相関関係から氷の生成条件を予め定めたマップを設定し、氷生成条件による設定温度以下の温度が検出され、その温度が設定時間以上が継続したときに、可変静翼9Aないし9Cを更に閉じるように構成している。
【0038】
上記のように、IGV6が過度に絞られた状態で、かつ温度センサ11A,11Bまたは11Cによる検出値が設定温度以下でその状態が設定時間以上継続したとき、可変静翼9Aないし9Cを更に閉じるようにすることによって、温度センサ11A,11Bまたは11Cにより検出される温度と時間との関係から氷の生成有無をより正確に予測して氷の生成を抑制する制御を行うことができる。このため、制御精度を向上させ、環状流路5内での氷の生成に起因するトラブルを確実に解消することができる。
【0039】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
本実施形態では、上記した第1および第2実施形態に対して、温度センサに代え氷検知センサ21(図1参照)を設けている点が異なる。その他の点については、第1実施形態と同様であるので説明は省略する。
本実施形態では、図1における温度センサ11Bまたは11Cの設置位置、すなわち1段可変静翼9Aの前または後のいずれかに氷検知センサ21を設けた構成とされている。
なお、氷検知センサ21としては、例えば、一対の電極間に電流を流し、氷が生成付着したときの電気伝導率の差で氷の有無を検知するようなセンサを用いることができる。
【0040】
このように、氷検知センサ21を設けることにより、環状流路5内での氷の生成有無を直接検知することができるため、この氷検知センサ21からの氷検知信号で制御部12により駆動部10Aないし10Cを介して可変静翼9Aないし9Cの開度を第1実施形態の場合と同様に制御することができる。従って、本実施形態においても、上記した第1実施形態と同等の効果を得ることができる。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、可変静翼は必ずしも複数段設けられている必要はなく、1段だけ可変静翼とされたものであってもよい。また、可変静翼が複数段設けられている場合、氷の生成を抑制する制御時、その少なくともいずれか1つを制御すればよく、必ずしも全ての可変静翼または1段目の可変静翼のみを制御するようにしたものに限定されるものではない。また、センサの設置位置としては、最も感度がよい位置が選定されることは当然であり、必ずしも図示の位置に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係るガスタービンの空気圧縮機の縦断面図である。
【図2】図1に示す空気圧縮機の圧縮機内部での氷結抑制制御の状態図である。
【図3】図1に示す空気圧縮機のIGVと可変静翼の開度制御関係図である。
【図4】図1に示す空気圧縮機の内部の温度分布状態図である。
【図5】図1に示す空気圧縮機を適用したガスタービンの運転履歴例図である。
【図6】従来の空気圧縮機の圧縮機内部での氷の生成状況を示す状態図である。
【符号の説明】
【0043】
1 空気圧縮機
2 空気取入口
3 ケーシング
4 ロータ
5 環状流路
6 IGV
8A,8B,8C,8D,8E 動翼(1段ないし5段動翼)
9A,9B,9C 可変静翼(1段ないし3段静翼)
9D,9E 静翼(4段および5段静翼)
11A,11B,11C 温度センサ
12 制御部
21 氷検知センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータとケーシングとの間に形成される環状流路の空気取入口にIGVを設置し、その下流にロータ側に設けられた動翼とケーシング側に設けられた静翼とを交互に多段に配設するとともに、前記静翼の少なくとも一部を可変静翼とした空気圧縮機において、
前記空気取入口または前記環状流路内の空気温度を検出する温度センサと、
前記IGVが過度に絞られた状態で、かつ前記温度センサによる検出値が設定温度以下のとき、前記可変静翼の少なくとも1つを更に閉じて氷の生成を抑える制御部とを備えていることを特徴とする空気圧縮機。
【請求項2】
前記制御部は、前記IGVが過度に絞られた状態で、かつ前記温度センサによる検出値が設定温度以下でその状態が設定時間以上継続したとき、前記可変静翼を更に閉じることを特徴とする請求項1に記載の空気圧縮機。
【請求項3】
ロータとケーシングとの間に形成される環状流路の空気取入口にIGVを設置し、その下流にロータ側に設けられた動翼とケーシング側に設けられた静翼とを交互に多段に配設するとともに、前記静翼の少なくとも一部を可変静翼とした空気圧縮機において、
前記環状流路内に設けられ、該流路内での氷の発生を検知する氷検知センサと、
前記氷検知センサが氷の発生を検知したとき、前記可変静翼の少なくとも1つを更に閉じて氷の生成を抑える制御部とを備えていることを特徴とする空気圧縮機。
【請求項4】
前記制御部は、氷の生成を抑える制御時、前記可変静翼のうち1段静翼を更に閉じることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の空気圧縮機。
【請求項5】
前記制御部は、氷の生成を抑える制御時、前記可変静翼の全てを更に閉じることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の空気圧縮機。
【請求項6】
空気圧縮機で圧縮した圧縮空気に燃焼器で燃料を供給して燃焼させ、その燃焼ガスをタービンに供給することにより回転動力を得るガスタービンにおいて、
前記空気圧縮機は、空気取入口に設けられたIGVと、その下流に交互に多段に配設された動翼および可変静翼とを備えた構成とされ、
前記ガスタービンが部分負荷状態であって、かつ前記IGVが過度に絞られた状態での運転中に、氷の生成条件が検出されたとき、前記空気圧縮機の前記可変静翼を更に閉じる制御部を備えていることを特徴とするガスタービン。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−167904(P2009−167904A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6893(P2008−6893)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】