説明

空気式精紡機におけるドラフト装置

【課題】空気式精紡機において、細すぎるスライバを原料とするとスライバ抜けや品質の劣化を招くが、これを防止しようと太いスライバを利用しようとすると、空気式精紡機におけるドラフト装置の延伸倍率の限界により、やはり品質の劣化を招いてしまう。
【解決手段】練条機2より供給されたスライバ6より糸9を紡出する空気式精紡機3に備えるドラフト装置7であって四組のドラフトローラ対、バックローラ対11、サードローラ対12、セカンドローラ対13、フロントローラ対14を、スライバ6の搬送経路に沿って備えると共に、搬送経路を隣り合う一対のドラフトローラ対により区切ってなる第一区間A、第二区間B、第三区間Cのうち、第一区間Aに、第一区間Aを搬送されるスライバ6の搬送経路を屈折させる繊維走行制御部材18を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、練条機で生産されたスライバが、粗紡機を経ることなく、直接供給されて、紡績糸を製造する空気式精紡機におけるドラフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紡績工程に含まれる主たる作業は、次の三つである。
(作業1)繊維をまっすぐに引き伸ばして平行状態に並べる作業。
(作業2)平行状態に並べた繊維を集束して紐状にし、この紐状体(スライバ)の太細のむらを修正しながら、順次細く引き伸ばす作業。
(作業3)スライバを所要の細さまで引き伸ばしてから、撚りをかけて糸とする作業。
【0003】
綿糸の紡績工程には、リング紡績の場合、梳綿工程(作業1に相当)、練条工程(作業2に相当)、粗紡工程(作業2・3に相当)、精紡工程(作業2・3に相当)が備えられている。
これに対して、空気精紡の場合は、梳綿工程(作業1に相当)、練条工程(作業2に相当)、精紡工程(作業2・3に相当)が備えられている。空気精紡の場合、リング紡績の場合に存在する粗紡工程が省略されている。
【0004】
練条工程を担当する練条機には、ドラフト装置として、スライバを挟み込むドラフトローラ対が複数備えられている。そして、送り込む側の回転速度より送り出す側の回転速度を早くすることによって、スライバのドラフト(延伸)が行なわれる。
【0005】
また、粗紡工程を担当する粗紡機には、練条工程を経たスライバをさらに延伸させるドラフト装置と、わずかな撚りを付与する加撚装置と、が備えられており、この粗紡機より、粗糸が生成される。粗紡機に備えるドラフト装置は、例えば一組のドラフトローラ対であり、加撚装置はフライヤーである。
【0006】
精紡工程を担当する精紡機には、粗紡工程を経た粗糸(リング精紡の場合)もしくは、練条工程を経たスライバ(空気精紡の場合)を、さらに延伸するためのドラフト装置と、延伸後の粗糸もしくはスライバに撚りを加える加撚装置と、が備えられている。
【0007】
特に、練条機のドラフト装置を、四組のドラフトローラ対よりなる構成としたものが知られている。
さらに、特許文献1の0009段落や、0013段落に示されるように、この四組のドラフトローラ対としたドラフト装置に、スライバを加圧してコントロールするプレッシャーバーが備えられる技術も公知である。そして、プレッシャーバーを備えることにより、より一層、スライバの延伸を図ることが可能となっている。
【特許文献1】実開平5−56968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
空気式精紡機においては、練条機で生産されたスライバを直接精紡して、紡績糸の製造が行なわれる。このため、空気式精紡機に供給されるスライバは、この精紡機でドラフト可能な大きさまで、練条機で前記の作業2が行なわれたスライバである必要がある。即ち、平行状態に並べた繊維を集束して紐状にし、この紐状体(スライバ)の太さむらを修正しながら、空気式精紡機への供給に適した太さとなるまで、順次細かく引き伸ばす作業を、練条機で行なう必要がある。
【0009】
ところが、練条機で生成されたスライバが細すぎると、ケンス(スライバの収容器)から精紡機のドラフト装置のトランペット(スライバ導入部)に、スライバを供給する際に、スライバ抜けの可能性が発生する。
また、練条機でのハイドラフト自体に限界があり、汎用の練条機で無理に細いスライバを生成しようとすると、品質の劣化を招いてしまう。
【0010】
一方、練条機で生産されたスライバが太い場合、このような太いスライバを直接、精紡機に供給すると、精紡機ではドラフト比(ドラフト延伸倍率)を上げる必要がある。そうすると、精紡機における上流側と下流側のドラフトローラ間の回転数比(周速度比)を大きく設定する必要があり、この結果、ドラフトローラ間を搬送される繊維のドラフトフォース(繊維群を引っ張る力)が低下する。この結果、浮遊繊維をコントロールできなくなり、糸太さムラなどを招き、糸品質の劣化の原因となる。
【0011】
つまり、解決しようとする問題点は、空気式精紡機において、細すぎるスライバを原料とするとスライバ抜けや品質の劣化を招くが、これを防止しようと太いスライバを利用しようとすると、空気式精紡機におけるドラフト装置の延伸倍率の限界により、やはり品質の劣化を招いてしまう点、である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0013】
即ち、請求項1においては、
練条機で生産されたスライバが直接供給されて紡績糸を製造する空気式精紡機におけるドラフト装置であって、
前記スライバをドラフトするドラフトローラ対を、前記スライバの搬送経路に沿って、複数対備えると共に、
前記搬送経路を隣り合う一対の前記ドラフトローラ対により区切ってなる各区間のうち、少なくとも一区間に、該区間を搬送されるスライバの搬送経路を屈折させる繊維走行制御部材を備える、ものである。
【0014】
請求項2においては、
前記搬送経路に対する直交方向で前記繊維走行制御部材の配設位置を可変とする位置調整装置を備える、ものである。
【0015】
請求項3においては、
前記各区間の一又は複数に、前記繊維走行制御部材と、スライバの搬送案内部材と、が配置されると共に、
前記繊維走行制御部材の配置される前記区間と、前記搬送案内部材が配置される前記区間とは、異なる箇所とする、ものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
請求項1においては、
ドラフト装置へのスライバ導入部に配置されるトランペットでのスライバ抜けや、練条機での過負荷による品質の劣化、を招くことのない太さのスライバを用いながら、ドラフト装置の延伸倍率の限界による糸物性の劣化(均整度・欠点)が防止される。
【0018】
請求項2においては、請求項1の効果に加えて、
より一層、太いスライバを利用できる。
【0019】
請求項3においては、請求項1または請求項2の効果に加えて、
繊維走行制御部材と搬送案内部材とを同時に備えながら、スライバを構成する繊維に乱れを生じさせることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
以下で、本発明の二つの実施の形態を説明するが、まず、第一の実施の形態たるドラフト装置7の構成を説明し、次いで、第二の実施の形態たるドラフト装置107の構成を説明する。
両実施の形態において相違するのは、ドラフト装置に備えるスライバの搬送案内部材(後述)や繊維走行制御部材(後述)の配設数や配置構成である。
【0021】
まず、図1を用いて、空気精紡における紡績工程の概略を説明する。
空気精紡の場合、紡績工程において、梳綿工程が終了すると、練条工程、精紡工程と進んでいく。梳綿工程を担当する装置は梳綿機1であり、練条工程を担当する装置は練条機2であり、精紡工程を担当する装置は空気式精紡機3である。
【0022】
練条機2で生成されたスライバは一旦ケンス(スライバ収容器)5に収容される。空気式精紡機3には、このケンス5より取出されたスライバ6が供給される。
空気式精紡機3は、ケンス5より供給されたスライバ6をさらに延伸するドラフト装置7(第一の実施の形態)と、ドラフト装置7での延伸後のスライバ6より紡糸して糸9を生成する空気式精紡装置10と、を備えている。空気式精紡装置10は、空気流を用いることで紡糸を行なう。
空気式精紡機3で生成された糸9は、ボビン上に巻き取られて巻取パッケージ4が形成される。
【0023】
図2を用いて、本実施の形態に係る空気式紡績機3を説明する。
スライバ6より紡績糸9が製造される経路(以下、製造経路)に沿って、製造経路の最上流位置のケンス5、ドラフト装置7、空気式精紡装置10、糸送り装置20、糸欠点検出装置30、糸巻取装置40が順に配置されている。本明細書では、ドラフト装置7および空気式精紡装置10よりなる構成を空気式紡績機3としているが、前記製造経路上の他の装置を含めた構成を空気式紡績機としてもよい。
【0024】
糸送り装置20は、空気式精紡装置10で製造された紡績糸9を糸巻取装置40へ送り出す装置であり、紡績糸9をニップして送り出すデリベリローラ21およびニップローラ22が備えられている。
糸欠点検出装置30は、糸巻取装置40へ送られる途中の紡績糸9の糸欠点を検出する装置であり、この糸欠点検出装置30での糸欠点検出情報に基づいて、不良な糸のパッケージ4への巻取りが防止される。
糸巻取装置40は、空気式精紡装置10で製造された紡績糸9を、ボビンの軸方向にトラバースして巻き取ってパッケージ4を形成する装置である。
【0025】
空気式紡績機は、空気紡績ノズル(空気式精紡装置10に内蔵)において、旋回流をスライバの繊維束に作用させることで、結束紡績糸を製造するものである。本実施の形態に係る空気式紡績機3は、その精紡速度は300〜400m/minであるため、リング精紡機の紡績速度(20〜30m/min)に対して、略20倍の高速紡績が可能である。
【0026】
図3、図4を用いて、空気式精紡機3に備えるドラフト装置7の構成を説明する。
ドラフト装置7は、スライバ6を挟み込むドラフトローラ対を四組備えるものである。前記四組のドラフトローラ対は、スライバ6の搬送方向に沿って配置される次のドラフトローラ対、バックローラ対11、サードローラ対12、セカンドローラ対13、フロントローラ対14よりなっている。
各ドラフトローラ対は、スライバ6を(重力方向の)上下に挟み込むものであり、上側のトップローラと、下側のボトムローラと、を備えるものである。バックローラ対11は、バックトップローラ11Uおよびバックボトムローラ11Dを備えている。サードローラ対12は、サードトップローラ12Uおよびサードボトムローラ12Dを備えている。セカンドローラ対13は、セカンドトップローラ13Uおよびセカンドボトムローラ13Dを備えている。フロントローラ対14は、フロントトップローラ14Uおよびフロントボトムローラ14Dを備えている。
【0027】
セカンドローラ対13には、スライバ6との接触が面接触となるように、セカンドトップローラ13Uに対応してエプロントップベルト15Uが設けられると共に、セカンドボトムローラ13Dに対応してエプロンボトムベルト15Dが設けられている。
エプロントップベルト15Uは、セカンドトップローラ13Uと、セカンドトップローラ13Uのスライバ6の搬送方向下流側に配置されるエプロンガイド16Uと、に巻回されている。
エプロンボトムベルト15Dは、セカンドボトムローラ13Dと、セカンドボトムローラ13Dのスライバ6の搬送方向下流側に配置されるエプロンガイド16Dと、に巻回されている。
【0028】
スライバ6の延伸は、隣り合う位置に配置される前記各ドラフトローラ対間で、その周速度に差を設けることで、行なわれる。例えば、バックローラ対11の周速度を1とし、サードローラ対12の周速度を2とすると、バックローラ対11とサードローラ対12との間で、スライバ6は2倍に延伸される。特に、スライバ6は、エプロントップベルト15Uとエプロンボトムベルト15Dとの間で、面接触により保持されるため、セカンドローラ対13とフロントドラフトローラ対との間で、滑ることなく周速度比が最大限上げられており、この間で最大限延伸される。
なお、ここで、ドラフトローラ対の周速度とは、各ドラフトローラ対を構成するトップローラおよびボトムローラの周速度のことを意味する。
【0029】
ドラフト装置7には、前記四組のドラフトローラ対の他に、スライバ6の搬送案内部材や、繊維走行制御部材が、各種設けられている。
ドラフト装置7へのスライバ6の導入部には、スライバ6の搬送案内部材として、トランペット17が設けられている。
また、ドラフト装置7内には、スライバ6の繊維間抵抗を高める手段である繊維走行制御部材18が設けられている。
【0030】
ドラフト装置7内において、スライバ6の搬送経路を、隣り合う一対のドラフトローラ対により区切られてなる次の各区間、第一区間A、第二区間B、第三区間Cに分割する。
第一区間Aは、バックローラ対11からサードローラ対12までの区間である。第二区間Bは、サードローラ対12からセカンドローラ対13までの区間である。第三区間Cは、セカンドローラ対13からフロントローラ対14までの区間である。
【0031】
前記繊維走行制御部材18は、第一区間Aに配置されている。
この繊維走行制御部材18は、例えば棒状の円柱部材であって、その軸方向長さは、スライバ6の最大幅よりも長く形成されている。
そして、この繊維走行制御部材18を、第一区間A内を走行するスライバ6に、その搬送経路の側方(上方又は下方)より接触させて、このスライバ6を押圧するものとしている。搬送経路の側方より押圧されたスライバ6は、第一区間A内を、バックローラ対11からサードローラ対12までの最短距離である直線経路ではなく、繊維走行制御部材18の押圧により歪められた曲線経路に沿って走行する。
【0032】
このように、ドラフトローラ対間のスライバ6の搬送経路が曲線経路となって屈折することにより、ドラフトローラ対間で引っ張られるスライバ6の繊維間の抵抗が大きくなる。即ち、ドラフトフォース(繊維群を引っ張る力)が高くなる。したがって、隣り合う位置に配置される各ドラフトローラ対間のドラフト率(延伸倍率)が高められ、隣り合う位置のドラフトローラ対間での周速度差が大きくされた場合でも、ドラフトフォースが低下することが回避される。ドラフトフォースを高める方法としては、隣り合うドラフトローラ対間のピッチ(例えば図3の第一区間Aの距離)を小さくするゲージ調整もあるが、このゲージ調整のみでは対応できない延伸倍率にも、繊維走行部材18によりスライバの繊維間抵抗を高めることで、対応することが可能である。
したがって、ドラフト装置7は、延伸用のドラフトローラ対を単に四組備えるドラフト装置に比して、スライバ6の延伸をより大きく行なうことが可能である。
また、スライバ6の繊維間抵抗が高められることで、浮遊繊維(上流側および下流側のいずれのドラフトローラ対にも保持されない繊維)に適度の緊張を与えることになり、繊維の挙動を制御することができ、繊維の方向性が乱れることがなく、安定したドラフトが行なえる。
【0033】
この繊維走行制御部材18は、ドラフト装置7の本体フレームの取付部19に取り付けられている。繊維走行制御部材18の取付部19への取付位置は、スライバ6の搬送方向に対して直交する方向で可変に構成されている。本実施例では上方へ付勢している。繊維走行制御部材18の取付部19への取付位置は、連続的に可変に構成されるものであっても、間欠的に可変に構成されるものであっても良い。
そして、繊維走行制御部材18によるスライバ6への押圧力を可変に構成して、ゲージ調整では対応できない延伸倍率においても、目的とする延伸倍率に対する対応性が高められている。
【0034】
また、繊維走行制御部材18を取付部19に直接固定する構成に代えて、スプリングを介して間接的に固定する構成としても良い。具体的には、例えば、取付部19に対して取付位置が可変の支持フレームに、前記スプリングを介して、繊維走行制御部材18の両側が支持され、支持部にボルト等を用いることで長さを調節してバネ力を任意に変更できるようにするものとする。ここで、取付部19に対する前記支持フレームの取付位置の可変方向や、前記スプリングによる繊維走行制御部材18の付勢方向は、スライバ6の搬送方向に対して直交する方向である。また、下方へ付勢する場合には繊維走行制御部材18の重量を変更する構成とすればよく、重りをつり下げるように構成することもできる。
【0035】
また、繊維走行制御部材18の配置位置は、第一区間Aに代えて、第二区間Bや第三区間Cとしてもよい。ここで、繊維走行制御部材18の配設位置は、スライバ6の搬送方向において、より上流側に配置した方が、より良好な効果が得られるものである。
ただし、繊維走行制御部材18によるスライバ6の繊維間抵抗の増大は、延伸作用下においてのみ効果的であり、バックローラ対11より上流側では効果がない。つまり、繊維走行制御部材18の配設位置は、前記各区間A・B・C内のいずれかに限定される。
【0036】
なお、第三区間Cに繊維走行制御部材18を配置する場合、繊維走行制御部材18の可能な配設位置は、エプロントップベルト15Uおよびエプロンボトムベルト15Dの終端からフロントローラ対14までの間である。
【0037】
次に、図5、図6を用いて、第二の実施の形態であるドラフト装置107を説明する。
ドラフト装置107が前記ドラフト装置7(第一の実施の形態)と相違する点は、繊維走行制御部材18の配設位置の相違と、スライバ6の搬送案内部材として前記トランペット17の他にコンデンサ20が設けられている点と、の二点である。
他の構成に関しては、ドラフト装置107は前記ドラフト装置7と同一であり、ドラフト装置107が空気式精紡機3の一部を構成する点も同様である。従って以下では、ドラフト装置107とドラフト装置7とで共通する部材については、同一符号を用いると共に、その部分の説明を省略する。
【0038】
ドラフト装置107では、第一区間Aに、スライバ6の走行を案内するコンデンサ20が設けられると共に、第二区間Bに、スライバ6の繊維間抵抗を高める手段である繊維走行制御部材18が設けられている。
前述したように、繊維走行制御部材18の配設位置は、スライバ6の搬送方向において、前記区間A・B・C内のいずれかで、より上流側であることが望ましいが、コンデンサ20と重複する区間への配設は望ましくない。これは、コンデンサ20が、スライバ6を構成する繊維の走行を整えるものであり、このスライバ6に繊維走行制御部材18による繊維間抵抗の増大の影響が重なると、繊維の乱れを生じてしまう恐れがあるためである。
【0039】
他の構成に関しては、ドラフト装置107は前記ドラフト装置7と同一である。第二区間Bに配置されている繊維走行制御部材18の、前記本体フレームの取付部19に対する取付位置も、スライバ6の搬送方向に対して直交する方向で可変に構成されている。
【0040】
本発明の空気式精紡機に備えるドラフト装置をまとめる。
第一の発明たるドラフト装置は、練条機で生産されたスライバが直接供給されて紡績糸を製造する空気式精紡機におけるドラフト装置である。
前記スライバをドラフトするドラフトローラ対を、前記スライバの搬送経路に沿って、複数対備えると共に、前記搬送経路を隣り合う一対の前記ドラフトローラ対により区切ってなる各区間のうち、少なくとも一区間に、該区間を搬送されるスライバの搬送経路を屈折させる繊維走行制御部材を備えるものである。
【0041】
ドラフト装置7(第一の実施の形態)およびドラフト装置107(第二の実施の形態)は、スライバ6をドラフトするドラフトローラ対を、四対備えるものである。これらのドラフト装置7・107には、スライバ6の搬送経路を隣り合う一対の前記ドラフトローラ対により区切ってなる三つの区間、第一区間A、第二区間B、第三区間Cが設けられている。ドラフト装置7の第一区間Aには繊維走行制御部材18が備えられ、ドラフト装置107の第二区間Bには繊維走行制御部材18が備えられている。
【0042】
また、ドラフト装置としては、本実施の形態の4線式のドラフト装置(ドラフトローラ対を四つ備えるドラフト装置)に限定されるものではなく、5線式のドラフト装置であっても、ドラフトローラ対を複数備える装置なら、他のドラフト装置であっても良い。5線式のドラフト装置の場合、前記繊維走行制御部材は、4−5線間(ケンスに直近のドラフトローラ対(5線)とその次に手前のドラフトローラ対(4線))に配置することが望ましい。もちろん、5線式のドラフト装置において、前記繊維走行制御部材を、他の隣り合うドラフトローラ対間に配置するものとしても良い。
【0043】
このため、延伸用のドラフトローラ対を単に複数対備えるドラフト装置に比して、可能な延伸倍率が高められる。また、スライバの繊維間抵抗が高められることで、浮遊繊維(上流側および下流側のいずれのドラフトローラ対にも保持されない繊維)に適度の緊張を与えることになり、繊維の挙動を制御することができ、繊維の方向性が乱れることがなく、安定したドラフトが行なわれる。
したがって、ドラフト装置へのスライバ導入部に配置されるトランペットでのスライバ抜けや、練条機での過負荷による品質の劣化、を招くことのない太さのスライバを用いながら、ドラフト装置の延伸倍率の限界による糸物性の劣化(均整度・欠点)が防止される。
【0044】
第二の発明たるドラフト装置は、第一の発明において、次の構成としたものである。
このドラフト装置は、前記搬送経路に対する直交方向で前記繊維走行制御部材の配設位置を可変とする位置調整装置を備えるものである。
【0045】
第一および第二の実施の形態において、前記位置調整装置は、繊維走行制御部材18の取付位置が可変に構成される前記取付部19により、構成されている。
この取付部19は、ドラフト装置7・107の本体フレームに固定されているものであるため、取付部19に対する繊維走行制御部材18の取付位置の変更は、繊維走行制御部材18と、スライバ6の搬送経路との位置関係の変更を意味する。
なお、前記位置調整装置による繊維走行制御部材18の配設位置調整は、少なくとも搬送経路に対する直交方向への位置調整を含むものであれば良く、前記搬送経路と平行な方向への位置調整を同時に行なうものであっても良い。
【0046】
このため、繊維走行制御部材18によるスライバ6の繊維間抵抗の増加量が可変であり、目的とする延伸倍率に対する対応性が高められている。
したがって、より一層、太いスライバを利用できる。
【0047】
第三の発明たるドラフト装置は、第一または第二の発明において、次の構成としたものである。
前記各区間の一又は複数に、前記繊維走行制御部材と、スライバの搬送案内部材と、が配置されると共に、前記繊維走行制御部材の配置される前記区間と、前記搬送案内部材が配置される前記区間とは、異なる箇所とする
【0048】
第一の実施の形態であるドラフト装置7では、スライバ6の搬送経路が区切られてなる第一区間A、第二区間B、第三区間Cの三区間のうち、第一区間Aに繊維走行制御部材18が配置されている。
第二の実施の形態であるドラフト装置107では、スライバ6の搬送経路が区切られてなる第一区間A、第二区間B、第三区間Cの三区間のうち、第一区間Aにコンデンサ20が配置され、第二区間Bに繊維走行制御部材18が配置されている。
【0049】
このため、隣り合うドラフトローラ対により延伸されている部位のスライバに、搬送案内部材(コンデンサ)による繊維走行の整理作用と、繊維走行制御部材による繊維間抵抗の増大作用とが、同時に重なることがない。
したがって、繊維走行制御部材と搬送案内部材とを同時に備えながら、スライバを構成する繊維に乱れを生じさせることがない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】空気精紡における梳綿工程以降の紡績工程の概略図である。
【図2】第一の実施の形態の空気式精紡機を示す斜視図である。
【図3】第一の実施の形態のドラフト装置の概略構成を示す側面図である。
【図4】第一の実施の形態のドラフト装置の概略構成を示す平面図である。
【図5】第二の実施の形態のドラフト装置の概略構成を示す側面図である。
【図6】第二の実施の形態のドラフト装置の概略構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0051】
2 練条機
3 空気式精紡機
6 スライバ
7 ドラフト装置
11 バックローラ対
12 サードローラ対
13 セカンドローラ対
14 フロントローラ対
17 トランペット(搬送案内部材)
18 繊維走行制御部材
19 取付部(位置調整装置)
20 コンデンサ(搬送案内部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
練条機で生産されたスライバが直接供給されて紡績糸を製造する空気式精紡機におけるドラフト装置であって、
前記スライバをドラフトするドラフトローラ対を、前記スライバの搬送経路に沿って、複数対備えると共に、
前記搬送経路を隣り合う一対の前記ドラフトローラ対により区切ってなる各区間のうち、少なくとも一区間に、前記区間を搬送されるスライバの搬送経路を屈折させる繊維走行制御部材を備える、
ことを特徴とする空気式精紡機におけるドラフト装置。
【請求項2】
前記搬送経路に対する直交方向で前記繊維走行制御部材の配設位置を可変とする位置調整装置を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の空気式精紡機におけるドラフト装置。
【請求項3】
前記各区間の一又は複数に、前記繊維走行制御部材と、スライバの搬送案内部材と、が配置されると共に、
前記繊維走行制御部材の配置される前記区間と、前記搬送案内部材が配置される前記区間とは、異なる箇所とする、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気式精紡機におけるドラフト装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−200069(P2006−200069A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13261(P2005−13261)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】