説明

空気浄化ユニット、空気浄化フェンス構造体、及び、空気浄化方法

【課題】空気が通流する通風路に、当該空気に含まれる汚染物質を除去可能な触媒繊維をシート状に形成してなる触媒繊維シート材を配置した空気浄化ユニットを用いて、浄化対象区域に対して出入りする空気に含まれる汚染物質を除去するにあたり、触媒繊維シート材が配置された通風路に空気を通流させる際に発生する圧力損失を小さくして、別途送風機による強制的な送風をしなくても、自然風等だけで通風路に空気を通流させることができ、その空気に含まれる汚染物質を良好に除去可能とする技術を実現する点にある。
【解決手段】通風路10において、触媒繊維シート材2が、通風路10における通風方向に沿った通風空間10aを隣接間に形成しながら積層配置されている空気浄化ユニット1を、通風路10における通風方向を厚さ方向とした状態で、浄化対象区域の周囲に沿って並設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気が通流する通風路に、当該空気に含まれる汚染物質を除去可能な触媒繊維をシート状に形成してなる触媒繊維シート材を配置した空気浄化ユニット、浄化対象区域に対して出入りする空気に含まれる汚染物質を除去するための空気浄化フェンス構造体及び空気浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の交通量が非常に多く、車両が通過する道路や発電所や工場などが密集する工業地帯などのように大気汚染が著しい浄化対象区域において、その浄化対象区域に出入りする空気から、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、揮発性有機化合物(VOC)などの汚染物質を除去するための技術開発が進められている。
例えば、道路等の浄化対象区域に対して出入りする空気から汚染物質を除去する技術としては、浄化対象区域を囲むように、表面に光触媒を担持してなる網目状の吸着フェンスを設置し、その吸着フェンスの網目に浄化対象区域に対して出入りする空気を通過させ、その空気に含まれるNOx等の汚染物質を、吸着フェンスの表面に吸着させて当該表面に担持されている光触媒により酸化除去するものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
一方、上記のようなNOx等の汚染物質を酸化除去可能な触媒としては、活性炭素繊維が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
そして、空気が通流する通風路に、当該空気に含まれる汚染物質を除去可能な上記活性炭素繊維等の触媒繊維をシート状に形成してなる触媒繊維シート材を配置した空気浄化ユニットとして、上記通風路において、プリーツ状又はW字状に空気の流れに沿って前後に折り返した触媒繊維シート材が配置されているものが知られている(例えば、特許文献3及び4を参照。)。即ち、この空気浄化ユニットでは、通風路に空気を通流させることで、その全ての空気が触媒繊維シート材を貫通するように流れて、その空気に含まれる汚染物質が触媒繊維シート材により濾過され、その濾過された汚染物質が触媒繊維により酸化除去される。
【0004】
【特許文献1】特開2001−46836号公報
【特許文献2】国際公開番号WO97/01388
【特許文献3】特開2006−130368号公報
【特許文献4】特開平6−339629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているように、浄化対象区域を囲むように表面に光触媒を担持してなる網目状の吸着フェンスを設置しただけでは、充分に高い空気浄化性能を発揮することは困難である。即ち、吸着フェンスの網目は比較的粗いものであり、その網目に浄化対象区域に対して出入りする空気を通過させたとしても、その空気に含まれる汚染物質が吸着フェンスの表面に付着して酸化除去される割合は非常に少ないものとなる。逆に、空気との接触面積を拡大するべく上記吸着フェンスの網目を非常に細かいものとした場合には、浄化対象区域に対して出入りする空気がその細かい網目を通過するための圧力損失が増大し、結果、網目を通過する空気の量が減少するので、空気浄化性能の向上を図ることができない。
【0006】
一方、上記特許文献3及び4に記載されている空気浄化ユニットでは、通風路を通流する全ての空気が触媒繊維シート材を貫通するので、比較的大きな圧力損失が発生し、特に、触媒繊維シート材として直径が10〜20μm程度と微細な活性炭素繊維をシート状に形成してなる活性炭素繊維シート材を用いた場合には、上記圧力損失が非常に大きくなる。よって、かかる空気浄化ユニットにおいて、このような触媒繊維シート材が横断配置された通風路に空気を通流させるためには、別途送風機による強制的な送風が必要であり、例えば自然風や自動車が走行することで発生する風だけで通風路に空気を通流させることはできなかった。
【0007】
また、上述したように吸着フェンスの細かい網目や触媒繊維シート材に空気を貫通させる場合には、空気に含まれる粉塵や微粒子などが吸着フェンスや触媒繊維シート材に捕捉されやすく、その粉塵や微粒子による目詰まりにより上記圧力損失が一層大きくなって、結果、空気が通流しなくなり空気浄化性能を発揮しなくなることが懸念される。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、空気が通流する通風路に、当該空気に含まれる汚染物質を除去可能な触媒繊維をシート状に形成してなる触媒繊維シート材を配置した空気浄化ユニットを用いて、浄化対象区域に対して出入りする空気に含まれる汚染物質を除去するにあたり、触媒繊維シート材が配置された通風路に空気を通流させる際に発生する圧力損失を小さくして、別途送風機による強制的な送風をしなくても、自然風等だけで通風路に空気を通流させることができ、その空気に含まれる汚染物質を良好に除去可能とする技術を実現する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る空気浄化ユニットは、空気が通流する通風路に、当該空気に含まれる汚染物質を除去可能な触媒繊維をシート状に形成してなる触媒繊維シート材を配置した空気浄化ユニットであって、その第1特徴構成は、前記通風路において、前記触媒繊維シート材が、前記通風路における通風方向に沿った通風空間を隣接間に形成しながら積層配置されている点にある。
尚、本願においての隣接間とは、互いに隣接された触媒繊維シート材の間を示す。
【0010】
上記第1特徴構成によれば、通風路において触媒繊維シート材が通風方向を横断する方向に積層配置されて、当該通風方向に沿った通風空間が触媒繊維シート材の隣接間に形成されるので、通風路を通流する空気は触媒繊維シート材に沿って当該通風空間を通流することになる。
よって、上記のような独特な状態で触媒繊維シート材が配置された通風路に、空気を通流させるにあたり、全ての空気を触媒繊維シート材に貫通させる必要がないので、その際に発生する圧力損失は非常に小さいものとなる。
また、上記触媒繊維シート材の隣接間に形成された通風空間を通流する空気は、比較的長い間触媒繊維シート材に沿って通流し、更には若干の空気が上記触媒繊維シート材の繊維間に入り込むので、その空気に含まれる汚染物質は良好に触媒繊維に接触して酸化除去されることになる。特にNOxの酸化除去には、比較的長い接触時間が必要であるので、上記のように空気を比較的長い間触媒繊維シート材に沿って通流させるという構成が効果的となる。
従って、本発明により、触媒繊維シート材が配置された通風路に空気を通流させる際に発生する圧力損失を小さくして、別途送風機を設けなくても自然風等だけで通風路に空気を通流させることができ、その空気に含まれる汚染物質を良好に除去可能とする空気浄化ユニットを実現することができる。
【0011】
本発明に係る空気浄化ユニットの第2特徴構成は、上記第1特徴構成に加えて、前記触媒繊維が活性炭素繊維である点にある。
【0012】
上記第2特徴構成によれば、上記触媒繊維として活性炭素繊維を用いることで、空気中の汚染物質、特にNOxを良好に酸化除去することができる。
【0013】
本発明に係る空気浄化ユニットの第3特徴構成は、上記第1乃至上記第2の何れかの特徴構成に加えて、両側面に外気に開放される空気口を夫々形成してなる本体ケーシングを備え、
前記通風路が、前記本体ケーシングの内部に前記両空気口を連通する通路として形成されている点にある。
【0014】
上記第3特徴構成によれば、上記本体ケーシングの両側部に形成された一対の空気口が外気に開放されているので、ある方向に自然風等が吹いた場合には、その一対の空気口の内の一方が自然風等の上流側に向けて開口するものとなり、他方が下流側に向けて開口するものとなる。
更に、上記本体ケーシングの内部において上記一対の空気口を連通する通路として形成された通風路には、これまで説明したような独特な状態で触媒繊維シート材が配置されているので、その通風路に空気を通流させるための圧力損失が非常に小さいものとなっている。
従って、上記自然風等が比較的弱い場合でも、その自然風だけで、上記上流側に向かって開口する空気口から通風路に空気を取り込み、上記下流側に向かって開口する空気口から排出する形態で、空気を触媒繊維シート材が配置された通風路に通流させて、その空気に含まれる汚染物質を除去することができる。
【0015】
本発明に係る空気浄化ユニットの第4特徴構成は、上記第3特徴構成に加えて、前記本体ケーシングの上面に、前記触媒繊維シート材の上面への降水の浸入を許容する降水浸入口が形成されている点にある。
【0016】
上記第4特徴構成によれば、上記本体ケーシングの上面に上記降水浸入口を設けることで、雨などのように上方から降りかけられる降水により触媒繊維シート材に付着する粉塵や微粒子に加えて、NOxを酸化除去した際に生成する硝酸化合物などを洗い流すことができるので、当該粉塵、NOx等の付着による汚染物質の除去機能低下を抑制することができる。
【0017】
本発明に係る空気浄化ユニットの第5特徴構成は、上記第1乃至上記第4の何れかの特徴構成に加えて、前記通風路において、平板状に形成された前記触媒繊維シート材の複数が、隣接間に通気性のスペーサを挟み込みながら積層配置されている点にある。
【0018】
上記第5特徴構成によれば、通風路において、当該通風路の通風方向での断面形状の平板状に形成された触媒繊維シート材の複数が、隣接間に上記スペーサを挟み込みながら積層配置されているので、その隣接間に形成された通風空間の形状を上記スペーサにより保持することができる。また、通風空間において、空気は、上記通気性のスペーサに形成された多数の孔を通じて良好に通流することができ、スペーサの設置による圧力損失の増大を抑制することができる。
また、このように触媒繊維シート材とスペーサとを交互に積層した構造とすることで、本空気浄化ユニットの組立作業を簡素化することができる。
【0019】
本発明に係る空気浄化ユニットの第6特徴構成は、上記第5の特徴構成に加えて、前記スペーサが、波状に形成された金網で構成されている点にある。
【0020】
上記第6特徴構成によれば、比較的安価な金網を比較的簡単に製作できる波状に形成したものを、上記特徴構成5で用いる通気性のスペーサとして利用することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0021】
上記目的を達成するための本発明に係る空気浄化フェンス構造体は、浄化対象区域に対して出入りする空気に含まれる汚染物質を除去するための空気浄化フェンス構造体であって、その特徴構成は、上述した第1乃至第6の何れかの特徴構成を有する空気浄化ユニットの複数を、前記通風路における通風方向を厚さ方向とした状態で、前記浄化対象区域の周囲の少なくとも一部を囲むように積層してなる点にある。
【0022】
即ち、これまで説明してきたように、上述した第1乃至第6の何れかの特徴構成を有する空気浄化ユニットは、触媒繊維シート材が配置された通風路に空気を通流させる際に発生する圧力損失が小さいので、この空気浄化ユニットの複数を、通風路における通風方向を厚さ方向とした状態で、道路等の浄化対象区域の周囲の少なくとも一部を囲むように積層してなる空気浄化フェンス構造体についても、別途送風機を設けなくても自然風等だけで、浄化対象区域に対して出入りする空気を良好に夫々の通風路に通流させ、その空気に含まれる汚染物質を良好に除去することができる。
【0023】
上記目的を達成するための本発明に係る空気浄化方法は、浄化対象区域に対して出入りする空気に含まれる汚染物質を除去するための空気浄化方法であって、その特徴構成は、上述した第1乃至第6の何れかの特徴構成を有する空気浄化ユニットの複数を、前記通風路における通風方向を厚さ方向とした状態で、前記浄化対象区域の周囲に沿って並設する点にある。
【0024】
即ち、これまで説明してきたように、上述した第1乃至第6の何れかの特徴構成を有する空気浄化ユニットは、触媒繊維シート材が配置された通風路に空気を通流させる際に発生する圧力損失が小さいので、この空気浄化ユニットの複数を、通風路における通風方向を厚さ方向とした状態で道路等の浄化対象区域の周囲に沿って配置することで、別途送風機を設けなくても自然風等だけで、浄化対象区域に対して出入りする空気を良好に夫々の通風路に通流させ、その空気に含まれる汚染物質を良好に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係る空気浄化ユニット、空気浄化フェンス構造体、及び、空気浄化方法の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0026】
〔空気浄化ユニット〕
本発明に係る空気浄化ユニットの実施の形態について図1〜3に基づいて説明する。
尚、図1は、空気浄化ユニット1の斜視図、図2は、空気浄化ユニット1の立断面図、図3は、空気浄化ユニット1の平断面図である。
【0027】
図1〜図3に示すように、空気浄化ユニット1は、空気Aが通流する通風路10に、当該空気Aに含まれる汚染物質を除去可能な触媒繊維をシート状に形成してなる触媒繊維シート材2を配置して構成されている。
即ち、空気浄化ユニット1は、通風路10に空気Aを通流させることで、その空気Aに含まれる汚染物質を、触媒繊維シート材2を構成する触媒繊維に接触させ、その触媒機能により酸化除去するものである。
【0028】
更に、空気浄化ユニット1は、触媒繊維シート材2が配置された通風路10に空気Aを通流させる際に発生する圧力損失を小さくして、別途送風機を設けなくても自然風等だけで通風路10に空気Aを通流させることができ、その空気Aに含まれる汚染物質を良好に除去可能とするように構成されており、その詳細構成について以下に説明する。
【0029】
上記通風路10において、触媒繊維シート材2が、通風方向に沿った通風空間10aを隣接間に形成しながら積層配置されている。即ち、通風路10において複数の触媒繊維シート材2が通風方向を横断する方向に並んで互いに平行に積層配置されており、更に、当該通風方向に沿った通風空間10aが複数の触媒繊維シート材2の夫々の隣接間に形成されように、夫々の触媒繊維シート材2が離間配置されている。よって、通風路10において空気Aは、上記触媒繊維シート材2に沿って、当該通風空間10aを通流することになり、全ての空気Aを触媒繊維シート材2に貫通させる場合と比較して、その際に発生する圧力損失は非常に小さいものとなる。
【0030】
尚、本実施形態において、通風路10は、詳細については後述するが、本体ケーシング20の内部において、当該本体ケーシング20の一方の側面に形成された空気口21から他方の側面に形成された空気口21に渡って形成される通路を示す。また、通風空間10aは、通風路10に複数の触媒繊維シート材2の夫々を離間させながら積層配置した場合において、互いに隣接された触媒繊維シート材2の間に形成された隙間を示す。
【0031】
上記触媒繊維シート材2を構成する触媒繊維としては、空気A中の汚染物質、特にNOxを良好に酸化除去し得る活性炭素繊維が用いられている。
上記触媒繊維シート材2を構成する活性炭素繊維としては、窒素吸着法による比表面積が400〜500m2/gの範囲内であり、MP法で解析した細孔分布において、直径2nm以下のミクロポアの内、直径1nm以下のものが全ミクロポア容積の80%以上を占めるものを用いることが好ましく、このような活性炭素繊維の吸着機能と触媒機能により、大気汚染の原因となるNOxの内、特に常温で除去することが困難な一酸化窒素(NO)を常温で長期間除去することができる。
更に、上記触媒繊維シート材2を構成する活性炭素繊維としては、ピッチ系活性炭素繊維(例えば、アドール株式会社製の「A−5」)やポリアクリロニトリル系活性炭素繊維を用いることが一層好ましく、特にNOを一層良好に除去することができる。
【0032】
以下、下記の表1に示すような5種類(A〜E)の活性炭素繊維を用いたNO除去性能試験を行った結果を説明する。
尚、本試験では、A〜Eの各活性炭素繊維に、20ppmのNOを含む25℃の乾燥空気を流通させ、その活性炭素繊維を通過後に出口から排出された空気中のNO濃度を単位時間毎に計測した。尚、各活性炭素繊維の質量は1g、全空気流量は500mL/minであり、空気と活性炭素繊維との接触時間は2〜3秒に揃えた。
図8に、A〜Eの各活性炭素繊維について、上記出口NOx濃度の経時的な変化状態をプロットしたNO吸着破過曲線を示す。このNO吸着破過曲線から判るように、活性炭素繊維Aは、20時間経過後の出口NO濃度が14ppmと最も低く、更に、50時間経過後も15ppm前後と、入口濃度(20ppm)に対し5ppmも低い状態で安定していた。
更に、50時間後のNO吸着量の積分値を求めた場合、下記の表1に示すように、活性炭素繊維Aが9.9ml/gと最も高かった。
また、図9に、各活性炭素繊維A,B,D,Eについて、MP法によるミクロポア径の分布を示す。この分布から判るように、活性炭素繊維Aは、直径2nm以下のミクロポアの内、直径1nm以下のものが全ミクロポア容積の80%以上を占めることが判る。
【0033】
【表1】

【0034】
そして、上記触媒繊維シート材2としては、活性炭繊維をシート状の不織布に加工されたものが利用されており、更に、その触媒繊維シート材2の厚さ方向の中心部には、保形するための網状の芯材3が埋め込まれている。
【0035】
また、空気浄化ユニット1は、図3に示すように、両側面に外気に開放される空気口21を夫々形成してなる本体ケーシング20を備え、通風路10が、当該本体ケーシング20の内部に両空気口21を連通する通路として形成されている。即ち、上記本体ケーシング20は、上記両空気口21を両端部に設け、内部に矩形断面の通風路を形成する矩形筒状に形成されている。よって、本体ケーシング20の両側部に形成された一対の空気口21が外気に開放されることになるので、図1に示すように、ある方向に自然風等の空気Aが吹いた場合には、その一対の空気口21の内の一方が空気Aの流れの上流側に向けて開口するものとなり、他方が空気Aの流れの下流側に向けて開口するものとなる。
【0036】
また、その矩形断面の通風路10には、複数の触媒繊維シート材2が、本体ケーシング20の筒軸に対して直角方向に沿って互いの隣接間に通風空間10aを設けながら積層配置され、更に、夫々の触媒繊維シート材2の上記通風空間10aとの境界面は、上記筒軸に沿った方向に延出する面となる。そして、その通風路10を通流する空気Aは、非常に低い圧力損失で、触媒繊維シート材2に沿って当該通風空間10aを通流することになる。
よって、上記上流側に開口する一方の空気口21に向かって流れる自然風等の空気Aの流れが比較的弱い場合でも、その空気Aの流れだけで、その空気口21から通風路10に空気Aが取り込まれ、下流側に向かって開口する空気口21から排出される形態で、触媒繊維シート材2が配置された通風路10に空気Aが良好に通流し、その空気Aに含まれる汚染物質が良好に除去されることになる。
尚、上記本体ケーシング20は、アルミ板やプラスチック板を枠組みして簡単に製造することができ、その枠組みの内面で触媒繊維シート材2の端面が当接保持されることになる。
【0037】
更に、図1に示すように、上記本体ケーシング20の上面には、触媒繊維シート材2の上面への降水の浸入を許容する降水浸入口25が形成されており、その降水浸入口25には、異物の浸入を阻止する金網26が設けられている。
即ち、降雨や人為的な散水等のように、上方から降りかけられる降水は、降水浸入口25から本体ケーシング20の内部の通風路10に浸入することになる。よって、その降水により通風路10に配置された触媒繊維シート材2に付着する粉塵や微粒子及び硝酸化合物などが洗い流されることになり、触媒繊維シート材2の当該粉塵、NOx等の付着による汚染物質の除去機能低下が抑制されることになる。
【0038】
触媒繊維シート材2は、当該通風路10の通風方向での断面形状即ち直方形の平板状のものが使用されており、更に、通風路10には、その平板状に形成された触媒繊維シート材2の複数が、隣接間に通気性のスペーサ5を挟み込みながら積層配置されている。
即ち、通風路10において、複数の触媒繊維シート材2と複数のスペーサ5とが交互に積層されており、複数の触媒繊維シート材2の夫々の隣接間に形成された通風空間10aが、上記スペーサ5により保形されることになる。そして、その通風空間10aにおいて、空気Aは、圧力損失の増加を抑制しながら、上記スペーサ5に形成された多数の孔を通じて良好に通流することになる。
【0039】
また、この通気性のスペーサ5は、比較的安価な金網を比較的簡単に製作できる波状に形成したものとして構成されている。
尚、この通気性を有するスペーサ5としては、上記波状に形成されたた金網以外のものを利用しても構わない。
例えば、スペーサの材質としては、アルミ、ステンレスなどの金属材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の高分子材料などあらゆる材質を利用できる。また、金属を用いる場合には、金網状、メッシュ状、格子状、パンチングメタル状等の板材を波状に形成したもの等を、通気性を有するスペーサとして用いることができる。一方、高分子材料を用いる場合には、網状、メッシュ状等の板材を波状に形成したものに加え、高分子材料を発砲させてスポンジ状に形成したもの、高分子材料製の繊維を低密度の不織布として形成したもの等を、通気性を有するスペーサとして用いることができる。
【0040】
〔空気浄化フェンス構造体及び空気浄化方法〕
本発明に係る空気浄化フェンス及び空気浄化方法の実施の形態について図4〜5に基づいて説明する。
尚、図4及び図5は、浄化対象区域に対して空気浄化フェンス構造体30を配置した状態を示す図である。
【0041】
図4及び図5に示すように、道路50などの浄化対象区域に対して出入りする空気Aに含まれる汚染物質を除去するための空気浄化方法は、これまで説明してきた空気浄化ユニット1の複数を、通風路10における通風方向を厚さ方向とした状態で、道路50などの浄化対象区域の周囲に沿って並設することで実現される。
即ち、上記空気浄化ユニット1は、触媒繊維シート材2が配置された通風路10に空気Aを通流させる際の圧力損失が小さいので、別途送風機を設けなくても、道路50において自然風或いは自動車が走行することで発生する風だけで、道路50対して出入りする空気Aを通風路10に良好に通流させ、その空気Aに含まれる汚染物質を触媒繊維シート材2に良好に接触させて酸化除去されることになる。
【0042】
また、上記の空気浄化方法は、図4及び図5に示す空気浄化フェンス構造体30により実行することができる。
即ち、道路50などの浄化対象区域に対して出入りする空気Aに含まれる汚染物質を除去するための空気浄化フェンス構造体30は、上記空気浄化ユニット1の複数を、通風路10における通風方向を厚さ方向とした状態で、道路50などの浄化対象区域の周囲の少なくとも一部を囲むように積層してなる。
【0043】
例えば、図4に示すように、道路50と歩道51との境界部に沿って、上記空気浄化ユニット1を複数列且つ複数段積層してなる空気浄化フェンス構造体30にあっては、道路50において車両が通過する際に道路50側から歩道51側に空気Aの流れが発生する。よって、その流れを利用して、その道路50側から歩道51側に流出する空気Aは、夫々の空気浄化ユニット1の圧力損失が小さい通風路10に流通することになり、その空気Aに含まれるNOx等の汚染物質が通風路10に配置された触媒繊維シート材2に良好に接触して酸化除去される。
【0044】
また、図5に示すように、浄化対象区域としての道路50に対しては、対向車線の境界部にある中央分離帯に上記空気浄化フェンス構造体30を配置することで、対向車線間で発生する空気Aの流れを利用して、その空気Aを夫々の空気浄化ユニット1の圧力損失が小さい通風路10に流通させ、その空気Aに含まれるNOx等の汚染物質を通風路10に配置された触媒繊維シート材2に良好に接触して酸化除去することができる。また、浄化対象区域としての道路50に対して、その上空を覆う形態で上記空気浄化フェンス構造体30を配置することで、道路50から上方への空気Aの流れを利用して、その空気Aを夫々の空気浄化ユニット1の圧力損失が小さい通風路10に流通させて、その空気Aに含まれるNOx等の汚染物質を良好に酸化除去することができる。
【0045】
尚、本実施形態では、浄化対象区域を道路50としたが、道路50以外に、発電所や工場などが密集する工業地帯や大勢の人が集まる施設等を浄化対象区域とし、その浄化対象区域の周囲に空気浄化ユニットを並設しても構わない。
【0046】
尚、本実施形態では、空気浄化ユニット1において、図2等に示すように触媒繊維シート材2及びスペーサ5を配置したが、別に、図6や図7に示すような空気浄化ユニット1’,1”の構成を採用しても構わない。
即ち、図6に空気浄化ユニット1’は、図2等に示す空気浄化ユニット1に対してスペーサ5が省略されたものとして構成されている。よって、複数の触媒繊維シート材2の夫々の隣接間に形成された通風空間10aには、スペーサが存在しないことから、一層圧力損失が小さいものとなり、空気Aが一層良好に通流するものとなる。また、この空気浄化ユニット1’の場合、複数の触媒繊維シート材2の夫々の隣接間に形成された通風空間10aは、夫々の触媒繊維シート材2の端面を本体ケーシング20の内面に固定するなどして保形することができる。
【0047】
また、図7に示す空気浄化ユニット1”は、図2等に示す空気浄化ユニット1とは異なり、そのプリーツ状又はW字状に通風路10の通風方向を繰り返し上下に横断するように折り返した触媒繊維シート材2が配置されている。即ち、この空気浄化ユニット1”でも、夫々の折り返し部間に、通風路10における通風方向に沿った通風空間10aが形成されることになり、通風路を通流する空気Aは、触媒繊維シート材2を殆ど貫通せずに、当該触媒繊維シート材2に沿って当該通風空間を通流することになる。
【実施例】
【0048】
次に、図1に示す空気浄化ユニット1と同じ構成のもの(実施例1)、図6に示す空気浄化ユニット1’と同じ構成のもの(実施例2)、及び、図7に示す空気浄化ユニット1”と同じ構成のもの(実施例3)と、従来の構成の空気浄化ユニット(比較例)との夫々の圧力損失を計測した試験を行った。
【0049】
上記実施例1〜3及び比較例の夫々の空気浄化ユニットは、本体ケーシングの内部に形成される通風路の断面形状が縦500mm×横500mmの正方形であり、当該通風路の奥行き即ち通風方向の幅が200mmである。また、夫々の空気浄化ユニットで使用する触媒繊維シート材は、何れも、前述の比表面積500m2/g、繊維直径15μmのピッチ系活性炭素繊維(アドール株式会社製の「A−5」)を厚さ6mmのシート状の不織布に乾式加工されたものである。
【0050】
上記実施例1及び2の空気浄化ユニットでは、図1及び図6に示すように、縦500mm横500mm奥行き200mmの通風路において、幅200mm長さ500mmにカットした触媒繊維シート材の複数を、通風方向を横断する横方向に並べ、夫々の隣接間に幅8mmの通風空間を形成しながら互いに平行になるように積層配置している。
実施例3の空気浄化ユニットでは、図7に示すように、幅200mmにカットした触媒繊維シート材を、山高さ500mm折り返しピッチ21mmとなるようにプリーツ状に折り返し、それを触媒繊維シート材の幅が通風路の奥行き方向(通風方向)となるように通風路に配置している。尚、この実施例3の空気浄化ユニットの場合でも、通風路の上下方向の中心部における通風空間の幅は、上記実施例1,2と同様に8mmとなる。
比較例の空気浄化ユニットでは、幅500mmにカットした触媒繊維シート材を、山高さ200mm折り返しピッチ21mmとなるようにプリーツ状に折り返し、それを触媒繊維シート材の幅が通風路の高さ方向(通風方向と垂直の方向)となるように通風路に配置している。よって、この比較例の空気浄化ユニットは、通風路に空気を通流させることで、その全ての空気が触媒繊維シート材を貫通するように流れる汎用の空気貫通式プリーツフィルターである。
本試験では、各空気浄化ユニットに対して、空気口に対して直角に風速1.0m/secで空気を通流させた際の各ユニットで発生する圧力損失を計測した。尚、測定条件は、温度20〜25℃、相対湿度45〜55%である。
【0051】
結果、下記の表2に示すように、実施例1〜3の空気浄化ユニットは、何れも圧力損失が非常に小さく、微小な自然風だけでも通風路に空気を通流させることができることが判る。一方、比較例の空気浄化ユニットは、実施例1〜3に比べ、全ての空気が触媒繊維シート材を貫通するため、圧力損失が非常に大きく、微小な自然風だけでは通風路に空気を通流させることができないことが判る。
【0052】
【表2】

【0053】
次に、上記実施例1〜3及び比較例1の各空気浄化ユニットを用い、本体ケーシングの空気口が形成された面における面風速を1.0m/secとして、NOx濃度が1.0ppmの空気を送り、通過する空気の浄化度合いを測定する試験を行った。各空気浄化ユニットの風速、NOxの濃度、及び、それから計算されるNOx浄化量を計算した。
【0054】
尚、単なるNOx濃度差のみの浄化率では、各空気浄化ユニットを通過した風量が含まれないため、通過風量の小さな空気浄化ユニットが見かけ上良好に見える。しかし、微小な自然風だけで空気を通過させる空気浄化ユニとのNOx浄化性能は、送風機等の動力を用いないので、通過できる風量が重要であり、通風量に入口NOx濃度から通過後NOx濃度を差し引いた濃度さを乗じたNOx浄化量を持って計算する必要がある。
よって、NOx浄化量の計算は、次式により行った。
NOx浄化量=(通過後の風速×通風路の断面積)×(入口NOx濃度−通過後NOx濃度)
【0055】
試験の結果、下記の表3に示すように、実施例1〜3の空気浄化ユニットは、通過後のNOx濃度は比較例の従来型の空気浄化ユニットに比べて低くないが、通過風量を乗じて求められるNOx浄化量は何れも、比較例を大きく上回っていることが確認できた。
【0056】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る空気浄化ユニット、空気浄化フェンス構造体、及び、空気浄化方法は、空気が通流する通風路に、当該空気に含まれる汚染物質を除去可能な触媒繊維をシート状に形成してなる触媒繊維シート材を配置した空気浄化ユニットを用いて、浄化対象区域に対して出入りする空気に含まれる汚染物質を除去するにあたり、触媒繊維シート材が配置された通風路に空気を通流させる際に発生する圧力損失を小さくして、別途送風機による強制的な送風をしなくても、自然風等だけで通風路に空気を通流させることができ、その空気に含まれる汚染物質を良好に除去可能とするものとして有効に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】空気浄化ユニットの斜視図
【図2】空気浄化ユニットの立断面図
【図3】空気浄化ユニットの平断面図
【図4】浄化対象区域に対して空気浄化フェンス構造体を配置した状態を示す図
【図5】浄化対象区域に対して空気浄化フェンス構造体を配置した状態を示す図
【図6】別実施形態の空気浄化ユニットの立断面図
【図7】別実施形態の空気浄化ユニットの立断面図
【図8】活性炭素繊維のNO吸着破過曲線を示すグラフ図
【図9】活性炭素繊維のMP法によるミクロポア径の分布を示すグラフ図
【符号の説明】
【0059】
1:空気浄化ユニット
2:触媒繊維シート材
3:芯材
5:スペーサ
10:通風路
10a:通風空間
20:本体ケーシング
21:空気口
25:降水浸入口
26:金網
30:空気浄化フェンス構造体
50:道路(浄化対象区域)
51:歩道
A:空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気が通流する通風路に、当該空気に含まれる汚染物質を除去可能な触媒繊維をシート状に形成してなる触媒繊維シート材を配置した空気浄化ユニットであって、
前記通風路において、前記触媒繊維シート材が、前記通風路における通風方向に沿った通風空間を隣接間に形成しながら積層配置されている空気浄化ユニット。
【請求項2】
前記触媒繊維が活性炭素繊維である請求項1に記載の空気浄化ユニット。
【請求項3】
両側面に外気に開放される空気口を夫々形成してなる本体ケーシングを備え、
前記通風路が、前記本体ケーシングの内部に前記両空気口を連通する通路として形成されている請求項1又は2に記載の空気浄化ユニット。
【請求項4】
前記本体ケーシングの上面に、前記触媒繊維シート材の上面への降水の浸入を許容する降水浸入口が形成されている請求項3に記載の空気浄化ユニット。
【請求項5】
前記通風路において、平板状に形成された前記触媒繊維シート材の複数が、隣接間に通気性のスペーサを挟み込みながら積層配置されている請求項1〜4の何れか一項に記載の空気浄化ユニット。
【請求項6】
前記スペーサが、波状に形成された金網で構成されている請求項5に記載の空気浄化ユニット。
【請求項7】
浄化対象区域に対して出入りする空気に含まれる汚染物質を除去するための空気浄化フェンス構造体であって、
請求項1〜6の何れか一項に記載の空気浄化ユニットの複数を、前記通風路における通風方向を厚さ方向とした状態で、前記浄化対象区域の周囲の少なくとも一部を囲むように積層してなる空気浄化フェンス構造体。
【請求項8】
浄化対象区域に対して出入りする空気に含まれる汚染物質を除去するための空気浄化方法であって、
請求項1〜6の何れか一項に記載の空気浄化ユニットの複数を、前記通風路における通風方向を厚さ方向とした状態で、前記浄化対象区域の周囲に沿って並設する空気浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−221145(P2008−221145A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63866(P2007−63866)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】