説明

空洞含有樹脂積層フィルム及びその製造方法

【課題】内部に微小な気泡を有することによる断熱性、クッション性に優れ、高い反射率などの光学的性質を有する空洞含有樹脂フィルムに対し、その表面硬度を向上することにより、強度、耐久性、取り扱い性を改善した空洞含有樹脂積層フィルム及びその製造方法の提供。
【解決手段】本発明の空洞含有樹脂積層フィルムは、所定の空洞含有樹脂フィルムと、前記空洞含有樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられた保護層と、を有し、前記保護層は、熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化可能な膜形成組成物を、前記空洞含有樹脂フィルムの少なくとも一方の面に塗布、乾燥後、前記熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化して得られることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に微小な気泡を有することによる断熱性、クッション性に優れ、光学的に特異な性質を有する空洞含有樹脂フィルムを備えた空洞含有樹脂積層フィルム及びその製造方法に関し、特に、空洞含有樹脂フィルムの表面に硬度の高い保護層を有することにより、強度、耐久性、取り扱い性を改善した空洞含有樹脂積層フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空洞含有樹脂フィルムは、その断熱性、クッション性、光学特性などの性質から、熱転写方式プリンターの画像記録用紙の部材として使用されたり、電子機器の照明用部材、反射シートなどに使用されたりしている。
従来の空洞含有樹脂フィルムとしては、ポリエステル系樹脂を用いて、受像シート内部に微細な空洞を多量に含有させる技術が開発されている。
【0003】
例えば、ポリエステル系樹脂フィルムの中に無機系微粒子などを含有させておき、樹脂の延伸製膜時に無機系微粒子などと樹脂界面とが剥離することにより、受像シート内に空洞を形成させる技術である。無機系微粒子などの添加により、フィルムが白色になって、空洞の形成により断熱性を得ることができる。
【0004】
しかし、無機系微粒子などの微分散化のために高度な技術、装置を必要とし、また、凝集を抑制するために添加剤を加えたり、微粒子の前処理を行ったりする必要が生じるので、製造工程が複雑になり、コストが掛かるという問題があった。
また、粒子を微粒子にすればするほど、製品中のボイド(空洞)が小さくできるため断熱効果が高くなって好ましいが、微粒子の凝集が発生すると、表面凹凸が大きくなる等の問題があった。また、フィルム表面の近傍まで発泡層が発現すると、発泡により表面の平滑性が損なわれる問題もあった。
【0005】
このような問題を改良するために、特許文献1に記載の技術は、主たる成分である樹脂(例えば、ポリエステル系樹脂)に、その樹脂と相溶しない(非相溶の)別の樹脂を添加して混練する事により2相構造(例えば海島構造)を形成し、樹脂の延伸製膜時に主たる成分である樹脂と、そこに添加・混練された別の樹脂との界面が剥離することにより、空洞を形成させる技術である。このとき、非相溶相のサイズを揃えることによって、ボイドの制御が容易になり、受像シートの性能を向上させることができる。
【0006】
前記特許文献1に記載の技術により受像シートを製造する場合には、一般的に、海島構造を形成して製膜延伸時にその界面を剥離させてボイドを発生させる機構が用いられる。しかし、このような機構により製造する場合には、思うように島部分が充分小さくできないなどの理由により、所望する2相構造が得られにくいために、結果として、ボイドが充分に小さくできない(制御が難しい)などの問題があった。
【0007】
また、特許文献1に記載の技術は、主たる成分中に異種の成分を混入させ、それを核としてボイドを発現させる方法のため、ボイドの中に異種の成分が残り、それが断熱性向上を阻害してしまうことがあった。
【0008】
特許文献2に記載の技術は、樹脂フィルムを加圧下で不活性ガスと接触させて、樹脂フィルムに不活性ガスを含浸させ、大気圧下で延伸して、多孔性延伸樹脂フィルムを得る技術である。この技術は、空洞の発生源として気体を用いるので、断熱性やリサイクル性などの問題を回避し易いという利点がある。
【0009】
しかし、不活性ガスを加圧下でフィルムに含浸させるためには、フィルム全体を数十気圧、あるいは100気圧を超える高圧下で処理するための大掛かりな装置が必要になり、一般的な溶融製膜・延伸装置と比較して、装置コストが大幅に増大する問題があった。また、不活性ガスを大量に扱うので、作業者の安全性を確保するための設備や対策が必要になり、これにもかなりのコストを要するという問題があった。また、均一に発泡させるには、製造工程において条件を均一化させなければならないなど、高度な制御が必要であった。
また、空洞含有樹脂フィルムは、内部に空洞を有するため、外部からの圧力によって、空洞がつぶれることにより、平面性が損なわれたり、光学的な特性が変化したりする問題があり、より高い表面硬度が求められていた。
【0010】
【特許文献1】特開2005−281396号公報
【特許文献2】特開2006−8942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、内部に微小な気泡を有することによる断熱性、クッション性に優れ、高い反射率などの光学的性質を有する空洞含有樹脂フィルムに対し、その表面硬度を向上することにより、強度、耐久性、取り扱い性を改善した空洞含有樹脂積層フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討した結果、以下のような知見を見出し、本発明の完成に至った。
即ち、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)等の結晶性ポリマーのみからなるポリマー成形体(ポリマーフィルム)を、適度な温度条件下で高速延伸することにより得られる空洞含有樹脂フィルムの表面に、熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化可能な膜形成組成物を塗布、乾燥後、熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化した保護層を有する空洞含有樹脂積層フィルムが、優れた断熱性、クッション性を有すると同時に、その表面に硬度の高い保護層を有することにより、強度、耐久性、取り扱い性を改善したフィルムを提供できることを見出した。
また、極めて微小な空洞を内部に有することにより、紫外域から赤外域までの広範な範囲の波長において優れた反射率を有することを見出した。
さらに、前記空洞含有樹脂積層フィルムは、従来のようなフィラー入り樹脂等を使用しないため、全て燃焼可能な有機物で構成され、そのため、焼却率が極めて高く、焼却が容易となり、また、焼却後の残渣も少ない(焼却残渣率が低い)という利点を有する。さらに、不完全な燃焼が行われた場合であっても、前記PBT等は生分解性ポリマーであることから、自然分解が可能であり、そのため、前記空洞含有樹脂積層フィルムは環境に優しい素材であるということができる。
【0013】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 結晶性を有するポリマーのみからなり、長尺状の空洞をその長さ方向が一方向に配向した状態で内部に含有する空洞含有樹脂フィルムと、前記空洞含有樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられた保護層と、を有する空洞含有樹脂積層フィルムであって、前記空洞含有樹脂フィルムにおける、前記空洞の配向方向に直交する断面において、前記空洞の中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離が最も短い10個の前記空洞について、各中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離h(i)を算出し、算出された各前記距離h(i)の算術平均値h(avg)が、次式、h(avg)>T/100、の関係を満たし、
[但し、Tは、前記断面における厚みの算術平均値を表し、10個の前記空洞は、前記厚み方向に平行な任意の一の直線と、前記一の直線に対し平行でかつ20×Tだけ離れて位置する他の直線とで挟まれた領域内に存在する空洞の中から選択される。]
かつ、前記空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上であり、前記保護層は、熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化可能な膜形成組成物を、前記空洞含有樹脂フィルムの少なくとも一方の面に塗布し、乾燥した後、前記熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化して得られることを特徴とする空洞含有樹脂積層フィルムである。
<2> 膜形成組成物が、重合可能な複数の二重結合を有する、モノマー及びオリゴマーの少なくともいずれかを含有する前記<1>記載の空洞含有樹脂積層フィルムである。
<3> 結晶性を有するポリマーが、ポリオレフィン類、ポリエステル類、及び、ポリアミド類から選択される少なくともいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載の空洞含有樹脂積層フィルムである。
<4> 結晶性を有するポリマーが、ポリエステル類である前記<1>から<3>のいずれかに記載の空洞含有樹脂積層フィルムである。
<5> 結晶性を有するポリマーが、生分解性ポリマーである前記<1>から<4>のいずれかに記載の空洞含有樹脂積層フィルムである。
<6> 前記<1>に記載の空洞含有樹脂積層フィルムを製造する製造方法であって、空洞含有樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化可能な膜形成組成物を塗布し、乾燥した後、前記熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化させて保護層を形成する保護層形成工程を含むことを特徴とする空洞含有樹脂積層フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、内部に微小な気泡を有することによる断熱性、クッション性に優れ、高い反射率などの光学的性質を有する空洞含有樹脂フィルムに対し、その表面硬度を向上することにより、強度、耐久性、取り扱い性を改善した空洞含有樹脂積層フィルム及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(空洞含有樹脂積層フィルム)
本発明の空洞含有樹脂積層フィルムは、空洞含有樹脂フィルムと、保護層と、を有してなり、さらに必要に応じて、その他の層を有してなる。
【0016】
<空洞含有樹脂フィルム>
前記空洞含有樹脂フィルムは、以下のように、結晶性を有するポリマー(本明細書中において、単に「結晶性ポリマー」と称することがある)を含むポリマー組成物からなり、長尺状の空洞をその長さ方向が一方向に配向した状態で内部に含有することを特徴とする。
【0017】
<<ポリマー組成物>>
前記ポリマー組成物としては、結晶性を有するポリマー(結晶性ポリマー)を含むものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくとも1種類の結晶性ポリマーからなるものが好ましく、また、1種類の結晶性ポリマーのみからなるものがより好ましい。
なお、前記ポリマー組成物は、空洞の発現に寄与しない成分であれば、必要に応じて前記結晶性ポリマー以外のその他の成分を含んでいてもよい。前記その他の成分が空洞の発現に寄与したかどうかは、空洞内又は空洞の界面部分に、結晶性ポリマー以外の成分(例えば、後記する各成分など)が検出されるかどうかで判別できる。
【0018】
<<<結晶性ポリマー>>>
一般に、ポリマーは、結晶性ポリマーと非晶性(アモルファス)ポリマーとに分けられるが、結晶性ポリマーといえども100%結晶ということはなく、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶(アモルファス)領域とを含んでいる。
したがって、前記結晶性ポリマーとしては、分子構造の中に少なくとも前記結晶性領域を含んでいればよく、結晶性領域と非結晶領域とが混在していてもよい。
【0019】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、高密度ポリエチレン、ポリオレフィン類(例えば、ポリプロピレンなど)、ポリアミド類(PA)(例えば、ナイロン−6など)、ポリアセタール類(POM)、ポリエステル類(例えば、PET、PEN、PTT、PBT、PPT、PHT、PBN、PES、PBSなど)、シンジオタクチック・ポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンサルファイド類(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン類(PEEK)、液晶ポリマー類(LCP)、フッ素樹脂、などが挙げられる。その中でも、空洞含有樹脂フィルムの力学強度や製造の観点から、ポリオレフィン類、ポリエステル類、及び、ポリアミド類から選択される少なくともいずれかが好ましく、ポリエステル類がより好ましい。また、これらのうち2種以上のポリマーをブレンドしたり、共重合させたりして使用してもよい。
なお、環境保護の観点からは、前記結晶性ポリマーとしては、生分解性ポリマーを使用することが好ましく、このような生分解性ポリマーとしては、例えば、微生物でつくる高分子(セルロ−ス、ポリアミノ酸など)、植物や動物のつくる天然高分子(セルロ−ス、デンプン、キチン、コラ−ゲンなど)、及びそれらの官能基変性化合物、化学合成でつくる高分子(PBT等の芳香環を有するポリエステル、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートなど)などが挙げられる。このような生分解性ポリマーを使用することにより、製造時に型枠で打ち抜いた際などに出るシート端部の抜き残りの処分や、使用後の空洞含有有機樹脂積層フィルムの処分に際して、不完全な燃焼が行われた場合であっても、自然分解がされ易い点で、有利である。
【0020】
前記結晶性ポリマーの溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜700Pa・sが好ましく、70〜500Pa・sがより好ましく、80〜300Pa・sが特に好ましい。前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、溶融製膜時にダイヘッドから吐出される溶融膜の形状が安定し、均一に製膜しやすくなる点で好ましい。また、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、溶融製膜時の粘度が適切になって押出ししやすくなったり、製膜時の溶融膜がレベリングされて凹凸を低減できたりする点で好ましい。
ここで、前記溶融粘度は、プレートタイプのレオメーターやキャピラリーレオメーターなどにより測定することができる。
【0021】
前記結晶性ポリマーの極限粘度(IV)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.2が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が特に好ましい。前記極限粘度が0.4〜1.2であると、製膜されたフィルムの強度が高くなり、効率よく延伸することができる点で好ましい。
ここで、前記極限粘度は、ウベローデ型粘度計などにより測定することができる。
【0022】
前記結晶性ポリマーの融点(Tm)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40〜350℃が好ましく、100〜300℃がより好ましく、100〜260℃が特に好ましい。前記融点が40〜350℃であると、通常の使用で予想される温度範囲で形を保ちやすくなる点で好ましく、高温での加工に必要とされる特殊な技術を特に用いなくても、均一な製膜ができる点で好ましい。
ここで、前記融点は、示差熱分析装置(DSC)などにより測定することができる。
【0023】
<<<<ポリエステル樹脂>>>>
前記ポリエステル類(以下、「ポリエステル樹脂」と称する。)は、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子化合物の総称を意味する。したがって、前記結晶性ポリマーとして好適な前記ポリエステル樹脂としては、前記例示したPET(ポリエチレンテレフタエレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPT(ポリペンタメチレンテレフタレート)、PHT(ポリヘキサメチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PES(ポリエチレンサクシネート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)だけでなく、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合反応によって得られる高分子化合物が全て含まれる。
【0024】
前記ジカルボン酸成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、オキシカルボン酸、多官能酸などが挙げられる。
【0025】
前記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられ、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
【0026】
前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、エイコ酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。前記脂環族ジカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。前記オキシカルボン酸としては、例えば、p−オキシ安息香酸などが挙げられる。前記多官能酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。前記脂肪族ジカルボン酸及び脂環族ジカルボン酸の中では、コハク酸、アジピン酸、シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく、コハク酸、アジピン酸がより好ましい。
【0027】
前記ジオール成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪族ジオール、脂環族ジオール、芳香族ジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコールなどが挙げられ、中でも、脂肪族ジオールが好ましい。
【0028】
前記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられ、中でも、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールが特に好ましい。前記脂環族ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。前記芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどが挙げられる。
【0029】
前記ポリエステル樹脂の溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜700Pa・sが好ましく、70〜500Pa・sがより好ましく、80〜300Pa・sが特に好ましい。前記溶融粘度が大きいほうが延伸時にボイド(空洞)を発現しやすいが、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、製膜時に押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定したりする点で好ましい。また、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、破断しづらくなる点で好ましい。また、前記溶融粘度が50〜700Pa・sであると、製膜時にダイヘッドから吐出される溶融膜の形態が維持しやすくなって、安定的に成形できたり、製品が破損しにくくなったりするなど、物性が高まる点で好ましい。
【0030】
前記ポリエステル樹脂の極限粘度(IV)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.4〜1.2が好ましく、0.6〜1.0がより好ましく、0.7〜0.9が特に好ましい。前記極限粘度が大きいほうが延伸時にボイドを発現しやすいが、前記極限粘度が0.4〜1.2であると、製膜時に押出しがしやすくなったり、樹脂の流れが安定して滞留が発生しづらくなり、品質が安定したりする点で好ましい。さらに、前記極限粘度が0.4〜1.2であると、延伸時に延伸張力が適切に保たれるために、均一に延伸しやすくなり、装置に負荷がかかりにくい点で好ましい。加えて、前記極限粘度が0.4〜1.2であると、製品が破損しにくくなって、物性が高まる点で好ましい。
【0031】
前記ポリエステル樹脂の融点としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、耐熱性や製膜性などの観点から、150〜300℃が好ましく、180〜270℃がより好ましい。
【0032】
なお、前記ポリエステル樹脂として、前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分とが、それぞれ1種で重合してポリマーを形成していてもよく、前記ジカルボン酸成分及び/又は前記ジオール成分が、2種以上で共重合してポリマーを形成していてもよい。また、前記ポリエステル樹脂として、2種以上のポリマーをブレンドして使用してもよい。
【0033】
前記2種以上でのポリマーのブレンドにおいて、主たるポリマーに対して添加されるポリマーは、前記主たるポリマーに対して、溶融粘度及び極限粘度が近く、添加量が少量であるほうが、製膜時や溶融押出し時に物性が高まり、押出ししやすくなる点で好ましい。
【0034】
また、前記ポリエステル樹脂の流動特性の改良、光線透過性の制御、塗布液との密着性の向上などを目的として、前記ポリエステル樹脂に対してポリエステル系以外の樹脂を添加してもよい。
【0035】
<<<その他の成分>>>
前記その他の成分としては、耐熱安定剤、酸化防止剤、有機の易滑剤、核剤、染料、顔料、分散剤、カップリング剤、蛍光増白剤などが挙げられる。
【0036】
前記酸化防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知のヒンダードフェノール類を添加してもよい。前記ヒンダードフェノール類としては、例えば、イルガノックス1010(チバ・ジャパン株式会社製)、同スミライザーBHT(住友化学株式会社製)、同スミライザーGA−80(住友化学株式会社製)などの商品名で市販されている酸化防止剤が挙げられる。
また、前記酸化防止剤を一次酸化防止剤として利用し、さらに二次酸化防止剤を組み合わせて適用することもできる。前記二次酸化防止剤としては、例えば、スミライザーTPL−R、同スミライザーTPM、同スミライザーTP−D(以上、住友化学株式会社製)などの商品名で市販されている酸化防止剤が挙げられる。
【0037】
前記蛍光増白剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばユビテックOB−1、ユビテックTBO(以上、チバ・ジャパン株式会社製)、ケイコール(日本曹達株式会社製)、カヤライト(日本化薬株式会社製)、リューコプアEGM(クラリアントジャパン社製)などの商品名で市販されているものを用いることができる。なお、前記蛍光増白剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。このように蛍光増白剤を添加することで、より鮮明で青味のある白色性を与え、高級感を持たせることができる。
【0038】
<<空洞含有樹脂フィルムの組成による特性>>
前記空洞含有樹脂フィルムは、従来のボイド(空洞)形成技術においてボイドを形成するために添加されていた無機系微粒子、相溶しない樹脂などの空洞形成剤を特に添加しなくても、結晶性ポリマーのみから、簡便な工程でボイドを形成させることができる。このため、前記空洞含有樹脂フィルムを有する本発明の空洞含有有機樹脂積層フィルムは、コスト性、製造性に優れたものであり、また、リサイクル性にも優れるという利点を有する。さらに、製造において、不活性ガスを予め樹脂の中に溶け込ませるための特殊な設備も必要としない。なお、前記空洞含有樹脂フィルムの製造方法は、後述する製造方法の項目に記載の通りである。
【0039】
さらに、前記空洞含有樹脂フィルムは、後述する空洞を含有しつつも、空洞を発現するための無機系微粒子、相溶しない樹脂、不活性ガスなどが添加されていないため、優れた表面平滑性を有している。
前記空洞含有樹脂フィルムの表面平滑性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、Ra=0.3μm以下が好ましく、Ra=0.25μm以下がより好ましく、Ra=0.1μm以下が特に好ましい。
【0040】
<<空洞>>
前記空洞含有樹脂フィルムは、長尺状の空洞を、その長さ方向が一方向に配向した状態で内部に含有し、前記空洞の空洞含有率及びアスペクト比に特徴を有している。
前記空洞とは、前記空洞含有樹脂フィルム内部に存在する、真空状態のドメイン又は気相のドメインを意味する。
【0041】
<<<空洞含有率>>>
前記空洞含有率とは、空洞含有樹脂フィルムの固相部分の総体積と含有される空洞の総体積との和に対する、前記含有される空洞の総体積の割合を意味する。
前記空洞含有率としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、3〜50体積%以下が好ましく、5〜40体積%がより好ましく、10〜30体積%が特に好ましい。
ここで、前記空洞含有率は、例えば、比重を測定し、前記比重に基づいて算出することができる。
具体的には、前記空洞含有率は、下記の(1)式により求めることができる。
空洞含有率(体積%)={1−(延伸後の空洞含有樹脂フィルムの密度)/(延伸前のポリマー成形体の密度)}×100 ・・・(1)
【0042】
<<<アスペクト比>>>
前記アスペクト比とは、空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比を意味する。
前記アスペクト比としては、10以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、15以上が好ましく、20以上がより好ましい。
前記アスペクト比が10以上であると、前記空洞含有樹脂フィルムを有する本発明の空洞含有有機樹脂積層フィルムの遮光性を増大させることができる点で、有利である。
【0043】
図2A〜2Cは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aは、空洞含有樹脂フィルムの斜視図であり、図2Bは、図2Aにおける空洞含有樹脂フィルムのA−A’断面図であり、図2Cは、図2Aにおける空洞含有樹脂フィルムのB−B’断面図である。
【0044】
前記空洞含有樹脂フィルムの製造工程において、前記空洞は、通常、第一の延伸方向に沿って配向する。したがって、前記「空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さ(r(μm))」は、空洞含有樹脂フィルム1の表面1aに垂直で、かつ、第一の延伸方向に直角な断面(図2AにおけるA−A’断面)における空洞100の平均の厚みr(図2B参照)に相当する。また、「前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さ(L(μm))」は、空洞含有樹脂フィルム1の表面1aに垂直で、かつ、前記第一の延伸方向に平行な断面(図2AにおけるB−B’断面)における空洞100の平均の長さL(図2C参照)に相当する。
【0045】
なお、前記第一の延伸方向とは、延伸が1軸のみの場合には、その1軸の延伸方向を示す。通常は、製造時に成形体の流れる方向に沿って縦延伸を行うため、この縦延伸の方向が前記第一の延伸方向に相当する。
また、延伸が2軸以上の場合には、空洞形成を目的とした延伸方向のうち少なくとも1方向を示す。通常は、2軸以上の延伸においても、製造時に成形体の流れる方向に沿って縦延伸が行われ、かつ、この縦延伸により空洞を形成することが可能であるため、この縦延伸の方向が前記第一の延伸方向に相当する。
【0046】
ここで、空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さ(r(μm))は、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像などにより測定することができる。同様に、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さ(L(μm))は、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像などにより測定することができる。
【0047】
<<<空洞含有樹脂フィルム表面付近について>>>
さらに、前記空洞含有樹脂フィルムは、フィルム表面だけでなく、フィルム表面から所定の距離においても空洞が形成されていないことを特徴とする。
即ち、前記空洞含有樹脂フィルムにおける、前記空洞の配向方向に直交する断面において、前記空洞の中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離が最も短い10個の前記空洞について、各中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離h(i)を算出し、算出された各前記距離h(i)の算術平均値h(avg)が、次式、h(avg)>T/100、の関係を満たす。
但し、Tは、前記断面における厚みの算術平均値を表し、10個の前記空洞は、前記厚み方向に平行な任意の一の直線と、前記一の直線に対し平行でかつ20×Tだけ離れて位置する他の直線とで挟まれた領域内に存在する空洞の中から選択される。
【0048】
前記「空洞の中心」とは、前記断面における空洞の断面形状が、真円である場合にはその中心を意味し、それ以外の形状の場合には、例えば、最大二乗中心法により任意に設定した基準円からの偏差の二乗和が最小となる円の中心を決定し、これを空洞の中心とする。
前記「空洞含有樹脂フィルムの表面」とは、厚み方向における、空洞含有樹脂フィルムの最外面を意味する。通常、前記空洞含有樹脂フィルムを載置したときの上面を意味する。
【0049】
具体的には、例えば、空洞含有樹脂フィルムの表面に垂直で、かつ、縦延伸方向に直角な断面(図2D参照)を、走査型電子顕微鏡を用いて300〜3,000倍の適切な倍率で検鏡し、断面写真を撮像する。前記断面写真内において、厚みの算術平均値Tを算出する。厚みの算術平均値Tとして、ロングレンジ接触式変位計などを用いて測定された厚さを用いてもよい。
次に、前記断面写真内において、厚み方向に平行な任意の一の直線を描画し、さらに、前記一の直線に対し平行でかつ20×Tだけ離れて位置する他の直線を描画する。
そして、断面写真内の各空洞において、最大二乗中心法により任意に設定した基準円からの偏差の二乗和が最小となる円の中心を決定し、これを空洞の中心とする。
そして、前記一の直線と前記他の直線とで挟まれた領域内において、空洞の中心から空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離が最も短い10個の空洞を選択する。なお、前記「空洞の中心から空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離」は、前記「空洞の中心」を中心とした円を描画する際に、描画する円の半径を順次大きくし、円弧が最初に空洞含有樹脂成形体の表面に接したときの円の半径とする。
そして、選択した10個の空洞について、各中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離h(i)を算出し、算出された各前記距離h(i)の算術平均値h(avg)を下記(2)式により算出する。
h(avg)=(Σh(i))/10 ・・・(2)
なお、前記「各中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離h(i)」は、前記空洞含有樹脂フィルムが、湾曲していたり、応力がかかっていたりすると、正確に測定することができないため、測定の際には平面状に載置した状態で測定することが好ましい。
なお、図2Dは空洞の各中心から空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離h(i)を具体的に説明するための図であって、図2Aにおける空洞含有樹脂フィルムのA−A’断面図である。
前記空洞含有樹脂フィルムは、このように、空洞を含有しつつも、空洞含有樹脂フィルムの表面近くに空洞が形成されていないため、優れた表面平滑性を有している。
【0050】
<<<空洞に関するその他の特性について>>>
前記空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均の個数Pとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、5個以上が好ましく、10個以上がより好ましく、15個以上が特に好ましい。
【0051】
前記空洞含有樹脂フィルムの製造工程において、前記空洞は、通常、第一の延伸方向に沿って配向する。したがって、前記「空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の個数」は、空洞含有樹脂フィルム1の表面1aに垂直で、かつ、第一の延伸方向に直角な断面(図2AにおけるA−A’断面)において、膜厚方向に含まれる空洞100の個数に相当する。
ここで、前記空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均の個数Pは、光学顕微鏡や電子顕微鏡の画像などにより測定することができる。
【0052】
結晶性ポリマー層と空洞層との屈折率差ΔNは、具体的には、波長400〜800nmから選択される1つの波長の光に対する結晶性ポリマー層の屈折率をN1として、前記選択される1つの波長の光に対する空洞層の屈折率をN2とした際に、N1とN2との差であるΔN(=N1−N2)の値を意味する。ここで、より具体的には、結晶性ポリマー層の屈折率N1は、別途押し出し成形した、前記空洞含有樹脂フィルムと同じ種類の結晶性ポリマーからなり、空洞を含有しない樹脂フィルムを用いるか、あるいは前記空洞含有樹脂フィルムそのものをアッベ屈折計により測定することができる。なお、前記空洞含有樹脂フィルムにおける空洞部分の屈折率は、空洞を形成したフィルムを水中で切断した際に発生する気泡を分析した結果、空気であることが認められたため、空洞層の屈折率は空気の屈折率=N2の屈折率=1とすることができる。これらの差を算出し、ΔN(=N1−N2)を求めることができる。また、前記屈折率N1、N2は、波長589nmの光について測定することが好ましい。
【0053】
<<空洞含有樹脂フィルムの製造方法>>
前記空洞含有樹脂フィルムは、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0054】
前記空洞含有樹脂フィルムは、少なくともポリマー成形体を延伸(例えば、2倍〜8倍に延伸)し、空洞を形成させることにより製造することができる。
なお、前記ポリマー成形体とは、前記結晶性ポリマーのみからなり、特に空洞を含有していないものを示し、例えば、ポリマーフィルム、ポリマーシートなどが挙げられる。
前記ポリマー成形体の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性ポリマーがポリエステル樹脂である場合には、溶融製膜方法などにより好適に製造することができる。また、前記ポリマー成形体の製造は、前記ポリマー成形体の延伸とは独立に行ってもよく、連続的に行ってもよい。
【0055】
前記空洞含有樹脂フィルムの製造においては、前記ポリマー成形体が少なくとも1軸に延伸される。そして、前記延伸により、ポリマー成形体が延伸されるとともに、その内部に第一の延伸方向に沿って配向した空洞が形成されることで、空洞含有樹脂フィルムが得られる。
【0056】
延伸により空洞が形成される理由としては、前記ポリマー成形体を構成する少なくとも1種類の結晶性ポリマーが、複数種類の結晶状態からなり、延伸時に伸張し難い結晶を含む相で、硬い結晶間の樹脂が引きちぎられるような形で剥離延伸されることにより、これが空洞形成源となって空洞が形成されるものと考えられる。
なお、このような延伸による空洞形成は、結晶性ポリマーが1種類の場合だけではなく、2種類以上の結晶性ポリマーが、ブレンド又は共重合されている場合であっても可能である。
【0057】
<<<延伸の方法>>>
前記延伸の方法としては、特に制限はなく、例えば、1軸延伸、逐次2軸延伸、同時2軸延伸が挙げられるが、いずれの延伸方法においても、製造時に成形体の流れる方向に沿って縦延伸が行われることが好ましい。
【0058】
一般に、縦延伸においては、ロールの組合せやロール間の速度差により、縦延伸の段数や延伸速度を調節することができる。
前記縦延伸の段数としては、1段以上であれば特に制限はないが、より安定して高速に延伸することができる点及び製造の歩留まりや機械の制約の点から、2段以上に縦延伸することが好ましい。また、2段以上に縦延伸することは、1段目の延伸によりネッキングの発生を確認したうえで、2段目の延伸により空洞を形成させることができる点においても、有利である。
【0059】
<<<延伸速度>>>
前記縦延伸の延伸速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜36,000mm/minが好ましく、800〜24,000mm/minがより好ましく、1,200〜12,000mm/minが特に好ましい。前記延伸速度が、10mm/min以上であると、充分なネッキングを発現させやすい点で好ましい。また、前記延伸速度が、36,000mm/min以下であると、均一な延伸がしやすくなり、樹脂が破断しづらくなり、高速延伸を目的とした大型な延伸装置を必要とせずにコストを低減できる点で好ましい。したがって、前記延伸速度が、10〜36,000mm/minであると、充分なネッキングを発現させやすく、かつ、均一な延伸がしやすくなり、樹脂が破断しづらくなり、高速延伸を目的とした大型な延伸装置を必要とせずにコストを低減できる点で好ましい。
【0060】
より具体的には、1段延伸の場合の延伸速度としては、1,000〜36,000mm/minが好ましく、1,100〜24,000mm/minがより好ましく、1,200〜12,000mm/minが特に好ましい。
【0061】
2段延伸の場合には、1段目の延伸を、ネッキングを発現させることを主なる目的とした予備的な延伸とすることが好ましい。前記予備的な延伸の延伸速度としては、10〜300mm/minが好ましく、40〜220mm/minがより好ましく、70〜150mm/minが特に好ましい。
【0062】
そして、2段延伸における、前記予備的な延伸(1段目の延伸)によりネッキングを発現させた後の2段目の延伸速度は、前記予備的な延伸の延伸速度と変えることが好ましい。前記予備的延伸によりネッキングを発現させた後の、2段目の延伸速度としては、600〜36,000mm/minが好ましく、800〜24,000mm/minがより好ましく、1,200〜15,000mm/minが特に好ましい。
【0063】
<<<延伸温度>>>
延伸時の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、
延伸温度をT(℃)、ガラス転移温度をTg(℃)としたときに、
(Tg−30)(℃)≦T(℃)≦(Tg+50)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することが好ましく、
(Tg−25)(℃)≦T(℃)≦(Tg+50)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することがより好ましく、
(Tg−20)(℃)≦T(℃)≦(Tg+50)(℃)
で示される範囲の延伸温度T(℃)で延伸することが特に好ましい。
【0064】
一般に、延伸温度(℃)が高いほど延伸張力も低めに抑えられて容易に延伸できるが、前記延伸温度(℃)が、{ガラス転移温度(Tg)−30}℃以上、{ガラス転移温度(Tg)+50}℃以下であると、空洞含有率が高くなり、アスペクト比が10以上になりやすく、かつ、充分に空洞が発現する点で好ましい。
ここで、前記延伸温度T(℃)は、例えば、非接触式温度計により測定することができる。また、前記ガラス転移温度Tg(℃)は、例えば、示差熱分析装置(DSC)により測定することができる。
【0065】
なお、前記延伸において、空洞の発現の妨げにならない範囲で、横延伸はしてもよく、しなくてもよい。また、横延伸をする場合には、横延伸を利用してフィルムを緩和させたり、熱処理を行ったりしてもよい。
また、延伸後の空洞含有樹脂フィルムは、形状安定化などの目的で、さらに熱を加えて熱収縮させたり、張力を加えたりする等の処理をしてもよい。
【0066】
<<<製造方法の一例>>>
図1は、空洞含有樹脂フィルムの製造方法の一例を示す図であって、二軸延伸フィルム製造装置の斜視図である。
図1に示すように、原料樹脂11は、押出機12(原料形状や、製造規模によって、二軸押出機を用いたり、単軸押出し機を用いたりする)内部で熱溶融、混練された後、Tダイ13から柔らかい板状(フィルム又はシート状)に吐出される。
次に、吐出されたフィルム又はシートFは、キャスティングロール14で冷却固化されて、製膜される。製膜されたフィルム又はシートF(「ポリマー成形体」に相当する)は、縦延伸機15に送られる。
そして、製膜されたフィルム又はシートFは、縦延伸機15内で再び加熱され、速度の異なるロール15a間で、縦に延伸される。この縦延伸により、フィルム又はシートFの内部に延伸方向に沿って空洞が形成される。そして、空洞が形成されたフィルム又はシートFは、横延伸機16の左右のクリップ16aで両端を把持されて、巻取機側(図示せず)へ送られながら横に延伸されて、空洞含有樹脂フィルム(空洞含有樹脂成形体)1となる。なお、前記工程において、縦延伸のみを行ったフィルム又はシートFを横延伸機16に供さず、空洞含有樹脂フィルム(空洞含有樹脂成形体)1として使用してもよい。
【0067】
<保護層>
前記保護層は、前記空洞含有樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられている。また、前記保護層は、空洞含有樹脂フィルムの少なくとも一方の面に熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化可能な膜形成組成物を塗布し、乾燥した後、前記熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化して形成される。
硬度の高い保護層を形成することにより、空洞含有樹脂積層フィルムの強度、耐久性、取り扱い性を改善できる。
【0068】
<<膜形成組成物>>
本発明の膜形成組成物は、熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化可能な素材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、主バインダーに、必要に応じて、重合開始剤、添加剤などを加えた組成物などが挙げられる。
【0069】
<<<主バインダー>>>
前記主バインダーは、熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化可能な素材であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
熱により硬化可能な素材としては、一般的な熱硬化性樹脂、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アミノ樹脂、シリコーン系素材などが挙げられる。特に、三次元架橋したシロキサン結合を有するシリコーン樹脂は、架橋密度が高いために、高硬度の膜が形成可能である。また、熱重合開始剤あるいは光重合開始剤と併用することにより、ラジカル重合可能な二重結合を有するアクリル基又はメタクリル基を有するモノマー、オリゴマーが使用できる。モノマーとしてはジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートなどの多官能のモノマーが好ましい。また、アクリル基あるいはメタクリル基を有するウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレートなどのオリゴマーも好ましい。また、スチレン、ジビニルベンゼン、アリルベンゼン、ジアリルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート類、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)なども好ましい。
前記主バインダーは、硬化反応が容易に行えること、及び高い膜硬度が得られる点から、重合可能な複数の二重結合を有する、モノマー及びオリゴマーの少なくともいずれかを含有することが好ましい。
【0070】
<<<重合開始剤>>>
前記重合開始剤としては、例えば、ラジカル重合可能な二重結合を有するモノマー、オリゴマーの重合に通常使用される熱重合開始剤又は光重合開始剤が使用できる。
熱重合開始剤の例としては、有機化酸化物、アゾ系化合物などが使用できる。
有機化酸化物としては、例えば、ケトンパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、パーオキシジカーボネート類などが挙げられる。具体的には、ジブチルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジラウリルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどが好ましい。
アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2‘−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]フォルムアミド、2,2‘−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)などが好ましい。
光重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、クロロアセトフェノン、アシルフォスフィンオキシド、2−エチルアントラキノン、ベンジルメチルケタール、アシルフォスフィンオキサイド、その他にトリアジン骨格を有するハロゲン化炭化水素、オキサジアゾール骨格を有するハロゲン化炭化水素化合物、フェニルアクリジン誘導体、ケトン化合物、ケトオキシム化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール、芳香族オニウム塩、ケトオキシムエーテル、チタノセン系化合物等が挙げられる。
前記重合開始剤の添加量は、前記膜形成組成物に対して通常0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0071】
<<<添加剤>>>
前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機物質あるいは有機物質からなるフィラーなどが挙げられる。
前記フィラーによれば、膜の機械的、熱的物性あるいは、表面物性を改善することができる。フィラーの種類としては、無機物質の場合、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの微粒子が挙げられる。有機物質の場合、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ベンゾグアナミン・フォルムアルデヒド樹脂、メラミン・フォルムアルデヒド樹脂からなる微粒子などが好ましい。特に、架橋ポリメチルメタクリレート樹脂、架橋ポリスチレン樹脂が好ましい。
前記フィラーの添加量は膜形成組成物全固形分中の10〜70質量%が好ましい。添加量が10質量%未満では、フィラー添加による膜物性改善効果が得られない。添加量が70質量%を超えると、膜の脆性が悪化する恐れがある。
また、膜形成組成物を塗布する際に、良好な表面状態を得るために、塗布助剤として界面活性剤を添加することが好ましい。前記界面活性剤は、アニオン型、ノニオン型、カチオン型、ベタイン型、のいずれでもよく、使用する膜形成組成物の性質を考慮して選択できる。前記界面活性剤の添加量は、膜形成組成物中の0.01〜5質量%が好ましい。
【0072】
<<保護層の膜厚>>
前記保護層の膜厚は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、目標とする硬度、耐傷性などの耐久性を考慮して決定してもよい。通常使用する膜厚は0.1〜20μmが好ましく、0.5〜15μmがより好ましい。膜厚が0.1μm未満の場合には、保護層としての十分な機械的強度が得られないことがある。膜厚が20μmを超える場合には、保護層の内部応力が強大となり、カール等の変形を生じることがある。
【0073】
<その他の層>
前記その他の層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0074】
例えば、保護層と空洞含有樹脂フィルムとの接着強度を改善する目的で、空洞含有樹脂フィルム上に易接着層を設け、その上に保護層を設けてもよい。
前記易接着層に使用される素材としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレンブタジエン樹脂などのポリエステルフィルムとの接着強度の大きいバインダーが好ましい。必要に応じて、架橋剤、界面活性剤などの塗布助剤を用いてもよい。
前記易接着層は、例えば、前記主バインダー、架橋剤、塗布助剤などを溶剤に溶解し、バーコーター、スリットコーターなどで塗布、乾燥することにより、得ることができる。
前記溶剤としては、前記易接着層に使用する素材を溶解できるものであれば特に限定されない。例えば、メチルエチルケトン、トルエン、アセトン、酢酸メチル、シクロヘキサノン、エチルセロソルブ、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが好ましい。また、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、スチレンブタジエン樹脂の水分散物あるいはエマルション等を使用する場合、水性塗布液とすることも可能である。
【0075】
<空洞含有樹脂積層フィルムの特性>
上述のようにして得られた空洞含有樹脂積層フィルムは、空洞含有樹脂フィルムの内部に微小な気泡(前記空洞)を有することにより、断熱性、クッション性に優れ、高い反射率などの光学的性質を有するとともに、空洞含有樹脂フィルムの表面に硬度の高い保護層を有することにより、強度、耐久性、取り扱い性に優れている。
【0076】
(空洞含有樹脂積層フィルムの製造方法)
本発明の空洞含有樹脂積層フィルムの製造方法は、少なくとも保護層形成工程を含み、さらに必要に応じて、その他の工程を含む。
【0077】
<保護層形成工程>
前記保護層形成工程は、空洞含有樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化可能な膜形成組成物を塗布し、乾燥した後、前記熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化させて保護層を形成する工程である。
例えば、前記保護層形成工程は、膜形成組成物の溶液を、バーコーター、スリットコーター、ロールコーター、グラビアコーターなどの塗布機により、前記空洞含有樹脂フィルムの表面に塗布し、乾燥した後、熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかの照射により硬化することにより行われる。加熱硬化温度、時間あるいは活性エネルギー線の線源の種類、波長、照射時間は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、使用する膜形成組成物の特性、重合開始剤の特性などに合わせて選択することができる。
【0078】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0080】
(実施例1)
極限粘度(IV)=0.72であるPBT(ポリブチレンテレフタレート100%樹脂、ポリエステル類)を、溶融押出機を用いて245℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚さ約120μmのポリマーフィルム(ポリマー成形体)を得た。このポリマーフィルム(ポリマー成形体)を1軸延伸(縦延伸)した。
具体的には、40℃の加温雰囲気下で、100mm/minの速度で1軸延伸し、ネッキングが発生したことを確認した後、6,000mm/minの速度で、はじめと同一方向にさらに1軸延伸し、80μm厚の空洞含有樹脂フィルムを得た。
この空洞含有樹脂フィルムの一方の表面に、下記処方の易接着層形成組成物1を、バーコーターにて塗布し、130℃で5分乾燥することにより、膜厚0.1μmの易接着層を設けた。
<易接着層形成組成物1>
バイロナールMD1245(東洋紡製) 2質量部
(ポリエステルラテックス)
カルボジライトV02−L2(日清紡製) 1質量部
(カルボジイミド架橋剤)
ナローアクティーHN100(三洋化成工業製) 0.3質量部
(界面活性剤)
水 96.7質量部
得られた易接着層の表面に、下記処方の膜形成組成物1を、バーコーターにて塗布し、130℃で2分乾燥し、膜厚8μmの塗布層を得た。この塗布層に120W/cmのエネルギーの高圧水銀灯を用いて照射距離150mmにて約30秒間照射し、塗布層を硬化することにより、表面に保護層を有する空洞含有樹脂積層フィルムを得た。
<膜形成組成物1>
アロニックスM−405(東亞合成製) 45質量部
(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物)
アロニックスM−350(東亞合成製) 14質量部
(トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリアクリレート)
光重合開始剤イルガキュア184(チバスペシャリティーケミカル製)1.2質量部
界面活性剤メガファックF780F(大日本化学製) 0.1質量部
溶剤メチルエチルケトン 40質量部
【0081】
(実施例2)
上述の実施例1において、膜形成組成物1に代えて、下記処方の膜形成組成物2を用いて保護層を形成した以外は、同様の方法にて空洞含有樹脂積層フィルムを得た。
<膜形成組成物2>
KAYANOVA FOP−1700(日本化薬製)
【0082】
(実施例3)
上述の実施例1において、易接着層形成組成物1に代えて下記処方の易接着層形成組成物2を用いて易接着層を形成し、膜形成組成物1に代えて下記処方の膜形成組成物3を用い、紫外線硬化に代えて熱硬化させた以外は、同様にして空洞含有樹脂積層フィルムを得た。熱硬化は、120℃、15秒の乾燥後、150℃、2分間の条件で実施した。
<易接着層形成組成物2>
タケラックWS4000(三井化学製) 2質量部
(ポリウレタンラテックス)
ナローアクティーHN100(三洋化成工業製) 0.1質量部
(界面活性剤)
水 97.9質量部
<膜形成組成物3>
熱硬化型シリコーンハードコートSHC900
(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製)
【0083】
(実施例4)
上述の実施例1において、ポリマーフィルム(ポリマー成形体)の厚さを約50μmとしたこと、延伸温度を30℃としたこと、2段目の延伸速度を12,000mm/minとしたこと以外は、実施例1と同様にして、空洞含有樹脂積層フィルムを得た。
【0084】
(実施例5)
上述の実施例1において、空洞含有樹脂フィルムが、以下に記載の方法で作製された以外は、実施例1と同様にして、空洞含有樹脂積層フィルムを得た。
<空洞含有樹脂フィルムの作製法>
アイソタクティック ポリプロピレン(ポリプロピレン100%樹脂、Aldrich社製、重量平均分子量19万、数平均分子量5万、MFI:35g/10min(ASTM D1238、230℃・2.16kg)、Tm:170〜175℃)を、溶融押出機を用いて210℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて、厚さ約150μmのポリマーフィルム(ポリマー成形体)を得た。このポリマーフィルムを35℃の加温雰囲気下で、12,000mm/minの速度で、1段で1軸延伸し、50μm厚の空洞含有樹脂フィルムを得た。
【0085】
(比較例1)
下記処方からなる原料組成物を溶融押出機を用いて295℃でTダイから押出し、キャスティングドラムで固化させて1,100μmの重合体混合物からなる未延伸シートを得た。この未延伸シートを80℃で3.2倍に縦延伸を行った後、テンターにて130℃で2.5倍に横延伸し、さらにテンターにて225℃で1.5倍に横延伸した。その後、235℃で3.5%の熱緩和処理を施すことにより、フィルム内部に多数の空洞を含有する空洞含有樹脂フィルムを得た(厚み:約100μm)。易接着層、保護層は設けられていない。
<原料組成物>
ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度:0.61) 74質量%
一般用ポリスチレン樹脂(PS)
[三井東圧化学(株)製 T575−57U] 21質量%
マレイミド変性ポリスチレン樹脂(M−PS)
[三井東圧化学(株)製 NH1200] 2質量%
アナターゼ型二酸化チタン(平均粒径0.35μm)
[富士チタン(株)製 TA−300] 3質量%
【0086】
(比較例2)
実施例1において、易接着層、保護層を設けないこと以外は、同様にして、空気含有樹脂フィルムとした。
【0087】
(厚さの測定方法)
キーエンス社製、ロングレンジ接触式変位計AF030(測定部)、AF350(指示部)を用い、上述の実施例1〜5、比較例1,2の空洞含有樹脂フィルムの厚さを測定した。
【0088】
(空洞含有率の測定方法)
実施例1〜5、比較例1,2の空洞含有樹脂フィルムの比重を測定し、この比重に基づいて空洞含有率を算出した。
具体的には、空洞含有率を下記の(1)式により算出した。
空洞含有率(体積%)={1−(延伸後の空洞含有樹脂フィルムの密度)/(延伸前のポリマー成形体の密度)}×100 ・・・(1)
【0089】
(アスペクト比の測定方法)
空洞含有樹脂フィルムの表面に垂直で、かつ、縦延伸方向に直角な断面(図2B参照)と、前記空洞含有樹脂フィルムの表面に垂直で、かつ、前記縦延伸方向に平行な断面(図2C参照)を、走査型電子顕微鏡を用いて300〜3,000倍の適切な倍率で検鏡し、断面写真を撮像した。各断面写真において測定枠をそれぞれ設定した。この測定枠は、その枠内に空洞が50〜100個含まれるように設定した。また、前記走査型電子顕微鏡による検鏡により、空洞が縦延伸方向に沿って配向していることを確認した。
次に、測定枠に含まれる空洞の数を計測し、前記縦延伸方向に直角な断面の測定枠(図2B参照)に含まれる空洞の数をm個、前記縦延伸方向に平行な断面の測定枠(図2C参照)に含まれる空洞の数をn個とした。
そして、前記縦延伸方向に直角な断面の測定枠(図2B参照)に含まれる空洞の1個ずつの厚み(ri)を測定し、その平均の厚さをrとした。また、前記縦延伸方向に平行な断面の測定枠(図2C参照)に含まれる空洞の1個ずつの長さ(Li)を測定し、その平均の長さをLとした。
即ち、r及びLは、それぞれ下記の(3)式及び(4)式で表すことができる。
r=(Σri)/m ・・・(3)
L=(ΣLi)/n ・・・(4)
そして、L/rを算出し、これをアスペクト比とした。
【0090】
(フィルム表面に最も近く位置する空洞からフィルム表面までの距離の測定方法)
空洞含有樹脂フィルムの表面に垂直で、かつ、縦延伸方向に直角な断面(図2D参照)を、走査型電子顕微鏡を用いて300〜3,000倍の適切な倍率で検鏡し、断面写真を撮像した。撮像の際には、前記空洞含有樹脂フィルムを平面状に載置した状態で走査型電子顕微鏡にセットして撮像した。
前記断面写真内において、厚みの算術平均値Tを算出した。各樹脂フィルムにおいて算出された厚みの算術平均値Tは、上記(厚さの測定方法)で測定された厚さ(表1参照)とほぼ同じであった。
次に、前記断面写真内において、厚み方向に平行な任意の一の直線を描画し、さらに、前記一の直線に対し平行でかつ20×Tだけ離れて位置する他の直線を描画した。また、前記走査型電子顕微鏡による検鏡により、空洞が縦延伸方向に沿って配向していることを確認した。
そして、断面写真内の各空洞において、最大二乗中心法により任意に設定した基準円からの偏差の二乗和が最小となる円の中心を決定し、これを空洞の中心とした。
そして、前記一の直線と前記他の直線とで挟まれた領域内において、空洞の中心から樹脂フィルム上面までの距離が最も近い10個の空洞を選択した。なお、前記「空洞の中心から樹脂フィルム上面までの距離」は、前記「空洞の中心」を中心とした円を描画する際に、描画する円の半径を順次大きくし、円弧が最初に樹脂フィルムの表面に接したときの円の半径とした。
そして、選択した10個の空洞について、各中心から前記樹脂フィルムの上面までの距離h(i)を算出し、算出された各前記距離h(i)の算術平均値h(avg)を下記(2)式により算出した。
h(avg)=(Σh(i))/10 ・・・(2)
【0091】
実施例1〜5及び比較例1〜2の空洞含有樹脂(積層)フィルムについての情報を、表1にまとめて示す。
【0092】
【表1】

【0093】
[評価]
実施例1〜5及び比較例1〜2の空洞含有樹脂積層フィルムについて、下記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0094】
(1)鉛筆硬度の評価
往復磨耗試験機トライボギア TYPE:30S(新東科学社製)を用い、JIS K5600−5−4に基づき、移動速度:0.5mm/秒、加重:750gにて鉛筆硬度を測定した。
【0095】
(2)耐傷性の評価
スチールウール#0000を用い、200g/cmの加重をかけて、20往復させ、傷の発生を目視にて以下のように評価した。
○:傷が全く発生しない
△:傷が3〜7本発生する
×:多数の傷が発生する
【0096】
【表2】

【0097】
表2によれば、実施例1〜5の空洞含有樹脂積層フィルムは、鉛筆硬度がHB以上あり、かつ、耐傷性も良好であった。これに対して、比較例1,2の空洞含有樹脂フィルムは、鉛筆硬度が低く耐傷性も弱いため、外部からの圧力により容易に変形し、又は、擦れにより傷が付き、空洞含有樹脂フィルムの性能が損なわれやすい。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の空洞含有樹脂積層フィルムは、内部に微小な気泡を有することによる断熱性、クッション性に優れ、高い反射率などの光学的性質を有する空洞含有樹脂フィルムに対し、その表面硬度を向上することにより、強度、耐久性、取り扱い性を改善した空洞含有樹脂積層フィルムとして、好適に利用可能である。
本発明の空洞含有樹脂積層フィルムの製造方法によれは、本発明の空洞含有樹脂積層フィルムを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、空洞含有樹脂積層フィルムを構成する空洞含有樹脂フィルムの製造方法の一例を示す図であって、二軸延伸フィルム製造装置の斜視図である。
【図2A】図2Aは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、空洞含有樹脂フィルムの斜視図である。
【図2B】図2Bは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aにおける空洞含有樹脂フィルムのA−A’断面図である。
【図2C】図2Cは、アスペクト比を具体的に説明するための図であって、図2Aにおける空洞含有樹脂フィルムのB−B’断面図である。
【図2D】図2Dは、空洞の各中心から空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離h(i)を具体的に説明するための図であって、図2Aにおける空洞含有樹脂フィルムのA−A’断面図である。
【符号の説明】
【0100】
1 空洞含有樹脂フィルム(空洞含有樹脂成形体)
1a 表面
100 空洞
L 空洞の配向方向における空洞の長さ
r 空洞の配向方向に直交する厚み方向における空洞の長さ
h(i) 空洞の中心から空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離
T 空洞の配向方向に直交する断面における厚みの算術平均値


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性を有するポリマーのみからなり、長尺状の空洞をその長さ方向が一方向に配向した状態で内部に含有する空洞含有樹脂フィルムと、
前記空洞含有樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられた保護層と、を有する空洞含有樹脂積層フィルムであって、
前記空洞含有樹脂フィルムにおける、前記空洞の配向方向に直交する断面において、前記空洞の中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離が最も短い10個の前記空洞について、各中心から前記空洞含有樹脂フィルムの表面までの距離h(i)を算出し、算出された各前記距離h(i)の算術平均値h(avg)が、次式、
h(avg)>T/100、の関係を満たし、
[但し、Tは、前記断面における厚みの算術平均値を表し、10個の前記空洞は、前記厚み方向に平行な任意の一の直線と、前記一の直線に対し平行でかつ20×Tだけ離れて位置する他の直線とで挟まれた領域内に存在する空洞の中から選択される。]
かつ、前記空洞の配向方向に直交する厚み方向における前記空洞の平均長さをr(μm)として、前記空洞の配向方向における前記空洞の平均長さをL(μm)とした際のL/r比が10以上であり、
前記保護層は、熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化可能な膜形成組成物を、前記空洞含有樹脂フィルムの少なくとも一方の面に塗布し、乾燥した後、前記熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化して得られる
ことを特徴とする空洞含有樹脂積層フィルム。
【請求項2】
膜形成組成物が、重合可能な複数の二重結合を有する、モノマー及びオリゴマーの少なくともいずれかを含有する請求項1記載の空洞含有樹脂積層フィルム。
【請求項3】
結晶性を有するポリマーが、ポリオレフィン類、ポリエステル類、及び、ポリアミド類から選択される少なくともいずれかである請求項1から2のいずれかに記載の空洞含有樹脂積層フィルム。
【請求項4】
結晶性を有するポリマーが、ポリエステル類である請求項1から3のいずれかに記載の空洞含有樹脂積層フィルム。
【請求項5】
請求項1に記載の空洞含有樹脂積層フィルムを製造する製造方法であって、
空洞含有樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化可能な膜形成組成物を塗布し、乾燥した後、前記熱及び活性エネルギー線の少なくともいずれかにより硬化させて保護層を形成する保護層形成工程を含む
ことを特徴とする空洞含有樹脂積層フィルムの製造方法。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【公開番号】特開2010−70676(P2010−70676A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240713(P2008−240713)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】