説明

空温式液化ガス気化器

【課題】下マニホールド管から全てのフィン付き管への分流を均一化しうる空温式液化ガス気化器を提供する。
【解決手段】空温式液化ガス気化器は、並列状に配置された複数の蒸発ユニットよりなる蒸発部を備えている。各蒸発ユニットは、上下方向に間隔をおいて配置された1対のマニホールド管4と、両マニホールド管4間にマニホールド管4の長さ方向に間隔をおいて配置されかつ上下両端部がそれぞれ上下マニホールド管4に接続された複数のフィン付き管6とよりなる。フィン付き管6内の上部における定常稼働時に液化ガスが気化している部分に、絞り12からなりかつ気化ガスの流れに抵抗を付与する抵抗付与手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空温式液化ガス気化器に関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、図1の上下を上下というものとする。
【背景技術】
【0003】
たとえば天然ガス、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、水素、炭酸ガス、メタン、プロパン、エチレンなどのガスは、輸送時や貯蔵時には、タンクの容量を小さくするために液化した状態で蓄えられている。そして、需要に応じて空温式液化ガス気化器により再気化されて使用されるようになっている。
【0004】
従来、このような空温式液化ガス気化器としては、並列状に配置された複数の蒸発ユニットよりなる蒸発部を備えており、各蒸発ユニットが、上下方向に間隔をおいて配置された1対のマニホールド管と、両マニホールド管間にマニホールド管の長さ方向に間隔をおいて配置されかつ上下両端部がそれぞれ上下マニホールド管に接続された複数のフィン付き管とよりなり、すべての蒸発ユニットが、マニホールド管およびフィン付き管と直交する方向に並列状に配置されており、各蒸発ユニットの下マニホールド管の一端が入口ヘッダ管に接続されるとともに入口ヘッダ管に液化ガス入口管が接続され、上マニホールド管における下マニホールド管の入口ヘッダ管への接続端部とは反対側の端部が出口ヘッダ管に接続されるとともに出口ヘッダ管に気化ガス出口管が接続され、液化ガス入口管から入口ヘッダ管を経て下マニホールド管内に流入した液化ガスが、全てのフィン付き管に分流し、フィン付き管を上昇する間に気化して上マニホールド管内に流入し、気化ガスが出口ヘッダ管を経て気化ガス出口管から流出するようになされたものが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、従来の空温式液化ガス気化器では、各蒸発ユニットにおいて、下マニホールド管から全てのフィン付き管への分流が均一に行われず、次のような問題が生じることが判明した。
【0006】
すなわち、下マニホールド管から全てのフィン付き管への分流が不均一な場合、各フィン付き管内の液面の高さが異なったものとなって各フィン付き管の温度が異なることになる。したがって、各フィン付き管の熱収縮量が異なることになって、一部のフィン付き管に比較的大きな熱応力が発生し、空温式液化ガス気化器の損傷の原因となることがある。また、下マニホールド管から全てのフィン付き管への分流が不均一な場合、各フィン付き管への着霜量および着氷量が不均一になって蒸発性能の差が生じる。したがって、液面の高くなったフィン付き管内の液化ガスが、比較的短時間の間に気化することなく上マニホールド管内に流入し、未気化の液化ガスが出口ヘッダ管を経て気化ガス出口管から流出することになって、空温式液化ガス気化器の連続稼働時間が短くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−156141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の目的は、上記問題を解決し、下マニホールド管から全てのフィン付き管への分流を均一化しうる空温式液化ガス気化器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0010】
1)並列状に配置された複数の蒸発ユニットよりなる蒸発部を備えており、各蒸発ユニットが、上下方向に間隔をおいて配置された1対のマニホールド管と、両マニホールド管間にマニホールド管の長さ方向に間隔をおいて配置されかつ上下両端部がそれぞれ上下マニホールド管に接続された複数のフィン付き管とよりなり、すべての蒸発ユニットが、マニホールド管およびフィン付き管と直交する方向に並列状に配置されている空温式液化ガス気化器であって、
フィン付き管内の上部に、液化ガスが気化して生成した気化ガスの流れに抵抗を付与する抵抗付与手段が設けられている空温式液化ガス気化器。
【0011】
2)抵抗付与手段が、フィン付き管内の上部における定常稼働時に液化ガスが気化している部分に設けられている上記1)記載の空温式液化ガス気化器。
【0012】
3)抵抗付与手段が絞りからなる上記1)または2)記載の空温式液化ガス気化器。
【0013】
4)抵抗付与手段がねじりリボンからなる上記1)または2)記載の空温式液化ガス気化器。
【発明の効果】
【0014】
上記1)〜4)の空温式液化ガス気化器によれば、フィン付き管内の上部に、液化ガスが気化して生成した気化ガスの流れに抵抗を付与する抵抗付与手段が設けられているので、下マニホールド管から多くの液化ガスが流入して多くの気化ガスが発生したフィン付き管においては、抵抗付与手段によって、フィン付き管内を上昇する気化ガスの流れに抵抗が付与され、その結果以降の液化ガスの流入が抑制されることになって、下マニホールド管から全てのフィン付き管への液化ガスの分流が均一化される。したがって、各フィン付き管の温度が均一化され、各フィン付き管の熱収縮量も均一化されて一部のフィン付き管に比較的大きな熱応力が発生することが防止され、空温式液化ガス気化器の損傷が防止される。また、下マニホールド管から全てのフィン付き管への液化ガスの分流が均一化されるので、各フィン付き管への着霜量および着氷量が均一になって蒸発性能の差が小さくなる。したがって、すべてのフィン付き管内を液化ガスが均等に上昇することになり、フィン付き管内の液化ガスが気化することなく上マニホールド管内に流入するまでの時間が長くなって、空温式液化ガス気化器の連続稼働時間を延長することができる。
【0015】
上記3)および4)の空温式液化ガス気化器によれば、比較的簡単に、フィン付き管内に抵抗付与手段を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明による空温式液化ガス気化器の全体構成を示す正面図である。
【図2】図1に示す空温式液化ガス気化器の一部切り欠き平面図である。
【図3】図1のA−A線拡大断面図である。
【図4】図2のB−B線拡大断面図である。
【図5】図1の空温式液化ガス気化器を用いた実験例の結果を示すグラフである。
【図6】従来の空温式液化ガス気化器を用いた比較実験例の結果を示すグラフである。
【図7】フィン付き管に設けられる抵抗付与手段の変形例を示す図4相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0018】
なお、以下の説明において、図1および図2の左右を左右というものとし、図2の下側を前、これと反対側を後というものとする。
【0019】
図1および図2は空温式液化ガス気化器の全体構成を示し、図3および図4はその要部の構成を示す。
【0020】
図1および図2において、空温式液化ガス気化器(1)は、複数の蒸発ユニット(3)を前後方向に間隔をおいて並列状に配置することにより構成された蒸発部(2)を備えている。なお、図示は省略したが、蒸発部(2)は支持部材により支持されている。
【0021】
各蒸発ユニット(3)は、上下方向に間隔をおいて互いに平行に配されかつ左右方向に伸びる1対のマニホールド管(4)(5)と、両マニホールド管(4)(5)間にマニホールド管(4)(5)の長さ方向(左右方向)に間隔をおいて配されかつ上下両端部がそれぞれ上下マニホールド管(4)(5)に溶接により接続された複数のフィン付き管(6)とよりなる。したがって、蒸発部(2)は、複数の蒸発ユニット(3)を、マニホールド管(4)(5)およびフィン付き管(6)と直交する方向に並列状に配置することにより構成されている。
【0022】
すべての蒸発ユニット(3)の下マニホールド管(5)の右端開口はそれぞれ閉鎖されている。また、すべての蒸発ユニット(3)の下マニホールド管(5)の左端部は、マニホールド管(4)(5)およびフィン付き管(6)と直交する方向(前後方向)に伸びかつ両端が閉鎖された入口ヘッダ管(7)に溶接により接続されている。入口ヘッダ管(7)の長さ方向の中央部には液化ガス入口管(8)が溶接により接続されている。
【0023】
すべての蒸発ユニット(3)の上マニホールド管(4)の左端開口はそれぞれ閉鎖されている。また、すべての蒸発ユニット(3)の上マニホールド管(4)の右端部は、マニホールド管(4)(5)およびフィン付き管(6)と直交する方向(前後方向)に伸びかつ両端が閉鎖された出口ヘッダ管(9)にそれぞれ溶接により接続されている。出口ヘッダ管(9)の長さ方向の中央部には気化ガス出口管(11)が溶接により接続されている。
【0024】
図3に示すように、各蒸発ユニット(3)のフィン付き管(6)は、たとえばアルミニウム押出形材からなる横断面円形のものであり、外周面全体に上下方向に伸びる複数のアウターフィン(6a)が周方向に間隔をおいて放射状に一体に形成され、内周面に上下方向に伸びる複数の凸条からなるインナーフィン(6b)が周方向に間隔をおいて一体に形成されたものである。アウターフィン(6a)の上下両端部は、フィン付き管(6)の上下両端部を上下マニホールド管(4)(5)に接続する際の作業性を考慮して所定長さにわたって切除されている。なお、インナーフィン(6b)は必ずしも必要としない。また、図示は省略したが、蒸発部(2)において、前後方向および左右方向に隣接するフィン付き管(6)のアウターフィン(6a)は、上下両端部において連結部材により連結されていてもよい。
【0025】
図4に示すように、各フィン付き管(6)内の上部で、かつ空温式液化ガス気化器(1)の定常稼働時に液化ガスが気化している部分に、液化ガスが気化して生成した気化ガスの流れに抵抗を付与する絞り(12)からなる抵抗付与手段が設けられている。絞り(12)は、円柱状体(13)の中心に貫通穴(14)が形成されたものである。ここで、空温式液化ガス気化器(1)の定常稼働時とは、気化ガス出口管(11)から気化ガスが流出し始めてから、気化ガス出口管(11)から液化ガスが流出するまでをいうものとする。なお、各フィン付き管(6)内のインナーフィン(6b)の上端部は切除されており、インナーフィン(6b)が切除された部分に絞り(12)が配置されている。
【0026】
上記構成の空温式液化ガス気化器(1)において、貯蔵タンクに貯蔵されていた液化ガスは液化ガス入口管(8)を通って入口ヘッダ管(7)内に送り込まれ、入口ヘッダ管(7)から各蒸発ユニット(3)の下マニホールド管(5)内に流入する。下マニホールド管(5)内に流入した液化ガスは全てのフィン付き管(6)に分流し、フィン付き管(6)内を上方に流れる間に気化して上マニホールド管(4)内に流入する。上マニホールド管(4)内に流入した気化ガスは出口ヘッダ管(9)内に送り込まれ、出口ヘッダ管(9)を経て気化ガス出口管(11)から送り出される。
【0027】
そして、下マニホールド管(5)から多くの液化ガスが流入して多くの気化ガスが発生したフィン付き管(6)においては、絞り(12)によって、フィン付き管(6)内を上昇する気化ガスの流れに抵抗が付与され、その結果以降の液化ガスの流入が抑制されることになって、下マニホールド管(5)から全てのフィン付き管(6)への液化ガスの分流が均一化される。したがって、各フィン付き管(6)の温度が均一化され、各フィン付き管(6)の熱収縮量も均一化されて一部のフィン付き管(6)に比較的大きな熱応力が発生することが防止され、空温式液化ガス気化器(1)の損傷が防止される。また、下マニホールド管(5)から全てのフィン付き管(6)への液化ガスの分流が均一化されるので、各フィン付き管(6)への着霜量および着氷量が均一になって蒸発性能の差が小さくなる。したがって、すべてのフィン付き管86)内を液化ガスが均等に上昇することになり、フィン付き管(6)内の液化ガスが気化することなく上マニホールド管(4)内に流入するまでの時間が長くなって、空温式液化ガス気化器(1)の連続稼働時間を延長することができる。
【0028】
なお、上記実施形態の空温式液化ガス気化器(1)において、蒸発部(2)の下流側に加温部が設けられる場合がある。加温部は、気化したガスを加温するものである。
【0029】
次に、上記実施形態の空温式液化ガス気化器(1)を用いて行った実験例について、比較実験例とともに述べる。
【0030】
実験例
図1〜図4に示す態様で、各蒸発ユニット(3)のフィン付き管(6)の数を7本、蒸発ユニット(3)の数を5、各フィン付き管(6)の長さを6mとした空温式液化ガス気化器(1)を使用し、各フィン付き管(6)内の流量が13.5〜20kgとなるように液化天然ガスを液化ガス入口管(8)から供給して、気化ガスを得た。そして、全フィン付き管(6)のうち適当な位置にある複数のフィン付き管(6)の上端部の温度の経時変化を測定した。その結果を図5に示す。
【0031】
また、3時間経過後の外気温と気化ガス出口管(11)から流出する気化ガスの温度との差を測定したところ30.27℃であった。
【0032】
さらに、気化ガス出口管(11)から未気化液化ガスが流出するまでの時間を測定したところ、6時間15分であった。
【0033】
比較実験例
フィン付き管に絞りが設けられていないことを除いては、上記実験例と同じ構成の従来の空温式液化ガス気化器を使用し、各フィン付き管内の流量が13.5〜20kgとなるように液化天然ガスを液化ガス入口管から供給して、気化ガスを得た。そして、全フィン付き管のうち適当な位置にあるフィン付き管の上端部の温度の経時変化を測定した。その結果を図6に示す。
【0034】
また、3時間経過後の外気温と気化ガス出口管から流出する気化ガスの温度との差を測定したところ33.17℃であった。
【0035】
さらに、気化ガス出口管から未気化液化ガスが流出するまでの時間を測定したところ、3時間18分であった。
【0036】
図5および図6に示す結果から、フィン付き管(6)に絞り(12)が設けられている実施形態の空温式液化ガス気化器(1)の場合、フィン付き管に絞り(12)が設けられていない空温式液化ガス気化器に比べて、各フィン付き管(6)の温度のばらつきが少なくなっていることが分かる。したがって、実施形態の空温式液化ガス気化器(6)によれば、下マニホールド管(5)から全てのフィン付き管(6)への液化ガスの分流が均一化されていることがわかる。
【0037】
また、フィン付き管に絞り(12)が設けられている実施形態の空温式液化ガス気化器(1)の場合、フィン付き管に絞り(12)が設けられていない空温式液化ガス気化器に比べて、3時間経過後の外気温と気化ガス出口管から流出する気化ガスの温度との差が小さいので、気化ガス出口管の下流に加温部が設置される場合、加温部の能力を低く抑えることが可能となり、より経済的である。
【0038】
さらに、フィン付き管(6)に絞り(12)が設けられている実施形態の空温式液化ガス気化器(1)の場合、フィン付き管に絞り(12)が設けられていない空温式液化ガス気化器に比べて、フィン付き管(6)内の液化ガスが気化することなく上マニホールド管(4)内に流入するまでの時間が長くなるので、空温式液化ガス気化器の連続稼働時間を延長することができる。
【0039】
図7はフィン付き管に設けられる抵抗付与手段の変形例を示す。
【0040】
図7に示す抵抗付与手段は、ねじりリボン(20)からなる。ねじりリボン(20)は、帯状板を、幅方向の中心を通りかつ長さ方向にのびる直線の周りにねじることにより形成されたものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明による空温式液化ガス気化器は、天然ガス、酸素、窒素、アルゴン、ヘリウム、水素、炭酸ガス、メタン、プロパン、エチレンなどの液化ガスを再気化するのに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0042】
(1):空温式液化ガス気化器
(2):蒸発部
(3):蒸発ユニット
(4)(5):マニホールド管
(6):フィン付き管
(12):絞り(抵抗付与手段)
(20):ねじりリボン(抵抗付与手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列状に配置された複数の蒸発ユニットよりなる蒸発部を備えており、各蒸発ユニットが、上下方向に間隔をおいて配置された1対のマニホールド管と、両マニホールド管間にマニホールド管の長さ方向に間隔をおいて配置されかつ上下両端部がそれぞれ上下マニホールド管に接続された複数のフィン付き管とよりなり、すべての蒸発ユニットが、マニホールド管およびフィン付き管と直交する方向に並列状に配置されている空温式液化ガス気化器であって、
フィン付き管内の上部に、液化ガスが気化して生成した気化ガスの流れに抵抗を付与する抵抗付与手段が設けられている空温式液化ガス気化器。
【請求項2】
抵抗付与手段が、フィン付き管内の上部における定常稼働時に液化ガスが気化している部分に設けられている請求項1記載の空温式液化ガス気化器。
【請求項3】
抵抗付与手段が絞りからなる請求項1または2記載の空温式液化ガス気化器。
【請求項4】
抵抗付与手段がねじりリボンからなる請求項1または2記載の空温式液化ガス気化器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−255670(P2010−255670A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103496(P2009−103496)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(505014052)昭和電工アルミ販売株式会社 (9)
【Fターム(参考)】