説明

空芯コイル及びその巻線方法

【課題】導線22を渦巻き状に巻回して形成される単位コイル部が、巻き軸方向に繰り返し並んでおり、各単位コイル部は、互いに内周長の異なる複数の単位巻部25、26、27から形成され、内周長の大きな単位巻部の内側に内周長の小さな単位巻部の少なくとも一部が押し込まれている空芯コイルにおいて、導線の占積率を従来よりも増大させる。
【解決手段】本発明に係る空芯コイルにおいて、各単位コイル部を形成する複数の単位巻部25、26、27はそれぞれ、複数の角部23aを有する多角形状を呈し、該複数の角部23aはそれぞれ、導線22を鈍角に屈曲させた複数の屈曲部25a、26a、27aと、隣接する屈曲部どうしを繋ぐ1又は複数の連絡部25b、26b、27bとから構成され、各角部23aにおいて、同じ位相位置で互いに重なる複数の屈曲部25a、26a、27aは1本の直線上に並んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のコイル層からなる空芯コイル及びその巻線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図10に示す如く、導線(22)を渦巻き状に巻回してなる単位コイル部(23)が巻き軸方向に繰り返し並んだ空芯コイル(200)が知られている。
【0003】
そして、この様な空芯コイル(200)の巻線方法として、図11(a)の如く、導線を渦巻き状に巻回することにより、互いに異なる内周長を有する第1単位巻部(25)、第2単位巻部(26)及び第3単位巻部(27)を、巻き軸方向に連続して形成すると共に、これら複数の単位巻部(25)(26)(27)からなる単位コイル部を、巻き軸方向に連続して形成して、空芯コイルの中間製品を作製した後、該中間製品を巻き軸方向に圧縮して、図11(b)の如く、第3単位巻部(27)の内側に第2単位巻部(26)の少なくとも一部を押し込むと共に、該第2単位巻部(26)の内側に第1単位巻部(25)の少なくとも一部を押し込むことにより、複数のコイル層(図示する例では3層)からなる空芯コイルの完成品を得る方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
図11(a)に示す中間製品を作製する方法としては、該中間製品の空洞形状に応じた段付きの巻線治具を用いる方法(特許文献1)や、各単位巻部の巻線工程毎に巻芯部材の形態を変化させつつ該巻芯部材の周囲に導線を巻回する自動巻線機が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−86438号公報
【特許文献2】特開2006−339407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の複数のコイル層からなる空芯コイルの巻線方法においては、図8に示す如く巻芯片(30)の角部(30a)を利用して導線を約90度屈曲変形させる工程を繰り返すことにより、前述の空芯コイルを構成する複数の単位巻部(25)(26)(27)の屈曲部(25c)(26c)(27c)を形成するが、同じ巻芯片(30)の角部(30a)によって形成されることとなる複数の屈曲部(25c)(26c)(27c)は、同じ曲率半径の円弧状を呈するため、内周側と外周側の単位巻部の屈曲部間に隙間Gが生じる。
これによって、空芯コイルにおける導線の占積率が低下する問題があった。
【0007】
この問題を解決するために、図9に示す様に、空芯コイルの各角部(23c)において、第1単位巻部(25)、第2単位巻部(26)及び第3単位巻部(27)の屈曲部(25c)(26c)(27c)を、同じ曲率中心Sを有して、内周側から外周側に向かって導線の直径だけ曲率半径が増大する円弧状に形成することが考えられる。
これによって、内周側と外周側の単位巻部の屈曲部どうしが密接し、導線の占積率が増大する。
【0008】
しかしながら、単位巻部毎に角部の円弧形状を変えるためには、図8に示す巻芯片(30)を用いた巻線工程において、角部(30a)の外周面の曲率半径が異なる複数種類の巻芯片(30)を用意し、単位巻部毎に巻芯片(30)を交換する必要があり、この様な巻線工程を自動化することは極めて困難である。
【0009】
そこで本発明の目的は、導線の占積率を従来よりも増大させることが出来る空芯コイル、並びにその様な空芯コイルを容易に製造することが出来る巻線方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る空芯コイルは、少なくとも1本の導線を渦巻き状に巻回して形成される単位コイル部が、巻き軸方向に繰り返し並んでおり、各単位コイル部は、互いに内周長の異なる複数の単位巻部から形成され、内周長の大きな単位巻部の内側に内周長の小さな単位巻部の少なくとも一部が押し込まれている。
ここで、各単位コイル部を形成する複数の単位巻部はそれぞれ、複数の角部を有する多角形状を呈し、該複数の角部はそれぞれ、導線を鈍角に屈曲させた複数の屈曲部と、隣接する屈曲部どうしを繋ぐ1又は複数の連絡部とから構成される。
各単位コイルを構成する複数の単位巻部の角部において、同じ位相位置で互いに重なる複数の屈曲部は、単位コイル部の内側から外側へ向けて延びる1本の直線上に並んでいる。
【0011】
尚、本発明において空芯コイルとは、最終製品としてコイル中央部の空間にコアが存在しないコイルに限らず、最終製品としてコイル中央部の空間にコアが存在するもの(コイル装置)におけるコイルも含む概念である。
【0012】
具体的には、各角部において、複数の単位巻部に形成されて第1の位相位置で重なる複数の屈曲部が並んでいる1本の直線と、複数の単位巻部に形成されて第2の位相位置で重なる複数の屈曲部が並んでいる1本の直線とは、単位コイル部の内側の1点で交わっている。
【0013】
本発明に係る空芯コイルの巻線方法は、上記本発明の空芯コイルの巻線方法であって、前記巻き軸となる回転軸の周囲に、前記多角形状の角部の数に一致する複数の巻芯機構を、前記回転軸を中心として回転駆動可能に配備し、各巻芯機構には、前記巻き軸と交叉する方向に往復駆動可能な複数の巻芯片を装備し、
各巻芯機構の複数の巻芯片を所定位置に設定する第1工程と、
前記複数の巻芯片が所定位置に設定された状態で、前記複数の巻芯機構を回転させることにより、これらの巻芯機構を構成する複数の巻芯片の周囲に導線を巻き付ける第2工程
とを、複数の巻芯片の位置を前記回転軸から離間する方向若しくはその逆方向へ変更しつつ繰り返すことにより、1つの単位コイル部を構成する複数の単位巻部を形成する。
【0014】
具体的には、連続する第1及び第2の単位巻部の形成において、第1の単位巻部の形成後、該単位巻部を、第2の単位巻部となる導線によって複数の巻芯片の外周面から押し出しつつ、第2の単位巻部となる導線を複数の巻芯片の外周面に巻き付けて、第2の単位巻部を形成する。
【0015】
更に具体的には、前記第1工程と第2工程を繰り返すことによって複数の単位コイル部を形成した後、これらの単位コイル部を巻き軸方向に圧縮することにより、内周長の大きな単位巻部の内側に内周長の小さな単位巻部の少なくとも一部を押し込んで、複数のコイル層からなる空芯コイルを完成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る空芯コイルは、各角部が、複数の単位巻部の複数の屈曲部を円弧形状に形成した理想的な構造においてその円弧形状を多角形状(折れ線)により近似したものに相当するので、各角部における屈曲部間のギャップが従来よりも小さくなり、導線の占積率が大きなものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明に係る空芯コイルの正面図である。
【図2】図2は、本発明に係る空芯コイルを製造するための自動巻線機の要部構造と複数の巻芯片の動作を表わす正面図である。
【図3】図3は、本発明者が以前に開発した自動巻線機の要部を示す斜視図である。
【図4】図4は、該自動巻線機において、図3の状態から複数の巻芯軸を移動且つ回転させた状態を示す斜視図である。
【図5】図5は該自動巻線機の要部を示す正面図である。
【図6】図6は図5のA―A線に沿う断面図である。
【図7】図7は、該自動巻線機を用いた巻線工程を示す一連の正面図である。
【図8】図8は、従来の空芯コイルにおいて複数の単位巻部の屈曲部間に形成されるギャップを示す図である。
【図9】図9は、複数の単位巻部の屈曲部を曲率半径の異なる複数の円弧状に形成した理想構造における密接状態を示す図である。
【図10】図10は、従来の空芯コイルの斜視図である。
【図11】図11は、空芯コイルの圧縮工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態につき、図面に沿って具体的に説明する。図1は、本発明に係る空芯コイル(2)を示している。
本発明に係る空芯コイル(2)は、図10に示す空芯コイル(200)と基本的に同一の巻線構造を有しており、図10の如く1本の導線(22)を巻き軸と直交する面に沿って渦巻き状に巻回して形成される単位コイル部(23)が、巻き軸方向に連続して形成され、これによって3層のコイル層からなる空芯コイルが構成されている。
【0019】
図1に示す如く、本発明に係る空芯コイル(2)において、各単位コイル部(23)は、その全体が4つの角部(23a)(23a)(23a)(23a)を有する略四角形に形成され、第1単位巻部(25)は、その略全長が第2単位巻部(26)の内側に押し込まれると共に、第2単位巻部(26)は、その略全長が第3単位巻部(27)の内側に押し込まれている。
【0020】
空芯コイル(2)の各角部(23a)において、第1単位巻部(25)は2つの屈曲部(25a)(25a)を有し、第2単位巻部(26)は2つの屈曲部(26a)(26a)を有し、第3単位巻部(27)は2つの屈曲部(27a)(27a)を有し、各屈曲部の屈曲角度は45度に設定されている。
【0021】
各角部(23a)において、第1単位巻部(25)の2つの屈曲部(25a)(25a)は直線状の連絡部(25b)によって互いに繋がれ、第2単位巻部(26)の2つの屈曲部(26a)(26a)は直線状の連絡部(26b)によって互いに繋がれ、第3単位巻部(27)の2つの屈曲部(27a)(27a)は直線状の連絡部(27b)によって互いに繋がれている。
【0022】
そして、各角部(23a)において、3つの単位巻部(25)(26)(27)の対応する位置関係、即ち同じ位相位置の3つの屈曲部(25a)(26a)(27a)は、一点Pから延びる直線上に一列に並んでいる。
【0023】
この結果、各角部(23a)において、第1単位巻部(25)の導線と第2単位巻部(26)の導線とは、略全長に亘って互いに接触すると共に、第2単位巻部(26)の導線と第3単位巻部(27)の導線とは、略全長に亘って互いに接触している。
【0024】
換言すれば、本発明に係る空芯コイル(2)の角部(23a)は、図9に示す第1単位巻部(25)、第2単位巻部(26)及び第3単位巻部(27)の3つの屈曲部(25c)(26c)(27c)の円弧形状を、2以上の多角形状(折れ線)により近似したものに相当する。これによって、本発明に係る空芯コイル(2)は、図8に示す従来の空芯コイル(200)と図9に示す理想的な空芯コイルとの中間的な構成を有することとなり、各角部における屈曲部間のギャップが従来よりも小さくなる。
この結果、本発明に係る空芯コイル(2)は、図10に示す従来の空芯コイル(200)よりも導線の占積率が大きくなる。
【0025】
本発明に係る空芯コイル(2)は、図3〜図6に示す自動巻線機を改造したものを用いて容易に製造することが出来る。該自動巻線機は、本発明者が以前に開発したものである。先ず図3〜図6に示す自動巻線機について説明する。
【0026】
該自動巻線機は、モータ等の回転駆動機構(図示せず)により図3中に矢印で示す様に反時計回りに回転する中心基軸(20)を有しており、該中心基軸(20)の周囲には、中心基軸(20)と一体に回転する4本の巻芯軸(31)(32)(33)(34)が配備されている。
【0027】
巻芯軸(31)(32)(33)(34)は、中心基軸(20)と一体に回転可能に配備され且つ中心基軸(20)に対して接近、離間可能にスライドするスライドブロック(41)(42)(43)(44)に装着されている。
より具体的には、巻芯軸(31)(32)(33)(34)は、スライドブロック(41)(42)(43)(44)の中心基軸(20)側の角に取り付けられており、先端がスライドブロック(41)(42)(43)(44)から臨出している。
巻芯軸(31)(32)(33)(34)は、中心基軸(20)側が切り欠かれた角柱とすることができ、後述するとおり、スライドブロック(41)(42)(43)(44)を中心基軸(20)に対して平行にスライドさせることにより、巻芯軸(31)(32)(33)(34)は、互いに接近、離間可能となっている。
【0028】
巻芯軸(31)(32)(33)(34)の先端は、スライドブロック(41)(42)(43)(44)の先端面(45)から、導線(70)の直径よりも僅かに長くなるよう突出している。巻芯軸(31)(32)(33)(34)の突出長さは、導線(70)の直径よりも1〜3mm長くすることが好適であり、具体的には突出長さは2〜5mm程度とすることが望ましい。
【0029】
巻芯軸(31)(32)(33)(34)の回転移行路の外周には、1又は複数の押えローラ(51)(52)(53)が配備される。本実施例では図5に示すように押えローラ(51)(52)(53)は中心基軸(20)の上下及び左側90°毎に3つ配備されており、自動巻線機の回転しないケーシング(図示せず)からバネ等の付勢手段により、巻芯軸(31)(32)(33)(34)の回転移行路に接近する方向に付勢されている。
【0030】
より具体的には、図6に示すように、押えローラ(51)(52)(53)は、スライドブロック(41)(42)(43)(44)側となる薄肉円柱状の押え胴部(55)と、該押え胴部(55)の手前側に形成され、押え胴部(55)よりも直径の大きい円板状の押え板(56)を有する構成とすることができる。押え胴部(55)の幅は、巻芯軸(31)(32)(33)(34)の突出長さと略一致させることが望ましい。
【0031】
押え胴部(55)と押え板(56)は一体に形成することができ、押え胴部(55)と押え板(56)には中心に軸孔(57)が貫通開設されており、該軸孔(57)に、回転移行路に接近する方向へ付勢する付勢手段が連繋されている。
【0032】
上側の押えローラ(51)と巻芯軸(32)の回転移行路との間に、巻芯軸(31)の回転方向上流側から空芯コイルを形成する導線(70)が供給される。導線(70)は、導線供給機構(図示せず)により供給することができ、導線供給機構は、導線(70)を複数のガイドローラ(図示せず)を経由し、先端が上側の押えローラ(51)と巻芯軸(31)(32)(33)(34)の回転移行路との間で開口する筒状のガイド(76)から順次供給する構成を例示できる。
【0033】
ガイド(76)の開口よりも下側、即ち、回転方向上流側には、巻芯軸(31)(32)(33)(34)に巻回された導線(70)を巻芯軸(31)(32)(33)(34)の自由端側に押し出すプッシャー部材(77)を具える。プッシャー部材(77)は、自動巻線機の回転しないケーシング(図示せず)に配置され、巻芯軸(31)(32)(33)(34)の回転移行路に接近して配備される。尚、上記押えローラ(51)(52)(53)と同様、付勢手段等によって、巻芯軸(31)(32)(33)(34)の回転移行路に接近する方向に付勢しておくことが望ましい。
【0034】
中心基軸(20)には、更に、図6に示すように、プッシャー部材(77)により押し出された単位巻部が順次挿通される巻線補助部材(21)が着脱可能に嵌められる。巻線補助部材(21)は、樹脂製のものを例示することができ、断面形状は、形成される単位巻部が余裕をもって嵌まる程度の略断面矩形形状を例示できる。
【0035】
上記構成の自動巻線機は、カム機構等により構成される往復移動機構を有し、回転するスライドブロック(41)(42)(43)(44)を巻芯軸(31)(32)(33)(34)の軸心と直交する面内で接近、離間方向にスライド可能となっている。
【0036】
以下、上記自動巻線機を用いた空芯コイルの巻線工程について説明する。
まず、図7(a)に示すように、予め巻芯軸(31)(32)(33)(34)が長方形の頂点に位置する状態で、ユーザにより手動で導線供給機構(図示せず)から導線(70)を引き出し、導線(70)の先端をU字状に曲げて、巻芯軸(31)(32)(33)(34)の外周に引っ掛ける。
【0037】
このとき、導線(70)は、図6に示すように、巻芯軸(31)(32)(33)(34)とスライドブロック(41)(42)(43)(44)の先端面(45)、押えローラ(51)(52)(53)の押え胴部(55)及び押え板(56)により周りを囲まれており、脱落することはない。
【0038】
この状態から、回転駆動機構を作動させると共に、往復移動機構を作動させて、導線(70)の巻きを開始する。
この過程で導線(70)にはある程度のテンションが付与されることになる。
【0039】
図7(a)に示す状態から図7(b)に示すように巻芯軸(31)(32)(33)(34)を回転させると、巻芯軸(31)(32)(33)(34)に導線(70)が巻回される。更に巻芯軸(31)(32)(33)(34)を回転させると、導線(70)は、押えローラ(51)(52)(53)の押え胴部(55)に押されつつ、屈曲して巻芯軸(31)(32)(33)(34)の形状である長方形の単位巻部が形成される。
【0040】
導線(70)の巻き初めから約270°巻芯軸(31)(32)(33)(34)が回転すると、図7(b)に示すように、導線(70)はプッシャー部材(77)に当たり、巻芯軸(31)(32)(33)(34)の自由端側に押し出され、巻線補助部材(21)(図6参照)に挿入されていく。
【0041】
巻芯軸(31)(32)(33)(34)を所定回数回転、例えば2周させることで、導線(70)は、略長方形の2周した単位巻部となる。
次に、回転駆動機構を作動させつつ、往復移動機構を作動させることにより、図7(c)に示すように、長方形の一方の長辺の頂点に合った巻芯軸(31)を中心基軸(20)から遠ざかる方向に移動させながら、巻芯軸(31)(32)(33)(34)を回転させる。
尚、巻芯軸(31)(32)(33)(34)は、導線(70)を供給するガイド(76)に対向する位置にあるものを移動させる。この理由は、既に導線(70)が巻回されている巻芯軸を移動させると、導線(70)が引っ張られて切断等することがあるからである。
【0042】
上記の後、回転駆動機構を回転させることで、他方の長辺にあった巻芯軸(34)についても、図7(d)に示すように、導線(70)をプッシャー部材(77)により押し出され、中心基軸(20)から遠ざかる方向に移動させる。長方形の他辺の長辺の頂点にある巻芯軸(32)(33)も同様にして、図7(e)に示すように、巻芯軸(31)(32)(33)(34)を回転させながら、前記巻芯軸(31)(34)よりは短い距離ではあるが、中心基軸(20)から遠ざかる方向に移動させる。尚、このときの巻芯軸(31)(32)(33)(34)の位置を中間位置と称する。
【0043】
この状態で、巻芯軸(31)(32)(33)(34)を回転させることで、前記長方形よりもわずかに内周長、外周長の長い単位巻部が形成される。
【0044】
更に、巻芯軸(31)(32)(33)(34)を回転させながら、中間位置から更に巻芯軸(31)(32)(33)(34)を中心基軸(20)から離れる方向に順次移動させて、略台形形状の頂点となる位置まで巻芯軸(31)(32)(33)(34)を移動させつつ、巻芯軸(31)(32)(33)(34)を回転させることで、導線(70)は、例えば図7(f)に示すように、中間位置よりも外周長、内周長の長い略台形形状の単位巻部を形成する。巻芯軸(31)(32)(33)(34)を所定回数回転、例えば2周させることで、導線(70)は、略台形形状の2周した単位巻部となる。
【0045】
次に、前記した中間位置まで巻芯軸(31)(32)(33)(34)を順次戻しつつ回転させて、更に前記したように巻芯軸(31)(32)(33)(34)が略長方形の頂点となる位置まで巻芯軸(31)(32)(33)(34)を戻し、所定回数回転する動作を繰り返すことで、図6乃至図7に示すような単位巻部が連続した単位コイル部が巻線補助部材(21)に巻回されて、空芯コイルとなる。
【0046】
所定長さの空芯コイルが形成されると、一旦自動巻線機を止めて、導線(70)を巻線補助部材(21)上で切断し、中間製品としての空芯コイルを得ることができる。再度、自動巻線機を作動させることで、中間製品としての空芯コイルの作製は継続される。
中間製品としての空芯コイルを巻き軸方向に圧縮すれば、多層構造を有する完成品としての空芯コイルが得られる。
【0047】
上述の自動巻線機を用いて作製される空芯コイルは、図8に示す如く第1単位巻部(25)、第2単位巻部(26)及び第3単位巻部(27)の屈曲部間に隙間Gが生じることになる。
【0048】
そこで本発明においては、図3に示す巻芯軸(31)(32)(33)(34)を具えた巻芯装置に替えて、図2に示す巻芯装置(1)を採用する。
該巻芯装置(1)は、図示省略するモータによって図中の矢印で示す様に反時計方向に回転駆動されるものであって、その四隅には、4つの巻芯機構(11)(12)(13)(14)が配備されている。
【0049】
これら4つの巻芯機構(11)(12)(13)(14)は、図3に示す4つの巻芯軸(31)(32)(33)(34)と同様に、中心基軸(20)から離間する方向と中心基軸(20)へ接近する方向へ往復移動が可能である。
【0050】
図2(a)(b)に示す如く、第1の巻芯機構(11)は、中心基軸(20)側の一点S1から外向きに延びる直線A1に沿って往復駆動される第1巻芯片(61)と、該一点S1から外向きに延びる直線A2に沿って往復駆動される第2巻芯片(62)とを具え、第1巻芯片(61)と第2巻芯片(62)が従来の第1の巻芯軸(31)に対応する機能を発揮する。
【0051】
第2の巻芯機構(12)は、中心基軸(20)側の一点S2から外向きに延びる直線A3に沿って往復駆動される第1巻芯片(63)と、該一点S2から外向きに延びる直線A4に沿って往復駆動される第2巻芯片(64)とを具え、第1巻芯片(63)と第2巻芯片(64)が従来の第2の巻芯軸(32)に対応する機能を発揮する。
【0052】
第3の巻芯機構(13)は、中心基軸(20)側の一点S3から外向きに延びる直線A5に沿って往復駆動される第1巻芯片(65)と、該一点S3から外向きに延びる直線A6に沿って往復駆動される第2巻芯片(66)とを具え、第1巻芯片(65)と第2巻芯片(66)が従来の第3の巻芯軸(33)に対応する機能を発揮する。
【0053】
第4の巻芯機構(14)は、中心基軸(20)側の一点S4から外向きに延びる直線A7に沿って往復駆動される第1巻芯片(67)と、該一点S3から外向きに延びる直線A8に沿って往復駆動される第2巻芯片(68)とを具え、第1巻芯片(67)と第2巻芯片(68)が従来の第4の巻芯軸(34)に対応する機能を発揮する。
【0054】
上記の8つの巻芯片(61)〜(68)の往復駆動は、例えば各巻芯機構に対し、巻芯片毎にソレノイド等の往復駆動機構を装備することによって行なうことが出来る。
【0055】
上記の8つの巻芯片(61)〜(68)はそれぞれ、導線(22)が巻き付けられる表面が頂角135度の山形を呈している。従って、一対となる2つの巻芯片に導線(22)が巻き付けられることにより、図1に示す空芯コイル(2)の各角部を形成すべき第1単位巻部(25)の2つの屈曲部(25a)(25a)と、第2単位巻部(26)の2つの屈曲部(26a)(26a)と、第3単位巻部(27)の2つの屈曲部(27a)(27a)とが形成されることになる。
【0056】
この結果、8つの巻芯片(61)〜(68)の表面によって規定されるループ形状は、図1に示す空芯コイル(2)の各単位巻部(25)(26)(27)のループ形状に対応することになる。
【0057】
本発明に係る空芯コイル(2)の自動巻線機の上記以外の構成は、図3〜図6に示す自動巻線機と同じである。
【0058】
図2に示す巻芯装置(1)を具えた自動巻線機による空芯コイルの巻線工程では、各単位コイル部(23)の巻回工程において、第1単位巻部(25)を巻回するときは、図2(a)の如く全ての巻芯片(61)〜(68)を最内周位置に固定し、巻芯装置(1)を回転させることによって、これらの巻芯片(61)〜(68)の周囲に導線(22)を巻き付ける。
8つの巻芯片(61)〜(68)の各表面に導線(22)が順次巻き付けられることによって、第2単位巻部(26)の8つの屈曲部(26a)〜(26a)が順次形成され、各屈曲部の屈曲角度が45度に規定されることになる。
【0059】
次に第2単位巻部(26)を巻回するときは、図2(b)の如く全ての巻芯片(61)〜(68)を導線(22)の線径分だけ外周側へ移動させ、その状態で巻芯装置(1)を回転させることによって、これらの巻芯片(61)〜(68)の周囲に導線(22)を巻き付ける。
8つの巻芯片(61)〜(68)の各表面に導線(22)が順次巻き付けられることによって、第2単位巻部(26)の8つの屈曲部(26a)〜(26a)が順次形成され、各屈曲部の屈曲角度が45度に規定されることになる。
【0060】
その後、第3単位巻部(27)を巻回するときは、全ての巻芯片(61)〜(68)を導線(22)の線径分だけ更に外周側へ移動させ、その状態で巻芯装置(1)を回転させることによって、これらの巻芯片(61)〜(68)の周囲に導線(22)を巻き付ける。
8つの巻芯片(61)〜(68)の各表面に導線(22)が順次巻き付けられることによって、第3単位巻部(27)の8つの屈曲部(27a)〜(27a)が順次形成され、各屈曲部の屈曲角度が45度に規定されることになる。
【0061】
次の単位コイル部(23)の巻回工程では、全ての巻芯片(61)〜(68)を導線(22)の線径分だけ内周側へ徐々に移動させつつ、巻芯装置(1)を回転させることによって、これらの巻芯片(61)〜(68)の周囲に導線(22)を巻き付ける。
【0062】
尚、連続する2つの単位巻部の形成においては、1つ目の単位巻部の形成後、該単位巻部の導線(22)を、2つ目の単位巻部となる導線(22)によって8つの巻芯片(61)〜(68)の外周面から押し出しつつ、2つ目の単位巻部となる導線(22)を8つの巻芯片(61)〜(68)の外周面に巻き付けて、2つ目の単位巻部を形成する。
【0063】
以上の動作を繰り返すことによって、図1に示す空芯コイルの中間製品を得る。そして、図11(a)(b)の如く該中間製品を巻き軸方向に圧縮することにより、第3単位巻部(27)の内側に第2単位巻部(26)を押し込むと共に、該第2単位巻部(26)の内側に第1単位巻部(25)を押し込んで、図1に示す空芯コイル(2)の完成品を得るのである。
【0064】
この様にして得られた空芯コイル(2)は、図1に示す如く各角部(23a)において、第1単位巻部(25)の導線と第2単位巻部(26)の導線とが、略全長に亘って互いに接触すると共に、第2単位巻部(26)の導線と第3単位巻部(27)の導線とが、略全長に亘って互いに接触している。
従って、該空芯コイル(2)は、図10に示す従来の空芯コイル(200)よりも導線の占積率が大きくなる。
【0065】
尚、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば、空芯コイル(2)の各角部における各単位巻部の屈曲部は2つに限らず、3つ以上の複数であってもよい。
又、導線(22)は断面円形の丸線に限らず、断面矩形の角線であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
(1) 巻芯装置
(11) 巻芯機構
(12) 巻芯機構
(13) 巻芯機構
(14) 巻芯機構
(61) 第1巻芯片
(62) 第2巻芯片
(63) 第1巻芯片
(64) 第2巻芯片
(65) 第1巻芯片
(66) 第2巻芯片
(67) 第1巻芯片
(68) 第2巻芯片
(2) 空芯コイル
(23) 単位コイル部
(25) 第1単位巻部
(26) 第2単位巻部
(27) 第3単位巻部
(23a) 角部
(25a) 屈曲部
(26a) 屈曲部
(27a) 屈曲部
(25b) 連絡部
(26b) 連絡部
(27b) 連絡部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本の導線を渦巻き状に巻回して形成される単位コイル部が、巻き軸方向に繰り返し並んでおり、各単位コイル部は、互いに内周長の異なる複数の単位巻部から形成され、内周長の大きな単位巻部の内側に内周長の小さな単位巻部の少なくとも一部が押し込まれている空芯コイルにおいて、
各単位コイル部を形成する複数の単位巻部はそれぞれ、複数の角部を有する多角形状を呈し、該複数の角部はそれぞれ、導線を鈍角に屈曲させた複数の屈曲部と、隣接する屈曲部どうしを繋ぐ1又は複数の連絡部とから構成され、
各単位コイルを構成する複数の単位巻部の角部において、同じ位相位置で互いに重なる複数の屈曲部は、単位コイル部の内側から外側へ向けて延びる1本の直線上に並んでいることを特徴とする空芯コイル。
【請求項2】
各角部において、複数の単位巻部に形成されて第1の位相位置で重なる複数の屈曲部が並んでいる1本の直線と、複数の単位巻部に形成されて第2の位相位置で重なる複数の屈曲部が並んでいる1本の直線とは、単位コイル部の内側の1点で交わっている請求項1に記載の空芯コイル。
【請求項3】
各角部において、複数の単位巻部はそれぞれ、前記1点を中心とする円弧を2以上の多角形状によって近似した経路に沿って延びている請求項2に記載の空芯コイル。
【請求項4】
前記連絡部は、直線状若しくは円弧状に形成される請求項1乃至請求項3の何れかに記載の空芯コイル。
【請求項5】
少なくとも1本の導線を渦巻き状に巻回して形成される単位コイル部が、巻き軸方向に繰り返し並んでおり、各単位コイル部は、互いに内周長の異なる複数の単位巻部から形成され、内周長の大きな単位巻部の内側に内周長の小さな単位巻部の少なくとも一部が押し込まれており、各単位コイル部を形成する複数の単位巻部はそれぞれ、複数の角部を有する多角形状を呈している空芯コイルの巻線方法において、
前記巻き軸となる回転軸の周囲に、前記多角形状の角部の数に一致する複数の巻芯機構を、前記回転軸を中心として回転駆動可能に配備し、各巻芯機構には、前記巻き軸と交叉する方向に往復駆動可能な複数の巻芯片を装備し、
各巻芯機構の複数の巻芯片を所定位置に設定する第1工程と、
前記複数の巻芯片が所定位置に設定された状態で、前記複数の巻芯機構を回転させることにより、これらの巻芯機構を構成する複数の巻芯片の周囲に導線を巻き付ける第2工程
とを有し、複数の巻芯片の位置を前記回転軸から離間する方向若しくはその逆方向へ変更しつつ第1工程と第2工程を繰り返すことにより、1つの単位コイル部を構成する複数の単位巻部を形成することを特徴とする空芯コイルの巻線方法。
【請求項6】
連続する第1及び第2の単位巻部の形成においては、第1の単位巻部の形成後、該単位巻部を、第2の単位巻部となる導線によって複数の巻芯片の外周面から押し出しつつ、第2の単位巻部となる導線を複数の巻芯片の外周面に巻き付けて、第2の単位巻部を形成する請求項5に記載の空芯コイルの巻線方法。
【請求項7】
前記第1工程と第2工程を繰り返すことによって複数の単位コイル部を形成した後、これらの単位コイル部を巻き軸方向に圧縮することにより、内周長の大きな単位巻部の内側に内周長の小さな単位巻部の少なくとも一部を押し込んで、複数のコイル層からなる空芯コイルを完成する請求項5又は請求項6に記載の空芯コイルの巻線方法。
【請求項8】
各巻芯片の導線が巻き付けられるべき表面は、鈍角の頂角を有する山形に形成されている請求項5乃至請求項7の何れかに記載の空芯コイルの巻線方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−98397(P2013−98397A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240798(P2011−240798)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(597005587)株式会社エス・エッチ・ティ (26)
【Fターム(参考)】