説明

空調設備を備えた車両

【課題】冷却循環系(13)を介して駆動機関等と熱的に結合された暖房用熱交換器(8)と、圧縮器(3)と共に冷媒循環系に接続された補助熱交換器(7)とを有する、車両室内(2)に流れ込む供給空気(I)を調節するための空調設備を備えた車両において、圧縮器が調節装置(37)によってユーザ側の設定(Qsoll)に応じて調節可能であり、補助熱交換器(7)が暖房運転モードでは凝縮器として動作し暖房用熱交換器(8)と共に供給空気(I)へ熱を放出する空調設備の、調節精度を改善する。
【解決手段】調節装置(37)が評価ユニット(38)を備えており、評価ユニットでは、ユーザ側の設定に対応した目標熱供給量(Qsoll)と算出された実際の熱供給量(Qist)との比較が行われ、調節装置(37)が、この比較に基づき、圧縮器(3)を制御するための調節量(Y)を導出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に係る空調設備を備えた車両、及びこうした車両における請求項10に係る空調設備の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両室内を暖房するため、例えば冷却循環系を介して内燃機関の排熱が送り込まれる暖房用熱交換器を用いて、車両室内に流入する供給空気を温めることができる。近年の車両においては、駆動機関での排熱はごくわずかしか発生しないので、通常は、暖房用熱交換器に、必要な熱出力の総量との差を補うことができる補助加熱器が添設されている。この補助加熱器は様々な形で実施することができ、例えばPTC加熱素子として実施することができる。
【0003】
特許文献1において知られているような、一般的な空調設備を備えた車両では、補助加熱器を空調設備の冷媒循環系に接続することができる。補助加熱器は空調設備の暖房運転モードでは凝縮器として動作することができ、暖房用熱交換器と共に供給空気へ熱を放出することができる。この空調設備は、ユーザ側の設定に応じて冷媒循環系を調節する調節装置を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開10346827号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、冷媒循環系を簡単により高い調節精度で調節できる、空調設備を備えた車両、及び空調設備の運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は請求項1または請求項10の特徴によって解決される。本発明のより好ましい実施形態は従属請求項に開示されている。
請求項1の特徴部分によれば、調節装置は評価ユニットを備えており、この評価ユニットで、ユーザ側の設定に対応している目標熱供給量と、算出された実際の熱供給量との比較が行われる。この比較に基づき、調節装置が、圧縮器を制御するための調節量を導き出す。好ましくは、供給空気のパラメータのみを使用して実際の熱供給量を算出するようにできる。これにより、測定が困難な冷却循環系のパラメータや冷媒循環系のパラメータの検出を省略することができる。
【0007】
上記のような調節の主要目的は、発生する熱出力を少なくとも従来の補助加熱器(例えばPTC素子)と同等にすることである。ただしそうしたPTC補助加熱器とは異なり、本発明による補助熱交換器は、はるかにより高い効率で運転することができ、すなわち本発明によれば、従来の設計思想による補助加熱器より動力源エネルギーの使用がかなり少なくなる。
【0008】
本発明による冷媒循環系のヒートポンプの使用例では、各実施形態次第ではすぐに「過剰加熱する」設計となりうる。ここで、出力値はエネルギー消費に正比例して上昇するので、予め設定された出力限界でのヒートポンプの運転を保証するよう調節するという設計が実現可能である。その際に好ましいのは、従来のPTC補助加熱器に比べて明らかに大きな熱出力が補助熱交換器によって達成できるように、調節装置で調整可能な圧縮器の最大出力が設定されていることである。
【0009】
実際の熱供給量を算出するために、補助熱交換器および暖房用熱交換器から成る集合熱源の空気流入温度および空気流出温度を検出する温度センサを設置することができる。両方の温度センサは、好ましくは、それぞれ集合熱源の下流および上流に配置することができる。
【0010】
これに加え評価ユニットには、集合熱源を通過する供給空気の実際の空気質量流量を検出する測定ユニットが添設されている。供給空気の空気質量流量の検出は、専用の測定素子を用いて行うことができる。しかしながら好ましいのは、供給空気の空気質量流量を既設機器の構成要素の運転パラメータに基づいて間接的に算出することである。すなわち所定の通気構造では、供給空気の流路内に、詳しくは集合熱源の上流に、この空気質量流量を調整するための気流フラップおよび送風器を設けることができる。この気流フラップにより、集合熱源を通って流れる供給空気の空気質量流量、または集合熱源の傍らを通って流れるバイパス空気流を、フラップ位置に応じて調整することができる。
【0011】
この構成において、測定ユニットは、送風器の電気出力および気流フラップのフラップ位置に基づいて供給空気の空気質量流量を割り出すことができる。この目的のために、測定ユニット内には、送風器出力とフラップ位置とから成る値のペアを入力することで空気質量流量が得られ、その空気質量流量を読み出すことができる特性テーブルを格納することができる。この特性テーブルは、試験に基づいて実験的に定めることができる。
【0012】
空調ユニットは、集合熱源の上流に蒸発器を備えることができ、この蒸発器は補助熱交換器と共に冷媒循環系に接続されている。暖房運転モードを実施する場合、冷媒循環系の構成要素は、例えば蒸発器が停止している一方で補助熱交換器だけが凝縮器として動作するように制御することができる。これに対し冷房運転モードでは、補助熱交換器が停止しており、その一方で蒸発器が供給空気から熱を吸収する。
【0013】
冷房運転モードにおいて冷媒循環系を調節するために、蒸発器には、蒸発器温度を検出する温度センサを添設させることができる。この温度センサは、好ましくは蒸発器の外側に設置することができる。部品を少なくすることを考慮すると、蒸発器側の温度センサが、蒸発器の温度を検出するだけでなく、暖房運転モードではさらに集合熱源の空気流入温度も検出するという二つの役割を果たすように調整されているのが特に好ましい。
【0014】
以下に本発明の例示的実施形態を、添付の図面に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】暖房運転モード実施時の自動車の空調設備の回路図。
【図2】冷房運転モード実施時の空調設備の図1に対応した図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1および図2には、自動車室内2を冷房または暖房することができる、自動車の空調設備が示されている。図1により、自動車室内2を暖房するための暖房運転モードが示されており、冷媒が流れる部分は、暖房運転モードでは停止している部分より太い線で強調されている。すなわち、冷媒は圧縮器3から3/2方弁5を通って第1の高圧配管6内に案内され、この第1の高圧配管は、矢印方向においては第1の熱交換器7まで延びている。第1の熱交換器7は、空気ダクト内における破線で示した空調ユニット9内に配置されており、この空気ダクトを通って供給空気Iが自動車室内2に送り込まれる。
【0017】
第1の熱交換器7は暖房用熱交換器8と共に集合熱源10を形成しており、この集合熱源を供給空気Iが通過する。その際、暖房用熱交換器8は、破線によって省略的に示す冷却循環系13内に配置されており、この冷却循環系により、図示されていない内燃機関内で生じた排熱を暖房用熱交換器8に送り込むことができる。
【0018】
図1に示されているように、凝縮器として動作する補助熱交換器7は、第2の高圧配管11と3/2方弁12と膨張装置15とを経由して、熱交換器17と流体的に結合している。熱交換器17は、暖房運転モードでは周囲空気から熱を奪う蒸発器として動作する。熱交換器17の下流は、低圧配管19により圧縮器3の吸引側まで延びている。ここで、低圧配管19は内部熱交換器21を通って延びており、この内部熱交換器内では高圧側に対し、つまり高圧配管11に対して熱交換を行うことができる。
【0019】
図1から分かるように、空気の流れにおける冷房ユニット9より上流には、空気ダクト部31が配置されている。このダクト部31内には供給空気Iを調整するための送風器33が配置されている。送風器33の下流には分岐部があり、この分岐部では空気ダクトが、バイパス配管34と、供給空気Iを空調ユニット9に送り込む供給管35とに分割されている。分岐部にはさらに温度混合フラップ36が配置されている。フラップ位置に応じて供給管35内の流れ断面積を調整することができる。
【0020】
空調設備を調節するために、調節装置37が設けられており、この調節装置は冷媒循環系をユーザ側の設定に調節する。そのために調節装置37は、圧縮器3を制御する調節信号Yを生成する。調節装置37は、供給空気のパラメータを検出することで調節信号Yを生成する。そのために空調ユニット9内には温度センサ39、40が設置されており、これらの温度センサはそれぞれ集合熱源10の上流および下流に配置されている。この両方のセンサ39、40は、集合熱源10の空気流入温度Teおよび空気流出温度Taを検出する。そして、図1に示されているように、気流フラップ36のその時点での角度位置Wが位置センサ41により検出され、測定ユニット42、43に送られる。
【0021】
気流フラップ36の角度位置Wに加え、送風器出力と相関関係にある送風器33の電圧Uも検出され、測定ユニット42、43に転送される。測定ユニットのプログラムモジュール42内には、角度位置Wおよび送風器電圧Uを入力することでその時点での供給空気Iの空気質量流量を読み出すことができる特性テーブルが格納されている。このプログラムモジュール42は他のプログラムモジュール43と信号を通信しており、この他のプログラムモジュール43は、空気流入温度と空気流出温度の温度差および測定された空気質量流量mに基づき実際の熱供給量Qistを算出する。算出された実際の熱供給量Qistは、調節装置37の評価ユニット38によって、ユーザ側の設定に対応している目標熱供給量Qsollと比較することができる。制御機構37はこの比較を基に、圧縮器3を制御するための調節信号Yを生成することができる。
【0022】
従来のPTC補助加熱器に比べると、本発明による補助熱交換器7は、圧縮器3を適切に制御することで、従来のPTC加熱素子の熱出力をはるかに上回ることができる。これによりはるかに高いレベルの快適さを顧客に提供することができる。その一方で、圧縮器3の出力上限が所定の上限となるよう調節すれば、従来において保証されていた室内の快適さを保つこともできる。
【0023】
図2には空調設備の冷房運転モードが図示されており、冷媒が流れる配管が太い線で強調されている。冷房運転モードでは、3/2方弁5が、空調ユニット9内の第1の熱交換器7に至る配管6を圧縮器3の下流で遮断し、その一方で配管19に至る中間配管23を開放する。配管19への分岐部では、熱交換器17とは反対側の遮断弁25が閉じた状態になっており、これにより冷媒を熱交換器17に通して流すことができ、この熱交換器は冷房運転モードでは凝縮器として周囲の空気に熱を放出する。
【0024】
そして、冷媒は、膨張装置15に並列に接続された一方向弁27と、内部熱交換器21と、3/2方弁12とを通って、空調ユニット9内の蒸発器29へと導かれる。蒸発器29の上流には空気ダクト部31が配置されている。冷房運転モードでの冷媒循環系の調節は、調節装置37によって、暖房運転モードと類似した方法で行うことができる。図1とは異なり、図2の冷房運転モードでは、蒸発器流入温度と蒸発器流出温度の温度差に基づき、供給空気Iから奪う実際の熱流量を算出することができる。図2においては、蒸発器流入温度が温度センサ45により検出される一方、蒸発器流出温度は温度センサ40により検出される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両室内(2)に流れ込む供給空気(I)を調節するための空調設備を備えた車両であって、前記空調設備は、暖房用熱交換器(8)と、補助熱交換器(7)とを具備しており、前記暖房用熱交換器は、冷却循環系(13)を介して駆動機関等と熱的に結合されており、前記補助熱交換器は、圧縮器(3)と共に冷媒循環系に接続されており、前記圧縮器は、調節装置(37)によってユーザ側の設定(Qsoll)に応じて調節可能であり、前記補助熱交換器(7)が、暖房運転モードでは凝縮器として動作し前記暖房用熱交換器(8)と共に供給空気(I)へ熱を放出する車両において、
前記調節装置(37)が評価ユニット(38)を備えており、
前記評価ユニットでは、ユーザ側の設定に対応した目標熱供給量(Qsoll)と算出された実際の熱供給量(Qist)との比較が行われ、
前記調節装置(37)が、前記比較に基づき、前記圧縮器(3)を制御するための調節量(Y)を導出すること
を特徴とする車両。
【請求項2】
前記補助熱交換器(7)による熱出力が、従来の補助加熱器、例えばPTC加熱素子に比べてはるかに大きく調整できるよう、前記調節装置(37)によって調整可能な前記圧縮器(3)の最大出力が設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】
実際の熱供給量(Qist)の算出が、供給空気(I)のパラメータ(m、Ta、Te)だけで行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両。
【請求項4】
実際の熱供給量(Qist)を算出するために、前記補助熱交換器(7)および前記暖房用熱交換器(8)から成る集合熱源(10)の空気流入温度(Te)および空気流出温度(Ta)を検出する温度センサ(39、40)が設けられていることを特徴とする請求項1、請求項2、または請求項3に記載の車両。
【請求項5】
前記評価ユニット(38)には、実際の熱供給量(Qist)を算出するために供給空気(I)の空気質量流量(m)を測定する測定ユニット(42、43)が添設されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両。
【請求項6】
暖房用熱交換器(8)および補助熱交換器(7)から成る集合熱源(10)の上流に、空気質量流量(m)を調整するための気流フラップ(36)および送風器(33)が設けられており、前記気流フラップおよび前記送風器により、供給空気(I)の流れ断面積および流速を調整できることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の車両。
【請求項7】
暖房用熱交換器(8)および補助熱交換器(7)から成る集合熱源(10)の上流に、空気質量流量(m)を調整するための気流フラップ(36)および送風器(33)が設けられており、
前記測定ユニット(42、43)が、前記送風器の電気出力もしくはそれに相関する送風器パラメータ(U)および前記気流フラップ(36)のフラップ位置(W)に基づいて空気質量流量(m)を割り出すことを特徴とする請求項5に記載の車両。
【請求項8】
空調ユニット(9)が、集合熱源(10)の上流に蒸発器(29)を備えており、前記蒸発器が前記補助熱交換器(7)と共に冷媒循環系に接続されており、前記蒸発器(29)が、特に暖房運転モードでは停止しており、前記補助熱交換器(7)が停止している冷房運転モードでは供給空気(I)から熱を吸収することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の車両。
【請求項9】
前記蒸発器(29)には、冷房運転モードでの蒸発器温度(T)を検出する温度センサ(40)が添設されており、前記温度センサ(40)が暖房運転モードでは集合熱源(10)の空気流入温度(Te)を検出することを特徴とする請求項8に記載の車両。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の車両の空調設備の運転方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−131480(P2012−131480A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−275154(P2011−275154)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【出願人】(591006586)アウディ アクチェンゲゼルシャフト (34)
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
【住所又は居所原語表記】D−85045 Ingolstadt,Germany
【出願人】(505450755)ビステオン グローバル テクノロジーズ インコーポレイテッド (140)
【Fターム(参考)】