説明

空間角度広がり推定方法および受信装置

【課題】アレーアンテナを構成する複数のアンテナ素子の配置の仕方に影響されることなく、空間角度広がりの推定精度を良好に保つことを図る。
【解決手段】アレーアンテナによって受信されたN個の受信信号についての相関をそれぞれ求めて、N個の要素を持つ相関行列を算出する相関行列算出回路121と、該相関行列を固有値分解して、アレーアンテナ素子数(N個)の固有値と、その各固有値に対応する固有ベクトルを算出する固有値分解回路131と、該固有値及び固有ベクトルから到来方向を算出する到来方向推定部141と、該固有値及び到来方向に基づき、所定の空間角度広がり関数から空間角度広がりを算出する空間角度広がり推定部151と、を備え、該空間角度広がり関数は、アレーアンテナの受信信号に係る相関行列の固有値に基づく値と、到来方向とを変数にもち、空間角度広がりを与える関数であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波伝搬路の空間角度広がりを推定する方法および受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のアンテナ素子から構成されるアレーアンテナを用いて適応的にビームパターンを制御するアダプティブアレーアンテナ技術が、無線通信技術に適用されている。その適用においては、無線通信局間の電波伝搬路(以下、単に「伝搬路」と称する)の空間特性が重要となる。陸上移動通信の場合、基地局のアンテナ高は、カバレッジエリアを広く確保することを目的に周辺の建物より高い場所に設置されるため、基地局から送信された電波は移動局周辺の建物等で反射および回折して移動局で受信される。そのため、伝搬路の空間特性は、移動局方向を中心として空間的に広がりをもち、統計的な中心到来方向(平均)および空間角度広がり(分散)で定義される。
【0003】
伝搬路の空間特性のうち、到来方向の推定方法に関しては、アレーアンテナを用いたビームフォーマ法、MUSIC法およびESPRIT法などが知られている。また、空間角度広がりの推定方法については、例えば特許文献1に記載される方法が知られている。特許文献1に記載される空間角度広がりの推定方法では、アレーアンテナの各アンテナ素子で受信した信号間の相関値を行列にした相関行列を用い、固有値分解して得られる固有値から空間角度広がりの推定を行っている。
【特許文献1】特開2004−80604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した従来の空間角度広がりの推定方法では、全方向に対して一様なビームパターンを形成することが可能なアレーアンテナを使用する場合には特に問題はないが、全方向に対して一様なビームパターンを形成することができないアレーアンテナを使用する場合には、推定精度が劣化するという問題がある。例えば、複数のアンテナ素子が同一円周上に配置される円形アレーアンテナのように、各方向に対してアンテナ素子の配置関係が一定である場合には、一様なビームパターンを形成することが可能である。しかしながら、複数のアンテナ素子が線形配置される線形アレーアンテナのように、各方向に対してアンテナ素子の配置関係が一定ではない場合には、一様なビームパターンを形成することはできない。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、アレーアンテナを構成する複数のアンテナ素子の配置の仕方に影響されることなく、空間角度広がりの推定精度を良好に保つことのできる空間角度広がり推定方法および受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係る受信装置は、複数(N個)のアンテナ素子を有するアレーアンテナと、前記アレーアンテナによって受信されたN個の受信信号についての相関をそれぞれ求めて、N個の要素を持つ相関行列を算出する相関行列算出手段と、前記相関行列を固有値分解して、アレーアンテナ素子数(N個)の固有値と、その各固有値に対応する固有ベクトルを算出する固有値分解手段と、前記固有値及び固有ベクトルから、到来方向を算出する到来方向推定手段と、前記固有値及び到来方向に基づき、所定の空間角度広がり関数から空間角度広がりを算出する空間角度広がり推定手段と、を備え、前記空間角度広がり関数は、前記アレーアンテナの受信信号に係る相関行列の固有値に基づく値と、到来方向とを変数にもち、空間角度広がりを与える関数であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る受信装置においては、前記空間角度広がり関数に関し、前記アレーアンテナのアンテナ素子間の相対振幅及び相対位相と、到来方向及び空間角度広がりを変数とする任意な空間伝搬路の確率密度関数とに基づいて、空間角度広がり及び到来方向を変数にもつアレー受信信号ベクトル関数を算出し、前記アレー受信信号ベクトル関数から、空間角度広がり及び到来方向を変数にもち且つN個の要素を持つ相関行列関数を算出し、前記相関行列関数から、固有値分解により、空間角度広がり及び到来方向を変数にもち且つアレーアンテナ素子数(N個)の固有値を要素にもつ固有値ベクトル関数を算出し、前記固有値ベクトル関数から、空間角度広がり及び到来方向を変数にもち該変数から前記固有値に基づく値を与える関数を算出し、前記固有値に基づく値を与える関数から、前記空間角度広がり関数が求められることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る受信装置においては、前記固有値に基づく値は、前記アレーアンテナ素子数(N個)の固有値のうち、最大の固有値と2番目に大きい固有値との比であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る受信装置においては、前記固有値に基づく値は、前記アレーアンテナ素子数(N個)の固有値のうち、最大の固有値から最小固有値を減じた値と、2番目に大きい固有値から最小固有値を減じた値との比であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る空間角度広がり推定方法は、複数(N個)のアンテナ素子を有するアレーアンテナの受信信号に係る相関行列の固有値に基づく値と、到来方向とを変数にもち、空間角度広がりを与える関数を算出する第1の過程と、前記アレーアンテナによって受信されたN個の受信信号についての相関をそれぞれ求めて、N個の要素を持つ相関行列を算出する第2の過程と、前記相関行列を固有値分解して、アレーアンテナ素子数(N個)の固有値と、その各固有値に対応する固有ベクトルを算出する第3の過程と、前記固有値及び固有ベクトルから、到来方向を算出する第4の過程と、前記固有値及び到来方向に基づき、前記空間角度広がり関数から空間角度広がりを算出する第5の過程とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る空間角度広がり推定方法においては、前記第1の過程において、前記アレーアンテナのアンテナ素子間の相対振幅及び相対位相と、到来方向及び空間角度広がりを変数とする任意な空間伝搬路の確率密度関数とに基づいて、空間角度広がり及び到来方向を変数にもつアレー受信信号ベクトル関数を算出し、前記アレー受信信号ベクトル関数から、空間角度広がり及び到来方向を変数にもち且つN個の要素を持つ相関行列関数を算出し、前記相関行列関数から、固有値分解により、空間角度広がり及び到来方向を変数にもち且つアレーアンテナ素子数(N個)の固有値を要素にもつ固有値ベクトル関数を算出し、前記固有値ベクトル関数から、空間角度広がり及び到来方向を変数にもち該変数から前記固有値に基づく値を与える関数を算出し、前記固有値に基づく値を与える関数から、前記空間角度広がり関数を求めることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る空間角度広がり推定方法においては、前記固有値に基づく値は、前記アレーアンテナ素子数(N個)の固有値のうち、最大の固有値と2番目に大きい固有値との比であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る空間角度広がり推定方法においては、前記固有値に基づく値は、前記アレーアンテナ素子数(N個)の固有値のうち、最大の固有値から最小固有値を減じた値と、2番目に大きい固有値から最小固有値を減じた値との比であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アレーアンテナを構成する複数のアンテナ素子の配置の仕方に影響されることなく、空間角度広がりの推定精度を良好に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る空間角度広がり推定用受信装置100の構成を示すブロック図である。
図1において、空間角度広がり推定用受信装置100は、N個のアンテナ素子101から構成されるN素子アレーアンテナと、アンテナ素子101の各々に対応して設けられる直交復調器111と、相関行列算出回路121と、固有値分解回路131と、到来方向推定部141と、空間角度広がり推定部151とを備える。
【0016】
各アンテナ素子101によって受信された信号は、それぞれ直交復調器111に入力され、直交復調された後に、複素信号として出力される。ここでは、その出力複素信号をまとめて、アレー受信信号ベクトルyとする。
y=(y1, y2, ..., yN
【0017】
アレー受信信号ベクトルyは、相関行列算出回路121に入力され、N個の要素を持つ相関行列Rが算出される。相関行列Rのi行j列目の要素rijは、次式で求められる。但し、*は、複素共役を表す。
ij = y ×y
【0018】
また、雑音電力の影響を軽減するため、最大パスと最小(雑音)パスの相関行列[M]と[M]を用いて、次式により実測相関行列RTrialを求めることもできる。この実測相関行列RTrialを以降の処理で相関行列Rとして使用してもよい。
Trial=([M]−[M])
【0019】
相関行列算出回路121で算出された相関行列Rは、固有値分解回路131に入力され、固有値分解によりアレーアンテナ素子数(N個)の固有値を要素にもつ固有値ベクトルeと、その各固有値に対応する固有ベクトル要素から成る固有ベクトル群vが算出される。
e={e1, e2, ..., e
v={v1, v2, ..., v
【0020】
相関行列Rの固有値分解は、受信信号を空間的に分割する。その固有値の大きさは、それぞれ対応する固有ベクトルでビーム形成をした場合に取り込まれる受信信号成分の電力に対応する。基地局で受信される信号は、移動局方向を中心とした空間角度広がりを伴う伝搬路となる。
【0021】
固有値分解回路131で算出された固有値ベクトルe及び固有ベクトル群vは、到来方向推定部141に入力され、到来方向推定値φが算出される。
【0022】
また、固有値分解回路131で算出された固有値ベクトルeと、到来方向推定部141で算出された到来方向推定値φとは、空間角度広がり推定部151に入力され、空間角度広がりが推定される。
【0023】
以上において、N個のアレーアンテナ素子101の配置は、任意に設定させることができる。また、各アレーアンテナ素子101の出力から、相関行列算出回路121までの電気長は、等しくなるように調節されている必要がある。
【0024】
図2は、図1に示す空間角度広がり推定部151の構成を示すブロック図である。
図2において、空間角度広がり推定部151は、第1・2固有値比算出回路201と、空間角度広がり推定値読出し回路211と、空間角度広がり関数AS(REV12,φ)記憶部221とを有する。
【0025】
まず、固有値分解回路131から出力された固有値ベクトルeは、第1・2固有値比算出回路201に入力される。第1・2固有値比算出回路201は、入力された固有値ベクトルeから、最大固有値e1st(以下「第1固有値」という)と2番目に大きい固有値e2nd(以下「第2固有値」という)を抽出し、次式で与えられる第1・2固有値比REV12を算出する。
REV12 = e1st/e2nd
【0026】
また、REV12は、雑音電力の影響を取り除くため、最小固有値eminを用いて次のように算出することもできる。
REV12 = (e1st−emin)/(e2nd−emin
【0027】
第1・2固有値比算出回路201で算出された第1・2固有値比REV12は、空間角度広がり推定値読出し回路221に入力される。また、到来方向推定部141から出力された到来方向推定値φは、空間角度広がり推定値読出し回路221に入力される。空間角度広がり推定値読出し回路221は、それら入力値(第1・2固有値比REV12及び到来方向推定値φ)に対応する空間角度広がり推定値を、空間角度広がり関数AS(REV12,φ)記憶部221から読み出す。到来方向推定値φ及び第1・2固有値比REV12を変数とする空間角度広がり関数AS(REV12,φ)は予め用意される。空間角度広がり関数AS(REV12,φ)記憶部221には、空間角度広がり関数AS(REV12,φ)が例えば関数表として予め記憶される。
【0028】
これにより、相関行列Rから求めた第1固有値e1stと第2固有値e2ndの比REV12及び到来方向推定値φと、空間角度広がりとの関係を表す空間角度広がり関数AS(REV12,φ)から、空間角度広がり推定値を求めることができる。なお、第1固有値e1stの固有ベクトルで形成されるビームパターンは、移動局方向にビームを形成する。また、第2固有値e2ndの固有ベクトルでは、第1固有値e1stに含まれない受信信号成分を受信するようにビーム形成するため、移動局方向にヌルを形成し、その周辺にビームを形成する。
【0029】
次に、図3を参照して、空間角度広がり関数AS(REV12,φ)を求める方法を説明する。図3は、本実施形態に係る空間角度広がり関数AS(REV12,φ)を求める手順を示すフローチャートである。
【0030】
ステップS301−1〜3;空間伝搬路確率密度関数は、送信点方向を中心として、空間角度広がり推定用受信装置100の位置を中心とした到来方向θおよび空間角度広がりσを変数にもつ、任意な空間伝搬路の確率密度関数a(θ, σ,φ)を設定する。この確率密度関数a(θ, σ,φ)は空間角度広がりモデルを表す。また、φは空間角度広がりモデルの分布の平均方向であり、到来方向推定値に対応する。
【0031】
ステップS311;ここで、到来方向θを変数にもつ受信周波数におけるN個のアンテナ素子101の放射特性関数をベクトルとした、アレーアンテナ放射特性関数ベクトルD(θ)を用いる。アレーアンテナ放射特性関数ベクトルD(θ)は、アンテナ素子単体の放射特性データをベクトル化した、到来方向θに対する関数である。アレーアンテナ放射特性関数ベクトルD(θ)は、アンテナ素子間の相対振幅及び相対位相の情報を有する。
D(θ)=(d1(θ),d2(θ),...,d(θ))
【0032】
ステップS321;アレーアンテナ放射特性関数ベクトルD(θ)を用いて、空間角度広がりσ及び到来方向φを変数にもつアレー受信信号ベクトル関数y’(σ,φ)を算出する。
y’(σ,φ)=(y’1(σ,φ),y’2(σ,φ), ... ,y’(σ,φ))
アレー受信信号ベクトル関数y’(σ,φ)のn番目の要素y’n(σ,φ)は、次式で求められる。
y’n(σ,φ)=∫θn(θ, σ,φ)・dn(θ)dθ
【0033】
ステップS331;次いで、その算出されたアレー受信信号ベクトル関数y’(σ,φ)より、空間角度広がりσ及び到来方向φを変数にもち、且つN個の要素を持つ相関行列関数R’(σ,φ)を算出する。相関行列関数R’(σ,φ)のi行j列目の要素r’ij(σ,φ)は、次式で求められる。
r’ij(σ,φ) = y’(σ,φ)×y’(σ,φ)
例えば、相関行列関数R’(σ,φ)は次式により与えられる。
【0034】
【数1】

【0035】
但し、A(θ, σ,φ)は、空間特性の平均電力密度関数であり、移動局方向φを中心として正規分布型に広がるモデルを仮定する。また、V(θ)はアンテナ素子放射特性ベクトル関数である。
【0036】
【数2】

【0037】
但し、φは到来信号の中心方向を表す。
図4には、空間広がりモデルの例が示されている。図4において、空間広がりモデルは正規分布として表される。φは空間角度広がりモデルの分布の平均方向であり、到来方向推定値に対応する。アレーアンテナの特性が方向によって異なると、分布の平均(中心)方向φに対して空間角度広がり関数ASが変わってくる。このことから、数2ではφを変数として持たせている。
【0038】
ステップS341;その算出された相関行列関数R’(σ,φ)から、固有値分解により、空間角度広がりσ及び到来方向φを変数にもち且つアレーアンテナ素子数(N個)の固有値を要素にもつ固有値ベクトル関数e’(σ,φ)を算出する。
e’(σ,φ)=(e’1(σ,φ),e’2(σ,φ), ... ,e’(σ,φ))
【0039】
ステップS351;次いで、その算出された固有値ベクトル関数e’(σ,φ)から、第1固有値関数e’1st(σ,φ)と第2固有値関数e’2nd(σ,φ)を抽出し、次式で与えられる空間角度広がりσ及び到来方向φを変数にもつ第1・2固有値比関数REV12’(σ,φ)を算出する。
REV12’(σ,φ) = e’1st(σ,φ)/e’2nd(σ,φ)
【0040】
ステップS361−1〜3;その算出した第1・2固有値比関数REV12’(σ,φ)は、空間角度広がりσ及び到来方向φを変数としている。これにより、第1・2固有値比関数REV12’(σ,φ)から、第1・2固有値比REV12を変数とすることにより、空間角度広がり関数AS(REV12,φ)を求めることができる。
【0041】
次に、本実施形態に係る実験結果を説明する。
【0042】
本実験では、12個のアンテナ素子を水平面内に円形配置した12素子水平面円形配置アレーアンテナ(円形アレー)と、3個のアンテナ素子を水平面内に線形配置した3素子水平面線形配置アレーアンテナ(線形アレー)とを試作した。そして、円形アレーと線形アレーのそれぞれについて、実測によりアンテナ素子放射特性ベクトル関数を求め、ビームパターン及び空間角度広がり関数を求めた。
【0043】
図5には円形アレーのビームパターン形成例が示され、図6には線形アレーのビームパターン形成例が示されている。図5及び図6において、横軸が方向を示し、縦軸が最大ピークを基準とした相対利得を示す。図5及び図6には、到来方向が−45度、−30度、−15度、0度の各場合の結果が示されている。
【0044】
図5に示される円形アレーの場合には、到来方向によらず、ほぼ一定のビームパターンが形成されている。これに対して、図6に示される線形アレーの場合には、到来方向によってビームパターンのサイドローブが大きく変化している。
【0045】
図7には円形アレーを用いた場合の空間角度広がり関数が示され、図8には線形アレーを用いた場合の空間角度広がり関数が示されている。図7及び図8において、横軸が空間角度広がりを示し、縦軸が第1・2固有値比REV12を示す。図7及び図8には、到来方向が−45度、−30度、−15度、0度の各場合の結果が示されている。
【0046】
図7に示されるように、円形アレーの場合には、到来方向によらず、空間角度広がりと第1・2固有値比REV12の関係は同一の関数で表される。これに対して、図8に示される線形アレーの場合には、到来方向によって空間角度広がりと第1・2固有値比REV12の関係が大きく変化している。つまり、線形アレーを用いる場合、図8の例では、到来方向0度に対応する空間角度広がり関数を代表して使用すると、例えば−45度方向においては、実際には空間角度広がりが7度であるが4度と推定されることになり、誤差が生じる。
【0047】
しかしながら、本実施形態によれば、到来方向に応じた空間角度広がり関数を予め用意し、到来方向及び第1・2固有値比を変数として空間角度広がり推定値を求めるので、線形アレーのように方向に対してビーム形成が不均一となるアンテナを用いる場合においても、空間角度広がりを高精度に推定することができる。
【0048】
上述したように本実施形態によれば、到来方向に応じた空間角度広がり関数を用いることによって、線形アレーのように方向に対してビーム形成が不均一となるアンテナを用いる場合においても、空間角度広がりを高精度に推定することができる。これにより、アレーアンテナを構成する複数のアンテナ素子の配置の仕方に影響されることなく、空間角度広がりの推定精度を良好に保つことができ、空間角度広がり推定値を用いたアレーアンテナ指向性制御の精度向上に寄与することが可能になる。
【0049】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、本発明はセルラー基地局に適用することで、時間および周波数とは独立した空間(ビームパターン)を用いた多元接続(空間分割多元接続)を実現することが可能となり、周波数利用効率が改善されるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る空間角度広がり推定用受信装置100の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す空間角度広がり推定部151の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る空間角度広がり関数AS(REV12,φ)を求める手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る空間広がりモデルの例を示すグラフ図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る実験結果を示すグラフ図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る実験結果を示すグラフ図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る実験結果を示すグラフ図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る実験結果を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0051】
100…空間角度広がり推定用受信装置、101…アンテナ素子、111…直交復調器、121…相関行列算出回路、131…固有値分解回路、141…到来方向推定部、151…空間角度広がり推定部、201…第1・2固有値比算出回路、211…空間角度広がり推定値読出し回路、221…空間角度広がり関数AS(REV12,φ)記憶部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数(N個)のアンテナ素子を有するアレーアンテナと、
前記アレーアンテナによって受信されたN個の受信信号についての相関をそれぞれ求めて、N個の要素を持つ相関行列を算出する相関行列算出手段と、
前記相関行列を固有値分解して、アレーアンテナ素子数(N個)の固有値と、その各固有値に対応する固有ベクトルを算出する固有値分解手段と、
前記固有値及び固有ベクトルから、到来方向を算出する到来方向推定手段と、
前記固有値及び到来方向に基づき、所定の空間角度広がり関数から空間角度広がりを算出する空間角度広がり推定手段と、を備え、
前記空間角度広がり関数は、
前記アレーアンテナの受信信号に係る相関行列の固有値に基づく値と、到来方向とを変数にもち、空間角度広がりを与える関数である、
ことを特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記空間角度広がり関数に関し、
前記アレーアンテナのアンテナ素子間の相対振幅及び相対位相と、到来方向及び空間角度広がりを変数とする任意な空間伝搬路の確率密度関数とに基づいて、空間角度広がり及び到来方向を変数にもつアレー受信信号ベクトル関数を算出し、
前記アレー受信信号ベクトル関数から、空間角度広がり及び到来方向を変数にもち且つN個の要素を持つ相関行列関数を算出し、
前記相関行列関数から、固有値分解により、空間角度広がり及び到来方向を変数にもち且つアレーアンテナ素子数(N個)の固有値を要素にもつ固有値ベクトル関数を算出し、
前記固有値ベクトル関数から、空間角度広がり及び到来方向を変数にもち該変数から前記固有値に基づく値を与える関数を算出し、
前記固有値に基づく値を与える関数から、前記空間角度広がり関数が求められる、
ことを特徴とする請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記固有値に基づく値は、前記アレーアンテナ素子数(N個)の固有値のうち、最大の固有値と2番目に大きい固有値との比であることを特徴とする請求項1又は2に記載の受信装置。
【請求項4】
前記固有値に基づく値は、前記アレーアンテナ素子数(N個)の固有値のうち、最大の固有値から最小固有値を減じた値と、2番目に大きい固有値から最小固有値を減じた値との比であることを特徴とする請求項1又は2に記載の受信装置。
【請求項5】
複数(N個)のアンテナ素子を有するアレーアンテナの受信信号に係る相関行列の固有値に基づく値と、到来方向とを変数にもち、空間角度広がりを与える関数を算出する第1の過程と、
前記アレーアンテナによって受信されたN個の受信信号についての相関をそれぞれ求めて、N個の要素を持つ相関行列を算出する第2の過程と、
前記相関行列を固有値分解して、アレーアンテナ素子数(N個)の固有値と、その各固有値に対応する固有ベクトルを算出する第3の過程と、
前記固有値及び固有ベクトルから、到来方向を算出する第4の過程と、
前記固有値及び到来方向に基づき、前記空間角度広がり関数から空間角度広がりを算出する第5の過程と、
を含むことを特徴とする空間角度広がり推定方法。
【請求項6】
前記第1の過程において、
前記アレーアンテナのアンテナ素子間の相対振幅及び相対位相と、到来方向及び空間角度広がりを変数とする任意な空間伝搬路の確率密度関数とに基づいて、空間角度広がり及び到来方向を変数にもつアレー受信信号ベクトル関数を算出し、
前記アレー受信信号ベクトル関数から、空間角度広がり及び到来方向を変数にもち且つN個の要素を持つ相関行列関数を算出し、
前記相関行列関数から、固有値分解により、空間角度広がり及び到来方向を変数にもち且つアレーアンテナ素子数(N個)の固有値を要素にもつ固有値ベクトル関数を算出し、
前記固有値ベクトル関数から、空間角度広がり及び到来方向を変数にもち該変数から前記固有値に基づく値を与える関数を算出し、
前記固有値に基づく値を与える関数から、前記空間角度広がり関数を求める、
ことを特徴とする請求項5に記載の空間角度広がり推定方法。
【請求項7】
前記固有値に基づく値は、前記アレーアンテナ素子数(N個)の固有値のうち、最大の固有値と2番目に大きい固有値との比であることを特徴とする請求項5又は6に記載の空間角度広がり推定方法。
【請求項8】
前記固有値に基づく値は、前記アレーアンテナ素子数(N個)の固有値のうち、最大の固有値から最小固有値を減じた値と、2番目に大きい固有値から最小固有値を減じた値との比であることを特徴とする請求項5又は6に記載の空間角度広がり推定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−274250(P2007−274250A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96233(P2006−96233)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人 情報通信研究機構、「移動通信システムにおける高度無線信号処理技術の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】