説明

窒化アルミニウム焼結体及びその製造方法

【課題】色むらがなく熱伝導性に優れたアルミニウム焼結体を、生産性良く製造する。
【解決手段】成形・プレス工程で生じる窒化アルミニウム成形体のシート残りを、加熱処理した後に粉砕して粉状とし、それを原料として再び配合することを特徴とする生産性に優れた窒化アルミニウム焼結体の製造方法であり、350℃以上で加熱処理して作製した回収粉を原料として添加することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法であり、回収粉中のFe増分が30ppm以下であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス基板は高電気絶縁性、高熱伝導性という特長を有するため、回路基板として広く使用され、パワーモジュール等に搭載されている。セラミックス基板の中でも、窒化アルミニウム基板は熱伝導性に優れるため注目されている。
【0003】
窒化アルミニウム基板となる窒化アルミニウム焼結体は、一般に以下の方法で製造される。窒化アルミニウム粉末に焼結助剤、バインダー、可塑剤、分散媒、離型剤等の添加剤を混合する。それを押出成形等によってシート状に成形し、プレス機等により所望の形状や寸法に加工する(成形・プレス工程)。次いで、成形体を空気中又は、窒素等の非酸化性雰囲気中で350〜700℃に加熱してバインダーを除去した後(脱脂工程)、窒素等の非酸化性雰囲気中にて1800〜1900℃で0.5〜10時間保持すること(焼成工程)によって製造される。
【0004】
プレス工程では、シート状の成形体を加工する際、製品とならない成形体のシート残りが発生する。このようなシート残りの有効利用の目的から、シート残りを粉状に粉砕し窒化アルミニウム焼結体の原料として再び配合することが望まれているが、それには課題がある(以後、このように再利用する粉を回収粉と呼ぶ)。すなわち、シート残りを加熱せずに粉砕して作製した回収粉を原料粉として用いると、窒化アルミニウム焼結体の中心部が黒色化したり、縁状の色むらが発生する場合があり、また、熱伝導率が低下する場合がある。また、セラミックスシートをスラリー中で分散させることで、シート残りを再利用する方法もあるが、多量の溶剤を使わなければならないといった問題がある。
【特許文献1】特許3779481号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、色むらがなく熱伝導性に優れた窒化アルミニウム焼結体を、生産性良く製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、窒化アルミニウム成形体を加熱処理した後に粉状とし、それを原料として再び配合することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法であり、350℃以上で加熱処理して作製した回収粉を原料として添加することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法であり、回収粉中のFe増分が30ppm以下であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法である。
【0007】
さらに、前記製造方法によって得られた、熱伝導率が170W/m・K以上である窒化アルミニウム焼結体であり、得られた窒化アルミニウム焼結体に金属回路と放熱板を接合してなる窒化アルミニウム回路基板であり、また、窒化アルミニウム回路基板を用いてなるモジュールである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、色むらがなく熱伝導性に優れた窒化アルミニウム焼結体を、生産性良く製造でき、この焼結体を用いた窒化アルミニウム回路基板はモジュールへ好適に使用できる。
【0009】
本発明により得られる窒化アルミニウム焼結体は、機械的特性に優れ、且つ、高い熱伝導率を有するので、厳しい使用条件下で用いられる回路基板、例えばパワーモジュール用回路基板として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
窒化アルミニウム焼結体の黒色部分には金属不純物が多量に存在していることが多く、黒色化は金属不純物に起因するものと推測される。回収粉は通常、成形体のシート残りを粉砕機で処理することによって作製される。成形体はバインダーを含有しているため強度を発現しており、これを粉砕するにはかなりの負荷がかかる。この粉砕の過程で回収粉に金属不純物が混入してしまうため、窒化アルミニウムが黒色化すると考えられる。これは特に、厚いシートを作製する押出成形法で顕著である。
【0011】
窒化アルミニウム焼結体の黒色化は、炭素によっても引き起こされる。脱脂処理が不十分で残留炭素が多くなると、窒化アルミニウム焼結体の緻密化が阻害されるとともに、残留炭素が窒化アルミニウムと反応して炭素化合物を生成し、色むらを発生するものと推測される。
【0012】
窒化アルミニウム焼結体中の酸素含有量にばらつきが生じると、色むらが発生することが多い。これは、酸素含有量がばらつくと、焼結時に生成される複合酸化物の組成や焼結開始温度にばらつきが生じ、その結果、焼結状態にも影響が及び、色むらが発生するものと考えられる。酸素含有量のばらつきが大きくなると透光性や色調に違いが現れ、縁状の色むらが生じる場合がある。酸素含有量のばらつきは、脱脂、焼成工程で起こる原料窒化アルミニウム粉末の加水分解反応や、成形体中の含有炭素による還元作用によって引き起こされるものと考えられる。また、同じ酸素含有量の窒化アルミニウム粉末を用いて焼結体を作製する場合でも、脱脂、焼成条件によって酸素含有量分布は異なってくる。例えば、成形体中央部では成形体外周部と比べて水分が籠り易く、局所的に酸素含有量の増加がみられる。従って、水に対する安定性(耐加水分解性)を向上させた窒化アルミニウム粉末を用いることが好ましい。さらに、加熱処理を施さないで作製した回収粉を用いる場合、回収粉が含有しているバインダーや水が偏在しやすいため、酸素含有量のばらつきが大きくなることがある。
【0013】
また、色むらの発生した窒化アルミニウム焼結体は、一般に、熱伝導率が低下する傾向がある。
【0014】
本発明に係る窒化アルミニウム焼結体の製造方法について説明する。
【0015】
窒化アルミニウム粉末に関して特に制限はなく、直接窒化法、アルミナ還元法等の公知の方法で製造された窒化アルミニウム粉末が使用できる。
【0016】
焼結助剤は特に限定されるものではなく、希土類金属の化合物、アルカリ土類金属の化合物、遷移金属の化合物等が使用できる。中でも、酸化イットリウム、或いは、酸化イットリウムと酸化アルミニウムの併用が好ましい。これらの焼結助剤は、窒化アルミニウム粉末と反応し複合酸化物の液相(例えば2Y・Al、Y・Al、3Y・5Al等)を形成し、この液相が焼結体の高密度化をもたらし、同時に窒化アルミニウム粒子中の不純物である酸素等を抽出し、結晶粒界の酸化物相として偏析させることによって高熱伝導化をもたらす。複合酸化物としては、Y・Alを主に生成させることが好ましい。2Y・Alや3Y・5AlがY・Alより多く生成すると、窒化アルミニウム焼結体の熱伝導性や抗折強度、回路形成時の接合性が低下する場合がある。原料の窒化アルミニウム粉末中の酸素含有量に応じて、酸化イットリウム、或いは、酸化イットリウムと酸化アルミニウムの配合量を適正化することにより、複合酸化物としてY・Alを主に生成させることが出来る。
【0017】
原料として添加する回収粉は、シート残りを加熱処理した後に粉砕して作製することが好ましい。中でも、350℃以上で加熱処理することが好ましい。加熱温度が350℃より低いとバインダーが熱分解しにくく、シート残りが保形性をもつため、粉砕時に粉砕機に負荷がかかり、粉砕機の金属部分が摩耗し、回収粉に混入してしまう場合がある。加熱温度の上限は特に限定されるものではないが、加熱炉の保全や生産性の面から、700℃以下が好ましい。粉砕機は特に限定されるものではなく、ボールトンミル、ヘンシェルミキサー、パルペライザー等が使用できる。回収粉中のFe増分は30ppm以下であることが好ましい。回収粉中のFe増分が30ppmを超えると、窒化アルミニウム焼結体が黒色化しやすく、熱伝導率が低下しやすい。回収粉の配合量は、原料の窒化アルミニウム粉末中の酸素含有量や焼結助剤に応じて適正化することができる。回収粉中のFe増分が30ppmを超えると、回収粉の配合量が増やせなくなり、生産性が低下する。
【0018】
窒化アルミニウム粉末、回収粉、焼結助剤及びバインダーの混合方法は、特に限定されるものではなく、例えばボールミル、ロッドミルなどの公知の混合装置が使用できる。混合粉末はそのまま成形してもよく、また例えばスプレードライヤー法、転動造粒法などによって造粒してから成形してもよい。本発明に係るバインダーは特に限定されないが、可塑性や界面活性効果を有するメチルセルロース系や、熱分解性に優れたアクリル酸エステル系のバインダーを用いることが好ましい。必要に応じて、可塑剤、分散媒、離型剤などを併用することができる。可塑剤としてはグリセリン、グリセリントリオレート、ジエチレングリコールなどが、分散媒としてはイオン交換水やエタノール、トルエンなどが、離型剤としては、ステアリン酸やシリコンなどが使用できる。
【0019】
脱脂方法は特に限定されないが、成形体を空気中又は、窒素等の非酸化性雰囲気中で350〜700℃に加熱してバインダーを除去することが好ましい。脱脂時間は成形体のサイズ、処理量に応じて適宜決定する必要があるが、通常、1〜10時間である。焼成方法は特に限定されないが、非酸化性雰囲気中1400〜1900℃で0.5〜10時間保持することが好ましい。
【0020】
窒化アルミニウム回路基板は、窒化アルミニウム焼結体に金属回路、放熱板を形成してなるものである。金属回路および放熱板用の金属板と窒化アルミニウム焼結体の接合方法は特に限定されないが、窒化アルミニウム焼結体と金属板との間にろう材を介在させ、真空中で、加熱・冷却するろう材接合法が好ましいものとして挙げられる。金属板の材質は、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデンやそれらの合金が一般的である。ろう材は、箔、粉末を用いてよいが、ペーストで用いることが好ましい。ペーストは、ろう材の金属成分に有機溶剤および必要に応じて有機結合剤を加え、ロール、ニーダー、万能混合機、らいかい機等の公知の混合機で混合することによって調製することができる。ペースト塗布方法は特に限定されず、スクリーン印刷法、ロールコーター法等の公知の方法を採用できる。
【0021】
接合した金属板にエッチングレジストにより回路パターンを描いた後、エッチングを行う。エッチングレジストの除去については、公知の方法を用いることができる。エッチングレジストは特に限定されず、例えば公知の紫外線硬化型や熱硬化型のものを用いることができる。また、エッチング液は、金属板の種類に応じて好適なエッチング液を選択して用いる。例えば金属が銅であるときには、塩化第2鉄溶液、塩化第2銅溶液、硫酸、過酸化水素水等が使用され、好ましいものとして、塩化第2鉄溶液、塩化第2銅溶液が挙げられる。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
窒化アルミニウム粉末100質量部に、酸化イットリウム粉末4質量部を添加し、ボールミルにて1時間混合して原料粉末を得た。この原料粉末100質量部にセルロースエーテル系バインダー6質量部、グリセリン5質量部、イオン交換水10質量部を添加し、ヘンシェルミキサーにて1分間混合し混合物を得た。次に、混合物を単軸押出機にて厚み0.8mmのシート状に成形し、成形体を金型付きプレス機により90mm×90mmの寸法に打ち抜いた。プレス時に発生したシート残りを窒素雰囲気中500℃で8時間加熱処理した後、ボールトンミルにて粉砕し、回収粉を作製した。
【0023】
窒化アルミニウム粉末100質量部に、回収粉25質量部、酸化イットリウム粉末4質量部を添加し、ボールミルにて1時間混合して原料粉末を得た。原料粉末100質量部にセルロースエーテル系バインダー6質量部、グリセリン5質量部、イオン交換水10質量部を添加し、ヘンシェルミキサーにて1分間混合し混合物を得た。次に、混合物を単軸押出機にて厚み0.8mmのシート状に成形し、成形体を金型付きプレス機により90mm×90mmの寸法に打ち抜いた。成形体に離型剤として窒化ホウ素粉を1mg/cmの塗布量で塗布した後、20枚積層し、空気中570℃で5時間加熱し脱脂した。脱脂後に、窒素雰囲気中1780℃で2時間加熱することで窒化アルミニウム焼結体を作製した。得られた窒化アルミニウム焼結体の外観(色むらの有無)、熱伝導率を評価した。結果を表1に示す。
【0024】
得られた窒化アルミニウム焼結体に、金属回路及び金属放熱板としてアルミニウム板を以下の方法にて接合し、窒化アルミニウム回路基板を作製した。窒化アルミニウム焼結体の両面に70mm×70mm×0.02mmtのろう合金箔を貼付け、さらにその両面から70mm×70mm×0.2mmtのアルミニウム板を挟んだものを、カーボンスペーサーを隔てて10枚積層した。それをカーボン治具に設置した後、620℃で2時間保持して窒化アルミニウム焼結体とアルミニウム板を接合した。接合体の一主面には所定の形状の回路パターンを、もう一方の主面には放熱板パターンを形成させるため、UV硬化型レジストインクをスクリーン印刷した後、UVランプを照射させてレジスト膜を硬化させた。次いで、レジスト塗布した部分以外を水酸化ナトリウム水溶液でエッチングした後、フッ化アンモニウム水溶液にてレジスト剥離し、窒化アルミニウム回路基板を作製した。
【0025】
〈使用材料〉
窒化アルミニウム粉末:平均粒径1.5μm、酸素含有量0.80質量%、Fe含有量15ppm。
酸化イットリウム粉末:信越化学工業社製、商品名「Yttrium Oxide」
バインダー:信越化学工業社製、商品名「メトローズ」
グリセリン:花王社製、商品名「エキセパール」
窒化ホウ素粉:電気化学工業社製、商品名「デンカボロンナイトライドMGP」
アルミニウム板:三菱アルミニウム株式会社製、商品名「1085材」
ろう合金箔:東洋精箔株式会社製、商品名「A2017R−H合金箔」
UV硬化型レジストインク:互応化学工業株式会社製、商品名「PER−27B−6」
【0026】
〈評価方法〉
熱伝導率:10mm×10mmに加工した窒化アルミニウム焼結体を、アルバック理工社製「レーザーフラッシュ法熱定数測定装置TC−7000」により測定した。
【0027】
[実施例2〜7]
加熱処理条件を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0028】
[実施例8、9]
窒化アルミニウム粉末100質量部に、回収粉を50質量部添加したこと以外は、実施例1および実施例2と同様にして窒化アルミニウム焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0029】
[比較例1]
加熱処理しないこと以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0030】
[比較例2、3]
加熱処理条件を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を得た。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明により製造された窒化アルミニウム焼結体は、色むらがなく且つ高い熱伝導性を有するので、通常の回路基板はもとより、厳しい使用条件下で用いられる回路基板、例えばパワーモジュール用回路基板として好適な材料である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム成形体を加熱処理した後に粉状とし、それを原料として再び配合することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法。
【請求項2】
加熱処理温度が350℃以上であることを特徴とする、請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体の製造方法。
【請求項3】
窒化アルミニウム成形体を粉状とする工程において、窒化アルミニウム粉に混入するFeを30ppm以下とすることを特徴とする請求項1又は2記載の窒化アルミニウム焼結体の製造方法。
【請求項4】
成形方法が押出成形であることを特徴とする、請求項1〜3のうちいずれか一項記載の窒化アルミニウム焼結体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか一項記載の製造方法によって得られた、熱伝導率が170W/m・K以上である窒化アルミニウム焼結体。
【請求項6】
請求項1〜4のうちいずれか一項記載の製造方法によって得られた窒化アルミニウム焼結体に、金属回路と放熱板を接合してなる窒化アルミニウム回路基板。
【請求項7】
請求項6項記載の窒化アルミニウム回路基板を用いてなるモジュール。


【公開番号】特開2010−6631(P2010−6631A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166730(P2008−166730)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】