説明

窒化物単結晶の製造方法

【課題】大きな塊状単結晶が収率良く、安価かつ安定的に得られる周期表13族元素の窒化物の塊状単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】アンモニアを溶媒とするアモノサーマル法による結晶成長を行う方法において、出発原料として、相対的に平均粒径の異なる2種の結晶を使用し、種結晶を配置した育成部および/または出発原料を供給した原料充填部に超音波を印可しながら結晶成長を行う。また、反応容器内の結晶成長時の温度差にともなって生じる溶媒の対流の集束点近傍に、析出物捕集ネットを設ける、輸送流中の微結晶あるいは析出物を捕捉するとともに、この捕集ネット上に選択的に微結晶を析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期表13族元素の窒化物の塊状単結晶、とりわけGaNの塊状単結晶の育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNは発光ダイオード及びレーザーダイオード等の電子素子に適用される物質として有用である。現在、公知の方法で製造される、窒化ガリウム(GaN)結晶サイズ及び成長は、幾つかの用途では十分であるが、しかしながら多くの他の用途では、窒化ガリウムの結晶サイズ及び品質は十分ではない。これまで実用的なGaNの結晶化については、S.
NakamuraらによってJ.Appl.Phys.37(1998)L309等においてサファイヤ又は炭化ケイ素等
のような基板上にMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法による気
相エピタキシャル成長を行う方法が提案されている。しかしこの方法では、基板とGaNの格子定数、熱膨張係数が異なるヘテロエピタキシャル成長であるために、得られるGaN格子欠陥等の課題が指摘されている。具体的には、高濃度の転移、空格子点及び不純物の少なくとも1つが挙げられる。これらの欠陥は、エピタキシャルに成長させられた窒化
ガリウムで、望ましくない影響及び悪影響を有し、得られる窒化ガリウムをベースとする電子素子の操作に悪影響を与え得る。このためこれらの方法で得られたGaNは、青色レーザー等の応用分野に用いるには満足すべき性能を発現できない。現在、ヘテロエピタキシャル窒化ガリウム成長法では、窒化ガリウムにおける欠陥濃度を減らすために、複雑で長い工程が必要である。このため、近年では、GaN塊状単結晶の製造技術の確立が強く望まれている。このようなホモエピタキシー成長によるGaNの結晶化については、現在大きく分かれて三つの方法が開発されつつある。第1には、S. PorowskiらによってJ.Crystal Growth178(1997)174.において開示された、約10〜約20kbarの範囲の圧力下で、かつ約1200℃〜約1500℃の範囲の温度下で窒素とGaを反応させる方法(高圧法)であるが、これは装置のコストが高くなる上に反応工程が複雑である。さらに、この方法によって製造された窒化ガリウム結晶の品質は、幾つかの窒化ガリウム用途では、転移密度に関しては十分であり得る。しかしながら、この方法によって形成させられた窒化ガリウム結晶の品質は、望ましくない窒素の空格子点欠陥を高い濃度で示し、これは窒化ガリウム結晶用途に悪影響を与える。第2にはMasato AokiらによってJ.Crystal Growth218(2000)7-12において開示された、ガリウム及びNaN3を、昇圧下で反応させる方法、大気圧フラックス成長、及びメタセシス反応(GaI3+Li3N)等の、他の方法から成長させられた窒化ガリウムも提案されている。これは成長領域の制御が困難であり、またフラックスによる汚染が懸念され、さらにこの成長法は、高価であると考えられ、高品質で、欠陥のない、塊状の窒化ガリウム単結晶を生じるとは考えられていない。これらの方法はある程度の結晶化に成功しているものの、より大きな単結晶を得るには未だ至っていない。一方、第3の方法として、R. DwilinskiらによってACTA PHYSICA POLONICA A Vol.88(1995)においてアモノサーマル法によるGaNの結晶合成方法が報告されている。ここでは、超臨界状態のアンモニア中で高温にて、結晶化のための鉱化剤としてKNH2を用いてGaNの単結晶を得る方法が開示されている。また、その後にJ.W.KOLISらによってJ.Crystal Growth222(2001)431-434において同じくアモノサーマル法によって鉱化剤としてKNH2とKIを併用し、結晶を合成することが提案された。また、Andrew.P.PurdyらはChem.Master 1999,11,1648-1651において、同じくアモノサーマル法における鉱化剤としてハロゲン化アンモニウム等を用いることを提案した。そして、X.L.ChenらはJ.Crystal Growth209(2000)208-212において、同じくアモノサーマル法における反応容器のステンレスオートクレーブの中に白金ライナーを使用することにより、四角柱状のGaN結晶の発生を抑止し、六方晶系のGaNを選択的に結晶化できた、としている。これらの文献はアモノサーマル法において、GaNの結晶化を行うことを提案しているが、種結晶を用いていないため結晶成長はランダムであり、その結晶成長方位およびサイズの管理は困難と想定され、青色レーザー等の工業製品に応用できるサイズの結晶を得るにいたっていない。また、これらの超臨界アンモニアを用いたアモノサーマル法は、遅い成長速度を示し、従って塊状又は大きい窒化ガリウム結晶を容易には製造することができない。また、圧力容器は、これらの窒化ガリウムの成長法を制限する。圧力容器は約5kbar未満の圧力まで、超臨界アンモニア成長法を制限し、従って超臨界アンモニア成長法の温度及び反応速度を制限する。さらに、これらの文献には、結晶成長の詳細な条件が記載されていないので、結晶成長速度がアモノサーマル法における拡散支配であるかGaNの生成反応支配であるかが明らかになっていない。
【0003】
一方、仏国の特許公開公報FR 2796657 A1には、まず窒化物の多結晶を調整し、これを
原料としてソルボサーマル法により結晶成長することが提案されている。この文献には溶液成長法によるGaN単結晶の育成が記載されており、この育成法によれば、GaN多結晶窒化物を結晶育成装置内の下部に、一方、GaN種結晶を該育成装置の上部にそれぞれ配置し、次いで、窒化物溶媒を充填する。この状態で、結晶育成装置内を100〜600℃の育成温度、5MPa〜2GPaの圧力で運転を行うが、ここで、結晶育成装置内の上部と下部で、下部の温度が上部の温度より10〜100℃高くなるように運転することにより、GaNの単結晶を育成する。
【0004】
さらに、国際特許出願の公開公報WO 01/24921 A1では、GaNの種結晶を用い、反応容器を封止し、反応容器内を高温高圧化でHPHT法を用いて、GaN多結晶窒化物またはGaと窒化物溶媒の反応を用いてGaNの単結晶成長を行う方法が提案されている。また、この文献には、HPHT反応装置に有害な水素の透過性が低く、またHPHT反応によっては容易に腐蝕しない望ましい冷間圧接特性を示す反応容器の素材として、銅または白金を用いることが提案されている。また、同文献には、原料のGaN結晶として、結晶性が比較的低い原料、結晶性が高い原料、非晶質の原料等を用いることが開示され、それらの原料は未処理の形態で現状のまま、結晶成長工程に供給されることなどが記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなGaNの育成法においては、種結晶を用いたアモノサーマル法またはHPHT法を用いているので、結晶成長に改良が見られるものの、未だ十分な結晶サイズのものを得ることができない。アモノサーマル法においては、窒化物原料の窒化溶媒への溶解性、溶媒対流中のイオン可搬性、種結晶への再結晶要因の制御等が重要な因子となり、これらを総合して制御することが必要であるが、上記文献記載の方法では、基本的な結晶成長の条件が検討されるにとどまっており、未だ改良が望まれているのが実状である。例えば、種結晶を用いた場合の、種結晶の溶出による種結晶の落下、種結晶上への微結晶の付着または析出の問題、原料に含まれる微結晶の反応容器端末における付着と結晶成長、原料の種結晶への供給切れ、結晶成長の偏向性等の大きな塊状結晶の成長に関する各種阻害要因について、有効な対策がなされていない。また、超臨界状態のアンモニアを溶媒として用いるアモノサーマル法による結晶成長を行う環境では、系内の酸化力、還元力、酸性度、アルカリ性度等の各条件の組合せによって、反応容器や容器内のバッフル板等の各部材の耐食性を十分にもたせることが、工業的な安定生産の観点からも、結晶の純度や特性に対する影響からも、極めて重要である。従って、より大きく、かつより高性能な塊状単結晶を歩留まりよく、安価かつ安定的に得る方法の確立が工業的に強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題に鑑み、工業的に利用可能で経済的な方法で、10−100mmの範囲のサイズの単結晶を製造できる方法につき、鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)周期表13族元素の窒化物の塊状単結晶を製造する方法において、ニッケル及びクロムを含有する合金から構成された反応容器内で、周期表13族元素の多結晶窒化物を原料として該反応容器の原料充填部に供給し、種結晶を育成部に設置し、アモノサーマル的に結晶成長を行うことを特徴とする周期表13族元素の窒化物の塊状単結晶の製造方法。(2)周期表13族元素がガリウム(Ga)もしくはアルミニウム(Al)であることを特徴とする上記1記載の製造方法。
(3)ニッケル及びクロムを含有する合金が、ニッケル・クロム系合金またはニッケル・クロム・モリブデン系合金であることを特徴とする上記(1)または(2)記載の製造方法。
(4)反応容器内に、窒素原子を有する鉱化剤を含有させたことを特徴とする上記(1)、(2)または(3)記載の製造方法。
(5)窒素原子を有する鉱化剤が、アルカリ金属アミド、ハロゲン化アンモニウム、窒化アルカリ金属または窒化アルカリ土類金属からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物であることを特徴とする上記(4)記載の製造方法。
【0007】
(6)アルカリ金属アミドが、カリウムアミド(KNH2)であることを特徴とする(5
)記載の製造方法。
(7)ハロゲン化アンモニウムが、臭化アンモニウム(NH4Br)等であることを特徴
とする上記(6)記載の製造方法。
(8)反応容器内に、溶媒としてアンモニア(NH3)、ヒドラジン(NH2NH2)、尿
素等、アミン類、メラミンからなる群より選ばれる少なくとも一つの化合物を含有させたことを特徴とする上記(1)ないし(7)記載の製造方法。
(9)溶媒が、超臨界状態で用いられることを特徴とする(8)記載の製造方法。
(10)反応容器を封止し、反応容器内を高温高圧化で反応させることを特徴とする上記(1)ないし(9)記載の製造方法。
(11)反応容器内の原料充填部と育成部の間に、バッフル板を設けることを特徴とする上記(1)ないし(10)記載の製造方法。
(12)バッフル板の表面の材質が、ニッケル及びクロムを含有する合金であることを特徴とする上記(11)記載の製造方法。
(13)ニッケル及びクロムを含有する合金が、ニッケル・クロム系合金またはニッケル・クロム・モリブデン系合金であることを特徴とする上記(12)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の周期表13族元素の窒化物の塊状単結晶の製造方法により、従来に比べ、簡易かつ経済的な工程によって、不純物の汚染を防止し、大きな塊状単結晶が収率良く、安価かつ安定的に得られる。
また、本発明によれば、超臨界状態のアンモニアを溶媒とするアモノサーマル法のような反応容器にとって過酷な条件における反応系においても、長期にわたって十分な耐食性を発揮するとともに、塊状結晶にとって不利益をもたらす不純物のコンタミネーションを防止し、高性能の塊状結晶を工業的に安定的であり、安価かつ簡易な窒化物の塊状結晶の製造工程が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、GaN単結晶の合成を参照して本発明を説明するが、本発明は、もちろん、上記物質の合成に限定されるものではなく、周期表13族元素およびその合金(例えば、GaInN,GaAlN)の窒化物の合成にも適用できる。従って、ガリウムに疑問がある場合は常に、その適切な特徴を考慮して(特に、固体または液体である場合)、上記元素のうちの1つの元素または上記元素の合金をガリウムの代わりに使用できる。
【0010】
本発明にもとづき、この種の窒化物の合成法は、2つの工程を含む:第1工程では、微細な多結晶窒化物、例えば窒化ガリウム(以下では、“微結晶原料”と呼ぶ)を調製し、第2工程では、微結晶原料から単結晶成長を実現する。この原料は、多くの場合GaNの多結晶であり、微結晶原料の平均粒径は、好ましくは、5μm以下である。
このような平均粒径が小さい範囲にある場合は、比表面積が大きくなり、溶媒との反応性が良くなる。よりよい態様の微結晶原料の粒径としては、平均粒径の小さい、すなわち溶解速度の大きいGaN微結晶原料を用いることである。この場合、望ましいGaN微結晶原料の平均粒径は1μm以上である。1μm以下の平均粒径を有する微結晶原料を用いた場合は、これが熱対流により結晶育成部に輸送され、種結晶上に付着する恐れがあるので回避策を講じる必要がある。
【0011】
平均粒径の異なる2種の微結晶原料を用いることにより、小さい粒径の微結晶原料による速い溶解速度と、大きい粒径の遅い溶解速度のものが系内に混在することによりGa(含有)イオンの結晶育成部への供給切れを抑止し、その結果として、種結晶の溶出という塊状単結晶の育成上の不利益を抑止することもできる。また、GaN微結晶の形状としては、特に限定されるものではないが、溶媒への溶解の均一性等を考慮すれば、球状が好ましい。
【0012】
本発明の方法は、他の窒化物(例えば、AlN,InNまたはIII族の他の元素の窒化物)に適用されるので、この方法の第1工程は、異なる態様で展開することがあるが、微結晶原料を調製する条件は、共通する。ガリウムの場合、例えば下記の如く第1工程を実施する。液体状態への移行温度よりも僅かに高い温度において、ガリウムを微細な1つまたは複数の材料と混合して操作し易い粉体を調製し、かくして、ガリウムで1つまたは複数の上記材料(鉱化剤と呼ぶ)を包む。このような 鉱化剤(又は溶解剤)は、反応媒体における溶質の溶解度を高める及び核形成サイトへ溶質を移送するために当該分野において周知である。鉱化剤は、反応媒体において溶質が溶解した際に消費され、結晶が形成した際に再生するため「触媒」であると解釈される。好適な鉱化剤の例は、フッ化物または窒素原子を有する鉱化剤である。フッ化物の例としては、フッ化アンモニウム、フッ化水素、二フッ化ナトリウム、アンモニウムヘキサフルオロシリケート、及びヒドロカルビルアンモニウムフルオリド、例えばテトラメチルフッ化アンモニウム、テトラエチルフッ化アンモニウム、ベンジルトリメチルフッ化アンモニウム、ジプロピルフッ化アンモニウム、及びイソプロピルフッ化アンモニウムを含む。この他に、反応混合物中で反応性である限り、フッ化ナトリウムのようなフッ化アルキル金属塩も用いてよい。好ましくは、フッ化物源はフッ化アンモニウム、フッ化水素、フッ化ナトリウム、二フッ化ナトリウム、又はアンモニウムヘキサフルオロシリケートである。より好ましくは、フッ化物源はフッ化アンモニウムである。
【0013】
窒素原子を有する鉱化剤としては、分解時に窒化能を有することができるまたは溶媒の窒化能を増大できる微細なすべての化合物である。例えば、ナトリウムアミド(NaNH2)、カリウムアミド(KNH2)、リチウムアミド(LiNH2)、リチウムジエチルア
ミド((C252NLi))等のアルカリ金属アミドや、塩化アンモニウム(NH4Cl)、フッ化アンモニウム(NH4F)、臭化アンモニウム(NH4Br)等のハロゲン化アンモニウム、Li3N、Mg32、Ca32、Na3N等の窒化アルカリ金属または窒化アルカリ土類金属、NH2NH3ClまたはNH3NH3Cl2、NHI、窒化クロム(CrN
)、窒化ニオブ(NbN)、窒化ケイ素(Si34)、窒化亜鉛(Zn32)、炭酸アンモニウム((NH42CO3)が挙げられる。その他の鉱化剤としては、NaCl、KI
等のハロゲン化アルカリ金属、Li2S、KNO3、窒化リン(P−N,P=N)等が挙げられる。また、下記の溶媒として例示した各種の窒素化合物も少量を用いる場合は、鉱化剤としての役割を果たすことがある。
【0014】
これらのうち適切な鉱化剤を選択すれば、超臨界状態におけるNH3の存在下の窒化速
度は、溶媒NH3のみの使用の場合よりも遥かに大きい。使用した鉱化剤または共鉱化剤
が、その分解時に、更に、水素雰囲気を形成する場合、上記窒化速度を改善できる。一般に、ガリウムを活性化できるとともにガリウムの窒化を促進できる物質から鉱化剤を選択することが好ましい。特に、本発明の原料中に含まれるGaをGaNから分離する鉱化剤を選択することが肝要である。ガリウムは、例えばNH2NH3Clによって分割できるので、多結晶窒化物中のGa含有量が多い場合、NH2NH3Clを共鉱化剤として用いることが好ましい。
【0015】
上記第1工程を確実に遂行するため、ガリウムの場合、ガリウム量および鉱化剤量を最適化する。例えば、NH2NH3Cl/Gaモル比として、1−10の範囲の比を選択できる。反応は、溶媒および試薬を導入した容器内で行われる。溶媒は、例えば、アンモニア(NH3)、ヒドラジン(NH2NH2)、尿素等、アミン類例えば、メチルアミンのよう
な第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミンあるいはメラミン等の窒化物III−Vの安定性を損なうことのない他のすべての溶媒を用いることができる。これらの溶媒は単独でも、混合しても用いることができる。
【0016】
これらの溶媒は、超臨界状態で用いることが好ましい。超臨界流体は、その臨界温度以上で維持される濃ガスを意味し、臨界温度とは圧力によってそのガスが液化させられ得ない温度である。超臨界流体は一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、しかしながら液体と同様の溶媒和力を有する。反応混合物は、溶媒の臨界温度(400<T<800℃)よりも高い温度に保持する。反応混合物は一定容積(容器容積)内に封入されているので、温度上昇は、流体の圧力を増大する。一般に、圧力は、40−400MPaの範囲にある。T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)およびP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であるので、流体は、超臨界条件にある。上記条件において、GaNの微結晶の生成が認められる。実際、溶媒中に導入された試薬の溶解度は、亜臨界条件と超臨界条件との間で極めて異なるので、超臨界条件では、GaNの十分な種結晶生成が誘起され、かくして、微結晶が形成される。逆に亜臨界状態では、反応容器の腐蝕の点で、超臨界状態よりも不利な場合があるので、超臨界状態であることが望ましい。本発明における反応容器は詳細に後述するが、ニッケルおよびクロムを含む合金であるが、これらの素材の耐食性は超臨界状態の酸化力、還元力、およびpHにより異なった特性を示す。反応時間は、特に、鉱化剤または共鉱化剤の反応性および熱力学的パラメータ、即ち、温度および圧力の数値に依存する。かくして得られたGaN(またはその合金の1つ)の微結晶は、第2工程のアモノサーマル法による単結晶成長に適したものである。
【0017】
その他に、ガリウム化合物をアンモニアガス気流中において600℃以上の温度範囲で熱処理して窒化反応せしめることによっても、本発明の多結晶原料を調整することができる。かかる窒化反応において、該ガリウム化合物を好ましくは固相で反応せしめ、固相のガリウム化合物の表面積を増やして反応速度を上げる必要がある場合には、固相のガリウム化合物を乳鉢や粉砕器等で十分に粉砕して微粉状にしておくことが望ましい。かかる微粉状のガリウム化合物は、そのハンドリングを容易にする目的等で、加圧してペレット状に成形しても構わず、グリセリンやエチレングリコール等の粘度が高くある程度の親水性を有する液体をバインダーとして練り合わせても構わない。前記のアンモニアガス気流中におけるガリウム化合物の熱処理温度範囲は使用するガリウム化合物の熱分解温度により調整されるが、生成物の粒径の制御性や結晶性、あるいは製造に要する加熱を経済的に行う点で通常600℃〜1200℃、好ましくは700℃〜1100℃、更に好ましくは750℃〜1050℃程度である。この温度が低すぎると窒化反応の進行や窒化ガリウムの結晶性が極端に阻害される場合がある。かかる加熱は、反応器に原料として使用するガリウム化合物を入れここにアンモニアガス気流を通じながら所定温度まで昇温して行われる。かかる昇温の速度には特に制限はないが、例えば1〜50℃/分、生産性と昇温制御性の点で好ましくは3〜30℃/分、更に好ましくは5〜20℃/分程度である。アンモニアガス気流とはアンモニアを含有する気体の気流を意味する。該気体中のアンモニア含有量は通常10〜100モル%、反応速度の点で好ましくは30〜100モル%、更に好ましくは50〜100モル%程度とし、アンモニアと混合する気体としては本発明の製造方法の窒化反応に好ましくない影響を与える化学反応を起こさないもの、具体的には窒素ガスやアルゴンガス等の不活性気体の使用が望ましい。
【0018】
また、不純物としての酸化物の生成を抑制するためには該アンモニアガス気流中の酸素ガス濃度を可及的小さくすることが望ましく、この濃度は例えば10ppm以下好ましくは1ppm以下、更に好ましくは0.1ppm以下程度である。該ガリウム化合物は、例えば周期表の第15族あるいは第16族に属する元素を含有する陰イオンのガリウム塩類やガリウムカルコゲニド類等が代表的なものとして挙げられ、これらは結晶水を含有したものでも構わないが無水物が望ましい。具体的には、硫酸ガリウムや硝酸ガリウム等の強酸陰イオンのガリウム塩類、亜硫酸ガリウムや亜硝酸ガリウム等の低酸化度陰イオンのガリウム塩類、あるいは酸化ガリウム等のガリウムカルコゲニド類等が例示され、硫酸ガリウムと酸化ガリウムは生成物の結晶性の点で好ましく用いられ、中でも好適な熱分解温度の点で更に好ましく用いられるのは硫酸ガリウムである。かかるガリウム化合物の熱分解温度は、前記の熱処理温度範囲内にあることが好ましく、例えば硫酸ガリウムのように600℃〜1000℃程度の温度範囲内に熱分解温度を有するガリウム化合物が本発明において好ましく用いられる。この熱分解温度のより好ましい範囲は650℃〜900℃程度、更に好ましくは700℃〜850℃程度である。なおここで言う熱分解温度とは、結晶水や吸着水等の低分子含有物質が除去された状態での全重量の50%が空気中での加熱により失われる温度として定義する。また、前記のガリウム化合物は含水率が小さいものが本発明においては好ましく、例えば結晶水や吸着水等いかなる形式の水分子にせよこれを可及的含まないものを原料として使用することが望ましい。含水率が大きい場合には生成物の結晶性や純度が極端に低下する場合がある。従って、ガリウム化合物中の含水率は、含有されるガリウムの元素としての重量に対する水の重量として通常3倍以下、好ましくは2倍以下、更に好ましくは1.6倍以下程度とする。前記のアンモニアガス気流の供給量と速度に制限はなく原料として使用するガリウム化合物の量や反応容器の断面積等により調整されるが、通常該ガリウム化合物のガリウム原子に対して過剰当量のアンモニア分子を供給することが反応速度と反応の完結の点で望ましい。なお、前記の窒化反応の進行状況の確認は、例えば、銅のKα線をエックス線源とするエックス線回折法による生成物の結晶構造解析により、原料のガリウム化合物と生成する窒化ガリウムのそれぞれの結晶構造に由来する既知の回折パターンの比較により可能である。
【0019】
かくして得られたGaN(またはその合金の1つ)の微結晶原料は反応効率を100%とすることが困難であるため未反応のGaと副生成物との混合物中に存在することが通常である。この場合、第一工程後に未反応のGaと副生成物成分を除去しなければならず、微結晶原料の粒径が小さい場合はその除去が困難である。微結晶原料表面に残存する未反応のGaと副生成物を除去するために酸溶液中で数時間から場合によっては数十時間の処理が必要とされる。除去速度を高めるためには、加熱処理を行うことが有効であり例えば塩酸を沸騰させた状態での使用は有効である。一方、この除去処理が行き過ぎた場合には、逆に粒子表面にNが過剰な表面が形成されてしまう恐れがあるので注意を要する。このような処理を行うことは生産効率の上から不利であり、本発明者らは微結晶原料表面に残存する未反応のGaと副生成物を除去せずに、またはGaを積極的に追加してハイブリッド化することにより、第1工程により得た微結晶原料を含む第2工程の塊状のGaN単結晶成長に用いる出発原料(以下では「出発原料」と呼ぶ)とすることが有効であることを発見した。出発原料のハイブリッド率に関して好ましくは50%くらいまでである。もし残留酸化物が残存し、アモノサーマル法による単結晶成長に懸念がある場合は脱気加熱が有効である。
【0020】
第2工程においては、塊状のGaN単結晶を成長させる。この工程は、閉じた反応容器内で行われ、いわゆるアモノサーマル法である。図面に、垂直に配置された長い円筒形容器の形の反応容器を含む装置の略図を示した。容器の上部は、圧力制御装置(図示してない)に接続されたノズルによって閉鎖されている。容器は、容器を全高さにわたって囲み容器軸線に沿って温度勾配を容器に加えることができる炉内に設けてある。
【0021】
容器は、重畳する2つのゾーン、即ち、バッフル板によって分離された下部の原料充填部および上部の育成部に分割されている。これら2つのゾーンの間の温度勾配△Tは、10−100℃である。勾配の方向は、特に、温度の関数としての原料の溶解度に依存する。原料充填部には、第1工程において調製した原料を装入し、育成部には、種結晶を設置する。種結晶は、GaN結晶格子(単結晶)のサイズパラメータに適合するサイズパラメータを有する、あるいは、ヘテロエピタキシー(即ち、若干の原子の結晶学的位置の一致)を保証するよう配位した単結晶材料片または多結晶材料片から構成されている。上記種結晶は、GaN,InN,AINまたはGaNの結晶構造に極めて近い結晶構造を有するすべての材料から構成でき、例えば、GaNの場合であれば、GaNの単結晶、酸化亜鉛(ZnO)の単結晶、炭化ケイ素(SiC)の単結晶、ガリウム酸リチウム(LiGaO2)、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)の単結晶等が挙げられる。
【0022】
種結晶は、貴金属線によって保持され、この貴金属線をフレームに締結することにより固定することができる。貴金属線とは、好ましくは、周期表13族元素、例えばニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニオブ(Nb)である。種結晶の設置方向としては、任意のものが用いられるが、種結晶のc軸と窒化物溶媒の対流方向とのなす角度が、0〜180°(但し、0°と180°を除く)、さらに好ましくは60°〜120°である。このようにして配置された種結晶を用いることにより、得られるGaN単結晶は種結晶に対して偏心して育成され、大きな単結晶を得ることができる。
【0023】
このように偏心して成長する理由については定かではないが、高さ方向がc軸方向である種結晶の側面のうち、上記対流が直接接触する部分と迂回して接触する部分とでは、対流により輸送されるGa(含有)イオンの供給速度が異なる。一方、GaN単結晶は、六方晶系(wurtzite)を取り、6回対称軸を持つ。このため、アモノサーマル法でGaN単結晶を育成する際、GaN(あるいは他の)種結晶のc軸方向を窒化物溶媒の対流方向に平行に配置した場合には、この種結晶を中心にほぼ均等に成長するものと考えられるが、この方法によれば、Ga(含有)イオンの供給速度が小さい箇所と大きい箇所を設けることにより、結晶成長が他の面より遅い面を意図的に作成し、この遅い面が他の速い面より育成効率が良いということが推察され、これにより大きな結晶を得られるという利益が発生するものと考えられる。
【0024】
また、種結晶は種結晶同士を接合して用いることもできる。この場合は、c軸極性を合致させて当接させ、本発明のアモノサーマル法によって、あるいはMOCVD法のような気相法を用いて、ホモエピタキシー作用を利用して接合することにより、接合部の転位低減を図ることができる。そしてこのように種結晶同士を接合することにより、a軸方向への選択的な成長が起きる場合でも、c軸方向に大きな種結晶を得ることができる。この場合、c軸極性を合致させるのみならず、a軸極性も合致するように接合することが好ましく、従って、同一形状同士の種結晶を接合することが好ましい。
【0025】
また種結晶同士を接合する際には、接合面を鏡面レベルで平滑な面に研磨することが好ましい。原子レベルで平滑に研磨することは更に好ましい。研磨法は特に限定されるものではないが、例えばEEM加工(Elastic Emission Manching)によって行うことができる。これに用いる研磨剤も特に限定されるものではないく、SiO2、Al23、ZrO2等が例示されるが、コロイダル・シリカが好ましい。このように、c面を平滑にする理由は、c面が粗いと結晶成長の速度が速くなり、接合せんとするc面同士の整合性が損なわれ易いからである。
【0026】
本発明においては種結晶を配置した育成部に、さらに超音波を印可してもよい。種結晶は育成部の温度に応じた通常の熱振動に加えて、印可された超音波による振動を受けることとなる。このため、前記種結晶はこの印可された超音波の周波数に比例して決定される周波数で振動する。この振動によって結晶格子の原子が位置する空間を相対的に広める形を有するので、種結晶の表面と接触する原料化合物等が結晶格子に入り込む確率が、従来の状態に比較して相対的に大きくなる。また、多結晶の原因となる結晶核や他の粒子が発生しても、今まで単結晶で育成されていた結晶界面との格子の整合が悪いために、結合力が弱くて結晶中に取り込まれない。即ち、結合力の強い格子整合した結晶核だけが結晶に取り込まれて単結晶が育成されていく。つまり超音波振動により多結晶の発生を抑制することができる。この結果、結晶格子の適正部位に正確に位置した原子は、相対的によい結晶質を実現し、これにより形成される物質の電気的、光学的特性が向上される。
【0027】
この理由は定かではないが、次のように考えられる。即ち、超音波というのは、音の振動数が20kHz以上である音波であり、超音波を物質に加えると物質内で圧力、温度、密度等の変化を起すようになる。このような超音波は、物質を構成している原子に超音波を伝達し、原子の振動を促進し、二つの物質を溶解させることにより接着を可能とする特徴を有している。したがって、超音波のこのような性能を用いることで、窒化ガリウム単結晶成長時に、種結晶の表面に超音波を加えると種結晶を構成している物質と入射する物質とが互いに溶着されやすくすることができ、その結果、従来の方法に比較してより低い結晶成長温度でも、高品質の塊状単結晶を成長させることができる。
【0028】
さらに、後述するように、原料化合物にも超音波を同時に加えることで、活性化率を上昇させることができるため、成長系の結晶成長効率を増加させられる。容器には、窒化物溶媒(例えば、ヒドラジンN24またはアンモニアNH3)または窒化物III−Vと混
和できるすべての溶媒を充填する。容器は、約5MPa−2GPaの範囲の圧力に保持する。窒化物溶媒の注入の割合は、該容器のフリー容積、即ち該容器にGaN多結晶窒化物を含んだ原料及びバッフル板等を設置した際に残存する容積の約60〜85%とするのが好ましい。窒素源との配合比は微結晶と混在する残存Ga重量に応じて調整を行う。
【0029】
原料から種結晶へのガリウムおよび窒素の輸送を保証するため、アニオン(例えば、N3-または窒素を含む他のすべての化合物またはハロゲンアニオンを含む全ての化合物)を供給できる中間化合物を原料充填部に生成すれば有利である。上記化合物は、原料GaNと“前駆体”と呼ばれる少なくとも1つの他の化合物との間に化学反応を結果する。本発明では、前駆体として、多結晶原料、多結晶中に含まれるGa金属以外にさらにGaX(X=Cl,Br、I)、GaX2(X=Cl,Br、I)、GaX3(X=Cl,Br、I)、Ga2S、Ga2O等の化合物を反応系に供給してもよい。
【0030】
この種の化合物は、ガリウムおよび窒素の上記輸送を促進するイオン種の生成にもとづき、(極めて微細な粒子の形であっても極めて僅かな)GaNの溶解度を改善する。例えば、ハロゲン化物は最初にGaNを攻撃して、ハロゲン複合物を形成し、これがアミドに置換され、錯体Ga(NH3x 3+、Gaアミド、Gaイミド、GaNアミン等を形成し
、輸送可能物質へと変換されることが考えられる。
【0031】
すべての場合、中間の錯化合物がGaNおよびN3-(またはNH3)に分解され、窒化物が、種結晶上に堆積するよう、上記中間化合物の生成である原料充填部と種結晶との間に温度勾配を保持する必要がある。超臨界状態(温度および圧力)に置かれた溶媒の特殊な性質を考慮して、容器の温度条件および圧力条件を制御することによって(安定性が比較的限られた)錯体Ga(NH3x3+ の生成領域を避けるのが好ましい。
【0032】
上記結晶成長条件が満足された場合、原料GaNと添加物との間の(窒化物溶媒に可溶な)中間種MxGaNyを生成すれば、有利な態様で、上記温度勾配に依存してガリウムおよび窒素を輸送できる化学イオン種を生成できる。中間化合物MxGaNyの良好な溶解度、即ち、GaNの構成成分(即ち、Ga3+およびN3-)の化学的輸送に役立つイオン種GaN2+δ(1+δ)3-の生成に不可欠な溶解度を保証するため、Ga−N結合のイオン化度を増大するすべての元素から物体Mを選択できる。Mが、アルカリ元素、特に、リチウム)であれば有利であり、この場合、前駆体は、Li3Nである。種結晶への原料の化学種の輸送に影響を与えるパラメータは、特に、中間化合物MxGaNyの性質、溶媒の性質、種結晶の性質、原料と種結晶との間の温度勾配△T、原料の温度、容器2内の圧力値である。中間化合物(この場合、Mは、アルカリ元素または土類アルカリ元素である)、溶媒として液体NH3、100−600℃の範囲の原料温度、5MPa−2GPaの範囲の圧力および10−100℃の範囲の温度勾配を使用すれば、10−100mmの範囲のサイズ(但し、このサイズに限定されるものではない)のGaN単結晶の合成が可能である。結晶成長プロセスの時間は、材料処理量、材料輸送を制御できる化学的パラメータ(溶媒の性質、添加物または共添加物の性質および量、温度勾配)、熱力学的パラメータ(温度および圧力)に依存し、更に、所望の単結晶のサイズに依存する。特に、上記後者のパラメータに依存して、1−10週間の期間が必要である。
【0033】
さらに本発明においては、GaNと“前駆体”と呼ばれる少なくとも1つの他の化合物との間の化学反応を超音波の印可により助長することが可能である。この種の化合物は、ガリウムおよび窒素の原料から種結晶への輸送を促進するイオン種の生成に基づきGaNの溶解度を改善するが、超音波の印可により生成したイオン種の拡散が助長されること、および物質を構成している原子に超音波が伝達され原子の振動を促進する効果により多結晶原料の粒界の反応性が高められるためと考えられる。また、超音波に印可により必要とされる硬化剤の添加量を削減することも可能である。
【0034】
GaN単結晶は、六方晶系の結晶であるが、育成条件によって四角柱状の形状になることもある。六方晶として育成する場合は、特にc軸方向に成長する条件を選択する必要がある。c軸方向の成長は、カリウム(K)または2族の元素、をドープすることによって達成される。2族の元素としては、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)等をドープすることによって達成される。Kをドープするには、前記のKNH2を鉱化剤として使用することで達成できる。Mg、Caをドープするには鉱化剤とし
て、前記のMg32、Ca32等を使用することで達成できる。
【0035】
また、a軸方向の成長についても促す必要がある場合は、リチウム(Li)をドープすることが好ましい。Liをドープするには、鉱化剤として、LiNH2を用いることの他
、前記Li3Nを前駆体として使用する態様も挙げられる。本発明の大きな特徴は、上記
GaN多結晶窒化物の反応容器内面をニッケルおよびクロムを含有する合金で構成することである。前記の合金はニッケル・クロム系合金、例えば三菱マテリアル社製のMCアロイ(クロム含量が45重量%、モリブデン含量が1重量%)や、ニッケル・クロム・モリブデン系合金、例えば三菱マテリアル社製のMAT21(クロム含量が19重量%、モリブデン含量が19重量%)や特開平1−50936号に記載された合金が挙げられる。本発明に用いられるニッケルおよびクロムを含有する合金中のクロム含量は、下限値としては好ましくは10重量%、さらに好ましくは20重量%、特に好ましくは30重量%、最も好ましくは40重量%であり、上限値としては好ましくは55重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下、特に好ましくは45重量%以下である。クロム含量が少なすぎると酸化力の強い条件になるに従い、腐食性が増す傾向にあり、クロム含量が多すぎると加工性に劣る傾向がある。また、ニッケル・クロム・モリブデン系合金の場合のクロムの含量は、ニッケルに対する比率では前記ニッケル・クロム系合金の場合と同様であるが、モリブデンの含量については、合金全体に対して下限値は好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%、さらに好ましくは10重量%、特に好ましくは15重量%以上であり、上限値は好ましくは35重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは25重量%以下、特に好ましくは20重量%以下である。モリブデン含量が少なすぎる場合は、還元力が強い条件になるに従い、腐食性が増す傾向にあり、モリブデン含量が多すぎるとニッケルに対する固溶限界を越えてしまうだけでなく、加工性が劣る傾向にある。これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度・圧力の条件および系内に含まれる前記各種の鉱化剤およびそれらの反応物との反応性及び/または酸化力・還元力、pHの条件に従い、適宜選択すればよい。これらを反応容器の内面を構成する材料として用いる方法としては、反応容器自体をこれらの合金を用いて製造してもよく、内筒として薄膜を形成して反応容器内に設置する方法でもよく、任意の反応容器の材料の内面にメッキ処理を施す方法でもよい。本発明のニッケルおよびクロムを含有する合金の組成好ましい範囲は上述の通りであるが、材質のより詳細な組成はこれに限定されるものではなく、本発明のニッケルとクロムを含有する合金の有する特徴を損ねない範囲で他の金属成分、例えばマンガン、ケイ素、チタン、タンタル、炭素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム等が含まれることを妨げない。本発明においては、ニッケルおよびクロムを含有する合金を反応容器の内面の材質とすることで、超臨界状態のアンモニア溶媒を用いる反応系において、例えば上記の鉱化剤としてNH4X(XはCl,Br等のハロゲンを示す。)を用いた場合でも、Cl- 等のハロゲンイオンによる中性域の腐蝕に関する影響を低下させることが可能である。本発明に用いるニッケルとクロムを含有する合金を用いは溶接性が高く、その他の耐食性を有する金属に比べ、反応器の製造を安価に行うことが可能となり、工業的に有利である。本発明においては、必要に応じて、前記反応容器内筒を封止し反応容器に設置する方法も用いることができる。以上により、反応容器からの不純物の混入を抑制することができる。そして、所要に応じて、該容器内にバッフル板を設置して、GaN多結晶窒化物からなる原料を充填した原料充填部とGaN種結晶を配置する結晶育成部とに区画する。このバッフル板としては、その開孔率が2〜5%(但し、5%を含まず。)のものが好ましく、バッフル板の表面の材質は、前記の反応容器の材料と同一であることが好ましい。このように、バッフル板の開孔率を制御することにより、溶液成長条件下における結晶育成部でのGaNの過飽和度を適正に制御することが容易になる。
【0036】
本発明においては、バッフル板上に、さらに原料を供給することもできる。このように、バッフル板上、即ち、原料充填部と種結晶配置部との間に原料をさらに介在させることにより、結晶育成部の過飽和状態への移行速度を上げることができ、種結晶の溶出における各種のデメリットを防止することができる。この場合の原料のバッフル板上への供給量は、好ましくは結晶育成部のGaNの溶解量の0.3〜3倍である。
【0037】
また、本発明の反応容器には、種結晶の設置場所の上方、即ち溶媒の対流の集束点近傍に、析出物捕集ネットを設けることもできる。この析出物捕集ネットの役割は以下の通りである。即ち、反応容器の上部に行くに従って、溶媒の対流、すなわち溶質の輸送流はより低温な領域に向かうことになるが、このような低温部で過飽和状態になっている溶質は、種結晶上のみならず、種結晶を吊り下げている貴金属線、この貴金属線を締結するフレームや反応容器の内壁にも析出物として析出する問題がある。このような場合に、析出物捕集ネットを対流の集束点近傍に設けることにより、種結晶上に析出しきらなかった残余の溶質を頂部内壁によって下方向に反転させた後、輸送流中の微結晶あるいは析出物を捕捉するとともに、この捕集ネット上に選択的に微結晶を析出させることができる。
【0038】
この捕集ネットの材質としては、前記の反応容器の材質と同一であることが好ましい。また、本発明において、このように過飽和度を適正に制御するためには、原料充填部容積に対する結晶育成部容積の割合を1〜5倍の範囲内にすることが好ましい。なお、過飽和度が1.50を超える場合には、種結晶上に析出する速度が速すぎるため育成される結晶内部の整合性が悪化するとともに、欠陥が導入され好ましくない。更に、育成容器内壁及びフレームに析出する量が多くなるため、その析出物が肥大化した場合には、GaN単結晶と接触し、単結晶の成長を阻害することもあり好ましくない。
【0039】
ここで、「過飽和」とは、溶解量が飽和状態より以上に増加した状態をいい、「過飽和度」とは、過飽和状態の溶解量と飽和状態の溶解量との比をいう。溶液成長法においては、原料充填部からの熱対流によるGaNの輸送により過飽和状態になっている結晶育成部のGaNの溶解量と、結晶育成部の飽和状態でのGaNの溶解量との比をいう。
過飽和度=(結晶育成部の過飽和状態での溶解量)/(結晶育成部の飽和状態での溶解量)
なお、本発明において、過飽和度は、多結晶窒化物の密度、バッフル板の開孔率、原料充填部と結晶育成部との温度差等を適宜変更・選定することにより制御できる。
【0040】
本発明においては、得られた塊状単結晶は、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)等で洗
浄することができる。以下に本発明を実施するための具体的な態様について述べるが、本発明はこれらの方法に限定されない。内面をニッケル・クロム・モリブデン系合金により構成された反応器に高純度の6N金属ガリウムとNH4Brを入れ、次いで溶媒としてN
3を充填率60%程度で反応器内に注入し、同じくニッケル・クロム・モリブデン系合
金により構成されたキャップにより封止する。反応器を電気炉内に設置し500℃程度にに昇温する。この時の反応器の圧力は350MPa程度が好ましい。この状態を120hr程度保持した後、室温まで冷却しGaNの多結晶を取り出す。これにより粒径が0.1μm〜1.2μm程度のGaN多結晶が所定量得られることになる。反応器に先程得られたGaN多結晶を充填し、さらにGaとGaNをハイブリッド化率が10%となるように調整して添加する。次いで同じくニッケル・クロム・モリブデン系合金により構成されたで開口率4%程度のバッフル板を設置し、反応器内を原料充填部と結晶成長部に区画する。そして種結晶としてC軸方向に垂直な面で切り出し鏡面研磨された30mm×50mm程度の板状GaN単結晶をPt製フレームにC軸が水平方向を向くよう上下5段程度に吊り下げ、このフレームを上記結晶成長部に配置する。3モル/l程度のKNHとNHからなる溶媒を充填率80%程度で圧力容器に注入し、同じくニッケル・クロム・モリブデン系合金により構成されたキャップによりオートクレーブを封止する。
【0041】
反応器を上下に5分割程度に分割されたヒーターで構成された電気炉内に設置し、結晶育成部の温度が原料充填部の温度より常に低くなるよう保ったまま、原料充填部を350℃程度、結晶育成部を300℃程度に昇温する。この時の反応器内圧力は800MPa程度が好ましい。この状態を60日程度保持した後、室温まで冷却しGaN単結晶を取り出す。 取り出したGaN単結晶をC軸と垂直な面で350μm厚程度でスライス後、コロイダルシリカにて鏡面研磨し、50枚の30mm×50mm程度の角形ウエハーを得る。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明による単結晶成長製造方法に用いる、結晶育成容器を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 GaN多結晶原料
2 GaN種結晶
3 バッフル板
4 フレーム
5 結晶育成部
6 原料充填部
7 熱電対挿入部
7’熱電対挿入部
8 育成容器
9 貴金属線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表13族元素の窒化物の塊状単結晶を製造する方法において、周期表13族元素の結晶を出発原料として該反応容器の原料充填部に供給し、種結晶を育成部に配置し、アンモニアを溶媒とするアモノサーマル法により結晶成長を行う方法であって、種結晶を配置した育成部に超音波を印可する工程を含むことを特徴とする周期表13族元素の窒化物の塊状単結晶の製造方法。
【請求項2】
出発原料を供給した原料充填部に超音波を印可する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
出発原料が、相対的に平均粒径の異なる2種の結晶であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
出発原料が、多結晶GaNとGaとを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
反応容器内に、結晶成長時の温度差にともなって生じる溶媒の対流の集束点近傍に、析出物捕集ネットを設けることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
ガリウムと1つまたは複数の鉱化剤とを混合し、アモノサーマル法による結晶成長を行うことにより前記出発原料を製造する工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−143778(P2008−143778A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333549(P2007−333549)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【分割の表示】特願2002−76167(P2002−76167)の分割
【原出願日】平成14年3月19日(2002.3.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】