説明

窒化物結晶の製造方法

【課題】比較的温和な条件下で窒化物結晶を生成させることが可能な窒化物結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物結晶製造装置1において行われる窒化物結晶の製造方法は、溶融塩111中に窒化物イオン(N3−)122を供給するステップ(a)と、溶融塩111中に窒化対象元素含有イオン132を供給するステップ(b)と、窒化物イオン122と窒化対象元素含有イオン132とを溶融塩111中で互いに接触させて溶融塩111中に窒化物結晶を生成させるステップ(c)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には窒化物の製造方法に関し、特定的には、窒化物結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化ガリウム(GaN)や窒化アルミニウム(AlN)といった、熱的、電気的に優れた物性を有する窒化物が様々な分野で注目されている。これらの窒化物は、粉末あるいは単結晶などの形態で、様々な分野で幅広く利用されている。
【0003】
例えば、半導体搭載用基板では、回路基板の小型化やパワーモジュールの高出力化が進んでいる。そこで、基板自体の高い熱伝導を求めてAlN基板が用いられている。AlN基板は、AlN粉末を焼結して製作される。AlN粉末の製造方法としては、金属アルミニウムと窒素とを反応させてAlNインゴットを製造し、それを粉砕する直接窒化法がある。
【0004】
特開2003−34511号公報(特許文献1)では、1850℃以上に加熱された反応管に、平均粒子径10〜50μmの金属アルミニウム粉末を、窒素ガス等のキャリアによって供給してアルミニウム蒸気とし、反応管内に供給された窒素ガスと反応させる窒化アルミニウム粉末の製造方法が提案されている。
【0005】
また、窒化ガリウムを中心とするGaN系半導体材料は、SiやGaAsなどの半導体材料では実現できない紫外〜青色〜緑色の発光デバイスや高速大電力トランジスタに適した半導体である。これは、GaN系半導体材料が直接遷移型のワイドバンドギャップ半導体であるためである。GaN系半導体材料は、携帯電話を始め種々の液晶ディスプレイのバックライトや懐中電灯・自動車のヘッドライトのための白色LEDや、交通用信号機や各種インジケータなどのための青色〜緑色LEDとして実用化され、市場の大きな一般照明などにも展開され始めている。さらに、電子デバイスとしては、将来の携帯電話基地局用の高速高出力トランジスタやハイブリッド・電気自動車のインバーター用スイッチングデバイスなどで実用化を目指した開発が活発に進められている。
【0006】
ところで、Si、SiC、GaAs、InPなど、GaN系やAlN系以外の半導体材料では、いずれもバルク結晶が存在している。バルク結晶から任意の面を切り出して基板として用い、同基板上で気相法や液相法などでホモエピタキシャル成長させることにより、欠陥密度の低い高品位の単結晶膜を得ることができる。
【0007】
一方、GaN系やAlN系の半導体では高品位のバルク結晶が得られていない。そのため、結晶成長の際には異種材料であるサファイア(Al)やSiCなどの基板上でのヘテロエピタキシャル成長を用いざるを得ず、その結果欠陥密度が高くなり、GaNについて本来期待されるほどの物性を有する単結晶膜の量産には未だ至っていない。AlN系の半導体に関しても同様の状況である。
【0008】
このように、高性能・高信頼性のデバイスの実現に不可欠な高品位の単結晶膜を量産するためには、GaNやAlNの単結晶基板上でホモエピタキシャル成長させることが必要である。したがって、GaN系やAlN系半導体においても結晶欠陥(転位)が少なく、任意の結晶面を切り出すことが可能なバルク結晶を製造する技術の確立が強く望まれている。
【0009】
このようなGaNやAlNの半導体バルク結晶を作製する方法としては、結晶成長の元となる種としては、やはり基板や種結晶を用いる場合が多く検討されている。これらの方法は、基板を用いるエピタキシャルバルク方式と、種結晶を用いるバルク方式とに大別される。それぞれの方式のうちに気相成長法と液相成長法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−34511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載のような直接窒化法では、2000℃近い高温の反応温度が必要である。また金属アルミニウム粉末を取り扱うため、爆発の危険性もあった。
【0012】
また、基板を用いるエピタキシャルバルク方式や種結晶を用いるバルク方式では、1000〜2000℃の高温や1000〜20000気圧にも達する圧力下での操作といった、非常に厳しい操作条件が必要となる。これに伴い、装置構成が複雑になり、また高コストとなっていた。
【0013】
そこで、この発明の目的は、比較的温和な条件下で窒化物結晶を生成させることが可能な窒化物結晶の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の背景のもと、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、反応溶媒として機能性溶媒である溶融塩の中で、ガリウムやアルミニウムを含有するイオンと窒化物イオン(N3−)とのゆるやかな化学反応により、比較的温和な条件下でGaNやAlNを生成させ、かつ大きな単結晶を形成させ得る新技術を発明するに至った。本発明に従った窒化物の製造方法は、次のように構成される。
【0015】
この発明に従った窒化物結晶の製造方法は、溶融塩中にN3−を供給するステップ(a)と、溶融塩中に窒化対象元素含有イオンを供給するステップ(b)と、N3−と窒化対象元素含有イオンとを溶融塩中で互いに接触させて溶融塩中に窒化物結晶を生成させるステップ(c)とを備える。
【0016】
窒化対象元素とは、本発明の方法によって窒化物結晶とするための元素である。窒化対象元素含有イオンとは、本発明の方法によって窒化物結晶とするための元素を含むイオンである。
【0017】
ステップ(a)〜(c)は、順に行われてもよいし、同時に行われてもよい。
【0018】
この発明に従った窒化物結晶の製造方法においては、窒化物イオンは窒化物を溶融塩中に加えることによって供給され、窒化対象元素含有イオンは窒化対象元素含有化合物を溶融塩中に加えることによって供給されることが好ましい。窒素含有化合物とは、窒素元素を含む化合物である。窒化対象元素含有化合物とは、窒化物結晶とするための元素を含む化合物である。
【0019】
この発明に従った窒化物結晶の製造方法においては、窒化物イオンは電気化学的な陰極還元反応を利用して供給され、窒化対象元素含有イオンは陽極溶解反応を利用して供給されることが好ましい。
【0020】
この発明に従った窒化物結晶の製造方法においては、窒化対象元素含有イオンは、Ga(III)またはAl(III)であることが好ましい。
【0021】
窒化対象元素含有イオンとしてGa(III)またはAl(III)を用いる場合を例として説明する。
【0022】
この方法では、溶融塩中に存在するGa(III)やAl(III)などのガリウムやアルミニウムを含有する窒化対象元素含有イオンと、N3−との化学反応により、次式のようにGaNやAlNが生成する。
【0023】
Ga(III) + N3− → GaN
Al(III) + N3− → AlN
【0024】
図1は、450℃の共融組成のLiCl−KCl中における、GaN系における電位−pN3−図である。また、図2は、450℃の共融組成のLiCl−KCl中における、AlN系における電位−pN3−図である。
【0025】
ここで、pN3−は次式で定義されている。
【0026】
pN3− = −log[N3−
【0027】
図1と図2の中の左上部の数字{0、5、10}は、それぞれ、Ga(III)およびAl(III)のカチオン分率が{1、10−5、10−10}であることを示している。電位軸に平行な直線は、次式の反応の境界線を表している。
【0028】
Ga(III) + N3− = GaN
{log[Ga(III)] = −42.9 + pN3−
Al(III) + N3− = AlN
{log [Al(III)] = −41.9 + pN3−
【0029】
従って、Ga(III)やAl(III)が存在する溶融塩に対して、十分な濃度のN3−を供給することで、上記の反応は右に進行し、GaNやAlNが生成することが分かる。
【0030】
この際、溶融塩中の反応場におけるガリウムやアルミニウムを含有するイオンの濃度、および/または、N3−の濃度を緩やかに増加させる、あるいはガリウムやアルミニウムを含有するイオンとN3−とを生成する原料を徐々に添加することにより、単結晶を成長させることができる。この際、あらかじめ溶融塩中にGaNやAlN粉末を添加して種結晶として利用することもできる。
【0031】
このようにすることにより、比較的温和な条件下で窒化物結晶を生成させることが可能な窒化物結晶の製造方法を提供することができる。
【0032】
この発明に従った窒化物結晶の製造方法においては、溶融塩は、アルカリ金属ハロゲン化物、および/または、アルカリ土類金属ハロゲン化物を含むことが好ましい。
【0033】
アルカリ金属ハロゲン化物は、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、および、CsIの少なくとも1つであることが好ましい。
【0034】
アルカリ土類金属ハロゲン化物は、MgF、CaF、SrF、BaF、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MgBr、CaBr、SrBr、BaBr、MgI、CaI、SrI、および、BaIの少なくとも1つであることが好ましい。
【0035】
この発明に従った窒化物結晶の製造方法は、溶融塩中に、窒化対象元素の窒化物結晶を配置するステップ(d)を備えることが好ましい。
【0036】
なお、ステップ(a)〜(d)は、順に行われてもよいし、同時に行われてもよい。
【発明の効果】
【0037】
以上のように、この発明によれば、比較的温和な条件下で窒化物結晶を生成させることが可能な窒化物結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】450℃の共融組成のLiCl−KCl中における、GaN系における電位−pN3−図である。
【図2】450℃の共融組成のLiCl−KCl中における、AlN系における電位−pN3−図である。
【図3】本発明の第1実施形態の窒化物結晶製造装置の全体の鉛直断面を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態の窒化物結晶製造装置の全体の鉛直断面を模式的に示す図である。
【図5】本発明の窒化物結晶の製造方法によって製造された生成物のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0040】
(第1実施形態)
図3に示すように、第1実施形態の窒化物製造装置1は、溶融塩浴槽110と、窒素含有化合物供給部120と、窒化対象元素含有化合物供給部130と、撹拌部140と、種結晶150とを備える。この実施形態においては、窒素含有化合物としてLiNを用い、窒化対象元素含有化合物としてGaClを用いる。窒化対象の元素は、Ga(ガリウム)である。なお、窒化対象元素として、例えばアルミニウムを用いる場合には、窒化対象元素含有化合物131の一例として、AlClを用いてもよい。
【0041】
溶融塩浴槽110には、溶融塩111が収容される。第1実施形態においては、溶融塩浴槽110は、第1の領域110aと、第2の領域110bと、連通領域110cとを含む。第1の領域110aと第2の領域110bとは、鉛直方向に延びる連通領域110cの上部と下部とにおいて連通領域110cを介して連通されている。溶融塩111は、第1の領域110aと第2の領域110bと連通領域110cの全体に行きわたるのに十分な量が収容される。
【0042】
溶媒として用いる溶融塩111としては、溶融塩111中で窒化対象元素を含有するイオンと窒化物イオンとが溶融塩111の成分と反応して消費されずに安定に存在し得るものであれば、特に制限されることなく使用することができる。特にアルカリ金属ハロゲン化物、および/または、アルカリ土類金属ハロゲン化物を使用することが好ましい。
【0043】
アルカリ金属ハロゲン化物としては、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、CsI等の化合物を使用することができ、アルカリ土類金属ハロゲン化物としては、MgF、CaF、SrF、BaF、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MgBr、CaBr、SrBr、BaBr、MgI、CaI、SrI、BaI等の化合物を使用することができる。
【0044】
これらの化合物は単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。また、これらの化合物の組み合わせ、及び組み合わせる化合物の数、混合比等も限定されることはなく、好ましい作動温度域に応じて適宜選択することができる。
【0045】
処理温度(溶融塩111の浴温)については特に制限はない。しかし、浴温が高いほど欠陥の少ない高品位の結晶が成長しやすくなるが、一方で、浴槽の材料が限られたり、取扱いが難しくなったりする。そこで、実際の処理温度としては200℃〜1,000℃程度の処理温度であることが好ましく、特に400℃〜800℃程度の温度で処理されることがより好ましい。
【0046】
窒素含有化合物供給部120は、窒素含有化合物121を溶融塩111中に供給するためのものである。第1実施形態の窒化物結晶製造装置1においては、窒素含有化合物供給部120は、溶融塩浴槽110の上部から、第1の領域110a内の溶融塩111中に窒素含有化合物121を供給する流路として形成されている。
【0047】
窒化対象元素含有化合物供給部130は、窒化対象元素含有化合物131を溶融塩111中に供給するためのものである。第1実施形態の窒化物結晶製造装置1においては、窒化対象元素含有化合物供給部130は、溶融塩浴槽110の上部から、第2の領域110b内の溶融塩111中に窒化対象元素含有化合物131を供給する流路として形成されている。
【0048】
撹拌部140は、溶融塩111を循環させる駆動力を生じさせるものである。第1実施形態においては、撹拌部140として、連通領域110cの下部にアルゴンガスや窒素ガス等を供給することによるガスリフトを用いる。撹拌部140としては、例えば、回転するプロペラ等を使用してもよい。
【0049】
種結晶150は、窒化対象元素の窒化物結晶である。例えば、窒化対象元素がガリウムである場合には、種結晶150としてはGaNの単結晶を用いる。また、窒化対象元素がアルミニウムである場合には、種結晶150としてはAlNの単結晶を用いる。第1実施形態の窒化物結晶製造装置1においては、種結晶150は、連通領域110cの底部に配置される。種結晶150は、支持体によって連通領域110cの底部に固定されてもよい。
【0050】
次に、窒化物結晶製造装置1において行われる窒化物結晶の製造方法を説明する。
【0051】
まず、溶融塩浴槽110の連通領域110cの底部に、種結晶150を配置する。これはステップ(d)の一例である。次に、溶融塩浴槽110内に溶融塩111を収容する。そして、ステップ(a)として、窒素含有化合物供給部120の流路を通して、第1の領域110a内の溶融塩111中に窒素含有化合物121を供給する。また、ステップ(b)として、窒化対象元素含有化合物供給部130の流路を通して、第2の領域110b内の溶融塩111中に窒化対象元素含有化合物131を供給する。
【0052】
溶融塩111内に供給された窒素含有化合物121は、溶融塩111中に窒化物イオン122を供給する。この実施形態では、窒素含有化合物121としてLiNを用いているので、窒化物イオン(N3−)122が溶融塩111中に供給される。また、溶融塩111内に共有された窒化対象元素含有化合物131は、溶融塩111中に窒化対象元素含有イオン132を供給する。この実施形態では、窒化対象元素含有化合物131としてGaClを用いているので、窒化対象元素含有イオン132としてGa(III)が溶融塩111中に供給される。
【0053】
このように、N3−の供給においては、溶融塩中に溶解することでN3−を生成する化合物を添加するのが好ましい。特にLiNやNaNなどを添加してN3−を生成させるのが好ましい。
1/2N + 3e → N3−
【0054】
また、ガリウムやアルミニウムを含有するイオンの供給においては、溶融塩中に溶解することでGa(III)やAl(III)を生成する化合物を添加するのが好ましい。
【0055】
次に、撹拌部140によって、図中に矢印で示すように、溶融塩111を循環させる。溶融塩111は、ガスリフトによって、連通領域110cにおいては下部から上部に向かって流通する。連通領域110cの上部では、溶融塩111は第1の領域110aと第2の領域110bとに流入する。第1の領域110aと第2の領域110bのそれぞれにおいては、溶融塩111は、上部から下部に向かって流通する。溶融塩浴槽110の下部においては、第1の領域110aと第2の領域110bのそれぞれから、溶融塩111が連通領域110cに流入する。このとき、連通領域110cの底部において、第1の領域110aから流入する溶融塩111と、第2の領域110bから流入する溶融塩111とが接触する。溶融塩111は、連通領域110cの底部から、ガスリフトによって、再び連通領域110cの上部に向かって流通する。
【0056】
すなわち、溶融塩浴槽110は、Ga(III)など窒化対象元素含有イオン132を含む溶融塩と、窒化物イオン(N3−)122を含む溶融塩とが、GaNなどの種結晶150を設置した反応場のみで合流して会合するような槽構造となっている。
【0057】
連通領域110cの底部には種結晶150が配置されているので、種結晶150には、第1の領域110aから流入する溶融塩111に含まれる窒化物イオン(N3−)122と、第2の領域110bから流入する溶融塩111に含まれる窒化対象元素含有イオン132との両方が供給される。窒窒化物イオン(N3−)122と窒化対象元素含有イオン132とが溶融塩111中の種結晶150において接触することによって、種結晶150上に窒化物結晶が生成し、成長する。これはステップ(c)の一例である。
【0058】
このように、特に効率的にGaNやAlNの結晶を成長させるためには、種結晶150が存在する反応場に対して、Ga(III)やAl(III)とN3−とを局所的に、かつ各々を独立して供給するのが好ましい。
【0059】
また、窒化物イオン(N3−)122と窒化対象元素含有イオン132とが反応場での反応により全て消費されるように、窒化物イオン(N3−)122と窒化対象元素含有イオン132とを同じモル量ずつ、溶融塩111に添加すればよい。ただし、反応の進行に伴って、溶融塩111はLiClが過剰な状態へと組成が変化していくため、一定量添加後に組成や浴体積の調整を行うのが好ましい。
【0060】
以上のように、窒化物結晶製造装置1において行われる窒化物結晶の製造方法は、溶融塩111中に窒化物イオン(N3−)122を供給するステップ(a)と、溶融塩111中に窒化対象元素含有イオン132を供給するステップ(b)と、窒化物イオン(N3−)122と窒化対象元素含有イオン132とを溶融塩111中で互いに接触させて溶融塩111中に窒化物結晶を生成させるステップ(c)とを備える。
【0061】
また、窒化物結晶製造装置1において行われる窒化物結晶の製造方法においては、窒化対象元素含有イオン132は、Ga(III)またはAl(III)であることが好ましい。
【0062】
このようにすることにより、比較的温和な条件下で窒化物結晶を生成させることが可能な窒化物結晶の製造方法を提供することができる。
【0063】
また、窒化物結晶製造装置1において行われる窒化物結晶の製造方法は、溶融塩111中に、窒化対象元素の種結晶150を配置するステップ(d)を備える。
【0064】
なお、ステップ(a)〜(d)は、順に行われてもよいし、同時に行われてもよい。
【0065】
(第2実施形態)
図4に示すように、第2実施形態の窒化物製造装置2は、第1実施形態の窒化物製造装置1とほぼ同様の構成を備える。窒化物製造装置2が窒化物製造装置1と異なる点は、窒化物イオン(N3−)供給部として窒素ガス陰極221と窒素ガス供給路222とを備え、窒化対象元素含有イオン供給部として陽極230を備え、窒素ガス陰極221と陽極230との間に電圧を印加する電源部260を備え、また、溶融塩浴槽210の壁部の一部に、陽極230を配置するための凹部211が設けられている点である。陽極230には、窒化対象元素が含まれている。
【0066】
窒化物結晶製造装置2においては、窒素ガス陰極221と陽極230はそれぞれ、溶融塩111中の上部において、少なくとも一部が溶融塩111に浸漬されている。窒素ガス陰極221は第1の領域110a内に配置され、陽極230は第2の領域110b内に配置されている。陽極230は、例えば、溶融塩浴槽110の内壁面上の一部に形成された凹部に、窒化対象元素がプールされることによって構成される。多孔質状の窒素ガス陰極221には、窒素ガス供給路222を通して窒素ガスが供給される。電源部260によって窒素ガス陰極221と陽極230との間に電圧が印加されると、窒素ガス陰極221において窒化物イオン(N3−)122が生成し、陽極230において窒化対象元素含有イオン132が生成する。例えば、陽極230にガリウムが含まれている場合には、陽極230においてはGa(III)が生成する。陽極230にアルミニウムが含まれている場合には、陽極230においてはAl(III)が生成する。
【0067】
このように、電気化学的なガリウムやアルミニウムの陽極溶解反応を利用して、次式の反応により陽極230からGa(III)やAl(III)が供給される。
【0068】
Ga → Ga(III) + 3e
Al → Al(III) + 3e
【0069】
同時に窒素ガスの電気化学的な陰極還元反応を利用して、次式のように窒素ガス陰極221からN3−が供給される。
【0070】
1/2N + 3e → N3−
【0071】
このようにすることにより、微量のGa(III)やAl(III)などの窒化対象元素含有イオンと窒化物イオン(N3−)とを精密な制御を行いながら連続的に供給することできるのでより好ましい。
【0072】
窒化物結晶製造装置2においても、窒化物製造装置1と同様に窒化物結晶の製造方法が行われる。
【0073】
第2実施形態の窒化物結晶製造装置2のその他の構成と効果は、第1実施形態の窒化物結晶製造装置1と同様である。
【実施例】
【0074】
本発明の窒化物結晶の製造方法によって、窒化物結晶の一例としてGaNの結晶が得られることを、次にようにして確認した。
【0075】
450℃の共融組成の溶融LiCl−KClに対して、0.1mol%のGaClを添加してこれを溶解させた。これは、溶融塩中に窒化対象元素含有イオンを供給するステップ(b)の一例である。同浴中にさらに0.5mol%のLiNを一度に添加した。これは、溶融塩中に窒化物イオンを供給するステップ(a)の一例である。次に、アルゴンガス吹き込みにより浴を攪拌しつつ、1時間放置した。これは、窒化物イオンと窒化対象元素含有イオンとを溶融塩中で互いに接触させて溶融塩中に窒化物結晶を生成させるステップ(c)の一例である。1時間放置し冷却固化して回収した後、水洗により固化塩を除去して、生成物を得た。この生成物についてXRDによる分析を行った。図5に示すように、CuKα線を用いて測定される粉末X線回折パターンにおいて、「●」印の位置に特徴的なピークが観測された。これらのピークは、GaNの結晶に帰属されるものである。このように、本発明の窒化物結晶の製造方法によるGaNの生成が確認された。
【0076】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変形を含むものである。
【符号の説明】
【0077】
111:溶融塩、122:窒化物イオン(N3−)、132:窒化対象元素含有イオン、150:種結晶。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩中に窒化物イオンを供給するステップ(a)と、
前記溶融塩中に窒化対象元素含有イオンを供給するステップ(b)と、
前記窒化物イオンと前記窒化対象元素含有イオンとを前記溶融塩中で互いに接触させて前記溶融塩中に窒化物結晶を生成させるステップ(c)とを備える、窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記窒化物イオンは窒化物を溶融塩中に加えることによって供給され、前記窒化対象元素含有イオンは、窒化対象元素含有化合物を溶融塩中に加えることによって供給される、請求項1に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記窒化物イオンは電気化学的な陰極還元反応を利用して供給され、前記窒化対象元素含有イオンは陽極溶解反応を利用して供給される、請求項1に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記窒化対象元素含有イオンは、Ga(III)またはAl(III)である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記溶融塩は、アルカリ金属ハロゲン化物、および/または、アルカリ土類金属ハロゲン化物を含む、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属ハロゲン化物は、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、および、CsIの少なくとも1つである、請求項5に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ土類金属ハロゲン化物は、MgF、CaF、SrF、BaF、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MgBr、CaBr、SrBr、BaBr、MgI、CaI、SrI、および、BaIの少なくとも1つである、請求項5または請求項6に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
前記溶融塩中に、窒化対象元素の窒化物結晶を配置するステップを備える、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236732(P2012−236732A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105809(P2011−105809)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(506360310)アイ’エムセップ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】