説明

窒素含有官能基を有する繊維集合体

【課題】
BET比表面積が小さくても、低温であってもアルデヒド類ガスをすばやく除去することができるケミカルフィルターを提供することを課題とする。
【解決手段】
平均繊維径が0.02〜1μmの繊維からなる繊維集合体シートであり、BET比表面積が100m/g以下であって、窒素含有官能基を持つことを特徴とするケミカルフィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC等を除去する繊維集合体に関し、更に詳しくは、低温でのガス状アルデヒド類をすばやく除去することができる繊維集合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の室内や自動車の車内等におけるタバコ臭の除去を主目的に除去剤を含有したシート材料、またはそれ自体が除去剤として機能するシート材料が広く用いられている。これらは、タバコ臭の主成分であるアセトアルデヒド、あるいはシックハウスの原因物質とされるホルムアルデヒド等の除去材料として広く用いられている。
【0003】
活性炭はVOC(揮発性有機化合物)等を吸着する材料として知られているが、低分子で高極性の有機物質(例えば、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)を除去することは困難とされている。一般的には、活性炭にアミン類を担持させ、化学吸着によって吸着除去性能を高めたものが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、アミン類の薬剤を担持させる技術においては、担持させたアミン類が熱的に不安定なため、性能が劣化してしまう問題がある。
【0005】
一方、ガス状のアルデヒド類の除去材として酸化鉄等の金属酸化物が近年注目されている。(例えば非特許文献1参照)。
【0006】
しかし、これら金属酸化物は高温状態では十分な除去性能を得られるが、低温で高い除去性能を得ることは困難である。ここでいう低温とは50℃以下のことを言う。
【0007】
また、上記に示した、アミン類の薬剤や金属酸化物を活性炭などの担持体へ担持させる手法は、半乾燥担持法、沈殿担持法、溶剤蒸発法、平衡吸着担持法、イオン交換法等の公知の手法で、種々存在する。しかし、アミン類の薬剤や金属酸化物が活性炭の細孔深部へ吸着され、反応しない部分が生じることや、担持体に均一に分散しにくいことなど、技術的に問題がある。
【0008】
また、ポリアクリロニトリルを出発物質とした、窒素含有官能基を有した活性炭素繊維で、ガス状のアルデヒド類への優れた除去性能が示されている(非特許文献2参照)。
【0009】
ガス状有機物質の除去効率は、ガス状アルデヒド類などの対象物質と除去材との接触効率に関係する。繊維径を細くし、さらに活性炭素化によってBET比表面積を大きし、接触効率を高める検討も報告されている(非特許文献3参照、非特許文献4参照)。
【0010】
しかし、活性炭素化を行うには、500℃以上1300℃以下の温度で炭素と反応する水蒸気、酸素、二酸化炭素などを含む活性な雰囲気で賦活する必要があり、出発物質からの重量収率が大きく減少する。
【0011】
上記のように、アミン類の薬剤や金属酸化物などを担持せず、出発物質からの重量収率が高く、かつ低温でガス状アルデヒド類をすばやく除去できる繊維集合体が存在しないのが現状である。
【0012】
【特許文献1】特開昭56−53744号広報
【非特許文献1】Applied Catalysis B : Environmental, Vol.8, 405-415 (1996)
【非特許文献2】Journal of Applied Polymer Science, Vol.106, 2151-2157 (2007)
【非特許文献3】第34回 炭素材料学会要旨集, 48-49 (2007)
【非特許文献4】Journal of Applied Polymer Science, Vol.102, 2454-2462 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、上記従来技術の課題を背景になされたものであり、BET比表面積が小さくても、低温でのアルデヒド類ガスをすばやく除去することができる耐熱性を持ったケミカルフィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意研究した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)平均繊維径が0.02〜1μmの繊維からなり、BET比表面積が100m/g以下であって、窒素含有官能基を持つことを特徴とする繊維集合体。
(2)該繊維集合体がシート状であることを特徴とする、(1)に記載の繊維集合体。
(3)空気中300℃、5時間での熱処理における重量の減量が10%以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の繊維集合体。
(4)FT−IR測定にて1500〜1700cm−1の間にピークを有することを特徴とする(1)から(3)いずれかに記載の繊維集合体。
(5)本文記載のホルムアルデヒド除去評価において、除去量が0.5mg/g以上あることを特徴とする(1)〜(4)いずれかに記載の繊維集合体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の繊維集合体によれば、低温で迅速にホルムアルデヒドを除去することが可能となり、例えば、家庭用空調機、自動車用空調機に用いた場合、極めて短時間で空気を浄化できる。また、本発明の繊維集合体は、粉末や粒状の除去材または除去材担持体を用いていないため、改めてシート化する必要がなく、脱落する可能性がないため、取扱い性に優れる。さらに、従来の活性炭素繊維を用いた薄い不織布やペーパーなどの繊維集合体に対して、出発物質から活性化した際の重量収率が高く経済的である。その上、より薄いシートで効果を発現できるため、設置スペースの自由度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の繊維集合体は、平均繊維径が0.02〜1μmの繊維からなるシートであって、BET比表面積が100m/g以下であり、窒素含有官能基を持つことである。
本願発明者らは、窒素官能基が優れたガス状アルデヒド類の吸着性能を有することを見出した。しかし、窒素官能基を単に付与するのみでは充分な性能を得ることができず、ガス状アルデヒド類との接触効率を大きくする必要があった。接触効率を大きくする手段として、BET比表面積を高めることが一般的に知られているが、BET比表面積を100m/g以上とするには、500℃以上1300℃以下の温度で炭化、さらには炭素と反応する水蒸気、酸素、二酸化炭素などを含む活性な雰囲気で賦活する活性炭化工程が必要であり、出発物質からの重量収率が著しく減少するだけでなく窒素含有官能基も減少する。そこで、BET比表面積を100m/g以下とする一方、平均繊維径を0.02〜1μmの繊維集合体からなるシート材料として外表面積を大きくして接触効率を高めつつも、シート材料としての剛性も保ち、優れたガス状アルデヒド類の吸着性能を有する繊維集合体が得られることを本願発明者らは見出した。より好ましくは、平均繊維径0.05〜0.7μm、BET比表面積80m/g以下、更に好ましくは、平均繊維径0.07〜0.3μm、BET比表面積50m/g以下である。BET比表面積の下限は特に問題にならないが、0.01m2/gが測定下限である。
【0017】
本発明の繊維集合体を得る手段を、例として具体的に説明する。
本発明における繊維集合体は、窒素含有官能基を持つ樹脂を出発物質とし、耐熱化することを特徴とする。ここでいう耐熱化とは、出発物質を空気中で熱処理する耐炎化だけでなく、さらにその耐炎化物を不活性雰囲気中で炭化する処理も含む。
【0018】
窒素含有官能基を持つ樹脂として、例えば、アクリル樹脂、アミド樹脂、アラミド樹脂、イミド樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂などがあげられる。またそれらの成分を含んだ、共重合やブレンドなどの手法で混合された混合樹脂を用いてもかまわない。その中でも、アクリル樹脂の一種であるポリアクリトニトリルを出発物質とするのが望ましい。耐熱化を行うにあたり、窒素含有官能基が残りやすく好ましい。また、耐熱化を行っても重量収率が高いため好ましい。
【0019】
さらにその中でも、酸性分(カルボン酸など)を有する成分を共重合させた、変性ポリアクリロニトリルを出発物質とすることが望ましい。変性をしない場合、急激な反応が起きる場合があり、制御が困難である。変性をすることで反応開始点を局所化し制御が容易になる。
【0020】
本発明の繊維集合体を構成する極細繊維を得る手段は特に限定されないが、荷電紡糸法によることが好ましい。ここでいう荷電紡糸法とは、捕集基盤をアースに繋がった電極上にセットし、前駆体となる樹脂を溶解した溶液を注射器の筒状の容器に入れ、注射器の先端部の溶液噴出ノズルに電圧をかけ、捕集基材に噴出することで前駆体の繊維集合体を得るものである。
【0021】
前駆体の繊維集合シートの耐炎化処理は、空気雰囲気中で温度範囲200〜300℃で熱処理する。耐炎化は、バッチ式焼成炉でも連続焼成炉でもよい。
【0022】
さらに、この耐炎化処理を行った繊維集合体シートを300℃以上1300℃以下の温度の不活性雰囲気で炭化してもかまわない。1300℃を超える温度で行うと重量収率が大きく低下してしまうため好ましくない。また、300℃未満の耐炎化処理以下の温度では炭化はされない。
【0023】
本発明の繊維集合体は、空気中300℃、5時間での熱処理における重量の減量が10%以下である耐熱性を持つことが好ましい。かかる耐熱性を有することにより、消費者等の使用時の安全性が高いからである。減量の下限は特に問題にならないが、1%を下回ることは市場の要請が乏しい一方で、技術的な困難性が高くなる。
【0024】
本発明の繊維集合体は、FT−IR測定にて、1500〜1700cm−1の間にピークを有することが望ましい。このピークは窒素を含有するアミン基またはピリジン基に由来されるピークであり、これによるアルデヒド類との化学吸着が可能なためである。
【0025】
本発明の繊維集合体は、本文記載のホルムアルデヒド除去評価において、除去量が0.5mg/g以上あることが好ましい。かかる性能を満たす、窒素含有量、繊維径、BET比表面積の繊維集合体とすることにより、市場の要請に充分に応えることができるからである。除去量の上限は特に問題にならないが、本評価法による上限2.5mg/gである。
【0026】
本発明の繊維集合体は、アルデヒド除去材に用いることが好ましい。本発明の繊維集合体は特にアルデヒド除去性能に優れるため、かかる用途に用いると、特に有用であるからである。
【実施例】
【0027】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。また以下の各実施例における評価項目は以下のとおりの手法にて実施した。
【0028】
(重量収率)
ホルムアルデヒド除去評価用のサンプル作成における熱処理前後での絶乾重量を測定し、重量収率(%)を算出した。
【0029】
(平均繊維径)
走査型電子顕微鏡鏡にて10000倍または1000倍に拡大した写真から計30点の繊維径を測定し、平均したものを平均繊維径(単位μm)とした。
【0030】
(BET比表面積)
サンプル約10mgを採取し、120℃12時間真空乾燥して秤量し、自動比表面積装置ジェミニ2375(マイクロメトリックス社製)を使用し、液体窒素の沸点(−195.8℃)における窒素の吸着量を相対圧0.02から0.95の範囲で徐々に高めながら40点測定し、上記サンプルで吸着等温線を作成した。相対圧0.02〜0.15での結果をBETプロットし、重量あたりのBET比表面積(m/g)を求めた。
【0031】
(FT−IR測定)
日本分光社製フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR6100)にて分解能4cm−1、積算16回で測定し、1500〜1700cm−1のアミンまたはピリジンに由来されるピークの有無を評価した。
【0032】
(耐熱性評価)
乾燥させたサンプル約100mgの重量を熱処理前の重量とし、電気炉にて空気雰囲気下5℃/minで300℃まで昇温し5時間保持したサンプルを乾燥させ、その重量を熱処理後の重量とし、熱処理前後の重量から減量率(%)を算出した。ここで言う乾燥とは、120℃、3時間の真空雰囲気(真空度1.3Pa以下)処理のことである。
【0033】
(ホルムアルデヒド除去評価)
5Lのテドラーバッグ中に、N希釈によりホルムアルデヒドの濃度を約4ppmにしたガス、およびサンプル約10mgを封入した。中に入っているホルムアルデヒドを含むガスをサンプルが十分に接触するようにテドラーバッグを適宜振った。なお、テドラーバッグ周囲の雰囲気温度は25℃とした。60分後のテドラーバッグ内のホルムアルデヒド濃度を電気化学式燃料電池法のホルムアルデヒドメーターにて測定し、除去前後のホルムアルデヒドの濃度変化から、ホルムアルデヒドのサンプル重量あたりの除去量(mg/g)を算出した。
【0034】
(実施例1)
アクリロニトリルとメタクリル酸のモル比が98:2の変性ポリアクリロニトリル樹脂をN、N−ジメチルアセトアミドに溶解させた溶液からエレクトロスピニング法によって繊維集合体シートを作成した。この繊維集合体シートを、空気雰囲気中で昇温速度5℃/minで300℃まで昇温し、60分間保持させ、耐炎化繊維集合体シートを得た。熱処理前後の重量変化から、重量収率(%)を算出した。上記繊維集合体シートを基材から剥離させ、平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0035】
(実施例2)
実施例1で作成した耐炎化繊維集合体シートを不活性雰囲気中で昇温速度5℃/minで600℃まで昇温し5分保持させ、炭化繊維集合体シートを得た。熱処理前後の重量変化から、重量収率(%)を算出した。この炭化繊維集合体シートを基材から剥離させ、平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0036】
(比較例1)
ポリアクリロニトリル系耐炎化繊維ラスタン(旭化成製)を不活性雰囲気中で昇温速度5℃/minで600℃まで昇温し5分間炭化させ炭素繊維を得た。熱処理前後の重量変化から、重量収率(%)を算出した。得られた炭素繊維で平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0037】
(比較例2)
ノボラック型フェノール樹脂をメタノールに溶解させた溶液から荷電紡糸法によって、フェノール系繊維集合体シートを得た。このフェノール系繊維集合体シートを基材から剥離させ、不活性雰囲気中で昇温速度5℃/minで900℃まで昇温し30分間炭化させ、フェノール系炭化繊維集合体シートを得た。熱処理前後の重量変化から、重量収率(%)を算出した。得られたフェノール系炭化繊維集合体シートで平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0038】
結果を表1に示す。表1で明らかなように、本発明である実施例1及び2は、FT−IR測定でピークを有しBET比表面積が100m/g以下であるが、繊維径が1μm以上の場合(比較例1)、また、繊維径が0.02〜1μmであるがFT−IR測定でピークがなく、かつ、BET比表面積が100m/g以上の場合(比較例2)と比較して、高い除去効率であることがわかる。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、BET比表面積が小さくて低温でのアルデヒド類ガスの除去性能に優れたケミカルフィルターを単独、あるいはそれを部材の一部とした除去フィルターとしての利用が容易であることから、産業界に大きく寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が0.02〜1μmの繊維からなり、BET比表面積が100m/g以下であって、窒素含有官能基を持つことを特徴とする繊維集合体。
【請求項2】
該繊維集合体がシート状であることを特徴とする、請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項3】
空気中300℃、5時間での熱処理における重量の減量が10%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維集合体。
【請求項4】
FT−IR測定にて1500〜1700cm−1の間にピークを有することを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の繊維集合体。
【請求項5】
本文記載のホルムアルデヒド除去量の評価において、除去量が0.5mg/g以上あることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の繊維集合体。

【公開番号】特開2009−249771(P2009−249771A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99474(P2008−99474)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】