説明

立体映像表示装置

【課題】裸眼で観察可能な立体映像表示装置及において、低消費電力で良好な画質を表現でき、且つ、装置の背景を透視可能な立体映像表示装置を提供する。
【解決手段】指向性を有する光線を射出する光源と、光源から射出された光線を制御信号に基づいて任意の方向に偏向する光線走査手段3と、入射光線の位置と角度に応じて光線を偏向する光線偏向光学系4を有する構成とし、前記光源と光線走査手段3と光線偏向光学系4が互いの位置関係が動かないように固定されて光線再生ユニット2を構成し、光源と光線偏向手段3の制御と同期させながら光線再生ユニット2を、回転板1によって回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体映像表示装置に関し、特に、裸眼で観察可能な立体映像表示装置に関するものである
【背景技術】
【0002】
従来から、立体映像を表現する技術については種々の試みがなされており、映画、テレビジョン及びエンターテインメント等の映像を扱う多くの分野で、立体映像に関する画像表示方法が研究され、実用化されてきている。
【0003】
立体映像表示方法の中でも特に、インテグラルフォトグラフィ法、または光線再生法などの表示方法は、視差だけでなく、物体の焦点位置も再現できるため、より現実に近い映像を表現できる。但し、これらの立体映像表示方法では、出力映像における各画素から各方向に放射する光線を表現する必要があり、対応する立体映像表示装置は出力光の方向を制御する必要がある。
【0004】
上記立体映像表示装置の従来例としては、特許文献1に示す立体映像表示装置がある。特許文献1では、複数のLEDと1つのスリットからなる表示ユニットで構成されている。各表示ユニットにおいて、スリットから出射する各方向の光束は各LEDに対応する。この表示ユニットを円状に配置し、回転させることで、裸眼観察可能な全周立体表示を行っている。
【0005】
また、非特許文献1の全周立体表示装置では、円周状に配置されたLEDアレイとスリット(パララックスバリア)で構成される。LEDアレイとスリットは互いに逆方向に回転し、LEDアレイに比べてスリットは高速に回転している。LEDとスリットの位置に応じてLED発光を同期させて、各スリットから出射する光束の方向と強度を制御することで、特許文献1と同様に裸眼観察可能な全周立体表示を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−97013号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T. Endo, et al., “Ray-Based Acqusition and Reproduction of 360-degree 3D Images”, IDW’09, p2037(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1または非特許文献1に示す例おいては、より自然な立体映像を表示するためにはスリットの幅を狭めて出射光の角度分解能を向上させる必要がある。その場合、スリットの幅に応じてLED光の利用効率が低下するので、所望の明るさを得るために必要な電力が増大する。
【0009】
また、上記例では、立体映像表示装置はスリットを構成する遮光板からなる円柱状の形状となるので、表示できる映像は円柱状の黒い空間中に物体が浮かんだものに限定される。
【0010】
本発明は、裸眼で観察可能な立体映像表示装置及において、低消費電力で良好な画質を表現でき、且つ、装置の背景を透視可能な立体映像表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の立体映像表示装置は、指向性を有する光線を射出する光源と、光源から射出された光線を制御信号に基づいて任意の方向に偏向する光線走査手段と、入射光線の位置と角度に応じて光線を偏向する光線偏向光学系を有する立体映像表示装置において、前記光源と光線走査手段と光線偏向光学系が互いの位置関係が動かないように固定されて光線再生ユニットを構成し、光源と光線偏向手段の制御と同期させながら光線再生ユニットを移動させることで立体映像を表示することを特徴としている。
【0012】
また、光線偏向光学系が水平方向、鉛直方向いずれか一方向に対しては、入射光線を入射位置・角度に応じた方向に偏向する光学系であり、且つ、他方向に対しては入射光線を拡散する光学系とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スリット等による光線の遮蔽が無く、光源の出力を100%利用できるため、低い消費電力で映像表示が可能となる。また、表示領域に光線偏向光学系以外の遮蔽物が存在しないため、立体映像と背景を同時に観察可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における基本構成を示す概略図である。
【図2】本発明において、鉛直方向に視差を設定しない場合の光線再生ユニットの構成例である。
【図3】本発明において、鉛直方向に視差を設定しない場合の光線再生ユニットの構成例である。
【図4】本発明において、光線走査手段として2軸MEMSミラーを用いた場合の構成例である。
【図5】本発明において、光線偏向光学系として水平方向において凸レンズを用いた場合の構成例である。
【図6(a)】本発明において、レンズとミラーを組み合わせた光線再生ユニットの上面構成例である。
【図6(b)】本発明において、レンズとミラーを組み合わせた光線再生ユニットの側面構成例である。
【図7】本発明において、光線偏向光学系として水平方向において凸面ミラーを用いた場合の構成例である。
【図8】本発明において、水平方向の光線偏向をMEMSミラーで直接行った場合の構成例である。
【図9】本発明において、鉛直方向に視差を設定しない場合の光線偏向光学系の構成例である。
【図10】本発明において、図9の構成に補助レンズを追加した場合の構成例である。
【図11】本発明において、鉛直方向に視差を設定する場合の光線偏向光学系の構成例である。
【図12】本発明の1実施例において、光線偏向光学系に入射する光線の軌跡を示した図である。
【図13(a)】本発明において、光線走査の戻りも利用した実施例の光線偏向光学系に入射する光線の一方の軌跡である。
【図13(b)】本発明において、光線走査の戻りも利用した実施例の光線偏向光学系に入射する光線の他方の軌跡である。
【図14】本発明において、鉛直方向の各画素毎に水平走査を行った実施例における光線偏向光学系に入射する光線の軌跡である。
【図15】本発明において、光線再生ユニットを複数配置した場合の構成例である。
【図16】本発明において、1つの光線再生ユニットに対して複数の光源及び光線走査手段を備えた場合の構成例である。
【図17】本発明において、複数の光源及び光線走査手段、または複数の光線再生ユニットを設置した場合の構成例である。
【図18】本発明において、立体映像の背景を不透過にする場合の構成例である。
【図19】本発明において、立体映像と展示物の両方を観察できるようにする場合の構成例である。
【図20】本発明における光線再生ユニット移動軌道の1実施例である。
【図21】本発明における光線再生ユニット移動軌道のもう1つの実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態例を説明する。図1は本発明における基本構成を示す概略図(上面図)である。本構成は、光源及び光線走査手段3と光線偏向光学系4から成る光線再生ユニット2を有し、この光線再生ユニット2を回転板1によって回転させる構成となっている。光源で指向性を持った光線が生成され、光線走査手段によって偏向光学系4に対して所望の位置・角度で光線を入射させる。偏向光学系4は、光線の入射位置・角度に応じて光線を偏向させる。結果、光線走査手段と偏向光学系4によって、光線を出力方向を制御することができる。更に、走査によって各方向に光線を出力しながら光線再生ユニット2を回転させることで、水平360°全方向に対して立体映像の光線を再生することができる。
【0016】
図2は鉛直方向には視差を設定しない場合の光線再生ユニット2を側面から見た図である。光線走査手段によって鉛直方向に光線を走査し、それに光源の出力を同期させることで鉛直方向の画素を表現する。偏向光学系4において光線を鉛直方向に拡散させることで、鉛直方向広範囲に渡って映像を観察することができる。
【0017】
図3は鉛直方向にも視差を設定した場合の光線再生ユニット2を側面から見た図である。偏向光学系4は偏向ブロック5が鉛直方向に並んだ構造であり、各偏向ブロックにおいて入射位置・方向に応じて光線が偏向される。
【0018】
光源の具体例としてはレーザー光源がまず挙げられるが、他にも、LED光源に対してスリットやレンズ等を用いて出力光に指向性を持たせる構成にしても良い。更に、LED光源以外にも蛍光管、放電ランプ、或いは出力波長が蛍光体の発光波長より短いレーザー・LED等によって励起された蛍光体を光源として、上記と同様にスリット、レンズ等を用いて出力光に指向性を持たせた構成にしても良い。
【0019】
光線走査手段の具体例としては、電気光学効果、音響光学効果を用いた光学素子、或いは、ガルバノミラー、またはMEMSミラーなどがある。図4は2軸MEMSミラーを用いた場合の1実施例である。
【0020】
図5は光線偏向光学系4として水平方向において凸レンズを用いた場合の実施例である(上面図)。図から明らかなように、凸レンズへの入射位置・角度によって光線の方向を制御することができる。凸レンズの代わりに凹レンズを用いても良い。
【0021】
また図6(a)と図6(b)のように水平方向において凹面、鉛直方向において凸面となるようなミラー9と組み合わせれば光線再生ユニット2の長さを短く、且つ、凸レンズ8によって偏向される光線の角度を広範囲に振ることが可能となる。
【0022】
図7は光線偏向光学系4として水平方向において凸面ミラー10を用いた場合の実施例である。レンズの代わりにミラーを使用することで、色収差による色毎の光線のずれを抑制することができる。凸面ミラーの代わりに凹面ミラーを用いても良い。ミラー面の材質はアルミ等の金属の他、誘電体多層膜を用いても良い。特に、光源の波長のみを反射し、他の波長を透過するように設計された誘電体多層膜を用いた場合、光線偏向光学系4による装置背景の遮蔽が抑えることができる。
【0023】
図8は水平方向の光線偏向をMEMSミラーで直接行った場合の実施例である。光線偏向光学系11は水平方向の偏向は行わず、鉛直方向のみ偏向させる。光線偏向光学系11の水平方向断面の形状は長方形でも良いが、図の様にMEMSミラーを中心とする円周状とすることで色収差を抑制できる。
【0024】
図9は鉛直方向に視差を設定しない場合の光線偏向光学系4の実施例である(側面図)。図の様にレンチキュラレンズを光線の幅と同程度あるいはそれ以下のピッチで配置することにより光線を鉛直方向に拡散させる。図では凸レンズを用いているが、凹レンズを用いてもよい。
【0025】
また図10に示すように補助レンズ12を直前に設置して光線を水平方向に向けることで、画素毎の鉛直方向の均一性が向上し、観察可能範囲を拡大することができる。補助レンズ12は光線偏向光学系4と一体であってもよい。
【0026】
図11は鉛直方向に視差を設定する場合の光線偏向光学系4の実施例である。レンチキュラレンズを光線の幅より十分大きいピッチで配置することにより各レンズ内の光線入射位置・角度に応じて光線偏向させることができる。図では凸レンズを用いているが、凹レンズを用いてもよい。また図10と同様に補助レンズ12を設置しても良い。
【0027】
以下に本発明における立体映像表示装置の動作方法の一例を説明する。図12は光線偏向光学系4に入射する光線の軌跡を示したものである(正面図)。この場合、鉛直方向の走査周波数を20 kHz、偏向方位数を10とすると、水平方向の走査周波数は1 kHzとなる。また鉛直方向の画素数を480とすると、光源に必要な変調周波数は約19.2 MHzとなる。更に、光線再生ユニット2を1°回転させる毎に上記光線走査を行った場合、光線再生ユニット2の回転周波数は約2.8 Hzとなる。
【0028】
また図13(a)、(b)の走査を、光線再生ユニット2の単位回転角毎に交互に行い、光線走査の戻りも映像出力に利用することで、偏向方位数、光線再生ユニット2の回転角度分解能、あるいは光線再生ユニット2の回転周波数を向上させることができる。また、図14に示すように鉛直方向の各画素毎に水平走査を行っても良い。
【0029】
図15は光線再生ユニット2を複数配置した実施例である。光線再生ユニット2の数に応じて、偏向方位数、光線再生ユニット2の回転角度分解能、あるいは光線再生ユニット2の回転周波数を向上させることができる。また光線偏向光学系にレンズを用いている場合、色毎に光線再生ユニット2を形成し、色毎に駆動することで色収差を抑えることができる。
【0030】
図16は1つの光線再生ユニットにおいて、複数の光源及び光線走査手段を有する場合の実施例である。この場合においても、上記と同様に偏向方位数、光線再生ユニット2の回転角度分解能、あるいは光線再生ユニット2の回転周波数を向上させることができる。
【0031】
また図17のように複数の光源及び光線走査手段、複数の光線再生ユニットを設置しても同様の効果が得られる。
【0032】
上記実施例では、装置の背景を透視して観察することが可能だが、一方で図18に示す構成にすることで立体映像の背景を不透過にすることも可能である。図において遮蔽壁13は光線再生ユニットと同期して回転させる。更に、光線偏向光学系4に対して色素や誘電体多層膜などを用いて光源波長以外の光を吸収するようにすれば、立体映像の背景をより黒くすることができる。光線偏向光学系4の前面にARコートなど反射防止処理を行えば、外光反射が抑制されて立体映像に対して明室下でも良好な視認性が得られる。
【0033】
本発明の立体映像表示装置は装置の背景を透視しつつ立体映像を観察することができる。この特長を利用した実施例を図19に示す。図は本装置を側面から見た断面図である。本実施例では装置の中央に展示台14を設置し、その上に展示物15を設置できる構造となっている。展示台14は光線再生ユニットとは独立しており、固定、または独立に回転させることができる。本実施例において、観察者は本装置から出力される立体映像と展示物の両方を観察することができる。従って、展示物に立体映像を重ね合わせたディスプレイを実現することができる。
【0034】
本発明の立体映像表示装置において、光線再生ユニットは同心円状の回転に限らず、図20、図21に示すように平面状のディスプレイとしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…回転台、2…光線再生ユニット、3…光源及び光線走査手段、
4…光線偏向光学系、5…偏向ブロック、6…光源、7…MEMSミラー、
8…凸レンズ、9…ミラー、10…凸面ミラー、11…光線偏向光学系、
12…補助レンズ、13…遮蔽壁、14…展示台、15…展示物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向性を有する光線を射出する光源と、前記光源から射出された光線を制御信号に基づいて任意の方向に偏向する光線走査手段と、入射光線の位置と角度に応じて光線を偏向する光線偏向光学系を有する立体映像表示装置において、
前記光源と光線走査手段と光線偏向光学系は、互いに固定の位置関係で光線再生ユニットを構成し、
光源と光線偏向手段の制御と同期して前記光線再生ユニットを移動させることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の立体映像表示装置において、光源がレーザーであることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項3】
請求項1に記載の立体映像表示装置において、光源が光生成装置と、光生成装置から発生した光に指向性を持たせる光制御系で構成されることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項4】
請求項3に記載の立体映像表示装置において、前記光制御系がスリット、またはピンホールで構成されることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項5】
請求項3に記載の立体映像表示装置において、前記光制御系がレンズで構成されることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項6】
請求項3〜5に記載の立体映像表示装置において、光生成装置がLEDあることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項7】
請求項3〜5に記載の立体映像表示装置において、光生成装置が蛍光体と蛍光体励起光源で構成されることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の立体映像表示装置において、光線走査手段がMEMSミラーで構成されることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の立体映像表示装置において、光線偏向光学系が水平方向、鉛直方向いずれか一方向に対しては、入射光線を入射位置・角度に応じた方向に偏向する光学系であり、且つ、他方向に対しては入射光線を拡散する光学系であることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項10】
請求項9に記載の立体映像表示装置において、入射光線を拡散する光学系がレンズで構成されることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項11】
請求項1〜10に記載の立体映像表示装置において、光線偏向光学系が光の屈折を利用したレンズで構成されることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項12】
請求項1〜10に記載の立体映像表示装置において、光線偏向光学系が光の反射を利用したミラーで構成されることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項13】
請求項1〜10に記載の立体映像表示装置において、光線偏向光学系が光の屈折を利用したレンズと、光の反射を利用したミラーの組み合わせで構成されることを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項14】
請求項1〜13に記載の立体映像表示装置において、1つの光線偏向光学系に対して2つ以上の光源及び光線走査手段を有することを特徴とする立体映像表示装置。
【請求項15】
請求項1〜14に記載の立体映像表示装置において、光線再生ユニットが移動する軌道の内側に、展示物を設置可能なステージを有することを特徴とする立体映像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13(a)】
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【図13(b)】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−58291(P2012−58291A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198458(P2010−198458)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(509189444)日立コンシューマエレクトロニクス株式会社 (998)
【Fターム(参考)】