説明

立体視画像表示方法および装置

【課題】立体視画像を構成する2枚の放射線画像において所定の関心領域を抜き出して拡大表示する際、観察者に負担をかけることなく、関心領域を観察し易い拡大立体視画像を表示する。
【解決手段】互いに異なる2つの撮影方向からの被写体への放射線の照射によって放射線画像検出器により検出された撮影方向毎の放射線画像を取得し、その取得した2つの放射線画像に基づいて立体視画像を表示部に表示する立体視画像表示方法において、2つの放射線画像において互いに対応する関心領域の情報を取得し、その取得した関心領域を含む放射線画像内の一部の範囲の放射線画像に対して、拡大処理を含み関心領域の奥行位置が表示部の表示面となるような画像処理を施し、画像処理を施した2つの一部の範囲の放射線画像に基づいて、一部の範囲の立体視画像を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに異なる2つの撮影方向から放射線を被写体へ照射して撮影方向毎の放射線画像を検出し、その検出した2つの放射線画像を用いて立体視画像を表示する立体視画像表示方法および装置であって、特に、放射線画像内における関心領域を含む一部の範囲を拡大して拡大立体視画像を表示する立体視画像表示方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の画像を組み合わせて表示することにより、視差を利用して立体視できることが知られている。このような立体視できる画像(以下、立体視画像またはステレオ画像という)は、同一の被写体を異なる方向から撮影して取得された互いに視差のある複数の画像に基づいて生成される。
【0003】
そして、このような立体視画像の生成は、デジタルカメラやテレビなどの分野だけでなく、放射線画像撮影の分野においても利用されている。すなわち、被検者に対して互いに異なる方向から放射線を照射し、その被検者を透過した放射線を放射線画像検出器によりそれぞれ検出して互いに視差のある複数の放射線画像を取得し、これらの放射線画像に基づいて立体視画像を生成することが行われている。そして、このように立体視画像を生成することによって奥行感のある放射線画像を観察することができ、より診断に適した放射線画像を観察することができる。
【0004】
そして、さらに上述したような立体視画像を表示する装置においても、2次元の放射線画像を表示する装置と同様に、診断精度の向上を図るためにCAD(computer aided diagnosis)により病変検出を行うことが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
ここで、CADを用いた2次元の放射線画像を表示する装置においては、CADによって検出された病変近傍などの一部を拡大して表示することが行われており、上述したような立体視画像を表示する装置においても、このような拡大表示ができることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−337200号公報
【特許文献2】特開平8−223609号公報
【特許文献3】特開2008−167310号公報
【特許文献4】特開2006−140822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、立体視画像を構成する2枚の放射線画像において病変近傍を抜き出して拡大表示する際、単純に放射線画像の一部を抜き出して拡大処理を施しただけでは病変近傍の放射線画像の視差量も拡大されてしまい病変近傍の立体視画像が画面上から非常に飛び出して見えたりする場合があり、観察者が立体視するのに負担がかかったり、観察しづらい立体視画像となる場合がある。
【0008】
なお、特許文献2や特許文献3においては、観察者の注視点が表示面と一致するように調整することが記載されており、特許文献4には2枚の画像をシフトすることにより視差を調整することが記載されているが、上述したような一部拡大表示した際の問題点については何も開示していない。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑み、立体視画像を構成する2枚の放射線画像において、所定の関心領域を抜き出して拡大表示する際、観察者に負担をかけることなく、関心領域を観察し易い拡大立体視画像を表示することができる立体視画像表示方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の立体視画像表示方法は、互いに異なる2つの撮影方向からの被写体への放射線の照射によって放射線画像検出器により検出された撮影方向毎の放射線画像を取得し、その取得した2つの放射線画像に基づいて立体視画像を表示部に表示する立体視画像表示方法において、2つの放射線画像において互いに対応する関心領域の情報を取得し、その取得した関心領域を含む放射線画像内の一部の範囲の放射線画像に対して、拡大処理を含み関心領域の奥行位置が表示部の表示面となるような画像処理を施し、画像処理を施した2つの一部の範囲の放射線画像に基づいて、一部の範囲の立体視画像を表示することを特徴とする。
【0011】
本発明の立体視画像表示装置は、互いに異なる2つの撮影方向からそれぞれ放射線を被写体へ照射し、その放射線の照射により放射線画像検出器によって検出された撮影方向毎の放射線画像を取得する放射線画像取得部と、放射線画像取得部によって取得された2つの放射線画像に基づいて立体視画像を表示する表示部とを備えた立体視画像表示装置において、2つの放射線画像において互いに対応する関心領域の情報を取得する関心領域情報取得部と、関心領域を含む2つの放射線画像内の一部の範囲の放射線画像に対して、拡大処理を含み関心領域の奥行位置が表示部の表示面となるような画像処理を施す画像処理部とを備え、表示部が、画像処理の施された2つの一部の範囲の放射線画像に基づいて、一部の範囲の立体視画像を表示するものであることを特徴とする。
【0012】
また、上記本発明の立体視画像表示装置は、画像処理部を、2つの放射線画像において被写体の同一の範囲が投影された範囲を一部の範囲として特定し、その特定した一部の範囲の放射線画像に対して拡大処理を施すとともに、その拡大処理の施された一部の範囲の放射線画像に対し、関心領域の奥行位置が表示部の表示面となるようにシフト処理を施すものとできる。
【0013】
また、画像処理部を、2つの放射線画像における各関心領域が一部の範囲内において同じ位置に配置されるように一部の範囲を特定し、その特定した一部の範囲の放射線画像に対して拡大処理を施すものとできる。
【0014】
また、関心領域情報取得部を、2つの放射線画像内における異常陰影を関心領域として自動的に検出するものとできる。
【0015】
また、2つの放射線画像における各関心領域を囲むようなマーカー画像をそれぞれ生成するマーカー画像生成部を設け、表示部を、マーカー画像を用いて立体視可能なマーカー表示を行うものとできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の立体視画像表示方法および装置によれば、2つの放射線画像において互いに対応する関心領域の情報を取得し、その取得した関心領域を含む放射線画像内の一部の範囲の放射線画像に対して、拡大処理を含み関心領域の奥行位置が表示部の表示面となるような画像処理を施し、その画像処理を施した2つの一部の範囲の放射線画像に基づいて、上記一部の範囲の立体視画像を表示するようにしたので、一部拡大表示した際においても、関心領域を表示面の位置に表示させることができ、観察者に負担をかけることなく関心領域を観察し易い拡大立体視画像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の立体視画像表示装置の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システムの概略構成図
【図2】図1に示す乳房画像撮影表示システムのアーム部を図1の右方向から見た図
【図3】図1に示す乳房画像撮影表示システムのコンピュータ内部の概略構成を示すブロック図
【図4】本発明の立体視画像表示装置の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システムの作用を説明するためのフローチャート
【図5】右目用放射線画像と左目用放射線画像とにおける異常陰影A1,A2と、右目用マーカー画像M1および左目用マーカー画像M2との一例を模式的に示した図
【図6】異常陰影を含む乳房のステレオ画像とマーカー画像との一例を模式的に示す図
【図7】拡大対象範囲R1と拡大対象範囲R2との一例を模式的に示す図
【図8】右目用拡大放射線画像と左目用拡大放射線画像に施されるシフト処理を説明するための図
【図9】ステレオ画像の飛び出し量ΔDFを説明するための図
【図10】両眼視差ΔPと飛び出し量でΔDFとの関係の一例を示すグラフ
【図11】(A)モニタに表示された拡大ステレオ画像の一例を模式的に示す図、(B)モニタの表示面を上方から見た図を模式的に示す図
【図12】本発明の立体視画像表示装置のその他の実施形態における拡大対象範囲の特定方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の立体視画像表示装置の一実施形態を用いた乳房画像撮影表示システムについて説明する。図1は、本実施形態の乳房画像撮影表示システム全体の概略構成を示す図である。
【0019】
本実施形態の乳房画像撮影表示システム1は、図1に示すように、乳房画像撮影装置10と、乳房画像撮影装置10に接続されたコンピュータ2と、コンピュータ2に接続されたモニタ3および入力部4とを備えている。
【0020】
そして、乳房画像撮影装置10は、図1に示すように、基台11と、基台11に対し上下方向(Z方向)に移動可能であり、かつ回転可能な回転軸12と、回転軸12により基台11と連結されたアーム部13を備えている。なお、図2には、図1の右方向から見たアーム部13を示している。
【0021】
アーム部13はアルファベットのCの形をしており、その一端には撮影台14が、その他端には撮影台14と対向するように放射線照射部16が取り付けられている。アーム部13の回転および上下方向の移動は、基台11に組み込まれたアームコントローラ31により制御される。
【0022】
撮影台14の内部には、フラットパネルディテクタ等の放射線画像検出器15と、放射線画像検出器15からの電荷信号の読み出しなどを制御する検出器コントローラ33が備えられている。
【0023】
また、撮影台14の内部には、放射線画像検出器15から読み出された電荷信号を電圧信号に変換するチャージアンプや、チャージアンプから出力された電圧信号をサンプリングする相関2重サンプリング回路や、電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換部などが設けられた回路基板なども設置されている。
【0024】
また、撮影台14はアーム部13に対し回転可能に構成されており、基台11に対してアーム部13が回転したときでも、撮影台14の向きは基台11に対し固定された向きとすることができる。
【0025】
放射線画像検出器15は、放射線画像の記録と読出しを繰り返して行うことができるものであり、放射線の照射を直接受けて電荷を発生する、いわゆる直接型の放射線画像検出器を用いてもよいし、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷信号に変換する、いわゆる間接型の放射線画像検出器を用いるようにしてもよい。また、放射線画像信号の読出方式としては、TFT(thin film transistor)スイッチをオン・オフされることによって放射線画像信号が読みだされる、いわゆるTFT読出方式のものや、読取光を照射することによって放射線画像信号が読み出される、いわゆる光読出方式のものを用いることが望ましいが、これに限らずその他のものを用いるようにしてもよい。
【0026】
放射線照射部16の中には放射線源17と、放射線源コントローラ32が収納されている。放射線源コントローラ32は、放射線源17から放射線を照射するタイミングと、放射線源17における放射線発生条件(管電流、時間、管電流時間積等)を制御するものである。
【0027】
また、アーム部13の中央部には、撮影台14の上方に配置されて乳房を押さえつけて圧迫する圧迫板18と、その圧迫板18を支持する支持部20と、支持部20を上下方向(Z方向)に移動させる移動機構19が設けられている。圧迫板18の位置、圧迫圧は、圧迫板コントローラ34により制御される。
【0028】
コンピュータ2は、中央処理装置(CPU)および半導体メモリやハードディスクやSSD等のストレージデバイスなどを備えており、これらのハードウェアによって、図3に示すような制御部8a、放射線画像記憶部8b、異常陰影検出部8c、マーカー画像生成部8d、画像処理部8eおよび表示制御部8fが構成されている。
【0029】
制御部8aは、各種のコントローラ31〜35に対して所定の制御信号を出力し、システム全体の制御を行うものである。具体的な制御方法については後で詳述する。
【0030】
放射線画像記憶部8bは、互いに異なる2つの撮影方向からの撮影によって放射線画像検出器15によって検出された2枚の放射線画像信号を予め記憶するものである。
【0031】
異常陰影検出部8cは、放射線画像記憶部8bに記憶された2枚の放射線画像信号が入力され、その2枚の放射線画像信号に対して異常陰影を検出するための異常陰影検出処理を施すものである。本実施形態においては異常陰影として石灰化や腫瘤などを検出する。異常陰影の検出方法については、異常陰影の濃度分布の特徴や形態的な特徴に基づいて検出するようにすればく、具体的には、主として腫瘤陰影を検出するのに適したアイリスフィルタ処理や、主として微小石灰化陰影を検出するのに適したモフォロジーフィルタ処理等を利用して異常陰影を検出するようにすればよい。異常陰影検出部8cにおける異常陰影の検出結果はマーカー画像生成部8dおよび拡大対象範囲特定部40に出力される。
【0032】
マーカー画像生成部8dは、異常陰影検出部8cから出力された検出結果に基づいて、異常陰影を囲むようなマーカー画像を生成するものであり、視差をもった右目用マーカー画像と左目用マーカー画像とをそれぞれ生成するものである。これらのマーカー画像は、モニタ3に表示されることによって立体視マーカー画像を構成するものである。具体的には、たとえば、立方体や直方体などのボックス形状のものや、ワイヤーフレームや、バルーンなどが立体視マーカー画像として表示されるように右目用マーカー画像と左目用マーカー画像とが生成される。マーカー画像生成部8dにおいて生成された右目用マーカー画像と左目用マーカー画像とは表示制御部8fに出力される。
【0033】
画像処理部8eは、拡大対象範囲特定部40と、拡大処理部41と、シフト処理部42とを備えている。
【0034】
拡大対象範囲特定部40は、2枚の放射線画像内の一部の範囲を拡大対象範囲として特定するものである。本実施形態においては、拡大対象範囲特定部40は、観察者によって入力部4を用いて指定された異常陰影の位置情報に基づいて、その異常陰影の位置を含む範囲であるとともに、2枚の放射線画像において被写体の同じ範囲が投影された一部の範囲を拡大対象範囲として特定するものである。拡大対象範囲の大きさは、予め設定しておくようにしてもよいし、観察者が、入力部4を用いて任意の大きさを設定可能にしてもよい。
【0035】
拡大処理部41は、拡大対象範囲特定部40によって特定された拡大対象範囲内の放射線画像信号に対して拡大処理を施すものである。拡大処理の拡大率については、予め設定しておくようにしてもよいし、観察者が、入力部4を用いて任意の拡大率を設定可能にしてもよい。
【0036】
シフト処理部42は、拡大処理部41において拡大処理の施された放射線画像信号に対して視差方向について相対的にシフトさせるシフト処理を施すものである。本実施形態においては、具体的には、拡大対象領域内の異常陰影のステレオ画像上における奥行位置がモニタ3の表示面となるようなシフト量でシフト処理を施すものである。
【0037】
表示制御部8fは、放射線画像記憶部8bから読み出された2枚の放射線画像信号に対して所定の処理を施した後、モニタ3に乳房Mの通常撮影のステレオ画像を表示させるものであるとともに、観察者による所定の異常陰影の拡大表示指示の入力が受け付けられた際には、シフト処理部42においてシフト処理の施された2枚の放射線画像信号に対して所定の処理を施した後、モニタ3に異常陰影を含む拡大対象範囲の拡大ステレオ画像を表示させるものである。
【0038】
入力部4は、たとえば、キーボードやマウスなどのポインティングデバイスから構成されるものであり、撮影者による拡大率を含む撮影条件などの入力や撮影開始指示の入力などを受け付けるものである。また、入力部4は、上述したように拡大表示対象の異常陰影の指定を受け付けたり、拡大対象範囲の大きさや拡大処理における拡大率の入力を受け付けるものである。
【0039】
モニタ3は、ステレオ画像の撮影時においては、コンピュータ2から出力された2つの放射線画像信号を用いてステレオ画像を表示可能なように構成されたものである。ステレオ画像を表示する構成としては、たとえば、2つの画面を用いて2つの放射線画像信号に基づく放射線画像をそれぞれ表示させて、これらをハーフミラーや偏光グラスなどを用いることで一方の放射線画像は観察者の右目に入射させ、他方の放射線画像は観察者の左目に入射させることによってステレオ画像を表示する構成を採用することができる。または、たとえば、2つの放射線画像を所定の視差量だけずらして重ね合わせて表示し、これを偏光グラスで観察することでステレオ画像を生成する構成としてもよいし、もしくはパララックスバリア方式およびレンチキュラー方式のように、2つの放射線画像を立体視可能な3D液晶に表示することによってステレオ画像を生成する構成としてもよい。
【0040】
次に、本実施形態の乳房画像撮影表示システムの作用について、図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0041】
まず、撮影台14の上に患者の乳房Mが設置され、圧迫板18により乳房Mが所定の圧力によって圧迫される(S10)。
【0042】
次に、入力部4おいて、撮影者によって種々の撮影条件が入力された後、撮影開始の指示が入力される(S12)。
【0043】
そして、入力部4において撮影開始の指示があると、乳房Mのステレオ画像を構成する2枚の放射線画像のうちの1枚目の放射線画像の撮影が行われる(S14)。
【0044】
具体的には、まず、制御部8aが、予め設定されたステレオ画像の撮影のための輻輳角θを読み出し、その読み出した輻輳角θの情報をアームコントローラ31に出力する。なお、本実施形態においては、このときの輻輳角θの情報としてθ=±2°が予め記憶されているものとするが、これに限らず、撮影者によって入力部4において任意の輻輳角を設定可能である。
【0045】
そして、アームコントローラ31において、制御部8aから出力された輻輳角θの情報が受け付けられ、アームコントローラ31は、この輻輳角θの情報に基づいて、図2に示すように、アーム部13が撮影台14に垂直な方向に対して+θ°回転するよう制御信号を出力する。すなわち、本実施形態においては、アーム部13を撮影台14に垂直な方向に対して+2°回転するよう制御信号を出力する。
【0046】
そして、このアームコントローラ31から出力された制御信号に応じてアーム部13が、+2°だけ回転した状態において、制御部8aは、放射線源コントローラ32および検出器コントローラ33に対して放射線の照射と放射線画像信号の読出しを行うよう制御信号を出力する。この制御信号に応じて、放射線源17から放射線が射出され、乳房を+2°方向から撮影した放射線画像が放射線画像検出器15によって検出され、検出器コントローラ33によって放射線画像信号が読み出され、その放射線画像信号に対して所定の信号処理が施された後、コンピュータ2の放射線画像記憶部8bに記憶される。
【0047】
次に、乳房Mのステレオ画像を構成する2枚の放射線画像のうちの2枚目の放射線画像の撮影が行われる(S16)。
【0048】
具体的には、アームコントローラ31が、図2に示すように、アーム部13を撮影台14に垂直な方向に対して−θ°回転するよう制御信号を出力する。すなわち、本実施形態においては、アーム部13を撮影台14に垂直な方向に対して−2°回転するよう制御信号を出力する。
【0049】
そして、このアームコントローラ31から出力された制御信号に応じてアーム部13が−2°だけ回転した状態において、制御部8aは、放射線源コントローラ32および検出器コントローラ33に対して放射線の照射と放射線画像信号の読出しを行うよう制御信号を出力する。この制御信号に応じて、放射線源17から放射線が射出され、乳房を−2°方向から撮影した放射線画像が放射線画像検出器15によって検出され、検出器コントローラ33によって放射線画像信号が読み出され、所定の信号処理が施された後、コンピュータ2の放射線画像記憶部8bに記憶される。
【0050】
次に、上述したようにして放射線画像記憶部8bに記憶された2枚の放射線画像信号は、異常陰影検出部8cに入力され、異常陰影検出部8cにおいて異常陰影検出処理が施されて放射線画像信号内の異常陰影が検出され(S18)、その検出された異常陰影の位置情報がマーカー画像生成部8dに入力される。
【0051】
そして、マーカー画像生成部8dは、異常陰影検出部8cから出力された異常陰影の位置情報に基づいて、異常陰影を囲むような右目用マーカー画像と左目用マーカー画像とをそれぞれ生成する(S20)。図5は、右目用放射線画像と左目用放射線画像とでそれぞれ検出された異常陰影A1,A2と、その異常陰影A1,A2の位置情報に基づいて生成された右目用マーカー画像M1と左目用マーカー画像M2とを模式的に示したものである。なお、図5に示す異常陰影A1と異常陰影A2とは同一の異常陰影を表すものとする。
【0052】
そして、放射線画像記憶部8bに記憶された2枚の放射線画像信号とマーカー画像生成部8dにおいて生成された右目用マーカー画像信号および左目用マーカー画像信号が、表示制御部8fに入力され、これらの信号に対して所定の処理が施された後、モニタ3に出力され、モニタ3において、乳房のステレオ画像とともにマーカー画像が表示される(S22)。図6は、モニタ3上に表示された異常陰影A3を含む乳房のステレオ画像と立体マーカー画像M3とを模式的に示したものである。
【0053】
次に、観察者が、異常陰影の近傍を拡大表示したいと考えた場合には、観察者によって入力部4を用いて拡大対象の異常陰影A3が指定される(S24)。そして、拡大対象の異常陰影の指定が受け付けられると、その指定された異常陰影の位置情報が拡大対象範囲特定部40に入力され、拡大対象範囲特定部40は、入力された異常陰影の位置情報に基づいて、その異常陰影の位置を含む拡大対象範囲を特定する(S26)。図7は、拡大対象範囲特定部40によって特定された拡大対象範囲R1と拡大対象範囲R2とを模式的に示したものである。
【0054】
そして、拡大対象範囲特定部40によって特定された拡大対象範囲の情報が拡大処理部41に入力され、拡大処理部41は、入力された拡大対象範囲内の放射線画像信号に対して拡大処理を施す(S28)。
【0055】
そして、拡大処理部41において拡大処理の施された放射線画像信号は、シフト処理部42に入力され、シフト処理部42は、入力された拡大処理済の放射線画像信号に対して、視差方向について相対的にシフトさせるシフト処理を施す(S30)。具体的には、本実施形態においては、図8に示すように、右目用拡大放射線画像と左目用拡大放射線画像との視差量が小さくなるとともに、異常陰影A1,A2のステレオ画像上における奥行位置がモニタ3の表示面となるようなシフト量でシフト処理を行う。
【0056】
なお、図8に示すように、拡大対象範囲内の右目用マーカー画像信号および左目用マーカー画像信号に対しても拡大処理およびシフト処理が施されるものとする。
【0057】
ここで、上述したシフト処理におけるシフト量について、以下に検討する。
【0058】
まず、一般的に、ステレオ画像の飛び出し量ΔDFは、下式(1)で示されることが知られている。なお、図9に示すように、ΔPは表示面における右目用画像Iと左目用画像Iとの両眼視差であり、Pは観察者の両眼間隔であり、Dは表示面と観察者との距離(観察距離)である。
【0059】
ΔDF=ΔP・D/(P+ΔP) ・・・ (1)
そして、たとえば、上式(1)において、観察者の両眼間隔Pを63mm、観察距離を30cmとすると、両眼視差ΔPと飛び出し量ΔDFとは、図10に示すような関係となる。
【0060】
ここで、本実施形態における放射線源17と放射線画像検出器15の検出面との距離をたとえば65cmとすると、−2°と+2°から撮影したときの平行移動距離は、約4.5cmとなる。したがって、そのまま等倍で表示すれば、4.5cmの両眼視差となり、観察距離を30cmとすると、図10に示すグラフから、飛び出し量は約12cmとなる。そして、たとえば、画像を2倍、3倍と拡大すると両眼視差は9cm、13.5cmと広がってしまい、両眼融像域を大きく超えてしまう。また、測定対象物は厚みがあるため、飛び出し量にさらに対象物分の厚みtが加算され、より融像が困難となりやすい。
【0061】
したがって、撮影時の2枚の放射線画像の視差と拡大率とから、上式(1)により飛び出し量ΔDFを換算し、さらに被写体厚みtと拡大率の積の和(ΔDF+t×拡大率)が、融像限界ΔDmaxを超えていないか判定し、超えている場合には、視差をΔDmaxより下げる方向に調整することが望ましい。なお、融像限界ΔDmaxは個人によって異なる為、予め飛出し量の違う画像を表示し、観察者の融像限界ΔDmaxを測定することが好ましい。
【0062】
さらに、最も好ましいのは、本実施形態のように、両眼視差を拡大率に関係なく常にゼロとする表示条件である。両眼視差ΔPをゼロにすることによって、飛び出し量ΔDFはゼロになり、モニタ面上に被写体が表示されることになり、被写体の厚みの分(t×拡大率)だけモニタより前面に表示される。これにより、融像域の狭い観察者でも問題なく、対象物を立体視することができる。
【0063】
したがって、本実施形態においては、拡大後の異常陰影A1,A2の両眼視差ΔPがゼロとなるようなシフト量で2枚の拡大処理済の放射線画像信号に対してシフト処理を施す。
【0064】
そして、シフト処理部42においてシフト処理の施された拡大放射線画像信号が表示制御部8fに出力され、表示制御部8fは、入力された拡大放射線画像信号に対して所定の処理を施した後、モニタ3に出力し、モニタ3において、異常陰影A3および立体マーカー画像M3を含む拡大ステレオ画像が表示される(S32)。図11(A)は、モニタ3に表示された拡大ステレオ画像の一例を模式的に示したものであり、図11(B)は、モニタ3の表示面3aを上方から見た図を模式的に示したものである。
【0065】
上記実施形態によれば、図11(B)に示すように、異常陰影を拡大表示した際、異常陰影の奥行位置をモニタ3の表示面3aにすることができる。
【0066】
なお、上記実施形態においては、拡大対象範囲特定部40が、観察者によって指定された異常陰影の位置を含む範囲であるとともに、2枚の放射線画像において被写体の同じ範囲が投影された一部の範囲を拡大対象範囲として特定するようにしたが、これに限らず、たとえば、拡大対象範囲特定部40が、2つの放射線画像における異常陰影が拡大対象範囲内において同じ位置に配置されるように拡大対象範囲を特定するようにしてもよい。具体的には、たとえば、図12に示すように、2つの放射線画像における異常陰影が拡大対象範囲内において中央位置に配置されるように拡大対象範囲を特定するようにしてもよい。このようにして拡大対象範囲を特定するようにすれば、上記実施形態におけるシフト処理を施すことなく、拡大処理のみを施すだけで、図11(B)に示すように、異常陰影を拡大表示した際、異常陰影の奥行位置をモニタ3の表示面3aにすることができる。
【0067】
また、上記実施形態は、本発明の立体視画像表示装置の一実施形態を乳房画像撮影表示システムに適用したものであるが、本発明の被写体としては乳房に限らず、たとえば、胸部や頭部などを撮影する放射線画像撮影表示システムにも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 乳房画像撮影表示システム
2 コンピュータ
3 モニタ
3a 表示面
4 入力部
8a 制御部
8b 放射線画像記憶部
8c 異常陰影検出部
8d マーカー画像生成部
8e 画像処理部
8f 表示制御部
10 乳房画像撮影装置
13 アーム部
14 撮影台
15 放射線画像検出器
16 放射線照射部
17 放射線源
18 圧迫板
40 拡大対象範囲特定部
41 拡大処理部
42 シフト処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる2つの撮影方向からの被写体への放射線の照射によって放射線画像検出器により検出された前記撮影方向毎の放射線画像を取得し、該取得した2つの放射線画像に基づいて立体視画像を表示部に表示する立体視画像表示方法において、
前記2つの放射線画像において互いに対応する関心領域の情報を取得し、
該取得した関心領域を含む前記放射線画像内の一部の範囲の放射線画像に対して、拡大処理を含み前記関心領域の奥行位置が前記表示部の表示面となるような画像処理を施し、
前記画像処理を施した2つの前記一部の範囲の放射線画像に基づいて、前記一部の範囲の立体視画像を表示することを特徴とする立体視画像表示方法。
【請求項2】
互いに異なる2つの撮影方向からそれぞれ放射線を被写体へ照射し、該放射線の照射により放射線画像検出器によって検出された前記撮影方向毎の放射線画像を取得する放射線画像取得部と、該放射線画像取得部によって取得された2つの放射線画像に基づいて立体視画像を表示する表示部とを備えた立体視画像表示装置において、
前記2つの放射線画像において互いに対応する関心領域の情報を取得する関心領域情報取得部と、
前記関心領域を含む前記2つの放射線画像内の一部の範囲の放射線画像に対して、拡大処理を含み前記関心領域の奥行位置が前記表示部の表示面となるような画像処理を施す画像処理部とを備え、
前記表示部が、前記画像処理の施された2つの前記一部の範囲の放射線画像に基づいて、前記一部の範囲の立体視画像を表示するものであることを特徴とする立体視画像表示装置。
【請求項3】
前記画像処理部が、前記2つの放射線画像において前記被写体の同一の範囲が投影された範囲を前記一部の範囲として特定し、該特定した一部の範囲の放射線画像に対して拡大処理を施すとともに、
該拡大処理の施された前記一部の範囲の放射線画像に対し、前記関心領域の奥行位置が前記表示部の表示面となるようにシフト処理を施すものであることを特徴とする請求項2記載の立体視画像表示装置。
【請求項4】
前記画像処理部が、前記2つの放射線画像における前記各関心領域が前記一部の範囲内において同じ位置に配置されるように前記一部の範囲を特定し、該特定した一部の範囲の放射線画像に対して拡大処理を施すものであることを特徴とする請求項2記載の立体視画像表示装置。
【請求項5】
前記関心領域情報取得部が、前記2つの放射線画像内における異常陰影を関心領域として自動的に検出するものであることを特徴とする請求項2から4いずれか1項記載の立体視画像表示装置。
【請求項6】
前記2つの放射線画像における各関心領域を囲むようなマーカー画像をそれぞれ生成するマーカー画像生成部を備え、
前記表示部が、前記マーカー画像を用いて立体視可能なマーカー表示を行うものであることを特徴とする請求項2から5いずれか1項記載の立体視画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−66048(P2012−66048A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36779(P2011−36779)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【復代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
【Fターム(参考)】