説明

立軸ポンプおよびポンプ機場

【課題】水位が低下したならばより確実に吸気を行い、水位が低下しても安定的な運転を行うことができ、すなわち先行待機運転に適する立軸ポンプおよびポンプ機場を提供すること。
【解決手段】鉛直方向に配置され軸周りに回転する回転軸21と、回転軸の回転により回転し水を吸い込み上方に流す羽根車であって回転軸の下端23より下流側に配置された羽根車20と、羽根車の上流側に配置され羽根車に向けて水を流す流路を形成する吸込管31と、吸込管に一端が接続され他端から空気を吸い込む空気管40と、羽根車より上流側に配置され回転軸を回転可能に支持する軸受50と、吸込管と軸受とを連結する支持部材であって空気管と連通する中空部が形成され外面から該中空部に至る孔62が形成された支持部材60とを備える立軸ポンプ。また、羽根車が異なる高さに配置される少なくとも2台の立軸ポンプを含むポンプ機場。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立軸ポンプおよびポンプ機場に関し、特に、先行待機運転に適する立軸ポンプおよびポンプ機場に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から図7に示すように、縦方向に配置された軸の先端に羽根車112を備え、羽根車112に水と共に空気を吸い込ませることにより、吸込水槽111の最低水位LWL以下でも運転を継続することを可能にした立軸ポンプ113があった。このポンプ113では、羽根車112より上流側の吸込管114に水位LWLからh≒v/2gだけ低い位置LLWLに貫通した吸気用の孔115を設け、該孔115に羽根車112の取り付け位置より上で開口する他端116aを有する空気管116を取り付けている。ここで、vはその部分の水の流速であり、gは重力加速度である。このことにより、最低水位LWL以下では、該孔115を経て流入する空気により徐々に排水量を低下させることによって、水位の低下による急激な揚水停止を回避し、また、羽根車112の取り付け位置より下の水位からの水位上昇においても、水位が前記最低水位LWLに至るまでは該孔115を経て流入する空気により排水量を低下させることによって、急激な揚水開始を回避している。このような立軸ポンプでは、水位が低下したときに吸込管114から吸込渦を巻き込むことによる振動を防止することができる。
【0003】
このようにして、例えば大都市の雨水排水用として、吸込水位に関係なく降雨情報等により予めポンプを始動しておき、低水位から水位が上昇するときは空運転から水量を徐々に増やしながら全量運転へ、また高水位から水位が低下するときは全量運転から水量を徐々に減らしながら空運転へと、スムーズに運転を移行できるようにしていた。しかし、水位が最低水位LWL以下になって空気管116を通じて吸気しようとすると、羽根車の下方の旋回流れのために吸気用の孔115に正圧が生じてしまい、水位がLWL以下となっても充分な吸気が行われないことがあった。そこで、羽根車112の回転軸117を上流側に延長し、回転軸の下端を支持する軸受を設け、該軸受とポンプケーシングとを連結する支持板で旋回流れを防止する立軸ポンプが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−189016号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の立軸ポンプでは、旋回流れが完全に阻止されるとは限らず、旋回流れが残存した場合には吸気用の孔に正圧が生じて充分な吸気が行われないこともありうる。
そこで、本発明は、水位が低下したならばより確実に吸気を行い、水位が低下しても安定的な運転を行うことができ、すなわち先行待機運転に適する立軸ポンプおよびポンプ機場を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る立軸ポンプは、例えば図1に示すように、鉛直方向に配置され、軸周りに回転する回転軸21と;回転軸21の回転により回転し、水を吸い込み上方に流す羽根車20であって、回転軸21の下端23より下流側に配置された羽根車20と;羽根車20の上流側に配置され、羽根車20に向けて水を流す流路を形成する吸込管31と;吸込管31に一端が接続され、他端から空気を吸い込む空気管40と;羽根車20より上流側に配置され、回転軸21を回転可能に支持する軸受50と;吸込管31と軸受50とを連結する支持部材であって、空気管40と連通する中空部が形成され、外面から該中空部に至る孔62が形成された支持部材60とを備える。
【0006】
このように構成すると、回転軸を羽根車の上流側と下流側の2箇所で支持でき、各軸受への負担を軽減すると共に、羽根車の回転による振動を抑えることができ、縦軸ポンプの運転が安定する。特に、無注水軸受に対しては、有効である。また、回転軸をその下端近傍で支持することができ、無給水運転においても回転軸が潤滑されて、先行待機運転が円滑に行われる。さらに、水位が低下し空気管から吸気する場合に、空気は支持部材に形成された孔から吸込管内に吸引されるので、羽根車による旋回流れの影響を受けにくくなり、吸気が安定的に行われる。
【0007】
また、請求項2に記載の立軸ポンプでは、例えば図3に示すように、請求項1に記載の立軸ポンプにおいて、支持部材60の断面形状が扁平である。
【0008】
このように構成すると、支持部材の断面形状が扁平であるので、支持部材が旋回流れを防止する邪魔板としての作用を有し、旋回流れが防止される。
【0009】
また、請求項3に記載の立軸ポンプでは、例えば図1および図4に示すように、請求項1または請求項2に記載の立軸ポンプ10において、支持部材60に形成された孔62は、吸込管31との接続部64から軸受50との接続部66に至る方向に複数配列されている。なおここで、軸受50との接続部66とは、軸受50と直接接続する場合の他、軸受50を収納する軸受箱52との接続部66を含むものとする。すなわち、支持部材60は、吸込管31と軸受50とを直接連結せず、軸受箱52を介して吸込管31と軸受50とを連結してもよい。
【0010】
このように構成すると、空気管から吸引された空気は、軸受から吸込管の内面に至る流路断面の全範囲にわたり分散して水と混合するので、均一に混合した気液混合流となり易い。
【0011】
また、請求項4に記載の立軸ポンプでは、例えば図1に示すように、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の立軸ポンプ10において、支持部材60に形成された孔62は、羽根車20の回転方向側に形成されている。
【0012】
このように構成すると、水位が低下し支持部材に形成された孔から空気を吸引する際に、旋回流れが生じていても、孔は支持部材における旋回流れに対する背圧側に位置することになり、旋回流れによって吸気が損なわれることがなく、確実に吸気される。
【0013】
また、請求項5に記載の立軸ポンプでは、例えば図1、図5に示すように、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の立軸ポンプ10において、支持部材60に形成された孔62は、開口が上向きに形成されている。
【0014】
このように構成すると、水位が低下し支持部材に形成された孔から空気を吸引する際に、旋回流れが生じていても、孔が旋回流による正圧の影響を受けず負圧となるため、旋回流れによって吸気が損なわれることがない。
【0015】
また、請求項6に記載の立軸ポンプでは、例えば図1に示すように、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の立軸ポンプ10において、支持部材60に形成された孔62は、最低運転水位LLWLに形成されている。
【0016】
このように構成すると、水位が低下して最低水位となったときに、空気管から支持部材の中空部を通じて孔から空気を吸引し、吸込管からの空気の吸込みが抑えられ、吸込管からの空気吸引に伴う振動や騒音の問題を回避することができる。なお、ここで「支持部材に形成された孔は、最低運転水位に形成されている」とは、実質的に最低運転水位に形成されていればよく、計算上の最低運転水位よりマージンをもって上方に形成される場合を含む。
【0017】
前記目的を達成するため、請求項7に記載の発明に係るポンプ機場101は、例えば図6に示すように、複数台の請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の立軸ポンプ10(10a、10b、10c)を備え;複数台の立軸ポンプ10は、羽根車20が異なる高さに配置される少なくとも2台の立軸ポンプ10を含む。
【0018】
このように構成すると、水を吐出し始め、また、し終える水位が異なる立軸ポンプが備えられるので、過大な排水を行うことが防止でき、また、電源装置に対する負荷も軽減できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、立軸ポンプが、鉛直方向に配置され軸周りに回転する回転軸と、回転軸の回転により回転し水を吸い込み上方に流す羽根車であって回転軸の下端より下流側に配置された羽根車と、羽根車の上流側に配置され羽根車に向けて水を流す流路を形成する吸込管と、吸込管に一端が接続され他端から空気を吸い込む空気管と、羽根車より上流側に配置され回転軸を回転可能に支持する軸受と、吸込管と軸受とを連結する支持部材であって空気管と連通する中空部が形成され外面から該中空部に至る孔が形成された支持部材とを備えるので、回転軸を羽根車の上流側と下流側の2箇所で支持でき、各軸受への負担を軽減すると共に、羽根車の回転による振動を抑えることができ、縦軸ポンプの運転が安定する。また、水位が低下し空気管から吸気する場合に、空気は支持部材に形成された孔から吸込管内に吸引されるので、羽根車による旋回流れの影響を受けにくくなり、吸気が安定的に行われる。したがって、水位が低下したならばより確実に吸気を行い、水位が低下しても安定的な運転を行うことができ、すなわち先行待機運転に適する立軸ポンプとなる。
【0020】
また、ポンプ機場が、複数台の上記の立軸ポンプを備え、複数台の立軸ポンプは羽根車が異なる高さに配置される少なくとも2台の立軸ポンプを含むので、水を吐出し始め、また、し終える水位が異なる立軸ポンプが備えられることになり、過大な排水を行うことが防止でき、また、電源装置に対する負荷も軽減できる。すなわち先行待機運転に適するポンプ機場となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一または相当する装置等には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
【0022】
先ず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態である立軸ポンプを説明する。図1(a)は、立軸ポンプ10の主要部の断面と、立軸ポンプ10の一部である空気管40および関連する装置の構成を示す断面構成図であり、(b)は下面図である。本立軸ポンプ10は、先行待機運転用のポンプである。先行待機運転、特に全速先行待機運転とは雨水が吸込水槽に流入する前にあらかじめポンプを始動し、水位の上昇にしたがって排水を始め、水位が低下してもポンプを停止させずに全速で運転することである。立軸ポンプ10は、雨水などを一次貯留する吸込水槽である水槽1に配設され、水槽1内に貯留された水を排出する。
【0023】
図1を参照して立軸ポンプ10の構造を説明する。立軸ポンプ10は、鉛直方向に上から配列された揚水管ケーシング(ケーシング本体)33、ライナケーシング32、吸込管(吸込ベル)31を備える。それぞれは水平方向のフランジ37、36で締結されている。これらが広い意味のケーシングを構成している。
【0024】
該ケーシングの中心に縦方向(鉛直方向)に回転軸21が配設されている。回転軸21の下方先端23近傍は、軸受50で回転可能に支持されている。回転軸21の下方であって軸受50より上方側に、オープン型の羽根車20が取りつけられている。羽根車はクローズ型であってもよい。羽根車20の外周(オープン羽根の先端)と僅かな隙間をもってライナケーシング32が羽根車20を収納している。立軸ポンプ10は斜流ポンプである。斜流ポンプは吐出ヘッドが比較的大きい場合に用いられる。また羽根車20の吐出側、ケーシング本体33の内側にはガイドベーン35が配設されている。
先行待機運転用のポンプとしては、不図示の軸流ポンプが用いられることもある。軸流ポンプは、吐出ヘッドに対して流量が比較的大きい場合に適する。
【0025】
ケーシング本体33は、回転軸21と平行に垂直方向の管胴部分と、上方で水平方向に曲がった曲管部とそれに連なる水平管部分とを含んで構成され、曲管部分を、回転軸21が貫通している。貫通した先は、回転軸21を回転駆動する駆動装置としての電動モータ(不図示)に接続する。なお、電動モータは、回転軸21に直結されず、例えば歯車列を介して接続され、回転速度を調節できるようにしてもよい。該貫通部にはシール22cが配設され、貫通部を通しての水の漏洩を防止している。なお、シール22cと駆動装置との間に不図示の軸受を配すると、駆動装置による振動が防止されるので、好ましい。回転軸21は、羽根車20近傍に配設された軸受22a、軸受22aとシール22cとの中間に配設された軸受22bおよび前述の軸受50により3点支持されている。なお、上記のようにシール22cと駆動装置との間に不図示の軸受を配すると、4点支持となる。このように回転軸21を支持することにより、特に羽根車20を挟んだ両側で支持することにより、各軸受への負担を軽減することができるので、軸受の寿命が延び、メンテナンス期間を長くすることができる。さらに、回転軸21の回転に伴う振動を抑えることができる。なお、不図示のスラスト軸受が回転軸21にかかる鉛直方向の荷重(即ち羽根車20、回転軸21を含む回転体の重量と羽根車20にかかる流体力)を支持している。
【0026】
ケーシング本体33には、据え付け用のフランジ39が取り付けられており、フランジ39で据え付け台であるコンクリート製の床2に据え付けられている。ケーシング本体33の前記水平管部分にはフランジ38が取りつけられており、フランジ38により、吐出配管34と接続されている。吐出配管34は雨水を河川や海等に導いて排出するための配管である。
【0027】
吸込管31は、羽根車20の先端よりも下方に位置し、羽根車20に水を流す流路90を形成する。吸込管31は、下端、すなわち水の流れの上流で、ベル形に拡径した開口端を有し、開口端から水槽1内の水を吸い込み、羽根車20に向けて送り込む。その形状から、吸込ベルと呼ばれることもある。開口端が拡径することにより、水槽1内の水を吸い込むときの吸込管31の開口端での流速が下がり、振動が起こりにくくなるが、必ずしも拡径せず、例えば径が均一な円筒形であってもよい。
【0028】
吸込管31の外側に空気管40が接続する。空気管40は、吸込管31の内側に形成された空気流路44と連通する。空気管40は、他端である端部41が大気開放され、大気から空気を空気流路44に導く。空気管40の大気開放された端部41は、図1に示すようにU字管により下向きとされると、ゴミが入り込まなくなるので好ましい。図1では、端部41は、床2の上方に位置しているが、床2の下方の水槽1内に位置してもよい。後述するように水位が最低水位LWLとなり、空気管40を通じて吸込管31内に空気を吸引するときに、端部41が大気中に露出していればよい。空気管は40は1本でもよいが、複数本、例えば4本である方が、空気管40から吸入される空気が空気流路44に均等に流れ易いので、好ましい。
【0029】
空気流路44は、吸込管31の内側に形成された環状の空間であり、空気管40から吸引した空気を、吸込管31の内側の円周方向に分散するための流路である。図1(a)の断面図では空気流路44が内側向きに開放されているように示されているが、後述の支持部材60と連通する箇所以外では、内側も封止されている。なお、空気流路44はなくてもよく、複数の支持部材60それぞれに空気管40が接続すればよい。
【0030】
吸込管31の内側に軸受50が配置される。軸受50は、軸受箱52に収納され、軸受箱52により固定支持される。軸受50の配置される高さは、最低運転水位LLWLの近傍とする。なお、最低運転水位LLWLについては、後で詳細に説明する。
【0031】
軸受箱52は、支持部材60により支持される。支持部材60は、吸込管31の内面と軸受箱52とを連結することにより軸受箱52を所定の位置に固定する。なお、軸受50は、必ずしも軸受箱52に収納されなくてもよく、軸受50と支持部材60とが直接連結されてもよい。いずれの場合も、支持部材60は軸受50と吸込管31とを連結する、という概念に含まれるものとする。図1(b)では、4本の支持部材60で軸受箱52を固定支持しているが、支持部材60の本数は4本に限られず、1本でも、2本でも、3本でも、あるいは、5本以上であってもよい。1本だと片持ち梁となるため変形し易いので固定しにくいが、構造は簡単になる。本数を増やすと、より堅固に固定することができ、また、後述するように支持部材60の孔62から空気を吸引するときに、気液混合がより均一に行われる。しかし、本数が多すぎると、構造が複雑になることに加え、断面の流路面積が狭くなり、水が流れにくくなる。そこで、一般的には、強度および構造の単純化の観点から、3本または4本とするのが適当である。
【0032】
支持部材60は、中空に形成され、中空部は空気流路44と連通する。すなわち、空気管40を通じて空気流路44に導かれた空気は、支持部材60の中空部に至る。支持部材60には、外面から中空部に至る孔62が形成される。したがって、空気管40から吸引された空気は、孔62を通って吸込管31内の水の流路90に導かれる。
【0033】
ここで、立軸ポンプ10の高さ方向の構造と水位の関係を説明する。水位HWLは、水槽1の最高水位である。水位がこれ以上に上昇することはない。その下方に最低水位LWLがある。これは、ポンプ固有の値であり、水位がこれ以下になると何らかの問題が起こりポンプの運転が継続できなくなる水位である。典型的には、それ以下では吸込管31の下端から渦状に空気を吸い込み始め、振動や騒音が発生し運転が継続できなくなる水位である。しかし最低水位LWLは渦状の空気吸込以外の条件で定まる場合もある。
【0034】
最低水位LWLの下方には、羽根車20の吸込開始水位SLWLがある。この水位は、羽根車20の先端部分の水位に相当する。低い水位から水位が上昇して、羽根車20が水に接すると、気水攪拌が開始され間もなく水が吐出されるからである。すなわち、羽根車20は、最低水位LWLよりも下方に設置されている。通常、吸込開始水位SLWLより低い位置に、立軸ポンプ10の最低運転水位LLWLがある。最低運転水位LLWLより下方に、吸込管31の下端(開口部)の水位A1がある。
【0035】
ここで、支持部材60の孔62を最低運転水位LLWLの高さに配置する。最低運転水位LLWLは、最低水位LWLよりh≒v/2gだけ低い位置である。ここで、vはその位置での水の流速、gは重量加速度である。すなわち、水の流れによりベルヌーイの定理による速度水頭の分だけ圧力が低くなるので、最低水位LWLのときに水頭が上記の速度水頭と等しくなる位置は、圧力がゼロ(大気圧)となる。この位置を、最低運転水位LLWLとする。このようにすると、水位が最低水位LWL以下になると最低運転水位LLWLの位置では負圧となる。よって、最低運転水位LLWLに配置された孔62は負圧となり、支持部材60の中空部、空気流路44および空気管40を通じて大気と連通しているために、空気管40の端部41から吸込管31の内部に空気を吸引する。孔62から吸気することにより、吸込管31下端から渦状に空気を吸い込まなくなり、振動や騒音などの問題が発生せず、そのまま運転を継続することが可能となる。厳密には、孔62の上端を最低運転水位LLWLとするが、実際には流速も一定しないので、計算上の最低運転水位LLWLより僅かに上方に孔62を配置するのが一般的である。この場合にも、孔62は実質的に最低運転水位LLWLに配置されている。なお、孔62は、最低運転水位LLWLより上方に配置されればよい。その分、水位が最低水位LWLに低下する前に空気の吸引が始まるが、吸込管31の先端から渦状に空気を吸い込み振動等を生ずる問題をより確実に防止できる。ただし、上方に配置しすぎると、低い水位での水の吸込みができなくなるので、好ましくない。なお以下では、孔62は最低運転水位LLWLに配置されるものとして、説明する。
【0036】
そして、水位が最低運転水位LLWLまで下がると、空気管の先端41から、空気管40、空気流路44および支持部材60の中空部を通じて孔62までが大気開放され、吸込管31内の空間が真空破壊し、吸込管31内の水は落下する。すなわち、孔62の形成された高さまで水位が低下すると、立軸ポンプ10は揚水しなくなる。
【0037】
続いて、図1を参照して、立軸ポンプ10の作用について説明する。先ず水位が吸込管31の下端(開口部)の水位A1よりも低い状態で立軸ポンプ10を始動する。例えば川の上流で大雨が降ったとの降雨情報が入った場合等、ある時間の後に水位が急に上昇することが予測される。そのような場合に、水位がA1よりも下の状態で、先行待機運転用の立軸ポンプ10が始動される。先行待機運転の開始である。
【0038】
雨水の流入により水槽1内の水位が上昇し、吸込ベルの下端水位A1を越える。水位が水位A1を越えても、最低運転水位LLWLを越えても、まだ水は吸い上げられない。羽根車20は空転している。水位がさらに上昇して、吸込開始水位SLWLまで到達したところで、羽根車20は水を吸い込み始める。このときは、空気管40、空気流路44、支持部材60の中空部を通して孔62から吸込管31内に空気も吸い込むので、立軸ポンプ10の全水量吐出の運転ではない。すなわち、立軸ポンプ10は気水混合運転をしている。さらに水位が上昇すると徐々に吸込空気量は減少し、代わりに水量が増加する。やがて水位が最低水位LWLまで上昇すると吸込空気量がゼロになり、立軸ポンプ10の全水量を吐出するに至る。すなわち、定常運転に入る。
【0039】
さらに水位が、最低水位LWLと最高水位HWLの間の水位まで上昇して、ポンプ10は定常運転を継続する。その後、ポンプ10の排水により今度は水位が低下し、最低水位LWLを下回ると、空気管40、空気流路44、支持部材60の中空部を通して孔62から吸込管31内に空気を吸い込み始める。すなわち、再び気水混合運転が開始される。水位が低下するにつれて吸込空気量が増えて、代わりに水量が減っていく。さらに水位が下がり、最低運転水位LLWLになると、水の吸込みが終わり、羽根車20は空気中で運転される空運転状態になる。すなわち、立軸ポンプ10は全く水を吸い込まないエアロック状態となる。
【0040】
このようにして、羽根車20は空気中での空運転状態を続けることになる。降雨が続くときは、そのまま運転を続け、再び水位が上昇してきて、前記のように吸込開始水位SLWLに到達したところで立軸ポンプ10は水を吸い込み始める。このようにして、先行待機運転用の立軸ポンプ10は、水槽1の水位にかかわらず、空運転と全水量の運転との間で運転を継続することができる。空運転と全水量運転との間の移り変わりは、立軸ポンプ10が支持部材60の孔62から空気を一緒に吸い込むので滑らかに行われる。
【0041】
次に、図2〜図4をも参照して、支持部材60について詳細に説明する。図2は、支持部材60の断面形状の典型例を説明する図で、(a)は円形断面形状、(b)は楕円断面形状、(c)は矩形(長方形)断面形状、(d)は丸み付き長方形断面形状を示す。支持部材60の断面形状は任意であるが、(a)に示すように円形とすると、製造し易く、また吸込管31を鋼板溶接構造とする場合は市販のパイプを用いることができる。(b)ないし(d)のように扁平な形状とすると、羽根車20の回転により生ずる旋回流れを防止する邪魔板としての作用が得られる。また、(b)に示すように支持部材60を楕円断面形状とすると、角がないので支持部材60周囲の水の流れが滑らかとなる。(c)に示すように支持部材60を矩形断面形状とすると、製作が容易となる。(d)に示すように支持部材60を丸み付き長方形断面形状とすると、特に吸込管31と一緒に鋳造されるときに製造が容易であり、角がないので支持部材60周囲の水の流れが滑らかとなる。典型的には(d)に示す丸み付き長方形断面形状が用いられる。
【0042】
ここで、図3を参照して、支持部材60の邪魔板としての作用を説明する。図3は、矩形断面形状を有する支持部材60を用いた場合の、水の流れとの位置関係を説明する図である。図3(a)は支持部材60の扁平方向を垂直にした場合、(b)は水平面からの角度αに傾斜した場合を表す。また図中、太い矢印は流量が多いときの水の流れ方向を、細い矢印は流量が少ないときの水の流れ方向を示す。すなわち、流量が少ないときには旋回流れの影響が強く現れ、水の流れ方向には水平成分が顕著となる。
【0043】
なお、支持部材60の扁平方向とは、例えば図2(b)に示す楕円断面形状、(c)あるいは(d)に示す長方形断面形状のように扁平な断面形状を有する支持部材において、断面における最長の径の方向を指す。支持部材が捩れた断面形状を有する場合には、断面における最長の径を平均した方向とする。
【0044】
図3(a)に示すように扁平方向を垂直にして支持部材60を設置した場合には、流量が多い時には水の流れに対する抵抗が少ないが、流量が少ないときには旋回流れ(水平方向の流れ)に対しては抵抗が大きく、旋回流れを防止する邪魔板として作用する。図3(b)に示すように、扁平方向は傾斜させてもよい。図3(b)は、流量が少ないときの水の流れ方向と扁平方向(図中、一点鎖線で示す。)とのなす角度が大きくなるように傾斜させている。このように扁平方向を傾斜させると、旋回流れに対する抵抗がより大きくなる。ただし、図3(b)とは逆向きに傾斜させてもよい。すなわち、流量が少ないときの水の流れ方向と扁平方向との角度が小さくなるように傾斜させてもよい。この場合には、旋回流れを緩やかに低減することになる。なお、典型的には、角度αを90度(垂直)とする。
【0045】
上記のように、支持部材60を邪魔板として作用させ、旋回流れを防止することにより、旋回流れによる流速の増加、すなわち正圧の発生を防止することができる。よって、空気管40、空気流路44、支持部材60の中空部を通して孔62から吸込管31内に確実に空気を吸い込むことができる。
【0046】
図4は、支持部材60に形成される孔62の例を説明する図である。図4(a)は一つの支持部材60に円形の孔62が一つ形成される例、(b)は一つの支持部材60に円形の孔62が四つ並べて形成される例、(c)はスリット状の孔62が形成される例を表す。孔62は一つでもよいが、支持部材60の吸込管31との接続部64から軸受箱52との接続部66に至る方向に複数の小さな孔62を配列して形成すると、空気が吸込管31内に分散して吸引されるので、気液混合が均一となり好適である。なお、孔62の形状は任意であるが、典型的には形成しやすいことから円形とする。また、孔62の大きさは吸引する空気の量や孔62の数に応じて決められるが、極めて小さくすると、空気を水中に吸引する際の表面張力が大きくなり好ましくない。
【0047】
孔62は、支持部材60の吸込管31との接続部64から軸受箱52との接続部66に至る方向にスリット状としてもよく、この場合にも空気が吸込管31内に分散して吸引されるので、気液混合が均一となり好適である。なお、孔62は、例えば図4に示すように、支持部材60の上方に形成することが好ましい。上方に形成することにより、吸気するときに支持部材60の中空部の上方を流れる空気が孔62から吸引され、吸気しやすくなる。
【0048】
さらに、図3に示すように、孔62は、支持部材60の旋回流れの下流向きに形成するのが好ましい。すなわち、図1(b)に示すように、羽根車20の回転方向(図中の矢印方向)側に形成される。このように形成することにより、流量の少ないときに旋回流れの影響が現れても、支持部材60の背圧側に孔62が位置することとなり、旋回流れによる正圧の影響を受けず、確実に吸気することが可能となる。なお、流量が大きい間は、旋回流れの影響がほとんどないので、孔62は背圧側に位置することにもならず、必要以上に吸気することもない。
【0049】
また、図5に示すように、孔62は、支持部材60の上面に(上向きに)形成することとしてもよい。図5は、支持部材60に形成される孔62の向きの変形例を説明する図で、(a)は円形断面形状の支持部材60に、(b)は楕円断面形状の支持部材60に、(c)は矩形(長方形)断面形状の支持部材60に、(d)は丸み付き長方形断面形状の支持部材60に対してそれぞれ上向きに孔62が形成された例を示す。図5においても太い矢印は流量が多いときの水の流れ方向を、細い矢印は流量が少ないときの水の流れ方向を示す。また、図5中、紙面の上方が実際の鉛直上方に相当する。図5に示すように、孔62が支持部材60に対して上向きに(流量が多いときの水の流れの下流向きに)形成されていても、流量が少ないとき(水槽1内の水位が最低水位LWL以下のとき)に孔62は負圧となり、空気管40の端部41から吸込管31の内部に空気を吸引することができる。また、孔62が支持部材60に対して上向きに形成されていると、特に吸込管31と支持部材60とが一体に形成されるとき(例えば吸込管31と支持部材60とが一緒に鋳造されるとき)に、孔62を支持部材60に形成するための加工がしやすくなる。なお、「孔62が支持部材60に対して上向きに形成されている」とは、典型的には、平面図における孔62の図心を通る法線が鉛直方向となる状態であるが、水槽1内の水位が最低水位LWL以下のときに孔62の負圧を維持できる程度(吸込管31の内部に空気を吸引することができる程度)に該法線が鉛直方向に対して角度を持つ状態であってもよい。
【0050】
これまで説明したように、回転軸21を羽根車20の下部(上流側)にまで延伸してその端部23を軸受50で支持し、軸受50を支持部材60で固定し(軸受箱52を介して固定する場合を含む。)、支持部材60の中空部は空気管40と連通し吸込管31内に空気を供給する孔62が形成されている立軸ポンプ10では、回転軸21あるいは羽根車20が安定的に回転すると共に、最低水位LWL以下の低水位での運転において確実に孔62から空気を吸引して、騒音や振動の問題を回避することができる。また、支持部材60が空気を供給する部材を兼ねることにより、部材数を低減でき、製造の煩雑さや製作費を抑えることができると共に、立軸ポンプ10による揚水の流路に配置され水の流れの障害となる部材を低減することができる。
【0051】
図6に示すように、以上のような先行待機運転ポンプは、機場には通常複数台設置される。図6は、これまでに説明した立軸ポンプ10を3台備えるポンプ機場101を説明する部分断面図である。ポンプ機場101では、3台の立軸ポンプ10a、10b、10cが共通の床2に設置されている。このようなポンプ機場101においては、複数配置された立軸ポンプ10は、入水量に合わせて必要な台数を稼働させるように、あるいは、予備として用いるようにしている。
【0052】
複数の立軸ポンプ10の揚水管ケーシング33および回転軸21の長さはそれぞれ異なり、羽根車20および吸込管31の高さは異なっている。すなわち、各立軸ポンプ10a、10b、10cの最低水位LWL、吸込開始水位SLWL、最低運転水位LLWLは異なっている。すなわち、各立軸ポンプ10による揚水の発停が時間差を付けて行われる。例えば、増水時には、最初に一番低い位置の立軸ポンプ10aが揚水を開始し、順次他の立軸ポンプ10b、10cが揚水を行う。したがって、入水量よりも多い過大な揚水を行って水槽1内の水位を変動させることが防止され、また、電源設備に対する負荷も軽減される。
【0053】
なお、ポンプ機場に備えられる立軸ポンプ10の数は、3台に限られず、揚水量等に応じて、適当な台数の立軸ポンプ10が備えられる。また、揚水管ケーシング33および回転軸21の長さも同じ同一構造の複数台の立軸ポンプ10を用い、設置する高さを変えることにより最低水位LWL、吸込開始水位SLWL、最低運転水位LLWLを異なるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施の形態としての立軸ポンプを説明する図であり、(a)は断面構成図、(b)は下面図である。
【図2】支持部材の断面形状の典型例を説明する断面図であり、(a)は円形断面形状、(b)は楕円断面形状、(c)は矩形(長方形)断面形状、(d)は丸み付き長方形断面形状を示す。
【図3】水の流れと支持部材の位置関係を説明する図であり、(a)は支持部材の扁平方向を垂直にした場合、(b)は傾斜した場合を表す。
【図4】支持部材に形成される孔の例を説明する図であり、(a)は一つの支持部材に円形の孔が一つ形成される例、(b)は一つの支持部材に円形の孔が四つ並べて形成される例、(c)はスリット状の孔が形成される例を表す。
【図5】支持部材に形成される孔の向きの変形例を説明する断面図であり、(a)は円形断面形状の支持部材に、(b)は楕円断面形状の支持部材に、(c)は矩形(長方形)断面形状の支持部材に、(d)は丸み付き長方形断面形状の支持部材に対してそれぞれ上向きに孔が形成された例を示す。
【図6】立軸ポンプを3台備えるポンプ機場を説明する部分断面図である。
【図7】従来の立軸ポンプの構成を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 水槽
2 床
10、10a、10b、10c 立軸ポンプ
20 羽根車
21 回転軸
22a、22b 軸受
22c シール
23 回転軸の下端
31 吸込管
32 ライナケーシング
33 揚水管ケーシング(ケーシング本体)
34 吐出配管
35 ガイドベーン
36〜39 フランジ
40 空気管
41 端部(他端)
44 空気流路
50 軸受
52 軸受箱
60 支持部材
62 孔
64 吸込管との接続部
66 軸受(箱)との接続部
90 流路
101 ポンプ機場
A1 吸込管の下端(開口部)の水位
HWL 最高水位
LLWL 最低運転水位
LWL 最低水位
SLWL 吸込開始水位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に配置され、軸周りに回転する回転軸と;
前記回転軸の回転により回転し、水を吸い込み上方に流す羽根車であって、前記回転軸の下端より下流側に配置された羽根車と;
前記羽根車の上流側に配置され、前記羽根車に向けて前記水を流す流路を形成する吸込管と;
前記吸込管に一端が接続され、他端から空気を吸い込む空気管と;
前記羽根車より上流側に配置され、前記回転軸を回転可能に支持する軸受と;
前記吸込管と前記軸受とを連結する支持部材であって、前記空気管と連通する中空部が形成され、外面から該中空部に至る孔が形成された支持部材とを備える;
立軸ポンプ。
【請求項2】
前記支持部材の断面形状が扁平である;
請求項1に記載の立軸ポンプ。
【請求項3】
前記支持部材に形成された孔は、前記吸込管との接続部から前記軸受との接続部に至る方向に複数配列された;
請求項1または請求項2に記載の立軸ポンプ。
【請求項4】
前記支持部材に形成された孔は、前記羽根車の回転方向側に形成された;
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の立軸ポンプ。
【請求項5】
前記支持部材に形成された孔は、開口が上向きに形成された;
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の立軸ポンプ。
【請求項6】
前記支持部材に形成された孔は、最低運転水位に形成された;
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の立軸ポンプ。
【請求項7】
複数台の請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の立軸ポンプを備え;
前記複数台の立軸ポンプは、羽根車が異なる高さに配置される少なくとも2台の立軸ポンプを含む;
ポンプ機場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−64088(P2008−64088A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208804(P2007−208804)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】