説明

竪型ミル用の研削装置

【課題】テーブル面等の研削作業を簡便な装置構成でかつ安全に行う。
【解決手段】固定治具7と、この固定治具7に水平方向にスライド自在に設けたアダプタ8と、このアダプタ8に設けたエアグラインダ10とで研削装置を構成する。この研削装置は、各構成部品にばらした状態にできるので、粉砕室2の狭い開口部からスムーズに運び込むことができる。このため、研削装置の粉砕室2内への設置が容易である。また、作業者が、アダプタ8に設けられたハンドルの操作でエアグラインダ10を水平移動できるようになっているので、研削作業の際に、粉砕室2内に入る必要がない。このため、作業者の良好な作業環境と安全性が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、石炭等の塊を粉砕する竪型ミルのテーブル面及びローラ面を所定形状に研削するための研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な竪型ミル1の構成を図4に示して説明する。この竪型ミル1は、回転軸周りに回転する粉砕テーブル3に、供給管6を通して石炭等の被粉砕物Cを送り込み、粉砕テーブル3と、この粉砕テーブル3の上面側に対向して設けた粉砕ローラ4との間に形成された隙間に、この被粉砕物Cを噛み込ませて粉砕するものである。粉砕された粉砕物は、粉砕テーブル3の下側から送り込まれた空気の気流によって巻き上げられ、図示しない分級機に送られる。そして、この分級機で所定の粒径以下の粉砕物のみが選別されて、ボイラ等の燃焼機器や貯蔵容器に送り込まれる。
【0003】
この竪型ミル1の粉砕テーブル3及び粉砕ローラ4は、被粉砕物Cの粉砕によって次第に摩耗する。この摩耗が進行すると、両者3、4間の隙間が拡大して、この被粉砕物Cを強く噛み込むことができなくなり、その粉砕効率が低下する。そこで、例えば下記特許文献1に示すように、粉砕テーブル3等の摩耗部に肉盛溶接を行い、この摩耗部を原状復帰させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2137600号公報
【0005】
この摩耗は、被粉砕物Cを強く噛み込む箇所で顕著に生じるため、一般的にその摩耗量は場所ごとに異なる。すなわち、摩耗部近傍は凹凸のある偏摩耗状態となっている。このように偏摩耗が生じていると、摩耗量の大きい箇所では溶接による肉盛量を多くする一方で、摩耗量の小さい箇所では肉盛量を少なくする必要があり、その肉盛溶接作業が煩雑になる。そこで、この肉盛溶接の前に、摩耗部とその近傍を研削して偏摩耗を解消してから、肉盛溶接を行うことが多い。
また、肉盛溶接後においても、ビード形状に起因して肉盛溶接表面に凹凸が生じることがあるため、この表面に対し、上記と同様に研削処理を行うこともある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記研削作業は、従来、作業者が竪型ミルの開口部から粉砕室2内に入って行っていた。この作業は、粉砕テーブル3のテーブル面等を研磨治具で削り取るものであって、粉塵が発生するため作業環境が悪く重労働である上に、狭所での作業のため危険を伴うことがあった。
【0007】
この作業環境を改善するため、研削ロボットによる自動化を図ることも考えられる。一般的な研削ロボットは、研削圧力の制御のための制御系、研削位置の移動機構、この研削ロボット自体を粉砕室内に固定する機構を一体的に備えており、その全体構成が大掛かりなものとなりやすい。その場合、開口部が小さく、かつ、粉砕テーブル3、粉砕ローラ4、分級機等の各種部品が内蔵されて空きスペースがほとんどない粉砕室2内に、その研削ロボットを設置するのが困難である。
【0008】
そこで、この発明は、テーブル面等の研削作業を簡便な装置構成でかつ安全に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明は、竪型ミルの粉砕室内に、水平に固定した固定治具と、この固定治具に沿って水平方向にスライド自在に、かつ鉛直方向に伸縮自在に設けた伸縮部材と、この伸縮部材の先端に設けた回転砥石とで研削装置を構成し、この回転砥石で、粉砕テーブルのテーブル面及び粉砕ローラのローラ面を所定形状に研削するようにした。
【0010】
この固定治具等の構成部品は、互いにばらすことができ、コンパクトな状態とし得る。このため、粉砕室の小さい開口部からこの粉砕室内に搬入することができ、しかも、狭い空きスペースでもその設置を支障なく行うことができる。
【0011】
また、前記伸縮部材をスライドさせることによって、粉砕テーブルのテーブル面の全体、及び、粉砕ローラのローラ面全体に亘って、この回転砥石による研削を行うことができる。この粉砕テーブルと粉砕ローラは粉砕室内での取り付け高さが異なるが、この取り付け高さに対応して、前記固定治具の固定高さを自在に変更することができる。この変更によって、いずれの表面についても確実に研削作業を行うことができる。
【0012】
また、前記固定治具は粉砕室内に固定されており、その支持状態が安定している。このため、研削作業の際に回転砥石の位置がずれて、その研削精度が低下する恐れが低い。この固定方法は適宜選択し得るが、全長が可変の固定治具を、粉砕室の対向する内壁の間に設けつつその全長を伸ばして、両内壁間に突っ張るようにするのが簡便で好ましい。
【0013】
前記伸縮部材のスライド量の調節は、作業者が研削状態を目で確認しながら、手動で行うのが最も簡便であるが、研削量をセンサ等で検知しつつ、モータ等でそのスライド量を自動制御するようにしてもよい。
【0014】
また、前記構成においては、前記固定治具が、前記粉砕室の内壁と、前記粉砕テーブルに被粉砕物を供給する供給管との間に介在するように固定されるのがさらに好ましい。
【0015】
この供給管は、粉砕テーブルに満遍なく被粉砕物を供給するために、この粉砕テーブルのほぼ中心(粉砕室の中心)に設けられている。このため、前記固定治具をこの粉砕室の内壁と供給管との間に設けることによって、例えば対向する両内壁間に設ける場合と比較して支持間距離が短くなって、固定治具の安定性が増す。このため、回転砥石による研削精度を一層向上することができる。
【0016】
さらに、前記各構成においては、前記伸縮部材の伸縮を、空気圧の作用によってなされるようにするのが好ましい。
【0017】
この伸縮部材の伸縮は、モータによって行うこともできるが、その際、回転砥石と粉砕テーブル等との接触圧をセンサ等で測定し、その測定結果をフィードバックしてモータ出力を調節する必要がある。この場合、その制御系のための機器が嵩張ってしまい、この研削装置が大型化する恐れがある。
【0018】
そこで、この伸縮を空気圧で行うようにすれば、圧縮空気の供給圧に対応して、前記接触圧が一定に保たれるので、センサ等でその接触圧を測定する必要がない。このため、この研削装置の大型化を抑制することができる。また、この圧縮空気の供給口は、工場等に一般的に設けられているユーティリティーであり、例えば、客先の現場で研削作業を行うこととなった場合でも、問題となる恐れは低い。
【0019】
また、この圧縮空気は、回転砥石を回転させるために利用することもできる。このようにすることで、前記回転のために別途モータ等の駆動手段を設ける必要がないため、その装置構成の大型化を防止し得る。
【0020】
さらに、前記各構成においては、前記回転砥石による前記粉砕テーブル及び粉砕ローラの研削箇所において、前記回転砥石の回転方向と、前記粉砕テーブル及び粉砕ローラの回転方向が異なるように前記回転砥石を回転させるのが好ましい。
【0021】
この回転砥石は、一般的に車輪形状又は円盤形状をしており、この回転砥石の回転方向と粉砕テーブル等の回転方向とが一致していると、この回転砥石の幅が研削幅となって、粉砕テーブル等の表面が局所的に研削されやすい。このため、回転砥石が研削溝に嵌まり込んでしまい、粉砕テーブル等の表面全体に亘って均一な研削ができないことがある。
【0022】
これに対し、前記回転方向が異なるように回転砥石を回転させると、前記研削幅が実質的に拡大して粉砕テーブル等の表面が局所的に研削されるのを防止し得る。このため、摩耗面の全体に亘って均一に研削することができる。この回転方向は、粉砕テーブル等の回転方向と、回転砥石の回転方向とが直交するようにするのがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0023】
この発明によると、構成部品をばらすことができるので、狭い開口部からこの構成部品を容易に粉砕室内に搬入することができるとともに、その設置を支障なく行うことができる。このため、研削作業の準備に手間取ることなく、スムーズにその作業を行うことができる。また、研削作業の際に作業者が粉砕室内に入る必要がないので、作業者の安全性等を大幅に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】竪型ミルの粉砕室内に、本願発明に係る研削装置を設けた状態を示す側面断面図
【図2】同研削装置の固定位置を上方に移動して、粉砕ローラを研削し得るようにした状態を示す側面断面図
【図3】回転砥石によるテーブル面の研削を示す斜視図であって、(a)は粉砕テーブルの回転方向と、回転砥石の回転方向とが直交している場合、(b)は両回転方向が一致している場合
【図4】一般的な竪型ミルを示す側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
竪型ミル1の粉砕室2内に、この発明に係る研削装置を設けた状態を図1に示す。この研削装置は、粉砕テーブル3及び粉砕ローラ4を備える竪型ミル1の内壁5と、この粉砕テーブル3に石炭等の被粉砕物を供給する供給管6との間に設けた固定治具7と、この固定治具7にスライド自在に設けたアダプタ8と、このアダプタ8に設けた空気圧シリンダ9と、この空気圧シリンダ9のシリンダロッドに設けたエアグラインダ10とで構成される。このエアグラインダ10の回転軸には回転砥石11が設けてあって、この回転砥石11で粉砕テーブル3のテーブル面等を研削する。なお、同図においては粉砕ローラ4の図示を省略している。
【0026】
この固定治具7は、2枚の当て板12a、12bとレール13とからなり、このレール13の一端を一方の当て板12aに固定しつつ、他端を他方の当て板12bにねじ込み、そのねじ込み量を調節してこの固定治具7が内壁5と供給管6との間に突っ張った状態とする。
【0027】
この固定治具7、アダプタ8、空気圧シリンダ9、及びエアグラインダ10はばらすことができるため、一般的な一体型ロボットと異なり、粉砕室の狭い開口部から、これらをスムーズに粉砕室内に運び込むことができる。このため、研削装置の粉砕室内への設置が容易である。
【0028】
この空気圧シリンダ9の伸縮及び回転砥石11の回転は、竪型ミル1の外部から供給される圧縮空気の空気圧によって行われる。この圧縮空気の配管は、工場等の現場に予め設けられていることが多く、この空気圧シリンダ9及び回転砥石11の動力源を容易に確保することができる。このように、この研削装置は動力源としてモータ等を搭載する必要がないため、その全体構成がコンパクトとなって、空きスペースの少ない粉砕室2内に容易に設置することができる。
【0029】
また、この研削装置による研削作業に際しては、作業者が研削の進行具合を確認しながら、アダプタ8に設けられた図示しないハンドルを操作して移動(同図中の矢印を参照)させることによって行う。このハンドルは、粉砕室2の外側から操作できるようになっているため、研削作業の際に、作業者が粉砕室2内に入る必要がなく、この作業者の良好な作業環境と安全が確保される。
【0030】
次に、この研削装置を、粉砕ローラ4の研削作業に適用するための構成について、図2に示す。この粉砕ローラ4は、粉砕テーブル3と比較して粉砕室2内における設置位置が高いが、その場合、固定治具の高さを変更して、回転砥石11が粉砕ローラ4のローラ面に当接するように調節する。この調節によって、その研削作業をスムーズに行うことができる。
【0031】
この回転砥石によってテーブル面に形成される研削溝14の形状は、粉砕テーブル3の回転方向と回転砥石11の回転方向とのなす角度によって変わる。すなわち、図3(a)に示すように両回転方向r1、r2が直交している場合は、回転砥石11の周方向の曲率を有するなだらかな円弧状の溝形状となるのに対し、図3(b)に示すように両回転方向r1、r2が同一方向の場合は、この回転砥石11の幅に対応する箇所のみが研削されて、両端が切り立った深い溝形状となる。
【0032】
この研削溝14が図3(b)のように深い溝形状の場合、この研削溝14に嵌まり込んだ回転砥石11を水平方向に移動させることが困難になることがあり、研削すべき領域の全体に亘って、所定の研削ができなくなる恐れがある。
【0033】
そこで、本願発明に係る上記各構成では、両回転方向r1、r2が直交する図3(a)に示す構成を採用している。この構成とすることによって、回転砥石11がこの溝に嵌まり込む恐れが低くなり、研削すべき領域の全体に亘って、スムーズにかつ均一に研削作業を行うことができる。このように、予め均一な(粉砕テーブル3等の基材表面に沿った)研削面を形成しておくと、研削作業後の肉盛溶接を、場所によらず一定の肉盛量とすればよい。このため、この肉盛溶接作業をより簡便に行うことができる。
【0034】
この両回転方向r1、r2は、上述したように直交させることが最も好ましいが、そのような構成にできない場合は、少なくとも両回転方向r1、r2が異なる構成とするとよい。そうすれば、両回転方向r1、r2が一致している場合と比較して、前記深い溝の形成がある程度抑制され、研削を比較的スムーズに行い得るからである。
【0035】
また、回転砥石11による粉砕テーブル3等への加圧力は、空気圧シリンダ9へ供給される圧縮空気の供給圧力によって決まる。すなわち、この供給圧力を所定値に設定しておくと、テーブル面等が3次元立体形状を有している場合であっても、一定の加圧力が負荷される。このため、常に一定の研削速度が得られ、作業者が回転砥石11の位置をハンドル操作しながら研削作業を行う際に、自ら加圧力を調節する必要がないため、その作業を容易に行うことができる。
【0036】
前記3次元立体形状の起伏が、空気圧シリンダ9のストローク長よりも大きい場合は、この空気圧シリンダ9のストロークによって研削可能な領域を研削した後、固定治具7による固定を一旦緩めて、残りの領域が研削できる高さにこの固定治具7を再固定した上で、研削を再開するようにする。この固定治具7の移動は簡単に行い得るので、この作業を容易に行うことができる。
【0037】
また、この研削装置による研削速度は、圧縮空気の供給圧力を変えることによる回転砥石の加圧力あるいは回転速度の変更、又は粉砕テーブル等の回転速度の変更により適宜調節することができる。
【0038】
なお、上述した空気圧シリンダ9は、空気圧のみによってその伸縮を行うものを採用したが、空気圧シリンダに内蔵したスプリング等の弾性部材と、スプリング室内の空気圧との相補的作用によって、その伸縮を行うものも採用し得る。この空気圧シリンダ9は、粉砕テーブル3等の3次元形状に対応して、その凸部においてスプリングが縮んで強い加圧力を発揮してその凸部を研削する一方で、その凹部においてスプリングが伸びて加圧力が低下し、研削量を抑制する。このため、凹凸形状を有する粉砕テーブル3のテーブル面等をより平坦に研削する作用を発揮し得る。
【0039】
なお、この発明に係る研削装置は、肉盛溶接の前の摩耗部のみならず、肉盛溶接後に、そのビード形状に起因して生じた凹凸の研削作業にも適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 竪型ミル
2 粉砕室
3 粉砕テーブル
4 粉砕ローラ
5 内壁
6 供給管
7 固定治具
8 アダプタ
9 空気圧シリンダ(伸縮部材)
10 エアグラインダ
11 回転砥石
12(12a、12b) 当て板
13 レール
14 研削溝
C 被粉砕物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
竪型ミル(1)の粉砕室(2)内に、水平に固定した固定治具(7)と、この固定治具(7)に沿って水平方向にスライド自在に、かつ鉛直方向に伸縮自在に設けた伸縮部材(9)と、この伸縮部材(9)の先端に設けた回転砥石(11)とを備え、この回転砥石(11)で、粉砕テーブル(3)のテーブル面及び粉砕ローラ(4)のローラ面を所定形状に研削する竪型ミル用の研削装置。
【請求項2】
前記固定治具(7)が、前記粉砕室(2)の内壁(5)と、前記粉砕テーブル(3)に被粉砕物(C)を供給する供給管(6)との間に介在するように固定されている請求項1に記載の竪型ミル用の研削装置。
【請求項3】
前記伸縮部材(9)の伸縮が、空気圧の作用によってなされる請求項1又は2に記載の竪型ミル用の研削装置。
【請求項4】
前記回転砥石(11)による前記粉砕テーブル(3)及び粉砕ローラ(4)の研削箇所において、前記回転砥石(11)の回転方向(r2)と、前記粉砕テーブル(3)及び粉砕ローラ(4)の回転方向(r1)が異なるように前記回転砥石(11)を回転させるようにした請求項1乃至3のいずれか一つに記載の竪型ミル用の研削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−173027(P2010−173027A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19367(P2009−19367)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(506059861)クリモトメック株式会社 (34)
【Fターム(参考)】