説明

端面発光型フォトニック結晶レーザ素子

【課題】 安定したレーザ光を出射可能な端面発光型フォトニック結晶レーザ素子を提供する。
【解決手段】 端面発光型フォトニック結晶レーザ素子10は、X軸を囲む4つの端面を有し、端面のうちの1つはレーザ光出射面SFであり、端面のうちのレーザ光出射面SFに対向する面を逆側端面SBとし、端面のうちの残りの一対の端面を側方端面SR,SLとする。端面発光型フォトニック結晶レーザ素子10をX軸方向から見た場合、上部電極E2の一端はレーザ光出射面SFに重なり、上部電極E2と逆側端面SBとは離間し、上部電極E2と双方の側方端面SR,SLとは離間し、且つ、活性層3Bの一端はレーザ光出射面SFに重なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端面発光型フォトニック結晶レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の端面発光型フォトニック結晶レーザ素子は、半導体基板上に、N型クラッド層、活性層、回折格子層(フォトニック結晶層)、P型クラッド層を順次形成し、これらからなる基板の上下面に、それぞれ駆動電極を配置したものである。これらの半導体材料はAlGaAs系の材料からなり、Alの組成比を変更することで、屈折率とエネルギーバンドギャップを変えることができる。基板の厚み方向をX軸方向とし、長手方向をZ軸方向とし、幅方向をY軸方向とすると、上面電極は細長くZ軸方向に沿って延びている。Z軸方向に垂直な両端面の一方には、無反射コーティング、他方には高反射コーティングが施されている。高反射コーディングがされない場合においても、半導体の屈折率は、空気の屈折率(=1)よりも高いので、内部で発生した光は、半導体内部に閉じ込められる傾向がある。
【0003】
活性層で発生した光は、フォトニック結晶層内にも存在し、フォトニック結晶層による回折の影響を受けて、二次元的な共振状態が発生する。2次元的な共振状態の光のうち一部が、無反射コーティングが施された端面から光出力として取り出される。通常のファブリペローレーザと異なり、±Yおよび±Z方向においてもフォトニック結晶の効果によりモードが規定されるため、ブロードエリアの縦横単一モード半導体レーザが実現される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】渡邉明佳他、「2次元フォトニック結晶を用いた端面出射型半導体レーザの作製(I)」:第58回応用物理学関係連合講演会予稿集26a−KA−3 (2011)
【非特許文献2】酒井恭輔他、”Coupled−Wave Theory for Square−Lattice Photonic Crystal Lasers With TE Polarization,” IEEE J. Quantμm Electron. 46, 788−795 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような端面発光型フォトニック結晶レーザ素子においては、Z軸方向に垂直な両端面間の光の往復により発生するモード(ファブリペローモードとする)、2次元フォトニック結晶からなる回折格子層内の光に起因して発生するモードが混在するため、これらのモード混在の影響により、安定したレーザ光の発生が不十分であるという問題がある。
【0006】
本発明は、安定したレーザ光を出射可能な端面発光型フォトニック結晶レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明に係る端面発光型フォトニック結晶レーザ素子は、半導体からなる下部クラッド層と、半導体からなる上部クラッド層と、前記下部クラッド層と前記上部クラッド層との間に設けられた量子井戸層からなる活性層であって、この量子井戸層が前記下部クラッド層及び前記上部クラッド層のいずれよりも小さなエネルギーバンドギャップを有する複数のバリア層と前記バリア層間に位置する井戸層とを有する活性層と、前記下部クラッド層及び前記上部クラッド層の少なくともいずれか一方と前記活性層との間に設けられた領域を有する回折格子層と、前記下部クラッド層の表面上に設けられた下部電極と、前記上部クラッド層の表面上に設けられた上部電極と、を備え、XYZ直交座標系を設定し、X軸を素子厚み方向、Y軸を素子幅方向、Z軸を素子長さ方向とした場合、XY平面に沿ってレーザ光出射面が位置する端面発光型フォトニック結晶レーザ素子において、この端面発光型フォトニック結晶レーザ素子は、X軸を囲む4つの端面を有し、前記端面のうちの1つは前記レーザ光出射面であり、前記端面のうちの前記レーザ光出射面に対向する面を逆側端面とし、前記端面のうちの残りの一対の端面を側方端面とし、X軸方向から見た場合、前記上部電極の一端は前記レーザ光出射面に重なり、前記上部電極と前記逆側端面とは離間し、前記上部電極と双方の前記側方端面とは離間し、且つ、前記活性層の一端は前記レーザ光出射面に重なっていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、端面発光型フォトニック結晶レーザ素子における上述の2種のモードのうち、相対的に後者のモード(回折格子層依存のモード)を支配的にさせるため、ファブリペローモードを抑制している。
【0009】
すなわち、上部電極と下部電極との間に駆動電流を流すと、活性層内においてキャリアの再結合が生じて発光が生じる。活性層内にキャリアを注入して反転分布を形成した状態で、発生した光が活性層内を通ると、誘導放出が生じてレーザ光が生成される。ここで、レーザ光出射面と逆側端面との間に生じるファブリペローモードを抑制する。すなわち、上部電極は、逆側端面とは離間しているため、この離間領域には、キャリアが注入されず、この領域ではレーザ光が発生しない。したがって、レーザ光出射面と逆側端面との間に生じるファブリペローモードが抑制される。
【0010】
また、上部電極は、側方端面とも離間しているため、この離間領域に対応した活性層内には、キャリアが注入されず、この領域ではレーザ光が発生しない。したがって、レーザ光出射面と逆側端面との間に生じるファブリペローモードが抑制される。
【0011】
したがって、相対的には、ファブリペローモードが抑制され、回折格子層依存のモードが支配的になる。活性層におけるキャリア再結合によって発生した光は、回折格子層内にも到達し、特定の波長成分が選択的に回折格子層内を通過し、活性層内に戻る。この光に誘導されて活性層内で発生するレーザ光は、一部分がレーザ光出射面から出射される。
【0012】
なお、活性層における光出射面以外の端面においては、上述のファブリペローモードを抑制するために、当該端面における反射が抑制されることが好ましい。反射面が存在すれば、これは共振器の1つの反射鏡となり、ファブリペローモードを誘起しうるからである。空気の屈折率を1とすると、半導体の屈折率は1よりも大きい。したがって、半導体からなる活性層の端面が、空気に対して露出している場合には、これらの間には大きな屈折率差があり、反射が生じる。反射率は、屈折率差が大きいほど高くなる。活性層の端面に、半導体材料が接触している場合には、屈折率差は小さくなり、反射率は低下し、ファブリペローモードは抑制される。
【0013】
また、活性層の端面に接触する半導体材料が、ファブリペローモードのレーザ共振波長に対して、透明であれば、すなわち、広いエネルギーバンドギャップを有していれば、半導体材料内部における吸収や反射が抑制される。このレーザ共振波長は、概ね活性層における井戸層に対応するエネルギーバンドギャップに対応する波長である。なお、一般には、波長λ(nm)とエネルギーバンドギャップEg(eV)との間には、λ=1240/Egの関係があり、λとEgは反比例の関係にある。すなわち、半導体材料のエネルギーバンドギャップが、井戸層のエネルギーバンドギャップよりも広ければ、半導体材料内部における吸収や反射が抑制され得る。
【0014】
したがって、本発明に係る端面発光型フォトニック結晶レーザ素子は、X軸方向から見た場合、前記活性層と前記逆側端面とは離間し、前記活性層と双方の前記側方端面とは離間し、且つ、前記活性層を含むYZ平面内において、前記レーザ光出射面を除き、前記活性層は、前記井戸層のエネルギーバンドギャップよりも、広いエネルギーバンドギャップを有する半導体材料に接触していることが好ましい。
【0015】
この場合、上記の如く、活性層端面が半導体材料に接触していることにより、活性層と半導体材料の間の屈折率差は、空気に接している場合の屈折率差よりも小さくなり、更に、半導体材料が広いエネルギーバンドギャップを有していることにより、半導体材料内部における吸収や反射が抑制され得るので、ファブリペローモードが更に抑制されることになる。なお、屈折率は、光伝搬に関わる領域内の平均屈折率を意味するものとする。
【0016】
半導体材料の透明性に関して、レーザ共振波長は、井戸層のバンド端のエネルギーバンドギャップよりも、若干広いエネルギーバンドギャップに対応した波長成分を有している。
【0017】
そこで、前記半導体材料は、前記活性層内におけるZ軸方向のレーザ共振波長に対応するエネルギーバンドギャップよりも、広いエネルギーバンドギャップを有していることが好ましい。この場合には、当該レーザ共振波長のレーザ光に対して、半導体材料は透明となる。
【0018】
また、前記回折格子層は、前記半導体材料からなる基本層と、前記基本層内に周期的に位置し、これと異なる屈折率を有する複数の異屈折率部と、を備え、前記基本層は、前記活性層を含むYZ平面内において、前記活性層に接触していることを特徴とする。
【0019】
すなわち、回折格子層を構成する基本層の一部領域を、前述の半導体材料として、活性層の端面に接触させるという簡単な構成で、上述のファブリペローモードの抑制構造を形成することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の端面発光型フォトニック結晶レーザ素子によれば、回折格子層に起因するレーザ光のモードに対して混在するファブリペローモードを抑制することが可能なので、安定したレーザ光を出射することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】半導体レーザ素子の斜視図である。
【図2】半導体レーザ素子の平面図である。
【図3】半導体レーザ素子のIII−III矢印縦断面図である。
【図4】半導体レーザ素子のIV−IV矢印水平断面図である。
【図5】半導体レーザ素子のV−V矢印水平断面図である。
【図6】活性層に接触する半導体材料を示す図である。
【図7】半導体レーザ素子の層構造を示す図である。
【図8】半導体レーザ素子の製造方法を示す図である。
【図9】半導体レーザ素子の製造方法を示す図である。
【図10】半導体レーザ素子の製造方法を示す図である。
【図11】図5に示した半導体レーザ素子の水平断面の変形例を示す図である。
【図12】図5に示した半導体レーザ素子の水平断面の別の変形例を示す図である。
【図13】図5に示した半導体レーザ素子の水平断面の更に別の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施の形態に係る端面発光型フォトニック結晶レーザ素子について説明する。同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0023】
図1は、端面発光型フォトニック結晶レーザ素子の斜視図である。
【0024】
半導体レーザ素子10の立体形状は、直方体である。XYZ直交座標系を設定し、X軸を素子厚み方向、Y軸を素子幅方向、Z軸を素子長さ方向とした場合、XY平面に平行にレーザ光出射面が位置する。レーザ光出射面からは、Z軸方向に沿ってレーザ光LBが出射される。なお、斜方晶の半導体構成材料を採用する場合には、半導体レーザ素子10の立体形状は平行六面体とすることも可能である。この場合、半導体レーザ素子が直方体である場合と同様に、レーザ光出射面は、XY平面に沿ってはいるものの、XY平面から若干の傾斜を有することとなる。
【0025】
半導体レーザ素子10は、半導体基板1上に、下部クラッド層2、発光層3、回折格子層4、上部クラッド層5、コンタクト層6を順次備えている。これらの材料は、いずも半導体からなる。発光層3は、下部クラッド層2と回折格子層4との間に位置する半導体層とし、量子井戸層からなる活性層を含んでいる。本例では、好適には、発光層3は、図7に示すように、ガイド層3A、活性層3B、スペーサ層3C、キャリアブロック層3D、ガイド層3Eを順次積層してなる。ガイド層3Aのエネルギーバンドギャップは、活性層3Bにおけるバリア層のエネルギーバンドギャップ以上の広さを有し、いずれのクラッド層のエネルギーバンドギャップよりも狭い。スペーサ層3Cは、半導体層間の適当な距離を確保するための層であり、バリア層と同等のエネルギーバンドギャップを有する。なお、コンタクト層6上には、SiOやSiNx等の絶縁層Fが必要に応じて設けられ、上部電極E2は絶縁層Fに設けられた開口内に形成される。
【0026】
半導体レーザ素子10は、半導体基板1の裏面の全領域上に設けられた下部電極E1と、上部クラッド層5の表面の一部領域上に設けられた上部電極E2とを備えている。下部電極E1と上部電極E2との間に駆動電圧を印加し、これらの間の駆動電流を流すと、発光層3における活性層3B内にキャリアが集中し、かかる領域内において注入された電子と正孔が再結合し、発光が生じる。この発光は、クラッド層間の領域、すなわち発光層3及び回折格子層4を含むコア層内において、共振し、レーザ光LBとして外部へ出力される。回折格子層4は、共振するレーザ光の特定の波長を決定している。
【0027】
半導体レーザ素子10においては、Z軸方向に沿ったレーザ共振であるファブリペローモードの他、回折格子層4に起因するレーザ共振のモードなどが混在し得る。
【0028】
発光が生じるのは、原則的には駆動電流が流れる経路、すなわち電気抵抗が小さくなる上部電極E2の直下の領域である。上部電極E2の材料としては、Au、Ag、Cu、Ni又はAlなどの金属、或いは、1×1019/cm以上の高濃度に不純物が添加された化合物半導体を用いることができる。下部電極E1の材料も同様である。
【0029】
なお、活性層3Bについて詳説すれば、活性層3Bは、下部クラッド層2と上部クラッド層5との間に設けられた量子井戸層からなる。活性層3Bを構成する量子井戸層は、図6に示すように、複数のバリア層3B1,3B3,3B5と、これらのバリア層3B1,3B3,3B5間に位置する井戸層3B2,3B4からなる。バリア層3B1,3B3,3B5は、下部クラッド層2及び上部クラッド層5のいずれよりも小さなエネルギーバンドギャップを有する。なお、井戸層3B2,3B4は、バリア層3B1,3B3,3B5よりも小さなエネルギーバンドギャップを有する。
【0030】
回折格子層4は、活性層3Bと上部クラッド層5との間に位置しているが、これは活性層4Bと下部クラッド層2との間に位置していてもよく、双方に回折格子層を有する構成も可能である。すなわち、回折格子層4は、下部クラッド層2及び上部クラッド層5の少なくともいずれか一方と活性層3Bとの間に設けられた領域を有している。
【0031】
図2は、図1に示した半導体レーザ素子の平面図である。
【0032】
半導体レーザ素子10は、X軸を囲む4つの端面を有している。すなわち、Z軸正方向の前面側に位置し、XY平面に沿ったレーザ光出射面SF、これとは逆の後側に位置する逆側端面SB、XZ平面に沿った側方端面SR,SLである。換言すれば、4つの端面のうちの1つはレーザ光出射面SFであり、これらの端面のうちのレーザ光出射面SFに対向する面が逆側端面SBであり、これらの端面のうちの残りの一対の端面が側方端面SR,SLである。YZ平面とこれらの各端面との構成は線分であり、長方形を構成している。
【0033】
半導体レーザ素子10を、X軸方向から見た場合、上部電極E2の前側の一端E2Fはレーザ光出射面SFに重なり、上部電極E2の後側の一端E2Bと逆側端面SBとは距離ZB1だけ離間し、上部電極E2の両側の一端E2R,E2Lと双方の側方端面SR,SLとはそれぞれ距離YR1、YL1だけ離間している。また、X軸方向から見た場合、活性層3Bの前側の一端(YZ平面内では電極E2の一端E2Fと同じ位置)はレーザ光出射面SFに重なっている。
【0034】
回折格子層4は、X軸方向から見た場合、回折格子形成領域RPCを備えている。回折格子形成領域RPC内においては、YZ平面内において屈折率が周期的に変化している。なお、X軸方向から見た回折格子形成領域RPCは、活性層の形成領域よりも広く設定されている。活性層3Bの存在する光伝搬に関与する領域に、常に回折格子形成領域RPCを存在させるためである。
【0035】
上述の半導体レーザ素子においては、X軸方向から見た場合に、上部電極E2の外側の領域には、活性層3Bを含む発光層3が存在しないマージン領域がある。このマージン領域は、活性層3Bにおける端面における反射及び基本層4A内部における反射を抑制する機能もあるため、端面反射抑制領域ということができる。
【0036】
上部電極E2直下の領域の外側に位置する端面反射抑制領域には、原則として、活性層3Bとしての量子井戸層が存在しないが、上部電極E2を上記構造とすることで、端面反射抑制領域に電流(キャリア)が注入されないのであれば、この領域内に量子井戸層が存在することとしても、レーザ共振は生じないこととなる。なお、端面反射抑制領域はレーザ共振波長の光に対してゲインを有せず、端面反射抑制領域ではレーザ共振波長の光に対して吸収が抑制されている。
【0037】
図3は、半導体レーザ素子のIII−III矢印縦断面図である。
【0038】
回折格子層4は、発光層3の上部電極E2側に接触し、また、発光層3の側面に接触している。回折格子層4は、半導体材料からなる基本層4Aと、基本層4A内に周期的に位置し、これと異なる屈折率を有する複数の異屈折率部4Bとを備えている。このような屈折率の異なる材料の界面では光が散乱されるが、散乱体を周期的に配置することにより、特定波長の光が強め合って定在波状態を形成し、回折格子層4B内において共振する。
【0039】
上部電極E2と下部電極E1との間に駆動電流を流すと、活性層3B内においてキャリアの再結合が生じて発光が生じる。活性層3B内にキャリアを注入して反転分布を形成した状態で、発生した光が活性層内を通ると、誘導放出が生じてレーザ光が生成される。ここで、レーザ光出射面SFと逆側端面SBとの間に生じるファブリペローモードを抑制する。すなわち、図2に示すように、上部電極E2は、逆側端面3Bとは距離ZB1だけ離間しているため、この離間領域には、キャリアが注入されず、この領域ではレーザ光が発生しない。したがって、レーザ光出射面SFと逆側端面SBとの間に生じるファブリペローモードのレーザ光の発生が抑制される。
【0040】
また、上部電極E2は、図2に示したように側方端面とも距離YR1、YL1だけ離間しているため、この離間領域に対応した活性層内には、キャリアが注入されず、この領域ではレーザ光が発生しない。したがって、側方端面SR,SLの間で生じるファブリペローモードのレーザ光発生が抑制される。
【0041】
なお、上部電極E2の幅方向の寸法をY1とし、活性層3B(発光層3)の幅方向の寸法をY2とすると、Y1≦Y2の関係を満たしている。また、図2に示したように、X軸方向から見た場合、活性層3B(発光層3)と逆側端面3Bとは距離ZB2だけ離間し、活性層3B(発光層3)と双方の側方端面SR,SLとは距離YR2、YL2だけ離間している。また、活性層3B(発光層3)を含むYZ平面内において、レーザ光出射面SFを除き、活性層3B(発光層3)は、半導体材料(基本層4A)に接触している。半導体材料(基本層4A)は、活性層を構成する井戸層3B2,3B4(図6参照)のエネルギーバンドギャップよりも、広いエネルギーバンドギャップを有している。
【0042】
上述の構造によれば、半導体レーザ素子の各端面と上部電極E2とが離間していることにより、かかる離間領域におけるキャリア注入が抑制され、また、各端面とは活性層3Bとが離間していることにより、かかる離間領域におけるキャリア再結合自体が抑制され、したがって、端面間の反射によるファブリペローモードが抑制され、回折格子層依存のレーザ光発生モードが支配的になる。
【0043】
活性層3Bにおけるキャリア再結合によって発生した光は、その一部が回折格子層4内にも存在するため、回折格子層4による回折効果によって特定の波長成分が選択的に強められ、Y−Z面内で2次元的な定在波状態を形成する。この2次元的な定在波状態が光を閉じ込める共振器の作用を有するため、活性層に十分なゲインを与えることによりレーザ発振する。こうしてレーザ発振した光は一部分がレーザ光出射面SFから出射される。ファブリペローモードではなく、回折格子層に依存するモードの発生原理は、以下の通りである。
【0044】
下部電極E1から活性層3Bまでの離隔距離LA1は100μm以上であり、上部電極E2から活性層3Bまでの離隔距離LA2は、LA1よりも小さく数μmである。これにより、活性層3Bのうち上部電極E2に対応した部分近傍(上部電極直下領域)のみ選択的に駆動することができる。活性層3Bの光のうち上部電極E2に対応した部分で発生した光は、その一部が回折格子層4にも存在する。そのため活性層3Bの光は回折格子層4により2次元的なフィードバックを受け、大面積の定在波状態を形成する。十分な電流を注入することによって、この定在波状態は発振に至り、YZ面内方向に大面積単一モード発振が実現される。この発振した光のうち一部を+Z方向からレーザ光出力として取り出す。このとき、回折格子層4により得られるフィードバック効果と電極サイズを適切に設定することにより、上部電極E2の領域全体で縦横単一モードが得られるため、レーザ光出射面からは縦横単一モードで、ブロードエリアとなるレーザ光出力が得られる。
【0045】
端面反射抑制領域では、上部電極E2から漏れてきた光を上部電極領域側へフィードバックする効果を有するとともに、この光は吸収されない。このため、光出力端面とその対向する−Z方向の逆側端面との間に生じるファブリペローモードの形成を抑制しつつ、損失の少ない、高効率な単一モード発振を実現することができる。
【0046】
上部電極E2の形状として、上記では正方形形状を採用している。レーザ光の基本モードの横モード分布としては回転対称な分布が期待出来る。従って、上部電極の形状が正方形或いは真円に近いほど、光反射抑制領域にかかる光の割合が減ると期待される。本実施形態では光反射抑制領域として、光吸収領域を用いているため、光反射抑制領域にかかる光の割合が減るほど2次元フォトニック結晶に由来するモードの損失が低減すると期待される。
【0047】
図4は、図3に示した半導体レーザ素子のIV−IV矢印水平断面図である。
【0048】
回折格子層4における回折格子形成領域RPC内では、複数の異屈折率部4Bが基本層4A内に埋め込まれている。異屈折率部4Bは、Y軸方向に整列すると同時に、Z軸方向に整列し、YZ平面内において正方格子を構成し、二次元的に広がっている。それぞれの異屈折率部4Bの基本層4A内の深さは100nm〜200nmであり、YZ平面内における平面形状は概ね円形であり、その平均直径は100nm〜150nmである。異屈折率部4BのY軸方向の周期は300nm、Z軸方向の周期は300nmである。異屈折率部4BのYZ平面内における平面形状は、円形でなくてもよく、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形とすることができる。また、二次元的な広がりとして、それぞれの重心位置がYZ平面内で正方格子における格子点を構成するものでなく、三角格子における格子点を構成することとしてもよい。また、上記の形状は発振波長980nmにて、格子点間に1波長が含まれるような発振状態、いわゆるΓ点発振での例を示したものであり、発振波長に比例して周期構造を拡大縮小することにより、他の発振波長でも同様に対応することが可能であるとともに、Γ点以外でも例えばバンド構造上でM点(非特許文献2に記載)と呼ばれる点など、対称性の高い他の点でも発振は可能である。
【0049】
上述の構造の半導体レーザ素子の場合、半導体レーザ素子の端面から、レーザ光をZ軸方向に沿って出射することができる。
【0050】
図5は、図3に示した半導体レーザ素子のV−V矢印水平断面図である。
【0051】
YZ平面内において、活性層3B(発光層3)は、X軸回りに4つの端面SF、3SR、3SF、3SBを有する。端面SFはレーザ光出射面、端面3SR、3SFは側方端面、端面3SBはレーザ光出射面に対向する逆側端面である。活性層3Bを含むYZ平面内において、活性層3B(発光層3)の光出射面SF以外の端面3SR、3SF、3SBには、回折格子層4の基本層4Aからなる半導体材料が接触している。
【0052】
活性層3B(発光層)と基本層4Aとの間の屈折率差は、活性層3Bが空気に接触している場合よりも小さくなる。反射率は、屈折率差が大きいほど高くなる。したがって、活性層3Bの端面における反射率は、これが空気に接触した場合よりも低下し、端面反射が抑制される。したがって、活性層3Bと基本層4Aの間の端面反射に起因するファブリペローモードのレーザ光の発生が抑制される。
【0053】
なお、活性層3B(発光層3)の端面に接触する半導体材料(基本層4A)は、活性層内におけるZ軸方向に共振するファブリペローモードのレーザ共振波長λに対応するエネルギーバンドギャップよりも、広いエネルギーバンドギャップを有している。この場合には、当該レーザ共振波長のレーザ光に対して、半導体材料は透明となる。したがって、半導体材料からなる基本層4Aの内部における吸収や反射が抑制される。このレーザ共振波長は、概ね活性層における井戸層に対応するエネルギーバンドギャップに対応する。一般には、波長λ(nm)とエネルギーバンドギャップEg(eV)との間には、λ=1240/Egの関係があり、λとEgは反比例の関係にある。すなわち、基本層4Aを構成する半導体材料のエネルギーバンドギャップが、井戸層のエネルギーバンドギャップよりも広ければ、当該半導体材料内部における吸収や反射が抑制され得る。
【0054】
なお、半導体材料の透明性に関して、レーザ共振波長は、井戸層3B2、3B4(図6参照)のバンド端のエネルギーバンドギャップよりも、若干広いエネルギーバンドギャップに対応した波長成分を有している。
【0055】
以上のように、回折格子層4を構成する基本層4Aの一部領域を、前述の半導体材料として、活性層3Bの端面に接触させるという簡単な構成で、上述のファブリペローモードの抑制構造を形成することが可能である。この場合、上記の如く、活性層端面が半導体材料(基本層4A)に接触していることにより、活性層3B(発光層3)と半導体材料(基本層4A)の間の屈折率差は、空気に接している場合の屈折率差よりも小さくなり、更に、半導体材料が広いエネルギーバンドギャップを有していることにより、半導体材料内部における吸収や反射が抑制され得るので、ファブリペローモードが更に抑制されることになる。なお、屈折率は、光伝搬に関わる対象領域内の平均屈折率を意味するものとする。
【0056】
図6は、活性層3B(発光層3)に接触する半導体材料(基本層4A)を示す図である。
【0057】
同図では、活性層3B(発光層3)の+Y方向、−Y方向、又は−Z方向に接触する基本層4Aが示されている。
【0058】
発光層3は、ガイド層3A、活性層3B、スペーサ層3C、キャリアブロック層3D、ガイド層3Eを順次積層してなる。これらの化合物半導体層は、AlGaAs系の化合物を含んでいる。AlGaAsにおいては、Alの組成比を変更することで、容易にエネルギーバンドギャップと屈折率を変えることができる。AlGa1−XAsにおいて、相対的に原子半径の小さなAlの組成比Xを減少させると、これと正の相関にあるエネルギーバンドギャップは小さくなり、GaAsに原子半径の大きなInを混入させてInGaAsとすると、更にエネルギーバンドギャップは小さくなる。
【0059】
エネルギー障壁を増加させて、キャリアを活性層3B内に閉じ込めようとするキャリアブロック層3D(X=0.4)においては、Alの組成比Xを、スペーサ層3C(X=0.1)、ガイド層3A,3E(X=0.1)、活性層3Bにおけるバリア層3B1,3B3,3B5(X=0.1)よりも高くして、エネルギーバンドギャップを大きくする。
【0060】
AlGa1−XAs(X=0.1)からなる活性層3Bにおけるバリア層3B1,3B3,3B5間には、InGaAsからなる井戸層3B2,3B4が介在するが、これらのAlの組成比XはゼロであってInを含むものであり、エネルギーバンドギャップはバリア層3B1,3B3,3B5よりも小さくなっている。なお、下部クラッド層2及び上部クラッド層5のAl組成比X(X=0.7、X=0.4)は、それぞれガイド層のAl組成比Xよりも高く、これよりも相対的にエネルギーバンドギャップは広く、屈折率は低くなっている。なお、一般的に、エネルギーバンドギャップと屈折率は、負の相関がある。
【0061】
基本層4A(AlGaAs)の屈折率は、波長0.9μmの場合には、GaAsの屈折率(3.59)とAlAsの屈折率(2.97)との間にあり、Alの組成比に拘らず、空気の屈折率(=1)よりも高い。反射率は屈折率差に依存するので、活性層3B(発光層3)と基本層4Aとの間の屈折率差(換言すれば反射率)は、活性層3B(発光層3)と空気との間の屈折率差(換言すれば反射率)よりも、小さい。なお、活性層3B(発光層3)の屈折率は、その平均の屈折率である。
【0062】
なお、発光層3の内部においては、大部分の層が、Al組成X=0.1のAlGa1−XAsからなり、隣接する基本層4Aも、Al組成Xがこれと同一のX=0.1のAlGa1−XAsからなるため、これらの界面における反射は著しく抑制される。なお、InGaAsからなる井戸層3B2,3B4と、AlGaAsからなる基本層4Aとの間には若干の屈折率差があり、これらの界面において若干の反射があるが、これらの厚みは薄いので、全体としての界面反射量は少ない。バリア層3B1,3B3,3B5の屈折率と、基本層4Aの屈折率が同程度(Al組成比が同一)か、又は、基本層4Aの屈折率の方が高ければ(Al組成比が小さい)、界面反射は十分に抑制される。
【0063】
以上のように、実施の形態に係る端面発光型フォトニック結晶レーザにおいては、ファブリペローモードを抑制し、相対的に回折格子層依存のモードを支配的にさせるため、レーザ光が安定して出力される。
【0064】
図7は、半導体レーザ素子の半導体層構造の具体例を示す図である。
【0065】
半導体基板1上には、下部クラッド層2、ガイド層3A、活性層3B、スペーサ層3C、キャリアブロック層3D、回折格子層4、上部クラッド層5、コンタクト層6が順次積層されている。半導体基板1はN型のGaAs、下部クラッド層2はN型のAlGa1−XAs(X=0.7)、ガイド層3AはAlGa1−XAs(X=0.1)、活性層3BはAlGa1−XAs(X=0.1)/InGaAsからなる量子井戸層、スペーサ層3CがGaAs、キャリアブロック層3DはAlGa1−XAs(X=0.4)、回折格子層4は基本層4AがGaAs、異屈折率部がAlGa1−XAs(X=0.4)からなり、上部クラッド層5はAlGa1−XAs(X=0.4)、コンタクト層6はP型のGaAsからなる。
【0066】
コンタクト層6とクラッド層2,5を除く化合物半導体層には原則的にはノンドープであって、不純物は添加されておらず、ガイド層3A,活性層3B、スペーサ層3C、キャリアブロック層3D、回折格子層4の不純物濃度は、1×1016/cm以下である。コンタクト層6の不純物濃度は1×1019/cm以上、クラッド層2,5の不純物濃度は例えば1×1017/cm以上とすることができる。PN接合ダイオードレーザを構成するため、クラッド層間の化合物半導体層には不純物を添加しないが、若干の添加を行って、ガイド層3Aを僅かなN型とし、スペーサ層3C、キャリアブロック層3D及び回折格子層4を僅かなP型とすることもできる。N型の不純物としては、Si、Se等を用いることができ、P型の不純物としてはZn、Mg等を用いることができる。
【0067】
また、下部クラッド層2の厚みは1.0〜3.0μm、ガイド層3Aの厚みは0〜300nm、活性層3Bの厚みは10〜100nm、スペーサ層3Cの厚みは10〜200nm、キャリアブロック層3Dの厚みは50〜200nm、回折格子層4の厚みは50〜200nm、上部クラッド層5の厚みは1.0〜3.0μm、コンタクト層6の厚みは50〜500nmとすることができる。また、上記の例では、活性層3Bを構成する多重量子井戸層の井戸層の数は2である場合を示したが、これは1又は3以上であってもよい。なお、本発明は、上述の半導体層構造の半導体レーザ素子にも適用可能である。
【0068】
図8〜図9は、上述の半導体レーザ素子の製造方法を示す図である。
【0069】
半導体レーザ素子を構成する各化合物半導体層の形成においては、有機金属気相成長(MOCVD)法を用いることができる。MOCVD法では、アルミニウム原料としてTMA(トリメチルアルミニウム)、ガリウム原料としてTMG(トリメチルガリウム)、インジウム原料としてTMI(トリメチルインジウム)を用いることができ、各原料ガスの比率を制御することで、化合物半導体の組成比を調整することができる。以下の説明において、各化合物半導体層における組成比は原料ガスの分圧を変更して適宜設定する。
【0070】
化合物半導体層の成長時において、同時にP型又はN型の不純物を含むガスを添加することができる。P型の不純物(Zn、Mg)を含む原料としては、ジメチル亜鉛(DMZn)やビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)があり、N型の不純物(Si、Se)を含む原料としては、SiH、HSe等がある。
【0071】
まず、N型(第1導電型とする)の半導体基板(GaAs)1を用意する。次に、半導体基板1上に、MOCVD法を用いて、N型の下部クラッド層(AlGaAs)2と発光層3を順次エピタキシャル成長させる(図8(A))。発光層3は、化合物半導体層3A,3B,3C,3D、3Eを順次積層して形成する。化合物半導体層3A,3C,3D、3EはAlGaAsからなるが、活性層3Bは、AlGaAsとInGaAsの積層構造となっているため、AlGaAs及びInGaAsを交互に積層する。
【0072】
次に、活性層3Bを含む発光層3を、図5に示した形状にエッチングする(図8(B)〜図8(E))。すなわち、発光層3の表面上に、プラズマCVD法により、SiNからなる絶縁層FLを形成し、この上にレジストRGを塗布した後(図8(B))、レジストRGを露光してパターニングし、現像処理を行って、レジストのマスク層とする(図8(C))。SiNを形成する場合のプラズマCVDの原料ガスとしては、Si原料としてSiHを用い、N原料としてN、NHなどを用い、必要に応じてHまたはArでガスを希釈する。このマスク層を用いて、絶縁層FLをエッチングすることで、絶縁層FLからなるマスク層を形成することができる(図8(D))。SiNのエッチングガスとしては、フッ素系ガス(CF,CHF,C)を一般的に用いることができる。
【0073】
レジストRGをアッシングすることにより、これを除去した後、絶縁層FLのマスク層を用いて、発光層3をエッチングすることで、図5に示した形状の発光層3を下部クラッド層2上に残留させる(図8(E))。アッシングには、光励起アッシング又はプラズマアッシングを用いることができる。このマスク層の平面形状は長方形であり、Z軸方向はレーザ光出射面SFから逆側端面SBに至らない位置まで延び、Y軸方向は素子幅方向の中心から側方端面SR,SFに至らない位置まで延びている。
【0074】
発光層4のエッチングには、ドライエッチングを用いる。ドライエッチングでは、エッチングガスとして塩素系又はフッ素系のガスを用いることができる。例えば、Cl、SiCl又はSF等を主なエッチングガスとして、これにArガス等を混入させたものを用いることができる。通常のプラズマエッチングの他、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマを用いたエッチングを採用することもできる。
【0075】
次に、残留した発光層3及び露出した下部クラッド層2上に、AlGaAsからなる基本層4Aを成長させ、発光層3の上面及び側面を基本層4Aで被覆する(図8(F))。
【0076】
次に、プラズマCVD法により、SiNからなるマスク層FL1を基本層4A上に形成する(図9(G))。SiNを形成する場合のプラズマCVDの原料ガスとしては、Si原料としてSiHを用い、N原料としてN、NHなどを用い、必要に応じてHまたはArでガスを希釈する。更に、マスク層FL1上にレジストRG1を塗布し、電子ビーム描画装置で2次元微細パターンを描画し、現像することでレジストRG1に2次元(又は1次元)の微細パターン(異屈折率部の位置に対応)を形成する(図9(H))。これにより、レジストRG1には微細パターンとなる複数の孔H1が形成され、各孔H1は、マスク層FL1の表面にまで到達している。
【0077】
次に、マスク層FL1を、レジストRG1をマスクとしてエッチングし、レジストの微細パターンをマスク層FL1に転写する(図9(I))。このエッチングには、反応性イオンエッチング(RIE)を用いることができる。SiNのエッチングガスとしては、フッ素系ガス(CF,CHF,C)を一般的に用いることができる。このエッチングにより、マスク層FL1には、孔H2が形成され、各孔H2は、基本層4Aの表面にまで到達している。
【0078】
次に、剥離液をレジストRG1に与え、更に、レジストRGをアッシングすることにより、レジストRG1を除去する(図9(J))。アッシングには、光励起アッシング又はプラズマアッシングを用いることができる。これにより、複数の孔H3を有する微細パターンを有するマスク層FL1のみが、基本層4A上に残留することとなる。
【0079】
しかる後、マスク層FL1をマスクとして、基本層4Aをエッチングし、マスク層FL1の微細パターンを基本層4Aに転写する(図9(K))。このエッチングには、ドライエッチングを用いる。ドライエッチングでは、エッチングガスとして塩素系又はフッ素系のガスを用いることができる。例えば、Cl、SiCl又はSF等を主なエッチングガスとして、これにArガス等を混入させたものを用いることができる。通常のプラズマエッチングの他、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマを用いたエッチングを採用することもできる。このエッチングにより、基本層4A内に形成される孔H4の深さは、200nm程度であり、孔H4の深さは基本層4Aの厚みよりも小さい。なお、孔H4は、基本層4Aの下地となる半導体層の表面まで到達していてもよい。
【0080】
次に、反応性イオンエッチング(RIE)により、SiNからなるマスク層FL1のみを除去し、孔H4に連続した穴H5の開口端面を露出させ、すなわち基本層4Aの表面を露出させる(図9(L))。SiNのエッチングガスとしては、上述の通り、フッ素系ガス(CF,CHF,C)を採用することができる。しかる後、基本層4Aのサーマルクリーニングを含めた表面洗浄などの表面処理を行う。
【0081】
次に、MOCVD法を用いて、基本層4Aの穴H5内に異屈折率部(埋め込み層)4Bを形成(再成長)する(図10(M))。この再成長工程では、AlGaAsを基本層4Aの表面に供給する。供給されるAlGaAsは、基本層4AよりもAlの組成比が高い。再成長の初期段階においては、AlGaAsは、穴H5内を埋めていき、異屈折率部4Bとなる。穴H5が埋まった場合、その後に供給されるAlGaAsは、バッファ層として、基本層4Aの上に積層される。しかる後、MOCVD法により、回折格子層4上に、P型(第2導電型とする)のクラッド層(AlGaAs)5、P型のコンタクト層(GaAs)6を順次成長させる(図10(N))。P型のクラッド層(AlGaAs)5におけるAlの組成比Xは、異屈折率部4BにおけるAlの組成比X以上であり、本例ではこれらは等しいとするが、X=0.4を採用することができる。もちろん、異屈折率部4B及びバッファ層におけるAlの組成比Xを例えばX=0.35とし、成長に伴って徐々にAlの組成比Xを増加させ、上部クラッド層5におけるAlの組成比XをX=0.4とすることも可能である。なお、上述の結晶成長は全てエピタキシャル成長であり、各半導体層の結晶軸は一致している。
【0082】
次に、コンタクト層6上に、レジストRG2を塗布する(図10(O))。このレジストRG2に対して、現像処理後にレーザ光出射面から延びた長方形スロットの開口が形成されるようなパターンの露光を行う。すなわち、ポジ型のレジストを用いる場合には、露光領域を一辺がレーザ光出射面に一致した長方形とし、ネガ型のレジストを用いる場合には、非露光領域を一辺がレーザ光出射面に一致した長方形として周辺領域を露光する。しかる後、レジストRG2に対して現像処理を行い、レーザ光出射面を一辺とする長方形スロットの開口パターンをレジストRG2の端部に形成する(図10(P))。開口パターンを有するレジストRG2をマスクとして、レジストRG2及びコンタクト層6の露出表面上に、電極材料E2’を堆積する(図10(Q))。この電極材料の形成には、蒸着法やスパッタ法を用いることができるが、本例では蒸着法とする。
【0083】
更に、レジストRG2をリフトオフにより除去し、コンタクト層6上に長方形の電極材料を残留させ、上部電極E2を形成する(図10(R))。しかる後、N型の半導体基板1の裏面を研磨し、続いて、研磨された裏面上の全体に下部電極E1を形成する。この電極の形成には、蒸着法又はスパッタ法を用いることができる。なお、上部電極E2のZ軸方向長は、発光層3のZ軸方向長と概ね同一であり、完全に一致していてもよいが、本例では、発光層3の方が若干長くなっている。なお、コンタクト層6上に開口パターンを有する絶縁層Fを形成し、この開口を含む領域内に上部電極E2をパターニングすることもできる。この開口パターンは長方形であり、その一辺は光出射端面をX軸方向から見たライン上に重複する。
【0084】
なお、複数の半導体レーザ素子を1枚のウェハから製造する場合には、素子分離用の溝を形成する必要があるが、これはコンタクト層6上に、レジストを塗布し、レジストを感光及び現像することにより、素子分離用の開口パターンを形成し、このレジストを用いて、コンタクト層6をウエットエッチングして溝を形成する。エッチングする深さは10μm程度とする。しかる後、有機溶剤を用いてレジストを除去すればよい。
【0085】
なお、上記孔H1の作製方法として、実施の形態では電子ビーム露光法による作製法を説明したが、ナノインプリント、干渉露光、集束イオンビーム(FIB)、ステッパを用いた光学露光等、その他の微細加工技術を用いることも可能である。また、なお、上記では、活性層3Bの上側に1つの回折格子層4を備える例について説明したが、これは活性層3Bの下側に回折格子層を備えることとしてもよく、また、活性層3Bの上下それぞれに回折格子層を備える構成とすることもできる。
【0086】
なお、上記では活性層3BのYZ平面内の形状を長方形としたが、これは他の形状であってもよい。
【0087】
図11は、図5に示した半導体レーザ素子の水平断面の変形例を示す図である。図5に示したものとの相違点は、活性層3B(発光層3)のYZ平面内の形状が長方形ではなく、円の一部を切断した形状である点である。この形状は、円の重心位置を通る直線に平行な直線で、円を切断し、この直線とレーザ光出射面SFとをYZ平面内で重ね合わせた形状である。切断位置が、円の重心を通る場合には、この形状は半円となる。十分な端面反射が抑制されるための活性層3B(発光層3)と半導体レーザ素子の3端面SB,SR,SLとの最短距離ZB2、YR2、YL2は、それぞれ、50μm以上、50μm以上、50μm以上である。
【0088】
図12は、図5に示した半導体レーザ素子の水平断面の別の変形例を示す図である。図5に示したものとの相違点は、活性層3B(発光層3)のYZ平面内の形状が長方形ではなく、六角形の一部を切断した形状である点である。この形状は、正六角形の重心位置を通り、且つ、2つの頂点を通る直線に平行な直線で、六角形を切断し、この直線とレーザ光出射面SFとをYZ平面内で重ね合わせた形状である。切断位置が、六角形の重心を通ることとしてもよい。十分な端面反射が抑制されるための活性層3B(発光層3)と半導体レーザ素子の3端面SB,SR,SLとの最短距離ZB2、YR2、YL2は、それぞれ、50μm以上、50μm以上、50μm以上である。
【0089】
図13は、図5に示した半導体レーザ素子の水平断面の更に別の変形例を示す図である。図5に示したものとの相違点は、活性層3B(発光層3)のYZ平面内の形状が長方形ではなく、三角形である点である。この二等辺三角形の底辺は、レーザ光出射面SFとYZ平面内で重ね合わせられる。十分な端面反射が抑制されるための活性層3B(発光層3)と半導体レーザ素子の3端面SB,SR,SLとの最短距離ZB2、YR2、YL2は、それぞれ、50μm以上、50μm以上、50μm以上である。
【0090】
なお、上記実施形態では、回折格子層4の基本層4Aが、発光層3の側面に隣接することとしたが、基本層4A内に埋め込まれた異屈折率部4Bの深さを上部電極直下の領域の外側で深くすれば、活性層3B(発光層)を通るYZ平面内において、活性層3Bの側方に、実効的な回折格子が位置することとなる。このような回折格子からなる分布型光反射領域を有する場合、回折格子による光閉じ込め効果を大きく出来るという効果がある。この分布型光反射領域はフォトニック結晶からなる。
【0091】
以上、説明したように、実施形態に係る端面発光型フォトニック結晶レーザ素子によれば、ファブリペローモードのレーザ発振が抑制されるので、回折格子層に起因するモードのレーザ発振が支配的となり、安定したレーザ光を出射させることができる。
【符号の説明】
【0092】
10…端面発光型フォトニック結晶レーザ素子、SF…レーザ光出射面、SB…逆側端面、SR,SL…側方端面、E2…上部電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体からなる下部クラッド層と、
半導体からなる上部クラッド層と、
前記下部クラッド層と前記上部クラッド層との間に設けられた量子井戸層からなる活性層であって、この量子井戸層が前記下部クラッド層及び前記上部クラッド層のいずれよりも小さなエネルギーバンドギャップを有する複数のバリア層と、前記バリア層間に位置する井戸層とを有する活性層と、
前記下部クラッド層及び前記上部クラッド層の少なくともいずれか一方と前記活性層との間に設けられた領域を有する回折格子層と、
前記下部クラッド層の表面上に設けられた下部電極と、
前記上部クラッド層の表面上に設けられた上部電極と、
を備え、
XYZ直交座標系を設定し、X軸を素子厚み方向、Y軸を素子幅方向、Z軸を素子長さ方向とした場合、XY平面に沿ってレーザ光出射面が位置する端面発光型フォトニック結晶レーザ素子において、
この端面発光型フォトニック結晶レーザ素子は、X軸を囲む4つの端面を有し、
前記端面のうちの1つは前記レーザ光出射面であり、
前記端面のうちの前記レーザ光出射面に対向する面を逆側端面とし、
前記端面のうちの残りの一対の端面を側方端面とし、
X軸方向から見た場合、
前記上部電極の一端は前記レーザ光出射面に重なり、
前記上部電極と前記逆側端面とは離間し、
前記上部電極と双方の前記側方端面とは離間し、且つ、
前記活性層の一端は前記レーザ光出射面に重なっている、
ことを特徴とする端面発光型フォトニック結晶レーザ素子。
【請求項2】
X軸方向から見た場合、
前記活性層と前記逆側端面とは離間し、
前記活性層と双方の前記側方端面とは離間し、且つ、
前記活性層を含むYZ平面内において、前記レーザ光出射面を除き、前記活性層は、前記井戸層のエネルギーバンドギャップよりも、広いエネルギーバンドギャップを有する半導体材料に接触している、
ことを特徴とする請求項1に記載の端面発光型フォトニック結晶レーザ素子。
【請求項3】
前記半導体材料は、前記活性層内におけるZ軸方向のレーザ共振波長に対応するエネルギーバンドギャップよりも、広いエネルギーバンドギャップを有していることを特徴とする請求項2に記載の端面発光型フォトニック結晶レーザ素子。
【請求項4】
前記回折格子層は、
前記半導体材料からなる基本層と、
前記基本層内に周期的に位置し、これと異なる屈折率を有する複数の異屈折率部と、
を備え、
前記基本層は、前記活性層を含むYZ平面内において、前記活性層に接触している、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の端面発光型フォトニック結晶レーザ素子。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−77757(P2013−77757A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217736(P2011−217736)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】