説明

第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置

【課題】パルス出力のピーク強度を安定化する。
【解決手段】ホトダイオードで検出したパルス出力のピーク強度Aを測定し、予め設定されていた基準ピーク強度Bとの差B−Aを求める(ステップD1)。次に、駆動電流補正量C=k(B−A)を求める(ステップD2)。次に、1時刻前の駆動電流It-1に駆動電流補正量Cを加算した値を新たな駆動電流Itとし、次のパルス出力時に半導体レーザに供給する(ステップD3)。
【効果】パルス出力のピーク強度を検出して半導体レーザ駆動回路をフィードバック制御するため、パルス出力のピーク強度を安定化することが出来る。半導体レーザの駆動電流の制御になるため、構成が簡単になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置に関し、さらに詳しくは、第三高調波のパルス出力のピーク強度を安定化できる固体パルスレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置では、パルス出力の平均強度が一定になるように半導体レーザの駆動電流を制御していた。また、半導体レーザや固体レーザ媒質などの温度が予め設定された温度になるように温度制御していた。
【0003】
他方、パルス出力のピーク強度を検出し、それを基にQスイッチに供給する高周波電力をフィードバック制御し、ピーク強度を安定化する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、半導体レーザの駆動電流を常時監視し、駆動電流の変化が予め定められた所定値を超えると、使用を継続しながら温度チューニングをやり直し、最小の駆動電流になるボトム温度を再設定する固体レーザ装置が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特許第3445390号公報([0041])
【特許文献2】特開2007−234759号公報([0022])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置では、パルス出力の平均強度は一定になるが、ピーク強度のバラツキを抑制できない問題点があった。また、経時変化などによる半導体レーザや固体レーザ媒質などの温度特性の変動に対応できない問題点があった。
他方、特許文献1に記載の従来技術では、高周波電力の制御になるため、構成が煩雑になる問題点があった。
【0005】
特許文献2に記載の従来技術は、第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置に適用可能である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、第三高調波のパルス出力のピーク強度を安定化できる固体パルスレーザ装置および該固体パルスレーザ装置に特許文献2に記載の従来技術を適用した固体パルスレーザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の観点では、本発明は、レーザ光を発生する半導体レーザと、前記半導体レーザに駆動電流を供給する半導体レーザ駆動回路と、前記半導体レーザから出力されたレーザ光により励起される固体レーザ媒質と、前記固体レーザ媒質を含む光共振器内に設置され前記光共振器で発振する基本波の第三高調波を出力するための第二高調波発生用結晶および第三高調波用結晶と、前記半導体レーザと前記固体レーザ媒質と前記第二高調波発生用結晶と前記第三高調波用結晶の少なくとも一つの温度を制御する温度制御手段と、前記基本波または前記第二高調波または前記第三高調波のいずれかのパルス出力の一部を検出するモニタ用光出力検出器と、前記モニタ用光出力検出器で検出したパルス出力のピーク強度を検出して前記半導体レーザ駆動回路をフィードバック制御しパルス出力のピーク強度を安定化するピーク強度安定化手段とを具備したことを特徴とする第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置を提供する。
上記第1の観点による第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置では、パルス出力のピーク強度を検出して半導体レーザ駆動回路をフィードバック制御するため、パルス出力のピーク強度を安定化することが出来る。また、半導体レーザの駆動電流の制御になるため、構成が簡単になる。
【0008】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点による第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置において、前記半導体レーザの駆動電流の変化を常時監視し、その変化量が所定値を超えた場合に、半導体レーザの温度を制御する温度制御手段と前記固体レーザ媒質の温度を制御する温度制御手段と前記第二高調波発生用結晶の温度を制御する温度制御手段と前記第三高調波用結晶の温度を制御する温度制御手段の少なくとも一つを駆動して所定の温度範囲で温度掃引しながら前記半導体レーザの駆動電流を測定し最小となるボトム電流値を求め、該ボトム電流値を前記温度制御手段の目標値とする目標値設定手段を具備したことを特徴とする第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置を提供する。
なお、上記「常時監視」には、他の必要な処理を行うために一時的に監視を中断する場合も含まれる。
上記第2の観点による第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置では、半導体レーザの駆動電流を常時監視し、駆動電流の変化が予め定められた所定値を超えると、使用を継続しながら温度チューニングをやり直し、最小の駆動電流になるボトム温度を再設定する。このため、経時変化などによる半導体レーザや固体レーザ媒質などの温度特性の変動に対応でき、常に最小の駆動電流を維持できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置によれば、パルス出力のピーク強度を安定化することが出来る。また、半導体レーザの駆動電流を常に最小に維持することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図に示す実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0011】
−実施例1−
図1は、実施例1に係る第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置100を示す説明図である。
この第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置100は、励起レーザ光を発生する半導体レーザ1と、ペルチェ素子と温度センサとを有し半導体レーザ1の温調を行うための温調ユニット2と、励起レーザ光を集光する集光レンズ系3と、励起レーザ光の入射面に反射面が形成され且つ励起レーザ光により励起されて基本波を発生する固体レーザ媒質4と、Qスイッチとして機能する音響光学素子5と、基本波を透過し第二高調波および第三高調波を反射するビームスプリッタ6と、基本波および第二高調波から第三高調波を発生するTHG素子7と、基本波から第二高調波を発生するSHG素子8と、固体レーザ媒質4との間に光共振器15を形成するミラー9と、THG素子7の温調を行うための温調ユニット10と、SHG素子8の温調を行うための温調ユニット11と、第二高調波を透過し第三高調波を反射するビームスプリッタ12と、第三高調波の一部を反射し他の一部を透過するビームスプリッタ13と、第三高調波の一部を受光するホトダイオード14と、固体レーザ媒質4の温調を行うための温調ユニット16と、温調ユニット2により半導体レーザ1の温度を制御する半導体レーザ温度制御回路21と、温調ユニット16により固体レーザ媒質4の温度を制御する固体レーザ媒質温度制御回路22と、温調ユニット10によりTHG素子7の温度を制御するTHG素子温度制御回路23と、温調ユニット11によりSHG素子7の温度を制御するTHG素子温度制御回路24と、半導体レーザ1を駆動するための駆動電流Iを出力する半導体レーザ駆動回路25と、ホトダイオード14の出力に基づいて半導体レーザ駆動回路25を制御すると共に各温度制御回路21,22,23、24を制御する制御回路26とを具備している。
【0012】
図2は、実施例1に係る駆動電流制御処理を示すフロー図である。この処理は、パルス出力毎に実行される。
ステップD1では、ホトダイオード14で検出したパルス出力のピーク強度Aを測定し、予め設定されていた基準ピーク強度Bとの差B−Aを求める。
ステップD2では、駆動電流補正量C=k(B−A)を求める。ここで、kは比例係数である。
ステップD3では、1時刻前の駆動電流It−1に駆動電流補正量Cを加算した値を新たな駆動電流Itとし、次のパルス出力時に半導体レーザ1に供給する。そして、ステップD1に戻る。
【0013】
図3は、実施例1に係る目標温度更新処理を示すフロー図である。この処理は、一定時間ごとに実行される。
ステップR1では、半導体レーザ1の駆動電流Iを測定し、基準電流値として記憶する。
【0014】
ステップR2では、駆動電流Iを測定し、基準電流値との差を求める。
ステップR3では、差が所定値(例えば100mA)より小さいならステップR2に戻り、小さくないならステップR4へ進む。
【0015】
ステップR4では、図4に示すボトム温度検出処理を実行する。そして、ステップR1に戻る。
【0016】
図4は、実施例1に係るボトム温度検出処理を示すフロー図である。この処理は、パワーオン時に実行される。なお、一定期間毎に、あるいは、ユーザの指示があった時に実行してもよい。
ステップS1では、仮最小値Ib=Isに初期化する。
【0017】
ステップS2では、ステップ的に半導体レーザ1の温度T1を変更するときの1ステップの変更幅をΔT1とするとき、現在温度T1よりもΔT1だけ下げた温度T1=T1−ΔT1を半導体レーザ1の温度T1とする。
【0018】
ステップS3では、下げた温度T1での駆動電流Iが仮最小値Ibよりも小さいかチェックし、小さいならステップS4へ進み、小さくないならステップS5へ進む。
【0019】
ステップS4では、現在温度T1を仮最小電流温度Tb1とする。また、現在の駆動電流Iを新たな仮最小値Ibにする。そして、ステップS2に戻る。
【0020】
ステップS5では、現在温度T1よりもΔT1だけ上げた温度T1=T1+ΔT1を半導体レーザ1の温度T1とする。
【0021】
ステップS6では、上げた温度T1での駆動電流Iが仮最小値Ibよりも小さいかチェックし、小さいならステップS7へ進み、小さくないならステップS8へ進む。
【0022】
ステップS7では、現在温度T1を仮最小電流温度Tb1とする。また、現在の駆動電流Iを新たな仮最小値Ibにする。そして、ステップS5に戻る。
【0023】
ステップS8では、固体レーザ媒質4の温度T2、THG素子7の温度T3、SHG素子8の温度T4についてもステップS2〜S7を行い、最小の駆動電流Iを与える温度T2b,T3b,T4bを得る。
【0024】
ステップS9では、最小の駆動電流Iを与える温度T2b,T3b,T4bを新たな目標温度T1,T2,T3,T4として半導体レーザ温度制御回路21,固体レーザ媒質温度制御回路22,THG素子温度制御回路23,SHG素子温度制御回路24に与える。そして、処理を終了する。
【0025】
実施例1の第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置100によれば、パルス出力のピーク強度を安定化することが出来る。また、半導体レーザ1の駆動電流Iを常に最小に維持することが出来る。
【0026】
−実施例2−
図2のステップD1において、ピーク強度Aの代わりに、直前の複数発(例えば5発)のパルス出力のピーク強度を平均した平均ピーク強度を用いてもよい。
この場合、瞬発的な異常値の影響を抑制することが出来る。
【0027】
−実施例3−
図4では、半導体レーザ温度T1,固定レーザ媒質温度T2,THG素子温度T3,SHG素子温度T4を温度掃引したが、これらの少なくとも1つを温度掃引してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置は、バイオエンジニアリング分野や計測分野で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1に係る第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置を示す構成説明図である。
【図2】実施例1に係る駆動電流制御処理を示すフロー図である。
【図3】実施例1に係る目標温度更新処理を示すフロー図である。
【図4】実施例1に係るボトム温度検出処理を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0030】
1 半導体レーザ
2,10,11,16 温調ユニット
3 集光レンズ系
4 固体レーザ媒質
5 音響光学素子
6,12,13 ビームスプリッタ
7 THG素子
8 SHG素子
9 ミラー
14 ホトダイオード
15 光共振器
21 半導体レーザ温度制御回路
22 固体レーザ媒質温度制御回路
23 THG素子温度制御回路
24 SHG素子温度制御回路
25 半導体レーザ駆動回路
26 制御回路
100 第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発生する半導体レーザと、前記半導体レーザに駆動電流を供給する半導体レーザ駆動回路と、前記半導体レーザから出力されたレーザ光により励起される固体レーザ媒質と、前記固体レーザ媒質を含む光共振器内に設置され前記光共振器で発振する基本波の第三高調波を出力するための第二高調波発生用結晶および第三高調波用結晶と、前記半導体レーザと前記固体レーザ媒質と前記第二高調波発生用結晶と前記第三高調波用結晶の少なくとも一つの温度を制御する温度制御手段と、前記基本波または前記第二高調波または前記第三高調波のいずれかのパルス出力の一部を検出するモニタ用光出力検出器と、前記モニタ用光出力検出器で検出したパルス出力のピーク強度を検出して前記半導体レーザ駆動回路をフィードバック制御しパルス出力のピーク強度を安定化するピーク強度安定化手段とを具備したことを特徴とする第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置において、前記半導体レーザの駆動電流の変化を常時監視し、その変化量が所定値を超えた場合に、半導体レーザの温度を制御する温度制御手段と前記固体レーザ媒質の温度を制御する温度制御手段と前記第二高調波発生用結晶の温度を制御する温度制御手段と前記第三高調波用結晶の温度を制御する温度制御手段の少なくとも一つを駆動して所定の温度範囲で温度掃引しながら前記半導体レーザの駆動電流を測定し最小となるボトム電流値を求め、該ボトム電流値を前記温度制御手段の目標値とする目標値設定手段を具備したことを特徴とする第三高調波を出力する固体パルスレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−251448(P2010−251448A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97832(P2009−97832)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】