説明

筆記具用オレフィン系ワックス粒子分散体

【課題】オレフィン系ワックスを使用する上でインキに配合しても極めて安定的なワックス分散体を提供することである。
【解決手段】オレフィン系ワックスを非極性媒体に溶解させ、グリコールエーテルと相溶可能な溶剤中に粒子を析出させて分散化させる際又は分散させた後、分散剤を添加して前期粒子表面を被覆することによって得られた筆記具用オレフィン系ワックス分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に用いるワックス粒子分散体、特にボールペン用インキに用いるオレフィン系ワックス粒子分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
油性サインペンや油性ボールペン等の筆記具及び机上用品等の油性インキ組成物に添加する配合剤としてワックスを添加することが行われている。
従来から、印刷業界では、平版印刷又はオフセット印刷等の印刷インキのタック性、耐摩耗性等の対策として、印刷インキにポリエチレンワックス等が配合されている。
【0003】
印刷インキ等において、インキ中にワックス類を均一に配合させる方法として、粉砕ワックスを用いる方法、固体ワックスを練り込む方法、又はオイル中で晶析させたワックスを用いる方法等が知られている。これらの方法は、印刷特性に関して依然として種々の問題がある。
【0004】
これらの問題点を改善する方法として、特許第3429823号公報には、ポリオレフィン系ワックスと長側鎖含有重合体を加熱下に混合して得られた印刷インキに用いる重合体ワックスが記載されており、これらのワックスを添加混合してインキ組成物を得ることが記載されている。
【0005】
特許第2677378号公報には、原料変性エチレン系重合体を、微粒子として水性分散媒中に分散させ、酸を加えて該微粒子を凝集させて凝集物と水とを分離し、該凝集物を炭化水素系有機溶媒に再分散させる印刷インキに用いる分散体の製造方法が記載されている。
【0006】
特開2003−183453号公報には、変成エチレン系重合体ワックスを、耐圧ホモミキサーで、水及び水酸化カリウムと一緒に撹拌することによって印刷インキの水性分散液を得る方法が記載されている。
【0007】
特開2004−59869号公報には、ポリエチレンワックスを、溶媒に溶解させた後、この溶液を徐冷してポリエチレンワックスを析出させる、インキの耐摩材用ポリエチレンワックス粒子の製造方法が記載されているが、この粒子を分散させる方法及びインキ配合物に導入する方法は記載されていない。
【0008】
これらの文献に記載されている印刷インキに用いられる分散体は、水を分散媒とするものや、また、得られたワックス粒子を一旦、粒子として取り出し、その後インキ組成物に導入するものである。
【0009】
一方、筆記具用インキにワックスを利用する例としては、その界面膜形成能力を利用したものとして、特開平11−335612号公報、特開2001−240788号公報、特開2003−213162号公報及び特開平11−92706号公報等がある。
【0010】
特開平11−335612号公報には、速乾性油性マーキングペンのキャップを外したままで放置した場合のドライアップを防止するために、酸化ワックスをインキ組成物に添加することが記載されているが、添加方法は単なる混合によるものである。
【0011】
特開2003−213162号公報には、修正具としての筆記具のペン先の乾燥防止のために、修正液組成物にパラフィンワックス類を添加することが記載されているが、添加方法は単に溶解させて混合させるものである。
【0012】
特開平11−335612号公報には、ボールペン用油性インキ組成物に、融点が60℃〜100℃のワックス、特にカルナウバワックスやモンタン系ワックス等を添加することにより筆記感が向上させることが記載されているが、具体的な添加方法は記載されていない。
【0013】
ポリエチレンワックス等を含めて、ワックス系物質を筆記具に使用する場合、界面膜形成能力の存在及びワックスを溶解させる配合方法等の点から、インキ組成物中に均一に混合させることは困難であった。
また、界面膜形成能力及び溶存状態によって、経時的に、あるいは寒暖差によって保存されているインキの気液界面等にワックス膜が発生したり、また、インキ内の原材料と相互作用して沈降物を生成したり、さらには、インキ溶剤への濡れ性が悪いことからワックスの継紛状化又は沈降等が発生する等の問題が多い。
【0014】
【特許文献1】特許第3429823号公報
【特許文献2】特許第2677378号公報
【特許文献3】特開2003−183453号公報
【特許文献4】特開2004−59869号公報
【特許文献5】特開平11−335612号公報
【特許文献6】特開2001−240788号公報
【特許文献7】特開2003−213162号公報
【特許文献8】特開平11−92706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
筆記具用インキ組成物にワックス系物質を使用した場合の上述した問題は、インキ組成物に導入されたワックス分散体の安定性に起因するものである。本発明の目的は、オレフィン系ワックスを使用する上でインキに配合しても極めて安定的なワックス分散体を提供することである。
また、オレフィン系ワックスを使用する上で油性ボールペンインキ等に配合しても、その筆記性能を格段に向上させる等有用性に富んだオレフィン系ワックス分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意研究した結果、以下に示す特徴を有するオレフィン系ワックス分散体によりこれらの課題を解決できることを見いだし、本発明を完成した。
【0017】
本発明は、オレフィン系ワックスを非極性媒体に溶解させ、グリコールエーテルと相溶可能な溶剤中に粒子を析出させて分散化させる際又は分散させた後、分散剤を添加して前期粒子表面を被覆することによって得られた筆記具用オレフィン系ワックス分散体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のオレフィン系ワックス分散体は、インキ組成物中で非常に安定しており、インキの保存時における寒暖の差による気液界面でのワックス膜の発生を抑制する。またインキの経時的な安定性を格段に良好にする。さらに、インキ内の原材料との相互作用による沈殿物の発生し難くする。
【0019】
また、ワックス粒子を粉体として溶剤又はインキ組成物に添加する場合と異なり、溶剤中で析出して粒子化して分散体を形成するので、ワックス粒子分散体の製造上に有利であり、インキ組成物に対する濡れ性が問題とならず、オレフィン系ワックスのインキ内での状態を良好なものとする。
【0020】
このような本発明のオレフィン系ワックス分散体の利点は、その後、所定のインキ(例えば油性ボールペンインキ)に添加することにより、
・筆記性の向上(筆記する上のスティック性Up)
・ペン先を下にした場合のペン先端でのインキ付着性(直流性)の抑制
・筆記時、過剰なインキがペン先や描線に付着又は転写される現象(ボテ性)の抑制
等の効果を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の筆記具用分散体に用いることができるオレフィン系ワックスは、70℃以上かつ200℃以下の滴点を有しているワックスである。ここで滴点とは、ワックスを規定の容器で加熱した場合、高温で液状になり滴下し始める温度である。オレフィン系ワックスの具体的な例としては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、低分子量アイオノマーワックス、ポリ四フッ化エチレンワックスが挙げられる。特に好ましいオレフィン系ワックスは、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスである。
【0022】
ポリエチレンワックスの具体的な例としては、例えば、三井化学株式会社製の30200B(エチレンブテンコポリマー)、同2203A、同1105及び同45192BA(カルボン酸変性エチレンブテンコポリマー)、並びに同HW26502PE(酸化タイプのエチレンプロピレンコポリマー)があり、またHoney Well社製のA−C6及び6A、A−C8及び8A、A−C9及び9A、A−C617及び617A、並びにA−C629及び629Aがある。更には、具体例としてヤスハラケミカル社製のネオワックスLA(融点105℃)等も挙げられる。
【0023】
さらに、酸化処理されて極性基が導入されているか、又はアクリル酸共重合、酢酸ビニル共重合、酸化共重合、もしくは無水マレイン酸共重合されている、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスも好ましい。
本発明に係る分散体調製手順によって得られるオレフィン系ワックス分散体は、分散粒子の径が10nm〜50μmである。
【0024】
上述したオレフィン系ワックスを溶解させる非極性媒体は、その後の析出工程を考慮すると以下の条件を満たすものである。
(1) 60℃〜180℃の間の温度で前記オレフィン系ワックスと相溶する媒体、
(2) グリコールモノエーテルと相溶する媒体、
(3) 0℃以上且つ50℃以下の温度で、前記オレフィン系ワックスの溶解度が10質量%以下である媒体、及び
(4) 150℃以上の沸点を有する媒体。
【0025】
60℃のより低い温度でオレフィン系ワックスと相溶する媒体は、通常の室内環境でも溶解する場合があり、180℃より高い温度で相溶する媒体は再析出させて粒子化する操作及び使用する分散媒としての溶剤の性質を考慮すると高温過ぎて危険を伴う。また、極性が中間的な溶剤であるグリコールモノエーテルに相溶することは、その後の析出工程で当該非極性媒体を析出した粒子から溶剤へ移行し易くする。0℃以上且つ50℃以下の温度で、オレフィン系ワックスの溶解度が10質量%以下であるという条件は、本来溶解し難い状態にしておくことにより再析出粒子化時に粒子化し易くするためである。さらに、オレフィンワックスを溶解させる際の作業上の安全性を確保するためには当該溶媒の沸点は150℃以上であるのが望ましい。
【0026】
本発明の筆記具用分散体に用いることができる非極性媒体の例は、モノテルペン系溶媒又は液状テルペン系樹脂である。テルペン類としては、常温で液体のモノテルペン類が好ましい。モノテルペンは、環式モノテルペン、非環式モノテルペンのいずれでもよい。
【0027】
モノテルペン系溶媒の具体的な例としては、以下のものが挙げられる。ピネン(2環式モノテルペン)、例えば、ヤスハラケミカル社製の商品名α―ピネン及びβ−ピネン、ミルセン(非環式モノテルペン)、リモネン(単環式モノテルペン)、例えば、ヤスハラケミカル社製の商品名D−リモネンN、テルピノレン(単環式モノテルペン)、例えば、ヤスハラケミカル社製の商品名ターピノーレン、シネオール(2環式モノテルペン)、例えば、ヤスハラケミカル社製の商品名シネオールD及びシネオールC、アネトール(単環式モノテルペン)、例えば、ヤスハラケミカル社製の商品名アネトールG及びアネトールU、テルピネオール(単環式モノテルペン)、例えば、ヤスハラケミカル社製の商品名ターピネオール、ぺリラ油(単環式モノテルペン)、例えば、ヤスハラケミカル社製の商品名ペラオイル。
【0028】
液状テルペン系樹脂の例としては、ヤスハラケミカル社製の商品名ダイマロン(テルペン低重合体)、商品名ダイマーレジン(変性テルペン低重合体)、商品名YSオイルDA(テルペン低重合体)が挙げられる。
【0029】
また、それら以外としては日本テルペン化学(株)社製のn-Bomeol、dl-Camphor、I-Carveol、I-Carvyl acetate、Caryophylene、Caryopyllene oxide、1,4-Cineole、1,8-Cineole、Citronellal、I-Citroneol、p-Cymene、d-Dihydrocarveol、I-Dihydrocarveol、d-Dihydrocarvone、d-Dihydrocarvyl acetate、I-Dihydrocarvyl acetate、Dihydroterpineol、Dihydroterpinyl acetate、Dimal H、Elemene、Eugenol、β-Famesene、Isobornyl acetate、Isobornyl cyclohexanol、d-Limonene、I-Limonene、d-Limonene oxide、I-Limonene oxide、Linalool oxide furanoid、Linalool oxide pyranoid、p-Menthane、I-Menthol、I-Menthone、β-Myrcene、Myrtenal、Myrtenol、Myrtenyl acetate、I-perillyl alcohol、I-Perillyl acetate、3-Octanol、3-Octyl acetate、I-Perillaldehyde、α-Pinene、β-Pinene、α-Pinene oxide、d-Puregone、dl-Rose oxide、Sobrerol、α-Terpinene、ν-Terpinene、Terpineol C、α-Terpineol、I-α-Terpineol、4-Terpineol、Terpinolene、α-Terpinyl acetate、Verbenol、Verbenone、3-Carene、Carane oxide、Terusolve DTO-210、Terusolve THA-90、Terusolve THA-70、Terpinyloxy ethanol、Dihydroterpinyloxy ethanol、Terpinyloxy methylether、Dihydroterpinyl methylether、等があり、それらを主成分とした製品類等が挙げられる。
【0030】
上述したオレフィン系ワックスを溶解した媒体からワックス粒子を析出させるのに用いることができる溶剤は、グリコールエーテルと相溶可能な溶剤である。
【0031】
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤の例は、分子中にアルコール性水酸基を有する溶剤である。これらの例としては、1価アルコール、多価アルコール、グリコールモノエーテル、グリコールジエーテル、エステル等が挙げられ、特に、70℃以上の沸点を有するものである。これは製造作業時の取り扱いの危険性を回避するためである。
【0032】
具体的なアルコール類としては、炭素数が2以上の脂肪族アルコールであり、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、3−ペンタノール、tert−アミルアルコール、n−ヘキサノール、メチルアミルアルコール、2−エチルブタノール、n-ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、n−オクタノール、2−オクタノール、2−エチルヘキサノール、3,5,5−トリメチルヘキサノール、ノナノール、n−デカノール、ウンデカノール、トリメチルノニルアルコール、テトラデカノール、ヘプタデカノール、シクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノールやその他多種の高級アルコール等が挙げられる。
【0033】
また、多価アルコールとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、3−メチル−1,3ブタンジオール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール等の分子内に2個以上の炭素、2個以上の水酸基を有する多価アルコールが挙げられる。
【0034】
グリコールエーテルとしては、メチルイソプロピルエーテル、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール−tert−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0035】
特に好ましいのは次の化学式1に示されるような溶剤である。
化学式1:
【化1】

【0036】
化学式1を有する溶剤として、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1,3ブタンジオール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール等が挙げられる。
【0037】
本発明のオレフィン系ワックス分散体に用いることができる分散剤は、特に、界面活性剤又はポリマー樹脂である。
【0038】
好ましい界面活性剤は、分子内に、ポリオキシエチレン(POE)もしくはポリオキシプロピレンを反復単位5〜300で有するか、又は分子内にポリオキシエチレン及びポリオキシプロピレンを併用して反復単位5〜300で有するポリマー物質である。
【0039】
本発明の分散剤として用いることができる界面活性剤の具体的な例は、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル類、グリセリン・ポリグリセリン脂肪酸エステル及び酢酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル類、グリセリン・プロピレングリコール脂肪酸エステルの酸化エチレン誘導体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポロオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油誘導体類、ラノリン・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン及び脂肪酸アミド類、並びにそれらの誘導体を用いることができ、市販のものを用いてもよい。
界面活性剤を添加する場合、その量はワックス粒子を形成するために使用するオレフィン系ワックスの質量に対して2倍量以下である。
【0040】
分散剤としてポリマー樹脂を用いる場合は、25℃で上述したワックス粒子を析出させる溶剤に5%以上溶解するポリマー樹脂である。好ましいポリマー樹脂は、グリコモノエーテルに10質量%以上溶解する、ケトン樹脂、スチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジンフェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、フェノール系樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、ロジン系樹脂、アクリル系樹脂、尿素アルデヒド系樹脂、マレイン酸系樹脂、シクロヘキサノン系樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン等に代表される樹脂である。これらのうち、特に好ましいポリマー樹脂は、スチレン−アクリル樹脂、ケトン樹脂、マレイン酸系樹脂、ポリビニルブチラール及びフェノール系樹脂等である。ポリマー樹脂を添加する場合、その量はワックス粒子を形成するために使用するオレフィン系ワックスの質量に対して等倍量以下である。
【0041】
本発明のオレフィン系ワックス分散体の調製方法は、ワックス粒子形成用のオレフィン系ワックスとして滴点が100℃以上の、例えばポリエチレンワックス又はポリプロピレンワックスを用意し、これを非極性媒体、例えば液状テルペン樹脂と一緒にして70℃〜160℃の温度範囲に加熱して、攪拌することにより固体のワックスを溶解させる。この溶液を70〜100℃に冷却する。そして、同じように70〜100℃に加熱したグリコールエーテルと相溶可能な溶剤、例えば、3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノールに、このワックス溶液に徐々に添加する。この際、3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノールに予め表面被覆用分散剤POE(5)アルキルアルコールを所定量溶解させておく。ワックス溶液に徐々に添加すると、溶解していたオレフィン系ワックスが3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール中に析出して粒子化し、分散体が得られる。更に、放置して冷却して温度を下げながら撹拌を続ける。表面被覆用分散剤POE(5)アルキルアルコールはこの時に添加することもできる。以上の手順で本発明のオレフィン系ワックス分散体を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
<実施例1>
実施例1で用いた分散剤の処方は以下のとおりである:
オレフィン系ワックス:AC−9A 6質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 30質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
58質量%
表面被覆用分散剤:POE(40)ラノリンアルコール 6質量%
【0043】
オレフィン系ワックス分散体を以下のようにして調製した。
オレフィン系ワックスAC−9Aとこのオレフィン系ワックスを溶解させるための媒体YSオイルDAを、所定量容器に入れる。これを70〜160℃の範囲で加熱撹枠する。その後、冷却して70〜100℃程度に温度調節する。そして、グリコールエーテルと相溶可能な溶剤3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノールに、表面被覆用分散剤POE(40)ラノリンアルコールを所定量溶解させて70〜100℃に加熱した溶液を、このワックス溶液に徐々に添加すると、溶解していたオレフィン系ワックスが3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール中に析出して粒子化し、分散体が得られる。更に、放置して冷却して温度を下げながら撹拌を続けて本発明のオレフィン系ワックス分散体を得た。
【0044】
実施例2〜14では、種々のオレフィン系ワックスを用いて実施例1の手順を繰り返して本発明のワックス分散体を調製した。各実施例で使用した分散体の処方を以下に記載する。
<実施例2>
オレフィン系ワックス:AC−629 7質量%
オレフィン系ワックス溶解用媒体:YSオイルDA 20質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
71質量%
表面被覆用分散剤:POE(5)ラノリンアルコール 2質量%
【0045】
<実施例3>
オレフィン系ワックス:AC−597 8質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 25質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
60質量%
表面被覆用分散剤:POE(20)POP(8)セチルエーテル 7質量%
【0046】
<実施例4>
オレフィン系ワックス:45192BA 3質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 20質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
76質量%
表面被覆用分散剤:POE(15)オクチルフェニルエーテル 1質量%
【0047】
<実施例5>
オレフィン系ワックス:AC−8A 5質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 15質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
77質量%
表面被覆用分散剤:POE(4)オレイルエーテル 3質量%
【0048】
<実施例6>
オレフィン系ワックス:ネオワックスLA05 4質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 18質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
74質量%
表面被覆用分散剤:POE(23)ラウリルエーテル 4質量%
【0049】
<実施例7>
オレフィン系ワックス:30200B 5質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 25質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
68質量%
表面被覆用分散剤:POE(5)ラノリンアルコール 2質量%
【0050】
<実施例8>
オレフィン系ワックス:HW26502PE 8質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 25質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
65質量%
表面被覆用分散剤:ポリビニルブチラール 2質量%
【0051】
<実施例9>
オレフィン系ワックス:AC−597 5質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 25質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
68質量%
表面被覆用分散剤:POE(13.2)トリベンジルフェニルエーテル 2質量%
【0052】
<実施例10>
オレフィン系ワックス:2203A 8質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 25質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
65質量%
表面被覆用分散剤:SKレジン 2質量%
【0053】
<実施例11>
オレフィン系ワックス:AC−629 7質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:d-Limonene 12質量%
Isobornyl cyclohexanol 8質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
71質量%
表面被覆用分散剤:POE(5)ラノリンアルコール 2質量%
【0054】
<実施例12>
オレフィン系ワックス:AC−597 5質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:d-Limonene 10質量%
Isobornyl cyclohexanol 15質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
68質量%
表面被覆用分散剤:POE(13.2)トリベンジルフェニルエーテル 2質量%
【0055】
<実施例13>
オレフィン系ワックス:AC−629 7質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:Dihydroterpinyl acetate 20質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
71質量%
表面被覆用分散剤:POE(5)ラノリンアルコール 2質量%
【0056】
<実施例14>
オレフィン系ワックス:AC−629 7質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:α-Pinene 20質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
71質量%
表面被覆用分散剤:POE(5)ラノリンアルコール 2質量%
【0057】
比較例1〜10は以下の通りである。
<比較例1>
オレフィン系ワックス:ネオワックスLA05を溶解しないで粉体の状態でグリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノールに投入して分散体を調製した。
<比較例2>
実施例1のオレフィン系ワックスをヒマシ油ワックス系に変えた以外は、同じ操作手順で分散体を調製した。
分散体の処方:
ワックス:ヒマシ油ワックス系DISPALON4300 8質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 25質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
60質量%
表面被覆用分散剤:POE(5)ラノリンアルコール 7質量%
<比較例3>
実施例1のオレフィン系ワックスをヒマシ油ワックス系に変え、表面被覆用分散剤を用
いなかった以外は、同じ操作手順で分散体を調製した。
分散体の処方:
ワックス:ヒマシ油ワックス系DISPALON305 8質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 25質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
67質量%
<比較例4>
実施例1のオレフィン系ワックスを変性アマイドワックスに変え、表面被覆用分散剤を用いなかった以外は、同じ操作手順で分散体を調製した。
分散体の処方:
ワックス:変性アマイドワックスDISPALON6650 5質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 25質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
70質量%
<比較例5>
実施例1のオレフィン系ワックスをアマイド/ポリエチレン系に変え、表面被覆用分散剤を用いなかった以外は、同じ操作手順で分散体を調製した。
分散体の処方:
ワックス:アマイド/ポリエチレン系ワックスDISPALONF−9050 5質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 25質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
70質量%
<比較例6>
実施例1のオレフィン系ワックスをオレフィン系ワックスであるネオワックスLA05に変え、グリコールエーテルと相溶可能な溶剤をキシレンに変えた以外は、同じ操作手順で分散体を調製した。
分散体の処方:
オレフィン系ワックス:ネオワックスLA05 5質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:YSオイルDA 25質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:キシレン 68質量%
表面被覆用分散剤:POE(5)ラノリンアルコール 2質量%
<比較例7>
実施例1のオレフィン系ワックスをオレフィン系ワックスである30200Bに変え、ワックス溶解媒体をポリプロピレングリコールに変えた以外は、同じ操作手順で分散体を調製した。
分散体の処方:
オレフィン系ワックス:30200B 5質量%
オレフィン系ワックス溶解媒体:ポリプロピレングリコール(分子量400)25質量%
グリコールエーテルと相溶可能な溶剤:3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール
68質量%
表面被覆用分散剤:POE(5)アルキルアルコール 2質量%
【0058】
以上の実施例及び比較例で得られた分散体を以下の評価テストにより評価した。
<評価テスト1>
得られた分散体を20mlのガラス瓶に密栓したあと、0℃の恒温槽内に放置し、3日後にその外観状態を観察した。この評価テストにおいて、特に変化が無かった分散体を「○」、分離又は沈降が僅かに見られたものを「△」、分離又は沈降が激しいものを「×」としてランク付けした。
【0059】
<評価テスト2>
得られた分散体を20mlのガラス瓶に密栓したあと、50℃の恒温槽内に放置し、3日後にその外観状態を観察した。この評価テストにおいて、特に変化が無かった分散体を「○」、分離又は沈降が僅かに見られたものを「△」、分離又は沈降が激しいものを「×」としてランク付けした。
【0060】
<評価テスト3>
以下の処方で配合調製を行い、20mlガラス瓶に充填し、密栓した後、室温下で放置し、2週間後にその気液界面状態を観察した。
(処方)
パリファーストバイオレット#1702(オリエント化学社製) 35質量%
上記各例で得られた分散体 10質量%
3−メトキシ,3−メチル,1−ブタノール 55質量%
この評価テストにおいて、特に変化が無かった分散体を「○」、気液界面に不溶解物が僅かに漂うものを「△」、気液界面に不溶解物が多く漂うものを「×」としてランク付けした。
【0061】
上記評価テストを行った結果を表1に示す。
【表1】

【0062】
以上の結果から明らかなように本発明の範囲となる実施例1〜14のワックス分散体が、比較例1〜7の場合と比較して優れた安定性を有していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系ワックスを非極性媒体に溶解させ、グリコールエーテルと相溶可能な溶剤中に粒子を析出させて分散化させる際又は分散させた後、分散剤を添加して前期粒子表面を被覆することによって得られた筆記具用オレフィン系ワックス分散体。
【請求項2】
前記非極性媒体が、以下の条件を満たすことを特徴とする請求項1記載のオレフィン系ワックス分散体:
(1) 60℃〜180℃の間の温度で前記オレフィン系ワックスと相溶する媒体、
(2) グリコールモノエーテルと相溶する媒体、
(3) 0℃以上且つ50℃以下の温度で、前記オレフィン系ワックスの溶解度が10質量%以下である媒体、及び
(4) 150℃以上の沸点を有する媒体。
【請求項3】
前記オレフィン系ワックスが、70℃以上且つ200℃以下の滴点を有している請求項1記載のオレフィン系ワックス分散体。
【請求項4】
前記オレフィン系ワックスが、ポリエチレン、ポリプロピレンワックス、低分子量アイオノマー、ポリ四フッ化エチレンワックスから成る群より選ばれる少なくとも1種で形成されている請求項1記載のオレフィン系ワックス分散体。
【請求項5】
前記オレフィン系ワックスが、酸化処理されて極性基が導入されているか、又はアクリル酸共重合、酢酸ビニル共重合、酸化共重合、もしくは無水マレイン酸共重合されている、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスから成る群より選ばれる少なくとも1種で形成されている請求項4記載のオレフィン系ワックス分散体。
【請求項6】
前記非極性媒体が、モノテルペン系溶媒又は液状テルペン系樹脂から選ばれる請求項1記載のオレフィン系ワックス分散体。
【請求項7】
前記グリコールエーテルと相溶可能な溶剤が、分子中にアルコール性水酸基を有する溶剤である請求項1記載のオレフィン系ワックス分散体。
【請求項8】
前記グリコールエーテルと相溶可能な溶剤が、1価アルコール、多価アルコール、グリコールモノエーテル、グリコールジエーテル、エステルから成る群より選ばれる70℃以上の沸点を有する溶剤である請求項1記載のオレフィン系ワックス分散体。
【請求項9】
前記分散剤が、界面活性剤又は25℃で前記溶剤に5質量%以上溶解するポリマー樹脂である請求項1記載のオレフィン系ワックス分散体。
【請求項10】
前記界面活性剤が、分子内に、ポリオキシエチレンもしくはポリオキシプロピレンを反復単位5〜300で有するか、又は分子内にポリオキシエチレン及びポリオキシプロピレンを併用して反復単位5〜300で有するポリマーであり、当該界面活性剤の添加量が前記オレフィン系ワックスの質量に対して2倍量以下である請求項9記載のオレフィンワックス分散体。
【請求項11】
前記ポリマー樹脂が、グリコールモノエーテルに10質量%以上溶解するポリマー樹脂である請求項9記載のオレフィン系ワックス分散体。
【請求項12】
前記ポリマー樹脂の添加量が前記オレフィン系ワックスの質量に対して等倍量以下である請求項11記載のオレフィンワックス分散体。
【請求項13】
前記オレフィン系ワックス分散体の分散粒子径が10nm〜50μmである請求項1記載のオレフィン系ワックス分散体。

【公開番号】特開2007−56234(P2007−56234A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342378(P2005−342378)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】