説明

筆記具

【課題】 軽量微粉末フィラを配合せずに、十分盛り上がった立体状の筆跡を形成することができる。
【解決手段】
ペン先とインキ筒を備え、
上記ペン先からの前記インキの流出量が少なくとも100mg/10mであり、
上記インキ筒内部に、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも30重量%含まれ、
上記水性インキの粘度は、ELD型粘度計を用い、1°34’コーンローター、10rpm、20℃の条件で測定した値で、5〜500mPa・sである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛り上がった立体状の筆跡を形成することができる水性インキ組成物が含まれた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バインダ、着色剤及び軽量フィラを含む立体インキが提供されている(特許文献1)。これにより、筆記と同時に、バインダが形成する皮膜中に軽量微粉末フィラが取り込まれて立体的な文字、図形等を得ることができることが記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−273672号公報 第1頁及び第4頁右下欄第12〜15行
【0004】
しかし、前記特許文献のインキは、軽量微粉末フィラを用いこれをバインダで固めて立体状の筆跡を形成しており、軽量微粉末フィラがいわば立体造膜成分を構成している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、軽量微粉末フィラを配合せずに、十分盛り上がった立体状の筆跡を形成することができる筆記具を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明は、ペン先とインキ筒を備え、
上記インキ筒内部に、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも30重量%含まれている水性インキ組成物が収容されている筆記具である。
特に、上記インキ筒内部に、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも35重量%含まれている筆記具が好ましい。
さらに上記インキ筒内部に、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも37重量%含まれている筆記具が好ましい。
特に、前記ペン先からの前記インキの流出量が少なくとも100mg/10mであるペン先を備えた筆記具が好ましい。
また前記水性インキ組成物の粘度は、ELD型粘度計を用い、1°34’コーンローター、10rpm、20℃の条件で測定した値で、5〜500mPa・sである筆記具が好ましい。特に前記水性インキ組成物の粘度は、ELD型粘度計を用い、1°34’コーンローター、10rpm、20℃の条件で測定した値で、5mPa・s以上〜100mPa・s未満である筆記具が好ましい。
【発明の効果】
【0007】
このように本発明の筆記具は、十分盛り上がった立体状の筆跡を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のインキで用いられる前記樹脂エマルションとしては、立体造膜成分としてインキ中に固形分で少なくとも30重量%が好ましい。また特に好ましくは少なくとも35重量%、さらに好ましくは少なくとも37重量%、最適には少なくとも40重量%含まれている。また最大含有量としては好ましくは75重量%、さらに好ましくは55が重量%である。前記樹脂エマルションがインキ中に固形分で30重量%未満の場合、固形分が少なすぎるため筆跡の盛り上がりが低下し、十分な立体状の筆跡膜を得難い。また、前記樹脂エマルションがインキ中に固形分で75重量%を超えると、樹脂粒子が過剰に存在するため、インキの経時安定性が悪化する。
【0009】
前記粘着性合成樹脂エマルションは最低造膜温度(MFT)が25℃以下の合成樹脂エマルションであることが好ましい。また、前記粘着性合成樹脂エマルションとしては、最低造膜温度(MFT)が5℃以下の合成樹脂エマルションと、最低造膜温度(MFT)が50℃以上の合成樹脂エマルションが含まれて、最低造膜温度(MFT)が25℃以下となるものも使用できる。上記2種のエマルションの場合、その混合比は、最低造膜温度(MFT)が5℃以下の粘着性合成樹脂エマルションに対して最低造膜温度(MFT)が50℃以上の粘着性合成樹脂エマルションが1/4〜4/1とすることが望ましい。前記混合比が1/4未満の場合、筆記線にタックが発生し、ノート等に筆記した場合、筆記線が相手の紙と接着してしまう問題がある。また前記混合比が4/1を超える場合、十分な光沢が得られない。
【0010】
また、前記エマルションの樹脂粒子を、平均粒径が異なる複数の粒度分布を持つ樹脂粒子群で構成することができる。そして、平均粒径が異なる複数の粒度分布を持つ樹脂粒子群で構成することによって、平均粒径の大きな樹脂粒子群で筆跡の立体形状化を確保し、平均粒径の小さな樹脂粒子群でインキの流動性を確保して、全体として形状が安定した立体状筆跡が得られる。具体的には、前記複数の樹脂粒子群のうち、最小の平均粒径を持つ当該樹脂粒子群の平均粒径が0.07〜0.3μmの範囲とし、前記樹脂粒子群のうち、最大の平均粒径を持つ当該樹脂粒子群の平均粒径が0.3〜1.0μmの範囲にすることが望ましい。
【0011】
前記樹脂エマルションとしては、具体的には、アクリル系樹脂エマルション、スチレンアクリル系樹脂エマルション、アルキッド系樹脂エマルション、ウレタン系樹脂エマルションを例示することができる。具体的には、アクリル系樹脂エマルションとして、商品名、ニカゾールFX138Y(日本カーバイド社製)、ニカゾールRX242A(日本カーバイド社製)、モビニール792(クラリアントポリマー社製)が挙げられ、またスチレンアクリル系樹脂エマルションとして、商品名、ボンコートNST100(大日本インキ社製)、モビニール972(クラリアントポリマー社製)、アルキッド系樹脂エマルションとして、商品名、ウォーターゾルCD520(大日本インキ社製)、ウレタン系樹脂エマルションとして、商品名、スーパーフレックス500(第一工業製薬社製)が挙げられる。
【0012】
また、これらの樹脂エマルションは、2種以上を混合して用いることができる
本発明は、前記造膜成分である樹脂エマルションに加えて、更に造膜助剤を用いることができる。この造膜助剤は前記樹脂エマルションの造膜樹脂を可塑化する性質を持つ物質として定義される。さらに造膜助剤は、前記樹脂エマルションの造膜樹脂で形作られる立体筆跡にふっくらとしたボリュームを与え、立体筆跡の表面を平らにする性質を持ち、前記樹脂エマルションの最低造膜温度を下げる性質を持つことが重要である。このような性質を持つ造膜助剤として、具体的にはテキサノール、ブチルセロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ジブチルフタレート等を挙げることができる。中でも、テキサノール、ブチルセロソルブが好ましい。造膜助剤のインキ全量中の含有量は、0.01〜3重量%が好ましく、最適には0.1〜1.5重量%である。造膜助剤がインキ全量に対して0.01重量%未満の場合、充分な可塑化効果が得られないため、筆跡の盛り上がりと光沢が低下する。一方、造膜助剤がインキ全量に対して3重量%を超える場合、インキが紙面に浸透してしまうため、筆跡をさらに盛り上がらせる効果が低下する。
【0013】
本発明では着色剤を用いることができる。本発明で用いられる着色剤としては、たとえば酸性染料、直接染料、塩基性染料などの水溶性染料のほか、カーボンブラック、酸化チタン、アルミナのシリカ、タルクなどの無機顔料、アゾ系顔料、ナフトール系顔料、フタロシアニン系顔料、スレン系顔料、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサン系顔料、ジオキサジン系顔料、インジゴ系顔料、チオインジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、インドレノン系顔料、アゾメチン系顔料などの有機顔料のほか、アルミニウム粉、ブロンズ粉等などの金属粉顔料、蛍光顔料、パール顔料、光輝性顔料などが挙げられる。また、これらを顔料分散体として用いることもできる。また本発明ではこれらの着色剤は1種又は2種以上を混合して使用することもできる。また、球状、偏平状、中空等の各種形状のプラスチックピグメント(合成樹脂粒子顔料)などを用いることができる。例えば本発明では100μm以下の樹脂粉末にして用いるか又は100μm以下の樹脂粉末を水中に分散させたものを用いることが好ましい。上記樹脂粉末は顔料・染料で着色して着色樹脂エマルジョンとして使用することができる。
【0014】
上記光輝性顔料としては、例えば、金属被覆ガラスフレーク顔料、金属被覆無機顔料、金属酸化物被覆無機顔料、アルミニウム粉顔料等の金属粉顔料、金属箔、金属が蒸着されたフィルム、金属蒸着膜(例えば、フィルムに蒸着された金属蒸着層を剥離して得られる金属蒸着膜)などが挙げられる。ここで、金属ガラスフレーク顔料とは、フレーク状ガラスが金属(合金)で被覆された構造からなる顔料として定義される。また、金属被覆無機顔料とは、金属(合金)が被覆された無機顔料を総称するものとして定義される。金属酸化物が被覆された無機顔料(例えば金属酸化物が被覆されたアルミニウム等の金属顔料)も用いることができる。
【0015】
また、隠蔽性のある酸化チタン、アルキレンビスメラミン誘導体、球状・偏平状等の各種形状のプラスチックピグメント(合成樹脂粒子顔料)など、各種の無機顔料又は有機白色顔料などの隠蔽性顔料を単独又は混合して用いることもできる。
【0016】
またこれらの着色剤は、既述の通り、前記プラスチックピグメント(合成樹脂粒子顔料)に限らず、水中に分散させた顔料分散体として用いることができる。
【0017】
本発明に使用する着色剤は、水性インキ組成物全量に対して0.01〜20重量%、好ましくは0.01以上〜15重量%未満、より好ましくは0.01〜10重量%含まれていることが好ましい。上記着色剤が前記組成物全量中0.01重量%未満の場合は当該着色剤の着色を視認し難い。着色剤が前記組成物全量中20重量%を超えると、粘度が上がりすぎ、流動性が低下する。
【0018】
本発明のインキには、香料を含めることができる。香料を含めることにより、立体的に香りを放ちながら香料の香りを維持することができる立体状の筆跡膜を形成することができる。特に香料が一般的な油性の香料である場合、通常では香料は水に混ざらないために水系でそのまま使用するにはその添加量を減らしたり、また溶剤を加える必要があるが、本発明のインキ組成物に前記香料を含めると、同組成物には前記粘着性合成樹脂エマルションが含まれているため、このエマルションとして存在している前記粘着性合成樹脂の樹脂粒子が前記香料を取り込むことができ、前記香料が取り込まれた前記粘着性合成樹脂エマルションの樹脂粒子を含有する水性インキ組成物とすることができる。これによって、インキ組成物が水性であるにもかかわらず、油成分である香料が分離しないため、立体状の筆跡膜から香りを放ちながら香料の香りを可及的に維持することができ、しかも多量の香料を含ませることもできることから、香料の香りを持続的にしかも香りの強さを制御することができる立体状の筆跡膜を形成することができる。
【0019】
本発明で使用できる好ましい香料としては、梅 NS−D5972、桜 NS−D5973、菊 NS−D5974、桔梗 NS−D5975、藤 NS−D596、Perfume NS−D5882(ミント)、Perfume NS−D5929(ムスク)、Grapefruit NS−F5239、 Strawberry NS−F5240、Lemon NS−G5883、Ulutramarine NS−G5885、Peppermint NS−F5241、Peach NS−F5242、Orange NS−F5243、Green Apple NS−F5244、Blueberry NS−F5245、Lavender NS−F5246、Vanilla NS−F5247、Banana NS−F 5248、Soap(石鹸の香り) NS−F5249、Perfume NS−F5210、Jasmin NS−D5812、梅 NS−D5972、Citrus NS−D5499、Rose NS−E5798、Lavender
NS−E5442、 Rose NS−E 5443、Mint NS−E5444、Hinoki NS−D5015、Fragrance
NS−G5000、Fragrance NS−G5001、Fragrance NS−G5002、Fragrance NS−G5003、Fragrance
NS−G5004、Fragrance NS−G5005、Fragrance NS−G5006、Fragrance NS−F5992、Fragrance NS−F5993、Fragrance NS−F5994、Fragrance AN NS−G5253、Fragrance RS NS−G5254、Fragrance EV NS−G5255、Fragrance BL NS−G5256、Fragrance EP NS−G5257、Fragrance LR NS-G5258、Fragrance MR NS−G5259、Fragrance HP NS−G5260、Fragrance SW NS−G5261などを例示することができる。
【0020】
この香料は、エマルションの樹脂粒子への香料の取り込みを良好とし、かつ香料の良好な香りを放つために、前記粘着性合成樹脂エマルションの固形分と前記香料と重量比が2:1〜40:1となるように含有することが好ましい。
【0021】
本発明のインキには、水が含まれる。水は、インキ組成物全量に対して20〜80重量%含まれていることが好ましい。
【0022】
本インキには、その他、水溶性有機溶剤、界面活性剤、防腐防黴剤、防錆剤、消泡剤、増粘剤等を含ませることができる。なお、本発明のインキは光沢のある筆跡を形成するインキに限定されない。
【0023】
なお、上記増粘剤としては、水溶性増粘剤、例えば微生物産系多糖類及びその誘導体が用いられる。例えば、プルラン、ザンサンガム、ウェランガム、ラムザンガム、サクシノグルカン、デキストラン等を例示することができる。また、水溶性植物系多糖類およびその誘導体が用いられる。例えば、トラガンシガム、グァ−ガム、タラガム、ロ−カストビ−ンガム、ガティガム、アラビノガラクタンガム、アラビアガム、クイスシ−ドガム、ペクチン、デンプン、サイリュ−ムシ−ドガム、ペクチン、カラギ−ナン、アルギン酸、寒天等を例示することができる。また、水溶性動物系多糖類およびその誘導体が用いられる。例えば、ゼラチン、カゼイン、アルブミンを例示することができる。また水溶性増粘樹脂として、水溶性樹脂(アクリル系水溶性樹脂、スチレンアクリル系水溶性樹脂、スチレンマレイン酸系水溶性樹脂など)の塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩など)や、水分散型樹脂なども用いることができる。上述した水溶性増粘樹脂の中でも特に微生物産系多糖類及びその誘導体を好適に用いることができる。水溶性増粘樹脂は1種又は2種以上を混合して用いることができる。上記増粘剤を用いることにより、粘性を調整することができる。また、着色剤として、金属被覆ガラスフレーク顔料、金属被覆無機顔料、金属酸化物被覆無機顔料、アルミニウム粉顔料などの金属粉顔料、金属箔、金属が蒸着されたフィルム、金属蒸着膜等の金属を含む顔料など、インキ中において沈降性のある顔料を含む場合は、これらの顔料の沈降を防止することができる。上記増粘剤は、インキ全量に対して0.001〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.01〜5重量%である。さらに好ましくは、3重量%以下、最適には1重量%以下含ませることが好ましく、立体の筆跡が形成可能な程度に粘度を調整することが好ましい。
【0024】
本発明のインキを製造するには、当該分野で慣用している公知のインキの製造方法を用いる事ができる。なお、必要に応じてろ過等の粗大粒子を取り除く工程を加えても良い。例えば、原料を全て投入し、ディゾルバーで30分間攪拌することで所望のインキが得られる。
【0025】
本発明のインキを筆記具に用いた場合、ペン先からの本発明のインキの流出量は少なくとも100mg/10m、即ち10m筆記したときの流出量が100mg以上であることが望ましい(詳細な条件は後述の実施例の測定方法に記載の通り。)。またペン先からのインキ流出量は、最適には150mg/10m以上である。本発明インキのペン先からの流出量を少なくとも100mg/10mとすることによって、20μm〜50μmの厚み(立体の高さ)を持ち、筆跡の表面が平らで光沢のある立体の筆跡を得ることができる。ペン先からの本発明のインキ流出量が100mg/10m未満の場合、筆跡の表面が平らで光沢のある立体化した筆跡を形成しにくい。またペン先からのインキ流出量の上限は限定されないが、好ましい立体筆跡を得るためには800mg/10m以下、更に好ましくは500mg/10m以下とすることが望ましい。なお、ペン先からの本発明のインキの流出量が800mg/10mを超えると、乾燥が極端に遅くなり、また筆跡が太くなりすぎて文字が潰れるなど、ボールペン等の筆記具については好ましくない。
【0026】
このような好ましい立体の筆跡を得るにあたり、インキの粘度は、5〜500mPa・s、好ましくは5〜100mPa・s、より好ましくは5〜50mPa・sである。特に、5mPa・s以上〜100mPa・s未満の本発明のインキが好ましい。なお、本発明のインキの粘度は、ELD型粘度計を用い、1°34’コーンローター、10rpm、20℃の条件で測定した値である。
【0027】
また、好ましい立体の筆跡を与えるには、ペン先を備えたいわゆるインキフリーのボールペン等の筆記具が好ましい。さらに詳細には、ペン先とインキ筒を備え、上記インキ筒内部に、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも30重量%含まれている水性インキ組成物、或は既述した本発明の各種態様のインキ組成物のうちいずれかのインキ組成物が収容されており、
前記ペン先は、インキが流出する流路とインキの流出を制御する弁体とをチップ本体内部に有する筆記具用チップで構成され、ペン先からの前記インキの流出量が少なくとも100mg/10mであるペン先を備えた筆記具である。
【0028】
従って、本発明の筆記具は、前記ペン先が繊維束のペン先や樹脂成形によるペン先ではなく、本発明の各種態様のインキが流出する流路を有し、ボール等の弁体によって本発明の前記インキの流出を制御するペン先であり、ペン先からの前記インキの流出量が少なくとも100mg/10mであるため、これを用いて筆記すると、表面が平らで光沢のある立体化した筆跡を形成することができる。
【0029】
特に、ボールを有するペン先とインキ筒を備えたボールペンの場合、さらに好ましい立体の筆跡を得るにあたっては、上記インキ筒内部に、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも30重量%含まれる水性インキ組成物が充填されており、ボール径(直径)Xに対する筆跡の厚みYの比、すなわち筆跡厚みY(μm)×10/ボール径(mm)、すなわちY×10/Xが15以上、好ましくは20以上、さらに好ましくは25以上であるボールペンが好ましい。
【0030】
また、ボールを有するペン先とインキ筒を備えたボールペンであって、上記インキ筒内部に、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも30重量%含まれており、前記ボール径(直径)Xに対する前記ペン先からの前記水性インキ組成物の流出量Zの比、すなわちインキの流出量(mg/10m)/ボール径(mm)、すなわちZ/Xが125以上、好ましくは150以上、さらに好ましくは160以上であるボールペンが好ましい。
【0031】
また、ボールを有するペン先とインキ筒を備えたボールペンであって、上記インキ筒内部に、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも30重量%含まれており、前記の通り、筆跡厚みY(μm)×10/ボール径X(mm)、すなわちY×10/Xが15以上であって、インキの流出量(mg/10m)/ボール径(mm)すなわちZ/Xが125以上であるボールペンが好ましい。
【0032】
筆跡厚み(μm)×10/ボール径(mm)すなわちY×10/Xが15以上とするには、例えばインキの成分、粘度等及びボール径等を調整することによって得られる。インキの流出量(mg/10m)/ボール径(mm)すなわちZ/Xが125以上とする場合も同様である。
【0033】
なお、筆跡厚み(μm)/ボール径(mm)及びインキの流出量(mg/10m)/ボール径(mm)の各上限値は各別限定されず、所望とする筆跡膜の立体の程度に応じて適宜選択される。
【0034】
これらを実現可能な好適な具体的な筆記具の一例としては、筆記具チップとこれに接合されたインキ筒を備えたボールペンにおいて、
上記インキ筒には、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも30重量%含まれている水性インキ組成物が収容されており、
前記筆記具用チップは、筆記具用チップ本体と、筆記具用チップ本体の先端側で保持されるボールを有し、筆記具用チップ本体は、ボールハウス、中心孔及びバック孔が設けられて、バック孔、中心孔及びボールハウスは連通して一連のインキの流路を有し、ボールハウスには、座面及び側壁面が設けられてボールを回転可能に保持し、ボールハウス内を所定の距離だけボールが軸方向に移動可能であり、ボールハウス内と前記中心孔又は前記バック孔とをつなぐように設けられた溝又は孔を有する筆記具用チップであって、前記ボールハウスの座面と側壁面との間には接続面を有し、前記接続面の形状は頂点を筆記具用チップの先端側とする円錐台の側面の形状であり、接続面の内側に前記座面が位置しているボールペンを挙げることができる。ここで、円錐台の側面形状とは、円錐面の一部であって台形回転体の側面と同じ形状である。
【0035】
そして、限定されるものではないが、好ましくは、チップ本体の内部に、後端側から先端側に前記ボールを付勢するボール付勢部材が圧縮状態で設けられている前記ボールペンが好適である。
なお、既述した筆記具は例えばボールペンを例示して特定したが、本発明のインキを刷毛、スティックなどに含ませて筆記乃至塗工することもできる。
【0036】
以下さらに図面に沿って前記筆記具の一実施形態について具体的に詳述する。図1は、本発明のボールペンの第1の実施形態に係るボールペンチップを用いた芯の断面図である。図2は、同ボールペンチップの断面図である。図3(a)は、同ボールペンチップの先端部分の断面図であり、(b)は、(a)のA−A断面図である。図4は、同ボールペンチップの先端部分の斜視図である。図5は、同ボールペンチップのボールとボールペンチップ本体との接触部分を拡大した図である。図6は図5のG部を拡大した図である。
【0037】
本発明の第1の実施形態のボールペンの芯7は図1に示されている。そして、芯7の先端にボールペンチップ(筆記具用チップ)1が、取り付けられている。また、図1に示されるように、ボールペンチップ1は、前記本発明に係る水性インキであるインキ5を内部に有するインキ筒(塗布液収納部)6と接合されている。そして、芯7は、ボールペンの軸筒(図示せず)の内部に装着されて、水性ボールペンとして使用される。51はインキ筒6内のインキの後端に配置されたインキフォロアであり、本発明では好ましくはシリコーンオイルをゲル化したもの、より好ましくはシリコーンオイルをベンジンデンソルビトールでゲル化したものが用いられるが限定されない。即ち本発明ではシリコーンオイル、鉱物油、ポリブテン等の不揮発性又は難揮発性有機液状物をゲル化したものが好ましく用いられる。
【0038】
ボールペンチップ1の先端に有するボール10を押圧しながら移動させることによって、塗布液たるインキ5がボールペンチップ1の内部を通って、ボール10に適当量付着しながら流出し、筆記することができる。
【0039】
ボールペンチップ1は、図2に示されるように、ボールペンチップ本体(筆記具用チップ本体)11、ボール10及びボール付勢部材12からなっている。
【0040】
ボールペンチップ本体11は、外観的には先端側が略円錐形状であり、後端側が略円柱形状であり、全体では、これらを軸方向に結合させた、ロケットような形状である。そして、先端側には円錐部25を有し、後端側には円筒部26を有している。また、円筒部26の後端側は、やや外径が縮径しているインキ筒結合段部26aを有して、インキ筒6と接続する。また、内側にはボールハウス15、中心孔16及びバック孔17が設けられて連通し、インキ5の一連の流路となっている。さらに、バック孔17の後端側は、後端側開口28を有している。
【0041】
図3、図4に示されるように、ボールハウス15は、円筒内部の形状をした側壁である円筒壁41と、円筒壁41の後端側に位置する座面45及び接続面71を有している。接続面71は、円筒壁41と座面45を接続する面である。座面45は、後述するように、ボール10を先端側から後端側に向けて押圧する座打ちにより形成され、その断面形状は円弧状である。
【0042】
接続面71の形状は、頂点を先端側とする円錐台の側面形状であり、この円錐台の断面の先端側の角度αは240°である。
【0043】
さらに、図3、図4に示されるように、ボールペンチップ本体11の中心孔16の周りには、放射状に、いわゆる矢溝と呼ばれる溝47が設けられている。そして、溝47はボールハウス15とつながり、インキ5は中心孔16から溝47を通じて、溝47のボールハウス15側の出口部61を通過して、ボールハウス15に流出することができる。
【0044】
ボール付勢部材12はコイル状のばねであり、図2に示されるように、ボールペンチップ本体11の内部に設けられて、ボール付勢部材12が圧縮状態となっており、後端側から先端側にボール10を付勢している。具体的には、先端に棒状部23が設けられて、棒状部23の先端23aがボール10と接触している。そして、ボールペンが使用されない場合には前記付勢によりインキ5の外部の流出を防止し、ボールペンを使用する際には、筆記圧によりボール10が後端に移動して、インキ5の流出を容易とするものである。
【0045】
ボール10は、球状であり、ボールペンチップ本体11のボールハウス15に回転可能に保持されている。すなわち、後端側は座面45により、側面側は円筒壁41により、先端側は後述するように、ボール10挿入後にボールペンチップ本体11の先端を内側に向かって変形するようにかしめられた部分である先端変形部43により、ボール10が保持されている。
【0046】
図5に示されるように、本実施形態のボールペンチップ1には、溝47の出口部61付近におけるボール10との隙間T、ボールハウス15の側壁面41とボール10が最も接近する付近の隙間S2、ボールペンチップ本体11の先端側の先端変形部43付近のボール10との隙間S1を有している。
【0047】
そして、ボールペン7を使用すると、インキ5は、中心孔16から溝47のボールハウス15側の出口部61の隙間Tを通過して、ボールハウス15に流出し、さらに隙間S2を経て、隙間S1から外部に流出する。
【0048】
隙間T、隙間S1、隙間S2は、ボール10の外径Dや、座打ち変形量Lや、ボールハウス15の側壁面41の内径等により定まるものである。
座打ち変形量Lを大きくすると、隙間S1が大きくなるが、座面先端側縁部54が外側に位置するので、溝47の出口部61付近におけるボール10との隙間Tが小さくなる。また、座打ち変形量Lを小さくすると、座面先端側縁部54が内側に位置して隙間Tが大きくなるが、隙間S1が小さくなる。
【0049】
しかしながら、本発明のボールペンチップ1では、ボールペンチップ本体11の押圧変形表面部70を頂点を先端側とする円錐面の一部とするように加工されているので、座打ち変形量Lを大きくしても座面先端側縁部54が内側となるので、溝47のボールハウス15側の出口部61の隙間Tをより大きくすることができる。したがって、既述した本発明のインキ5の流出量を少なくとも100mg/10mとすることができ、より多くのインキ5を流出させることができる。因って、これを用いて筆記すると、表面が平らで光沢のある立体化した筆跡を形成することができる。
【0050】
また、座打ち変形量Lに影響されにくい側壁面41とボール10が最も接近する付近の隙間S2を、隙間S1及び隙間Tより小さくなるように所定の長さとし、隙間S2でのインキ5の流れを一番しぼることにより、流量の調節を確実に行うことが可能となる。すなわち、従来の筆記具では、隙間S1と隙間Tとを同時に大きくすることができないので、隙間S2で流れをしぼるには、隙間S2をより狭くしなければならず、多くの塗布液を流出させることができなかった。また、隙間S1及び隙間Tで流量の調整を行うと、座打ち変形量Lのばらつきにより変化してしまうので、安定して調整することができない。しかしながら、本発明のボールペンチップ1では、隙間S1及び隙間Tを同時により大きくすることが可能であり、隙間S2により流量の調節を行うことができるので、多くの塗布液を流出させる筆記具にも適用でき、既述した本発明のインキ5の流出量を少なくとも100mg/10mとすることができ、これを用いて筆記すると、表面が平らで光沢のある立体化した筆跡を形成することができる。
【0051】
なお、図6において、座面側加工面48は、座打ちにより変形する押圧変形表面部70と接続部71を有している。そして、図6に示されるように、押圧変形表面部70が座打ちにより、ボール10から力を受けて変形して座面45となる。
【0052】
座面側加工面48の形状は、頂点を先端側とする円錐台の側面の形状であり、円錐面の一部である。また、押圧変形表面部70及び接続部71も同様に、頂点を先端側とする円錐台の側面の形状であり、円錐面の一部である。押圧変形表面部70は先端側に突出している。そして、この円錐台の先端側の断面角度αは240°である。また、座面側加工面48の内側端部48aは鋭角状となっている。
【0053】
なお、本実施形態の座面側加工面48では、押圧変形表面部70の全体が、頂点を先端側とする円錐面である第1の面85となる。また、接続部71は、座打ちにより変形しない部分であるので、押圧非変形表面部72である。
【0054】
このような筆記具を製造する方法は格別限定されないが、下記のボールペンチップ1の組み立て方法が好ましい。
例えば、まずボールペンチップ本体11を形成する。円柱状の材料を用い、外形につき先端側を略円錐形状として円錐部25を設けながら所定の形状とする(第1の工程)。次に、チップ本体11のボールハウス15の内側を、筒内壁状の側壁面と、前記側壁面の中心孔側の縁から軸心側に形成されて中心孔16につながる座面側加工面48とを備えるように加工するが、特に前記押圧変形表面部70となる部分には先端側に突出する部分を設けるように加工する(第2の工程)。次に、溝47を形成してボールペンチップ本体11を加工する(第3の工程)。次に、ボールハウス15にボール10を収納して、チップ本体11の先端側をボール10側に変形させる(第4の工程)。次に、前記ボール10を先端側から中心孔16側に押圧して前記座面側加工面48の一部である押圧変形表面部70を変形させて座面45とする(第5の工程)。
【0055】
また例えば、前記第2の工程において、押圧変形表面部70となる部分に先端側に突出する部分を設けるように加工する構成に代えて、前記押圧変形表面部70となる部分を、頂点を筆記具用チップの先端側とする円錐台の側面の形状である第1の面を設けるように加工する方法も採用することができる。
【0056】
ところで、前記ボールペンチップ本体11の先端側の先端変形部43は、本発明のインキの流量を多くするために、図7に示すような第2の態様の構成を採用することもできる。
すなわち、図7に示すように、チップ本体11の外側の形状が略円錐状であり、当該チップ本体11の内側に先端側が開口状であるボールハウス15を有しており、前記ボールハウス15にボール10が収納され、前記ボールハウス内を所定の距離だけボールが軸方向に移動可能であり、前記チップ本体11の先端をボール10側に変形させて先端変形部43が設けられているチップであって、
【0057】
前記チップ本体11の先端変形部43は、周状に削られた外側部分55を持ち、該外側部分が該内側と共にボール10側に変形された構成であるボールペンチップである。
なお、図7において、ボールペンチップ本体11の中心孔16の周りには、放射状に、いわゆる矢溝と呼ばれる溝47が設けられている。そして、溝47はボールハウス15とつながり、インキ5は中心孔16から溝47を通じて、溝47のボールハウス15側の出口部61を通過して、ボールハウス15に流出することができる。ボール10は、球状であり、ボールペンチップ本体11のボールハウス15に回転可能に保持されている。すなわち、後端側は座面45により、側面側は円筒壁41により、先端側はボール10挿入後にボールペンチップ本体11の先端を内側に向かって変形するようにかしめられた部分である先端変形部43により、ボール10が保持されている。
【0058】
前記ボールハウス15は、円筒内部の形状をした側壁である円筒壁41と、円筒壁41の後端側に位置する座面45及び接続面71を有している。接続面71は、円筒壁41と座面45を接続する面である。座面45は、ボール10を先端側から後端側に向けて押圧する座打ちにより形成される。接続面71の形状は、円錐面の一部であり、すり鉢状である。
【0059】
本実施形態のボールペンチップ1では、座打ちによりボール10は後端側に移動することが可能であり、図7に示されるように、ボール10とチップ本体11の先端変形部43との間には隙間S1が形成される。また、座面45は座打ちにより形成されるので、座面45の形状は全体がボール10の曲面に合わせた形状となる。そして、使用の際などに、先端側から座面45側にボール10を押した場合には、座面45の全体がボール10と接触する。なお、図7において、Lは座打ちによりボール10が移動可能となる距離である座打ち変形量である。
【0060】
インキ5の流出をさらに安定して多くしたい場合には、図8に示すように、できるだけ先端変形部43の内側を短くしかつ傾斜させる構成が望ましい。すなわち、ボールペンチップ1の先端変形部43の径方向の距離xに対して、軸方向の長さyが小さくする構成である。このような構成をとることにより、先端変形部43がボールペンチップ1の軸に対してより傾斜する。そして、この先端変形部43の傾斜が大きい方が、ボールハウス15内の空間66が大きくなり、使用時のインキ5の流出性が良くなる。
【0061】
これらのボールペンチップを製造するには、例えば、チップ本体11の外側の形状を略円錐状に加工する(第1の工程)。次に、チップ本体11の外側の先端付近に周状に削り、前記周状に削った部分をボール側に変形させる(第2の工程)。次に、チップ本体11の内側に先端側が開口状であるボールハウス15を形成する(第3の工程)。次に、中心孔16とつながり、中心孔16の壁面を外に向かって削ることによって得られる溝47を形成する(第4の工程)。次に、前記ボールハウス15にボール10を収納して、チップ本体11の先端をボール10側に変形させて先端変形部43を設ける(第5の工程)。これら一連の工程によって、前記チップを備えた筆記具をつくることができる。
【0062】
なお、上記実施形態のボールペンチップ本体では、既述したところの、周状に削られた外側部分(周状削り部)55の第1の面の形状は円錐台の側面状であり、第1の面の後端側の縁の部分で角が立っている。そのため、前記実施形態のボールペンチップを用いて筆記する場合に、後端側の縁が筆記対象に引っ掛かり、筆記感を悪くするおそれがある。これを解決するボールペンチップ本体としては、上記周状削り部55の第1の面の形状が、外側に向かって突出する曲面上である。そして、第1の面の後端部の縁には角がなく、第1の面の後端部の縁はなめらかにつながって、連続面となっている。したがって、ボールペンチップ本体により製造されたボールペンチップを用いて筆記する場合に、引っ掛かることはなく、筆記感を悪くするおそれがない。
【0063】
なお、前記本発明のインキを適用する筆記具としては、特に限定されないが、前記チップの座面に係る態様と前記チップの先端部分に係る態様とをそれぞれ選択的に又は両者の態様を兼ね備え持つ筆記具として採用することが望ましい。
【実施例】
【0064】
表1、表2及び表3に示す組成の実施例及び比較例のインキを作製した。すなわち、表1、表2及び表3に示す各成分をそれぞれ配合し、ディゾルバーで30分間攪拌し、実施例及び比較例のインキを得た。なお、表中、配合量は重量%、各成分は以下の通りである。
【0065】
(樹脂エマルション)
ニカゾールFX555A(日本カーバイド社製、アクリル系、固形分59.5%)
ニカゾールFX138Y(日本カーバイド社製、アクリル系、固形分59.5%)
ニカゾールRX242A(日本カーバイド社製、アクリル系、固形分60.0%)
モビニール972(クラリアントポリマー社製、スチレンアクリル系、固形分50.0%)
モビニール792(クラリアントポリマー社製、アクリル系、固形分50.0%)
モビニールLDM7520(クラリアントポリマー社製、アクリル系、固形分50.0%)
ボンコートNST100(大日本インキ社製、スチレンアクリル系、固形分68%、平均粒子径0.1μmと平均粒子径0.5μmの2種の粒径の異なる樹脂粒子が混合されたもの。混合状態での平均粒子径は0.3μmである。)
なお、上記樹脂エマルションには水が含まれる。
【0066】
(着色剤)
NKW6238(日本蛍光社製、青色蛍光着色剤)
NKW6007(日本蛍光社製、赤色蛍光着色剤)
次に、これらの各インキをそれぞれ、前記図1乃至図6に示された構造の水性ボールペンのインキ筒に充填した。ボールは炭化珪素製、ボール径(直径)は0.8mmである。なお、実施例12はボール径(直径)が0.8mm、実施例13は0.4mm、比較例4は0.6mmであるが、それ以外は実施例1で用いたと同様のボールペンを用いている。
【0067】
続いて、この筆記具を用いて筆記性の評価をした。すなわち、上記のペンでPPC用紙に筆記し、筆記線の状態を目視と手触りで評価した。
【0068】
<評価基準>
筆跡の光沢: ○:充分な光沢が観察される
△:光沢が観察される
×:上記△に比べて光沢感が劣る
【0069】
筆跡の盛り上がり:○:目視で盛り上がりが感じられる
△:手で触って盛り上がりが感じられる
×:手で触って盛り上がりが感じられない
【0070】
筆跡厚みの測定:
PPC用紙に「株式会社」と筆記したときの筆記線の厚みを、測定装置、商品名「ダイヤルシックネス」(テクロック社製)を用いて測定した。
インキの流出量の評価(測定方法):
螺旋式連続筆記試験機「MODEL TS−4C−10」(精機工業社製)にて、10m筆記後の減量(mg)を測定した。筆記条件は、筆記角度65°、荷重100g、筆記速度7cm/秒である。
【0071】
インキ中における香料の分離:
香料が含まれる実施例及び比較例のインキを充填した上記のペンを70℃で1日倒立し、インキ筒内におけるインキの分離を外観観察した。
○:分離していない
×:分離している
【0072】
筆跡膜における香り:
筆記後、上記筆跡膜からの香りを官能評価した。筆跡膜と鼻孔との距離は5cmで評価した。
○:香りがする
×:香りがしない又は香りが薄い
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
表1、表2及び表3より、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションが固形分で30重量%未満の比較例1及び比較例2では筆跡の盛り上がりが不十分で、立体状の筆跡は得られていない。また、筆跡厚み(μm)×10/ボール径(mm)すなわちY×10/Xが15以上であり、或はインキの流出量(mg/10m)/ボール径(mm)すなわちZ/Xが125以上である実施例のボールペンによれば筆跡の盛り上がりが得られるが、筆跡厚み(μm)×10/ボール径(mm)すなわちY×10/Xが15未満であり、或はインキの流出量(mg/10m)/ボール径(mm)すなわちZ/Xが125未満である比較例のボールペンによれば、いずれも筆跡の盛り上がりが得られていない。他方、ペン先からの前記インキの流出量が少なくとも100mg/10mであり、前記合成樹脂エマルションが固形分で30重量%以上の各実施例のインキはいずれも筆跡が盛り上がりが良好で、好ましい立体状筆跡が得られている。また本実施例のインキは、軽量微粉末フィラを用いていないので、光沢のある立体状筆跡が形成されている。
【0077】
また、表3に示す様に、香料としてLavender
NS−F5246、Lemon NS−G5883及びUlutramarine
NS−G5885を含有する実施例14〜20のインキは、これを筆記すると、Lavender NS−F5246含有の実施例14では、インキの流出量が210(mg/10m)、筆跡厚みが35(μm)であるラベンダーの香りを放つ立体状筆跡膜の形成が確認され、Lemon NS−G5883含有の実施例15〜19のインキではレモンの香りを放つ立体状筆跡膜の形成が確認され、Ulutramarine NS−G5885を含有する実施例18のインキではアクアマリン(香水)の香りを放つ立体状筆跡膜の形成が確認された。
【0078】
また、樹脂エマルションの樹脂粒子の粒子径を測定すると、香料が含まれていない実施例1では150nmであったが、香料が含まれることを除いて実施例1と同じ実施例14のインキでは170nmであった。これにより、香料がエマルション中の樹脂粒子に取り込まれていることが認められた。実施例15〜20も、香料が樹脂粒子に取り込まれることにより当該樹脂粒子の粒子径の拡大が同様に認められる。
【0079】
なお、香料の取り込みの有無を確認するための本発明における樹脂エマルションにおける樹脂粒子の粒子径の測定条件は、動的光散乱法で、装置はレーザー粒度分布計、大塚電子株式会社製、「LPA3100」を用いて測定した。また粒子径は、散乱強度分布の平均粒子径を示している。
【0080】
また、樹脂エマルション(固形分)と香料が重量比で2:1〜40:1、即ち香料Aに対する樹脂エマルション(固形分)Bの重量比(A/B)が0.025〜0.5となるように含有することが好ましいことが認められる。樹脂エマルション(固形分)と香料が重量比で2:1、即ち前記重量比(A/B)が0.5を超えて香料が含まれる比較例2では、香料が筆跡膜中において分離していることが認められた。樹脂エマルション(固形分)と香料が重量比で40:1、即ち前記重量比(A/B)が0.025未満において香料が含まれる比較例1では、香りが薄かった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の水性インキ組成物は、以上の通り、立体造膜成分及び水を少なくとも含み、前記立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションを含み、当該粘着性合成樹脂エマルションが固形分で少なくとも30重量%含まれているため、軽量微粉末フィラを配合せずに、立体状の筆跡を形成することができる。特に、筆跡厚みY(μm)×10/ボール径X(mm)すなわちY×10/Xが15以上、或はインキの流出量Z(mg/10m)/ボール径X(mm)すなわちZ/Xが125以上、或はペン先からの前記インキの流出量が少なくとも100mg/10mであるボールペンにこのインキを適用することにより、立体状の筆跡膜を形成する筆記具として利用することができる。従って、立体的な筆跡膜を形成することができるため、紙、爪、体などへの筆記や描画のほか、爪、顔、体などへの化粧など従来にはないコスメティック組成物としても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、本発明の筆記具にかかるボールペンチップの一実施形態を用いた芯の断面図である。
【図2】図2は、同ボールペンチップの断面図である。
【図3】図3は、(a)は、同ボールペンチップの先端部分の断面図である。(b)は、(a)のA−A断面図である。
【図4】図4は、同ボールペンチップの先端部分の斜視図である。
【図5】図5は、同ボールペンチップのボールとボールペンチップ本体との接触部分を拡大した図である。
【図6】図6は、図5のG部を拡大した図である。
【図7】図7は、本発明の筆記具にかかるボールペンチップの先端部分の他の形態を示す断面図である。
【図8】図8は、同要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 ボールペンチップ
10 ボール
11 ボールペンチップ本体
12 ボール付勢部材
15 ボールハウス
5 インキ
51 インキフォロア
6 インキ筒










【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン先とインキ筒を備え、
上記インキ筒内部に、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも30重量%含まれている水性インキ組成物が収容されている筆記具。
【請求項2】
上記インキ筒内部に、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも35重量%含まれている請求項1記載の筆記具。
【請求項3】
上記インキ筒内部に、水性インキ組成物全量に対して0.01〜20重量%の着色剤と、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも37重量%含まれ、
20μm〜50μmの厚み(立体の高さ)を持つ立体の筆跡を得る請求項1記載のペン先を備えた筆記具。
【請求項4】
前記ペン先からの前記インキの流出量が少なくとも100mg/10mである請求項1乃至3のいずれかの項に記載のペン先を備えた筆記具。
【請求項5】
前記水性インキ組成物の粘度は、ELD型粘度計を用い、1°34’コーンローター、10rpm、20℃の条件で測定した値で、5〜500mPa・sである請求項1乃至4の項のいずれかに記載の筆記具。
【請求項6】
前記水性インキ組成物の粘度は、ELD型粘度計を用い、1°34’コーンローター、10rpm、20℃の条件で測定した値で、5mPa・s以上〜100mPa・s未満である請求項4記載の筆記具。
【請求項7】
前記エマルションの樹脂粒子が、平均粒径が異なる複数の粒度分布を持つ樹脂粒子群で構成されており、前記複数の樹脂粒子群のうち、最小の平均粒径を持つ当該樹脂粒子群の平均粒径が0.05〜0.3μmの範囲にある請求項2乃至6のいずれかの項に記載の筆記具。
【請求項8】
前記樹脂粒子群のうち、最大の平均粒径を持つ当該樹脂粒子群の平均粒径が0.3〜1.0μmの範囲にある請求項7記載の筆記具。
【請求項9】
前記粘着性合成樹脂エマルションは、最低造膜温度(MFT)が25℃以下の合成樹脂エマルションである請求項2乃至8の項のいずれかに記載の筆記具。
【請求項10】
前記粘着性合成樹脂エマルションは、最低造膜温度(MFT)が5℃以下の合成樹脂エマルションと、最低造膜温度(MFT)が50℃以上の合成樹脂エマルションが含まれている請求項9記載の筆記具。
【請求項11】
上記2種のエマルションの混合比は、最低造膜温度(MFT)が5℃以下の粘着性合成樹脂エマルションに対して最低造膜温度(MFT)が50℃以上の粘着性合成樹脂エマルションが1:4〜4:1である請求項10記載の筆記具。
【請求項12】
粘着性合成樹脂エマルションが、アクリル系合成樹脂エマルション及びスチレンアクリル系合成樹脂エマルションの群から選ばれる少なくともいずれかのエマルションである請求項2乃至11のいずれかの項に記載の筆記具。
【請求項13】
さらに造膜助剤をインキ全量に対して1〜3重量%含有する請求項2乃至12のいずれかの項に記載の筆記具。
【請求項14】
さらに造膜助剤として、テキサノール、ブチルセロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトールアセテート及びジブチルフタレートの群から選ばれる少なくともいずれかの化合物を含有する請求項2乃至13のいずれかの項に記載の筆記具。
【請求項15】
さらに着色剤を含有する請求項2乃至14のいずれかの項に記載の筆記具。
【請求項16】
インキ筒内のインキの後端にインキフォロアが配置され、
前記インキフォロアが、不揮発性又は難揮発性有機液状物をゲル化したもので構成され、
前記不揮発性又は難揮発性有機液状物が、シリコーンオイル、鉱物油及びポリブテンの群から選ばれる1種又は2種以上の有機液状物である請求項1乃至15のいずれかの項に記載の筆記具。
【請求項17】
筆記具がボールを有するペン先とインキ筒を備えたボールペンであって、
上記インキ筒内部に、水性インキ組成物全量に対して0.01〜20重量%の着色剤と、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも30重量%含まれている請求項6記載の筆記具。
【請求項18】
筆記具がボールを有するペン先とインキ筒を備えたボールペンであって、上記インキ筒には、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも35重量%含まれている水性インキ組成物が収容されており、ボール径X(mm)に対する前記水性インキ組成物によって形成された筆跡の厚みY(μm)の比Y×10/Xが15以上である請求項1乃至17の項のいずれかに記載の筆記具。
【請求項19】
筆記具がボールを有するペン先とインキ筒を備えたボールペンであって、上記インキ筒には、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも35重量%含まれている水性インキ組成物が収容されており、ボール径X(mm)に対する前記ペン先からの前記水性インキ組成物の流出量Z(mg/10m)の比Z/Xが125以上である請求項1乃至17の項のいずれかに記載の筆記具。
【請求項20】
筆記具がボールを有するペン先とインキ筒を備えたボールペンであって、上記インキ筒には、立体造膜成分として粘着性合成樹脂エマルションがインキ全量に対して固形分で少なくとも35重量%含まれている水性インキ組成物が収容されており、
ボール径X(mm)に対する筆跡厚みY(μm)の比Y×10/Xが15以上、ボール径X(mm)に対する流出量Z(mg/10m)の比Z/Xが125以上である請求項1乃至17の項のいずれかに記載の筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−247036(P2008−247036A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122684(P2008−122684)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【分割の表示】特願2004−155470(P2004−155470)の分割
【原出願日】平成16年5月26日(2004.5.26)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】