説明

等温多管式反応器及び該反応器を組み込んだプロセス

本発明は、塩素化及び/又はフッ素化アルカン、並びに塩素化及び/又はフッ素化アルケンの反応から、塩素化及び/又はフッ素化プロペン、並びにより高級なアルケンを製造するための好適な等温多管式反応器を提供する。この反応器は、所望の反応温度よりも少なくとも20℃低い供給材料混合物入口温度を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化及び/又はフッ素化プロペン、並びにより高級なアルケンを製造するための連続気相フリーラジカル反応を実施するのに適した、近等温操作可能な多管式反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用化学製品の製造に際して、多管式反応器がいたるところに存在している。複数のオープンエンド反応器管を含む通常はほぼ鉛直方向の容器を含んで成るこれらの反応器は、触媒気相反応のために使用されるのが典型的である。このようなプロセスのための多管式反応器のシェルは直径が典型的には数メートルであり、また少ないもので約5000本から最大で50000本もの反応器管を含む。各反応管は5,10,又は15メートルもの長さを有することがある。
【0003】
このような反応器では、反応器管の上端は一般に、上側管板に取り付けられ、そして上側管板の上方の流体入口ヘッドと流体連通している。同様に、反応器管の下端は一般に、下側管板に取り付けられ、そして下側管板の下方の流出物捕集ヘッドと流体連通している。通常の操作中、所望の反応ガスは、反応器管の上端の流体入口チャンバに供給され、そしてここを通過させられる。反応器管の下端を去った流出物は、流出物捕集ヘッド内に集められる。反応熱は、反応器管の外面を横切って通る伝熱流体によって除去される。
【0004】
少なくとも部分的には、利用される反応器管の数が多いことに起因して、多管式反応器内の温度制御が難しいことがある。とはいえ、多くの製造プロセスにおいて、正確な温度制御が望ましく、又はこれが必要となることさえしばしばある。例えば、所望の反応速度を維持する上で、正確な温度制御が極めて重要であり得る。プロセス不均等性、例えばホットスポットは、発生が許されると、反応速度及び転化率の増大を引き起こすことがある。このことは、多くの反応に対して、選択率の望ましくない低下を招くおそれがある。また、望ましくない温度変動は、反応において利用される熱感受性の成分又は導入物に不都合な影響を与えることがある。例えば、望ましくない温度変動は、触媒寿命を短くし、そして熱感受性成分を劣化させるおそれがある。そしてこのことは結果として反応器管の詰まりをもたらすおそれがある。
【0005】
多管式反応器内部及びこの反応器を含むプロセス中の適正な温度制御という難題を検討するときには、プロセス中の、より具体的にはプロセス中の特定温度における反応成分の滞留時間も検討しなければならない。すなわち、反応成分が、熱感受性成分の転化及び/もしくは反応又は分解を増大させるのを許す、最適状態より低い温度において滞留時間を有する場合、効果のない温度制御の不都合な影響が増幅するおそれがある。
【0006】
従って、このような検討事項が考慮され、そして前述の難題が実質的に克服された、改善された多管式反応器を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような反応器が本明細書において提供される。より具体的には、本明細書中に記載された反応器は、反応器内への且つ/又は反応器からのより効果的な熱移動を介してより正確な温度制御を可能にするだけでなく、反応成分の適切な滞留時間をも提供することができるので、所望の転化率及び/又は選択率を見いだすことができる。この反応器はこのように、さもなければ寿命を短くするおそれのある熱感受性成分、例えば触媒、或いは、反応器内部で望ましい状態で実施されるプロセスの処理仕様範囲内の温度では望ましくない形で反応又は分解する反応成分を含む反応に特に適している。
【0008】
本発明の1つの態様では、シェル内部に配置された複数の反応器管を含む等温多管式反応器が提供される。この反応器は、塩素化及び/又はフッ素化プロペン、並びにより高級なアルケンを製造するための連続気相フリーラジカルプロセスで使用するのに適しており、所望の反応温度よりも少なくとも20℃低い供給材料混合物温度を用いる。いくつかの態様の場合、反応器はさらに、所望の転化率での副生成物の生成を最小化する設計を含むことができる。
【0009】
i)反応器への熱移動及び/又は反応器からの熱移動を促進する設計;ii)反応器から出る時の逆混合又は再循環の低減、及び/又は発生し得る逆混合中の副生成物形成の低減を促進する設計;iii)該反応成分と、少なくとも1つの反応器管壁の少なくとも一部との間の境界のところでの反応成分流を最適化する設計;及び/又はiv)反応器流出物の温度を、副生成物の実質的な形成が生じない温度未満に低下させるのを促進する設計を含むいくつかのこのような設計が提供される。これらのうちの1つ又は2つ以上の組み合わせを利用することができ、この場合には1つの設計によって提供された利益を、他の設計を加えることによって、場合によっては相乗的にさえ、さらに活用することができる。
【0010】
本発明の反応器はこれらが利用される連続プロセスに時間及びコストの節減を可能にすることが予想されるので、この反応器を用いる方法が提供されるだけでなく、これにより製造された生成物を用いてこれらの利点を前方に、すなわち下流のプロセス、又は最終用途に向かって進展させることもできる。それ故、本明細書に提供されるのは、塩素化及び/又はフッ素化プロペン、又はより高級なアルケンを使用するプロセスであり、いくつかの態様では、下流生産物を調製する本発明の反応器において生成される塩素化プロペンであることができ、いくつかの態様では2,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234yf)又は1,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234ze)であることができる。
【0011】
添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読めば、本発明のこれら及びその他の特徴、態様、及び利点がより良く理解されるようになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、多管式反応器及びその入口のコンベンショナルな形態を概略的に示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の1つの態様による反応器を概略的に示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の1つの態様に基づく、シェル内の伝熱流体(T冷却剤)及び反応器管内部の1種又は2種以上の反応物(T流体)の、管長さに対する温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書は、本発明をより良く規定し、そして本発明の実施において当業者を案内するために定義及び方法を提供する。特定の用語又は言い回しに対して定義を提供するかしないかが、何らかの具体的な重要性の有無と矛盾することにはならない。むしろ、そして特に断りのない場合には、用語は当業者によって従来の慣用法に従って理解することができる。
【0014】
本明細書中に使用される「第1」、及び「第2」などはいかなる順番、量、又は重要性をも示すものではなく、1つの要素を別の要素から区別するために使用される。また、“a”及び“an”という用語は、量の制限を意味するのではなく、言及されたものの少なくとも1つの存在を意味するものであり、そして「前」、「後ろ」、「下」、及び/又は「上」という用語は、特に断りのない場合、説明の便宜上使用するにすぎず、記載の部分を、いずれか1つの位置又は空間的方向に限定するものではない。
【0015】
範囲が開示される場合、同じ成分又は特性に関する全ての範囲の終点は包括的であり、独立して組み合わせ可能である(例えば「最大約25wt%、より具体的には約5wt%〜約20wt%」という範囲は、約5wt%〜約25wt%の範囲の終点及び全ての中間値を含める、など)。量との関連において使用される修飾語「約」は、言及された値を含み、そして文脈によって決定づけられる意味を有する(例えば、具体的な量の測定に関連するある程度の誤差を含む)。本明細書中に使用される転化率パーセント(%)は、入来流に対する、反応器内の反応物のモル流又は質量流の変化を示すのに対して、選択率パーセント(%)は、反応物のモル流量の変化に対する反応器内の生成物のモル流量の変化を意味する。
【0016】
明細書全体を通して「1つの態様」又は「態様」と言うときには、これは、或る態様との関連において記載された具体的な構成要件、構造、又は特徴が少なくとも1つの態様内に含まれる。このように、「1つの態様」又は「態様」という言い回しが明細書全体を通して種々の場所に現れたときには、これは同じ態様を必ずしも意味しない。さらに、具体的な構成要件、構造、又は特徴は、1つ又は2つ以上の態様において任意の好適な形で組み合わされることもある。
【0017】
本発明は、塩素化及び/又はフッ素化プロペン、並びにより高級なアルケンを製造するための連続気相フリーラジカルプロセスで使用するのに適した等温多管式反応器を提供する。多管式反応器を具体的に参照するが、言うまでもなく、反応器内部に提供される反応空間は、これらを取り囲むシェルと同様に、任意のジオメトリを有することができる。すなわち反応空間は、概ねスリットの形態を成すように板によって画定することができ、或いは、反応空間は正方形、三角形、又は楕円形の管によって画定されてもよい。
【0018】
有利なことに、この反応器は、反応器を詰まらされるおそれのある反応成分の分解生成物を含む副生成物の生成を最小化する設計を含む。そうすることで、反応器内部で行われる反応の転化率パーセントを所望の範囲内に維持することができる。例えばいくつかの態様では、所望の選択率、例えば70%以上が見られるように、転化率の増大が望ましくは5%未満、又は約2%未満、又は約1%未満になるようにすることができる。別の言い方をすれば、少なくとも約5%、又は少なくとも10%、又は少なくとも約15%、又は少なくとも約20%の限定試薬転化率では、所望の生成物への選択率は、約70%、又は約75%、又は約80%、又は約85%以上もの高さであることが可能である。このようなものとして、本発明の反応器は、転化率パーセントの増大が典型的には反応副生成物の生成増大を示し、ひいては選択率パーセントの低下を示すおそれのあるような反応を実施するのに特に適している。
【0019】
本明細書中に記載された反応器は、任意の連続気相フリーラジカルプロセスで用いることができ、そして具体的には、均一且つ発熱性でもあるような反応に適している。本明細書中に記載された反応はまた、反応物の枯渇からはほど遠い所望の転化率の少なくとも1種の限定反応物、例えば転化率80%未満、40%未満、又は20%未満の限定反応物を伴う反応のために特に好適に使用される。上述のように、本発明の反応器はまた、副生成物が特に形成されやすいような反応、及び反応選択率に対する副生成物の影響を受けやすいような反応、又は例えば反応又は分解することにより望ましくない副生成物を形成するおそれがある熱感受性成分を含むような反応に特に適している。熱感受性成分は、例えば反応物、生成物、触媒、及びさらに反応又は熱分解して他の副生成物を形成し得る副生成物を含んでよい。熱感受性成分の組み合わせを含む反応も、本発明の反応器内で実施されることから利益を見いだすことができる。限定試薬の転化率がこのように低いときでも、そして副生成物が形成されやすい反応を実施するために使用されるときでも、本発明は、少なくとも約70%、又は約75%、又は約80%、又は約85%以上の、所望の生成物への選択率を提供することができる。
【0020】
このような反応の一例としては、塩素化及び/又はフッ素化プロペン、並びにより高級なアルケンを製造する反応が挙げられる。好ましいアルケンは、炭素原子数約3〜約6のものを含む。典型的な反応は、式:CH2-c-gClcg=CH1-d-hCldh−CH3-e-fClef(式中、cは0〜2であり、dは0〜1であり、eは0〜3であり、fは0〜3であり、そしてgは0〜2であるが、c+g≦2、d+h≦1、そしてe+f≦3である)に従った塩素化及び/又はフッ素化プロペンを提供するための、式:CH4-a-bClab(式中、a及びbはそれぞれ独立して0〜3であり、そして4−a−bは0より大きい)を有するクロロメタン、フルオロメタン、又はクロロフルオロメタンを含むメタン;及びクロロエチレン又はクロロフルオロエチレンの反応を含む。特に典型的な反応は、1,1,2,3−テトラクロロプロペンを提供するための塩化メチルとペルクロロエチレンとの反応、1,1,2−クロロ−3−フルオロ−プロペンを提供するためのフッ化メチルとペルクロロエチレンとの反応、及び1,1,2,3−テトラフルオロプロペンを提供するためのフッ化メチルとトリフルオロクロロエチレンとの反応を含む。しかし、これらは一例に過ぎず、本明細書中に記載された概念を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0021】
多くのパラメータが、多管式反応器内部の反応条件を調節する上で有用であることが化学技術分野で知られているが、しかしこのようなパラメータは、本明細書中に記載された本発明よりも前には、反応物の所望の生成物への所望の転化率が見られるように副生成物形成の低減をもたらすような形で適用されることはなく、そして/又は特に副生成物形成の低減を必要とする反応に適用されることはなかった。すなわち、反応器内で行われる反応が所望の転化率パーセント及び生成物選択率パーセントを有するように、熱感受性反応成分、例えば塩素を含む触媒又は開始剤を含む連続気相フリーラジカル反応を実施する際の使用に適合しやすくするために、多管式反応器をどのように設計すべきかが今発見されたわけである。熱感受性反応成分を含む連続気相フリーラジカル反応の実施に関与する化学的性質が独自のものであるため、化学技術分野における当業者であれば、等温多管式反応器を、これらの反応を行う候補の中で良い候補とは必ずしも考えないであろう。
【0022】
例えば、塩素化及び/又はフッ素化プロペンを製造するプロセスは典型的には、コンベンショナルなハロゲン化プロセスよりも大量の反応副生成物を形成することがある。すなわち、コンベンショナルなフリーラジカル・ハロゲン化反応において、ジェット攪拌型反応器によって提供されるような、反応器で促進される逆混合又は再循環は、副生成物形成を同時に増大させることなしに、反応器の生産性を高めると典型的には考えられている[Liu他, Chemical Engineering Science 59 (2004) 5167-5176]。加えて、ジェット攪拌型反応器は典型的には断熱条件で操作され、この場合、周囲への熱移動は最小化される。
【0023】
大量の副生成物の形成は、次にプロセス能力及び転化率に不都合な影響を及ぼすだけでなく、多くの理由から問題となる場合がある。その最たるものは、反応器の詰まりを引き起こし得ることである。さらに、多管式反応器内の反応管内に入る前に必然的に発生する逆混合は、このような反応において副生成物の形成を促進する。こうして、塩素化及び/又はフッ素化プロペン、並びにより高級なアルケンの本発明の改善された製造方法は、このような逆混合が発生するのを許すが、副生成物形成を最小化する。すなわち、反応管内の反応が商業的に妥当な時間及び空間内で発生するようにするためには、反応管内への供給材料の進入前に、或る程度の量の逆混合及び/又は再循環が、チャンバヘッド供給材料分配器内で発生することは避けられない。
【0024】
入口温度が、所望の反応温度よりも、又は大量の副生成物が形成される温度よりも少なくとも20℃だけ、又は約50℃だけ、又は約100℃だけ低くされれば、等温多管式反応器をこのようなプロセスのために使用できることも今や明らかになった。その場合、反応器の入口/ミキサーの温度は、副生成物形成をもたらすことはできず、しかも、入口/ミキサー内で行われる必要のある反応物の混合は発生し得るので、反応管及び反応器は経済的なサイズであることが可能である。1,1,2,3−テトラクロロプロペンを形成するための塩化メチルとペルクロロエチレンとの典型的な反応に関しては、例えばテトラクロロブテン、グラファイト、他の炭素質堆積物のような副生成物の形成を阻止又は防止するには、約370℃未満、又は325℃未満の入口温度が適している。
【0025】
この概念は図1にさらに示されている。ここでは入口102を含む多管式反応器100の典型的な構造が示されている。図示のように、反応器100及び入口/ミキサー102の異種の幾何学的形態に少なくとも部分的に起因して、反応物流は一般に、矢印106によって示される反応器管104の入口に向かって前進することができる。この流れパターンは、矢印108によって示される逆混合及び/又は再循環の区域を形成することがある。反応器100及び/又は入口102を再構成することなしに、存在する反応成分が反応して大量の副生成物を形成するのに必要な温度よりも20℃、又は好ましくは50℃、又はより好ましくは100℃低い温度で、領域110内部の温度を維持することにより、このような逆混合又は再循環ゾーンの影響のいずれも最小化することができる。上述のように、1,1,2,3−テトラクロロプロペンを製造するための塩化メチルとペルクロロエチレンとの反応の典型例の場合、この目的には、約370℃未満、又は約325℃未満の温度で十分である。
【0026】
いくつかの態様の場合、反応器は副生成物形成をさらに最小化するために、又は形成されるいかなる副生成物の影響も低減又は排除するために、1つ又は2つ以上の他の設計構成要件を付加的に含んでよい。より具体的には、本明細書中に提供された反応器は、i)反応器への熱移動及び/又は反応器からの熱移動を促進する設計;ii)反応器から出る時の逆混合又は再循環の低減、及び/又は発生し得る逆混合又は再循環中の副生成物形成の低減を促進する設計;iii)反応成分と、少なくとも1つの反応器管壁の少なくとも一部との間の境界のところでの反応成分流を最適化する設計;及び/又はiv)反応器流出物の温度を、副生成物の実質的な形成が生じない温度未満に低下させるのを促進する設計、のうちの1つ又は2つ以上を含むことができる。ここに記載された反応器設計はいかなる数のものを組み合わせて用いてもよい。
【0027】
いくつかの態様の場合、本明細書中に提供された反応器は、反応器が反応ゾーン内部で実質的に等温に作動できるように、反応器への熱移動、反応器からの熱移動、及び/又は反応器内部での熱移動を促進する設計を含むことができる。本明細書中に記載された多管式反応器に適用される「等温に」という用語は、定常条件で、反応ゾーン内部の温度がほぼ一定のままであること、すなわち、所望の温度に一旦達したら、約10℃だけしか、又は約5℃だけしか、又は約1℃だけしか、又は1℃未満の温度だけしか変化しないことを意味する。
【0028】
反応器への熱移動及び/又は反応器からの熱移動、典型的には反応器管とシェルとの間の熱移動を促進するためには、種々の方法を用いることができる。これを目的として伝熱流体が典型的には使用され、伝熱流体は、シェル内に設けられた入口を通して、シェルと反応器管との間の空間内に導入される。適正な伝熱流体は、高い熱容量、低い粘度を有し、低コスト、非毒性、そして化学的不活性であり、冷却/加熱系の腐食を招くこともなければ促進することもない流体である。望ましくは、伝熱流体は反応器の等温操作を助け、ひいては、反応器内の熱感受性反応成分の完全性を助ける。好適な伝熱流体の一例としては、溶融塩、例えば炭酸塩、亜硝酸ナトリウム/硝酸ナトリウム(NaNO2/NaNO3)、又はHitecXL(登録商標){48%のCa(NO32、7%のNaNO3、及び45%のKNO3から成る三元塩}、油、例えばSyltherm(登録商標)、Dowtherm(登録商標)、又は水が挙げられる。
【0029】
複数の伝熱流体の組み合わせを利用してもよい。例えば、本発明のいくつかの態様の場合、シェルは、シェル/反応器管の1区分をシェル/反応器管の別の区分から熱的に絶縁するのに効果的な1つ又は2つ以上のブラインドバッフルを備えることができる。それぞれの区分は同じか又は異なる伝熱流体を備えていてよい。このような反応器が図2に概略的に示されている。より具体的には、図2は、シェル204内部に複数の反応器管202を含む多管式反応器200を示している。反応器210から反応器208を熱的に絶縁するバッフル206が設けられている。空間214を第1伝熱源(図示せず)と流体接続するために、伝熱流体入口212が設けられている。また、空間218を第2伝熱流体源(図示せず)に流体接続するために伝熱流体入口216も設けられている。
【0030】
このような態様の場合、それぞれの区分内で利用される伝熱流体は同じでも異なっていてもよいが、これらの温度は、例えば反応器区分208及び210内部で異なる温度を用いるのを促進するために異なっていることが望ましい。典型的には、1,1,2,3−テトラクロロプロペンを提供するための塩化メチルとペルクロロエチレンとの典型的な反応において、伝熱流体としてSyltherm(登録商標)又はHitec(登録商標)の溶融塩を使用してよく、これは、反応器管内部の温度を所望の反応温度まで上昇させるのを助けるために、約400℃〜約430℃の温度、典型的には約415℃の温度で伝熱流体入口212を通して空間214に提供することができる。Syltherm(登録商標)を空間218内部に使用してもよく、これは約370℃〜約420℃の温度、典型的には約395℃の温度で伝熱流体入口216を通して提供することができる。空間218内部の伝熱流体は、発熱反応によって発生した熱を反応ゾーンから望ましく取り除き、反応ゾーン内の温度を維持するのを助ける。このようなものとして、実質的な副生成物形成を最小化しながら望ましい転化率パーセントを達成するのに十分な滞留時間を可能にするために、十分な反応容積が提供される。
【0031】
反応器内部の熱移動を促進する設計は、シェル内部に、そして反応器管を中心として所望の伝熱流体(又は複数種の伝熱流体)の並流を提供することを含んでもよい。このような並流を使用すると、反応器及び反応ゾーン内へ供給される供給材料を予熱するのを助けるのに十分な温度を有する伝熱流体を提供することを伴う一方、反応ゾーン内では、伝熱流体は望ましくは、反応ゾーンを所望の温度で維持するのを助けるのに十分な温度を有することになる。例えば本明細書中で考察される塩素化及び/又はフッ素化プロピレン、又はより高級なアルケンを製造する場合のような発熱反応に対しては、伝熱流体は望ましくは、反応器管及び供給材料の温度を所望の温度に上昇させるのに十分な温度で提供され、そして反応ゾーン内部では、ここから熱を除去するのを助ける。すなわち、伝熱流体は反応ゾーンよりも低い温度になる。
【0032】
もちろん、伝熱流体がこの態様の反応器管/反応ゾーンに供給される特定の温度は、本明細書中で考察される塩素化及び/又はフッ素化プロピレン、又はより高級なアルケンを製造するために実施される発熱反応の程度に依存する。伝熱流体の温度は、利用される特定の伝熱流体、及び維持される所望の温度に依存してもよい。大まかに言えば、伝熱流体は、反応器内への進入時には所望の反応温度にほぼ等しいか、又はこれよりも高いこと約50℃以内の温度になるようにし、そして反応器の反応ゾーン内部では所望の反応温度よりも低いこと約10℃以内の温度になるようにしてよい。すなわち、実施されるべき反応が発熱反応であるため、伝熱流体は、反応器内部の反応ゾーン内への進入時には所望の反応温度よりも高い温度であり、そして反応器内部の反応ゾーンの終端部では、所望の反応温度よりも低い温度であってよい。
【0033】
例えば1,1,2,3−テトラクロロプロペンを製造するための塩化メチルとペルクロロエチレンとの典型的な反応のためには、伝熱流体としてDowtherm(登録商標)を使用することができ、そして並流を提供するために、望ましくは、この流体は反応器管内への進入時に約410℃の温度を有することになる。この温度は適切な速度で増大することにより、伝熱流体が反応ゾーンに達する時までに、反応ゾーンが約390℃の温度になり、そして伝熱流体が約450℃の温度になることが望ましい。この関係は図3によってさらに示されている。図3は、本発明のこの態様の反応器管長さに対する、伝熱流体の温度と、反応成分及び/又は反応器の温度との関係を示している。
【0034】
反応器への熱移動及び/又は反応器からの熱移動を促進する設計(複数可)に加えて、反応器は、逆混合及び/又は再循環の低減、及び/又は反応器から出る時に発生し得る逆混合及び/又は再循環中の副生成物形成の低減を促進する1つ又は2つ以上の設計を備えていてよい。
【0035】
このような設計の一例は、コレクタのない反応器を使用すること、又は逆混合及び/もしく再循環ゾーンを最小化するように望ましい状態で利用される任意のコレクタを再設計することを伴う。すなわち、コレクタが流体接続されるように多くの多管式反応器を形成することができ、場合によっては、反応器流出物がコレクタからディスペンシングされる。このようなコンベンショナルなコレクタ内で、又は反応器に対して従来通りに配列されたコレクタ内では、逆混合及び/又は再循環が発生するのが典型的である。
【0036】
いかなるこのような逆混合及び/又は再循環をも低減又は排除するために、本発明の反応器をコレクタなしで提供してよく、これにより反応器流出物は、反応器から直接に液体急冷ゾーンに渡される。或いは、反応器及びコレクタの直径/形状を、ほぼ同じになるように形成してもよく、これにより逆混合区域が、反応器とコレクタとの間の異種のジオメトリによって形成されるデッドスペース内に形成されることはない。このようなコレクタはいずれも、反応器と同じ長手方向軸線の周りに配置されることが望ましい。
【0037】
コンベンショナルな管状反応器を通る滞留時間が増大すると、望ましくない副生成物の形成を招くおそれもあり、そしてこのような副生成物形成は一般に、反応器管の内壁と、この管を流過する反応混合物との間の界面の速度勾配層に起因して発生し得る。この層内の反応混合物の速度は典型的には、バルク速度における反応混合物の速度よりも低いのが典型的である。実際、速度勾配層の速度は、反応器壁でゼロに近づくことが可能である。このような低い速度により、この層内の反応物は、より長い滞留時間を被ることがある。このような長い滞留時間中には、望まれない副反応が発生するおそれがある。このような層を最小化することにより、反応器内部の反応成分の滞留時間を最適化し、ひいてはさもなければ生じるおそれのある副生成物形成を低減するのを助けることができる。
【0038】
そこで、本明細書中に提供された反応器の或る態様では、反応器(複数可)は、速度勾配層内部の反応成分流を最適化する設計を備えることができる。1つの態様の場合、このことは、少なくとも約2100のレイノルズ数(Re)によって定義することができる乱流領域を少なくとも1つの反応器管の少なくとも一部内に設けることによって達成できるように、層の深さ/厚さを最小化することによって達成することができる。ほぼ円形形態の場合、レイノルズ数は、等式:Re=4G/πDμ(式中、Gは質量流量(kg/s)であり、Dは管内径(m)であり、そしてμは粘度(1/kg/m/s)である)によって割り出すことができる。このような形態の一例として、少なくとも約1500本の管を有する反応器(大部分の管の内径は少なくとも約1.83インチであり、これを通る流量は約5.2e6 lbs/日である)は、1,1,2,3−テトラクロロプロペンを製造するための塩化メチルとペルクロロエチレンとの典型的な反応に対して約2100より大きいレイノルズ数を示すと予想される。
【0039】
反応器管がほぼ円形ではない本発明の反応器の態様の場合、レイノルズ数は、水力直径Dhで割り算することによって割り出すことができる。Dhは流れ断面積を4倍して濡れ縁長さwで割り算される。このような態様ではレイノルズ数を決定するために使用される等式は、Re=4G/πDhμ(式中、Gは質量流量(kg/s)であり、μは粘度(1/kg/m/s)であり、Dh=4A/wであり、ここでAは流れ断面積であり、wは濡れ縁長さである)となる。
【0040】
このようなレイノルズ数が提供される態様の場合、反応器設計は、少なくとも1つの反応成分のほぼ均一な流量を反応器管の大部分に提供する1つ又は2つ以上の分配器をさらに含む入口ヘッダーをを含むと有利である。例えば、このような分配器は、反応器管内径とほぼ同じ孔内径を有する多孔板から成ることができる。他の分配器設計は例えば、反応器管入口の手前のヘッダー空間内に配列されたバッフル、部分的又は完全なドーナツ形部材、又はリングの使用を含むことができる。用いる場合には、このような分配器は、反応器管入口の上方約2〜約8インチのところに配置されるのが望ましい。
【0041】
反応成分と、少なくとも1つの反応器管壁の少なくとも一部との間の境界のところでの反応成分流を最適化する設計の別の態様は、1種又は2種以上の機械的、電気機械的、及び/又は化学的前処理によって、少なくとも1つの反応器管壁の粗さを最小化することを含んでよい。多くのこのような処理は既知であり、これらのいずれかを用いることができる。
【0042】
例えば、反応器管の内壁の少なくとも一部の表面粗さを最小化又は低減すると予想される機械的な前処理の一例としては、高圧ウォータージェット、ショットブラスト、セラミック研削などの利用が挙げられる。典型的な電気化学的前処理は電気研磨、例えばHarrisonEP Electropolishingなどを含む。電気研磨は、アノード溶解によって反応器管の内面上の物質を除去することを伴う。化学的前処理法は例えば「ピクリング」、すなわち、スケーリング及び/又はその他の表面汚染物質を溶解させることができる強酸、例えば硝酸及びフッ化水素酸を塗布すること、及び不動態化溶液、例えばクエン酸又は硝酸を塗布することを含む。
【0043】
1つ又は2つ以上の反応器管の内面の少なくとも一部に非反応性被膜を設けることにより、そうでなければ速度勾配層で発生し得る流体抵抗を低減するのを助けることもできる。望ましくは、このような被膜はいずれも、実質的に非反応性の材料、又は少なくとも、反応器管壁よりも反応成分との反応性が低い材料から成る。このような材料は、例えばシリカ及び炭素又はグラファイトを含むと予想される。
【0044】
或いは、1つ又は2つ以上の反応器管の少なくとも一部の内面に、非反応性材料、又は反応器管の内面と反応性が類似している材料を含むナノ構造被膜を被覆することもできる。この場合、被膜のナノ構造は、反応器管の内面の表面積及び/又は表面粗さを低減することにより、被膜上の反応混合物による流れが改善されることが予想される。
【0045】
このような設計が用意されていないと、又はいくつかの事例ではこれらが用意されているにもかかわらず、副生成物が形成されることがあり、これらの副生成物は1つ又は2つ以上の反応器管を詰まらせるように作用するおそれがある。本明細書中に使用される「副生成物」という用語は、反応によって生成されるもの、及び具体的には熱感受性成分を含む反応成分の熱分解生成物を含むことを意味する。その場合、本発明はまた、反応器が、プロセスにおける使用前、使用中、又は使用後に振動、音響又はノッキングエネルギーを反応器に加えるメカニズムを備えている態様を提供する。このようなメカニズムは、これらを実施する方法と同様に当業者に知られており、これらのいずれを用いてもよい。これらの一例であるソニッククリーナーが米国特許第5,912,309号明細書に記載されている。この文献は、あらゆる目的のためにその全体を参照することにより、その教示内容が本発明の教示内容と矛盾しない範囲で本明細書中に組み込まれる。メカニズムがどのようなものであれ、これは、少なくとも1つの反応器管壁の少なくとも一部から、詰まりの少なくとも一部を除去できることが望ましい。
【0046】
反応器流出物の温度は、望ましくは迅速に、すなわち大量のこのような副生成物が形成される機会を得る前に下げられる。大まかに言うと、1,1,2,3−テトラクロロプロペンを製造するための典型的な反応の場合、反応器流出物の温度は、約5秒未満、又は約1秒未満で、350℃未満、又は約325℃未満まで冷却されるのが望ましい。別の言い方をすると、反応器流出物は少なくとも約15℃/秒、又は20℃/秒、又は約50℃/秒、又は約100℃/秒の速度で冷却されるのが望ましい。
【0047】
所望の速度でこれを行う好適な方法を用いて、所望の温度変化を達成することができ、そしていくつかの態様の場合、このことは液体急冷を介して実現することができる。このような態様の場合、急冷機能は、任意の好適な方法、例えば少なくとも1つのノズル、噴霧ノズル、又は堰型(weir)ノズルを介して温度調節流体を適用することによって発揮することができる。
【0048】
急冷機能で利用される温度調節流体は、所望の時間内で所望の温度を提供することができる任意の好適な流体となることができる。後で分離する必要がありひいてはプロセス費用を高くするさらなる成分がプロセスに添加されないように、温度調節流体は反応成分であると有利である。いくつかの態様の場合、急冷機能を発揮するために再循環反応生成物を利用してよく、そしてこの再循環反応生成物は、このように利用される前に例えば濾過を介して精製してよく、或いは精製しない形で利用してもよい。
【0049】
改善された設計概念のうちの1つ又は2つ以上を、連続気相フリーラジカルプロセスで使用するための反応器内に有利に使用することができ、そしてこれらの概念は、反応器内の、分解生成物を含む副生成物の生成を最小化すると予想される。例えば設計概念のうちのいずれか2つを使用してよく、設計概念のうちのいずれか3つを使用してよく、或いは設計概念のうちの4つ全てを使用してもよい。反応器が含むのが設計概念のうちの1つであるか、2つであるか、3つであるか、又は4つ全てであるかとは関係なしに、所望の生成物への高い選択率を維持しながら、反応器内部で行われる反応の転化率パーセントは所望の範囲を達成することができる。例えば、所望の生成物への選択率は>70%であるとともに転化率パーセントは少なくとも5%を超えることができる。
【0050】
このように、本発明の多管式反応器は、転化率パーセントの増大が典型的には反応副生成物生成量の増大、ひいては選択率パーセントの低下を示すような反応を実施するのに特に適している。このような反応は典型的には、枯渇とはほど遠い所望の転化率、例えば転化率80%未満、40%未満、又は20%未満を有する少なくとも1種の限定反応物を含んでいてもよい。別の言い方をすれば、少なくとも約5%、又は少なくとも10%、又は少なくとも約15%、又は少なくとも約20%である限定試薬転化率では、所望の生成物への選択率は、約70%、又は約75%、又は約80%、又は約85%以上もの高さであることが可能である。有利なことには、副生成物生成量を低減することにより、反応器管壁の詰まりを低減し、これにより反応器容量、ひいては反応収率を維持することもできる。
【0051】
本発明の反応器内で有利に実施することができる連続気相フリーラジカルプロセスの一例は、炭素原子数約3〜約6の塩素化及び/又はフッ素化アルケンを製造するプロセス、具体的には塩素を含む触媒/開始剤を用いるプロセスを含む。このような触媒及び所望の生成物は、熱感受性である可能性があり、分解するか又は望ましくない形で反応して反応器詰まりを招くことがある。さらに、1,1,2,3−テトラクロロプロペンを生成するための塩化メチルとペルクロロエチレンとの典型的な反応において、反応生成物それ自体は熱不安定であるだけではなく、さらに反応物及び反応副生成物と反応することによって他の副生成物をなおも形成しやすい。
【0052】
より具体的には、1,1,2,3−テトラクロロプロペンは、塩化メチル及びペルクロロエチレンと370℃で反応性であり、400℃〜500℃で熱不安定性であり、そして、その生成のためのコンベンショナルな反応条件、すなわち約500℃〜約750℃の温度で特に不安定である。続いて生じる望まれない反応及び/又は分解は、高濃度の不純物をもたらし、そして最終的にはより高い温度で熱コークス化を招く。連続供給型の工業用反応器の場合、コークス化は、時間とともに反応器生産能力のさらなる損失をもたらすことがよく知られており、しばしばクリーニング及びメンテナンスのために反応器を停止することを必要とする。本発明がそのように限定されているわけではないが、1,1,2,3−テトラクロロプロペンを製造するための反応、並びに同様の熱感受性を有する反応物、生成物、希釈剤、又は副生成物を含む他の同様の反応が、本明細書中に開示された原理を適用することから特定の利益を見いだすことができる反応の例である。
【0053】
少なくとも約5%、又は少なくとも10%、又は少なくとも約15%、又は少なくとも約20%の限定試薬転化率で、所望の生成物への選択率を約70%、又は約75%、又は約80%、又は約85%以上もの高さに維持する一方で、副生成物及び/又は分解生成物の生成を最小化しながら、本発明の反応器内でプロセスを実施することが可能になる。例えば、塩化メチルとペルクロロエチレンとから1,1,2,3−テトラクロロプロペンを生成する場合、限定試薬ペルクロロエチレンは、少なくとも5%で転化されると、90%の選択率で所望の生成物へ転化すると予想される。こうして、塩素化及び/又はフッ素化プロペン、並びにより高級なアルケン、例えば1,1,3,3−テトラクロロプロペン及び1,1,2−トリクロロ−3−フルオロプロペンを生成するための連続プロセスにおいて本発明の反応器を使用すると、時間及びコストを著しく節減することができる。
【0054】
本発明の反応器によって提供される効率はさらに、反応器内で生成された塩素化及び/又はフッ素化プロペン、並びにより高級なアルケンをさらなる下流プロセスへ提供することによって、さらに活用することができる。例えば、記載された反応器を使用して生成された1,1,2,3−テトラクロロプロペンを、ヒドロフルオロオレフィン、例えば2,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234yf)又は1,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234ze)を含む下流生成物をさらに提供するように処理することができる。ヒドロフルオロオレフィン、2,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234yf)又は1,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234ze)の改善された製造方法もこうしてここに提供される。
【0055】
ヒドロフルオロオレフィンを提供するための塩素化及び/又はフッ素化プロペン、並びにより高級なアルケンの転化は大まかに言えば、式:C(X)mCCl(Y)n(C)(X)mの化合物をフッ素化して、式:CF3CF=CHZの少なくとも1つの化合物にすることを伴う単独反応、又は2つ又は3つ以上の反応を含むことができる(式中、それぞれX,Y及びZは独立して、H,F,Cl,I又はBrであり、そしてそれぞれのmは独立して1,2又は3であり、そしてnは0又は1である)。より具体的な例は、1,1,2,3−テトラクロロプロペンの原料を触媒気相反応においてフッ素化することによって、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンのような化合物を形成する多工程プロセスを伴ってもよい。2−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロパンを次いで触媒気相反応を介して脱塩化水素することによって、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンにする。
【実施例】
【0056】
本発明を例証する目的で下記例を示す。ただしこれらの例は本発明を何らかの形で限定しようとするものではない。本発明の範囲に含まれる例の種々様々な代替形及び変更形が当業者には明らかである。
【0057】
例1(比較)
例1A(比較)
1インチ内径のHastelloy反応器を約450℃〜約480℃に加熱する。塩化メチル及びペルクロロエチレンの流れをそれぞれ約50ml/hr〜約150ml/hr、及び約180ml/hr〜約123ml/hrの液流で確立することにより、約10秒〜約23秒の滞留時間を達成する。
【0058】
液体供給材料を別々に蒸発させて予熱することにより供給ライン内で反応器温度と同じ温度にした後、反応器への供給前に1/2インチのライン内で混合した。反応器圧力を14.7psiaに設定する。1/2インチの供給ラインの後で、1インチ反応器の前区分(コンベンショナルな混合ゾーン)に、少なくとも近似栓流及び適正な混合を提供するために、深さ2インチのところにラッシング・リングを充填した。
【0059】
約3時間以内に約600℃のホットスポットが測定され、混合ゾーン内でグラファイトが形成され、これは反応器を塞いだ。コンベンショナルな混合領域(ここで1/2インチミキサが、ラッシング・リングを充填された1インチ整流器内に進入している)内に形成された温度、並びに逆混合流及び/又は再循環流プロフィールが、このゾーンに堆積される副生成物を生成する、望まれない反応を引き起こしたと思われる。
【0060】
この例はこうして、反応器内の逆混合及び/又は再循環の存在が、所望の生成物への極めて低い選択率、及びゼロに近い反応器生産力をもたらす。このことはこのプロセスを不経済にする。
【0061】
例1B
混合温度を325℃まで低下させた後、90%を上回る1,1,2,3−テトラクロロプロピレンへの選択率において少なくとも8%のペルクロロエチレン転化率で生成される、例1Aに基づく別の実験では、2インチの混合ゾーンを取り除き、そして反応器の供給ラインの入口から少なくとも6インチ離れた下流側に加熱ゾーンを動かす。この実験は、反応器への供給入口のすぐ後のゾーン内に副生成物及び炭素沈殿物が生成されるのを回避するための反応速度にとって325℃が十分に低い温度であることを示す。
【0062】
例2
下記のように所望の反応温度から少なくとも約20℃だけ逸脱した入口温度を用いる反応器を使用して、式:CH2-c-gClcg=CH1-d-hCldh−CH3-e-fClef(式中、cは0〜2であり、dは0〜1であり、eは0〜3であり、fは0〜3であり、そしてgは0〜2であるが、c+g≦2、d+h≦1、そしてe+f≦3である)を有する塩素化及び/又はフッ素化プロペンを調製する。約3000本のスケジュール40の内径1.5インチの60ft長の管をこの例において使用する。調製される所望の塩素化及び/又はフッ素化プロペンに依存する所望の供給材料を等温多管式反応器に提供する。入口の温度を制御し、且つ/又は供給材料の温度を制御することによって、所望の反応温度とは少なくとも約20℃だけ異なる温度で供給材料を提供する。375℃前後の反応温度近くに供給材料温度が上昇するのに伴って、選択率が低下することが予想される。
【0063】
【表1】

【0064】
例3
下記のように所望の反応温度から少なくとも約20℃だけ逸脱した入口温度を用いる反応器を使用して、式:CH2-c-gClcg=CH1-d-hCldh−CH3-e-fClef(式中、cは0〜2であり、dは0〜1であり、eは0〜3であり、fは0〜3であり、そしてgは0〜2であるが、c+g≦2、d+h≦1、そしてe+f≦3である)を有する塩素化及び/又はフッ素化プロペンを調製する。調製される所望の塩素化及び/又はフッ素化プロペンに依存する所望の供給材料を等温多管式反応器に提供する。入口の温度を制御し、且つ/又は供給材料の温度を制御することによって、所望の反応温度とは少なくとも約20℃だけ異なる温度で供給材料を提供する。
【0065】
【表2】

【0066】
例4
図2に示された反応器を使用して、下記表3に示された塩素化及び/又はフッ素化プロペンを調製する。より具体的には、式:CH4-a-bClabを有する供給材料を等温多管式反応器に提供することにより、式:CH2-c-gClcg=CH1-d-hCldh−CH3-e-fClef(式中、cは0〜2であり、dは0〜1であり、eは0〜3であり、fは0〜3であり、そしてgは0〜2であるが、c+g≦2、d+h≦1、そしてe+f≦3である)を有する塩素化及び/又はフッ素化プロペンを調製する。第1反応器ゾーン(図2の空間214)内で伝熱流体を使用して第1の所望の温度を維持し、そして第2反応器ゾーン内で同じか又は異なる伝熱流体を使用して第2の所望の温度を維持する。伝熱流体流は並流(CoC)又は向流(CC)であってよい。表に示すように、転化率%(%Conv)は著しく増大することはない。比較例において、反応器は1つのゾーンしか含まない。表3及び残りの表において、「Conv」は転化率を意味し、「Sel」は選択率を意味する。
【0067】
【表3】

【0068】
例5
それぞれ3500〜4500 SCCM、1400〜17000 SCCM、及び700〜980 SCCMの速度で、2インチ内径のInconel 600反応器に、塩化メチル、ペルクロロエチレン、及び四塩化炭素を供給することにより、260 psigにおいて約30〜40秒間の滞留時間を達成した。約410℃〜約420℃の反応器流出物を約10秒未満の滞留時間で約270℃〜約350℃の温度で冷却した後、約80℃未満の温度で内径0.5インチの冷却コイル内で凝縮する。約3.8%〜約5.0%の低いペルクロロエチレン転化率での1週間の実行時間後、反応器は冷却ゾーン内及び凝縮コイル内で重度に詰まることに起因する反応器出口の閉塞により停止させられる。冷却ゾーン及び凝縮コイルを液体急冷チャンバで置き換えることにより、2倍の限定試薬転化率で、2週間を上回る実行時間をもたらした。反応器を開いても、噴霧急冷チャンバ内に詰まりは見られない。
【0069】
このようにこの例は、生成物急冷ゾーンにおける詰まりを最小化するために、15℃/sを上回る急冷が必要とされることを示す。
【0070】
例6
反応器に対して操作可能に配置されたコレクタ内でさもなければ発生し得る逆混合を低減するように改変された反応器を使用して、塩素化及び/又はフッ素化プロペンを調製する。より具体的には、式:CH4-a-bClabを有する供給材料を等温多管式反応器に提供することにより、式:CH2-c-gClcg=CH1-d-hCldh−CH3-e-fClef(式中、cは0〜2であり、dは0〜1であり、eは0〜3であり、fは0〜3であり、そしてgは0〜2であるが、c+g≦2、d+h≦1、そしてe+f≦3である)を有する塩素化及び/又はフッ素化プロペンを調製する。コレクタは、反応器と同じ直径/形状を有するように改変し、いくつかの態様では、表4に示された急冷を施す。
【0071】
【表4】

【0072】
例7
表5に示されているように、速度勾配層内部の反応成分流を最適化するように改変された反応器を使用して、塩素化及び/又はフッ素化プロペンを調製する。より具体的には、式:CH4-a-bClabを有する供給材料を等温多管式反応器に提供することにより、式:CH2-c-gClcg=CH1-d-hCldh−CH3-e-fClef(式中、cは0〜2であり、dは0〜1であり、eは0〜3であり、fは0〜3であり、そしてgは0〜2であるが、c+g≦2、d+h≦1、そしてe+f≦3である)を有する塩素化及び/又はフッ素化プロペンを調製する。反応器内の全ての管への供給材料の混合及び分配を改善するために供給材料分配器を改変することによって、同じ限定試薬転化レベルにおいて選択率を改善することが予想される。同様に、表面粗さを低減し、ひいては副生成物及び詰まりの発生が予想される低速度/層状ゾーンの境界層厚を小さくするように、反応器管壁を前処理又は被覆しても、より良好な選択率が期待される。
【0073】
【表5】

【0074】
例8
例1〜4に従って調製された塩素化及び/又はフッ素化プロペンから、当業者に知られているいくつかの方法のうちのいずれかによって、ヒドロフルオロオレフィンを調製する。例えば、クロム/コバルト系触媒とともにHFを使用して、1,1,2,3−テトラクロロプロペンをHFO−1234yfに転化することは、国際公開第2008/054781号パンフレットに記載された方法に従って行うことができる。国際公開第2009/003084号パンフレットには、1,1,2,3−テトラクロロプロペンの原料を液相中で触媒なしで、続いて触媒気相反応においてフッ素化することによって、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)を形成する多工程プロセスが記載されている。このプロセスも好適である。米国特許出願公開第2009/0030244号明細書には、HCFC−1233xfを中間体として、HFによる触媒プロセスを用いて、1,1,2,3−テトラクロロプロペンを使用してHFO1234yfを生成することが記載されている。このプロセスを用いてもよい。最後に米国特許出願公開第2009/0099396号明細書には、HFC−245ebを中間体として、1,1,2,3−テトラクロロプロペンをHVと好適に液相触媒反応させ、続いて気相反応させることが記載されている。これらの特許明細書のそれぞれは、あらゆる目的のためにその全体を参照することによって、ここに組み込まれる。
【0075】
本発明の特定の特徴だけを例示して説明してきたが、当業者には数多くの改変形及び変更形が明らかであろう。従って言うまでもなく、添付の請求項は、本発明の真の思想の中に含まれるような改変形及び変更形全てに範囲が及ぶものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化及び/又はフッ素化アルカン、並びに塩素化及び/又はフッ素化アルケンの反応から、塩素化及び/又はフッ素化プロペン、並びにより高級なアルケンを製造するための連続気相フリーラジカル法で使用するのに適した、シェル内部に配置された複数の反応器管を含む等温多管式反応器であって、該反応器が、所望の反応温度よりも少なくとも20℃低い供給材料混合物入口温度を用いる、等温多管式反応器。
【請求項2】
該反応器が、副生成物生成を最小化する設計を含み、該反応器設計が、
i)該反応器への熱移動及び/又は該反応器からの熱移動を促進する設計;
ii)該反応器から出る時の逆混合の低減、及び/又は発生し得る逆混合中の副生成物形成の低減を促進する設計;
iii)該反応成分と、少なくとも1つの反応器管壁の少なくとも一部との間の境界のところでの反応成分流を最適化する設計;及び/又は
iv)反応器流出物の温度を、副生成物の実質的な形成が生じない温度未満に低下させるのを促進する設計
のうちの1つ又は2つ以上を含む、請求項1に記載の反応器。
【請求項3】
該反応器設計が、
i)該反応器への熱移動及び/又は該反応器からの熱移動を促進する設計;
ii)該反応器から出る時の逆混合の低減、及び/又は発生し得る逆混合中の副生成物形成の低減を促進する設計;
iii)該反応成分と、少なくとも1つの反応器管壁の少なくとも一部との間の境界のところでの反応成分流を最適化する設計;及び
iv)反応器流出物の温度を、副生成物の実質的な形成が生じない温度未満に低下させるのを促進する設計
を含む、請求項2に記載の反応器。
【請求項4】
該熱移動を促進する設計が、該反応器のシェル内部に、伝熱流体の並流を提供することを含む、請求項2に記載の反応器。
【請求項5】
該熱移動を促進する設計が、異なる温度をそれぞれの区分内部で維持することができるように、少なくとも2つの区分に仕切られた該シェルを含む、請求項2に記載の反応器。
【請求項6】
該逆混合の低減を促進する設計が、該反応器からの反応器流出物を受容するように構成され、そして逆混合を最小化するようにさらに構成されたコレクターを含む、請求項4に記載の反応器。
【請求項7】
請求項1に記載の反応器を使用して、式:CH2-c-gClcg=CH1-d-hCldh−CH3-e-fClef(式中、cは0〜2であり、dは0〜1であり、eは0〜3であり、fは0〜3であり、そしてgは0〜2であるが、c+g≦2、d+h≦1、そしてe+f≦3である)を有する塩素化及び/又はフッ素化プロペン、並びにより高級なアルケンを製造する方法。
【請求項8】
該塩素化及び/又はフッ素化アルカン、並びに塩素化及び/又はフッ素化アルケンが、式:CH4-a-bClab(式中、a及びbはそれぞれ独立して0〜3であり、そして4−a−bは0より大きい)を有するメタン、クロロメタン、フルオロメタン、又はクロロフルオロメタンを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法を用いて調製された塩素化及び/又はフッ素化プロペン/より高級なアルケンを利用して、下流生成物を調製する方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法によって調製された1,1,2,3−テトラクロロプロペンを2,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234yf)又は1,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234ze)に転化することを含む、2,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234yf)又は1,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234ze)を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−507393(P2013−507393A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533363(P2012−533363)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/052073
【国際公開番号】WO2011/044514
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】