等速自在継手
【課題】シール性の向上とブーツ破損寿命の向上を図ることができ、長期にわたって安定した使用が可能な等速自在継手を提供する。
【解決手段】継手内部にグリースが封入されるとともに、締め付けバンド70の締め付けにて装着されて継手内部を密封するブーツ65を備えた等速自在継手である。ブーツのバンド装着部に締め付けバンド嵌合用の周方向凹溝75(82)を設ける。グリースが、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなる。グリースを、シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値に設定した。グリースの混和安定度が330〜400であり、グリースの混和ちょう度が300〜370である。
【解決手段】継手内部にグリースが封入されるとともに、締め付けバンド70の締め付けにて装着されて継手内部を密封するブーツ65を備えた等速自在継手である。ブーツのバンド装着部に締め付けバンド嵌合用の周方向凹溝75(82)を設ける。グリースが、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなる。グリースを、シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値に設定した。グリースの混和安定度が330〜400であり、グリースの混和ちょう度が300〜370である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達系において使用される等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械における動力の伝達に用いられる等速自在継手には、継手内部への塵埃等の異物浸入防止や継手内部に封入されたグリースの漏れ防止を目的とし、蛇腹状のブーツが装着される。等速自在継手用ブーツの材料としては、シリコーン材、CR材(クロロプレン)、VAMAC材(エチレンアクリルゴム)、CM材(塩素化ポリエチレン)等が知られている。
【0003】
等速自在継手には、軸線方向の変位と作動角の変位とを許容する摺動式等速自在継手と、作動角の変位のみを許容する固定式等速自在継手とがある。例えば、摺動式等速自在継手であるトリポード型等速自在継手は、図15に示すように、外側継手部材1と、内側継手部材としてのトリポード部材2と、トルク伝達部材としてのローラ3を主要な構成要素としている。
【0004】
外側継手部材1はマウス部5と図示省略のステム部とからなる。マウス部5は反ステム部側に開口したカップ状で、その内径面に周方向に沿って120度ピッチで配設されるトラック溝6が形成される。
【0005】
トリポード部材2はボス8と脚軸9とからなる。ボス8にはシャフト10とトルク伝達可能に結合するスプラインまたはセレーション孔11が形成してある。脚軸9はボス8の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。トリポード部材2の各脚軸9は前記ローラ3を担持している。
【0006】
ブーツ15は、外側継手部材1に固定される大径部16と、トリポード部材2に連結されたシャフト10に固定される小径部17と、大径部16と小径部17との間に設けられる蛇腹部18とを有する。そして、大径部16と小径部17とはそれぞれブーツバンド20,20が装着されることによって固定される。なお、蛇腹部18は、山部18aと谷部18bとが交互に形成されてなる。
【0007】
外側継手部材1の外径面の開口側端部には、ブーツ嵌合凹部21が設けられ、このブーツ嵌合凹部21に大径部16の内径部が嵌合し、この状態で、ブーツバンド20が、大径部16の外径面に形成されたバンド嵌合用溝22に嵌合されて装着される。これによって、ブーツ15の大径部16が外側継手部材1に固定される。
【0008】
また、シャフト10には、トリポード部材2から所定量突出した位置に、周方向に沿ったブーツ取付用溝23を有するブーツ嵌合部24が設けられ、小径部17がブーツ嵌合部24に外嵌される。そして、ブーツ15の小径部17の外周面に形成された周方向凹溝25にブーツバンド20を嵌着することによって、小径部17をシャフト10に固定している。
【0009】
ブーツバンドとしては、いわゆるワンタッチバンド(特許文献1参照)と呼ばれるものがある。ワンタッチバンドと呼ばれるブーツバンド20は、図11に示すように、帯状の金属材からなるバンド部材30を輪状に湾曲させてその両端を重ね合わせた状態で結合したものである。バンド部材30の重ね合わせ部31の一方にレバー32を固着している。
【0010】
このブーツバンド20にて、ブーツ15の小径部17をシャフト10に装着するには、まず、輪状のバンド部材30を、ブーツ15の小径部17の周方向凹溝25に対して遊嵌状に外嵌し、この状態で、レバー32をてこ作用を利用して矢印Aのように折り返す。これによって、ブーツ15の小径部17の周方向凹溝25に嵌合されたバンド部材30が縮径してブーツ15の小径部17を締め付けることになる。なお、折り返されたレバー32は、その端部が重ね合わせ部31の近傍に配置される止め具33に係止される。
【0011】
また、従来には、前記特許文献1に記載の折り返しタイプのブーツバンドと異なり、折り返さないで締め付けるタイプのもの(特許文献2に記載のものや特許文献3に記載のもの)がある。
【0012】
特許文献2に記載のブーツバンド20は、図12(a)(b)に示すように、嵌合式帯状バンドで、帯状部材35をリング状に丸めてブーツ15のバンド装着部に外嵌して縮径させるものである。すなわち、帯状部材35は、図12(a)に示すように、リング状に丸めた際に、重ね合わせ部の外側となる部位に係止孔36が設けられ、重ね合わせ部の内側となる部位に突起37が設けられたものである。
【0013】
そして、突起37を内径側から図12(b)に示すように、係止孔36に係合させ、この状態で、周長を縮める力を作用させることになる。この縮める力を作用させる場合、重ね合わせ部の外側となる部位に設けられた断面矩形状の凸部からなる締め付け耳部38を塑性変形するものである。
【0014】
また、特許文献3に記載のものは、いわゆるオメガバンドと呼ばれるものであり、この場合も、図14に示すような帯状部材40をリング状に丸めてブーツ15のバンド装着部に外嵌して縮径させるものである。帯状部材40は、図13に示すように、リング状に丸めた際に、突起42を内径側から係止孔41に係合させ、外径側に膨出した凸部43の根元部分を矢印のように加締めてこの凸部43をΩ形状として、締め付け力を発生させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特公昭50−14702号公報
【特許文献2】特公平3−51925号公報
【特許文献3】特開2002−213484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記特許文献1のように、レバー32を使用するものでは、レバー32を倒すときバンド部材30側の端部が支点となり、支点と反対のバンド部材30側が主に縮径していくため緊迫力に不均一が生じやすい。また、組付け後にレバー32の支点部付近にスキマが生じる。更に、レバー32の曲がり強さの低下や支点部のバンド部材30の破損が容易に生じ易いため締め代が大きく取れない。このような課題があり、長期間使用しグリースが劣化し液状に軟化すると漏れる場合がある。
【0017】
前記特許文献2に記載のものは、前記特許文献1に記載のレバー式リング状バンドの課題を改善したものである。しかしながら、帯状部材35の重ね部内側の先端のブーツ15への食込みによる組込性の低下が生じる。また、この食込みに因り、バンドの緊迫力の不均一が生じ、漏れを完全に防止するに至っていない。
【0018】
さらに、特許文献3に記載のものは、剛性が高く肉厚が薄い樹脂ブーツを固定するのに多用されるものである。このため、前記特許文献1に記載のものや特許文献2に記載のものに比べてバンド部材30や帯状部材35の肉厚が厚くコスト高となる。また、肉厚が大であるので、重量が大であり、組み付け後においてバンド外周の径が大きくなっていた。すなわち、軽量化および小型化を図れなかった。しかも、凸部43の外径が大きく、このような等速自在継手を自動車等の車両に用いれば、走行中に凸部43が地面の草木や石と接触する確立が増加する。このような接触が生じれば、バンドがずれたり外れたりし、継手内部のグリースが外部へ漏れたり、ブーツが破損したりする。
【0019】
ところで、ブーツ内のグリースは、小径部側から漏れ易い。これは、小径部側は、小径であるため全周の緊迫力の不均一が生じ易いからである。また、地球環境問題から省資源化の意識が高まり、自動車は廃車までの使用期間が長くなり長期間に亘り使用される様になってきた。そのため、これまで以上にグリースの劣化が進み(軟化し)、増ちょう効果が低減し、ブーツから漏れ易くなってきている。従って、等速自在継手は、これまで以上の漏れ防止性能の向上が強く要求されている。このためには、シール性に影響するバンドやブーツ並びにグリースの単独の対策のみでは困難になってきている。
【0020】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、シール性の向上とブーツ破損寿命の向上を図ることができ、長期にわたって安定した使用が可能な等速自在継手を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の等速自在継手は、継手内部にグリースが封入されるとともに、締め付けバンドの締め付けにて装着されて継手内部を密封するブーツを備えた等速自在継手であって、ブーツのバンド装着部に締め付けバンド嵌合用の周方向凹溝を設け、かつ、前記グリースが、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなり、このグリースを、シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値に設定したものである。
【0022】
本発明の等速自在継手によれば、周方向凹溝を設けたことによって、バンド締め付け時のバンドのバンド装着部への食い込みを回避することができる。また、グリースを継手適正値に設定することによって、シール性の向上を図ることができるとともに、NVH特性が低下するのを防止できる。ここで、NVH特性とは、車の快適性を表す三大要素である「Noise(騒音)」、「Vibration(振動)」および「Harshness(乗り心地)」のことをいう。
【0023】
前記継手適正値を得るにはグリースの混和安定度を330〜400とするのが好ましい。混和安定度が330未満では、NVH特性の介入性の低下により摩擦係数が増加し、等速自在継手のNVH特性が低下する。混和安定度が400を超えるとシール性が低下するおそれがある。また、前記継手適正値を得るにはグリースの混和ちょう度を300〜370とするのが好ましい。混和ちょう度が300未満では、グリースの流動性が低下し、グリースの封入性が悪化する。混和ちょう度が370を超えると、シール性が低下するおそれがある。
【0024】
締め付けバンドは、帯状部材をリング状に丸めてブーツのバンド装着部に外嵌し、その端部の重ね合わせ部において、その外側となる部位に内側となる部位が嵌合する嵌合部を設けることができる。このように、嵌合部を設けることによって、締め付けバンドの重ね合わせ部の内径面側に段差を無くすか段差を小さくできる。
【0025】
締め付けバンドは、帯状部材をリング状に丸めてブーツのバンド装着部に外嵌し、その端部の重ね合わせ部において、内側となる部位に、肉厚が端部に向かって薄くなるとともに幅寸法が端部に向かって小さくなる先尖状部を設けてもよい。先尖状部を設けることによって、バンド装着部に対するバンドの滑らかな縮径を許容することができる。
【0026】
前記周方向凹溝の底部に、前記重なり部の内側のガイドとなる凹部を設けたものであってもよい。これによって、このバンドは、重ね合わせ部の内径側がこの凹部に案内されながら縮径されることになる。
【0027】
ブーツのバンド装着部には外径方向に延びる延設部が連設され、周方向凹溝にバンドが装着された状態で、周方向凹溝の延設部側の立ち上がり壁面とバンドとの間に隙間が設けられるものであってもよい。このように隙間を設けることによって、周方向凹溝の延設部側の溝底隅部とバンドの干渉を防止できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の等速自在継手では、バンド締め付け時のバンドのバンド装着部への食い込みを回避することができ、ブーツの損傷等を防止でき、しかも、グリースを継手適正値に設定することによって、シール性の向上を図ることができるとともに、NVH特性が低下するのを防止できる。すなわち、シール性の向上及びブーツ破損寿命の向上を図ることができ、このような等速自在継手を使用した自動車等の寿命が向上する。しかも等速自在継手の交換やメンテナンスの時期を長期間とすることができ、さらには、補修部品を削減することができ、この削減によって、省資源化に貢献できる。
【0029】
グリースの混和安定度を330〜400に設定することによって、安定したシール性及びNVH特性を発揮することができる。また、グリースの混和ちょう度を300以上とすることによって、グリースの流動性を確保でき、封入しやすいグリースとすることができる。グリースの混和ちょう度を370以下とすることによって、より優れたシール性を発揮できる。
【0030】
バンドの重ね合わせ部において嵌合部を設けることによって、締め付けバンドの重ね合わせ部の内径面側に段差を無くすか段差を小さくでき、バンドは安定した締め付け力を発揮して、ブーツは優れたシール性を発揮することができる。
【0031】
重ね合わせ部において、先尖状部を設けることによって、バンド装着部に対するバンドの滑らかな縮径を許容することができ、取付作業性に優れる。
【0032】
周方向凹溝を、底部に凹部が設けられた2段構造とすることによって、この凹部に重ね合わせ部の内径部が嵌入することになって、ブーツへの食い込みを防止できて、均一な緊迫力が作用し、濡れ性を大幅に改善できる。
【0033】
周方向凹溝の延設部側の立ち上がり壁面とバンドとの間に隙間を設けることによって、
周方向凹溝の延設部側の溝底隅部とバンドの干渉を防止できる。このため、このようなブーツを締め付けバンドにて締め付けて装着すれば、等速自在継手の動作による溝底隅部の応力集中を緩和でき、溝底隅部の破断(き裂)を有効に防止でき、ブーツの破断寿命とシール性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態を示す等速自在継手の断面図である。
【図2】前記等速自在継手に装着されるブーツの断面図である。
【図3】前記装着状態のブーツの小径部の拡大断面図である。
【図4】バンドの重ね合わせ部の拡大断面図である。
【図5】バンドを構成する帯状部材の平面図である。
【図6】前記帯状部材をリング状に丸めた状態の側面図である。
【図7】前記帯状部材をリング状に丸めた状態の要部拡大側面図である。
【図8】ちょう度とシール特性との関係を示すグラフ図である。
【図9】バンドの重ね合わせ部の内径側の端部を示し、(a)は拡大平面図であり、(b)は拡大側面図である。
【図10】他のバンドの重ね合わせ部の拡大断面図である。
【図11】従来のブーツバンドの装着前の側面図である。
【図12】従来の他のブーツバンドを示し、(a)は装着前の側面図であり、(b)は装着状態の側面図である。
【図13】従来の別のブーツバンドの側面図である。
【図14】前記図13のブーツバンドの帯状部材の平面図である。
【図15】従来のブーツバンドにて締め付けられたブーツを用いた等速自在継手の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0036】
図1は本発明にかかる等速自在継手を示し、この等速自在継手は、トリポードタイプの摺動型等速自在継手である。この等速自在継手は、外側継手部材51と、内側継手部材としてのトリポード部材52と、トルク伝達部材としてのローラ53を主要な構成要素としている。
【0037】
外側継手部材51はマウス部55と図示省略のステム部とからなる。マウス部55は反ステム部側に開口したカップ状で、その内径面に周方向に沿って120度ピッチで配設されるトラック溝56が形成される。
【0038】
トリポード部材52はボス58と脚軸59とからなる。ボス58の内径面には、雌スプライン61が形成してある。そして、このボス58の内径面に、シャフト60の端部雄スプライン62が嵌入され、シャフト60の雄スプライン62とボス58の雌スプライン61とが嵌合する。また、脚軸59はボス58の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。トリポード部材52の各脚軸59は前記ローラ53を担持している。
【0039】
この場合のローラ53はいわゆるダブルローラタイプであって、内側ローラ53aと、外側ローラ53bと、内側ローラ53aと外側ローラ53bとの間に介在される針状ころ53cとを備える。なお、ローラ53としては、内側ローラと外側ローラとの2つのローラを有さないシングルローラタイプであってもよい。
【0040】
外側継手部材51の開口部はブーツ65にて塞がれる。ブーツ65は、図1と図2に示すように、外側継手部材51に固定される大径部66と、トリポード部材52に連結されたシャフト60に固定される小径部67と、大径部66と小径部67との間に設けられる蛇腹部68とを有する。そして、大径部66と小径部67とはそれぞれブーツバンド70が装着されることによって固定される。なお、蛇腹部68は、山部68aと谷部68bとが交互に形成されてなる。
【0041】
ブーツ65はシリコーンにて形成される。シリコーンは、シロキサン結合を骨格とした高分子有機化合物(ポリマー)の総称である。シリコーンは無色・無臭で撥水性があり、重合度などの違いによりグリース、ワックス、オイル、ゴム(エラストマー)、ゲルなどの形態の製品が提供される。いずれも、相当する炭素骨格ポリマーに比べて耐油性・耐酸化性・耐熱性が高く、不導体である。
【0042】
シャフト60には、トリポード部材2から所定量突出した位置に、周方向に沿ったブーツ取付用溝73を有するブーツ装着部74が設けられ、図3等に示すように、小径部67がブーツ装着部74に外嵌される。この場合、小径部67は、その内径面にブーツ装着部74のブーツ取付用溝73に嵌合する突隆部80が設けられるとともに、その外径面にバンド70が嵌合する周方向凹溝75が設けられている。
【0043】
外側継手部材51の外径面の開口側にブーツ嵌合凹部(装着部)83が設けられる。また、大径部66は、その内径面にブーツ嵌合凹部83に嵌合する膨出部84が設けられるとともに、その外径面にバンド70が嵌合する前記周方向凹溝82が設けられている。
【0044】
ブーツバンド70は、図5に示すような帯状部材90を、図6と図7に示すリング状に丸めてブーツ65のバンド装着部(大径部66又は小径部67)に外嵌し、このバンド装着部を締め付けるものである。帯状部材90は、その一端側に幅狭部96が形成され、その他端側には、長孔からなる孔部93aと矩形孔となる孔部93bとが形成されている。孔部93aの反矩形孔側に端部に表て面側に突出する突起部98が設けられている。また、幅狭部96側には、表て面側に突出する突起部92a、92b、92c、92d、92eが形成されている。さらに突起部98には、表て面側に膨出する膨出部97が形成されている。この膨出部97を形成することによって、裏面側に開口する凹窪部が形成され、この凹窪部にて後述する嵌合部95を構成することができる。
【0045】
この帯状部材90からなるブーツバンド70にて、ブーツ65のバンド装着部(大径部66又は小径部67)を締め付ける場合、内径側となる部位に突起部92a、92b、92c、92d、92eが形成されるとともに、外径側となる部位に孔部93a,93bが設けられるようにリング状に丸められる。
【0046】
この際、まず、突起部92aを長孔である孔部93aに嵌合させる。そして、突起部92aと突起部98とを、図示省略の工具にて相互に接近させることによって、このリングを縮径させる。縮径させた状態において、突起部92eを孔部93bに係合(嵌合)するとともに、他の突起部92b、92c、92dを孔部93aに嵌合する。これによって、縮径状態が維持され、ブーツ65のバンド装着部を締め付けることができる。
【0047】
ところで、リング状に丸めた際に、重ね合わせ部91が形成され、この重ね合わせ部91において、その外径側となる部位に内径側となる部位が嵌合する嵌合部95が設けられる。すなわち、幅狭部96に対応する外径側に部位に外径側へ膨出する膨出部97を設けることによって、幅狭部96に対応する外径側に部位の内径面に凹窪部からなる嵌合部95を形成する。
【0048】
このブーツバンド70では、帯状部材90をリング状に丸めた状態において、ブーツ65の小径部67の周方向凹溝75に装着して、縮径させることによって、ブーツ65の小径部67をシャフト60のブーツ装着部74に取り付けることができる。また、帯状部材90をリング状に丸めた状態において、ブーツ65の大径部66の周方向凹溝82に装着して、縮径させることによって、ブーツ65の大径部66を外側継手部材51のブーツ装着部83に取り付けることができる。そして、締め付け状態において、内径側の幅狭部96が外径側の嵌合部95に嵌合することになる。このため、このバンド70の内径面に段差部が形成されない。
【0049】
周方向凹溝75における重ね合わせ部91に対応する部位には、図4に示すように、幅狭部96が嵌合可能な凹部100が設けられるものでもよう。すなわち、重ね合わせ部91に対応する部位は、周方向凹溝75を、底部に前記凹部100が設けられた2段構造としている。
【0050】
ところで、継手内部にはグリースが封入されるが、グリースとしては、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなるものである。基油に関しては特に限定するものではない。鉱物油、合成油(エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油)等の普通に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。経済的には、鉱油が望ましいが、耐熱性を考慮し合成油を使用しても良い。
【0051】
増ちょう剤としては、ウレア系増ちょう剤が望ましい。ウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジウレア化合物、ポリウレア化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。
【0052】
添加剤として、固体潤滑剤である二硫化モリブデンMoS2を添加した。また、メラミンシアヌレート(MCA)を単独又は併用しても良い。さらに、等速自在継手用のグリースは、一般的に、摩擦係数を低減するため摩擦調整剤として、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)やジンクジチオカーバメート(ZnDTC)、ジンクジチオホスフェート(ZnDTP)などを単独又は併用添加されるものであってもよい。また、極圧添加剤としてS(硫黄)系極圧添加剤を使用することができる。そのほかに、P(燐)系やS−P系の極圧添加剤を使用しても良い。更に、分散剤(アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩など)、油性剤(ヒマシ油、大豆油、ナタネ油、ヤシ油、など)酸化防止剤、防錆剤、防食剤等を使用しても良く、いずれも添加量は数%以下である。
【0053】
ところで、シール性を向上させるためには、関連する各部品を統合的に対策する必要がある。漏れを完全に防止するためには、グリースとシール部構造の両面からの検討が必要で、漏れ難いグリース、漏らさないシール構造の統合的対策が肝要である。ブーツとバンドの両面からの改良による全周の緊迫力の均一化やすきまの減少に因る漏れの防止、更に、使用中劣化し液状になったグリースの漏れを前述のバンドとブーツのみの対策だけで完全に防止することが困難となってきている。そのためグリース側での対策も必須となってきておりグリースの流動性の抑制が重要となってきている。
【0054】
グリースのシール性を決定する主要因は、流動性の指標であるちょう度の特性である。このちょう度について鋭意調査したところ、初期(新品の)の混和ちょう度(JIS K 2220)の特性も重要であるが、長期間の使用後のちょう度に相当する105回かき混ぜた後のちょう度である混和安定度(JIS K 2220)が大きく影響することが判った。
【0055】
しかし、このちょう度は、グリースの潤滑面への介入性に大きく影響し、等速ジョイントのような混合潤滑状態の潤滑面の摩擦係数に大きく影響する。したがって、シール性の観点からは、ちょう度が低い方(流動し難い)が好ましく、潤滑面への介入性からはちょう度は高い(流動し易い)方が好ましい。したがって、混和安定度に適正値があることを見出した。適正値は330以上で400以下が適正である。330未満では介入性の低下により摩擦係数が増加し、等速ジョイントのNVH特性が著しく低下する。105回混和ちょう度が400を超えるとシール性が著しく低下する。すなわち、ちょう度とシール性との関係は図8に示すようになる。
【0056】
初期ちょう度は、グリースを等速ジョイント内に封入するときの作業性に大きく影響すると共にシール性にも影響する。混和安定度より低く作業性を悪化させないことより、300以上で370以下のちょう度とした。300未満を切ると流動性が著しく低下し、封入の作業性が著しく悪化する。370を超えると混和安定度が増加しシール性を著しく低下させる。
【0057】
増ちょう剤の種類は、等速自在継手では滑りと転がりが混在し発熱するため耐熱性の観点からウレア系増ちょう剤とする。このちょう度は、増ちょう剤の添加量を調整することにより容易に製造できる。好ましくは、3以上で20以下重量%が好ましい。3%未満では、必要なちょう度を確保できない。20%を超えると流動性が著しく低下する。
【0058】
本発明では、バンド嵌合用の周方向凹溝を設けたことによって、バンド締め付け時のバンドのバンド装着部への食い込みを回避することができ、ブーツの損傷等を防止できる。また、グリースを継手適正値に設定することによって、シール性の向上を図ることができるとともに、NVH特性が低下するのを防止できる。ここで、NVH特性とは、車の快適性を表す三大要素である「Noise(騒音)」、「Vibration(振動)」および「Harshness(乗り心地)」のことをいう。
【0059】
このように、本発明では、シール性の向上及びブーツ破損寿命の向上を図ることができ、このような等速自在継手を使用した自動車等の寿命が向上する。しかも等速自在継手の交換やメンテナンスの時期を長期間とすることができ、さらには、補修部品の削減することができ、この削減によって、省資源化に貢献できる。
【0060】
グリースの混和安定度を330〜400に設定することによって、安定したシール性及びNVH特性を発揮することができる。また、グリースの混和ちょう度を300以上とすることによって、グリースの流動性を確保でき、封入しやすいグリースとすることができる。グリースの混和ちょう度を370以下とすることによって、より優れたシール性を発揮できる。
【0061】
締め付けバンド70の重ね合わせ部において嵌合部95を設けることによって、バンド70の重ね合わせ部の内径面側に段差を無くすか段差を小さくでき、バンドは安定した締め付け力を発揮して、ブーツは優れたシール性を発揮することができる。
【0062】
周方向凹溝75を、底部に凹部100が設けられた2段構造とすることによって、凹部100に重ね合わせ部の内径部が嵌入することになって、ブーツへの食い込みを防止できて、均一な緊迫力が作用し、濡れ性を大幅に改善できる。
【0063】
ところで、帯状部材90の幅狭部96の先端部を、図9(a)(b)に示すように、肉厚Tが端部に向かって薄くなるとともに幅寸法Wが端部に向かって小さくなる先尖状部101としてもよい。このように、先尖状部101を設けることによって、バンド装着部に対するバンドの滑らかな縮径を許容することができる。
【0064】
ところで、図10に示すように、ブーツ65は、バンド装着部を構成する小径部67には蛇腹部68が連設される。すなわち、小径部67には外径方向に延びる延設部105が連設されることになる。そこで、周方向凹溝75にバンド70が装着された状態で、周方向凹溝75の延設部105側の立ち上がり壁面75aとバンドと70の間に隙間Cを設けるようにするのが好ましい。
【0065】
このような隙間Cを設けることによって、蛇腹部68側(延設部105側)の溝隅部とバンドとの干渉を防止でき、蛇腹部68の運動による溝隅部の応力集中を緩和できる。このため、この溝隅部におけるき裂を防止し、ブーツ65の破断寿命とシール性の向上を図ることができる。なお、この隙間Cの大きさとしては、ブーツ65のバンド装着部の強度が低下しない範囲で種々変更できる。
【0066】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、等速自在継手として、前記実施形態では、トリポード型等速自在継手であったが、ダブルオフセット型やクロスグルーブ型等の他の摺動式等速自在継手であっても、ツェッパ型やアンダーカットフリー型の固定式等速自在継手であってもよい。
【実施例1】
【0067】
図1に示す等速自在継手(TJ)に以下のような配合のグリースを封入して、次の表1に示すシール性評価の試験と、表2に示すNVH評価の試験とを行う。この試験においては、ブーツとしてCRブーツを用い、ブーツバンドとして、図11に示すレバー式バンドを用いた。
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
グリースは、増ちょう剤の配合が表3の各比較品1,2と各実施品1,2に示すベースグリースに、表4の各比較品1,2と各実施品1,2に示す添加剤を添加してなるものを用いる。すなわち、各グリースは、鉱油(100℃での動粘度が13.5mm2/sec)200g中で、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートとオクチルアミンとステアリルアミンを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、表4に示す配合で添加剤を添加し、得られる化合物を三段ロールミルにて混和安定度(JIS K 2220)になるよう最終調整した。
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
そして、図1に示す等速自在継手に各グリースを封入して、前記表1に示すシール性評価の試験と、表2に示すNVH評価の試験とを行う。この試験においては、前記表4での試験結果において、○は合格を示し、×は不合格を示している。前記表4に示すように、混和安定度が333であり混和ちょう度が302である実施品1と混和安定度が395であり混和ちょう度が369である実施品2とは総合評価で合格であった。このことから、混和安定度が330〜400であれば、グリースにおける継手適正値(シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値)であり、混和ちょう度が300〜370であれば、グリースにおける継手適正値(シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値)であることが分かる。
【実施例2】
【0072】
増ちょう剤の配合が表5の各比較品3,4と各実施品3,4に示すベースグリースに、表6の各比較品3,4と各実施品3,4に示す添加剤を添加してなるグリースを用いる。
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
潤滑グリースは、鉱油(100℃での動粘度が13.5mm2/sec)2000g中で、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートとステアリルアミンとシクロヘキシルアミンを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。
このベースグリースに、表6に示す配合で添加剤を添加し、得られる化合物を三段ロールミルにて混和安定度に調整した。添加剤の配合は、前記実施例1と同様である。
【0075】
そして、図1に示す等速自在継手に各グリースを封入して、前記表1に示すシール性評価の試験と、前記表2に示すNVH評価の試験とを行う。この試験においては、前記表2に示すように、ブーツとしてCRブーツを用い、ブーツバンドとして、図11に示すレバー式バンドを用いた。前記表6での試験結果において、○は合格を示し、×は不合格を示している。
【0076】
前記表6に示すように、混和安定度が331であり混和ちょう度が300である実施品3と混和安定度が398であり混和ちょう度が368である実施品4とは総合評価で合格であった。このことから、混和安定度が330〜400であれば、グリースにおける継手適正値(シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値)であり、混和ちょう度が300〜370であれば、グリースにおける継手適正値(シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値)であることが分かる。
【実施例3】
【0077】
表7に示すように、前記実施品3や実施品4に示す配合のグリースにおいて混和ちょう度(60W 25℃)を302とし、105回混和ちょう度(混和安定度)を333としたグリースを用いた等速自在継手について、シール性評価試験と、ブーツ耐久性試験とを行った。実施品5がAタイプ(ブーツバンドにレバー式バンドを用いたもの)であり、実施品6がBタイプ(図5に示すブーツバンドを用いたもの)であり、実施品7がCタイプ(図9に示すように先尖状部を有するブーツバンドを用いたもの)であり、実施品8がDタイプ(図9に示すブーツバンドと、図4に示すように、底部に凹部が設けられた2段構造の周方向凹溝が形成されたブーツとを用いたもの)であり、実施品9がブーツバンドに前記Aタイプのものを用い、ブーツに図10に示すように、隙間Cが設けられるものを用いた。
【表7】
【0078】
シール性評価試験は、前記表3のシール性評価の試験を行い、ブーツ耐久性試験としては、次の表8に示す耐久性試験を行った。すなわち、表8に示す条件下でブーツの周方向凹溝において破断するまで運転を行った。
【表8】
【0079】
表7から分かるように、シール性評価として、Aタイプである実施品5が100時間であり、Bタイプである実施品6及び実施品9が400時間であり、Cタイプである実施品7が490時間であり、Dタイプである実施品8が600時間であった。また、ブーツの耐久性の評価を行った実施品6及び実施品9において、実施品6が20時間で破断し、実施品9が250時間で破断した。
【0080】
シール性評価から、実施品6と実施品7と実施品8と実施品9とが好ましいことが分かる。また、ブーツの耐久性評価から、実施品9が好ましいことが分かる。すなわち、ブーツバンドとして、図5に示すように、嵌合タイプのものを用い、また、ブーツの周方向凹溝として、2段構造のものが好ましい。
【符号の説明】
【0081】
65 ブーツ
70 ブーツバンド
75 周方向凹溝
82 周方向凹溝
90 帯状部材
91 重ね合わせ部
92 係止部
95 嵌合部
96 幅狭部
100 凹部
101 先尖状部
105 延設部
C 隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達系において使用される等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械における動力の伝達に用いられる等速自在継手には、継手内部への塵埃等の異物浸入防止や継手内部に封入されたグリースの漏れ防止を目的とし、蛇腹状のブーツが装着される。等速自在継手用ブーツの材料としては、シリコーン材、CR材(クロロプレン)、VAMAC材(エチレンアクリルゴム)、CM材(塩素化ポリエチレン)等が知られている。
【0003】
等速自在継手には、軸線方向の変位と作動角の変位とを許容する摺動式等速自在継手と、作動角の変位のみを許容する固定式等速自在継手とがある。例えば、摺動式等速自在継手であるトリポード型等速自在継手は、図15に示すように、外側継手部材1と、内側継手部材としてのトリポード部材2と、トルク伝達部材としてのローラ3を主要な構成要素としている。
【0004】
外側継手部材1はマウス部5と図示省略のステム部とからなる。マウス部5は反ステム部側に開口したカップ状で、その内径面に周方向に沿って120度ピッチで配設されるトラック溝6が形成される。
【0005】
トリポード部材2はボス8と脚軸9とからなる。ボス8にはシャフト10とトルク伝達可能に結合するスプラインまたはセレーション孔11が形成してある。脚軸9はボス8の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。トリポード部材2の各脚軸9は前記ローラ3を担持している。
【0006】
ブーツ15は、外側継手部材1に固定される大径部16と、トリポード部材2に連結されたシャフト10に固定される小径部17と、大径部16と小径部17との間に設けられる蛇腹部18とを有する。そして、大径部16と小径部17とはそれぞれブーツバンド20,20が装着されることによって固定される。なお、蛇腹部18は、山部18aと谷部18bとが交互に形成されてなる。
【0007】
外側継手部材1の外径面の開口側端部には、ブーツ嵌合凹部21が設けられ、このブーツ嵌合凹部21に大径部16の内径部が嵌合し、この状態で、ブーツバンド20が、大径部16の外径面に形成されたバンド嵌合用溝22に嵌合されて装着される。これによって、ブーツ15の大径部16が外側継手部材1に固定される。
【0008】
また、シャフト10には、トリポード部材2から所定量突出した位置に、周方向に沿ったブーツ取付用溝23を有するブーツ嵌合部24が設けられ、小径部17がブーツ嵌合部24に外嵌される。そして、ブーツ15の小径部17の外周面に形成された周方向凹溝25にブーツバンド20を嵌着することによって、小径部17をシャフト10に固定している。
【0009】
ブーツバンドとしては、いわゆるワンタッチバンド(特許文献1参照)と呼ばれるものがある。ワンタッチバンドと呼ばれるブーツバンド20は、図11に示すように、帯状の金属材からなるバンド部材30を輪状に湾曲させてその両端を重ね合わせた状態で結合したものである。バンド部材30の重ね合わせ部31の一方にレバー32を固着している。
【0010】
このブーツバンド20にて、ブーツ15の小径部17をシャフト10に装着するには、まず、輪状のバンド部材30を、ブーツ15の小径部17の周方向凹溝25に対して遊嵌状に外嵌し、この状態で、レバー32をてこ作用を利用して矢印Aのように折り返す。これによって、ブーツ15の小径部17の周方向凹溝25に嵌合されたバンド部材30が縮径してブーツ15の小径部17を締め付けることになる。なお、折り返されたレバー32は、その端部が重ね合わせ部31の近傍に配置される止め具33に係止される。
【0011】
また、従来には、前記特許文献1に記載の折り返しタイプのブーツバンドと異なり、折り返さないで締め付けるタイプのもの(特許文献2に記載のものや特許文献3に記載のもの)がある。
【0012】
特許文献2に記載のブーツバンド20は、図12(a)(b)に示すように、嵌合式帯状バンドで、帯状部材35をリング状に丸めてブーツ15のバンド装着部に外嵌して縮径させるものである。すなわち、帯状部材35は、図12(a)に示すように、リング状に丸めた際に、重ね合わせ部の外側となる部位に係止孔36が設けられ、重ね合わせ部の内側となる部位に突起37が設けられたものである。
【0013】
そして、突起37を内径側から図12(b)に示すように、係止孔36に係合させ、この状態で、周長を縮める力を作用させることになる。この縮める力を作用させる場合、重ね合わせ部の外側となる部位に設けられた断面矩形状の凸部からなる締め付け耳部38を塑性変形するものである。
【0014】
また、特許文献3に記載のものは、いわゆるオメガバンドと呼ばれるものであり、この場合も、図14に示すような帯状部材40をリング状に丸めてブーツ15のバンド装着部に外嵌して縮径させるものである。帯状部材40は、図13に示すように、リング状に丸めた際に、突起42を内径側から係止孔41に係合させ、外径側に膨出した凸部43の根元部分を矢印のように加締めてこの凸部43をΩ形状として、締め付け力を発生させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特公昭50−14702号公報
【特許文献2】特公平3−51925号公報
【特許文献3】特開2002−213484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記特許文献1のように、レバー32を使用するものでは、レバー32を倒すときバンド部材30側の端部が支点となり、支点と反対のバンド部材30側が主に縮径していくため緊迫力に不均一が生じやすい。また、組付け後にレバー32の支点部付近にスキマが生じる。更に、レバー32の曲がり強さの低下や支点部のバンド部材30の破損が容易に生じ易いため締め代が大きく取れない。このような課題があり、長期間使用しグリースが劣化し液状に軟化すると漏れる場合がある。
【0017】
前記特許文献2に記載のものは、前記特許文献1に記載のレバー式リング状バンドの課題を改善したものである。しかしながら、帯状部材35の重ね部内側の先端のブーツ15への食込みによる組込性の低下が生じる。また、この食込みに因り、バンドの緊迫力の不均一が生じ、漏れを完全に防止するに至っていない。
【0018】
さらに、特許文献3に記載のものは、剛性が高く肉厚が薄い樹脂ブーツを固定するのに多用されるものである。このため、前記特許文献1に記載のものや特許文献2に記載のものに比べてバンド部材30や帯状部材35の肉厚が厚くコスト高となる。また、肉厚が大であるので、重量が大であり、組み付け後においてバンド外周の径が大きくなっていた。すなわち、軽量化および小型化を図れなかった。しかも、凸部43の外径が大きく、このような等速自在継手を自動車等の車両に用いれば、走行中に凸部43が地面の草木や石と接触する確立が増加する。このような接触が生じれば、バンドがずれたり外れたりし、継手内部のグリースが外部へ漏れたり、ブーツが破損したりする。
【0019】
ところで、ブーツ内のグリースは、小径部側から漏れ易い。これは、小径部側は、小径であるため全周の緊迫力の不均一が生じ易いからである。また、地球環境問題から省資源化の意識が高まり、自動車は廃車までの使用期間が長くなり長期間に亘り使用される様になってきた。そのため、これまで以上にグリースの劣化が進み(軟化し)、増ちょう効果が低減し、ブーツから漏れ易くなってきている。従って、等速自在継手は、これまで以上の漏れ防止性能の向上が強く要求されている。このためには、シール性に影響するバンドやブーツ並びにグリースの単独の対策のみでは困難になってきている。
【0020】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、シール性の向上とブーツ破損寿命の向上を図ることができ、長期にわたって安定した使用が可能な等速自在継手を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の等速自在継手は、継手内部にグリースが封入されるとともに、締め付けバンドの締め付けにて装着されて継手内部を密封するブーツを備えた等速自在継手であって、ブーツのバンド装着部に締め付けバンド嵌合用の周方向凹溝を設け、かつ、前記グリースが、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなり、このグリースを、シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値に設定したものである。
【0022】
本発明の等速自在継手によれば、周方向凹溝を設けたことによって、バンド締め付け時のバンドのバンド装着部への食い込みを回避することができる。また、グリースを継手適正値に設定することによって、シール性の向上を図ることができるとともに、NVH特性が低下するのを防止できる。ここで、NVH特性とは、車の快適性を表す三大要素である「Noise(騒音)」、「Vibration(振動)」および「Harshness(乗り心地)」のことをいう。
【0023】
前記継手適正値を得るにはグリースの混和安定度を330〜400とするのが好ましい。混和安定度が330未満では、NVH特性の介入性の低下により摩擦係数が増加し、等速自在継手のNVH特性が低下する。混和安定度が400を超えるとシール性が低下するおそれがある。また、前記継手適正値を得るにはグリースの混和ちょう度を300〜370とするのが好ましい。混和ちょう度が300未満では、グリースの流動性が低下し、グリースの封入性が悪化する。混和ちょう度が370を超えると、シール性が低下するおそれがある。
【0024】
締め付けバンドは、帯状部材をリング状に丸めてブーツのバンド装着部に外嵌し、その端部の重ね合わせ部において、その外側となる部位に内側となる部位が嵌合する嵌合部を設けることができる。このように、嵌合部を設けることによって、締め付けバンドの重ね合わせ部の内径面側に段差を無くすか段差を小さくできる。
【0025】
締め付けバンドは、帯状部材をリング状に丸めてブーツのバンド装着部に外嵌し、その端部の重ね合わせ部において、内側となる部位に、肉厚が端部に向かって薄くなるとともに幅寸法が端部に向かって小さくなる先尖状部を設けてもよい。先尖状部を設けることによって、バンド装着部に対するバンドの滑らかな縮径を許容することができる。
【0026】
前記周方向凹溝の底部に、前記重なり部の内側のガイドとなる凹部を設けたものであってもよい。これによって、このバンドは、重ね合わせ部の内径側がこの凹部に案内されながら縮径されることになる。
【0027】
ブーツのバンド装着部には外径方向に延びる延設部が連設され、周方向凹溝にバンドが装着された状態で、周方向凹溝の延設部側の立ち上がり壁面とバンドとの間に隙間が設けられるものであってもよい。このように隙間を設けることによって、周方向凹溝の延設部側の溝底隅部とバンドの干渉を防止できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の等速自在継手では、バンド締め付け時のバンドのバンド装着部への食い込みを回避することができ、ブーツの損傷等を防止でき、しかも、グリースを継手適正値に設定することによって、シール性の向上を図ることができるとともに、NVH特性が低下するのを防止できる。すなわち、シール性の向上及びブーツ破損寿命の向上を図ることができ、このような等速自在継手を使用した自動車等の寿命が向上する。しかも等速自在継手の交換やメンテナンスの時期を長期間とすることができ、さらには、補修部品を削減することができ、この削減によって、省資源化に貢献できる。
【0029】
グリースの混和安定度を330〜400に設定することによって、安定したシール性及びNVH特性を発揮することができる。また、グリースの混和ちょう度を300以上とすることによって、グリースの流動性を確保でき、封入しやすいグリースとすることができる。グリースの混和ちょう度を370以下とすることによって、より優れたシール性を発揮できる。
【0030】
バンドの重ね合わせ部において嵌合部を設けることによって、締め付けバンドの重ね合わせ部の内径面側に段差を無くすか段差を小さくでき、バンドは安定した締め付け力を発揮して、ブーツは優れたシール性を発揮することができる。
【0031】
重ね合わせ部において、先尖状部を設けることによって、バンド装着部に対するバンドの滑らかな縮径を許容することができ、取付作業性に優れる。
【0032】
周方向凹溝を、底部に凹部が設けられた2段構造とすることによって、この凹部に重ね合わせ部の内径部が嵌入することになって、ブーツへの食い込みを防止できて、均一な緊迫力が作用し、濡れ性を大幅に改善できる。
【0033】
周方向凹溝の延設部側の立ち上がり壁面とバンドとの間に隙間を設けることによって、
周方向凹溝の延設部側の溝底隅部とバンドの干渉を防止できる。このため、このようなブーツを締め付けバンドにて締め付けて装着すれば、等速自在継手の動作による溝底隅部の応力集中を緩和でき、溝底隅部の破断(き裂)を有効に防止でき、ブーツの破断寿命とシール性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態を示す等速自在継手の断面図である。
【図2】前記等速自在継手に装着されるブーツの断面図である。
【図3】前記装着状態のブーツの小径部の拡大断面図である。
【図4】バンドの重ね合わせ部の拡大断面図である。
【図5】バンドを構成する帯状部材の平面図である。
【図6】前記帯状部材をリング状に丸めた状態の側面図である。
【図7】前記帯状部材をリング状に丸めた状態の要部拡大側面図である。
【図8】ちょう度とシール特性との関係を示すグラフ図である。
【図9】バンドの重ね合わせ部の内径側の端部を示し、(a)は拡大平面図であり、(b)は拡大側面図である。
【図10】他のバンドの重ね合わせ部の拡大断面図である。
【図11】従来のブーツバンドの装着前の側面図である。
【図12】従来の他のブーツバンドを示し、(a)は装着前の側面図であり、(b)は装着状態の側面図である。
【図13】従来の別のブーツバンドの側面図である。
【図14】前記図13のブーツバンドの帯状部材の平面図である。
【図15】従来のブーツバンドにて締め付けられたブーツを用いた等速自在継手の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0036】
図1は本発明にかかる等速自在継手を示し、この等速自在継手は、トリポードタイプの摺動型等速自在継手である。この等速自在継手は、外側継手部材51と、内側継手部材としてのトリポード部材52と、トルク伝達部材としてのローラ53を主要な構成要素としている。
【0037】
外側継手部材51はマウス部55と図示省略のステム部とからなる。マウス部55は反ステム部側に開口したカップ状で、その内径面に周方向に沿って120度ピッチで配設されるトラック溝56が形成される。
【0038】
トリポード部材52はボス58と脚軸59とからなる。ボス58の内径面には、雌スプライン61が形成してある。そして、このボス58の内径面に、シャフト60の端部雄スプライン62が嵌入され、シャフト60の雄スプライン62とボス58の雌スプライン61とが嵌合する。また、脚軸59はボス58の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。トリポード部材52の各脚軸59は前記ローラ53を担持している。
【0039】
この場合のローラ53はいわゆるダブルローラタイプであって、内側ローラ53aと、外側ローラ53bと、内側ローラ53aと外側ローラ53bとの間に介在される針状ころ53cとを備える。なお、ローラ53としては、内側ローラと外側ローラとの2つのローラを有さないシングルローラタイプであってもよい。
【0040】
外側継手部材51の開口部はブーツ65にて塞がれる。ブーツ65は、図1と図2に示すように、外側継手部材51に固定される大径部66と、トリポード部材52に連結されたシャフト60に固定される小径部67と、大径部66と小径部67との間に設けられる蛇腹部68とを有する。そして、大径部66と小径部67とはそれぞれブーツバンド70が装着されることによって固定される。なお、蛇腹部68は、山部68aと谷部68bとが交互に形成されてなる。
【0041】
ブーツ65はシリコーンにて形成される。シリコーンは、シロキサン結合を骨格とした高分子有機化合物(ポリマー)の総称である。シリコーンは無色・無臭で撥水性があり、重合度などの違いによりグリース、ワックス、オイル、ゴム(エラストマー)、ゲルなどの形態の製品が提供される。いずれも、相当する炭素骨格ポリマーに比べて耐油性・耐酸化性・耐熱性が高く、不導体である。
【0042】
シャフト60には、トリポード部材2から所定量突出した位置に、周方向に沿ったブーツ取付用溝73を有するブーツ装着部74が設けられ、図3等に示すように、小径部67がブーツ装着部74に外嵌される。この場合、小径部67は、その内径面にブーツ装着部74のブーツ取付用溝73に嵌合する突隆部80が設けられるとともに、その外径面にバンド70が嵌合する周方向凹溝75が設けられている。
【0043】
外側継手部材51の外径面の開口側にブーツ嵌合凹部(装着部)83が設けられる。また、大径部66は、その内径面にブーツ嵌合凹部83に嵌合する膨出部84が設けられるとともに、その外径面にバンド70が嵌合する前記周方向凹溝82が設けられている。
【0044】
ブーツバンド70は、図5に示すような帯状部材90を、図6と図7に示すリング状に丸めてブーツ65のバンド装着部(大径部66又は小径部67)に外嵌し、このバンド装着部を締め付けるものである。帯状部材90は、その一端側に幅狭部96が形成され、その他端側には、長孔からなる孔部93aと矩形孔となる孔部93bとが形成されている。孔部93aの反矩形孔側に端部に表て面側に突出する突起部98が設けられている。また、幅狭部96側には、表て面側に突出する突起部92a、92b、92c、92d、92eが形成されている。さらに突起部98には、表て面側に膨出する膨出部97が形成されている。この膨出部97を形成することによって、裏面側に開口する凹窪部が形成され、この凹窪部にて後述する嵌合部95を構成することができる。
【0045】
この帯状部材90からなるブーツバンド70にて、ブーツ65のバンド装着部(大径部66又は小径部67)を締め付ける場合、内径側となる部位に突起部92a、92b、92c、92d、92eが形成されるとともに、外径側となる部位に孔部93a,93bが設けられるようにリング状に丸められる。
【0046】
この際、まず、突起部92aを長孔である孔部93aに嵌合させる。そして、突起部92aと突起部98とを、図示省略の工具にて相互に接近させることによって、このリングを縮径させる。縮径させた状態において、突起部92eを孔部93bに係合(嵌合)するとともに、他の突起部92b、92c、92dを孔部93aに嵌合する。これによって、縮径状態が維持され、ブーツ65のバンド装着部を締め付けることができる。
【0047】
ところで、リング状に丸めた際に、重ね合わせ部91が形成され、この重ね合わせ部91において、その外径側となる部位に内径側となる部位が嵌合する嵌合部95が設けられる。すなわち、幅狭部96に対応する外径側に部位に外径側へ膨出する膨出部97を設けることによって、幅狭部96に対応する外径側に部位の内径面に凹窪部からなる嵌合部95を形成する。
【0048】
このブーツバンド70では、帯状部材90をリング状に丸めた状態において、ブーツ65の小径部67の周方向凹溝75に装着して、縮径させることによって、ブーツ65の小径部67をシャフト60のブーツ装着部74に取り付けることができる。また、帯状部材90をリング状に丸めた状態において、ブーツ65の大径部66の周方向凹溝82に装着して、縮径させることによって、ブーツ65の大径部66を外側継手部材51のブーツ装着部83に取り付けることができる。そして、締め付け状態において、内径側の幅狭部96が外径側の嵌合部95に嵌合することになる。このため、このバンド70の内径面に段差部が形成されない。
【0049】
周方向凹溝75における重ね合わせ部91に対応する部位には、図4に示すように、幅狭部96が嵌合可能な凹部100が設けられるものでもよう。すなわち、重ね合わせ部91に対応する部位は、周方向凹溝75を、底部に前記凹部100が設けられた2段構造としている。
【0050】
ところで、継手内部にはグリースが封入されるが、グリースとしては、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなるものである。基油に関しては特に限定するものではない。鉱物油、合成油(エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油)等の普通に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。経済的には、鉱油が望ましいが、耐熱性を考慮し合成油を使用しても良い。
【0051】
増ちょう剤としては、ウレア系増ちょう剤が望ましい。ウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジウレア化合物、ポリウレア化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。
【0052】
添加剤として、固体潤滑剤である二硫化モリブデンMoS2を添加した。また、メラミンシアヌレート(MCA)を単独又は併用しても良い。さらに、等速自在継手用のグリースは、一般的に、摩擦係数を低減するため摩擦調整剤として、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)やジンクジチオカーバメート(ZnDTC)、ジンクジチオホスフェート(ZnDTP)などを単独又は併用添加されるものであってもよい。また、極圧添加剤としてS(硫黄)系極圧添加剤を使用することができる。そのほかに、P(燐)系やS−P系の極圧添加剤を使用しても良い。更に、分散剤(アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩など)、油性剤(ヒマシ油、大豆油、ナタネ油、ヤシ油、など)酸化防止剤、防錆剤、防食剤等を使用しても良く、いずれも添加量は数%以下である。
【0053】
ところで、シール性を向上させるためには、関連する各部品を統合的に対策する必要がある。漏れを完全に防止するためには、グリースとシール部構造の両面からの検討が必要で、漏れ難いグリース、漏らさないシール構造の統合的対策が肝要である。ブーツとバンドの両面からの改良による全周の緊迫力の均一化やすきまの減少に因る漏れの防止、更に、使用中劣化し液状になったグリースの漏れを前述のバンドとブーツのみの対策だけで完全に防止することが困難となってきている。そのためグリース側での対策も必須となってきておりグリースの流動性の抑制が重要となってきている。
【0054】
グリースのシール性を決定する主要因は、流動性の指標であるちょう度の特性である。このちょう度について鋭意調査したところ、初期(新品の)の混和ちょう度(JIS K 2220)の特性も重要であるが、長期間の使用後のちょう度に相当する105回かき混ぜた後のちょう度である混和安定度(JIS K 2220)が大きく影響することが判った。
【0055】
しかし、このちょう度は、グリースの潤滑面への介入性に大きく影響し、等速ジョイントのような混合潤滑状態の潤滑面の摩擦係数に大きく影響する。したがって、シール性の観点からは、ちょう度が低い方(流動し難い)が好ましく、潤滑面への介入性からはちょう度は高い(流動し易い)方が好ましい。したがって、混和安定度に適正値があることを見出した。適正値は330以上で400以下が適正である。330未満では介入性の低下により摩擦係数が増加し、等速ジョイントのNVH特性が著しく低下する。105回混和ちょう度が400を超えるとシール性が著しく低下する。すなわち、ちょう度とシール性との関係は図8に示すようになる。
【0056】
初期ちょう度は、グリースを等速ジョイント内に封入するときの作業性に大きく影響すると共にシール性にも影響する。混和安定度より低く作業性を悪化させないことより、300以上で370以下のちょう度とした。300未満を切ると流動性が著しく低下し、封入の作業性が著しく悪化する。370を超えると混和安定度が増加しシール性を著しく低下させる。
【0057】
増ちょう剤の種類は、等速自在継手では滑りと転がりが混在し発熱するため耐熱性の観点からウレア系増ちょう剤とする。このちょう度は、増ちょう剤の添加量を調整することにより容易に製造できる。好ましくは、3以上で20以下重量%が好ましい。3%未満では、必要なちょう度を確保できない。20%を超えると流動性が著しく低下する。
【0058】
本発明では、バンド嵌合用の周方向凹溝を設けたことによって、バンド締め付け時のバンドのバンド装着部への食い込みを回避することができ、ブーツの損傷等を防止できる。また、グリースを継手適正値に設定することによって、シール性の向上を図ることができるとともに、NVH特性が低下するのを防止できる。ここで、NVH特性とは、車の快適性を表す三大要素である「Noise(騒音)」、「Vibration(振動)」および「Harshness(乗り心地)」のことをいう。
【0059】
このように、本発明では、シール性の向上及びブーツ破損寿命の向上を図ることができ、このような等速自在継手を使用した自動車等の寿命が向上する。しかも等速自在継手の交換やメンテナンスの時期を長期間とすることができ、さらには、補修部品の削減することができ、この削減によって、省資源化に貢献できる。
【0060】
グリースの混和安定度を330〜400に設定することによって、安定したシール性及びNVH特性を発揮することができる。また、グリースの混和ちょう度を300以上とすることによって、グリースの流動性を確保でき、封入しやすいグリースとすることができる。グリースの混和ちょう度を370以下とすることによって、より優れたシール性を発揮できる。
【0061】
締め付けバンド70の重ね合わせ部において嵌合部95を設けることによって、バンド70の重ね合わせ部の内径面側に段差を無くすか段差を小さくでき、バンドは安定した締め付け力を発揮して、ブーツは優れたシール性を発揮することができる。
【0062】
周方向凹溝75を、底部に凹部100が設けられた2段構造とすることによって、凹部100に重ね合わせ部の内径部が嵌入することになって、ブーツへの食い込みを防止できて、均一な緊迫力が作用し、濡れ性を大幅に改善できる。
【0063】
ところで、帯状部材90の幅狭部96の先端部を、図9(a)(b)に示すように、肉厚Tが端部に向かって薄くなるとともに幅寸法Wが端部に向かって小さくなる先尖状部101としてもよい。このように、先尖状部101を設けることによって、バンド装着部に対するバンドの滑らかな縮径を許容することができる。
【0064】
ところで、図10に示すように、ブーツ65は、バンド装着部を構成する小径部67には蛇腹部68が連設される。すなわち、小径部67には外径方向に延びる延設部105が連設されることになる。そこで、周方向凹溝75にバンド70が装着された状態で、周方向凹溝75の延設部105側の立ち上がり壁面75aとバンドと70の間に隙間Cを設けるようにするのが好ましい。
【0065】
このような隙間Cを設けることによって、蛇腹部68側(延設部105側)の溝隅部とバンドとの干渉を防止でき、蛇腹部68の運動による溝隅部の応力集中を緩和できる。このため、この溝隅部におけるき裂を防止し、ブーツ65の破断寿命とシール性の向上を図ることができる。なお、この隙間Cの大きさとしては、ブーツ65のバンド装着部の強度が低下しない範囲で種々変更できる。
【0066】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、等速自在継手として、前記実施形態では、トリポード型等速自在継手であったが、ダブルオフセット型やクロスグルーブ型等の他の摺動式等速自在継手であっても、ツェッパ型やアンダーカットフリー型の固定式等速自在継手であってもよい。
【実施例1】
【0067】
図1に示す等速自在継手(TJ)に以下のような配合のグリースを封入して、次の表1に示すシール性評価の試験と、表2に示すNVH評価の試験とを行う。この試験においては、ブーツとしてCRブーツを用い、ブーツバンドとして、図11に示すレバー式バンドを用いた。
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
グリースは、増ちょう剤の配合が表3の各比較品1,2と各実施品1,2に示すベースグリースに、表4の各比較品1,2と各実施品1,2に示す添加剤を添加してなるものを用いる。すなわち、各グリースは、鉱油(100℃での動粘度が13.5mm2/sec)200g中で、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートとオクチルアミンとステアリルアミンを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。このベースグリースに、表4に示す配合で添加剤を添加し、得られる化合物を三段ロールミルにて混和安定度(JIS K 2220)になるよう最終調整した。
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
そして、図1に示す等速自在継手に各グリースを封入して、前記表1に示すシール性評価の試験と、表2に示すNVH評価の試験とを行う。この試験においては、前記表4での試験結果において、○は合格を示し、×は不合格を示している。前記表4に示すように、混和安定度が333であり混和ちょう度が302である実施品1と混和安定度が395であり混和ちょう度が369である実施品2とは総合評価で合格であった。このことから、混和安定度が330〜400であれば、グリースにおける継手適正値(シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値)であり、混和ちょう度が300〜370であれば、グリースにおける継手適正値(シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値)であることが分かる。
【実施例2】
【0072】
増ちょう剤の配合が表5の各比較品3,4と各実施品3,4に示すベースグリースに、表6の各比較品3,4と各実施品3,4に示す添加剤を添加してなるグリースを用いる。
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
潤滑グリースは、鉱油(100℃での動粘度が13.5mm2/sec)2000g中で、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートとステアリルアミンとシクロヘキシルアミンを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリースを得た。
このベースグリースに、表6に示す配合で添加剤を添加し、得られる化合物を三段ロールミルにて混和安定度に調整した。添加剤の配合は、前記実施例1と同様である。
【0075】
そして、図1に示す等速自在継手に各グリースを封入して、前記表1に示すシール性評価の試験と、前記表2に示すNVH評価の試験とを行う。この試験においては、前記表2に示すように、ブーツとしてCRブーツを用い、ブーツバンドとして、図11に示すレバー式バンドを用いた。前記表6での試験結果において、○は合格を示し、×は不合格を示している。
【0076】
前記表6に示すように、混和安定度が331であり混和ちょう度が300である実施品3と混和安定度が398であり混和ちょう度が368である実施品4とは総合評価で合格であった。このことから、混和安定度が330〜400であれば、グリースにおける継手適正値(シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値)であり、混和ちょう度が300〜370であれば、グリースにおける継手適正値(シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値)であることが分かる。
【実施例3】
【0077】
表7に示すように、前記実施品3や実施品4に示す配合のグリースにおいて混和ちょう度(60W 25℃)を302とし、105回混和ちょう度(混和安定度)を333としたグリースを用いた等速自在継手について、シール性評価試験と、ブーツ耐久性試験とを行った。実施品5がAタイプ(ブーツバンドにレバー式バンドを用いたもの)であり、実施品6がBタイプ(図5に示すブーツバンドを用いたもの)であり、実施品7がCタイプ(図9に示すように先尖状部を有するブーツバンドを用いたもの)であり、実施品8がDタイプ(図9に示すブーツバンドと、図4に示すように、底部に凹部が設けられた2段構造の周方向凹溝が形成されたブーツとを用いたもの)であり、実施品9がブーツバンドに前記Aタイプのものを用い、ブーツに図10に示すように、隙間Cが設けられるものを用いた。
【表7】
【0078】
シール性評価試験は、前記表3のシール性評価の試験を行い、ブーツ耐久性試験としては、次の表8に示す耐久性試験を行った。すなわち、表8に示す条件下でブーツの周方向凹溝において破断するまで運転を行った。
【表8】
【0079】
表7から分かるように、シール性評価として、Aタイプである実施品5が100時間であり、Bタイプである実施品6及び実施品9が400時間であり、Cタイプである実施品7が490時間であり、Dタイプである実施品8が600時間であった。また、ブーツの耐久性の評価を行った実施品6及び実施品9において、実施品6が20時間で破断し、実施品9が250時間で破断した。
【0080】
シール性評価から、実施品6と実施品7と実施品8と実施品9とが好ましいことが分かる。また、ブーツの耐久性評価から、実施品9が好ましいことが分かる。すなわち、ブーツバンドとして、図5に示すように、嵌合タイプのものを用い、また、ブーツの周方向凹溝として、2段構造のものが好ましい。
【符号の説明】
【0081】
65 ブーツ
70 ブーツバンド
75 周方向凹溝
82 周方向凹溝
90 帯状部材
91 重ね合わせ部
92 係止部
95 嵌合部
96 幅狭部
100 凹部
101 先尖状部
105 延設部
C 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
継手内部にグリースが封入されるとともに、締め付けバンドの締め付けにて装着されて継手内部を密封するブーツを備えた等速自在継手であって、
ブーツのバンド装着部に締め付けバンド嵌合用の周方向凹溝を設け、かつ、前記グリースが、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなり、このグリースを、シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値に設定したことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記グリースの混和安定度を330〜400としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記グリースの混和ちょう度を300〜370としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項4】
締め付けバンドは、帯状部材をリング状に丸めてブーツのバンド装着部に外嵌し、その端部の重ね合わせ部において、その外側となる部位に内側となる部位が嵌合する嵌合部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項5】
締め付けバンドは、帯状部材をリング状に丸めてブーツのバンド装着部に外嵌し、その端部の重ね合わせ部において、内側となる部位に、肉厚が端部に向かって薄くなるとともに幅寸法が端部に向かって小さくなる先尖状部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項6】
前記周方向凹溝の底部に、前記重なり部の内側のガイドとなる凹部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項7】
ブーツのバンド装着部には外径方向に延びる延設部が連設され、周方向凹溝にバンドが装着された状態で、周方向凹溝の延設部側の立ち上がり壁面とバンドとの間に隙間が設けられることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項1】
継手内部にグリースが封入されるとともに、締め付けバンドの締め付けにて装着されて継手内部を密封するブーツを備えた等速自在継手であって、
ブーツのバンド装着部に締め付けバンド嵌合用の周方向凹溝を設け、かつ、前記グリースが、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合してなり、このグリースを、シール性及びNVH特性に基づいた継手適正値に設定したことを特徴とする等速自在継手。
【請求項2】
前記グリースの混和安定度を330〜400としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
前記グリースの混和ちょう度を300〜370としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項4】
締め付けバンドは、帯状部材をリング状に丸めてブーツのバンド装着部に外嵌し、その端部の重ね合わせ部において、その外側となる部位に内側となる部位が嵌合する嵌合部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項5】
締め付けバンドは、帯状部材をリング状に丸めてブーツのバンド装着部に外嵌し、その端部の重ね合わせ部において、内側となる部位に、肉厚が端部に向かって薄くなるとともに幅寸法が端部に向かって小さくなる先尖状部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項6】
前記周方向凹溝の底部に、前記重なり部の内側のガイドとなる凹部を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【請求項7】
ブーツのバンド装着部には外径方向に延びる延設部が連設され、周方向凹溝にバンドが装着された状態で、周方向凹溝の延設部側の立ち上がり壁面とバンドとの間に隙間が設けられることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の等速自在継手。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−32813(P2013−32813A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169442(P2011−169442)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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