説明

筋骨格系機構システム

【課題】本発明は、スレーブロボット(筋骨格系機構部)に力センサを備えることなく、前記筋骨格系機構部に架かる荷重を操作者に知覚させ得る筋骨格系機構システムを提供する。
【解決手段】本発明の筋骨格系機構システムSは、生体の所定の運動に関与する筋肉の活動電位による筋電信号を測定する筋電信号測定部1と、1つの姿勢に対して複数の硬さを持つことができ、前記所定の運動を行うように前記生体の部位を模した機構である筋骨格系機構部3と、筋電信号測定部1で測定された筋電信号に基づいて筋骨格系機構部3の動作を制御する制御信号を生成する制御信号生成部21と、筋骨格系機構部3の姿勢が変化した場合に、前記姿勢の変化量を表す情報を出力する変化量情報出力部4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の部位を模した機構である筋骨格系機構部を備えたマスタスレーブ型ロボットシステムの筋骨格系機構システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の代わりや補助等を行うために、何らかの作業を行う装置であるロボットシステムが研究、開発されており、ロボットシステムは、例えば、人が立ち入ることができない例えば災害現場や危険地域での作業に適用され、直接操作することができない作業等に適用され、人体の一部を補うために適用され、および、人の動作を補うために適用等されており、災害現場等の人命検索や救助作業、災害復旧作業や土木現場作業、生産ライン、例えば義手や義足等、遠隔医療診断、治療器具および例えばパワーアシスト等として福祉介護作業等への様々な適用が行われている。
【0003】
このようなロボットシステムには、大略、オペレータが直接ロボットを操作するオンライン型ロボットシステムと、マスタスレーブ型ロボットシステムとがある。このマスタスレーブ型ロボットシステムは、作業を行うスレーブロボットと、オペレータによって操作されスレーブロボットの動作を指示入力するマスタロボットとを備え、マスタロボットによって遠隔でスレーブロボットが操作される。
【0004】
このようなマスタスレーブ型ロボットシステムでは、操作対象物を安全に操作するためには、スレーブロボットにかかる荷重を検出する必要があるが、従来は、そのような荷重が検出されてないか、あるいは、荷重を検出する例えば歪みゲージ等の力センサをスレーブロボットに備え、力センサで検出した検出結果がスレーブロボットからマスタロボットへ通知され、この検出結果に応じた反発力(反力)をオペレータに伝えていた。
【0005】
このようなマスタスレーブ型ロボットシステムは、例えば、特許文献1に開示の遠隔診断システムが挙げられる。この特許文献1に開示の遠隔診断システムは、第2の場所に配置され、被験者に接触することによって前記被験者の生体情報に関する診断情報を取得する診断手段と、前記第2の場所から離間された第1の場所に配置され、前記診断手段と前記被験者との間の相対的な位置関係を示す画像情報に基づいた映像を表示する表示手段と、前記第1の場所に配置され、前記表示手段を視認しながら操作する操作者によって操作され、この操作に対応した制御情報を出力する第1の操作手段と、前記第2の場所に配置され、前記制御情報に基づいて前記診断手段を前記被験者に接触させて前記診断情報を取得すると共に前記被験者と前記診断手段との間の接触状態に相当する力情報を出力する第2の操作手段と、前記第1の場所に配置され、前記診断情報に基づいて画像および音声の少なくとも一方を前記操作者に認識可能なように再生する再生手段と、前記第1の場所に配置され、前記力情報に基づいて前記第1の操作手段を制御する制御手段と、前記第1の場所と前記第2の場所との間で前記各種情報を双方向通信可能に接続する通信手段とを含んで構成される。このような構成の遠隔診断システムでは、医師が離れた場所であたかも患者をその場で触診しているかのような感覚で診断器具等を遠隔操作して診断を行うことができる。
【0006】
そして、この遠隔診断システムの一態様は、病院側(第1の場所側)にいる専門医が医師用マスタ・マニピュレータを操作することによって、診療所側(第2の場所側)の診断用スレーブ・マニピュレータを動作させて、その前面に座っている患者を超音波診断するものであり、診療所側のCCDカメラによって患者の容姿や顔の映像、さらには、診断用スレーブ・マニピュレータの先端部に取り付けられている超音波診断用プローブが患者に接触している箇所の拡大映像や、診断用スレーブ・マニピュレータと患者との位置関係が分かるような全体映像などが撮影され、ISDN回線を介して、病院側の受信画像モニタに表示される。そして、前記医師用マスタ・マニピュレータは、診療所側の超音波診断用プローブ位置・姿勢を自在に制御するために、位置3自由度、姿勢3自由度の6自由度を有する平行リンク方式多関節ロボットで構成され、前記診断用スレーブ・マニピュレータは、並進位置3自由度、回転姿勢3自由度および超音波診断用プローブを長手方向に並進させる1自由度の合計7自由度を有するロボットで構成される。前記超音波診断用プローブに架かる3軸方向の力は、歪みゲージを備えた力検出手段によって検出され、前記超音波診断用プローブの押し付ける力は、インピーダンス制御手法を用いて前記医師用マスタ・マニピュレータにフィードバックされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−085353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来は、上述のように、スレーブロボットに架かる荷重を検出するために、力センサが必要であった。この力センサによる荷重の検出では、力センサの配置場所に応じて検出される荷重が左右されてしまう。特に、スレーブロボットの関節にアクチュエータやギア等が含まれている場合では、スレーブロボットのアームに荷重が架かってもアームが下がらず、そのような場所に力センサが配置されると荷重が検出されない虞があった。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、スレーブロボットに力センサを備えることなく、スレーブロボットとしての筋骨格系機構部に架かる荷重をオペレータ(操作者)に知覚させることができる筋骨格系機構システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる筋骨格系機構システムは、生体の所定の運動に関与する筋肉の活動電位による筋電信号を測定する筋電信号測定部と、1つの姿勢に対して複数の硬さを持つことができ、前記所定の運動を行うように前記生体の部位を模した機構である筋骨格系機構部と、前記筋電信号測定部で測定された前記筋電信号に基づいて前記筋骨格系機構部の動作を制御する制御信号を生成する制御信号生成部と、前記筋骨格系機構部の姿勢が変化した場合に、前記姿勢の変化量を表す情報を出力する変化量情報出力部とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明者は、後述するように、種々検討した結果、次の知見が得られた。すなわち、物体を保持する場合に、その物体を保持前では、人は、視覚情報として得られる物体の大きさ(サイズ)に基づいて経験則から前記物体の重さの大小を予測し、その予測に基づいて、前記物体の保持に関与する筋の活性化レベルを調整する。すなわち、人は、筋の活性化レベルに応じて保持可能な重さを経験則から認識する。そして、前記物体を保持する際に、人は、前記予測に基づく筋の活性化レベルから予測される、前記物体を保持する生体部位における姿勢の変化量と、実際に前記物体を前記生体部位で保持した際の、前記生体部位における姿勢の変化量との差に基づいて、実際の物体の重さを相対的に知覚している。すなわち、前記物体を保持する際に、人は、実際に前記物体を前記生体部位で保持した際の、前記生体部位における姿勢の変化量に基づいて、実際の物体が前記筋の活性化レベルに応じて保持可能な重さであったか否かを判断し、実際の物体の重さを相対的に知覚している。
【0012】
前記構成の筋骨格系機構システムでは、生体における所定の筋電信号が筋電信号測定部によって測定され、この測定された筋電信号に基づいて制御信号が制御信号生成部によって生成され、そして、この生成された制御信号に応じて、1つの姿勢に対して複数の硬さを持つことができる筋骨格系機構部が動作する。このため、筋骨格系機構部は、前記生体の所定の運動に関与する筋肉の活性化レベルに対応する硬さで動作することが可能である。このような硬さにある筋骨格系機構部に荷重(負荷)が架かると、前記荷重に対応して筋骨格系機構部の姿勢が変化する。この前記荷重に対応した筋骨格系機構部の姿勢の変化量は、前記硬さのレベルに応じた量となる。そして、この姿勢の変化量が変化量情報出力部によって前記姿勢の変化量を表す情報で出力される。したがって、例えばオペレータ等のユーザが、変化量情報部によって出力された前記情報を例えば視覚または聴覚等によって参照することで、前記荷重が前記筋肉の活性化レベルに応じて保持可能な大きさであったか否かを判断することができ、実際の荷重を相対的に知覚することが可能となる。
【0013】
したがって、前記構成の筋骨格系機構システムは、スレーブロボットとしての筋骨格系機構部に力センサを備えることなく、筋骨格系機構部に架かる荷重をオペレータ(操作者)に知覚させることができる。
【0014】
また、上述の筋骨格系機構システムにおいて、前記変化量情報出力部は、前記筋骨格系機構部の姿勢を撮影する撮影部と、前記撮影部で撮影された映像を表示する表示部とを備えることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、筋骨格系機構部の姿勢が撮影部によって撮影され、表示部に映像で表示される。このため、例えば、筋骨格系機構部にかかる荷重の大小をオペレータに対し例えば反発力を与える等の直接的に物理的な刺激の大小でオペレータに通知する場合では、前記荷重が比較的大きく前記刺激が大き過ぎるとオペレータに予期しないダメージ等を与えかねないが、前記構成によれば、オペレータに対し前記直接的に物理的な刺激を与えることなく、筋骨格系機構部における姿勢の変化量を表す情報が視覚によって認識することが可能となる。
【0016】
また、上述の筋骨格系機構システムにおいて、前記筋骨格系機構部は、1つの関節を含む生体部位を模した機構であり、前記変化量情報出力部は、前記筋骨格系機構部における前記関節の変位量を検出するセンサ部と、前記センサ部で検出された変位量を表す情報を出力する変位量情報出力部とを備えることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、筋骨格系機構部における関節の変位量がセンサ部によって検出され、筋骨格系機構部における関節の変位量が角度情報出力部によって認識することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる筋骨格系機構システムは、スレーブロボットとしての筋骨格系機構部に力センサを備えることなく、筋骨格系機構部に架かる荷重をオペレータ(操作者)に知覚させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態における筋骨格系機構システムの構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態における人腕を模した筋骨格系機構部の構成を示す側面図である。
【図3】実施形態の筋骨格系機構システムのスティフネスと同時活性度との関係を示す図である。
【図4】実施例に使用された錘を説明するための図である。
【図5】第1実験における筋総活性度と手部(手部の手先)の下がり方との関係を示す図である。
【図6】第1実験における錘の種類の回答結果を示す図である。
【図7】第2実験における筋総活性度と手部(手部の手先)の下がり方との関係を示す図である。
【図8】第2実験における錘の種類の回答結果を示す図である。
【図9】第2実験の比較例として、実際に錘を被験者の手に乗せた場合における錘の種類の回答結果を示す図である。
【図10】第3実験における筋総活性度と手部(手部の手先)の下がり方との関係を示す図である。
【図11】第3実験における錘の種類の回答結果を示す図である。
【図12】筋骨格系機構部の他の実施形態を示す斜視図(その1)である。
【図13】筋骨格系機構部の他の実施形態を示す斜視図(その2)である。
【図14】1つの関節を含む生体部位をモデル化した、第1の筋骨格系モデルを説明するための図である。
【図15】1つの関節を含む生体部位をモデル化した、第2の筋骨格系モデルを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。
【0021】
図1は、実施形態における筋骨格系機構システムの構成を示すブロック図である。図2は、実施形態における人腕を模した筋骨格系機構部の構成を示す側面図である。図3は、実施形態の筋骨格系機構システムのスティフネスと同時活性度との関係を示す図である。図3の横軸は、同時活性度(筋総活性度)であり、その縦軸は、正規化したスティフネスである。図3における実線は、筋骨格系機構システムの実際の筋骨格系機構部の結果を表し、その破線は、筋骨格系機構システムの筋骨格系機構部をモデル化したモデルの結果を表す。
【0022】
図1において、実施形態における筋骨格系機構システムSは、マスタスレーブ型のロボットシステムであり、筋電信号測定部1と、制御部2と、筋骨格系機構部3と、変化量情報出力部4とを備えて構成される。
【0023】
筋電信号測定部1は、マスタロボットとして機能し、生体の所定の運動に関与する筋肉の活動電位による筋電信号を測定する回路である。筋電信号測定部1は、本実施形態では、筋電信号を測定するとともに、さらに、この測定した筋電信号を、生体の筋肉が発揮する張力の大きさと対応付けられた擬似張力に変換する。このため、制御部2によって制御される筋骨格系機構部3は、生体の運動軌跡と略同様の運動軌跡で所定の運動を行うだけでなく、例えばスティフネス等の生体部位のインピーダンスを含む生体の運動状態と略同様の運動状態で所定の運動を行うことができる。
【0024】
生体が所定の運動を行う際に、多くの場合、特定の1つの筋肉だけが働くのではなく、同時に複数の筋肉が働く。このように1つの運動に際して協力して働く筋肉を互いに共同筋といい、共同筋は、原則として、1つの関節に対して同じ側に位置している。これに対して互いに反対の働きをもつ筋肉を対抗筋(拮抗筋)といい、対抗筋は、関節に対して反対側にある。1つの運動に際しては、共同筋同士は、同時に収縮するのはもちろんであるが、そのとき対抗筋も或る程度は緊張してその運動を調整している。筋肉は、収縮して張力のみを発生するので、関節の角度を変えるためには、関節の両側で拮抗的に働く1対の筋肉が必要だからである。したがって、手や足などの動作部分から外部に加えられる力が同じであっても、また、動作部分の軌跡が同じであっても、伸筋の張力と屈筋の張力との組み合わせが異なると、生体の動作部分(生体部位)におけるインピーダンスや力の方向が異なることになる。例えば、腕の肘関節を90度に曲げて静止または動作している状態は、主に上腕2頭筋とこれに対抗筋の関係にある上腕3頭筋との協調によって生じている。簡単のため、関節中心から各筋肉までの距離が関節角度によらず一定であると考えて、各筋肉の張力Tとモーメントアームaとの積をトルクτとする。この場合において、上腕2頭筋のトルクが25Nmで上腕3頭筋のトルクが5Nmである場合も、上腕2頭筋のトルクが45Nmで上腕3頭筋のトルクが25Nmである場合も、肘関節に生じているトルクは、差である20Nmである。ところが、腕の硬さの程度は、後者の場合の方が前者の場合の方より大きい。このことは、例えば、腕を押した場合、後者の場合の方が前者の場合の方より遙かに動かし難い。このように同じトルクを発生させる場合でも運動部分のインピーダンスを異ならせることができる。
【0025】
ここで、トルクτとスティフネスKとの関係は、所定の運動における現在の位置をθとし、所定の運動における運動終端での平衡位置をθeqとすると、式1(式A)で表される。
【0026】
【数1】

【0027】
なお、スティフネス(stiffness)とは、位置変化に対する力の変化における係数である。また、運動方向に依存しない呼び方で関節を伸ばす方向に働く筋肉は、伸筋と呼ばれ、関節を曲げる方向に働く筋肉は、屈筋と呼ばれる。関節を伸ばしている場合は伸筋が主に活動しており、共同筋が伸筋に、対抗筋が屈筋に当たる。
【0028】
また、上述では、筋線維がその長さを変化させながら張力を発生する等張性収縮(動的収縮)の場合について説明したが、筋収縮における他の態様の場合も同様に動作部分のインピーダンスを考え得る。筋収縮の態様は、前記等張性収縮、等速性収縮および等尺性収縮(静的収縮)に大別され、前記等張性収縮は、短縮性収縮と伸張性収縮とに分けられる。前記等張性収縮は、筋の張力と負荷とが釣り合った状態で筋が張力を発揮する場合をいい、短縮性収縮は、筋が短くなりながら張力を発揮する場合をいい、そして、伸張性収縮は、筋が負荷によって受動的に伸びながらも、張力を発揮している場合をいう。等速性収縮は、速度が一定の状態で筋が張力を発揮する場合をいう。また、等尺性収縮は、筋がその長さを変えずに張力を発揮する場合をいう。例えば、等尺性収縮の場合において、例えば、腹圧を大きく加えた場合では腹筋は硬く、腹圧を加えない場合では腹筋は柔らかい。このように両者で各インピーダンスが異なっている。
【0029】
このような筋電信号測定部1は、例えば、図1に示すように、表面電極11と、差動増幅器(DIFA)12と、割り算回路(DIV)13と、全波整流器(FWRC)14と、低域通過フィルタ(LPF)15とを備えて構成される。
【0030】
表面電極11は、前記所定の運動を行う生体部位に装着され、前記所定の運動に関与する筋肉の活動電位を検出するものである。本実施形態では、筋電信号は、皮膚の表面に電極を張り付けることによって活動電位を記録する表面誘導法によって測定される。なお、本実施形態では、筋電信号は、表面誘導法により測定されるが、これに限定されるものではなく、例えば針電極法等の、活動電位を計測することができる任意の測定方法を採用可能である。この針電極法は、針状の電極を筋肉に刺入して筋肉局部の活動電位を記録する方法である。表面電極11の個数(表面電極11を正負一対の組数で数える場合にはその組数)は、所定の運動に関与する筋肉によって決定される。例えば、後述するように、人の肘関節を1自由度でモデル化する場合には、肘関節を屈伸するための上腕二頭筋(屈筋)および上腕三頭筋(伸筋)の各筋電信号を測定する必要があるために、表面電極11は、2個(2組)である。これに応じてDIFA12、DIV13、FWRC14およびLPF15もそれぞれ2個ずつ用意される。
【0031】
各筋電信号は、各表面電極11でサンプリング周期2kHzおよび12ビット(bit)でサンプリングされ、DIFA12で所定のレベルまでそれぞれ増幅される。これら増幅された各筋電信号は、それぞれDIV13に入力され、所定の値で割り算され、規格化される。これら割り算された各筋電信号は、FWRC14にそれぞれ入力され、全波整流される。各筋電信号ごとに、この全波整流した信号は、10点ごとに平均され、それぞれLPF15に入力され、LPF15の出力信号は、制御部2に出力される。
【0032】
LPF15は、神経インパルスに対する筋収縮の遅れを補正するための2次系のフィルタであり、例えば、本実施形態では、インパルス応答h(t)が式2によって表される。
【0033】
【数2】

【0034】
随意運動では、上位の中枢から伝達されるインパルスが脊髄のα運動ニューロンを介して筋肉に伝達され、活動電位が発生して筋肉が収縮し、関節にトルクを生じさせて所定の運動が起こる。筋電信号を低域通過フィルタ(LPF)で変換した出力信号は、α運動ニューロンの発火頻度を反映していると期待されるため、筋肉が実際に生じている張力に対応する値と考えられ、擬似張力と呼ばれる。LPF15の遮断周波数は、擬似張力と筋肉が実際に発生している張力との対応を正確にする観点から、数Hz、より好ましくは2Hz〜3Hzに設定される。
【0035】
筋骨格系機構部3は、制御部2に接続され、1つの姿勢に対して複数の硬さを持つことができ、生体における、所定の運動を行う部位(生体部位)を模した機構(機構体)である。生体は、運動の観点から観察すると、筋肉と前記筋肉に接続される骨とから構成され、骨と骨とが関節によって連結されることで、所定の方向に1自由度を持った運動が可能となっている。そのため、運動の1つの基本単位となる、1つの関節を含む生体部位がモデル化され、筋骨格系機構部3は、例えば、所定の運動に関与する筋肉と、前記筋肉に接続される1組の骨と、前記1組の骨を互いに連結する関節とを模した機構である。
【0036】
より具体的には、筋骨格系機構部3は、例えば、肘関節を含む人腕を模した機構であり、図2に示すように、第1および第2アーム部31、32と、第1アーム部31の他方端部と第2アーム部32の一方端部とを1自由度で回動可能に連結する連結部33と、第1および第2アーム部31、32を連結部33で1自由度で回動させるための第1ないし第4人工筋肉34とを備えて構成される。そして、筋骨格系機構部3には、本実施形態では、当該筋骨格系機構部3を支持する支持部材36が第1アーム部31の一方端部に接続されるとともに、後述の錘Wtを載置するための手部37が第2アーム部32の他方端部に接続されている。
【0037】
第1アーム部31は、長尺円柱状のロッド部材であり、その一方端部は、支持部材36に連結され、その他方端部は、連結部33を介して第2アーム部32の一方端部に連結されている。
【0038】
第2アーム部32は、略長方形形状の外側矩形板321と、外側矩形板321の一方端部から延設された上下一対の長尺円柱状の外側ロッド部材322と、前記外側矩形板321と一対となり前記外側矩形板321と同形の内側矩形板(図略)と、前記外側ロッド部材322と一対となり前記外側ロッド部材322と同形の内側ロッド部材(図略)と、これら一対の外側ロッド部材322における他方端部と一対の内側ロッド部材における他方端部とに互いに固定的に接続される略正方形形状の締結板323とを備え、外側矩形板321と内側矩形板とが連結部33によって互いに接続されている。手部37は、人の手を模した成形部材であり、第2アーム部32から延設されるように、締結板323に固定的に接続される。
【0039】
連結部33は、例えば、所定の内径を有する円筒部材と、前記円筒部材を挿通する円柱状の軸部材とを備えて構成され、前記軸部材が前記円筒部材に挿通されつつ、前記軸部材の両端部が第2アーム部32の外側矩形板321と第2アーム部32の内側矩形板とにその略重心位置で例えばねじ留め(螺着)等によって固定的に接続され、そして、前記円筒部材が第1アーム部31の他方端部に例えばねじ留めや溶接等によって固定的に接続される。このような構成の連結部33では、前記円筒部材内を前記軸部材が摺動することによって、前記円筒部材と前記軸部材とが互いに相対移動し、これらに固定的にそれぞれ接続される第1アーム部31と第2アーム部32とが1自由度で回転可能になる。
【0040】
第1ないし第4人工筋肉34は、長尺の円筒形状の例えばゴム等の弾性体によって構成された空気圧式ゴム人工筋肉であり、例えばコンプレッサ等の空気圧供給源によって円筒内の空気圧が調整されることによって、所定の収縮力(張力)を生じさせる。第1ないし第4人工筋肉34は、その長尺方向で収縮することによって収縮力(張力)を生じさせるとともに、収縮方向とは逆方向に伸びることが可能である部材で有ればよい。第1および第2人工筋肉341は、その一方端がそれぞれ支持部材36に所定の位置で接続されるとともに、その他方端がそれぞれ外側矩形板321および内側矩形板に連結部33の接続位置よりも外側(手部37から離間する方向)で接続される。そして、第3および第4人工筋肉342は、その一方端がそれぞれ支持部材36に他の所定の位置で接続されるとともに、その他方端がそれぞれ外側矩形板321および内側矩形板に連結部33の接続位置よりも内側(手部37へ近接する方向)で接続される。
【0041】
支持部材36は、棒状のロッド部材361と、ロッド部材361の側方に突設するようにロッド部材361の一方端部に固定的に接続され、第1アーム部31および第1ないし第4人工筋肉34を支持する支持体362と、その法線方向でロッド部材361を立設するように、ロッド部材361の他方端部に固定的に接続される板状の支持板363とを備えて構成される。
【0042】
なお、本実施形態の筋骨格系機構部3では、第1ないし第4人工筋肉34の各空気圧がそれぞれ各気圧センサ(不図示)によって測定可能に構成されており、そして、第1アーム部31と第2アーム部32との成す角が角度センサ(不図示)によって測定可能に構成されている。
【0043】
このような人腕を模した筋骨格系機構部3では、制御部2の制御に応じて第1および第2人工筋肉341が収縮すると、収縮力(張力)が生じ、連結部33の前記軸部材を回転軸として前記軸部材周りに、第1アーム部31と第2アーム部32との成す角が広がる方向に第1アーム部31部に対し第2アーム部32が回転駆動する。第1および第2人工筋肉341は、伸筋である上腕三頭筋として機能している。一方、制御部2の制御に応じて第3および第4人工筋肉342が収縮すると、収縮力(張力)が生じ、連結部33の前記軸部材を回転軸として前記軸部材周りに、第1アーム部31と第2アーム部32との成す角が狭まる方向に第1アーム部31に対し第2アーム部32が回転駆動する。第3および第4人工筋肉342は、屈筋である上腕二頭筋として機能している。第1および第2人工筋肉341と、第3および第4人工筋肉342とは、それぞれ独立に制御可能であり、1つの姿勢に対し収縮力(張力)の複数の組合せが可能であり、複数の硬さを実現することが可能である。このように筋骨格系機構部3は、制御部2によってインピーダンス制御され、1つの姿勢に対し、硬さ(スティフネス、収縮力(張力)の組合せ)の冗長性を備えている。
【0044】
制御部2は、例えば、マイクロプロセッサ、メモリおよびその周辺回路を備えて構成され、各種プログラムに従ってデータを演算処理し、筋骨格系機構システムS全体を制御する回路である。前記メモリは、揮発性のメモリ素子であるRAM(Random Access memory)や、不揮発性のメモリ素子であるROM(Read Only Memory)等を備えて構成される。前記RAMは、前記マイクロプロセッサのいわゆるワーキングメモリとして機能し、また、前記ROMには、筋骨格系機構部3を制御する制御信号を生成する制御信号生成プログラムおよび各部を制御するための制御プログラム等の各種のプログラム等が格納される。そして、制御部2は、機能的に、筋電信号測定部1で測定された筋電信号に基づいて筋骨格系機構部3の動作を制御する制御信号を生成する制御信号生成部21を備えている。筋骨格系機構部3は、制御信号生成部21の制御信号によってインピーダンス制御される。
【0045】
ここで、一般に、筋肉の活動電位の頻度は、筋肉の収縮が強くなるにつれて増大するが、活動電位による筋電信号は、観察される電極の電位レベルと筋肉の張力レベルとに直接的な対応関係がない。このため、筋電信号から得られる擬似張力においても、擬似張力のレベルと筋肉の張力レベルとの間に直接的な対応関係はない。そのため、DIV13の前記所定の値が公知の手法によって適宜に設定されることによって、筋電信号測定部1から出力される擬似張力の或るレベルが実際の筋肉の張力のいずれのレベルに対応するかが関係付けられる(正規化)。
【0046】
本実施形態では、擬似張力を計測する際に、被験者が力を腕に込めていない状態でもノイズ等により、筋電信号測定部1によって得られる擬似張力が0にならない場合がある。このため、本実施形態では、各筋を同時活性させた状態と、力を腕に込めていない状態とで筋電信号がそれぞれ測定され、この測定によって得られた擬似張力の最大値と最小値とに基づいて擬似張力の正規化が行われている。この場合では、各筋iの擬似張力における最大値をEMGmaxiとし、その最小値をEMGminiとし、現在測定されている筋電信号測定部1の出力信号(LPF15の出力信号)EMGiとすると、擬似張力NEMGiは、式3によって与えられる。
【0047】
【数3】

【0048】
そして、このように正規化された擬似張力NEMGiが制御部2へ入力され、この擬似張力NEMGiに基づいて制御信号生成部21によって制御信号が生成され、筋骨格系機構部3の第1ないし第4人工筋肉34の収縮力(張力)が制御されている。
【0049】
すなわち、制御信号生成部21は、本実施形態では、筋骨格系機構部3の第1ないし第4人工筋肉34が、筋電信号測定部1によって測定され変換された擬似張力に相当する収縮力(張力)を生じるように、前記制御信号を生成する。より具体的には、制御信号生成部21は、上腕三頭筋の筋電信号を測定することによって得られた擬似張力に相当する収縮力(張力)を生じるように、第1および第2人工筋肉341を制御するための制御信号を生成するとともに、上腕二頭筋の筋電信号を測定することによって得られた擬似張力に相当する収縮力(張力)を生じるように、第3および第4人工筋肉342を制御するための制御信号を生成する。
【0050】
また、各筋のNEMGを足し合わせた総活性度(同時活性度)は、人腕の手先におけるスティフネスと比例関係にあることが知られており、オペレータ(被験者)の人腕の手先におけるスティフネスと筋骨格系機構システムSの筋骨格系機構部の手先37におけるスティフネスとが比較された。筋骨格系機構システムSの筋骨格系機構部の手先37におけるスティフネスは、手先37を△x動かす際に必要となる力△Fから式4によって求められる。より具体的には、筋骨格系機構システムSの筋骨格系機構部の手先37におけるスティフネスは、第2アーム部32を第1アーム部31に対して0.01[rad]動かす際に必要な力がバネばかりによって測定され、式4によって求められた。
【0051】
【数4】

【0052】
このような求められた筋骨格系機構システムSの筋骨格系機構部の手先37におけるスティフネス(実線)は、図3に示すように、オペレータ(被験者)の人腕の手先におけるスティフネスをモデル化することによって得られたスティフネスと良い相関関係にあることが理解される。
【0053】
このように本実施形態の筋骨格系機構システムは、動作および手先37のスティフネスともに、人腕を精度よく模している。
【0054】
なお、前記正規化方法には、例えば、被験者の最大随意収縮力を1として相対的に正規化する方法が用いられてもよく、また例えば、被験者に所定の力を発生させ、その場合の擬似張力の最大値を1として正規化する方法が用いられてもよい。より具体的には、第1ステップとして、力センサによって力を計測しながら、生体部位に所定の力を発生させ、この場合における各筋肉の筋電信号が計測される。第2ステップとして、筋肉ごとに擬似張力の最大値が求められる。この最大値が、筋肉ごとに求められた、各筋肉の筋電信号を正規化するための前記所定の値(正規化基準値)となる(例えば、特開2004−409608号公報や特開2004−073386号公報等参照)。そして、これら正規化方法に応じて、適宜に、筋骨格系機構部3の筋骨格系モデルが作成され、この筋骨格系モデルを下に、制御信号生成部21は、筋電信号測定部1で測定された筋電信号に基づいて筋骨格系機構部3の動作を制御する制御信号を生成する。
【0055】
変化量情報出力部4は、制御部2に接続され、筋骨格系機構部3の姿勢が変化した場合に、この姿勢の変化量を表す情報を出力する装置である。特に、オペレータに対し例えば反発力を与える等の直接的に物理的な刺激を与えることなく、姿勢の変化量をオペレータに伝えるために、変化量情報出力部4は、姿勢の変化量を表す情報であって視覚または聴覚によって認識される情報を出力する装置であることが好ましい。
【0056】
より具体的には、変化量情報出力部4は、例えば、筋骨格系機構部2の姿勢を撮影する例えばCCDカメラ等の撮影部41と、撮影部41で撮影された映像を提示する提示部42とを備えて構成される。なお、提示部42には、筋骨格系機構部3の姿勢を撮影部41で撮影することによって得られた実映像が表示されてもよいが、筋骨格系機構部3の姿勢を撮影部41で撮影することによって生成された筋骨格系機構部3の姿勢を表すアニメーションが表示されてもよい。
【0057】
これら制御部2および変化量情報出力部4は、例えば、いわゆるディスクトップ式やノート式のパーソナルコンピュータによって実現することが可能である。
【0058】
なお、筋骨格系機構システムSは、さらに必要に応じて、図1に破線で示すように、入出力部5および/または外部記憶装置6をさらに備えてもよい。ここで、Aおよび/またはBは、AおよびBのうち少なくとも一方を意味する。
【0059】
入出力部5は、制御部2に接続され、制御部2に与える各種コマンドやデータ等を入力するとともに、これら入力された各種コマンドやデータ、および、筋骨格系機構部2の動作状態を示すデータ等を出力する装置であり、例えば、キーボードおよびマウス等の入力機器や、CRT、LCDおよび有機EL等の表示機器である。
【0060】
外部記憶装置6は、制御部2に接続され、フレキシブルディスク、CD−R(Compact Disc Recordable)およびDVD−R(Digital Versatile Disc Recordable)等の記憶媒体とデータを読み書きする補助記憶装置であり、例えば、フレキシブルディスクドライブ、CD−RドライブおよびDVD−Rドライブ等である。制御部2に制御信号生成プログラム等の各種のプログラム、および、必要なデータ等が格納されていない場合には、これらを記録した記録媒体を外部記憶装置6を介して制御部2へ読み込むように、筋骨格系システムSが構成されてもよい。
【0061】
このような構成の筋骨格系機構システムSでは、まず、初期設定として、筋骨格系機構システムSがオペレータ等のユーザに合わせてカスタマイズされる。より具体的には、筋骨格系機構部3の動作がユーザの動作に追従するとともに、ユーザの手先のスティフネス(硬さ)と筋骨格系機構部3の手部37のスティフネス(硬さ)とが略一致するように、あるいは、ユーザの手先のスティフネスと筋骨格系機構部3の手部37のスティフネスとが比例関係(定数A倍または(1/定数B)倍)となるように、筋電信号測定部1によって測定されたユーザの筋電信号による擬似張力と、当該擬似張力によって制御される筋骨格系機構部3の第1ないし第4人工筋肉34による収縮力(張力)とが合わせ込まれる。
【0062】
そして、ユーザは、自己の腕を或る硬さにした状態にする。筋骨格系機構システムSでは、筋電信号測定部1によってユーザの腕における上腕二頭筋および上腕三頭筋に起因する筋電信号がそれぞれ測定されて擬似張力に変換され、制御部2の制御信号生成部によってこれら擬似張力に応じた制御信号が生成され、これら擬似張力に応じた硬さで筋骨格系機構部3が動作される。この状態で、筋骨格系機構部3の手部37に荷重(負荷)が与えられると、前記硬さの下で、前記荷重に応じて筋骨格系機構部3の手部37が変位する。前記荷重は、例えば、筋骨格系機構部3の手部37に物体が載せられたり、筋骨格系機構部3の手部37で物体を持ち上げたりすること等によって与えられる。前記荷重に応じて変位した筋骨格系機構部3の手部37の変位量は、変化量情報出力部4によって出力され、ユーザに認識される。本実施形態では、筋骨格系機構部3の姿勢が撮影部41によって撮影され、撮影部41によって撮影された筋骨格系機構部3の姿勢が提示部42に表示される。これによって前記荷重が筋骨格系機構部3の手部37に与えられた場合における筋骨格系機構部3の動作および変位量がユーザに認識される。例えば、筋骨格系機構部3にかかる荷重の大小をオペレータ(ユーザ)に対し例えば反発力を与える等の直接的に物理的な刺激の大小でオペレータ(ユーザ)に通知する場合では、前記荷重が比較的大きく前記刺激が大き過ぎるとオペレータ(ユーザ)に予期しないダメージ等を与えかねないが、本実施形態のように提示部42に前記変位量を表示する構成では、オペレータ(ユーザ)に対し前記直接的に物理的な刺激を与えることなく、筋骨格系機構部3における姿勢の変位量を表す情報が視覚によって認識することが可能となる。
【0063】
この前記荷重に対応した筋骨格系機構部3の変位量は、前記硬さのレベルに応じた量であるので、ユーザは、変化量情報出力部4によって出力された変位量を視覚によって参照することで、前記荷重が前記自己の腕の或る硬さで保持可能な大きさであったか否かを判断することができ、実際の荷重の大きさを相対的に知覚することが可能となる。筋骨格系機構部3の手部37に物体が載せられた場合には、前記物体の重さを知覚することが可能となる。
【0064】
したがって、本実施形態の筋骨格系機構システムSは、スレーブロボットとしての筋骨格系機構部3に力センサを備えることなく、筋骨格系機構部3に架かる荷重をユーザ(オペレータ、操作者)に知覚させることができる。このため、力センサが磁気式である場合には、このような力センサを備えるマスタスレーブ型ロボットシステムは、例えば、MRI等の磁気を嫌う場所では使用することができないが、本実施形態の筋骨格系機構システムSは、このような磁気を嫌う場所でも使用可能である。
【0065】
このような筋骨格系機構システムSを用いた重さ知覚は、例えば、次の実施例によって検証されている。
(実施例)
本実施例では、図1ないし図3を用いて説明した前記筋骨格系機構システムSが用いられ、被験者(ユーザ)には、肩および手首を動かすことなく錘Wtを肘関節周りの筋力によって保持する指示が与えられた。そして、肘関節の主要な屈筋および伸筋である上腕二頭筋および上腕三頭筋の2つの筋の表面筋電信号を測定することができる位置に、乾式電極(Bagnoli−16 EMG System(DELSYS社製))が被験者に取り付けられ、初期設定として、筋骨格系機構システムSが被験者に合わせてカスタマイズされた。
【0066】
本実施例で使用される錘Wtは、図4に示すように、中実の円柱形であり、その高さおよび質量を変えた7種類が用意された(Wt1〜Wt7)。すなわち、第1錘Wt1は、高さが15mmであって質量が125gであり、第2錘Wt2は、高さが15mmであって質量が500gであり、第3錘Wt3は、高さが30mmであって質量が250gであり、第4錘Wt4は、高さが30mmであって質量が400gであり、第5錘Wt5は、高さが30mmであって質量が450gであり、第6錘Wt6は、高さが30mmであって質量が500gであり、そして、第7錘Wt7は、高さが30mmであって質量が600gである。なお、錘Wt(Wt1〜Wt7)の色も重さ知覚に影響を与える可能性があるため、上記の点を除き、第1ないし第7錘Wt1〜Wt7は、形状、底面積、素材および表面のテクスチャ等の他の要素を同様に形成されている。
<第1実験>
まず、第1実験として、錘Wtの大きさと質量とが比例関係にある場合について、実験された。第1実験では、被験者である20代前半の成人男性5名(A、B、C、D、E)に対し、錘Wtの種類を通知することなく、第1錘(高さ15mm・質量125g)Wt1と第3錘(高さ30mm・質量250g)Wt3とが筋骨格系機構部3の手部37に1人当たり10回ずつランダム(無作為)に載せられた。そして、錘Wtを載せる前後における筋総活性度(同時活性度、TCL)と手部37(手部37の手先)の下がり方との関係における経時変化が調べられるとともに、各被験者によるその載せられた錘Wtの種類の回答が調べられた。
【0067】
図5は、第1実験における筋総活性度と手部(手部の手先)の下がり方との関係を示す図である。図5において、実線は、表面筋電信号から算出された筋の総活性度(TCL)であり、破線は、角度センサによって測定された筋骨格系機構部の肘における角度である。また、図5の縦軸は、筋の総活性度(TCL)またはラジアン[rad]単位で表す角度(Angle)であり、その横軸は、錘Wtが筋骨格系機構部3の手部37に接触した接触時刻を原点0とした、秒[sec]単位で表す時間である。後述の図7および図10も同様である。図6は、第1実験における錘Wtの種類の回答結果を示す図である。
【0068】
第1実験における、筋総活性度と手部(手部の手先)37の下がり方との関係における経時変化は、図5に示す通りである。図5は、被験者Aから得られた測定結果であり、他の被験者についても同様の結果が得られている。この図5に示す結果から、筋の総活性度(TCL)は、錘Wtの保持前では第3錘Wt3の場合の方が第1錘Wt1の場合より大きくなっていることが理解され、また、錘Wtを保持した直後(0秒〜0.4秒)における肘の角度は、第3錘Wt3の場合の方が極く僅か大きくなっているが、第3錘Wt3の場合も第1錘Wt1の場合と略同様であることが理解される。すなわち、手部(手部の手先)37の下がり方は、第3錘Wt3の場合の方が極く僅か大きく下がっているが、第3錘Wt3の場合も第1錘Wt1の場合と略同様であることが理解される。
【0069】
錘Wtの種類の回答結果は、図6に示す通りである。この図6に示す結果から、全被験者が略正確に錘Wtの重さを知覚していることが理解される。
【0070】
図5に示すように、被験者は、錘Wtの見た目から、大きい第3錘Wt3が重いと予測して筋を比較的大きく活性化させる一方、小さい第1錘Wt1が軽いと予測して筋を比較的小さく活性化させている。そして、被験者は、実際に各錘Wt1、Wt3を保持した場合における運動を観察し、手部(手部の手先)37の下がり量が小さいことから、前記予測が正しいと認識し、図6に示すように、各錘Wt1、Wt3の重さを正しく知覚している。
<第2実験>
次に、第2実験として、各錘Wtの大きさが等しくて質量が異なる場合について、実験された。第2実験では、被験者である20代前半の成人男性5名(A、B、C、D、E)に対し、錘Wtの種類を通知することなく、第1ケースとして、第5錘(高さ30mm・質量450g)Wt5と第7錘(高さ30mm・質量600g)Wt7とが筋骨格系機構部3の手部37に1人当たり10回ずつランダム(無作為)に載せられ、第2ケースとして、第4錘(高さ30mm・質量400g)Wt4と第6錘(高さ30mm・質量500g)Wt6とが筋骨格系機構部3の手部37に1人当たり10回ずつランダム(無作為)に載せられ、第3ケースとして、第5錘(高さ30mm・質量450g)Wt5と第6錘(高さ30mm・質量500g)Wt6とが筋骨格系機構部3の手部37に1人当たり10回ずつランダム(無作為)に載せられた。そして、錘Wtを載せる前後における筋総活性度(TCL)と手部(手部の手先)37の下がり方との関係における経時変化が調べられるとともに、各被験者によるその載せられた錘Wtの種類の回答が調べられた。
【0071】
図7は、第2実験における筋総活性度と手部(手部の手先)の下がり方との関係を示す図である。図8は、第2実験における錘の種類の回答結果を示す図である。図9は、第2実験の比較例として、実際に錘を被験者の手に乗せた場合における錘の種類の回答結果を示す図である。図8および図9において、紙面に向かって左から右へ順に、第1ケース、第2ケースおよび第3ケースの各回答結果が示されている。
【0072】
第2実験における、筋総活性度と手部(手部の手先)37の下がり方との関係における経時変化は、図7に示す通りである。図7は、被験者Aから得られた測定結果であり、他の被験者についても同様の結果が得られている。図7は、第2実験の第1ケースの場合における実験結果を示しているが、第2および第3ケースの各実験結果も第1ケースと同様のプロファイルである。この図7に示す結果から、筋の総活性度(TCL)は、錘Wtの保持前では第5錘Wt5の場合と第7錘Wt7の場合とが略等しくなっていることが理解され、また、錘Wtを保持した直後(0秒〜0.5秒)における肘の角度は、第7錘Wtの場合の方が第5錘Wtの場合よりも大きくなっていることが理解される。すなわち、手部(手部の手先)37の下がり方は、第7錘Wt7の場合の方が第5錘Wt5の場合よりも大きく下がっていることが理解される。
【0073】
錘Wtの種類の回答結果は、図8に示す通りである。この図8に示す結果から、第1および第2ケースの各ケースについて、全被験者が略正確に錘Wtの重さを知覚していることが理解される。第3ケースについても、図8に示す結果と図9に示す結果とが略同様の傾向を示していることから、実際に錘Wtを被験者の手に乗せた場合における重さ知覚の正確度合いと同レベルで全被験者が錘Wtの重さを知覚していることが理解される。
【0074】
図7に示すように、被験者は、錘Wtの見た目から、各錘Wtが等しい重さと予測して筋を活性化させている。そして、被験者は、実際に錘Wtを保持した場合における運動を観察し、各ケースにおいて、手部(手部の手先)37の下がり量に応じていずれの錘Wtが重いかを比較し、図8に示すように、各錘Wtの重さを正しく知覚している。すなわち、被験者は、手部(手部の手先)37の下がり量が大きい場合には、錘Wtが比較的重いと知覚し、その下がり量が小さい場合には、錘Wtが比較的軽いと知覚している。
<第3実験>
次に、第3実験として、各錘Wtの大きさと質量とが反比例関係にある場合について、実験された。第3実験では、被験者である20代前半の成人男性5名(A、B、C、D、E)に対し、錘Wtの種類を通知することなく、第2錘(高さ15mm・質量500g)Wt2と第3錘(高さ30mm・質量250g)Wt3とが筋骨格系機構部3の手部37に1人当たり10回ずつランダム(無作為)に載せられた。そして、錘Wtを載せる前後における筋総活性度(TCL)と手部(手部の手先)37の下がり方との関係における経時変化が調べられるとともに、各被験者によるその載せられた錘Wtの種類の回答が調べられた。
【0075】
図10は、第3実験における筋総活性度と手部(手部の手先)の下がり方との関係を示す図である。図11は、第3実験における錘の種類の回答結果を示す図である。
【0076】
第3実験における、筋総活性度と手部(手部の手先)37の下がり方との関係における経時変化は、図10に示す通りである。図10は、被験者Aから得られた測定結果であり、他の被験者についても同様の結果が得られている。この図10に示す結果から、筋の総活性度(TCL)は、錘Wtの保持前では、見た目でサイズが大きい第3錘Wt3の場合の方が第2錘Wt2の場合より大きくなっていることが理解され、また、錘Wtを保持した直後(0秒〜0.4秒)における肘の角度は、第3錘Wt3の場合の方が第2錘Wt2の場合よりも大きくなっていることが理解される。すなわち、手部(手部の手先)37の下がり方は、第3錘Wt3の場合の方が第2錘Wt2の場合よりも大きく下がっていることが理解される。
【0077】
錘Wtの種類の回答結果は、図11に示す通りである。この図11に示す結果から、全被験者が略正確に錘Wtの重さを知覚していることが理解される。
【0078】
図10に示すように、被験者は、錘Wtの見た目から、大きい第3錘Wt3が重いと予測して筋を比較的大きく活性化させる一方、小さい第2錘Wt2が軽いと予測して筋を比較的小さく活性化させている。そして、被験者は、実際に錘Wtを保持した場合における運動を観察し、手部(手部の手先)37の下がり量が第2錘Wt2の場合の方が軽いと予測したにもかかわらず第3錘Wt3の場合よりも大きいことから、前記予測が逆であると認識し、図11に示すように、各錘Wtの重さを正しく知覚している。
【0079】
以上より、人は、錘保持前では、視覚情報として得られる錘Wtの大きさ(サイズ)に基づいて経験則から重さの大小を予測し、その予測に基づいて筋の活性化レベルを調整している。すなわち、人は、筋の活性化レベルに応じて保持可能な錘Wtの重さを経験則から認識している。そして、人は、錘保持の際に、前記予測に基づく筋の活性化レベルから予測される手部(手部の手先)37の下がり量と、実際に錘Wtを保持した際における手部(手部の手先)37の下がり量との差に基づいて、実際の錘Wtの重さを相対的に知覚している。すなわち、錘保持の際に、人は、実際に錘Wtを保持した際における手部(手部の手先)37の下がり量に基づいて、実際の錘Wtが前記筋の活性化レベルに応じて保持可能な重さであったか否かを判断し、実際の錘Wtの重さを相対的に知覚している。
【0080】
この前記予測に基づく筋の活性化レベルから予測される手部(手部の手先)37の下がり量と、実際に錘Wtを保持した際における手部(手部の手先)37の下がり量との差は、錘保持前の視覚情報から予測した錘Wtの重さの予測値と、実際の錘Wtの質量との差と相関している。
【0081】
なお、上述の実施形態では、初期設定において、筋骨格系機構部3の動作がユーザの動作に追従するとともに、ユーザの手先のスティフネス(硬さ)と筋骨格系機構部3の手部37のスティフネス(硬さ)とが略一致するように、筋電信号測定部1によって測定されたユーザの筋電信号による擬似張力と、当該擬似張力によって制御される筋骨格系機構部3の第1ないし第4人工筋肉34による収縮力(張力)とが合わせ込まれたが、筋骨格系機構部3の動作がユーザの動作に追従するとともに、ユーザの手先のスティフネスと筋骨格系機構部3の手部37のスティフネスとが比例関係(定数A倍または(1/定数B)倍)となるように、筋電信号測定部1によって測定されたユーザの筋電信号による擬似張力と、当該擬似張力によって制御される筋骨格系機構部3の第1ないし第4人工筋肉34による収縮力(張力)とが合わせ込まれてもよい。このように構成することによって、荷重に対する感度を適宜に調整することが可能となる。
【0082】
また、上述の実施形態では、筋骨格系機構部3は、図2に示すように、空気圧式ゴム人工筋肉を備えて構成されたが、これに限定されるものではなく、例えばモータ等の所定のアクチュエータを備えて構成されてもよい。例えば、筋骨格系機構部3は、モータによるダイレクトドライブ方式であってインピーダンス制御される構成であって、最終的には単にトルクで制御される構成であってもよい。
【0083】
図12および図13は、筋骨格系機構部の他の実施形態を示す斜視図であり、図12は、右後方から見た斜視図であり、図13は、左前方から見た斜視図である。図14は、1つの関節を含む生体部位をモデル化した、第1の筋骨格系モデルを説明するための図である。図15は、1つの関節を含む生体部位をモデル化した、第2の筋骨格系モデルを説明するための図である。
【0084】
この他の実施形態における筋骨格系機構部3Aは、手首関節の生体部位を模した手首関節機構部であり、動力源の出力軸が手首関節そのものとなるように、生体の手首関節位置に装着可能に構成されてもよいが、一般に、動力源(アクチュエータ)が重量物であるため、生体の手首関節位置に装着されると、この装着された筋骨格系機構部3Aの重量を支える腕に、特に肘関節に相当の負担がかかる。このため、本実施形態の筋骨格系機構部3Aは、肘関節近傍位置に動力源が配置されるように、以下のように、構成されている。
【0085】
図12および図13において、手首関節を模した筋骨格系機構部(手首関節機構部)3Aは、第1および第2装着部材71、72と、動力源73と、第1ないし第3アーム部材74、75、76と、スペーサ部材77と、連結部材78と、1組の第1締結部材79−1、79−2と、第1および第2軸部材80、81と、1組の第2締結部材82−1、82−2と、面ファスナ83とを備えて構成されている。
【0086】
第1および第2装着部材71、72は、筋骨格系機構部3Aを、生体における所定の運動を行う生体部位に装着するための部材である。第1装着部材71は、前腕を包み込むことが可能なように、一方端から他方端へ向かって徐々に径が小さくなる、やや扁平な略円筒形状に形成されている。そして、第1装着部材71は、一方端へ手先から前腕を入れ、他方端へ手先が抜けられるように、他方端が斜めにカットされている。第1装着部材71の内面には、面ファスナ83が貼着されており、この面ファスナ83によって表面電極11が固定され、筋肉の活動電位が表面電極11によって安定的に検出可能とされている。第2装着部材72は、手のひらおよびそのひらに対向する手の甲で手を包み込むことが可能なように、短高で扁平な略円筒形状に形成されている。そして、第2装着部材72は、手に第2装着部材72を装着した場合に、親指の運動を妨げないように、略半円形の欠部72aが形成されている。これら第1および第2装着部材71、72は、例えば、硬質プラスチックによって形成されている。そして、第1装着部材71と第2装着部材72とは、第1装着部材71の延長方向に直交する軸回りに回転可能に連結部材78によって連結されている。これによって第2装着部材72が第1装着部材71に対し所定の角度範囲で回転可能となり、筋骨格系機構部3Aは、屈曲および伸展の1自由度を持つ。
【0087】
動力源73は、第1装着部材71に対し第2装着部材72を回転駆動するための駆動力を発生するアクチュエータであり、制御信号生成部21からの制御信号によって駆動制御される。これによって筋骨格系機構部3Aは、インピーダンス制御される。動力源43には、その出力回転中心を外した所定位置に所定寸法の第1アーム部材74の一方端部が固定されており、動力源73は、第1アーム部材74が運動可能な空間を空けて、一方端寄りの第1装着部材71の一方側部に、1組の第1締結部材79−1、79−2によって固定される。第1締結部材79−1、79−2は、所定長さのボルトを備えて構成されている。動力源73が1組の第1締結部材79−1、79−2を介して固定される第1装着部材71の前記一方側部の内面には、第1装着部材71の強度を補強するために、金属板71aが設けられている。
【0088】
動力源73は、例えば、ステッピングモータや超音波モータ等のアクチュエータであり、本実施例では、静音であってその体積に比して高トルクを出力することができることから、超音波モータが用いられる。また、この超音波モータ43は、ロータリエンコーダを備えており、回転角度θ、すなわち、現在の位置θを測定することができるようになっている。超音波モータ73は、その入力信号(制御信号)の位相差が出力トルクと略線形な関係にあり、制御信号生成部21は、後述の筋骨格系モデルの第1関数(式A)から求めたトルクτとなるような位相差を制御信号として超音波モータ73へ出力する。なお、位相差は、±90度の範囲しかとることができないので、この求めた位相差がこの範囲を超えた場合には、絶対値を90度とした制御信号が超音波モータ73へ出力される。本実施例では、制御信号生成部22は、制御信号を約30Hzで出力し続ける。
【0089】
第1アーム部材74の他方端には、第1軸部材80を介して、回転可能に第2アーム部材75の一方端が連結され、第2アーム部材75の他方端には、スペーサ部材77を挿通した第2軸部材81を介して、回転可能に第3アーム部材76の一方端が連結されている。そして、第3アーム部材76の他方端は、第2装着部材72の一方側部に、1組の第2締結部材82−1、82−2によって固定される。第1ないし第3アーム部材74、75、76は、それぞれ、その機能に合わせた所定寸法を持った金属材料体で構成されており、第1および第2アーム部材74、75は、それぞれ、所定の強度となるように角柱形状に形成され、そして、第3アーム部材76は、所定の強度となるように断面L字状の板形状に形成されている。スペーサ部材77は、第1装着部材71が上述したように先窄み状に形成されているために、第1装着部材41の一方端と他方端とにおける径方向の寸法の相違を吸収するために設けられている。第2締結部材82−1、82−2は、所定長さのボルトを備えて構成されている。
【0090】
このような構成の筋骨格系機構部3Aでは、超音波モータ73が回転すると、その回転中心から外れた位置に固定されている第1アーム部材74の一方端がその回転中心から所定半径で回転する。そうすると、第1アーム部材74の他方端は、第2および第3アーム部材75、76を介して第2装着部材72に固定されているために、第1装着部材71の延長方向に長軸を持ち上下方向に短軸を持った楕円運動を行う。この楕円運動が第2アーム部材75を介して第3アーム部材76の一方端に伝達され、第3アーム部材76の他方端に1組の第2締結部材82−1、82−2を介して固定されている第2装着部材72は、連結部材78を介して回転可能に第1装着部材71に連結されているために、前記楕円運動に基づいて前記屈曲および伸展の運動を行う。そして、このような運動の制御に当たって、この筋骨格系機構部3Aでは、この筋骨格系機構部3Aを模した所定の生体部位が所定の関数式でモデル化され、前記生体部位における所定の運動に関与する筋肉の活動電位による筋電信号が測定され、前記関数式に用いてこの測定された筋電信号に基づいて制御信号が生成され、筋骨格系機構部3Aの動作が制御される。
【0091】
1つの関節を含む生体部位は、図14に示すように、第1骨91が関節93を介して第2骨92に連結されており、関節93が1つのバネ(弾性体)と仮定すると、前記生体部位を関数で模した筋骨格系モデルは、関節93周りのトルクτに関し、上述の式1(式A)によって表される。
【0092】
一方、この関節スティフネスKの下での関節93周りのトルクτは、前記所定の運動に関与する筋肉によって生じる。すなわち、図15に示すように、このトルクτは、関節93における屈筋(FCR)および伸筋(ECU)によって生じる。筋肉i(屈筋i=0、伸筋i=1)の弾性係数kは、簡単化のために、運動指令uに線形な関数と仮定すると、k=k0i+k1iと近似される。k0iは、弾性係数kを線形近似した場合の定数項であり、k1iは、1次項の係数である。筋肉iの長さlは、筋肉iのモーメントアームをaとすると、l=l0i+l1i−aθと表される。l0iは、定数項であり、l1iは、1次項の係数である。ここで、a>0、a<0とした。したがって、前記生体部位を関数で模した筋骨格系モデルは、関節33周りのトルクτに関し、式A’(式A’−1、式A’−2)によって表される。
【0093】
【数5】

【0094】
これら式A(式1)と式A’−2とを比較することによって、関節スティフネスKは、式Bとなり、運動終端での平衡位置θeqは、式Cとなる。
【0095】
【数6】

【0096】
【数7】

【0097】
所定の生体部位のモデル化では、前記生体部位において、関節角度θを所定値で一定に保ちながら、筋電信号およびその場合の力が筋電信号測定手段および例えば力覚センサ等の力測定手段によって測定され、それら測定結果を式A’、式Bおよび式Cに用いることによって、各パラメータk、l、aが決定され、前記生体部位に生じる力τを式A(第1関数)、式B(第2関数)および式C(第3関数)によって表した筋骨格系モデルが作成される。第2関数Kは、運動指令uの関数として表され、第3関数θeqも運動指令uの関数として表される。この結果、前記生体部位をモデル化した筋骨格系モデルの第1関数は、運動指令uの関数として表される。なお、現在の位置θは、筋骨格系機構部3Aから所定のセンサによって検出される。運動指令uは、筋電信号に基づくパラメータである。
【0098】
このようなモデルを用いた筋骨格系機構部3Aの制御において、ユーザが所定の運動を行って、筋電信号測定部1によって筋電信号が測定されると、制御信号生成部21は、この筋電信号測定部1で測定した筋電信号に基づいて、予め作成された前記筋骨格系モデルを用いることによって、前記所定の運動を行うように筋骨格系機構部3Aを制御する制御信号を生成する。より具体的には、制御信号生成部21は、この筋電信号測定部1で測定した筋電信号に基づいて、予め作成したインピーダンスモデルの第2関数を用いることによって生体部位のインピーダンスを演算するとともに、予め作成した平衡位置モデルの第3関数を用いることによって運動終端での平衡位置を演算する。そして、制御信号生成部21は、これら求めた生体部位のインピーダンスおよび運動終端での平衡位置、さらに現在の位置に基づいて、予め作成された筋骨格系モデルを用いることによって、前記所定の運動を行うように筋骨格系機構部3Aを制御する制御信号を生成する。例えば、筋骨格系機構部3Aが1つの関節を含む生体部位を模した機構である場合には、制御信号生成部21は、この筋電信号測定部1で測定した筋電信号に基づいて、予め作成した関節スティフネスKの式Bを用いることによって関節スティフネスKを演算するとともに、予め作成した運動終端での平衡位置θeqの式Cを用いることによって運動終端での平衡位置θeqを演算する。そして、制御信号生成部21は、これら求めた関節スティフネスKおよび運動終端での平衡位置θeq、さらに現在の位置θに基づいて、予め作成された筋骨格系モデルの式Aを用いることによって生体部位に生じるトルクτを演算し、関節スティフネスKの運動状態の下でこのトルクτを生じるように筋骨格系機構部3Aを制御する制御信号を生成する。
【0099】
この制御信号が筋骨格系機構部3Aに入力されると、筋骨格系機構部3Aは、この制御信号に基づいて、ユーザの運動に追従するように運動する。
【0100】
このような筋骨格系機構部3Aでは、所定の運動を行う生体部位に生じる力を所定の第1関数で表した筋骨格系モデルは、生体部位のインピーダンス、運動終端での平衡位置および現在の位置という比較的少ない第1パラメータを含んで構築されており、しかも、これら生体部位のインピーダンスおよび運動終端での平衡位置が筋電信号に基づく共通な第2パラメータを含む第2および第3関数でそれぞれ表されている。そして、所定の運動に関与する筋肉に係わる筋電信号および力を測定することによって、これら第2および第3関数がそれぞれ作成され、これら作成された第2および第3関数を用いることによって、筋骨格系モデルの第1関数が予め作成される。したがって、このような筋骨格系機構部3Aは、筋電信号を測定するだけで制御信号生成部21によって制御信号を生成することができ、より安定的に、略リアルタイムで筋骨格系機構部3Aを制御することが可能となる。しかも、筋骨格系モデルに生体部位のインピーダンスが含まれるので、筋骨格系機構部3Aは、生体の運動をその硬さ(スティフネス)も含めてより適切に模倣するように制御される。
【0101】
また、上述の実施形態では、変化量情報出力部4は、表示装置(ディスプレイ)等によって映像を表示するように構成されたが、これに限定されるものではなく、他の手段を用いることができる。例えば、変化量情報出力部4は、筋骨格系機構部3、3Aの動作あるいは変位量を表すインジケータであってもよい。インジケータは、例えば、発光ダイオード(LED)等の複数の発光部を備えて構成され、筋骨格系機構部3、3Aの動作に合わせて略リアルタイムで筋骨格系機構部3、3Aの変位量に応じた発光数で前記複数の発光部が点灯される。また例えば、変化量情報出力部4は、筋骨格系機構部3、3Aの変位量を表す音を出力する例えばスピーカやブザー等の音出力部であってもよい。筋骨格系機構部3における変位量の大小は、例えば、音量の大小(小大)や、音の長短(短長)や、音周波数の高低(低高)等によって表される。また例えば、変化量情報出力部4は、筋骨格系機構部3、3Aの変位量を表す電気刺激を出力する例えば乾式電極等の電気刺激出力部であってもよい。筋骨格系機構部3、3Aにおける変位量の大小は、例えば、電流値の大小(小大)や周波数の高低(低高)等によって表される。これら各場合において、筋骨格系機構部3、3Aの変位量は、第1アーム部31と第2アーム部32との成す角を測定する前記角度センサ(不図示)によって測定されてもよく、また、筋骨格系機構部3、3Aの動作を撮影部41で撮影することによって得られる画像に基づいて測定されてもよい。この場合では、所定の運動を行う生体部分における各位置を所定のサンプリング周期で測定する、例えば、3次元位置計測装置OPTOTRAK(Northern Digital Inc.)等を利用することが可能である。このOPTOTRAKは、位置を計測しようとする箇所に赤外線マーカを貼付し、赤外線マーカから放射される赤外線を3つのカメラで検出することにより、高精度、高サンプリングレートで位置を計測する装置である。
【0102】
このように変化量情報出力部4は、筋骨格系機構部3、3Aにおける関節の変位量(この一例では角度)を検出するセンサ部と、前記センサ部で検出された変位量を表す情報を出力する変位量情報出力部とを備えて構成されてもよい。特に、前記センサ部で検出された変位量を表す情報が視覚または聴覚によって認識される情報である場合では、オペレータに対し例えば反発力を与える等の直接的に物理的な刺激を与えることなく、筋骨格系機構部3、3Aにおける姿勢の変化を表す角度変化量を認識することが可能となる。
【0103】
また、上述の実施形態の筋骨格系機構システムSは、生体の治療を行う医療機器に適用されてもよい。例えば、筋骨格系機構システムSは、生体の手術を行う際に利用される手術用機器に適用されてもよい。手術用機器としては、例えば鉗子やメス等の手術器具を取り付け可能な、スレーブロボットとしてのロボットアームと、前記生体や手術器具等を撮影するための内視鏡と、前記内視鏡による映像を表示するディスプレイと、前記ロボットアームを制御するための、マスタロボットとしてのコンソールボックス(操作ボックス)とを備えるマスタスレーブ型手術支援用ロボットを挙げることができる。このマスタスレーブ型手術支援用ロボットは、例えば商品名ダヴィンチ(Da Vinci、[online],2009年4月18日検索、インターネット<URL:http://www.intuitivesurgical.com/index.aspx>)等を挙げることができる。このようなマスタスレーブ型手術支援用ロボットにおけるロボットアームに筋骨格系機構部3、3Aが組み込まれるとともに、コンソールボックスに筋電信号測定部1が組み込まれることで、筋骨格系機構システムSは、医療機器に適用される。このような本実施形態の筋骨格系機構システムSを組み込んだ医療機器では、医師等の術者に重さ知覚を与えることができるので、より正確でより安全性の高い施術が可能となる。
【0104】
また、上述の実施形態の筋骨格系機構システムSは、上述の医療機器への適用の他、例えば、人が立ち入ることができない例えば災害現場や危険地域での作業に適用可能であり、直接操作することができない作業等に適用可能であり、人体の一部を補うために適用可能であり、および、人の動作を補うために適用等可能であり、災害現場等の人命検索や救助作業、災害復旧作業や土木現場作業、生産ライン、例えば義手や義足等、遠隔医療診断、治療器具および例えばパワーアシスト等として福祉介護作業等への様々な適用が可能である。
【0105】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0106】
S 筋骨格系機構システム
1 筋電信号測定部
2 制御部
3 筋骨格系機構部
4 変化量情報出力部
21 制御信号生成部21
41 撮影部
42 提示部
71 第1装着部材
72 第2装着部材
73 動力源
74 第1アーム部材
75 第2アーム部材
76 第3アーム部材
77 スペーサ部材
78 連結部材
79 第1締結部材
80 第1軸部材
81 第2軸部材
82 第2締結部材
83 面ファスナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の所定の運動に関与する筋肉の活動電位による筋電信号を測定する筋電信号測定部と、
1つの姿勢に対して複数の硬さを持つことができ、前記所定の運動を行うように前記生体の部位を模した機構である筋骨格系機構部と、
前記筋電信号測定部で測定された前記筋電信号に基づいて前記筋骨格系機構部の動作を制御する制御信号を生成する制御信号生成部と、
前記筋骨格系機構部の姿勢が変化した場合に、前記姿勢の変化量を表す情報を出力する変化量情報出力部とを備えること
を特徴とする筋骨格系機構システム。
【請求項2】
前記変化量情報出力部は、
前記筋骨格系機構部の姿勢を撮影する撮影部と、
前記撮影部で撮影された映像を表示する表示部とを備えること
を特徴とする請求項1に記載の筋骨格系機構システム。
【請求項3】
前記筋骨格系機構部は、1つの関節を含む生体部位を模した機構であり、
前記変化量情報出力部は、
前記筋骨格系機構部における前記関節の変位量を検出するセンサ部と、
前記センサ部で検出された変位量を表す情報を出力する変位量情報出力部とを備えること
を特徴とする請求項1に記載の筋骨格系機構システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−269392(P2010−269392A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122148(P2009−122148)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、脳科学研究戦略推進プログラム、「筋電信号を中心とした指までを含む多自由度BMIの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】