説明

筒内圧センサの出力補正装置

【課題】筒内圧センサの歪に起因する筒内圧センサの出力精度低下を抑制することのできる筒内圧センサの出力補正装置を提供する。
【解決手段】筒内圧センサの受熱量(伝熱量Qse)を求めて、筒内圧センサの歪に起因する筒内圧センサの出力誤差の補正を行う際の基礎として用いる。受熱によって筒内圧センサにどの程度の歪が生ずるのかは、筒内圧センサの構成に応じて特定しておく。具体的には、例えば、センサ寸法Lや、センサ表面の熱伝導率λ、センサ受熱部熱歪量xの算出において用いる線膨張係数αなどの値は、筒内圧センサの構成に応じて特定しておく。センサ表面への伝熱量Qse等を求めて熱歪量xを算出し、出力補正量Pcrを算出する。これにより、熱歪による筒内圧センサの出力ずれを的確に補正して、精度良く筒内圧を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筒内圧センサの出力補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開2007−32531号公報に開示されているように、筒内圧センサの出力精度を確保するための技術が知られている。筒内圧センサは、筒内圧力に応じて圧力感知素子に変位が生ずること(歪が生ずること)により、その圧力の大きさに応じた出力を発する。筒内圧センサの出力を利用した各種制御が的確に行われるためには、筒内圧力に応じた正確な出力を筒内圧センサが発することが求められる。
【0003】
計測すべき筒内圧以外の要因で筒内圧センサに歪が生じ、その歪が誤差としてセンサ出力に重畳することがある。この点、上記従来の技術によれば、Weibe関数を利用して推定した筒内圧履歴と、筒内圧センサにより測定した実際の筒内圧履歴とが比較される。この比較に基づいて、筒内圧以外の歪に起因する筒内圧センサの出力ずれを推定することができる。推定した出力値のずれを考慮することにより、筒内圧センサの出力から筒内圧を精度良く求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−32531号公報
【特許文献2】特開2004−353490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
筒内圧以外の要因で生ずる歪により筒内圧センサのセンサ出力精度が低下しうる場面において、その歪がいかなる要因によりどの程度生ずるのかということは、重要性の高い事項である。筒内圧センサの出力ずれ(出力誤差)を正確に知る上で有益な情報であり、さらにはその出力誤差を取り除き正確な筒内圧を求める上で重要な情報だからである。また、歪の要因に対する分析を怠れば、歪の要因に応じた的確な出力補正措置をとることは困難である。そこで、本願発明者は、鋭意研究を行ったところ、筒内圧センサが受熱によって歪む点に着目することにより、筒内圧センサの歪に起因する出力誤差の低減に好適な手法を見出した。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、筒内圧力以外で筒内圧センサに歪が生じた際に、この歪に起因する筒内圧センサの出力精度低下を抑制することのできる筒内圧センサの出力補正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、筒内圧センサの出力補正装置であって、
内燃機関に備えられた筒内圧センサの受熱量を求める受熱量取得手段と、
前記受熱量取得手段で求めた前記熱量に基づいて、前記筒内圧センサが熱を受けて歪むことにより生ずる前記筒内圧センサの出力誤差を低減するように、前記筒内圧センサの出力を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記受熱量取得手段が、前記内燃機関の点火時期以降の所定期間内に前記筒内圧センサが受けた熱量を求め、
前記補正手段が、前記受熱量取得手段で求めた前記所定期間内に前記筒内圧センサが受けた前記熱量に基づいて、前記所定期間内における前記筒内圧センサの出力を補正することを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記受熱量取得手段が、
前記内燃機関の点火時における、前記筒内圧センサの出力および筒内容積を取得する第1取得手段と、
前記内燃機関の点火時から前記所定期間の経過後における、前記筒内圧センサの出力および筒内容積を取得する第2取得手段と、
前記内燃機関の燃料噴射量、空燃比、前記第1取得手段で取得した前記筒内圧センサの前記出力および前記筒内容積、並びに、前記第2取得手段で取得した前記筒内圧センサの前記出力および前記筒内容積、に基づいて、前記内燃機関の燃焼熱による前記筒内圧センサへの熱伝達量を算出する熱伝達量算出手段と、
を含み、
前記補正手段が、
前記熱伝達量算出手段で算出した前記熱伝達量に基づいて、前記筒内圧センサの温度を算出する温度算出手段と、
前記温度算出手段で算出した前記筒内圧センサの前記温度に基づいて、前記筒内圧センサの熱歪量を算出する歪量算出手段と、
前記歪量算出手段で算出した前記熱歪量に基づいて、前記筒内圧センサの出力補正値を算出する補正値算出手段と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、筒内圧センサの受熱量を求めて、筒内圧センサの歪に起因する筒内圧センサの出力誤差の補正を行う際の基礎として用いることができる。これにより、熱による歪(熱歪)による筒内圧センサの出力ずれを的確に補正して、精度良く筒内圧を求めることができる。
【0011】
第2の発明によれば、燃焼行程における短期間での大きな受熱に起因した筒内圧センサの熱歪に対して、筒内圧センサの出力補正措置を行うことができる。
【0012】
第3の発明によれば、内燃機関の燃焼熱による筒内圧センサへの熱伝達量を算出することができる。算出した熱伝達量を用いて、筒内圧センサの熱歪量を算出することができる。これにより、熱歪に応じた筒内圧センサの出力補正を、精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態において実行されるルーチンのフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態.
以下、本発明の実施の形態にかかる筒内圧センサの出力補正装置の構成を、これが適用される内燃機関の構成とともに説明する。本実施形態は、車両用内燃機関に好適に適用される。本発明においては、内燃機関の気筒数や気筒の配列、方式に限定は無いが、以下の説明では、火花点火式内燃機関に対して本実施形態にかかる筒内圧センサの出力補正装置が適用されるものとする。
【0015】
本実施形態が適用される内燃機関は、気筒内の圧力を検知することのできる筒内圧センサを有している。筒内圧センサの先端部には、受圧ダイヤフラムが備えられる。筒内圧センサは、受圧ダイヤフラムが燃焼室内に臨むように内燃機関本体(例えばシリンダヘッド)に備えられ、受圧ダイヤフラムの表面に筒内の圧力を受ける。受圧ダイヤフラムが受けた圧力は、筒内圧センサ内部の圧力感知素子へと伝達される。
【0016】
本実施形態が適用される内燃機関は、クランク角センサ、エンジン水温センサ、空燃比センサなどの各種センサを備えている。また、他にも、点火プラグ、燃料噴射弁、吸気弁、排気弁およびそれらの弁を駆動するための機構といった基本的構成を備えている。
【0017】
本実施形態が適用される内燃機関は、ECU(Electronic Control Unit)を備えている。ECUは、上述した各種センサおよび各種基本的構成と接続している。ECUは、上述した各種センサの出力に基づいて、内燃機関のクランク角、機関回転数、エンジン水温、空燃比を取得可能である。また、ECUは、内燃機関の運転条件(具体的には、点火時期、燃料噴射量など)に関する各種のパラメータを取得し、このパラメータに応じて上述した点火プラグ等の基本的構成へと制御信号を発する。
【0018】
ECUは、筒内圧センサの出力に基づいて一定期間毎に(所定時間間隔で或いは所定クランク角度毎に)各気筒の筒内圧を検出するルーチンを備えている。
【0019】
筒内圧センサを用いて、筒内圧を検出し、燃料噴射量制御や点火時期制御などを行うシステムが公知である。この種のシステムはCPSシステムとも呼ばれる。CPSシステムにおいて筒内圧の検出精度が低下すると、制御性が低下するおそれがある。筒内圧検出誤差の一要因として、筒内圧力以外の要素による筒内圧センサ表面の変位が考えられる。このような変位が、例えば吸入空気量算出や熱発生量の計算に悪影響を及ぼしている。内燃機関の運転中、筒内圧センサの表面は、高速で(サイクル周期で)、受熱と放熱を繰り返している。主に燃焼行程における短期間での大きな受熱によって、筒内圧センサ表面が熱膨張する。その結果生じた歪によって、筒内圧センサの出力に誤差が生じてしまう。そこで、本実施形態では、筒内ガスから筒内圧センサ表面に流れ込む熱量に基づいて、熱歪を見積もり、筒内圧センサの出力値を補正することした。
【0020】
以下、本実施形態における筒内圧センサの出力値補正の具体的処理内容を説明する。図1は、本発明の実施の形態においてECUが実行するルーチンのフローチャートを示す。
【0021】
図1に示すルーチンでは、先ず、イグニッションがONか否かが判定される(ステップS100)。この条件が成立している場合、エンジン水温Twが取得される(ステップS102)。Twは、エンジン水温センサで検出した値を利用する。次いで、完全暖機後であるか否かが判定される(ステップS104)。このステップでは、Twが80℃を上回っていれば、完全暖気状態と判定する。
【0022】
次に、空燃比AFRの取得(ステップS106)、燃料噴射量Etauの取得(ステップS108)、エンジン回転数Neの取得(ステップS110)、および、点火時期SAの取得(ステップS112)、がそれぞれ行われる。なお、図1のルーチンでは示していないが、クランク角度θは所定周期で継続的に取得されているものとする。
【0023】
次いで、現在のクランク角θが点火時期SA相当のクランク角に一致したか否かが判定される(ステップS114)。この条件が成立した場合には、点火時期SAにおける筒内圧力PSAが取得される(ステップS116)。PSAは、今回のセンサ出力値補正対象の筒内圧センサがマウントされた気筒における、点火時期SA相当のクランク角の筒内圧センサ出力に基づいて検出することができる。
【0024】
次いで、クランク角θが30(deg.ATDC)に一致したか否かが判定される(ステップS118)。つまり、クランク角θが上死点後30度を迎えたか否かが判定される。この条件が成立した場合には、30(deg.ATDC)における筒内圧力P30が取得される(ステップS120)。P30は、今回のセンサ出力値補正対象の筒内圧センサがマウントされた気筒(ステップS116でPSAを取得したのと同じ気筒)における、上死点後30度における筒内圧センサ出力に基づいて検出することができる。
【0025】
次いで、燃焼室への熱伝達量Qwが算出される(ステップS122)。Qwは、下記の式で算出することができる。
【数1】

上記の式において、QLは、燃料の低位発熱量である。VSAは、点火時期SAにおける燃焼室容積である。V30は、30(deg.ATDC)における燃焼室容積である。これらの値は、事前に特定してECUに記憶しておけば良い。
【0026】
次いで、センサ表面への伝熱量Qseが算出される(ステップS124)。Qseは、下記の式で算出することができる。
【数2】

上記の式において、Sseは、筒内圧センサ表面(燃焼室中のガスと接している部分、燃焼室内に露出している部分)の面積(表面積)である。Schは、点火時期SAから30(deg.ATDC)までの区間における燃焼室面積の平均値である。これらの値は、事前に設計値から特定してECUに記憶しておけば良い。
【0027】
次いで、センサ表面温度Tseが算出される(ステップS126)。Tseは、フーリエの法則から、下記の式で算出することができる。
【数3】

上記の式において、Lはセンサ寸法、λはセンサ表面の熱伝導率である。
【0028】
次いで、センサ受熱部熱歪量xが算出される(ステップS128)。熱歪量xは、熱膨張による筒内圧センサ受熱部のひずみ量(変位量)である。熱歪量xは、下記の式で算出することができる。
【数4】

上記の式において、αは、筒内圧センサ表面の線膨張係数である。
【0029】
次いで、筒内圧センサ出力補正量Pcrが算出される(ステップS130)。Pcrは、筒内圧センサ出力が筒内圧センサ表面の変位に比例するものと仮定して、下記の式で算出することができる。
【数5】

上記の式において、Ccrは、筒内圧センサの出力係数である。センサ受圧部の変位とセンサ出力の比例係数である。Ccrは、事前に求めてECUに記憶しておけば良い。
【0030】
次いで、Pcrの値を、各種制御に反映する処理が実行される(ステップS132)。このステップでは、Pcrの値を利用して筒内圧センサの出力を補正した上で筒内圧値を算出したり、筒内圧センサ出力を利用した各種制御(例えば、燃料噴射量制御や点火時期制御)の内容にPcrを反映させる処理が実行される。その後、処理はリターンする。
【0031】
以上の処理によれば、筒内圧センサの受熱量(伝熱量Qse)を求めて、筒内圧センサの歪に起因する筒内圧センサの出力誤差の補正を行う際の基礎として用いることができる。受熱によって筒内圧センサにどの程度の歪が生ずるのかは、筒内圧センサの構成に応じて特定しておくことができる。具体的には、本実施形態では、例えば、センサ寸法Lや、センサ表面の熱伝導率λ、センサ受熱部熱歪量xの算出において用いた線膨張係数αなどの値は、筒内圧センサの構成に応じて特定しておくことができる。これらの値を用いて熱歪量xを算出、利用することにより、熱歪による筒内圧センサの出力ずれを的確に補正して、精度良く筒内圧を求めることができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、点火時期SAから30(deg.ATDC)にかけての燃焼室への熱伝達量Qwを算出し、ここからセンサ表面への伝熱量Qseを算出することができる。これにより、燃焼行程における短期間での大きな受熱に起因した筒内圧センサの熱歪に対して、筒内圧センサの出力補正措置を行うことができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、ステップS122の処理において、内燃機関の燃焼熱による筒内圧センサへの伝熱量(熱伝達量)Qseを算出することができる。Qseを用いて、筒内圧センサの熱歪量xを算出することができる。これにより、熱歪に応じた筒内圧センサの出力補正を、精度良く行うことができる。
【0034】
なお、上述した実施の形態においては、ECUが上記ステップS106〜S124の処理を実行することにより、前記第1の発明における「受熱量取得手段」が、ECUが上記ステップS130およびS132の処理を実行することにより、前記第1の発明における「補正手段」が、それぞれ実現されている。
【0035】
また、上述した実施の形態においては、点火時期SAの後から30(deg.ATDC)までの期間が、前記第2の発明における「所定期間」に相当している。
【符号の説明】
【0036】
AFR 空燃比
Etau 燃料噴射量
Ne エンジン回転数
P30 筒内圧力
SA 筒内圧力
Pcr 筒内圧センサ出力補正量
Qse 伝熱量
Qw 熱伝達量
SA 点火時期
Tse センサ表面温度
Tw エンジン水温
x 熱歪量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に備えられた筒内圧センサの受熱量を求める受熱量取得手段と、
前記受熱量取得手段で求めた前記熱量に基づいて、前記筒内圧センサが熱を受けて歪むことにより生ずる前記筒内圧センサの出力誤差を低減するように、前記筒内圧センサの出力を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする筒内圧センサの出力補正装置。
【請求項2】
前記受熱量取得手段が、前記内燃機関の点火時期以降の所定期間内に前記筒内圧センサが受けた熱量を求め、
前記補正手段が、前記受熱量取得手段で求めた前記所定期間内に前記筒内圧センサが受けた前記熱量に基づいて、前記所定期間内における前記筒内圧センサの出力を補正することを特徴とする請求項1に記載の筒内圧センサの出力補正装置。
【請求項3】
前記受熱量取得手段が、
前記内燃機関の点火時における前記筒内圧センサの出力および筒内容積を取得する第1取得手段と、
前記内燃機関の点火時から前記所定期間経過後における前記筒内圧センサの出力および筒内容積を取得する第2取得手段と、
前記内燃機関の燃料噴射量、空燃比、前記第1取得手段で取得した前記筒内圧センサの前記出力および前記筒内容積、並びに、前記第2取得手段で取得した前記筒内圧センサの前記出力および前記筒内容積、に基づいて、前記内燃機関の燃焼熱による前記筒内圧センサへの熱伝達量を算出する熱伝達量算出手段と、
を含み、
前記補正手段が、
前記熱伝達量算出手段で算出した前記熱伝達量に基づいて、前記筒内圧センサの温度を算出する温度算出手段と、
前記温度算出手段で算出した前記筒内圧センサの前記温度に基づいて、前記筒内圧センサの熱歪量を算出する歪量算出手段と、
前記歪量算出手段で算出した前記熱歪量に基づいて、前記筒内圧センサの出力補正値を算出する補正値算出手段と、
を含むことを特徴とする請求項2に記載の筒内圧センサの出力補正装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−163283(P2011−163283A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29064(P2010−29064)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】