説明

管理試料調製用試薬

【課題】糖尿病診断の指標となるグルコースおよび/またはヘモグロビンA1cを測定する際に共通して用いることができる管理試料を、容易に調製するための試薬を提供する。
【解決手段】グルコースおよび/またはヘモグロビンA1cの測定に用いられる管理試料を調製するための試薬であって、最終濃度が10〜1000mg/dLの範囲内となる既知量のグルコースを含有することを特徴とする、管理試料調製用試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコースおよび/またはヘモグロビンA1cの測定を行なう際に用いられる管理試料を調製するための試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病検査のマーカーとしては、グルコース(血糖値)、糖化ヘモグロビン、糖化アルブミンなどが知られている。特に糖化ヘモグロビンの1種であるヘモグロビンA1cは、HPLC法、電気泳動法、酵素法、免疫法などによる測定方法が確立されており、臨床検査の分野において測定されている。検査の精度を向上させるためには、複数のマーカーの測定がよいとされており、特にヘモグロビンA1cとグルコース(血糖値)の連続測定あるいは同時測定は有益である。
【0003】
各マーカーの測定時には、測定対象となるマーカー物質を、既知量含む管理試料を用いたキャリブレーションなどの較正・補正操作が必要である。管理試料に関する技術としては、いろいろな技術が開示されている(特許文献1および特許文献2など)。
【特許文献1】特開2005−181128号公報
【特許文献2】特開平10−017597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在は、各糖尿病マーカー毎に、別個の管理試料が市販されており、複数の糖尿病マーカーを測定する際には、各管理試料による個別の管理が必要である。例えばグルコース測定時には、既知量のグルコースを含有する管理試料の測定による管理、ヘモグロビンA1cを測定する場合には、既知量のヘモグロビンA1cを含有する管理試料の測定による管理が、別個に必要であった。
またこのような管理試料の測定による操作は、高精度の検査精度を維持するために、所定の頻度での測定が必要であるが、各管理試料は非常に高額であるため、使用量が抑えられる傾向にあり、管理レベルの低下による測定精度の低下が懸念されている。
【0005】
グルコースおよびヘモグロビンA1cの両者を含む管理試料があれば、両者を測定する際のコスト低減に有益である。また両者の同時測定法であれば、両者を含む管理試料により1回の測定で管理が可能となり、操作の時間短縮も可能となる。
しかし、ヘモグロビンA1cは、グルコースとヘモグロビンとの反応物であるため、グルコースとヘモグロビンA1cを共存させて管理試料とした場合、保存時に両者が反応して、グルコースおよびヘモグロビンA1cの濃度が変化してしまうという欠点があった。
【0006】
本発明の目的は、糖尿病診断の指標となるグルコースおよび/またはヘモグロビンA1cを測定する際に共通して用いることができる管理試料を、容易に調製するための試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、グルコース測定とヘモグロビンAlc測定に共通して用いることのできる管理試料の調製について検討したところ、従来用いられているヘモグロビンA1c測定用管理試料を調製するために用いられる調製用試薬に、既知量のグルコースを含有させておくことにより、従来のヘモグロビンA1c測定用管理試料を調製方法と同様の手法により、容易にグルコース測定およびヘモグロビンA1c測定に共通して用いることのできる管理試料を調製できることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、グルコースおよび/またはヘモグロビンA1cの測定に用いられる管理試料を調製するための試薬であって、最終濃度が10〜1000mg/dLの範囲内となる既知量のグルコースを含有することを特徴とする、管理試料調製用試薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の管理試料調製用試薬を用いた場合、公知のヘモグロビンA1c測定用管理試料をそのまま使用して、公知のグルコースおよび/またはヘモグロビンA1cの測定方法の管理が可能である。また両者の測定に共通して管理試料を用いることができるため、コスト的に有利である。また測定直前に両者が混合されるため、両者共存による両者の含有量の変動もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の管理試料調製用試薬は、最終濃度が10〜1000mg/dLの範囲内となる既知量のグルコースを含有する溶液よりなる。
本発明の管理試料調製用試薬に含有されるグルコースは、特に制限がなく、本発明の管理試料調製用試薬により調製された管理試料を用いて測定されるグルコースの測定方法において、本管理試料が測定対象試料と同様に測定が可能であるグルコースであればよい。より好ましくは、現行のグルコース測定用管理試料に用いられる高純度グルコース等の高純度品である。
【0011】
本発明の管理試料調製用試薬に含有されるグルコースの濃度は、最終濃度が10〜1000mg/dLの範囲内となる濃度であれば特に制限はない。
上記の最終濃度とは、後述するヘモグロビンA1c用管理試料に添加して希釈された際の濃度である。例えば、ヘモグロビンA1c管理試料0.2mLに、本発明の管理試料調製用試薬2.0mLを添加して、最終濃度100mg/dLのグルコースを含有するグルコースおよび/またはヘモグロビンA1c測定用管理試料を調製する場合、本発明の管理調製用試薬には110mg/dLのグルコースを含有させておけばよい。
上記範囲外のグルコースの最終濃度は、健常人試料および多くの糖尿病患者試料の測定値の範囲から逸脱するため、グルコースの測定系における管理試料による補正または較正などができにくく好ましくない。
【0012】
また本発明の管理調製用試薬を用いて調製された管理試料をグルコースおよび/またはヘモグロビンA1cの測定に供する場合、1種のまたは2種以上の既知濃度の管理試料を複数種調製して測定に供してもよい。2種以上の濃度の管理試料を調製する場合には、当該濃度のグルコースを含有する管理試料調整用試薬を複数用意して調製すればよい。複数の既知濃度の管理試料として供される場合であっても、全ての管理試料調整用試薬のグルコース濃度は、最終濃度が10〜1000mg/dLの範囲内である必要がある。
【0013】
本発明の管理試料調製用試薬は、上記濃度のグルコースを含むこと以外に特に制限はなく、試薬のpH、組成等の制限はない。後述する本発明の管理試料調製用試薬により得られた管理試料が、測定試料と同等の測定ができればよい。好ましくは、グルコースを既知濃度含む水溶液または緩衝液である。必要に応じて防腐剤等の安定化作用を有する物質、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどの溶血作用を有する界面活性剤等を添加してもよい。
緩衝液とする場合は、本発明の管理試料調製用試薬により得られた管理試料を測定する場合に測定の阻害とならない組成および物性であればよい。また測定系に用いられる緩衝液と同一あるいは類似の緩衝液としてもよい。当該緩衝液としては、pH4.0〜10.0、さらにpH5.0〜9.0の範囲で緩衝能を有する緩衝剤を含有する緩衝液が好ましい。このような緩衝剤としては、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸及びその塩類;グリシン、タウリン、アルギニン等のアミノ酸類;塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等の無機酸及びその塩類等、グッドの緩衝液などの両性緩衝液が挙げられる。
【0014】
本発明の管理試料調製用試薬により調製される管理試料は、管理に適した既知量のヘモグロビンA1cを含有するヘモグロビン含有試料である。好ましい管理に適したヘモグロビンA1c濃度は3〜15%である。上記範囲を逸脱するヘモグロビンA1c濃度を有するヘモグロビン含有試料は、通常の検査における健常人および糖尿病患者の測定値から外れるため、管理試料として用いるには相応しくない。また上記ヘモグロビン含有試料は、溶液であっても、凍結乾燥品であってもよい。上記ヘモグロビン含有試料として、現在ヘモグロビンA1cを測定する際の管理に用いられている、公知の標準試料を用いることができる。すなわち、HPLC法、電気泳動法、免疫法、酵素法等によるヘモグロビンA1cの測定時における管理試料として用いられる、ヒト血液由来の、既知量のヘモグロビンA1cを既知量含むヘモグロビン含有試料を用いることができる。
【0015】
本発明の管理試料調製用試薬は、グルコースおよびヘモグロビンA1cの両者を同時に、または連続して測定する場合に特に有効である。またグルコースのみの測定もしくは、ヘモグロビンA1cのみの測定に用いることもできる。
【0016】
本発明の管理試料調製用試薬による管理試料の調製は、測定の直前に行なわれることが好ましい。具体的には、本発明の管理試料調製用試薬による管理試料の調製が行なわれてから24時間以内に測定が行なわれることが好ましい。調製後24時間以上経過した場合は、管理試料内において、ヘモグロビンとグルコースが反応して、グルコース濃度およびヘモグロビンA1c値が変動し、精度管理に支障を来たす恐れが生じる。より好ましくは調製後、12時間以内に測定が行なわれる必要がある。
一般に現行のヘモグロビンA1cの測定方法に用いられている管理試料の調製においても、通常は測定直前に行なわれるため、本発明の試薬による調製方法も同様である。
【0017】
本発明の管理試料調製用試薬により調製された管理試料を用いたグルコースの測定方法は特に制限はなく、公知の方法が用いられる。好ましくはヘキソキナーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコースでヒドロゲナーゼ、グルコキナーゼなどの酵素を用いた方法、およびこれらの酵素を固定化した固定化酵素を用いる方法、または酵素電極を用いた方法である。好ましくはグルコースオキシダーゼを用いた酵素電極法である。
【0018】
また本発明の管理試料調製用試薬により調製された糖尿病検査用管理試料を用いた、ヘモグロビンA1cの測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法が用いられる。好ましくはHPLC法、酵素法、電気泳動法、免疫法などが挙げられる。特に好ましくはHPLC法、酵素法である。
本発明の管理試料調製用試薬により調製された管理試料を用いれば、グルコースおよび/またはヘモグロビンA1cが測定できる。
【0019】
さらに本発明の管理試料調製用試薬により調製された管理試料を用いて、グルコースおよびヘモグロビンA1cを連続に、または同時に測定してもよい。例えば、酵素法によるグルコース測定装置とHPLC法によるヘモグロビンA1c(グルコース以外の糖尿病マーカー)測定装置を搬送装置で連結した測定装置や、酵素法によるグルコースおよびヘモグロビンA1cの同時測定法が開示されているが、本発明の管理試料調製用試薬により調製された管理試料を用いて、これらの測定装置による連続または同時測定法を行なうことができる。これらの連続測定法や同時測定法の場合、それぞれの測定法の原理に制限はなく、公知の測定法を組み合わせて測定することができる。
本発明の管理試料調製用試薬により調製された管理試料は、グルコースおよびヘモグロビンA1cの連続測定法または同時測定法に特に有用である。
【実施例】
【0020】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
グルコース(NIST標準品:HECTEF製SRM917)を77mg/dLおよび0.01%のTritonX−100(和光純薬製:界面活性剤)を含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解して管理試料調製用試薬を調製した。
ヘモグロビンA1c測定用管理試料(シスメックス製グリコHbコントロール:ヘモグロビンA1c値が5.0%)1バイアルに、0.2mLの蒸留水を添加して溶解した後、得られた上記溶解液0.2mLに対して上記管理試料調製用試薬2mLを添加して、グルコース最終濃度70mg/dLおよびヘモグロビンA1c5.0%を含有する、グルコースおよびヘモグロビンA1c測定用管理試料を調製した。
また同様に、グルコース143mg/dLを含む管理試料調製用試薬を調製し、管理試料(同:ヘモグロビンA1c値が11.0%)に添加して、グルコース最終濃度130mg/dLおよびヘモグロビンA1c11.0%を含有する管理試料を調製した。
【0022】
上記で得られた2種類の管理試料を、グルコース測定装置およびヘモグロビンA1c測定装置にて測定した。測定装置として、グルコース測定装置(アークレイ製GA−1170:酵素電極法)およびヘモグロビンA1c測定装置(アークレイ製HA−8170:HPLC法)を用いた。
【0023】
測定の結果得られた各数値を、基準値、すなわちグルコース濃度がそれぞれ70mg/dLおよび130mg/dL、ヘモグロビンA1c値がそれぞれ5.0%および11.0%となるよう補正式を算出した。
上記管理試料の測定に引き続き、健常人および糖尿病患者よりフッ化ナトリウム採血して得られた測定試料を、各測定装置の定法によって測定した。得られた測定試料の測定値を上記補正式に代入して補正値を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0024】
(実施例2)
グルコース測定装置として、クリニカルアナライザS40(第一化学薬品製:ヘキソキナーゼ法)、ヘモグロビンA1c測定装置として日立7170型自動分析装置(ノルディアHbA1c:第一化学薬品製:酵素法)を用いた以外は、上記実施例1と同様の操作により同一試料を測定した。得られた結果(補正値)を表1に示す。
【0025】
(実施例3)
グルコースおよびヘモグロビンA1c測定装置として特開2007−155684号公開の装置(王子計測器製BF−3Tを改良、グルコースおよびヘモグロビンA1c共に酵素法)を用いた。上記実施例1と同様の操作により同一試料を測定した。得られた結果(補正値)を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示す通り、本発明の管理試料調製用試薬を用いて補正を行なった結果、測定値が同一となり、グルコースおよびヘモグロビンA1c値の補正が可能であることが示された。すなわち本発明の管理試料調製用試薬により調製された管理試料は、グルコースおよびヘモグロビンA1cの測定の両者に共通して用いることができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコースおよび/またはヘモグロビンA1cの測定に用いられる管理試料を調製するための試薬であって、最終濃度が10〜1000mg/dLの範囲内となる既知量のグルコースを含有することを特徴とする、管理試料調製用試薬。
【請求項2】
ヘモグロビンAlcの測定またはヘモグロビンAlcおよびグルコースの測定に用いられる管理試料を調製するための試薬であって、測定の直前に、既知量のヘモグロビンAlcを含有するヘモグロビン含有試料と混合して使用されるものである請求項1記載の管理試料調製用試薬。
【請求項3】
既知量のヘモグロビンAlc濃度が3〜15%である請求項2記載の管理試料調製用試薬。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の管理試料調製用試薬により得られた管理試料を用いた、グルコースおよび/またはヘモグロビンA1cの測定方法。
【請求項5】
請求項2または3に記載の管理試料調製用試薬により得られた管理試料を用いた、グルコースおよびヘモグロビンA1cの連続測定法または同時測定法。

【公開番号】特開2009−240190(P2009−240190A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89039(P2008−89039)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
【Fターム(参考)】