説明

簡便な油脂類分解反応方法

【課題】 植物性あるいは動物性油脂もしくはこれらの廃棄物を用いた内燃機関用燃料油の製造方法に関し、従来法よりも高速かつ単純な工程で製造出来る反応方法を提供する。
【解決手段】 油脂類とアルコールとの混合物を固体触媒存在下、短時間マイクロ波処理することを特徴とし、好ましくは固体触媒がカルシウムの酸化物または水酸化物の単独もしくは複合物を主体として構成され、またマイクロ波の照射時間が5分よりも短く、さらには反応が連続下で行われる簡便な油脂類分解反応方法。固体触媒とマイクロ波との組み合わせにより、非常に短時間で反応が完結すると共に、従来必須であった反応生成物からの煩雑な触媒分離操作が不要になり、さらには廃棄物系油脂の有効利用を図ることも可能となり、環境改善の面からも有益である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性あるいは動物性油脂もしくはこれらの廃棄物を用いた内燃機関用燃料油の製造方法に関し、従来法よりも高速かつ単純な工程で製造出来る反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中進国を主体とした経済活動の活発化に伴い、原油を中心とした各種の原材料資源の逼迫感を引き起こしている。一方では、化石燃料使用量の急激な増大に伴う大気中の二酸化炭素量の増加が気温の上昇を招き、地球規模での気候変動、異常気象への懸念が高まっている。このような状況の中で、二酸化炭素の新たな発生増を招かない(カーボンニュートラル)燃料として、バイオエネルギーが脚光を浴びている。すなわち、現在最も関心が寄せられているバイオエタノールは、サトウキビやトウモロコシを原料にしてガソリンエンジン用燃料エタノールを製造しようとするものである。この場合、エタノールを燃料として燃焼させると二酸化炭素が発生するが、この二酸化炭素が光合成によって再び植物に戻されるので環境に優しいエネルギーと認識されている。
【0003】
バイオエタノールと同様にバイオエネルギーとして注目されているもう一つが、バイオディーゼル燃料である。バイオディーゼル燃料とは、動植物性油脂を原料にして製造されるディーゼルエンジン用の油である。これは、バイオエタノールと同様にカーボンニュートラルな燃料であるばかりでなく、更に家庭等から排出される廃天ぷら油等も原料として利用出来るため、環境汚染廃棄物の低減にも役立つことが期待されている。このような効果を有すバイオディーゼル燃料を製造する技術として、これまでにも特許文献1,2を始めとして多くの検討が行われている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−350630号公報
【特許文献2】特開2007−277374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油脂とは動物あるいは植物中に含まれる脂質成分であり、たとえば大豆油、オリーブ油、菜種油、牛脂等があげられる。これら油脂の主成分はトリグリセリドと呼ばれるグリセリンと高級脂肪酸とのエステル化合物である。従ってその組成は基本的には炭素、水素と酸素であるため、燃料として使用する場合には硫黄等の環境汚染成分を含有する石油系あるいは石炭系のものよりもクリーンである。ただしこれをディーゼルエンジン等の内燃機関用燃料として使用するためには、燃焼性を向上させるための低分子化操作が必要である。
【0006】
低分子化の最も一般的な方法は、グリセリンの部分をメタノールやエタノールという低級アルコールで置き換えるエステル交換反応であり、既に例示した特許文献1、2もこの方法によって油脂をディーゼル燃料に転換している。しかしながら、この種のエステル交換反応は一般に反応速度が遅く、反応を進行させるためには長時間を要すという欠点を有す。
【0007】
更に、この反応には触媒が不可欠であり、従来可溶性の酸あるいはアルカリ均一触媒が用いられてきた。このような触媒を用いると、反応後の生成物中からの触媒の回収操作が不可避であるため、プロセスが複雑になると言う大きな欠点を有している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、油脂類とアルコールとの混合物を固体触媒存在下、短時間マイクロ波処理することを特徴とする簡便な油脂類分解反応方法であり、好ましくは固体触媒がカルシウムの酸化物または水酸化物の単独もしくは複合物を主体として構成され、またマイクロ波の照射時間が5分よりも短く、さらにはこの反応が連続下で行われることである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、これまでの油脂類の分解反応方法の欠点であった触媒除去のための煩雑な操作が不要になり、また反応時間も劇的に短縮される等、顕著な経済性の向上が図られることになる。さらに、廃棄物系油脂の有効活用を図ることも可能であるので、環境改善の面からも有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で原料として使用する油脂類とは、実質的に大豆油、ヤシ油、パーム油、菜種油あるいは胡麻油等の植物油脂、または牛脂あるいは鯨油等の動物油脂からなるものを指す。これらの油脂はバージン状態のものが好ましいが、所期の目的に使用された後に回収された廃油であっても差し支えない。
【0011】
この原料油脂に、エステル交換用のアルコールを混合する。アルコールの種類に特に制約はないが、メタノールあるいはエタノール等の低級アルコールが好ましい。またアルコールの混合比率も特に限定はされないが、油脂1モルに対して3モル以上で有ることが望ましい。
【0012】
この油脂とアルコールとの混合液が、触媒存在下で加熱処理される。従来、ここでは硝酸あるいは硫酸等の酸触媒、もしくは水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ触媒が用いられてきた。これらの触媒は原料油中に溶解、均一分散するために、反応の促進と均一化には効果的である。しかしながら、これらは反応後にも反応生成物中に溶解しているために、これを分離、除去することが不可欠である。このために、通常はアルカリ触媒の場合は酸を、そして酸触媒の場合はアルカリを添加して中和、析出する塩を分離するか、あるいは反応生成物を多量の水で洗浄、触媒を除去する等の処理が為される。これらの操作は煩雑であるばかりでなく、ほとんどの場合が二次的廃棄物の産出という不都合を招いてしまう。
【0013】
本発明者等は、このような現状の不都合を解消するために種々検討を行い、触媒として酸化カルシウムあるいは水酸化カルシウムを主成分とする固体触媒が効果的であることを見出した。この固体触媒は原料油に溶解しないので、反応後の触媒の分離、除去に特別な操作を必要とせず、従来プロセスに較べて操作が非常に簡便になるという長所を有す。なお、このときの固体触媒の使用量は本発明法においては特に限定されず任意であり、所望の反応率に応じてその量を調節すればよい。
【0014】
このようにして決定、調節された油脂、アルコールおよび固体触媒の混合系にマイクロ波を照射して加熱する。マイクロ波は、周知の通りX線、紫外線や可視光線と同様に電磁波の一種であり、通常は波長が1mmから1mの範囲のものを指す。マイクロ波は、赤外線と同様に物質を加熱する能力を有し、家庭用の電子レンジとして広く普及している。さらに最近の研究によれば、マイクロ波を加熱源に用いた化学反応が非常に加速されやすい傾向を有すことが判明し、種々のプロセスへの適用が試みられている。そこで、本発明者等も加熱源としてマイクロ波を採用したところ、通常加熱に比較して反応速度が飛躍的に向上することを認めた。すなわち、通常加熱を用いた場合には、油脂の分解反応を達成するためには反応温度60℃で8時間程度を要するのに対し、マイクロ波加熱では同反応温度において5分以内で十分に反応が進行することを認めた。マイクロ波加熱が本発明法に対して何故大きな効果を発現するのかについては不明であるが、固体触媒とマイクロ波との組み合わせにより、何らかの相乗効果が生じているのかも知れない。
【0015】
何れにしても本発明法によれば、従来法よりも格段に簡便かつ高速に油脂類の分解反応を行うことが可能になる。また、この反応は回分反応によっても十分効果を発揮出来るが、これを連続反応方式で行うようにすれば、更に効率が向上して望ましい。以下、本発明の効果を実施例によって更に詳しく説明する。
【実施例】
【0016】
内容積200mlの二口丸底フラスコに菜種油48gとメタノール11gとを混合添加し、これに更に紛状の水酸化カルシウム10gを加えたものをマイクロ波照射キャビティーにセットした。このキャビティーの天井部にはマイクロ波が外部に漏洩しない大きさの孔があいており、この孔を通じてフラスコ上部に水冷式の還流冷却器を取り付けた。この場合、水冷部分はキャビティーの外部に設置し、冷却水がマイクロ波によって加熱されないようにした。さらに、フラスコ内の温度を測定するための光ファイバイー式温度計を二口のうちの一つの口にセットした。この状態で周波数2450MHz、出力700Wのマイクロ波を1分間照射した。このとき、フラスコにセットした温度計は最高で60℃に達した。
【0017】
反応後の生成物は冷却、静置し、グリセリン相と油相の二相に分離させた。分別した油相は、更に蒸留してこの中に含まれる未反応メタノールを除去した。メタノールを除去した後の生成油をガスクロマトグラフで分析し、この中に含まれるメチルエステル化合物量を定量した。その結果、生成油の95wt%が目的生成物であるメチルエステル化合物であり、反応が良好に進行していることが判明した。
【0018】
(比較例)
マイクロ波の替わりにウォーターバスを使用し、実施例と同様の原料を用いて同様の反応を行った。反応後の生成物を実施例と同様の方法で分析したところ、生成油中に含まれるメチルエステル化合物量は1wt%以下であり、目的の反応がほとんど進行しないことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂類とアルコールとの混合物を固体触媒存在下、短時間マイクロ波照射処理することを特徴とする簡便な油脂類分解反応方法。
【請求項2】
固体触媒がカルシウムの酸化物または水酸化物の単独もしくは複合物を主体として構成されることを特徴とする請求項1の簡便な油脂類分解反応方法。
【請求項3】
マイクロ波照射時間が5分よりも短いことを特徴とする請求項1もしくは2の簡便な油脂類分解反応方法。
【請求項4】
マイクロ波照射を行う反応域に原料液を連続的に供給し、一方で反応域から処理液を連続的に抜き出すことを特徴とする請求項1、2もしくは3の簡便な油脂類分解反応方法。

【公開番号】特開2009−203346(P2009−203346A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46969(P2008−46969)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業研究成果実用化検討、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)
【Fターム(参考)】