説明

粉体塗装方法及び粉体塗料

【課題】耐熱性が比較的に低い樹脂製部材を粉体塗装できる粉体塗装方法を提供する。
【解決手段】樹脂製の被塗物1を、バイアス電圧を印可した導電ローラ11により帯電させ、帯電させた被塗物1に、逆極性に帯電させた,光重合開始剤を含む粉体塗料を静電付着させ、静電付着させた粉体塗料を、紫外線照射処理を含む、比較的に低温の熱処理により塗膜(連続膜)化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗装方法及び粉体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体塗料は、塗装時にも塗膜化後にも、人体に悪影響を及ぼすVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機物質)を放出しない塗料である。そのため、各種塗装に粉体塗料が用いられるようになってきているのであるが、現存する,絶縁性部材上への粉体塗装方法は、各種欠点を有するものとなっている。
【0003】
具体的には、粉体塗装は、基本的には、被塗物(塗装対象物)の,塗装を行うべき面(以下、塗装面と表記する)上に粉体塗料を静電付着させた後、静電付着させた粉体塗料を加熱溶融させることによって行われるものである。そして、被塗物が金属等の導電性材料である場合には、図5に示してあるような、被塗物をアースし、そのアースした被塗物に粉体塗料をコロナ帯電ガン等により帯電させて吹き付ける手法により、被塗物上に粉体塗料を均一な厚さで付着させることが出来る。また、被塗物が導電性材料である場合には、帯電した粉体塗料が浮遊、流動している気流中に、アースした被塗物を挿入することによっても、その塗装面上に粉体塗料を均一な厚さで付着させることが出来る。
【0004】
そして、塗装面に粉体塗料を均一な厚さで付着させることができれば、加熱溶融により形成される塗膜も各所の膜厚が等しいものとなるのであるが、被塗物が絶縁性材料である場合、上記手法をそのまま採用することは出来ない。
【0005】
そのため、絶縁性被塗物への粉体塗装方法としては、通常、被塗物の塗装面の接着性をいわゆるプライマー処理により改善してから、粉体塗料を塗装面に付着させ、その後、付着させた粉体塗料を加熱溶融させるといった方法が採用されている。ただし、この方法は、工程が複雑である(導電性被塗物への塗装時には不要なプライマー処理が必要とされる)という欠点と、膜厚分布のある品質の低い塗膜しか得られないという欠点とを有するものとなっている。
【0006】
また、絶縁性被塗物への粉体塗装方法として、図6に模式的に示したように、摩擦帯電粒子をぶつけることにより絶縁性被塗物を帯電させた後、粉体塗料を付着させるといった方法も知られている。この方法は、プライマー処理が必要とされないものではあるが、摩擦帯電粒子の除去/回収が煩雑であるという欠点と、絶縁性被塗物を均一に帯電することが困難である欠点とを有するものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3619010号公報
【特許文献2】特表2008−533212号公報
【特許文献3】特開平6−238789号公報
【特許文献4】特開平10−130363号公報
【特許文献5】再公表特許WO2006/109747号公報
【特許文献6】特開2007−146119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さらに、既存の絶縁性被塗物への粉体塗装方法は、上記欠点に加えて、耐熱性の高い樹
脂製の部材にしか塗装を行えないという欠点も有するものとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記現状に鑑み、開示の技術の一態様の塗膜形成方法では、少なくとも、絶縁性を有する被塗物を準備する工程と、前記被塗物上を摺動可能に設けられた導電ローラに第1の極性を有するバイアス電圧を印加し前記被塗物が帯電するように前記導電ローラを前記被塗物に接触させる工程と、前記導電ローラによって帯電された前記被塗物に、少なくとも樹脂、着色剤、光重合開始剤を含む粉体塗料を、前記第1の極性とは逆極性に帯電させて静電付着させる工程と、前記被塗物に静電付着させた粉体塗料を、紫外線照射処理を含む熱処理により連続膜化する加熱工程とによって、被塗物上への粉体塗装が行われる。
【0010】
また、開示の技術の一態様の、バイアス電圧を印可した導電ローラによって帯電させた,絶縁性を有する被塗物に静電付着させた後、紫外線照射処理を含む熱処理により連続膜化する粉体塗料は、少なくとも、樹脂、着色剤、光重合開始剤を含む。
【発明の効果】
【0011】
上記手順の塗膜形成方法を用いれば、耐熱性が比較的に低い樹脂製の部材に対して粉体塗装を行える。また、上記構成の粉体塗料を、バイアス電圧を印可した導電ローラによって帯電させた,絶縁性を有する被塗物に静電付着させた後、紫外線照射処理を含む熱処理により連続膜化すれば、耐熱性が比較的に低い樹脂製の部材に対して粉体塗装を行えることになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る粉体塗装方法を実施するために使用できる帯電装置の構成図。
【図2】実施形態に係る粉体塗装方法における静電付着工程の内容を説明するための図。
【図3】試験片作成用加熱工程に使用した加熱装置の構成、試験片作成用加熱工程の内容を説明するための図。
【図4】開発実験時に作成した各試験片の塗膜強度等を示す図。
【図5】従来の,絶縁性被塗物への粉体塗装方法の説明図。
【図6】従来の,絶縁性被塗物への他の粉体塗装方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明者らが開発した粉体塗装方法の一実施形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
以下で説明する実施形態に係る粉体塗装方法は、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリカABS等の,耐熱性が比較的に低い樹脂からなる部材の塗装面を粉体塗装できる方法である。なお、ABS樹脂とは、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂のことであり、ポリカABSとは、ポリカーボネートとABS樹脂のポリマーアロイのことである。
【0015】
本実施形態に係る粉体塗装方法による塗装時には、まず、絶縁性を有する被塗物(ABS樹脂製の,電子機器の筐体等)が、用意される。
【0016】
次いで、その被塗物の裏面(塗装面とは逆側の面)をバイアス電圧を印可した導電ローラで摺動することにより、被塗物を第1極性(通常は、正極性)に帯電させる帯電工程が開始される。そして、導電ローラにより第1極性に帯電している被塗物の塗装面上に、第1極性とは逆極性の第2極性に帯電させた“光重合開始剤を含む粉体塗料”を付着させる
ための静電付着工程が行われる。
【0017】
以下、帯電工程、静電付着工程の内容をさらに具体的に説明する。
【0018】
〔帯電工程〕
帯電工程は、被塗物を摺動可能であると共に、バイアス電圧を印加可能な導電ローラを備えた装置でありさえすれば、どのような構成の装置を使用しても行えるものである。以下、図1に示した帯電装置10を使用する場合を例に帯電工程の実施手順を説明する。
【0019】
まず、帯電装置10の構成を説明する。図示してあるように、この帯電装置10は、導電ローラ11及び電源15を備えている。なお、帯電装置10は、図示を省略した駆動機構及び保持部材も備えた装置となっている。
【0020】
帯電装置10が備える導電ローラ11は、導電性材料製の軸12の側面に、導電性の繊維13を多数埋め込んだ形状/外観を有する部材(一種のロールブラシ)である。この導電ローラ11は、以下のような手順で製造されたものとなっている。
【0021】
(1)太さ(繊度)が600デニール/100Fの,カーボン粒子をその内部に分散させたレーヨン繊維をパイル織りした基布と、軸12として使用する,直径5mmの導電性のステンレス棒とを、用意する。なお、導電ローラ11を製造するために実際に使用した基布は、基布面における繊維密度(1平方インチあたりの繊維(フィラメント)数)が、100000F/in2となっているものである。
(2)軸12(直径5mmの導電性のステンレス棒)の周りに基布を巻き付ける。
(3)基布面から出ている各繊維(パイル)13の先端部分を切断することにより、その側面におよそ6mmの長さの繊維13が多数埋め込まれている形状/外観の部材を製造する。
(4)製造した部材側面の各繊維13の先端を軸12の円周方向に(図1参照)寝かせることにより、その外径が、ほぼ15mmとなっている導電ローラ11を得る。
【0022】
電源15は、導電ローラ11に、+1kV(又は−1kV)程度のバイアス電圧をかけるための定電圧電源である。
【0023】
駆動機構(図示略)は、導電ローラ11を矢印17で示してある方向に回転させる機能、及び、導電ローラ11を矢印18で示してあるように揺動させる機能を有する機構である。この駆動機構は、導電ローラ11を回転させるためのモータ、導電ローラ11を上下方向(被塗物1の板面に平行な方向)に移動可能なように保持する部材、導電ローラ11を上下方向に移動させるためのモータ、各モータを制御する制御装置等から構成されている。
【0024】
保持部材(図示略)は、被塗物1を保持するための部材である。この保持部材は、繊維13の先端のおよそ1mmの部分が被塗物1の裏面(塗装面ではない側の面)に接触する位置に、被塗物1を保持するものとなっている。
【0025】
次に、この帯電装置10を用いる場合における帯電工程の実施手順を説明する。
【0026】
帯電装置10を用いて帯電工程を行う場合には、まず、被塗物1が、その裏面を導電ローラ11側に向けた姿勢で、帯電装置10(帯電装置10の保持部材)にセットされる。次いで、帯電工程を実際に開始するために、導電ローラ11に1kV程度のバイアス電圧がかかるように、かつ、導電ローラ11が500rpm程度の速度で回転しながら被塗物1を摺動するように、電源15及び駆動機構が操作される。
【0027】
〔静電付着工程〕
静電付着工程は、コロナ帯電方式のスプレーガン等を用いて行われる工程である。既に説明したように、この静電付着工程は、被塗物1の帯電極性(第1極性)とは逆極性に“光重合開始剤を含む粉体塗料”を帯電させる工程である。従って、帯電装置10にて被塗物1を正極性に帯電させている場合には、静電付着工程として、図2に模式的に示したような内容の工程、すなわち、光重合開始剤を含む粉体塗料を、負極性に帯電させて被塗物1の塗装面に吹き付ける工程が行われる。
【0028】
本粉体塗装方法に使用する粉体塗料は、光重合開始剤として、紫外線照射によりラジカルを発生するもの、紫外線照射によりカチオンを発生するもの(光酸発生剤)、紫外線照射によりアニオンを発生するもの(光塩基発生剤)のいずれを含むものであっても良い。また、粉体塗料の他の構成要素も特に限定されない。ただし、樹脂として、ガラス転移点(示差走査熱量計により求めたもの;以下、同様)が比較的に高いものが用いられている粉体塗料を使用すると、低温(60℃程度)の熱処理(及び紫外線照射処理:詳細は後述)で良好な塗膜を形成することが困難になる。そのため、粉体塗料としては、ガラス転移点が−50℃〜0℃程度の樹脂が用いられているものを採用しておくことが望ましい。
【0029】
また、その保存安定性を向上させるために、粉体塗料を、“ガラス転移点が10℃以上、30℃以下の樹脂”からなる外殻を備えたものとしておくことも出来る。ただし、外殻の構成樹脂は、“ガラス転移点が10℃以上、30℃以下であり、かつ、フローテスタ軟化温度(詳細は後述)が50℃以上、70℃以下の樹脂”としておくことが望ましい。何故ならば、粉体塗料に、“ガラス転移点が10℃以上、30℃以下であるが、フローテスタ軟化温度が50℃以上、70℃以下ではない樹脂”からなる外殻を設けておくと、最終的に形成される塗膜の強度が低下する傾向があることが実験結果(詳細は後述)から分かっているからである。
【0030】
また、静電付着工程で形成する粉体塗料層の厚さが、80μm未満であると、塗膜にムラが発生してしまうことも実験により確認できている。また、静電付着工程で形成する粉体塗料層の厚さが、100μmより厚いと、塗膜が剥がれやすくなることも分かっている。そのため、静電付着工程で形成する粉体塗料層の厚さは、80μm〜100μm程度としておくことが望ましい。
【0031】
上記のような内容の静電付着工程により、被塗物1の塗装面上に所望厚さの粉体塗料層が形成できた場合には、静電付着工程及び帯電工程が終了される。
【0032】
そして、塗装面上の粉体塗料層に紫外線を照射する紫外線照射処理を含む,被塗物1に対する比較的に低温(例えば、60℃)の熱処理により、被塗物1上の粉体塗料層を塗膜化(連続膜化)する加熱工程が行われる。
【0033】
すなわち、本粉体塗装方法に使用される粉体塗料には、紫外線が照射されると、樹脂の重合、高分子化を促進する活性種(ラジカル、カチオン、アニオン)を発生する光重合開始剤が含まれている。そして、加熱工程は、紫外線照射工程を含むものであるため、60℃程度の、ABS樹脂等が熱変形しない温度でも、粉体塗料を連続膜化できることになるのである。
【0034】
なお、本粉体塗装方法は、粉体塗料層を連続膜化するための熱処理温度を上記原理で低温化しているものである。従って、本粉体塗装方法を実施する際には、粉体塗料層が溶融/軟化している状態で活性種が発生するようにしておくこと、つまり、被塗物1を或る程度の温度まで加熱した後、紫外線照射処理が行われる加熱工程を採用しておくことが望ま
しい。
【0035】
ここで、上記した粉体塗装方法の開発時に行った実験(以下、開発実験と表記する)の内容を説明しておくことにする。
【0036】
開発実験時には、以下の手順により、粉体塗料#1が製造されている。
【0037】
(1)以下の5種類の材料を以下の重量比となるように用意する。
・樹脂:ガラス転移点が−18℃のポリエステル樹脂(東洋紡製バイロンBX1001)、88.5重量部、
・帯電性制御剤:カリックスアレン化合物(オリエント化学工業株式会社製BONTRON E-89)、2重量部
・導電性・帯電性制御剤:針状酸化チタン(石原テクノ株式会社製FT-1000)、3重量部
・着色剤:赤顔料(DIC製KET Red 338)、5重量部
・光重合開始剤:カンファーキノン (東京化成工業製)、0.5重量部
(2)用意した5材料を、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機社製FM-75型)に投入し
、2000rpmで1分間混合する。
(3)ヘンシェルミキサーによる混合物を、40℃に加熱したニーダ(井上製作所製KH-3-S)を用いて、30分間溶融混練する。
(4)ニーダによる混練物を冷却後、液体窒素で冷却し、ハンマーミルで粉砕する。
(5)ハンマーミルによる粉砕物を、気流式の粉砕器によって粉砕分級することにより、体積平均粒径が20μmの粉体塗料#1を得る。
【0038】
同様の手順で、光重合開始剤の添加量のみを、それぞれ、0.05重量部、0.1重量部、0.5重量部、4重量部に変更した粉体塗料#2〜#5が、製造されている。また、樹脂のみを、ガラス転移点が10℃のポリエステル樹脂(東洋紡製バイロンGK680)に変更した粉体塗料#6、及び、樹脂のみを。ガラス転移点が−55℃のアルキルフェノール樹脂(荒川化学工業製)に変更した粉体塗料#7も製造されている。
【0039】
さらに、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製)により粉体塗料#1の表面に各種樹脂(樹脂粉末)からなる外殻を設けた粉体塗料も、製造されている。具体的には、以下の構成を有する粉体塗料#8〜#11が製造されている。
【0040】
粉体塗料#1の表面に、ガラス転移点が30℃、フローテスタ軟化温度が70℃のポリエステルからなる外殻を設けた粉体塗料#8
粉体塗料#1の表面に、ガラス転移点が10℃、フローテスタ軟化温度が50℃のポリエステルからなる外殻を設けた粉体塗料#9
粉体塗料#1の表面に、ガラス転移点が5℃、フローテスタ軟化温度が30℃のポリエステルからなる外殻を設けた粉体塗料#10
粉体塗料#1の表面に、ガラス転移点が15℃、フローテスタ軟化温度が80℃のポリエステルからなる外殻を設けた粉体塗料#11
【0041】
なお、上記した各フローテスタ軟化温度は、フローテスタ(島津フローテスタCFT−500:島津製作所)を用いて行った,以下の条件での昇温フローテストで、4mmプランジャーが降下した時の温度である。
ダイ :1mm×1mmφ, 昇温温度 :6℃/分
サンプル :1.5g ペレット 荷重 :20kgf
予熱温度 :60℃
予熱時間 :300秒
【0042】
そして、開発実験時には、被塗物1としての厚さ5mmのエポキシ樹脂板又はポリカABS板上に、各粉体塗料#X(X=1〜11)を上記した塗膜形成方法にて形成した各種試験片が作成されている。
【0043】
より具体的には、開発実験時には、以下の手順で各種試験片が作成されている。
【0044】
まず、被塗物1(厚さ5mmのエポキシ樹脂板又はポリカABS板)を、上記した帯電装置10(図1参照)に、その裏面を導電ローラ11側に向けた姿勢でセットする。次いで、導電ローラ11に1kVのバイアス電圧がかかるように、かつ、導電ローラ11が500rpmの速度で回転しながら被塗物1を摺動するように、電源15及び駆動機構を操作する。
【0045】
その後、コロナ帯電方式のスプレーガンを用いて、粉体塗料#Xを、負帯電させた上で、被塗物1の塗装面に吹き付ける(図2参照)ことにより、被塗物1の塗装面上に所望厚さの粉体塗料#X層を形成する。
【0046】
そして、粉体塗料#X層を形成した被塗物1を、評価対象温度(例えば、60℃)の環境下に評価対象時間(例えば、10分)保持した後、当該被塗物1上の粉体塗料#X層に紫外線を短時間(例えば、1分)照射する加熱工程を行うことによって、試験片を得る。
【0047】
ここで、図3を用いて、試験片作成時に行った加熱工程(以下、試験片作成用加熱工程と表記する)の内容を具体的に説明しておくことにする。
【0048】
試験片作成用加熱工程には、図3に示した構成を有する熱処理装置20、すなわち、単純な熱処理を行える部分20aと、紫外線ランプ21から紫外線を照射しつつ熱処理を行える部分20bとを有する熱処理装置20が使用されている。
【0049】
この熱処理装置20の部分20bは、紫外線ランプ21としてのキセノンフラッシュランプを、隣り合うランプ同士のランプ中心軸間隔が36mmとなり、ランプ中心軸からランプ窓までの距離が25mmになるように配置したものである。なお、この熱処理装置20に、紫外線ランプ21として使用されているキセノンフラッシュランプは、ウシオ電機株式会社製の内径10.5mm、アーク長200mmの、上記配置における発光エネルギー密度が、およそ4.5J/cm2となるランプである。
【0050】
また、この熱処理装置20は、部分20bの図における左右方向の長さが、部分20aのそれよりも長い装置であると共に、板状部材を、部分20a内側から部分20b内側へ搬送できる搬送機構(図示略)を備えた装置となっている。
【0051】
要するに、熱処理装置20は、搬送機構に、粉体塗料#X層を塗装面上に形成した被塗物1を搬送させれば、当該被塗物1に対して上記内容の加熱工程を行える装置(かつ、上記内容の加熱工程を、多数の被塗物1に対して連続的に行える装置)となっている。そのため、試験片作成用加熱工程としては、熱処理装置20の内部温度を60℃等に設定した上で、粉体塗料#X層を塗装面上に形成した被塗物1を搬送機構に搬送させる工程が行われている。
【0052】
また、開発実験時には、上記のような試験片と共に、紫外線照射を行うことなく粉体塗料#Xの連続膜化を図った試験片も作成されている。
【0053】
そして、開発実験時には、作成した各試験片上の塗膜の強度をいわゆる剥離試験により評価することが行われている。なお、実際に行った剥離試験は、塗膜中央の50mm×5
0mmの部分を幅5mmにクロスカットすることにより100個のマス目を形成してから、セロハンテープにてそれらの剥離を試み、剥離せずに残ったマス目の数(以下、残存マス目数と表記する)を計数する試験である。
【0054】
また、開発実験時には、各粉体塗料#Xの平均粒径を、40℃の環境下に30日間放置した後に測定し、測定値の,製造直後の平均粒径からの増大率(以下、平均粒径増大率と表記する)を求めることも行われている。
【0055】
図4に、開発実験時に作成した各試験片(代表的なもの)についての塗膜強度の測定結果等を示す。なお、この図4における“塗膜強度”欄や“保存安定性”欄に示されている◎、○、△、×は、以下のことを意味する記号である。また、この図4における加熱温度とは、加熱工程における熱処理温度のことである。
【0056】
〔塗膜強度〕
◎:残存マス目数≧95個
○:95個>残存マス目数≧80個
△:80個>残存マス目数≧70個
×:70個>残存マス目数
【0057】
〔保存安定性〕
◎:平均粒径増加率≦5%
○:5%<平均粒径増加率≦10%
△:10%<平均粒径増加率≦20%
×:20%<平均粒径増加率
【0058】
図4に示してある,試料片2、3の塗膜強度から明らかなように、粉体塗料#1をエポキシ樹脂板に付着させてから、単純な熱処理により粉体塗料#1の塗膜化を図ったのでは、加熱温度を100℃まで上げても、高い強度を有する塗膜を形成することはできない。
【0059】
一方、粉体塗料#1をエポキシ樹脂板/ポリカABS板に付着させた後、付着させた粉体塗料#1の塗膜化時に紫外線を照射するようにすれば(試料片1、4)、60℃という低い温度で、高い強度を有する塗膜を得ることが出来る。
【0060】
これらの実験結果は、光重合開始剤を含む粉体塗料を採用した上で、粉体塗料の塗膜化時に紫外線を照射するようにすれば、低温で、高い強度を有する塗膜を得ることが出来ることを示すものである。
【0061】
ただし、光重合開始剤の含有量のみが粉体塗料#1と異なる粉体塗料#2〜#5を用いて形成した試料片5〜8の実験結果から明らかなように、粉体塗料に含める光重合開始剤の量が過度に少ないと(試料片5)、高強度の塗膜を得ることが出来ない。また、粉体塗料に含める光重合開始剤の量が過度に多いと(試料片8)、塗膜表面に油分が析出してしまう。そのため、粉体塗料に含める光重合開始剤の量は、形成される塗膜の強度や塗膜表面に油分が析出するか否か(及び、使用する光重合開始剤のラジカル/カチオン/アニオン生成の量子効率等)を考慮して決定しておくことが望ましい。
【0062】
また、粉体塗料#6を用いて形成した試料片9の塗膜強度が極めて弱くなっていることから明らかなように、粉体塗料の構成樹脂として、ガラス転移点が比較的に高いものを採用すると、紫外線照射を伴う低温の熱処理では良好な塗膜を形成することが困難になる。そのため、粉体塗料の構成樹脂としては、ガラス転移点が−50℃〜0℃程度の樹脂を採用しておくことが望ましい。
【0063】
ただし、粉体塗料の構成樹脂として、ガラス転移点が比較的に低い樹脂を採用すると(粉体塗料#1〜#5、#7)、ガラス転移点が高い樹脂を採用した場合(粉体塗料#6)よりも、粉体塗料の保存安定性が悪くなる。
【0064】
そして、粉体塗料#8〜#11についての保存安定性の評価結果から明らかなように、粉体塗料に、粉体塗料の構成樹脂よりもガラス転移点が高い樹脂からなる外殻を設けておけば、保存安定性を向上させることが出来る。そのため、粉体塗料には、粉体塗料の構成樹脂よりもガラス転移点が高い樹脂からなる外殻を設けておくことが好ましい。
【0065】
しかしながら、粉体塗料の外殻の構成樹脂を、ガラス転移点が過度に低いものとしておくと(粉体塗料#10)、高い強度を有する塗膜を形成することが困難になる(試料片13)。また、粉体塗料の外殻の構成樹脂を、ガラス転移点はさほど低くないが、フローテスタ軟化温度が過度に高い樹脂としておいても(粉体塗料#11)、高い強度を有する塗膜を形成することが困難になる(試料片14)。
【0066】
従って、本粉体塗装方法に使用する粉体塗料の外殻の構成樹脂は、“ガラス転移点が10℃以上、30℃以下の樹脂”、特に、“ガラス転移点が10℃以上、30℃以下であり、かつ、フローテスタ軟化温度が50℃以上、70℃以下である樹脂”としておくことが望ましい。
【0067】
《変形形態》
上記した実施形態に係る粉体塗装方法は、各種の変形を行えるものである。例えば、既に説明したように、帯電工程は、被塗物を摺動可能であると共に、バイアス電圧を印加可能な導電ローラを備えた装置でありさえすれば、どのような構成の装置を使用しても行えるものである。従って、帯電工程に、上記した帯電装置10ではなく、上記した導電ローラ11とは具体的な構成の異なる導電ローラを備えた装置を使用することも出来る。また、導電ローラ11(又は、導電ローラ11とは具体的な構成の異なる導電ローラ)に、上記電圧とは異なる電圧を印可しても良いことや、加熱工程として、上記したものとは具体的な内容が異なる工程を採用しても良いことなどは、当然のことである。
【符号の説明】
【0068】
1 被塗物
10 帯電装置
11 導電ローラ
12 軸
13 繊維
15 電源
20 加熱装置
21 紫外線ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有する被塗物上を摺動可能に設けられた導電ローラに第1の極性を有するバイアス電圧を印加し前記被塗物が帯電するように前記導電ローラを前記被塗物に接触させる工程と、
前記導電ローラによって帯電された前記被塗物に、少なくとも樹脂、着色剤、光重合開始剤を含む粉体塗料を、前記第1の極性とは逆極性に帯電させて静電付着させる工程と、
前記被塗物に静電付着させた粉体塗料を、紫外線照射処理を含む熱処理により連続膜化する加熱工程と、
を含むことを特徴とする粉体塗装方法。
【請求項2】
前記粉体塗料に含まれる前記樹脂が、
ガラス転移点が−50℃以上、0℃以下の樹脂である
ことを特徴とする請求項1に記載の粉体塗装方法。
【請求項3】
前記粉体塗料の表面に、ガラス転移点が10℃以上、30℃以下の樹脂にて形成された外殻が設けられている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の粉体塗装方法。
【請求項4】
前記外殻を形成している前記樹脂が、フローテスタ軟化温度が50℃以上、70℃以下の樹脂である
ことを特徴とする請求項3に記載の粉体塗装方法。
【請求項5】
前記加熱工程が、
前記被塗物を所定温度まで加熱した後に、前記紫外線照射処理が行われる工程である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の粉体塗装方法。
【請求項6】
バイアス電圧を印可した導電ローラによって帯電させた,絶縁性を有する被塗物に静電付着させた後、紫外線照射処理を含む熱処理により連続膜化する粉体塗料であって、
少なくとも、樹脂、着色剤、光重合開始剤を含む
ことを特徴とする粉体塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−147862(P2011−147862A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9942(P2010−9942)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】