説明

粉塵防止用カバーの固定具

【課題】コアドリル等の穿孔刃物を用いる際に使用する粉塵防止カバーの固定具について、その固定作業を速やかに且つ強固できるものを提供する。
【解決手段】粉塵防止カバー用固定具1は、固定具本体10、固定具本体10の下端縁部に取り付けられるスポンジゴムからなる環状のシール部材20、板状の押さえ部材30を備える。固定具本体10には、その上面中央部に逆止弁を有するノズル11が取り付けられた排気口12が形成されている。押さえ部材30は、粉塵防止カバーに接触する側の辺が曲線となるように形成され、丸型の粉塵防止カバーの押さえに好適化されている。そして、粉塵防止カバーを穿孔面に設置し、固定具1を粉塵防止カバーPの周囲に配置した後、固定具本体10を吸気し、その内部を負圧化して固定することで、粉塵防止カバーが穿孔面に強固に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物、石材、岩盤、鉄鋼構造物等の被削物にコアドリル、ハンマードリル等の穿孔刃物で穿孔する際に用いられる粉塵防止カバーを、作業面に固定するための固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コアドリル、ハンマードリル等の穿孔刃物による作業においては、加工部位から被加工材の破片や粉塵が生じる。また、穿孔作業においては、粉塵の飛散の防止及び穿孔刃物の冷却のため、穿孔位置に水を供給しながら作業を行うことが多い。そこで、このような作業においては、粉塵や供給した水の飛散を拡大させないため、穿孔位置における加工工具先端を包囲する粉塵防止カバー(以下、単に「カバー」と表記するときがある)を配置するのが一般的である。
【0003】
図5は、コアドリルにおける穿孔作業で用いられる粉塵防止カバー(水処理パッド)100を示すものである。粉塵防止カバー100は、略筒形状(円筒形状)をしており、穿孔位置を包囲するように被加工物の穿孔面に設置されるものである。また、この粉塵防止カバー100は、カバー本体101の側面に排水口102(ドレン)を有し、内部の水・粉塵を排出可能とする。この水処理パッド100を用いて穿孔を行う場合は、穿孔刃物内の中空部を通して穿孔位置に給水し、供給した水をドレン102から排出しながら穿孔を行う。このようにすることで穿孔時に生じた破片や粉塵が水と共に穿孔位置から排出され、破片等の飛散が防止できる。
【0004】
このような粉塵防止カバーを用いる穿孔作業には、回転する穿孔刃物の振動によるカバーのズレ、及び、切削水・粉塵の漏れを防止するためにカバーの固定が必要である。カバーの固定方法としては、図6のような固定具による固定方法がある。これらの固定具は、樹脂、ばね等の弾性体やネジを利用して、パッドを部分的に被穿孔対象物の穿孔面に押圧して固定するものである。そして、パッドのサイズや穿孔位置に応じて、その設置位置及び設置数を調整して使用される。
【特許文献1】特開2003-094433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固定具による粉塵防止カバーの固定は、当然ながら強固なことが求められ、カバーが穿孔面に隙間なく密着し、かつ、その状態を作業終了まで維持できることが望ましい。しかしながら、上記のような従来の固定具は、必ずしもこの要求に十分対応できるものではなかった。
【0006】
従来の固定具による固定が不十分である理由としては、まず、その構造にあるといえる。図6のような固定具は、それ自体の固定をその本体部分に設置された数箇所のネジによるものが多い。このようなネジ方式の固定は、作業当初はある程度強固な固定ができても、その後の振動によりネジが緩むことが多い。また、ネジ方式の固定は、固定が強固となるまでのねじ込みが必要であり、作業時間を要するという問題もある。
【0007】
従来の固定具による固定が不十分である他の理由としては、固定される粉塵防止カバーにもその要因がある。というのも、この種の粉塵防止カバーには統一された規格がなく、そのサイズはメーカー等により様々である。その場合、カバー毎に最適な仕様の固定具を用意するのが理想ではあるが、コスト的側面等から困難なものである。そのため、実際の作業において、作業者は使用する粉塵防止カバーに対して、所有する固定具を選択して対応せざるを得ない。しかし、近年の加工装置の技術進歩から、従来品より大口径の穿孔刃物の使用が可能となり、粉塵防止カバーも大型のものが使用されるようになり、従来の固定具では対応し難くなっている。
【0008】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、コアドリル等の穿孔刃物を用いる際に使用する粉塵防止カバーの固定具について、その固定作業を速やかに且つ強固できるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、穿孔位置を包囲するように配置される粉塵防止カバーを穿孔面に固定するための固定具であって、前記粉塵防止カバーの周囲に配置され、その内部を負圧化させることにより穿孔面に吸着するようになっている固定具本体と、前記固定具本体に接続され、前記粉塵防止カバーの一部に面接触しつつ粉塵防止カバーを穿孔面方向へ押圧するよう成形された板状の押さえ部材とからなる粉塵防止カバー用の固定具である。
【0010】
本発明は、穿孔面への固定具本体の固定について、その内部の負圧化による密着力を利用する。この密着力は、固定具本体の端面全体において作用するものであり均一なものである。そして、固定具本体内の負圧を維持することで、一定の密着力を維持して固定される。また、固定具本体の負圧化は吸引により可能であり、固定具本体の内容積に応じた吸引装置の能力を調整することで迅速な固定も可能である。
【0011】
そして、固定具本体は、内部の吸引のため、側面又は上面に排気ノズルを備えるものが好ましい。また、この排気ノズルには逆止弁を供えるのがより好ましい。粉塵防止カバーの固定を継続するためには、固定具本体内部の負圧化を維持する必要がある。その場合、その内部を吸引し続けるためには、そのための設備が必要となり煩雑である。排気ノズルに逆止弁を設置することで、吸引を解除しても本体内部の負圧を維持することができる。
【0012】
また、粉塵防止カバーを抑える押さえ部材は、固定具本体に対して着脱可能であるものが好ましい。これにより、使用する粉塵防止カバーに対応した形状の押さえ部材を複数用意し、任意に取替えて使用することができる。更に、押さえ部材の固定位置は、作業現場の状況に応じて調整可能となるよう、可変なものとすることが好ましい。
【0013】
尚、固定具本体の下端縁には、弾性材料からなる環状シール部材を備えるものが好ましい。穿孔面は凹凸があることが多いため、固定具本体の下部に追従性を持たせて穿孔面に密着させ、粉塵・水の漏洩を防止するためである。環状シール部材の材質としては、具体的には単泡スポンジゴムが好ましい。固定具本体を穿孔面に押圧した際に縮小し、穿孔面との密着性や固定具本体内の空間の縮小を図ることができるからである。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、従来の固定具とは異なる方式の固定方法を採用し、粉塵防止カバーをより強固に固定することができる。この強固な固定は、長時間維持可能であり安定的な作業を保証する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る粉塵防止カバー固定具の具体例を示しつつ、本発明をより詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る粉塵防止カバー固定具の各部材を示すものである。本実施形態に係る固定具1は、固定具本体10、固定具本体10の下端縁部に取り付けられるスポンジゴムからなる環状のシール部材20、板状の押さえ部材30を備える。
【0016】
本実施形態の固定具本体10は、角部分が面取りされた矩形(小判型)の筐体であるが、その形状については特に限定はなく、面取りのない四角型の他、丸型、楕円型であっても良い。また、その材質は、樹脂製、金属製いずれでも良く、負圧化された際に変形が生じないものであれば良い。
【0017】
固定具本体10には、その上面中央部に、逆止弁を有するノズル11が取り付けられた排気口12が形成されている。排気口12の形成位置については、上面に限定されることはなく側面でも良いが、作業性を考慮すると上面に設置するのが好ましい。また、図2は、固定具1の断面図であるが、排気口12に設置されるノズル11の逆止弁はボール式の逆止弁である。但し、逆止弁の形式に限定はなく、スイング式の逆止弁等も適用できる。尚、固定具本体10の下端縁部のシール部材20の取り付けは、固定部本体の下端縁に凹部を形成し、ここにシール部材を嵌合して固定している。
【0018】
押さえ部材30は、本実施形態では平板状の板材であるが、対応する粉塵防止カバーの寸法・形状に合わせて折り曲げたものであっても良い。例えば、高さのある粉塵防止カバーの上面を押さえるために、押さえ部材を断面略Z字形状に折り曲げても良い。押さえ部材の形状を調整・成形することで、固定具本体の高さ(容積)をいたずらに大きくする必要がなくなり、排気効率を損なうことがなくなる。押さえ部材30は、粉塵防止カバーに接触する側の辺が曲線となるようにR(アール)が形成されている。これは、丸型の粉塵防止カバーに抑え部材を効果的に接触させるためのものであり、Rの有無やその曲率は適宜に調整したものが用いられる。押さえ部材30の固定具本体10の接続・固定は、押さえ部材30に設けられた縦長のネジ孔31に、固定具本体10に設置されたボルト13を挿入し、これに蝶ネジ40を締め付けて固定する。この際、押さえ部材30は、蝶ネジ40が完全に締め付けられるまで、縦長のネジ孔31に沿ってスライド可能であり、その位置調整が可能となる。
【0019】
次に、本実施形態に係る固定具1を用いた、粉塵防止カバーの固定及び穿孔作業について説明する。穿孔作業においては、まず、穿孔位置の位置決めを行って粉塵防止カバーを穿孔面に設置する。この際、通常は、粉塵防止カバーの中心位置と穿孔位置とが一致するようにする。そして、図3のように、予め仮組みした固定具1を粉塵防止カバーPの周囲に配し、カバーPの平坦な鍔部分に、固定具1の押さえ部材30を当接し、位置決めした後に蝶ネジ40を締め付けて固定する。本実施形態においては、2個の固定具1を使用して両者を対称位置に配している。但し、固定具の使用個数は、粉塵防止カバーのサイズに応じて適宜に選択し、また、設置位置についても均一にカバーを押圧できるのであれば特に固定されるものではない。
【0020】
固定具の設置が完了したら、まず、固定具本体10の吸引を行う。この吸引は、それ専用の吸引装置を用意・使用しても良い。但し、通常、粉塵防止カバーを使用する作業においては、バキューム式クリーナーを使用し排気口Oから粉塵防止カバーP内の粉塵等を吸引しつつ作業を行うことから、固定具1の固定の際にそのバキューム式クリーナーをノズル11に接続して吸引し、固定具の吸引が完了した後にキューム式クリーナーを外して、粉塵防止カバーPの排気口Oに接続するのが便宜である。このようにすることで、吸引装置を2重に用意する必要はなくなる。また、固定具1のノズル11は逆止弁を備えていることから、バキュームを外しても内部の負圧が破れることなくカバーは穿孔面に固定されたままとなる。
【0021】
固定具本体10の吸引により、その下端縁のシール部材20が縮み固定具本体10は穿孔面に密着状態となる。これを各固定具について行うことで、粉塵防止カバーPは押さえ部材30を介して固定具1により固定される。
【0022】
粉塵防止カバーPの固定後の穿孔作業は、一般的な工程と何ら変わることはなく、カバーPの開口部にコアドリル等の穿孔刃物を挿入し、排気口Oから吸引しつつ穿孔刃物を回転させて作業する。その間、固定具1内部の負圧が維持されており、作業時の振動等によっても粉塵防止カバーPの位置ズレが生じることはない。作業終了後は、固定具のノズル11の逆止弁をリリースすることで、固定具本体10が穿孔面から外れ、粉塵防止カバーPも取外すことができる。
【0023】
尚、本願に係る固定具は、穿孔刃物による穿孔位置が粉塵防止カバーの中心位置と一致しないような場合でも有効である。例えば、図4のように、角度を有する斜めの穿孔作業を行う場合、穿孔位置が粉塵防止カバーPの中心位置から外れることとなる。このような場合でも、コアドリルCが粉塵防止カバーPに近接するが、本願に係る固定具は、コアドリルに接触することなくカバーPを支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係る粉塵防止カバーの固定具を示す図。
【図2】本実施形態に係る粉塵防止カバーの固定具の断面を示す図。
【図3】本実施形態に係る粉塵防止カバーの固定具の使用状態を示す図。
【図4】本実施形態に係る粉塵防止カバーの固定具の使用状態を示す図(斜め穿孔)。
【図5】コアドリルによる穿孔作業で用いられる粉塵防止カバーの一例を示す図。
【図6】従来の粉塵防止カバーの固定具の例を示す図。
【符号の説明】
【0025】
1 固定具
10 固定具本体
11 ノズル(逆止弁)
20 シール部材
30 押さえ部材
P 粉塵防止カバー
O 排気口
C コアドリル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿孔位置を包囲するように配置される粉塵防止カバーを穿孔面に固定するための固定具であって、
前記粉塵防止カバーの周囲に配置され、その内部を負圧化させることにより穿孔面に吸着するようになっている固定具本体と、
前記固定具本体に接続され、前記粉塵防止カバーの一部に面接触しつつ粉塵防止カバーを穿孔面方向へ押圧するよう成形された板状の押さえ部材とからなる粉塵防止カバー用の固定具。
【請求項2】
固定具本体は、側面又は上面に排気ノズルを備え、前記排気ノズルは逆止弁を有する請求項1記載の粉塵防止カバー用の固定具。
【請求項3】
固定具本体に接続された押さえ部材は、着脱可能であり、かつ、その固定位置可変に接続される請求項1又は請求項2記載の粉塵防止カバー用の固定具。
【請求項4】
固定具本体の下端縁に、弾性材料からなる環状のシール部材を備える請求項1〜請求項3のいずれかに記載の粉塵防止カバー用の固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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