説明

粉末状酵素及びそれを用いた造粒物

【課題】酵素の失活も見られず、しかも、自由流動性及び保存時における凝集性が改善された粉末状酵素製剤及びこれを用いた造粒物の提供。
【解決手段】酵素及び該酵素タンパク量の0.2〜10重量%のアルキルエーテル硫酸塩又はアルキル硫酸塩を含有することを特徴とする粉末状酵素製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自由流動性、保存時における凝集性が改善された粉末状酵素製剤及びこれを含有する造粒物に関する。
【背景技術】
【0002】
衣料用の洗浄剤や漂白剤には、洗浄作用を高める目的で各種の酵素が配合されることが多い。これらの酵素は、保存中に失活せず、洗浄工程中で活性を十分発揮させるために、通常、粉末状酵素製剤として又はこれを顆粒状に造粒したものが配合されている。粉末状酵素製剤は、通常、噴霧乾燥法により製造されるが、酵素水溶液のような低濃度スラリーから粉末状酵素製剤を製造した場合、得られる製剤の自由流動性が必ずしも十分でなく、また、保存時に吸湿して凝集することが認められている。このために、これを用いた造粒物を調製する際及び/又は洗浄剤や漂白剤に配合する際のハンドリングが困難になり、また酵素の失活が起こるといった問題が発生する。
【0003】
一般に、粉末状製剤の物性は乾燥装置の運転条件をコントロールすることにより調整されているが、これには限界がある。また、噴霧するスラリーについては、これを高濃度化することによりその物性の改善を図ることも可能であるが、過度にスラリー中の水分量を減少させると、スラリーの粘度が上昇し、例えば噴霧乾燥法にて乾燥を行うことによって酵素粉末を得る場合、噴霧が困難になるという問題がある。また、スラリーを高濃度化することにより酵素の析出が起こるため、回収率の低下も認められる。他に、粉末状酵素製剤の物性の改善には乾燥助剤の添加も効果はあるが、その添加量に制限があり、大量に使用すると酵素活性が低下するという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、酵素の失活も見られず、しかも、自由流動性及び保存時における凝集性が改善された粉末状酵素製剤及びこれを用いた造粒物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは粉末状酵素製剤の流動性向上につき種々検討した結果、全く意外にも加水分解酵素等の酵素と少量のイオン性界面活性剤とを均一に分散して共存させても当該酵素は失活せず、しかも自由流動性及び保存時における凝集性が改善された粉末状酵素製剤が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、酵素及び該酵素タンパク量の0.2〜10重量%のイオン性界面活性剤を含有することを特徴とする粉末状酵素製剤を提供するものである。
また、本発明は、酵素タンパク量の0.2〜10重量%のイオン性界面活性剤を含有する酵素水溶液を噴霧乾燥することを特徴とする上記粉末状酵素製剤の製造法を提供するものである。
更に本発明は、上記粉末状酵素製剤及びバインダーを含有することを特徴とする酵素含有造粒物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の酵素含有造粒物は、洗浄剤組成物の配合成分として有用であり、これを配合した洗浄剤組成物は、衣料用、食器用、住居用等の洗浄剤として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いられる酵素としては、漂白剤や洗浄剤に配合される酵素であれば特に制限されない。具体的にはプロテアーゼ、エステラーゼ、カルボヒドラーゼ、リアーゼ等が挙げられる。
【0009】
プロテアーゼの具体例としては、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、コラーゲナーゼ、ケラチナーゼ、エラスターゼ、ズブチリシン、パパイン、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ等が挙げられる。
【0010】
エステラーゼの具体例としては、ガストリックリパーゼ、パンクレアチックリパーゼ、植物リパーゼ類、ホスホリパーゼ類、コリンエステラーゼ類、ホスファターゼ類等が挙げられる。
【0011】
カルボヒドラーゼとしては、セルラーゼ、マルターゼ、サッカラーゼ、アミラーゼ、ペクチナーゼ、α−及びβ−グリコシダーゼ等が挙げられる。リアーゼとしては、カルボキシ脱離酵素、アルデヒド脱離酵素、オキソ酸脱離酵素、ヒドロリアーゼ、多糖に作用する脱離酵素、アンモニアリアーゼ等が挙げられる。
【0012】
本発明に用いられるイオン性界面活性剤のうち、アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキル又はアルケニルエーテル硫酸塩(AES)、アルキル又はアルケニル硫酸塩(AS)、オレフィンスルフォン酸塩(AOS)、アルカンスルフォン酸塩、飽和又は不飽和脂肪酸塩、アルキル又はアルケニルエーテルカルボン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩又はエステル、アミノ酸型界面活性剤、N−アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキル又はアルケニルリン酸エステル又はその塩、カルボン酸型高分子界面活性剤などが挙げられる。両性界面活性剤としては、カルボキシ又はスルホベタイン型界面活性剤などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩などが挙げられる。
本発明においてはこれらのうちアルキル又はアルケニルエーテル硫酸塩(AES)、アルキル又はアルケニル硫酸塩(AS)が特に好ましい。
【0013】
本発明の粉末状酵素製剤においてイオン性界面活性剤の含有量は酵素タンパク量の0.2〜10重量%であるが、その添加量が0.2重量%未満では物性の改善効果が得られず、また添加量が10重量%を超えると酵素の失活が起こるので好ましくない。なお、ノニオン性界面活性剤では物性の改善効果は認められなかった。
【0014】
本発明の粉末状酵素製剤には、製剤の比活性を一定に保つための希釈剤(例えば増量剤、充填剤等)、乾燥促進剤、緩衝剤等を必要に応じて配合することができる。乾燥促進剤としては、例えば塩化カルシウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。増量剤又は充填剤としては例えば硫酸塩、ハロゲン化物、炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩等が挙げられる。より具体的には以下の化合物が挙げられる。
【0015】
硫酸塩:硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸第1鉄、チオ硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム
ハロゲン化物:塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化カリウム
炭酸塩:炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム
リン酸塩:リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸2水素カリウム、ピロリン酸ナトリウム
ケイ酸塩:ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシウム
ホウ酸(塩):ホウ砂、ホウ酸カリウム、ホウ酸
糖類:全ての単糖、全ての2糖、例えばマルトース型2糖類及びトレハロース型2糖類
【0016】
これらは1種を単独で又は2種以上を混合して使用される。また、造粒又は酵素剤の分野で公知の着色剤、安定剤等も適宜使用でき、更に、賦香剤、消香剤、帯電防止剤等も使用できる。
【0017】
本発明の粉末状酵素製剤は、所定量のイオン性界面活性剤を含有する酵素水溶液を常法に従って処理することにより製造されるが、1〜20%濃度のスラリーを噴霧乾燥により固形化する方法が特に好ましい。ここで、当該酵素水溶液中には、目的とする粉末状酵素製剤の組成に必要な成分が全て配合されていることが好ましい。
【0018】
噴霧乾燥により本発明の粉末状酵素製剤を製造するには、通常の噴霧乾燥機を用いて、上記酵素水溶液を乾燥すればよい。噴霧乾燥機には、通常ノズル型とディスク型とがあるが、目的とする酵素製剤の粒径により使い分けることができる。小さい粒径(1μm 以下)の製剤を製造する場合はノズル型が好ましく、大きい粒径の製剤を製造する場合はディスク型が好ましい。
【0019】
乾燥機における熱風温度は、100〜200℃、特に130〜170℃が好ましく、排風温度(酵素水溶液の温度に相当する)は、50〜100℃、特に60〜100℃が好ましい。
【0020】
このようにして得られる粉末状酵素製剤を造粒するには、造粒に必要な添加剤を配合し、常法に従って造粒すればよい。
かかる添加剤としては、バインダーが挙げられる。ここでバインダーとしては、水溶性有機バインダー、特に(a)融点が35℃以上のポリエチレングリコール及びその誘導体、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体からなる群より選ばれる水溶性高分子、(b)融点或いは流動点が35℃以上のノニオン性界面活性剤、(c)平均分子量が4000以上のポリカルボン酸塩等の一種或いは2種以上が挙げられる。
【0021】
特に好ましい水溶性有機バインダーとしては、(a)のポリエチレングリコール及びその誘導体として、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール硫酸、メトキシポリエチレングリコール等が挙げられ、(b)のノニオン性界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、(c)のポリカルボン酸塩としてはポリアクリル酸、アクリル酸マレイン酸共重合体、ポリアセタールカルボキシレート等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0022】
また特にこれらの水溶性有機バインダーは、洗剤に使用される成分でもあるので有用である。通常の水溶性有機バインダーの使用量は、バインダー毎に性質の相違があるので一概にはいえないが、得られる酵素造粒物の酵素活性をできるだけ高めるためにはできるだけ少量でバインダー効果が発現するものが一般には好ましい。そのため、これらの水溶性有機バインダーは、酵素造粒物中、通常5〜50重量%、好ましくは10〜30重量%含有される。
【0023】
本発明においては、更に必要に応じて粉末状の増量剤を添加することができる。増量剤としてはアルカリ金属或いはアルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、塩酸塩からなる群より選ばれる一種或いは二種以上の無機塩が用いられる。すなわち、なかでも硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム等の水溶性無機アルカリ金属塩が洗浄への影響等を考えると好ましい。また他の増量剤としてクエン酸ナトリウム等の水溶性有機酸塩、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、ゼオライト、炭酸マグネシウム、活性白土、カオリン、ケイソウ土、ベントナイト、パーライト、酸性白土等が挙げられる。
【0024】
更に、本発明の造粒物には、各種のカルシウム塩、マグネシウム塩等の無機塩、或いは界面活性剤、糖、カルボキシメチルセルロース等の有機物を用いることも可能である。更に、合成ヘクトライトやセピオライトを配合して、培養に由来する有臭成分を吸着させることもできる。また、色素や染料を配合して、酵素顆粒に着色することも任意である。
【0025】
造粒手段としては特に制限されず、湿式造粒、乾式造粒のいずれでもよく、造粒方法としては押し出し造粒、転動造粒、解砕造粒、流動層造粒、噴霧造粒、破砕造粒等が挙げられる。このうち、転動造粒法、特に攪拌転動造粒法が好ましい。攪拌転動造粒機の具体例としては、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株))、ハイスピードミキサー(深江工業(株))、バーチカルグラニュレーター(富士産業(株))等を挙げることができる。これらの共通点は、堅形の混合槽内部に攪拌羽根を取付けた垂直な攪拌軸を持つことである。水平の攪拌軸を有する模型の造粒機であるレディゲ・ミキサー(レディゲ社)もまた同様に用いることができる。
【0026】
かくして得られた造粒物の粒径は特に制限されないが、平均粒径として200〜3000μm、特に350〜1500μmが好ましい。
【0027】
本発明酵素含有造粒物は、被覆しなくても用いることができるが、被覆をすると更に安定性が向上するので望ましい。本発明酵素含有造粒物の被覆剤としては、特に制限されないが、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体、デンプン誘導体等の水溶性被膜形成ポリマー;これらのポリマーとタルク、クレー、酸化チタン、炭酸カルシウム等の水溶性又は難溶性無機粒子又はアルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ金属炭酸塩等の保護剤等との組み合わせが挙げられる。
被覆剤は酵素含有造粒物に対し重量比で0.01〜0.7、特に0.05〜0.6の割合で用いるのが好ましい。
【0028】
本発明酵素含有造粒物の被覆方法としては、流動層造粒機、コーティングパン式造粒機、攪拌造粒機等の装置により常法により被覆する方法が挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
実施例1
(1) 酵素水溶液として、プロテアーゼ活性を有する粗酵素(Bacillus sp. KSM-K16(FERM P-3367)由来)を含む水溶液(酵素タンパク濃度:7.5重量%)を用いた。この水溶液に、水溶液中の酵素タンパク量に対し、10重量%となるように表1に示す各種界面活性剤を添加し、酵素水溶液を調製した。
(2) コントロール(界面活性剤なし)及び(1)で得た酵素水溶液をアトマイザー式噴霧乾燥機にて熱風温度150℃、排風温度75℃で噴霧乾燥し、粉末状酵素製剤(粒径10〜50μm )を得、以下の方法により安息角、崩潰角、差角及び凝集度を測定した。結果を表1に示す。これらはすべてパウダテスタ(ホリカワミクロン(株)製)を用いて測定した。残存酵素活性はいずれの粉末状酵素製剤も約92%であった。
【0031】
(安息角の測定)
粉末状酵素製剤を、フルイ(目開き710μm )に乗せ、フルイを振動させ、製剤をロートを通じて注入法により測定し、安息角とした。安息角が小さいものほど自由流動性に優れ、大きいものほど自由流動性が劣る。
【0032】
(崩潰角の測定)
安息角を前記の方法で測定した後、粉粒体に一定の衝撃を与えて崩潰したときの角度を測定し、崩潰角とした。崩潰角が小さいものほど自由流動性に優れ、大きいものほど自由流動性は劣る。
【0033】
(差角の算出)
安息角と崩潰角の差を差角として算出した。
【0034】
(凝集度の測定)
粉末状酵素製剤を2g秤量し、3つのフルイ(目開き149、250、350μm )を重ねた上に乗せ、フルイを振動させ、停止後3つのフルイ上に残った粉体を秤量する。これより凝集度を測定した。凝集度が小さいものほど自由流動性に優れ、大きいものほど自由流動性が劣る。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例2
下記組成の原料をハイスピードミキサー(深江工業(株)製、FS−5型)により造粒し、酵素含有造粒物を得た。
【0037】
【表2】

【0038】
すなわち、上記原料(合計3.5kg)を全てミキサーに投入し、ジャケットに70℃の温水を流しながら、アジテーター480rpm、チョッパー900rpmで攪拌混合を行い、内容物を60℃まで上昇させた後温水を止めた。原料投入から約15分の造粒操作により、酵素含有造粒物(粒径350μm 以上1000μm 以下が98%以上)を得た。
【0039】
【表3】

【0040】
実施例3
界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王(株)製、エマール10)を用い、酵素タンパク量に対する界面活性剤の量を2、5、10重量%とした以外は実施例1と同様にして粉末状酵素製剤及びコントロール(界面活性剤なし)を製造した。
表2に示した原料組成において粉末状酵素製剤をこれらのものに代え、バインダー添加量を6.7重量%とした以外は同様に配合し、実施例2と同様の方法により酵素含有造粒物を得た。
【0041】
【表4】

【0042】
実施例4
界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王(株)製、エマール10)を用い、実施例1と同様にして粉末状酵素製剤及びコントロール(界面活性剤なし)を製造した。
表2に示した原料組成において粉末状酵素製剤をこれらのものに代え、バインダー量を6.7、7.4、8.1重量%とした以外は同様に配合し、実施例2と同様の方法により酵素含有造粒物を得た。造粒歩留(%)を表5に示す。
【0043】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素及び該酵素タンパク量の0.2〜10重量%のアルキルエーテル硫酸塩又はアルキル硫酸塩を含有することを特徴とする粉末状酵素製剤。
【請求項2】
酵素タンパク量の0.2〜10重量%のアルキルエーテル硫酸塩又はアルキル硫酸塩を含有する酵素水溶液を噴霧乾燥することを特徴とする請求項1記載の粉末状酵素製剤の製造法。
【請求項3】
請求項1記載の粉末状酵素製剤及びバインダーを含有することを特徴とする酵素含有造粒物。











【公開番号】特開2007−308715(P2007−308715A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177030(P2007−177030)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【分割の表示】特願平9−12356の分割
【原出願日】平成9年1月27日(1997.1.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】