説明

粒状金属の製造方法

【課題】金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱して塊成物に含まれる金属酸化物を還元溶融して粒状金属を製造するにあたり、粒状金属の生産性を一層高める技術を提案する。
【解決手段】金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床上に供給して加熱し、前記金属酸化物を還元溶融した後、得られる粒状金属を冷却してから前記炉外へ排出して回収する粒状金属の製造方法であり、前記炉床上における塊成物の敷密度を0.5以上として加熱する際に、平均直径が17.5mm以上の塊成物を前記炉床上に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物と炭素質還元剤とを含む混合物を原料とした塊成物を炉床上に供給して加熱し、原料混合物中の金属酸化物を還元溶融して粒状金属を製造する方法に関するものである。
【0002】
なお、本明細書では、本発明が最も有効に活用される粒状金属鉄の製造方法を主体にして説明するが、本発明はこれに制限されるわけではなく、例えば、クロム含有鉱石やニッケル含有鉱石等を加熱・還元してフェロクロムやフェロニッケルなどを製造する際にも有効に活用できる。また、本発明において「粒状」とは、必ずしも真球状であることを意味するものではなく、楕円状、卵形状、あるいはそれらが若干偏平化したもの等を包含している。
【背景技術】
【0003】
鉄鉱石や酸化鉄等の酸化鉄含有物質と炭素質還元剤とを含む混合物を原料とした塊成物から粒状金属鉄を得る方法として直接還元製鉄法が開発されている。この製鉄法では、上記塊成物を加熱炉の炉床上に装入し、炉内で加熱バーナーによるガス伝熱や輻射熱で加熱することによって塊成物中の酸化鉄を炭素質還元剤で還元し、得られた還元鉄を続いて浸炭・溶融させ、次いで副生するスラグと分離しつつ粒状に凝集させた後、冷却凝固させて粒状金属鉄を得ている。
【0004】
上記製鉄法は、高炉等の大規模な設備が不要なことや、コークスが不要になるなど資源面の柔軟性が高いことから、最近、実用化研究が盛んに行われている。しかし工業的規模で実施するには、操業安定性や安全性、経済性、粒状金属鉄(製品)の品質、生産性などを含めて更に改善しなければならない課題が多い。そこで本出願人は、特許文献1に、炭素質還元剤と酸化鉄を含む成形体を加熱還元して金属鉄を製造する際に、炭素質還元剤の消費量と加熱還元に要する熱エネルギーを必要最小限に抑え、酸化鉄の還元を実用規模でより低コストで効率よく遂行できる方法を先に提案している。この文献の実施例には、鉄鉱石、炭材、およびバインダーを配合して造粒することで製造した平均径17mmのペレットを加熱還元して金属鉄を製造する例を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−241111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1によれば、炭素質還元剤の配合量を、酸化鉄の還元に要する化学量論量と生成する金属鉄への固溶C量、更にはC固溶に伴う金属鉄の融点を考慮して加熱温度を適正に制御することによって、必要最小限の炭素質還元剤の使用量と加熱温度で酸化鉄の加熱還元と溶融によるスラグとの分離を効率よく進めることができ、工業規模でより経済的で実用性の高い金属鉄の製造方法を確立できた。しかし有効炉床単位面積あたりの単位時間における粒状金属鉄の生産量を更に増大させ、生産性を向上することが求められている。
【0007】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を加熱して塊成物に含まれる金属酸化物を還元溶融して粒状金属を製造するにあたり、粒状金属の生産性を一層高める技術を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできる本発明に係る粒状金属の製造方法とは、金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床上に供給して加熱し、前記金属酸化物を還元溶融した後、得られる粒状金属を冷却してから前記炉外へ排出して回収する粒状金属の製造方法であり、前記炉床上における塊成物の敷密度を0.5以上として加熱する際に、平均直径が17.5mm以上の塊成物を前記炉床上に供給する点に要旨を有する。
【0009】
前記炉床上には、予め炭素質物質を敷いておき、この炭素質物質層上に上記塊成物が1層となるように供給することが好ましい。
【0010】
前記金属酸化物としては、例えば、酸化鉄を用いることができる。前記移動床型還元溶融炉としては、例えば、回転炉床炉を用いることができる。前記金属酸化物としては、例えば、製鉄ダストを用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、炉床上に供給する塊成物の平均直径と、炉床上で塊成物を加熱するときの塊成物の敷密度を適切に制御しているため、粒状金属の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、炉床上に敷き詰めた塊成物を模式的に示した平面図である。
【図2】図2は、平均直径が18.2mmの塊成物を敷き詰めたときの様子を示す図面代用写真である。
【図3】図3は、塊成物同士の距離rと、投影面積率または敷密度の関係を示すグラフである。
【図4】図4は、敷密度と炉内への塊成物の供給量との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、供試材(塊成物)の平均直径(Dp)と反応時間との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、塊成物の敷密度を一定として粒状金属鉄を製造したときにおける塊成物の平均直径と生産性指数との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、炉床上における塊成物(供試材)同士の距離rを一定として粒状金属鉄を製造したときにおける塊成物の平均直径と生産性指数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床上に供給して加熱し、塊成物に含まれる金属酸化物を還元溶融して粒状金属を製造するときの生産性を向上させるために鋭意検討を重ねた。その結果、
(a)上記塊成物として平均直径が17.5mm以上のものを用意し、
(b)上記炉床上における塊成物の敷密度を0.5以上として加熱すれば、粒状金属の生産性を向上できることを見出し、本発明を完成した。本発明を完成するに至った経緯は次の通りである。
【0014】
上記特許文献1では、炭素質還元剤と酸化鉄を含む成形体を加熱還元して金属鉄を製造する際に、成形体として平均径が17mmのペレット(塊成物)を用いている。平均径が17mmの塊成物を用いているのは、塊成物が大きくなると、炉内における炉床上の塊成物への伝熱に時間がかかり、反応時間が長くなるため、生産性が悪くなるからと考えられていたためである。
【0015】
ところが、本発明者らが、塊成物の大きさと生産性との関係について更に詳細に検討したところ、平均径が17.5mm以上の塊成物を用いる方が生産性を向上できるという新たな事実が明らかとなった。このことを図7を用いて説明する。
【0016】
図7は、後述する実施例で示すグラフであり、塊成物の平均直径と生産性指数との関係を示している。図7において、生産性指数とは、平均直径が17.5mm(1.75cm)の塊成物を用いて粒状金属鉄を製造したときの生産性を1.000としたときの相対値であり、この生産性は、有効炉床単位面積あたりの単位時間における粒状金属鉄の生産量である(詳細は後述する)。
【0017】
図7から明らかなように、平均直径が16.0mm(1.6cm)の塊成物を用いたときよりも、平均直径が17.5mm以上の塊成物(具体的には、平均直径が17.5〜32mm)を用いた方が、生産性指数が大きくなり、生産性が向上することが分かる。
【0018】
そして、この図7は、種々の実験結果に基づいて炉床上における塊成物同士の距離rを一定としたとき(即ち、炉床上における塊成物の敷密度を変化させたとき)の関係を再評価(シミュレーション)した結果を示している。図7は、図5の結果に基づいて再評価した結果を示しており、この図5に示した平均粒径と反応時間の関係から分かるように、実際の測定値は僅かずつバラつくため、両者の関係を曲線で近似する平準化を行い、その曲線を用いて再評価する方法を採用した。これは、科学的な解析手法の一つである。
【0019】
生産性を評価するに当たって最も重要となる因子は、反応時間と歩留まり(即ち、製品回収率)であるため、特にこれらの特性を実験データに基づいて平準化し、再評価した。なお、塊成物の見掛密度も生産性に影響を及ぼす重要な因子であるが、例えば、16.0mmから32.0mmの範囲内の粒径の塊成物については、同一の塊成化方法を採用する限り見掛密度のバラツキは少なく、総合的な評価ではほぼ一定と見なしても問題がないことを予め評価している。ここで、敷密度とは、有効炉床単位面積あたりに敷かれた塊成物の充填密度を示しており、この密度は、炉床における塊成物の投影面積から算出できる(詳細は後述する)。図7では、後記実施例で示すように、塊成物の平均直径が大きくなるに連れて塊成物の敷密度が大きくなっている(表6を参照)。従って、上記図7から、塊成物の平均直径に加えて、この敷密度を適切に制御することによって生産性を向上できることも読み取ることができる。即ち、本発明によれば、塊成物の敷密度と平均直径と併せて制御することによって、粒状金属鉄の生産性を向上できることが明らかとなった。
【0020】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0021】
本発明では、塊成物として平均直径が17.5mm以上のものを用意する。
【0022】
上記塊成物としては、金属酸化物と炭素質還元剤とを含む混合物を塊成化したものを用意する。金属酸化物としては、例えば、酸化鉄含有物質、クロム含有鉱石、ニッケル含有鉱石などを用いることができる。特に、酸化鉄含有物質としては、鉄鉱石や砂鉄、製鉄ダスト、非鉄製錬残渣、製鉄廃棄物などを用いればよい。炭素質還元剤としては、炭素含有物質を用いればよく、例えば、石炭やコークスなどを用いればよい。
【0023】
上記混合物には、その他の成分として、バインダーやMgO含有物質、CaO含有物質などを配合してもよい。バインダーとしては、例えば、多糖類(例えば、小麦粉等の澱粉など)などを用いることができる。MgO含有物質としては、例えば、MgO粉末や天然鉱石や海水などから抽出されるMgO含有物質、或いは炭酸マグネシウム(MgCO3)などを用いることができる。CaO含有物質としては、例えば、生石灰(CaO)や石灰石(主成分はCaCO3)などを用いることができる。
【0024】
上記塊成物の平均直径は17.5mm以上とする。上記塊成物の平均直径は、一般的には小さい方が炉内での伝熱に要する時間が短くなり、反応時間も短縮できる。しかし、塊成物の平均直径を小さくすると、炉床上に敷いた炭素質物質の上に均一に敷きつめることが難しくなり、且つ、加熱して得られる粒状金属の粒径や単位質量が必然的に小さくなる。得られる粒状金属が小さくなると、その取り扱いに特別の配慮が必要になり、粒状金属を電気炉や転炉などの精錬炉へ供給することが困難となる。また、粒状金属が小さくなることは、溶解特性の観点からも好ましいとはいえない。従って本発明では、塊成物の平均直径を17.5mm以上とする。上記塊成物の平均直径は、好ましくは18.5mm以上、より好ましくは19.5mm以上、更に好ましくは20mm以上である。塊成物の平均直径の上限は特に限定されないが、塊成物の平均直径が32mmを超えると炉内での伝熱に時間がかかり過ぎるため、反応時間が長くなり、生産性が劣化する。また、塊成物の平均直径を大きくしようとすると、造粒効率が悪くなる傾向がある。従って塊成物の平均直径は31mm以下とすることが好ましい。より好ましくは28mm以下である。
【0025】
上記塊成物の形状は特に限定されず、例えば、ペレット状やブリケット状などであればよい。
【0026】
上記塊成物の直径は、塊成物の長径と、この長径に垂直な方向に測定した短径とをノギスで測定し、これを平均して求める[直径=(長径+短径)/2]。塊成物の大きさは、少なくとも20個についてノギスを用いて測定し、これを平均したものを平均直径とする。なお、塊成物の平均直径がαmmである場合は、塊成物の直径(絶対値)が、α±5mmの範囲に分布していることが好ましい。
【0027】
本発明では、平均直径が17.5mm以上の塊成物を、炉床上における塊成物の敷密度を0.5以上として加熱処理することが重要である。従来では、塊成物の平均直径を大きくすると生産性は悪くなると考えられていたが、本発明によれば、平均直径が17.5mm以上の塊成物を、炉床上における塊成物の敷密度が0.5以上の状態で加熱してやれば、後述する実施例で実証するように、今までの常識に反し、生産性が向上するという極めて重要な事実を明らかにした。但し、塊成物の敷密度が0.5未満では、有効炉床単位面積あたりに敷かれた塊成物の密度が小さくなり過ぎるため、たとえ粒径を17.5mm以上に高めても、総合的に粒状金属の生成量が少なくなり、生産性を向上させることができない。従って塊成物の敷密度は0.5以上とする。この敷密度はできるだけ大きくすることが推奨され、好ましくは0.6以上である。塊成物の敷密度の上限は特に限定されないが、敷密度が0.8を超えるように塊成物を供給すると、塊成物が2層以上に重なることがあり、塊成物を均一加熱し難くなるため、高品質の粒状鉄を製造することが困難となる。従って塊成物の敷密度の上限は0.8とすることが好ましい。より好ましくは0.7以下である。
【0028】
ここで、塊成物の敷密度について詳細に説明する。塊成物の敷密度は、炉床上に敷き詰めた塊成物の炉床への投影面積率に基づいて算出する。敷密度の算出方法を図1を用いて説明する。
【0029】
図1は、炉床上に敷き詰めた塊成物を模式的に示した平面図である。塊成物の炉床への投影面積率は、下記式(1)で算出できる。
投影面積率(%)=[炉床上の全塊成物の投影面積/有効炉床面積]×100 ・・・(1)
【0030】
塊成物を真球として仮定し、塊成物の平均直径をDp、塊成物同士の距離をrとしたとき、塊成物の炉床への投影面積率は、下記式(2)で算出できる。
投影面積率(%)=π×(Dp)2/4/{(Dp+r)×(Dp+r)×30.5/2}×100(%) ・・・(2)
【0031】
塊成物同士の距離rを0としたとき、投影面積率は最大値をとり、最大投影面積率は一定の値(90.69%)となる。この最大投影面積率を1としたとき、塊成物の平均直径Dpと塊成物同士の距離rに基づいて上記式(2)から算出した投影面積率の相対値を本発明では敷密度と定義する。
【0032】
ここで、敷密度の実態をより詳細に説明するため、約61cm角の平板状容器に平均直径が18.2mmの塊成物を敷き詰めたときの様子を図2に示す。
【0033】
図2のCase.(a)は容器内に、単位面積1m2あたり9.3kgの塊成物を充填した例であり、このときの敷密度は0.4であった。敷密度を0.4にするときの理論充填量は単位面積1m2あたり9.33kgであるため、Case.(a)に示される充填量と敷密度はほぼ理論値に等しいことがわかる。
【0034】
図2のCase.(b)は容器内に、単位面積1m2あたり13.9kgの塊成物を充填した例であり、このときの敷密度は0.6であった。敷密度を0.6にするときの理論充填量は単位面積1m2あたり14.0kgであるため、Case.(b)に示される充填量と敷密度はほぼ理論値に等しいことがわかる。
【0035】
図2のCase.(c)は容器内に、単位面積1m2あたり18.5kgの塊成物を充填した例であり、このときの敷密度は0.8であった。敷密度を0.8にするときの理論充填量は単位面積1m2あたり18.66kgであるため、Case.(c)に示される充填量と敷密度はほぼ理論値に等しいことがわかる。
【0036】
図2のCase.(d)は容器内に、単位面積1m2あたり23.2kgの塊成物を充填した例であり、このときの敷密度は1.0であった。敷密度を1.0にするときの理論充填量は単位面積1m2あたり23.33kgであるため、Case.(d)に示される充填量と敷密度はほぼ理論値に等しいことがわかる。
【0037】
そして図2のCase.(d)に示すように、敷密度が1.0になるように塊成物を実際の炉床上に敷き詰めることは非常に困難であり、事実、現場において敷密度が1.0になる量の塊成物を炉内へ供給すると、投入した塊成物が重なる等新たな問題が発生する。従って、塊成物が重ならないように炉内に供給するには、図2のCase.(c)に示すように、各種実証実験を通して敷密度の上限は0.8程度が好ましいことが判明した。
【0038】
また、図2のCase.(a)に示すように、敷密度が0.4の場合には、炉床上にかなりの空隙が生まれ、生産性が著しく低下することが予想される。従って、敷密度の下限値は、図2のCase.(a)とCase.(b)の中間となる0.5程度にすべきと考えられる。
【0039】
次に、塊成物同士の距離rと、投影面積率または敷密度の関係を図3に示す。図3において、●は投影面積率の結果、□は敷密度の結果を夫々示している。図3から明らかなように、塊成物同士の距離rが大きくなるに連れて、塊成物の投影面積率および塊成物の敷密度は何れも小さくなることが分かる。また、投影面積率と敷密度の間には、塊成物同士の距離rに基づいて良好な相関関係が認められる。
【0040】
次に、塊成物の平均粒径を14.0〜32.0mmの範囲で変えたときの敷密度と炉内への塊成物の供給量との関係を図4に示す。なお、塊成物の供給量は、有効炉床面積あたりの供給質量を示している。
【0041】
図4において、点(A)と点(B)を結んだ直線は、平均直径が17.5mm以上の塊成物を用い、塊成物の敷密度を0.5としたときにおける炉内への塊成物供給量の範囲を示しており、点(C)と点(D)を結んだ直線は、平均直径が17.5mm以上の塊成物を用い、塊成物の敷密度を0.8としたときにおける炉内への塊成物供給量の範囲を示している。この図4から明らかなように、炉床上における塊成物の敷密度を0.5以上に制御するには、塊成物の平均直径と炉内への塊成物の供給量(有効炉床面積あたりの供給質量)を調整すればよいことが分かる。
【0042】
上記塊成化物は、移動床型還元溶融炉で加熱して塊成物中の金属酸化物を還元溶融して粒状金属を製造する。本発明で用いる移動床型還元溶融炉や炉内での加熱条件は特に限定されず、公知の条件を採用できる。
【0043】
上記移動床型還元溶融炉としては、例えば、回転炉床炉を用いることができる。移動床型還元溶融炉の炉床幅は特に限定されないが、本発明によれば、炉床幅が4m以上の実機であれば経済的に優位な条件で粒状金属の生産性を向上させることができる。
【0044】
上記塊成物を炉床上に供給するに先立って、炉床上には、予め炭素質物質(以下、床敷材と呼ぶことがある。)を敷いておき、この炭素質物質層上に上記塊成物が1層となるように供給することが好ましい。床敷材は、塊成物に含まれる炭素が不足したときの炭素供給源となると共に、炉床保護材として作用する。
【0045】
床敷材の厚みは特に限定されないが、3mm以上とすることが好ましい。即ち、上記移動床型還元溶融炉として実機を用いた場合には、炉床幅は数mとなるため、床敷材を幅方向に亘って均一に敷くことは難しく、厚みが2〜8mm程度のバラツキが発生することがある。そこで床敷材で覆われていない炉床部分を発生させないために、床敷材は3mm以上敷くことが好ましい。より好ましくは5mm以上、更に好ましくは10mm以上である。本発明では、塊成物を特に大きくしているため、床敷材を厚くしても塊成物が床敷材に埋もれ難くなり、還元効率は殆ど低下しない。具体的には、平均直径が20mm以上の塊成物を用いる場合に、厚めの床敷材が特に有効となる。なお、上記床敷材の厚みの上限についても特に限定されないが、床敷材の厚みが30mmを超えると、本発明においても塊成物が床敷材に潜り込むため、塊成物への熱の供給が阻害され還元効率が低下することがある。その結果、粒状金属が変形したり、内部品質の劣化を招きやすくなる。従って、床敷材は、30mm以下とすることが好ましく、より好ましくは20mm以下、更に好ましくは15mm以下である。
【0046】
上記床敷材として用いる炭素質物質としては、上記炭素質還元剤として例示したものを用いることができる。炭素質物質としては、例えば、粒子径が3.0mm以下のものを用いることが推奨される。粒子径が3.0mmを超えると、溶融したスラグが炭素質物質の隙間を流れ落ちて炉床表面に到達し、炉床を侵食する恐れがある。炭素質物質の粒子径は、より好ましくは2.0mm以下である。但し、粒子径が0.5mmを下まわる炭素質物資の比率が大きくなり過ぎると、塊成物が床敷の中へ潜り込んでしまい、加熱効率が悪くなり、生産性が低下するため好ましいとはいえない。
【0047】
床敷材を敷いた炉床上に供給する上記塊成物は、1層となるように塊成物を供給することが好ましい。粒状金属鉄の生産量を増大させるには、通常であれば、炉内へ供給する塊成物量を増やすことが考えられ、この塊成物の供給量を増やすと、塊成物が炉床上に2層または3層以上に積層される。この場合、上方の塊成物は炉体より充分な熱を受けて還元溶融されるが、下方の塊成物には熱が充分に供給されないため、未還元部分が残留しやすくなる。上方の塊成物のみが還元溶融し、溶融鉄が下方の未溶解還元鉄等と一体化すると、高品質な粒状金属鉄を回収することができなくなる。従って、本発明のように、炉内で固体還元と浸炭溶融を確実に行う場合は、炉床上の塊成物がおおむね1層となるように塊成物を供給することが推奨される。
【0048】
炉床上の塊成物を1層にするには、炉内に供給した塊成物が加熱反応領域に入る前に、有効炉床の幅全体に亘って塊成物が均一に敷き詰められるように、例えば、ペレットレベラーを用いれば、炉床上の塊成物の敷き込みを調整することが可能となる。
【0049】
移動床型還元溶融炉で上記塊成物を加熱して塊成物に含まれる金属酸化物を還元溶融するときの加熱条件は常法の条件を採用できる。即ち、炉床上に上記塊成物を供給し、所定温度で固体還元し、更に溶解するまで加熱保持することにより、不純物からなるスラグ(酸化物)と粒状金属鉄が製造される。炉床上の塊成物には、炉の上部(例えば、天井)や側壁に設置された複数のバーナーの燃焼火炎による熱や、高温に加熱された炉内耐火物からの輻射熱によって加熱され、塊成物の外周部から内部へと伝熱して固体還元反応が進行する。
【0050】
炉の前半領域においては、塊成物は固体状態を維持しながら還元反応が進行し、炉の後半領域においては、固体還元が終了した塊成物内の微小還元鉄は、浸炭反応を経て溶解する過程で互いに凝集し、塊成物内の不純物(スラグ成分)と分離しながら、粒状金属鉄を形成する。
【0051】
炉の前半領域は、塊成物中の酸化鉄を固体還元するために、炉内温度を1300〜1450℃程度に制御することが好ましい。炉の後半領域は、塊成物中の還元鉄を浸炭・溶融させ、凝集させるために、炉内温度を1400〜1550℃程度に制御することが好ましい。なお、炉内を1550℃超に加熱した場合は、塊成物に過剰な熱が供給され、塊成物内への伝熱速度を上回る結果、固体還元が完了する前に部分的に溶融状態となり、急激な反応を伴う結果、異常なスラグフォーミングが発生する溶融還元反応を引き起こす。
【0052】
炉の後半領域の炉内温度は、炉の前半領域の炉内温度よりも高めに設定してもよい。
【0053】
本発明では、上記塊成物を加熱し、金属酸化物を還元溶融して粒状金属を製造したときの生産性を、下記式(3)で示されるように、単位時間(時間)における有効炉床単位面積(m2)あたりの粒状金属の生産量(ton)によって評価する。
生産性(ton/m2/時間)=粒状金属の生産量(ton/時間)/有効炉床面積(m2) ・・・(3)
【0054】
上記式(3)において、粒状金属の生産量(ton/時間)は、下記式(4)で示される。
粒状金属の生産量(粒状金属ton/時間)=塊成物の装入量(塊成物ton/時間)×塊成物1トンあたりから製造される粒状金属の質量(粒状金属ton/塊成物ton)×製品回収率 ・・・(4)
【0055】
上記式(4)において、製品回収率は、得られた粒状金属の総量に対する直径が3.35mm以上の粒状金属鉄の割合[直径が3.35mm以上の粒状金属鉄の質量/粒状金属鉄の総量×100]で算出する。
【0056】
なお、下記実施例の実験例2、3では、本発明による効果を定量的に評価するために、平均直径が17.5mmの供試材(塊成物)を標準塊成物とし、この標準塊成物の生産性を1.000としたときの各塊成物の生産性を相対値(生産性指数)で示している。
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0058】
[実験例1]
金属酸化物と炭素質還元剤とを含む混合物を原料とした塊成物を作製し、この塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床上に供給して加熱し、原料混合物中の金属酸化物を還元溶融させて粒状金属鉄を製造した。
【0059】
即ち、金属酸化物として下記表1に示す成分組成の鉄鉱石を用い、炭素質還元剤として下記表2に示す成分組成の石炭を用い、塊成物を製造した。詳細には、上記鉄鉱石および上記石炭の混合物に、バインダーとして小麦粉と、副原料として石灰石やドロマイトなどを配合し、平均直径の異なるペレット状塊成物(供試材)を作製した。供試材の配合組成(秤量値の百分率)を下記表3に示す。また、供試材の長径と短径をノギスで測定し、平均直径を算出し、結果を下記表4に示す。供試材の平均直径は20個測定したときの平均値である。
【0060】
下記表4には、各供試材の単位質量と見掛密度も示した。供試材の単位質量は、20個の質量を測定した結果の平均値である。供試材の見掛密度は、液体(水銀)に塊成物を浸漬しその浮力を測定することによって求めた値である。
【0061】
得られた平均直径の異なる供試材を、実験室規模の小型加熱炉(炉内の温度は1450℃)で夫々加熱して供試材に含まれる鉄鉱石を還元溶融させるのに必要な時間(反応時間)を調べた。反応時間の測定結果を下記表4に示す。
【0062】
供試材の平均直径(Dp)と反応時間との関係を図5に示す。図5中、点線で示した曲線はプロット点の近似曲線を示しており、供試材の平均直径に基づく2次式で示される。図5から明らかなように、供試材の平均直径が大きくなるほど反応時間は長くなることが分かる。
【0063】
上記実験例1の結果に基づいて、反応時間や製品回収率を平準(Normalization)化し、供試材同士の距離(下記実験例2)または供試材の敷密度(下記実験例3)を変えたときの生産性を総合的に評価した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
[実験例2]
実験例2では、平均直径が16.0〜28.0mm(1.60〜2.80cm)の供試材を、実機の移動床型還元溶融炉を用い、炉床上における供試材の敷密度を一定として加熱し、粒状金属鉄を製造したときの供試材の平均直径が粒状金属鉄の生産性に及ぼす影響を総合的に調査した。
【0069】
移動床型還元溶融炉として回転炉床炉を用い、炉床上における供試材の敷密度が0.66となるように上記供試材を炉床上に供給して加熱し、鉄鉱石を還元溶融して粒状金属鉄を製造した。炉内の温度は、前半領域を1400℃、後半領域を1470℃に設定した。前半領域とは、供試材中の鉄鉱石の固体還元を実施する領域であり、後半領域とは、供試材中に生成し、溶融した微小還元鉄が浸炭、溶解し、最終的に凝集して溶鉄とスラグとを分離する領域である。
【0070】
炉床上における供試材の敷密度は、炉内への供試材の供給量と炉床の移動速度(回転速度)を調整して制御した。即ち、上記予備実験の結果に基づいて設定された雰囲気条件の加熱領域内にて鉄鉱石が還元溶融するように炉床の移動速度を決定し、この移動速度を考慮して上記供試材の供給量を調整し、炉床上における供試材の敷密度を0.66に制御した。下記表5には、供試材同士の距離rを参考値として示す。
【0071】
各供試材を還元溶融して粒状金属鉄を製造したときの生産性を上記式(3)に基づいて算出し、No.12の供試材(標準塊成物)の生産性を基準(生産性指数1.000)として各供試材の生産性を相対値(生産性指数)で示した。各供試材の生産性指数を下記表5に示す。また、供試材の平均直径と生産性指数の関係を図6に示す。
【0072】
図6から明らかなように、炉床上における敷密度を一定にした場合は、供試材の平均直径を17.5mm以上に大きくすることにより、供試材の平均直径が16.0mmのときよりも生産性を改善できることが分かる。即ち、供試材の平均直径を大きくするに連れて生産性は徐々に向上し、供試材の平均直径が22.0mmのときに生産性指数が最大値となる。
【0073】
但し、供試材の平均直径を26.0mm超に大きくすると、生産性が徐々に悪くなる傾向がある。生産性が悪くなるのは、供試材が大きくなるため、反応時間が長くなるからと考えられる。従って敷密度が一定の場合は、供試材の平均直径を17.5〜26.0mmの間に調整することによって、平均直径が16.0mmの供試材を用いるよりも生産性を改善できることが分かる。
【0074】
【表5】

【0075】
[実験例3]
実験例3では、平均直径が16.0〜32.0mm(1.60〜2.80cm)の供試材を想定し、実機の移動床型還元溶融炉を用い、炉床上における供試材同士の距離rを一定(0.42cm)とし、供試材の敷密度を変えて加熱し、粒状金属鉄を製造したときの供試材の敷密度が粒状金属鉄の生産性に及ぼす影響を調査した。
【0076】
移動床型還元溶融炉として回転炉床炉を用い、下記表6に示す平均直径の供試材を炉床上に供給して加熱し、鉄鉱石を還元溶融して粒状金属鉄を製造した場合を評価した事例である。炉内での加熱条件は上記実験例2と同じである。炉床上における供試材の敷密度を下記表6に示す。
【0077】
各供試材を還元溶融して粒状金属鉄を製造したときの生産性を上記式(3)に基づいて算出し、No.22の供試材(標準塊成物)の生産性を基準(1.000)として各供試材の生産性を相対値(生産性指数)で示した。各供試材の生産性指数を下記表6に示す。また、供試材の平均直径と生産性指数の関係を図7に示す。
【0078】
表6および図7から明らかなように、供試材同士の距離rを一定にした場合には、供試材の平均直径を17.5mm以上に大きくすることによって、炉床上における供試材の敷密度を大きくできることが分かる。また、供試材の平均直径を大きくする方が、供試材の平均直径が16.0mmのときよりも生産性を改善できることが分かる。即ち、供試材の平均直径を大きくするに連れて生産性は徐々に向上し、供試材の平均直径が24.0mmのときに生産性指数が最大値となる。
【0079】
但し、供試材の平均直径を24.0mm超に大きくすると、生産性が徐々に悪くなる傾向がある。生産性が低下するのは、供試材が大きくなることによって反応時間が長くなるためと考えられる。従って供試材の平均直径を17.5〜32.0mmの間に調整することによって、平均直径が16.0mmの供試材を用いるよりも生産性を改善できることが分かる。
【0080】
【表6】

【0081】
上記実験例2、3の結果を総合すると、上記実験例2に示すように、平均直径が大きい塊成物(例えば、平均直径が28.0mmを超える塊成物)を用いると、敷密度が一定の場合は生産性が低下することがあるが、上記実験例3に示すように、敷密度を高めてやれば、例えば、平均直径が28.0mmを超える塊成物を用いても生産性を向上できることが分かる。即ち、炉床上における塊成物(供試材)の敷密度を0.5以上として加熱する際に、平均直径が17.5mm以上の塊成物を炉床上に供給することによって、生産性を向上できることが分かる。換言すれば、平均直径が17.5mm以上の塊成物を用意し、炉床上における塊成物の敷密度を0.5以上として炉内で加熱すれば、粒状金属を生産性良く製造できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床上に供給して加熱し、前記金属酸化物を還元溶融した後、得られる粒状金属を冷却してから前記炉外へ排出して回収する粒状金属の製造方法であって、
前記炉床上における塊成物の敷密度を0.5以上として加熱する際に、平均直径が17.5mm以上の塊成物を前記炉床上に供給することを特徴とする粒状金属の製造方法。
【請求項2】
前記炉床上に予め炭素質物質を敷いておき、この炭素質物質層上に上記塊成物が1層となるように供給する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物として、酸化鉄を用いる請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記移動床型還元溶融炉として、回転炉床炉を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物として、製鉄ダストを用いる請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−256414(P2011−256414A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130124(P2010−130124)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】