説明

粘着剤組成物及び粘着シート

【課題】高い耐熱性、特にはんだの温度プロファイルで使用した場合、各温度域で粘着剤が発泡したり、被着体との間に浮きや剥がれなどの発生がないという耐熱性と被着体への容易な貼り付け性とを同時に満足する粘着剤組成物及びそれを用いた粘着シートを提供する。
【解決手段】(A)質量平均分子量60万以上、酸価5mgKOH/g以上、30mgKOH/g未満のアクリル系粘着性化合物と(B)エポキシ系架橋剤からなり、23〜260℃の温度域全体にわたり弾性率0.3×106〜3×106Pa及び粘着力0.1N/25mm以上を示し、かつ23℃における弾性率(X)と260℃における弾性率(Y)との比(X)/(Y)が0.4〜3.2の範囲内にある粘着剤組成物、及びこの粘着剤組成物からなる厚さ1〜100μmの粘着層を基材の片面又は両面に設けた粘着シートとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、はんだ工程用マスク材料、チップ、各種コンデンサー、電池、プリント回路基板などの製造時の搬送、バックアップ、めっきマスク、各種車両などの焼付け塗装時のマスクなど耐熱性が要求される工程で使用可能な粘着剤組成物及びこれを用いた粘着シートであって、特にプリント基板上に電子部品を実装する際に用いるはんだの温度プロファイルにおいても発泡を抑制でき、すぐれた粘着力及び凝集力を有する粘着剤組成物及び粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フレキシブルプリント基板のチップやコンデンサーなどの電子部品を実装する面や電源などのコネクター部の回路面とは反対側の面には接着剤を介して補強板(スティフナー)を積層することにより、精度の高い実装の実現やコネクター部の折れ曲がりなどを防止している。この補強板を積層する際に用いる接着剤は電子部品の実装がはんだを用いる場合、例えば鉛フリーはんだの場合、はんだの溶融温度が220℃程度、はんだリフロー工程では約260℃の温度環境下におかれるため、一般的には耐熱性の高いエポキシ樹脂系の接着剤やポリイミド系、シリコーン系の接着剤が用いられている。
【0003】
これらの接着剤は通常、液状であるため、スクリーン印刷やスピンコートなど貼り付ける前に塗布作業を行わなければならず、作業性、液管理などが煩雑でかつ均一な厚さや表面を有する層を形成するのが難しいという欠点があった。
【0004】
他方、前記接着剤の取扱性を改善するために、シート状の接着剤、例えば、エポキシ樹脂を主成分とし、Bステージ化した接着シート、ホットメルトタイプの接着剤や、例えばウレタン系樹脂やポリエステル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などの接着剤も知られているが、これらのものは、一般的に常温で被着体との密着性が低いため、被着体が接着されるまで治具などで固定しなくてはならないため、作業性が低く、しかも治具や加熱装置などを用意する必要があり、エネルギー消費量低減性、コスト面で必ずしも満足し得るものではなかった。
【0005】
このような接着剤や接着シートの欠点を改善するために、例えば、通常、ゴム系エラストマーやアクリル樹脂などをメインポリマーとして、これに粘着付与樹脂や架橋剤などを配合し、テープ化、シート化したものや、これらに耐熱性を付与するため、ゴム系エラストマーを用いた場合、天然ゴムや合成ゴムからなるゴム系エラストマーに、熱反応性フェノール樹脂などを添加し、架橋密度をコントロールして耐熱性を付与した樹脂加硫タイプからなる粘着シートが提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの粘着テープは、乾燥及び架橋させるために、均一な温度環境(通常150〜180℃)を維持しなければならず、この温度維持に関係して品質のバラツキ、基材や粘着剤自体のゴム成分が劣化したり、またラインを非常に低速で動かさなければならないため、生産性が低下するなどの欠点がある。
【0007】
また、アクリル樹脂系の粘着剤を用いる場合は、粘着剤中のポリマーの高分子量化を目的とする場合、光重合型粘着剤が使用されているため、光重合時に未反応モノマーが残存し、その残存したモノマーが使用時の臭気の原因となったり、粘着剤中で可塑剤として働き、高温での著しい凝集力低下をもたらすという欠点を伴う。
【0008】
さらに耐熱性向上のために凝集力を向上させる目的で溶剤型粘着剤においては粘着剤を構成するポリマーを高分子量化した粘着シートなどが提案されているが、主鎖を高分子量化した溶剤型粘着剤の場合、特定温度以上の耐熱性が要求される分野、例えばプリント回路基板上に電子部品を鉛フリーハンダで固定する際のはんだの温度プロファイルに対する耐性については未だ満足できるものではなかった。
【0009】
これらの問題に対し、粘着剤組成物や粘着シートとして、例えば200℃におけるせん断貯蔵弾性率が0.3×106〜3.0×106dyn/cm2である重量平均分子量100万以上のアクリル系重合体(A)を含む粘着剤組成物(特許文献1参照)が提案されているが、このものは200℃でのせん断貯蔵弾性率が0.3×105〜3.0×105Paと低弾性率であるため、吸湿性の高い銅張積層板(以下、CCLとも言う)のポリイミド面やポリイミドフィルムを被着体とした場合には、はんだリフロー工程時などの高温下において粘着剤が軟化し、その結果、粘着剤が発泡したり、被着体からの浮きや剥がれが発生するという欠点がある。
【0010】
また、粘着剤層が、アクリル系ポリマーを主成分とし、かつ連鎖移動性物質を含有する粘着剤組成物により形成され、初期のゲル分率が40〜70重量%であって、特定の加熱処理条件で行うはんだリフロー工程を経た後におけるゲル分率(重量%)と、初期のゲル分率(重量%)との差を10以下とした両面粘着シート(特許文献2参照)が提案されているが、このものは、反発力のかかる部分への貼り付け性を考慮しているとはいえ、使用する粘着剤組成物は低分子量成分を多く含むため、高温下において粘着剤が軟化流動しやすく、かつ低弾性率となり、その結果、被着体が吸湿性の高いCCLのポリイミド面やポリイミドフィルムに使用すると、はんだリフロー工程時などの高温下において粘着剤が発泡したり、被着体からの浮きや剥がれが生じる上に、高温下で使用する場合、粘着剤組成物に含有する低分子量成分に由来の臭いが作業環境に悪影響を与えるおそれがある。
【0011】
その他、ポリイミド系ポリマーからなる単層フィルムないしシートにスパッタエッチング処理による良密着処理を施したポリイミド系基材の片面又は両面に、少なくともアクリル系単量体とイミド基含有単量体を成分とし、20℃の酢酸エチルに対する可溶解分率が50%未満のアクリル系共重合体をベースポリマーとする粘着層を設けたイミド系粘着部材(特許文献3参照)が提案されているが、このものは、アクリル系単量体とイミド基含有単量体を成分とするアクリル系粘着層であるため、被着体として吸湿性の高いCCLのポリイミド面やポリイミドフィルムを用いる場合、高温下、例えば、はんだリフロー工程で粘着剤が軟化し、粘着剤が発泡したり、剥離力が低下することにより粘着部材が被着体からの浮いたり、剥がれたりするという欠点を有する。
【0012】
さらに、耐熱性粘着剤組成物として、主成分モノマーとしてのアルキル基部分の炭素数が3〜12のアルキル(メタ)アクリレート97.5〜99質量%と官能基含有アクリル系モノマー2.5〜1質量%とを含み、質量平均分子量が60万以上、酸価が20mg/mgKOH以下のアクリル系高分子量共重合体85〜15質量%と、主成分モノマーとしてのアルキル基部分の炭素数が3〜12のアルキル(メタ)アクリレート90〜98質量%と官能基含有アクリル系モノマー10〜2質量%とを含み、質量平均分子量が50万以下、酸価が25mg/mgKOH以上のアクリル系低分子量共重合体15〜85質量%と、を主成分とする共重合体組成物100質量部と、架橋剤1〜15質量部とを含み、当該アクリル系高分子量共重合体の主成分モノマーのアルキル基部分の炭素数と当該アクリル系低分子量共重合体の主成分モノマーのアルキル基部分の炭素数との差が2以下である耐熱性粘着剤組成物(特許文献4参照)が提案されている。しかし、このものは、特にアクリル酸2−エチルヘキシルをその構成成分とする粘着剤を用いていることから、高温下、特に200℃を超える環境で使用すると粘着剤に発泡が発生し、実用上問題がある。
【0013】
【特許文献1】特開2004−196867号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開2007−302868号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開平10−296901号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開2008−38103号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記した従来の接着剤又は粘着シートが有する欠点を克服し、高い耐熱性、特にはんだの温度プロファイルで使用した場合、各温度域で粘着剤が発泡したり、被着体との間に浮きや剥がれなどの発生がないという耐熱性と被着体への容易な貼り付け性とを同時に満足する粘着剤組成物及びそれを用いた粘着シートを提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、特定の組成をもつアクリル系粘着剤について、特定の温度域での弾性率と被着体との粘着力とを特定の範囲に調整した粘着剤組成物を用いることにより、耐熱性及び被着体との密着性を同時に満足することができることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、(A)質量平均分子量60万以上、酸価5mgKOH/g以上、30mgKOH/g未満のアクリル系粘着性化合物と(B)エポキシ系架橋剤からなり、23〜260℃の温度域全体にわたり弾性率0.3×106〜3×106Pa及び粘着力0.1N/25mm以上を示し、かつ23℃における弾性率(X)と260℃における弾性率(Y)との比(X)/(Y)が0.4〜3.2の範囲内にあることを特徴とする粘着剤組成物、(A)(a1)質量平均分子量60万以上、酸価5mgKOH/g以上、30mgKOH/g未満のアクリル系粘着性化合物55〜95質量%と(a2)質量平均分子量5万以上60万未満、酸価30mgKOH/g以上のアクリル系粘着性化合物45〜5質量%との粘着性化合物混合物及び(B)エポキシ系架橋剤からなり、23〜260℃の温度域全体にわたり弾性率0.3×106〜3×106Pa及び粘着力0.1N/25mm以上を示し、かつ23℃における弾性率(X)と260℃における弾性率(Y)との比(X)/(Y)が0.4〜3.2の範囲内にあることを特徴とする粘着剤組成物、及び上記粘着剤組成物からなる厚さ1〜100μmの粘着層を基材の片面又は両面に設けたことを特徴とする粘着シートを提供するものである。
【0017】
なお、本発明における弾性率及び粘着力は、次のようにして測定したものである。
すなわち、弾性率は、シリコーンシート上に塗工、乾燥し、厚さ50μm粘着剤層を形成後に剥離し、厚さ200μmとなるまで粘着剤層を積層させたのち、この粘着剤層を幅3.0mm、長さ15.0mmに加工し試料シートを作製し、この試料シートの長手方向の一方の端部を固定式チャックにより、他方の端部を可動式のチャックによりそれぞれ担持し、TMA4000S(MAC サイエンス社製)を用いてTMA引張モード法により、各設定温度条件下(測定温度範囲:−100ないし300℃)、−0.2gないし−0.5gの荷重(周期5sec)を負荷し、昇温スピード5℃/分で空気雰囲気中で測定した。
【0018】
また、粘着力は、JIS Z0237に準拠し、製造後、加熱処理や紫外線照射処理を施していない、実施例及び比較例の粘着シートを、23℃、65%RHの環境下で、幅25mm、長さ250mmに切断した試験片の両面に、厚さ25μmのポリイミドフィルムを押圧力2kg、速度300mm/分の条件でゴムローラを一往復させることにより圧着して試験片とし、この試験片を23℃、65%RHの条件下で20分間放置した後、この試験片を、23℃、100℃、150℃及び200℃の温度条件下、引張試験機により、引張速度300mm/分で、180°方向に試験片からポリイミドフィルムを引き剥がした際の剥離力を測定した180度剥離力を単位N/25mmで示した。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高温環境下、特にはんだの温度プロファイルで使用しても凝集力不足や粘着力の低下による発泡や剥がれなどのない粘着剤組成物を得ることができる。また、この粘着剤組成物をシート状やテープ状にした粘着シートは高温環境下で使用可能なものである。また、この粘着シートを用いることで、従来、スピンコートやスクリーン印刷にて被着体に液状のエポキシ系接着剤やポリイミド系接着剤塗布することにより接着層を形成するよりも、容易にかつ平滑性や塗膜厚さが均一な接着剤層を被着体に形成でき、生産性、接着剤の取扱性、作業性を向上させることも可能となる。また、エポキシ樹脂やホットメルト型接着剤をシート状に形性した接着シートを用いた場合よりも、常温時での被着体との密着性に優れるため省エネルギー性や治具などの加工具の購入、使用によるコストアップや作業効率低下のないため、生産効率などの面で有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の粘着剤組成物において用いる(A)成分すなわちアクリル系粘着性化合物は、質量平均分子量が60万以上、酸価が5mgKOH/g以上、30mgKOH/g未満のアクリル系粘着性化合物であるか、或いはこの化合物55〜95質量%と質量平均分子量5万以上60万未満で酸価が30mgKOH/g以上のアクリル系粘着性化合物45〜5質量%との混合物である。
【0021】
この(A)成分の質量平均分子量が60万未満であると、凝集力不足となり、これを用いて形成される粘着剤層が発泡するので、このものの質量平均分子量は60万以上、好ましくは80万以上、より好ましくは80万〜200万の範囲であることが必要である。
【0022】
また、(A)成分は、酸価5mgKOH/g以上、30mgKOH/g未満、好ましくは5〜20mgKOH/g、より好ましくは5〜10mgKOH/gであることが必要である。このものの酸価が5mgKOH/gよりも低いと、弾性率が低下し、流動性の適切な調整を行う能力が低下するし、また酸価が30mgKOH/g以上になると、(B)成分のエポキシ系化合物との反応が進行する過程で、架橋点間の構成部分の分子量が小さくなり、高温下での粘着力の低下、剥がれや発泡の原因となる。
【0023】
上記の質量平均分子量及び酸価を与えるアクリル系粘着性化合物としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体又はこれと共重合可能な単量体との共重合体を挙げることができる。
ここで、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルを意味する。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中で好ましいのは、炭素数1〜4のアルキル基をもつ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば(メタ)アクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、n‐プロピルエステル、イソプロピルエステル、n‐ブチルエステル、イソブチルエステル、s‐ブチルエステル、t‐ブチルエステルなどであり、粘着層を形成したときに260℃という高温環境下においても発泡することがなく、かつ高温環境下及び加熱後冷却した場合でも、良好な密着性を示す点で(メタ)アクリル酸エチルエステル、ブチルエステルのような炭素数2〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0024】
次に、上記のアルキルエステルと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、β‐カルボキシエチルアクリレート、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、無水フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸ブチルなどのカルボキシル基を含有する単量体、或いは2‐ヒドロキシエチルアクリレート、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート、2‐ヒドロキシプロピルアクリレート、2‐ヒドロキシプロピルメタクリレート、4‐ヒドロキシブチルアクリレート、4‐ヒドロキシブチルメタクリレート、6‐ヒドロキシヘキシルアクリレート、6‐ヒドロキシヘキシルメタクリレート、8‐ヒドロキシオクチルアクリレート、8‐ヒドロキシオクチルメタクリレート、10‐ヒドロキシデシルアクリレート、10‐ヒドロキシデシルメタクリレート、12‐ヒドロキシラウリルアクリレート、12‐ヒドロキシラウリルメタクリレート、(4‐ヒドロキシメチルヘキシル)‐メチルアクリレート、クロロ‐2‐ヒドロキシプロピルアクリレート、クロロ‐2‐ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、カプロラクトン変性アクリレート類、カプロラクトン変性メタクリレート類、ポリエチレングリコールアクリレート類、ポリエチレングリコールメタクリレート類、ポリプロピレングリコールアクリレート類、ポリプロピレングリコールメタクリレート類などの水酸基を含有する単量体を挙げることができる。
【0025】
また、アミノメチルアクリレート、アミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノメチルアクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレートなどのアミノ基を含有する単量体やアクリルアミド、メタクリルアミド、N‐アクリロイルモルホリン、N‐置換アクリルアミド、N‐置換メタクリルアミド、N‐ビニルピロリドンなどのアミド基を含有する単量体も用いることができる。またはN‐シクロヘキシルマレイミド、N‐イソプロピルマレイミド、N‐ラウリルマレイミド、N‐フェニルマレイミドなどのマレイミド基を含有する単量体も用いることができる。
【0026】
その他、N‐メチルイタコンイミド、N‐エチルイタコンイミド、N‐ブチルイタコンイミド、N‐オクチルイタコンイミド、N‐2‐エチルヘキシルイタコンイミド、N‐シクロヘキシルイタコンイミド、N‐ラウリルイタコンイミドなどのイタコンイミド基を含有する単量体や、N‐アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N‐メタクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N‐アクリロイル‐6‐オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N‐メタクリロイル‐6‐オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N‐アクリロイル‐8‐オキシオクタメチレンスクシンイミド、N‐メタクリロイル‐8‐オキシオクタメチレンスクシンイミドなどのスクシンイミド基を含有する単量体や、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基を含有する単量体なども用いることができる。これらの単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、この単量体として後述する(B)エポキシ系架橋剤と反応し得る官能基、例えばカルボキシル基又は水酸基を有する単量体を用いると、粘着剤組成物の弾性率と粘着力との調整性の面から好都合である。アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な単量体との使用割合は、得ようとする(A)成分の物性により左右されるが、通常質量比で99:1〜96:4の範囲である。
【0027】
このように、(A)成分としては、前記アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステルの少なくとも1種と、これと共重合可能な単量体との共重合体が好ましいが、所望によりアクリル酸アルキルエステル、これと共重合可能な単量体の両方に共重合可能で、かつこれら以外の単量体と用いた共重合体とすることもできる。そのとき用いられる単量体としては酢酸ビニル、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリルなどが挙げられ、その使用量は単量体全量に対して0〜30質量%、好ましくは0〜10質量%の範囲で用いられる。
【0028】
この(A)成分の共重合体は、上記の単量体成分をラジカル共重合させることによって得ることができる。この場合の共重合法としては、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、光重合法など通常用いられている公知の共重合体の中から任意に選ぶことができる。また、(A)成分のガラス転移温度としては、−50℃ないし50℃の範囲内であることが好ましい。ガラス転移温度が50℃超であると、室温付近において被着体と粘着剤層との粘着力が低下するし、ガラス転移温度が−50℃未満であると、高温における被着体と粘着剤との粘着力が低下する。室温23〜260℃における被着体と粘着剤層との粘着性を向上させるという観点からは、アクリル系粘着剤のガラス転移温度は、−50℃〜0℃であることが好ましい。
【0029】
この(A)成分としては、上記の共重合体すなわち低酸価のもののみを単独で用いた場合においても、本発明の目的とするはんだ温度プロファイル適性が良好なものを得ることができるが、これを(a1)成分とし、(a2)成分として質量平均分子量5万以上60万未満、酸価30mgKOH/g以上のアクリル系粘着性化合物と組み合わせたものを用いると、さらに弾性率、剥離力を向上させることができるので、有利である。
この(a2)成分のアクリル系粘着性化合物としては、質量平均分子量が5万以上60万未満のものを用いる必要がある。質量平均分子量が60万を超えると、(a1)成分のアクリル系粘着剤との相容性が低下する。好ましくは50万以下、さらに好ましくは10万〜30万の範囲である。この(a2)成分はさらに酸価が30mgKOH/g以上、好ましくは40mgKOH/g以上であることが必要である。酸価が30mgKOH/g未満であるとエポキシ系架橋剤と反応しても、凝集力が不足し、高温における弾性率低下による粘着剤の流動のため発泡などの原因となる。粘着層を形成したときの粘着層の凝集力及び弾性率調整性の点で、好ましいのは40〜200mgKOH/g、特に好ましいのは45〜80mgKOH/gの範囲である。
【0030】
このような物性を満足するアクリル系粘着性化合物としては、先に(A)成分として挙げた(メタ)アクリル酸アルキルエステル、特に炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルとこれと共重合可能な単量体であって、酸価が前記範囲を満足するものとの共重合体である。この共重合可能な単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、β‐カルボキシエチルアクリレート、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、無水フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸ブチルなどのカルボキシル基を含有する単量体が挙げられる。これらの単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、この単量体は後述する(B)架橋剤と反応し得る官能基を有する単量体とするのが、粘着剤組成物の弾性率を調整しやすいので好ましい。
【0031】
この(a2)成分も前記(a1)成分の場合と同様、前記した(メタ)アクリル酸アルキルエステル、これと共重合可能な単量体以外の単量体を用いることができる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの少なくとも1種と共重合可能な単量体との使用割合は、得ようとする(a2)成分の物性により左右されるが、通常質量比で96:4ないし90:10の範囲である。この範囲を逸脱すると、(a2)成分として必要な凝集力が得られなくなったり、逆に必要以上の酸価を与えるため、塗布液の可使時間が短くなり好ましくない。この(a2)成分もガラス転移温度が−50℃ないし50℃の範囲にあるのが好ましい。
【0032】
(a1)成分と(a2)成分との配合割合は、質量比で95:5ないし55:45の範囲とすることが必要である。(B)成分がこの範囲より多くなると、特にはんだの温度プロファイルで使用した場合、粘着剤組成物の発泡や被着体からの剥離が発生するため、生産性や品質の低下につながるし、またこの粘着剤組成物を後述する基材に塗工する場合、塗工性が悪化する。高温下における粘着剤組成物の発泡抑制及び被着体との密着性の点を考慮して90:10ないし70:30の範囲とする。
【0033】
前記(B)成分として用いられるエポキシ系架橋剤は、少なくとも前記(a1)成分及び(a2)成分の1種と架橋反応し得るものであることが必要である。
【0034】
このエポキシ系架橋剤としては、例えば、ビスフェノールA−エピクロロヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6‐ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、N,N,N´,N´‐テトラグリシジル‐m‐キシリレンジアミン、1、3‐ビス(N、N´‐ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。これらの中でも特にグリシジルアミノ基を有する炭素六員環化合物、例えば次の一般式(1)〜(6)の中から選ばれる少なくとも1種を用いれば、はんだの温度プロファイルで使用しても粘着剤組成物に発泡がなく、しかも被着体との密着性に優れる粘着剤組成物が得られるので好ましい。
【0035】
【化1】

【0036】
(B)成分の架橋剤は単独で用いてもよいし、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
この(B)成分は、(A)成分中の(B)成分と反応し得る官能基、すなわちエポキシ反応性官能基、例えばカルボキシル基、水酸基の合計量に対し、(B)成分すなわちエポキシ系架橋剤中のエポキシ基の割合が、当量比で0.5〜6倍量、好ましくは1〜4倍量になる割合で配合すると高温下でも高弾性率を維持することができるので有利である。
この(B)成分の量が上記の割合よりも少ないと、凝集力が不足し耐熱性が不十分になるし、上記の割合よりも多くなると、エポキシ反応性官能基と反応しない、低分子量成分であるエポキシ系架橋剤が増加し、高温下で粘着剤が流動化し、耐熱性が不十分になる。
【0037】
次に、本発明の粘着剤組成物は、23〜260℃の温度域全体にわたって、0.3×106〜3×106Paの弾性率と、0.1N/25mm以上の粘着力を示すことによって特徴づけられている。
【0038】
上記の弾性率を測定するには、シリコーンシート上に塗工・乾燥し、厚さ50μm粘着剤層を形成後に剥離し、厚さ200μmとなるまで粘着剤層を積層させたのち、この粘着剤層を幅3.0mm、長さ15.0mmに加工し試料シートを作製する。次いで、この試料シートの長手方向の一方の端部を固定式チャックにより、他方の端部を可動式のチャックによりそれぞれ担持し、TMA4000S(MAC サイエンス社製)を用いてTMA引張モード法に従って、空気雰囲気中、−100℃ないし300℃の範囲の設定温度条件において、−0.2gないし−0.5gの荷重を5秒周期で負荷し、昇温スピード5℃/分で測定する。
【0039】
また、粘着力は、JIS Z0237に準拠し、製造後、加熱処理や紫外線照射処理を施していない、実施例及び比較例の粘着シートを、23℃、65%RHの環境下で、幅25mm、長さ250mmに切断した試験片の両面に、厚さ25μmのポリイミドフィルムを押圧力2kg、速度300mm/分の条件でゴムローラを一往復させることにより圧着して試験片とし、この試験片を23℃、65%RHの条件下で20分間放置した後、この試験片を、23℃、100℃、150℃及び200℃の温度条件下、引張試験機により、引張速度300mm/分で、180°方向に試験片からポリイミドフィルムを引き剥がした際の剥離力を測定した180度剥離力を単位N/25mmで示した。
【0040】
この粘着剤組成物の弾性率が、上記の範囲よりも低いと、粘着シートに加工した場合、はんだ温度に加熱された際に、粘着層の発泡、被着体との間の浮きや剥離を生じるし、また上記の範囲よりも高いと、加熱下での剥離力が劣化する。
他方、接着力が0.1N/25mm未満であると被着体との密着性を欠き、接着異常を発生する。
【0041】
また、本発明の粘着剤組成物は、23℃における弾性率(X)と260℃における弾性率(Y)との比(X)/(Y)が0.4〜3.2の間になるように組成を選択することが必要である。このように選択することにより、粘着シートに加工したときの高温下における粘着層の発泡の抑制、被着体との間のふくれ、密着性の低下の抑制が可能になる。
【0042】
本発明の粘着剤組成物には、所望に応じ、従来慣用されている各種添加剤、例えば、ロジン系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂、石油系粘着付与樹脂、石炭系粘着付与樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂などの粘着付与樹脂、架橋促進剤、酸化防止剤、安定剤、粘度調整剤、又は有機ないしは無機の充填剤などを添加することができる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤などを、有機充填剤としては、アクリル系ないしウレタン系の球状微粒子などを、無機充填剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナなどを好適に用いることができる。
【0043】
本発明の粘着剤組成物における弾性率及び粘着力の調整は、(B)成分すなわちエポキシ系化合物の配合割合及びその架橋率を増減することにより行われる。
(B)成分の量を増加させるか又は架橋率を高めれば、弾性率は高くなるとともに、粘着力は低下するし、(B)成分の量を減少し又は架橋率を低下させれば弾性率が低くなるとともに粘着力が向上する。
【0044】
次に、上記の粘着剤組成物を用いて粘着シートを製造するには、離型性を有する基材上に塗布してもよいし、離型性を有さない基材の片面又は両面に、この粘着剤組成物を含む粘着層形成用塗工液を塗布してもよい。
【0045】
粘着シートを構成する基材の構成材料については特に限定はなく、従来、粘着シート用の基材として用いられてきた材料の中から、粘着シートの用途に応じて適宜選択することができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、セロハン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリアミド、若しくはポリスルホンなどの合成樹脂、ガラス、金属、又はセラミックなどの中から選択することができる。
これらの基材は透明であっても、着色したものであってもよい。着色は、基材の構成材料に各種顔料や染料を配合する方法などにより行うことができる。また、基材の表面は平滑である必要はなく、表面がマット状に加工されているものであってもよい。
【0046】
また、基材として離型性を有するシートを用いる場合、例えばプラスチックフィルムや紙などの少なくとも片面にシリコーン系樹脂やポリプロピレン樹脂など離型性を有する樹脂層を設けたものやグラシン紙、パラフィン紙などを用いることができる。
【0047】
前記基材は、その構成材料中に、従来公知の添加剤、具体的には、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤などを含有するものであってもよい。また、粘着層との密着性を向上させることを目的として、表面処理を施したものを用いることが好ましい。表面処理としては、例えばコロナ放電処理、グロー放電処理などの放電処理、プラズマ処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、電子線処理、放射線処理などのような電離活性線処理、サンドマット処理、アンカー処理、ヘアライン処理などの粗面化処理、化学薬品処理、易接着層塗布処理などを挙げることができる。基材の厚さは、粘着シートの利用分野に応じて適宜選択すればよいが、通常12〜250μmであり、被着体への追従性や搬送性の面から25〜150μmが好ましい。
【0048】
粘着層の厚さは特に限定されないが、1〜100μmとすることが好ましく、2〜50μmとすることが更に好ましく、20〜50μmとすることが特に好ましい。粘着層の厚さが上記範囲未満の場合には、被着体に対する十分な粘着力が得られなくなるので好ましくない。
【0049】
粘着層は、例えば、上記の粘着剤組成物を適当な溶剤に溶解し、或いは分散させて、固形分濃度を10〜50質量%程度の粘着層形成塗工液とし、この粘着層形成塗工液を常法に従って、基材の少なくとも一方の表面を被覆するように塗布し、これを乾燥する方法により得ることができる。
【0050】
この際、粘着層形成塗工液には、所望に応じ、従来慣用されている各種添加剤、例えば、架橋促進剤、酸化防止剤、安定剤、粘度調整剤、粘着付与樹脂、又は有機若しくは無機の充填剤などを添加することができる。架橋促進剤としては、例えば、トリエチルアミン系、ナフテン酸コバルト系、スズ系の架橋促進剤が挙げられ、特に、塩化第一スズ、テトラ‐n‐ブチルスズ、水酸化トリメチルスズ、塩化ジメチルスズ、ラウリン酸ジ‐n‐ブチルスズなどのスズ系架橋促進剤を使用することが好ましい。この他、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤などを、粘着付与樹脂としては、テルペン系樹脂などを、有機充填剤としては、アクリル系ないしウレタン系の球状微粒子などを、無機充填剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナなどを好適に用いることができる。
【0051】
塗布の方法については特に制限はなく、ワイヤーバー、アプリケーター、刷毛、スプレー、ローラー、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、コンマコーター、ナイフコーター、リバースコ−ター、スピンコーターなどを用いた従来公知の塗布方法を利用することができる。なお、粘着層形成塗工液を塗布する基材や離型性を有するフィルムの面には、必要に応じて予め表面処理を施しておくこともできる。
【0052】
乾燥方法についても特に制限はなく、熱風乾燥、減圧乾燥などの従来公知の乾燥方法を利用することができる。乾燥条件については、粘着剤の種類や塗工液で使用した溶剤の種類、粘着層の膜厚などに応じて適宜設定すればよいが、60〜180℃程度の温度で乾燥を行うことが一般的である。原料組成物が架橋し得る組成の場合には、この加熱により原料組成物を架橋させることができる。
【0053】
なお、粘着層中に残存する揮発分の量(以下、「残存揮発分量」と記す)によっては、粘着層と基材などとの粘着性や冷却後の剥離性に悪影響を及ぼす場合がある。特に、高温における残存揮発分の気化が発泡、剥がれの原因となる場合がある。従って、粘着層中の残存揮発分量は、4質量%以下、特に2質量%以下とすることが好ましい。なお、所望とする残存揮発分量とするためには、粘着層形成塗工液を調製するための溶剤の量や、塗工後の乾燥時間などを調整することにより行う。
【0054】
以下、本発明の粘着剤組成物、及び粘着シートにつき実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
なお、各例における物性は以下の方法により評価した。
【0055】
(1)弾性率(Pa)
粘着剤組成物をシリコーンシート上に塗布、乾燥し、厚さ50μm粘着剤層を形成させたのち、剥離する操作を繰り返し、厚さ200μmとなるまで粘着剤層を積層させる。次いで、この粘着剤層を幅.0mm、長さ15.0mmに裁断して試料シートを作製する。この試料シートの長手方向の一方の端部を固定式チャックにより、他方の端部を可動式のチャックによりそれぞれ担持し、TMA4000S(MAC サイエンス社製)を用いてTMA引張モード法により、空気雰囲気中、−100℃ないし300℃の範囲の各設定温度条件下、−0.2ないし−0.5gの荷重を周期5秒で負荷し、昇温スピードは5℃/分として測定した。
【0056】
(2)粘着力(N/25mm)
JIS Z0237に準拠した方法により、製造後、加熱処理や紫外線照射処理を施していない、実施例及び比較例の粘着シートを、23℃、65%RHの環境下で、幅25mm、長さ250mmに切断した試験片の両面に、厚さ25μmのポリイミドフィルムを押圧力2kg、速度300mm/分の条件でゴムローラを一往復させることにより圧着して試験片とした。この試験片を23℃、65%RHの条件下で20分間放置した後、この試験片を、23℃、100℃、150℃及び200℃の温度条件下、引張試験機により、引張速度300mm/分で、180°方向に試験片からポリイミドフィルムを引き剥がした際の180度剥離力を測定し、この剥離力をこの試験片の粘着力とした。
なお、前記ポリイミドフィルムは、東レ・デュポンフィルム社製、商品名:カプトン100V(厚さ25μm)を使用した。
【0057】
はんだ温度におけるプロファイル適用性
製造後、加熱処理や紫外線照射処理を施していない、実施例及び比較例の粘着シートを、23℃、65%RHの環境下で、幅50mm、長さ50mmに切断し、無接着タイプ銅張積層板(新日鉄化学社製、製品名:エスパネックスSC12−25−00AE)のポリイミド面と東レ・デュポンフィルム社製、商品名:カプトン500H(厚さ125μm)との間に挟んだ後、ラミネーターにより温度23℃、速度1m/分、圧力0.3MPaの条件で貼り合せ、その後、110℃まで昇温、加熱し、その温度で1時間放置(アフターキュア)後、ピーク温度が260℃のリフロー炉に投入し、粘着層の接着状態を観察して気泡、浮き、シワ、剥がれ、ズレなどの接着異常の発生の有無を目視により以下の基準で評価した。
なお、図1に示す各温度プロファイルに従い、アフターキュア後はリフロー炉を使用し、空気環境下で約150℃×60秒ないし260℃×30秒で行った。
○:外見上変化が認められない。
△:一部に気泡(接着異常)が認められるが、カプトン500Hの剥がれは無く、銅張積層板の銅箔面からも凹凸が確認されなかった。
×:全面に気泡(接着異常)が認められる。カプトン500Hと銅張積層板の間に気泡が生じ、銅張積層板の銅箔面からも凹凸が確認された。
【0058】
各実施例、比較例で用いた(a1)成分、(a2)成分及び(B)成分は以下のとおりである。
【0059】
(a1−1)成分:アクリル酸エチル99質量%とアクリル酸1質量%との共重合体で、質量平均分子量90万、酸価8mgKOH/g、ガラス転移温度−21℃を有する。
【0060】
(a1−2)成分:アクリル酸n‐ブチル99質量%とアクリル酸1質量%との共重合体で、質量平均分子量130万、酸価8mgKOH/g、ガラス転移温度−53℃を有する。
【0061】
(a2−1)成分:アクリル酸メチル74質量%とアクリル酸2‐エチルヘキシル20質量%とアクリル酸6質量%との共重合体で、質量平均分子量30万、酸価47mgKOH/g、ガラス転移温度−7℃を有する。
【0062】
(a2−2)成分:アクリル酸n‐ブチル90質量%とアクリル酸10質量%との共重合体で、質量平均分子量50万、酸価78mgKOH/g、ガラス転移温度−44℃を有する。
【0063】
(a2−3)成分:アクリル酸n‐ブチル94質量%とアクリル酸6質量%との共重合体で、質量平均分子量55万、酸価47mgKOH/g、ガラス転移温度−48℃を有する。
【0064】
(a2−4)成分:アクリル酸エチル90質量%とアクリル酸10質量%との共重合体で、質量平均分子量56万、酸価78mgKOH/g、ガラス転移温度−13℃を有する。
【0065】
(B−1)成分:1,3‐ビス(N,N´‐ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンからなるエポキシ系架橋剤、エポキシ当量100〜110、4官能性。
【0066】
(B−2)成分:N,N,N´,N´‐テトラグリシジル‐m‐キシレンジアミンからなるエポキシ系架橋剤、エポキシ当量95〜105、4官能性。
【0067】
(B−3)成分:トリグリシジル‐p‐アミノフェノールからなるエポキシ当量110〜130の4官能エポキシ系架橋剤。
【0068】
(B−4)成分:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンからなる、エポキシ当量90〜105の3官能性エポキシ系架橋剤。
【0069】
(B−5)成分:ジグリシジルアニリンからなるエポキシ当量125〜145の2官能性エポキシ系架橋剤。
【0070】
(B−6)成分:ジグリシジルトルイジンからなるエポキシ当量133の2官能性エポキシ系架橋剤。
【0071】
(B−7)成分:2,2‐ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロセキサン付加物からなる多官能性エポキシ系架橋剤。
【0072】
実施例1
(a1−1)成分75質量部及び(a2−1)成分25質量部及び(B−2)成分10質量部からなる接着剤組成物にメチルイソブチルケトン440質量部を加え、撹拌、混合することにより粘着層形成塗工液を調製した。
次に、この塗工液を、厚さ100μmの剥離フィルム(シリコーン処理ポリエチレンテレフタレート)の表面に、ベーカー式アプリケーターを用いて塗布し、80℃で3分、次に130℃で1分、さらに180℃で1分乾燥することにより膜厚50μmの粘着層を形成した。この粘着層の前記剥離フィルムとは反対側に厚さ100μmの別の剥離フィルム(シリコーン処理ポリエチレンテレフタレート)を貼着し、40℃で7日間養生することにより粘着シートを作成した。このものの物性を表1に示す。
【0073】
実施例2〜13
表1に示す組成の粘着剤組成物をそれぞれ用い、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。これらの粘着シートの物性を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
比較例1〜5
表2に示す組成の粘着剤組成物をそれぞれ用い、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。これらの粘着シートの物性を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表1の結果から、実施例1〜13はいずれも23〜260℃のいずれの温度においてもTMA粘弾性弾性率が0.3×106〜3×106の範囲にあり、かつ23〜200℃での剥離力(N/25mm)が0.1N/25mmであることが分かる。
その結果、実施例の粘着シートは比較例のものに比べ、はんだの温度プロファイル適用性評価においても粘着層が発泡したり、被着体に浮きや剥がれがないか又は極めて少ないものであることが分かる。
この結果より、実施例1〜13の粘着シートをフレキシブルプリント基板を製造する際の補強板貼付けに使用することによりはんだリフロー工程がある作業においても充分使用可能な粘着シートであることが推測できる。
【0078】
また、実施例1は、アクリル系粘着剤として低酸価の(a1−1)成分と高酸価の(a2−1)成分とを混ぜることにはんだの温度プロファイル適用性評価(リフロー)時に接着異常が発生しなかった。
【0079】
実施例2は、実施例1の(a2−1)成分よりさらに高酸価のものを用いたものである。このことにより弾性率、200℃における剥離力も0.72N/25mm共に実施例1よりも高い結果が得られている。
【0080】
実施例3は、実施例2の(a1−1)成分をアクリル酸エチルを主成分とするものからアクリル酸ブチルを主成分とするものに変更したものである。その結果、弾性率、剥離力ともに実施例2より低くなったが、はんだの温度プロファイル適用性評価では良好な結果が得られている。
【0081】
実施例4は、実施例1の(a2−1)成分に比べ高酸価で、しかもアクリル酸エチルを主成分とするアクリル系粘着剤のものを用いた。その結果、実施例1に比べ弾性率、粘着力共に高いものが得られた。
【0082】
実施例5は、実施例1で使用の架橋剤(B−2)成分を(B−1)成分に変更したものである。この粘着シートの弾性率は実施例1と同等であるが、23℃における剥離力が高いものであることが分かる。
【0083】
実施例6は、実施例1の(B−2)成分を(B−6)成分に変更したものである。この粘着シートの弾性率は実施例1よりも多少低くなっているが、23℃、200℃での剥離力が高く、高温下で被着体との密着性が良好であることが分かる。
【0084】
実施例7は、実施例1の架橋剤(B−2)成分を(B−2)と(B−6)との混合物に変更したものである。このものは、弾性率、剥離力共に実施例1と同等のものであることが分かる。
【0085】
実施例8は、実施例1の(B−2)成分を(B−4)成分に変更したものである。この粘着シートの弾性率は実施例1よりも多少低く、剥離力は各温度において1N/25mm以上と高いものであることが分かる。
【0086】
実施例9は、実施例1の(B−2)成分の配合量を10質量部から5質量部と半分に減らしたものである。このものは架橋剤の使用量を減らしているにもかかわらず弾性率、剥離力ともに実施例1と同等の粘着シートが得られていることが分かる。
【0087】
実施例10は、実施例1の(B−2)成分の配合量を10質量部から15質量部に変更したものである。架橋剤の配合量が増加したが、アクリル系粘着剤(A−1)の酸価が小さいため、弾性率を増加させることなく、200℃での剥離力も高く保っていることが分かる。
【0088】
実施例11は、実施例1で使用した(a1−1)成分、(a2−1)成分及び(B−2)成分の配合割合をそれぞれ90質量部、10質量部、5質量部としたものである。このものは実施例1に比べ若干弾性率、剥離力が低いものとなっているが100℃、150℃での被着体との密着性は実施例1のものよりも高いことが分かる。
【0089】
実施例12は、実施例1で使用した(a1−1)成分、(a2−1)成分及び(B−2)成分の配合割合をそれぞれ60質量部、40質量部、15質量部としたものである。このものは実施例1に比べ弾性率、剥離力が高い傾向にあり、特に200℃での剥離力が高くなっていることが分かる。
【0090】
実施例13は、実施例1におけるa2成分を省き、a1成分(低酸価)のみとしたものであるが、実施例1に比べ弾性率、剥離力は若干低下するとしても、はんだの温度プロファイル適正評価結果は良好なものであることが分かる。
【0091】
また、実施例1、2、4〜12のものは、200℃における粘着力試験において、凝集破壊が発生している。さらに、実施例8は150℃の粘着力試験においても凝集破壊が発生している。
【0092】
表2に示す比較例1は実施例3の(a2−2)成分(高酸価)を低酸価47KOHmg/gと低いのものに変更したものである。このものは、実施例3に比べ、弾性率が低下し、かつ100℃以上の温度下における剥離力がいずれも低下している。このことにより、はんだの温度プロファイル適用性評価において粘着層に発泡が発生したり、被着体の浮き、剥がれが認められるものであることが分かる。
【0093】
比較例2は、実施例1の(B−2)成分の配合割合を10質量部から1質量部に変更したものである。このものは、弾性率が260℃において0.3×106Pa未満となり、しかも100℃以上の温度下における剥離力がいずれも0.1N/25mm未満となっている。このことからはんだの温度プロファイル適用性評価において粘着層に発泡が発生したり、被着体の浮き、剥がれが認められる。これは、(B−2)成分の配合量を少なくすると、架橋が不十分となる結果、リフロー時に粘着剤層が流動したためと考えられる。
【0094】
比較例3はアクリル系粘着剤として(a2−1)(高酸価)成分のみとし、(B−2)成分10質量部としたものである。このものは、いずれの温度においても弾性率が3×106Pa以上と高く、かつ100℃以上での剥離力が0.1N/25mm未満であることが分かる。その結果、はんだのプロファイル適用性評価において接着異常が発生している。
【0095】
比較例4、5は、実施例1の(B−2)を(B−5)又は(B−7)に変更したものである。このものは200℃以上において弾性率が著しく低下したため、はんだのプロファイル適用性評価において接着異常が発生している。
また、比較例3で3は23℃における粘着力試験においてジッピングが認められた。さらに、比較例2では200℃において、比較例4及び5においては、100℃〜200℃において粘着力試験にて凝集破壊が認められた。比較例2の260℃における弾性率また比較例4、5の200℃、260℃における弾性率は、弾性率が著しく低下したため測定不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、はんだ工程用マスク材料、チップ、各種コンデンサ、電池、プリント回路基板などの製造時の搬送、バックアップ、めっきマスク、各種車両の焼き付け塗装時のマスクなどの粘着シートとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】はんだの温度プロファイル適用性を測定する際の温度プロファイルを示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)質量平均分子量60万以上、酸価5mgKOH/g以上、30mgKOH/g未満のアクリル系粘着性化合物と(B)エポキシ系架橋剤からなり、23〜260℃の温度域全体にわたり弾性率0.3×106〜3×106Pa及び粘着力0.1N/25mm以上を示し、かつ23℃における弾性率(X)と260℃における弾性率(Y)との比(X)/(Y)が0.4〜3.2の範囲内にあることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
(A)成分が炭素数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、エポキシ反応性官能基をもつ単量体との共重合体であり、かつ−50℃ないし50℃の範囲のガラス転移温度を有する請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
(A)(a1)質量平均分子量60万以上、酸価5mgKOH/g以上、30mgKOH/g未満のアクリル系粘着性化合物55〜95質量%と(a2)質量平均分子量5万以上60万未満、酸価30mgKOH/g以上のアクリル系粘着性化合物45〜5質量%との粘着性化合物混合物及び(B)エポキシ系架橋剤からなり、23〜260℃の温度域全体にわたり弾性率0.3×106〜3×106Pa及び粘着力0.1N/25mm以上を示し、かつ23℃における弾性率(X)と260℃における弾性率(Y)との比(X)/(Y)が0.4〜3.2の範囲内にあることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項4】
(a1)成分が炭素数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、エポキシ反応性官能基をもつ単量体との共重合体であり、(a2)成分が炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとエポキシ反応性官能基をもつ単量体との共重合体であり、かつ(a1)成分と(a2)成分のいずれもが−50℃ないし50℃の範囲のガラス転移温度を有する請求項3記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
(A)成分の粘着性化合物中のエポキシ反応性官能基の合計量に対する(B)成分のエポキシ系架橋剤のエポキシ基の割合が当量比で0.5〜6倍量である請求項1又は3記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
(B)成分のエポキシ系架橋剤が少なくとも1個のジグリシジルアミノ基を有する炭素六員環化合物である請求項1ないし5のいずれかに記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
少なくとも1個のジグリシジルアミノ基を有する炭素六員環化合物が、以下の(1)ないし(6)のいずれかの化学構造式で示される化合物である請求項6記載の粘着剤組成物。
【化1】

【請求項8】
請求項1又は3記載の粘着剤組成物からなる厚さ1〜100μmの粘着層を基材の片面又は両面に設けたことを特徴とする粘着シート。

【図1】
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【公開番号】特開2010−155933(P2010−155933A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335324(P2008−335324)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000108454)ソマール株式会社 (81)
【Fターム(参考)】