説明

精紡機の綾振り装置

本発明の対象は、精紡された糸をボビン(3)又はボビンスリーブ(4)に巻き取るための巻取りユニット(1)に関しており、この場合に巻取りユニット(1)は、ボビン(3)を駆動するための摩擦ローラ駆動装置(5)及び綾振り装置(7)を有している。本発明は、綾振り装置(7)が、ボビン(3)の、スリップなしの、有利には形状接続的又は摩擦接続的な駆動伝達部(8)を介して駆動され、この場合に綾振装置(7)の駆動伝達部(8)が、ワインディング比が一定不変に保持されており、これにより精密パッケージが生じるように構成されていることにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は糸巻取り装置の分野である。具体的には、本発明は請求項1の上位概念部に記載の紡糸された糸を巻き取るための巻取りユニット並びに対応して備え付けられた精紡機に関する。このような装置は繊維工業において公知である。
【0002】
糸のワインディング又は巻取りは公知のように巻取り機により行われる。巻取り機は種々異なったワインディング方式に基づいて作業し、この場合にランダムワインディング又はプレシジョンワインディング又はステップ−プレシジョンワインディングを作製する。関連した巻取りパラメータが、特に「ワインディング比(往復行程毎のボビン回転数により規定される)」である。このワインディング比により規定される、半分の綾巻き角度に相当する給糸の傾斜角、及び速度である。
【0003】
ランダムワインディング(綾角一定巻き)とは、ボビン直径の増大に伴いワインディング比が連続的に減少するワインディングであり、この場合に綾巻き角度は一定不変に保持される。ランダムワインディングは、給糸速度並びにボビンの周速が一定不変に保持されることにより生じる。これらの条件は比較的簡単な摩擦ローラ駆動装置により実施可能である。全てのボビン直径にわたって一定不変の綾巻き角度は、作製されたボビンの良好な形状安定性及び搬送可能性をもたらす。欠点が、ボビン構成の間に不都合なワインド数により生じる。これらのワインド数は、パッケージ構成の間に所定のボビン直径において「リボン巻き(Bilder)又はリボン巻き領域(Bildzone)」の形で目立つようになる。これらの領域では、糸は糸に密に隣接して、又は糸と糸とが直接に上下に重なり合って供給される。これらのリボン巻き領域は不均一な糸繰出しをもたらし、このことは、のちに繰出し時の糸引っ張り力ピーク又は糸破損さえももたらしかねない。次の加工プロセスは、終始高い若しくは極めて高い引出し速度により加工されるので、リボン巻き領域は極めて重大な欠点を意味する。
【0004】
プレシジョンワインディングでは、全巻取り工程の間にワインディング比が一定不変に保持される。綾巻き角度はもちろん変化し、ボビン直径の増大に伴い小さくなる。ワインド数が最適に選択された場合にはプレシジョンワインディングによるボビンにはリボン巻き領域がなく、このことは、極めて良好な引出し特性をもたらす。プレシジョンワインディングの利点には次のこと、すなわち、ワインディングのひっかかりがないこと、ボビンの引出し時の一様な糸引っ張り力経過、ボビンの糸の高い密度及び一様な密度分配、さらなる処理時の染料の改善された貫流、並びに糸が引き続き織られる場合及び編まれる場合のボビンの繰出し時の故障のないより長い作動時間が挙げられる。これに対して軸線方向の形状安定性はプレシジョンワインディングでは給糸の、ボビン構成に関して変化する傾斜角に基づき低下するが、外側の層では欠点ではない。
【0005】
ステップ−プレシジョンワインディングは、ランダムワインディングとプレシジョンワインディングの両方のワインド方式の組合せである。ドイツ連邦共和国特許第3332382号明細書に記載された巻取り機はこれらの両方のワインド方式の利点の結びつきを、モータ式の駆動装置により駆動可能な駆動ローラ及び可変の変速比を備えた伝動装置により駆動な給糸装置を有する巻取り機においてプレシジョンワインディングを作製するために駆動ローラが固定変速比を備えた駆動装置により駆動され、給糸のための伝動装置が計算器により調整される調整部材により調整され、この場合に綾巻きボビン及び給糸装置の回転数を測定するためのそれぞれ1つの回転数発生器が計算器に接続されている。
【0006】
巻取り開始時には、ワインディング比が設定されており、設定された値だけ綾巻き角度が減少した後に、計算器は規定されたより小さいワインド数に切り換える。これにより、プレシジョンワインディングによる同心的なリングが生じる。この場合にリング毎にボビン直径の増大に伴いワインディング比が飛躍的に不連続な既定値を取るので、綾巻き角度は狭い限界内でのみ変化する。ほぼ一定不変の綾巻き角度はランダムワインディングに相当し、ワインディング比の保持はプレシジョンワインディングの直径段に相当する。
【0007】
精紡機においても質的に価値の高いボビンを作製し、これにより、巻返しプロセスを省略することができるようにするという要望が既に長い間ある。実際には、これまでに公知の手段を有する精紡機ではランダムワインディングのみが作製される。これは、ランダムワインディングによるボビンの作製は簡単な駆動装置のみを必要とし、巻取り速度若しくは巻き付け速度は一定不変に保持されるからである。それにもかかわらず、駆動技術的により簡単に実施するためには、ランダムワインディングは前記欠点を有している。これらの欠点を除去するためには、過去に精紡機に精密巻取り機を装着することが試みられた(ヨーロッパ特許庁特許公開第950627号明細書)。精紡機にステップ−プレシジョンワインダを装着することも試みられた(ヨーロッパ特許庁特許公開第562296号明細書)。巻取りの問題に取り組んでいる別の刊行物がドイツ連邦共和国特許第19626962号明細書及びドイツ連邦共和国特許第3918846号明細書である。
【0008】
前記ヨーロッパ特許庁特許第950627号明細書は、一定不変の速度により供給された精紡機の糸を糸綾振り装置により、プレシジョンワインディング又はステップ−プレシジョンワインディングを有するパッケージの形に巻き取るための方法及び装置について記載している。この装置では、比較的複雑な制御及び手間のかかる装置を必要とすることが欠点である。
【0009】
そこで本発明の根底にある課題は、巻取りユニットにおいて、できるだけ簡単な駆動装置を有しており、精密パッケージを作製することができるものを提供することである。
【0010】
この課題は、請求項1の特徴部により解決される。
【0011】
本発明による装置の使用により、簡単な手段により精密パッケージを作製できることが達成される。本発明により、比較的簡単な摩擦ローラ駆動装置の使用にもかかわらず、最良の糸経過特性を有するボビンをさらなる加工時に作製することが可能である。
【0012】
本発明の思想の有利な実施例では、綾振り装置のための本発明による駆動伝達装置をボビンから分離し、巻取りユニット全体を、(綾振り装置のための付加的な独立した駆動装置により)綾角一定巻きを作製するためにも使用することができる。これにより、同じ装置で異なる3つのワインディング形式、すなわち、a)綾角一定巻き(ランダムワインディング)、b)プレシジョンワインディング、及びc)ステップ−プレシジョンワインディングを形成することができる。これにより、本発明による巻取りユニットは機械の運転者に、ワインディング形式の選択の最大限の柔軟性を提供する。
【0013】
本発明の思想の別の有利な実施例では、綾振り装置が翼式綾振り装置の形で構成されている(図面参照)。これにより、極めて高い給糸速度を可能にし、しかも取扱が簡単に保持される、極めて動的な給糸が保証されている。回転する翼により、簡単に機能する、エネルギ消費の小さい綾振り装置が得られる。とりわけこの綾振り装置は、行程の反転領域内の極めて高い加速度を有する振動質量体(駆動装置及び綾振り装置の高い負荷)を必要としない。
【0014】
本発明の別の有利な構成及び実施例が従属請求項に記載されている。
【0015】
次に本発明及び本発明の思想を、図面に示した実施例に基づき説明する。しかしながら、本発明若しくは本発明の思想は実施例に示した構成に制限されるものではないことを明言しておく。
【0016】
図1は、本発明による巻取りユニットの可能な1構成を示している。図示の巻取りユニット1は精紡された糸2をボビン3若しくはボビンスリーブ4に巻き取るために働く。本発明による巻取りユニットは、有利には精紡機内に組み込むために考案されているので、図1に示した糸2も通例では精紡箱(図示しない)から供給される。図面から判るように、巻取りユニット1全体がモータMにより駆動される。このモータMは、摩擦ローラ駆動装置5の構成部分である。この摩擦ローラ駆動装置5の機能形式は一般に公知である。すなわち、モータMは摩擦ローラ6、ひいてはボビン3若しくはボビンスリーブ4を駆動する。この巻取りユニット1においては新しいことは、綾振り装置7が駆動される形式である。すなわち、綾振り装置7ための駆動エネルギの伝達がボビン3若しくはボビンスリーブ4の駆動伝達部8を介して保証されている。本発明による駆動伝達部8は、綾振り装置7への駆動エネルギのスリップのない伝達を保証する。このためには、駆動伝達部8は、例えば相応の歯列を有する駆動ベルト12又はボビンスリーブ4のリブ11により、有利には形状接続的(formschluessig)又は摩擦接続的(reibschluessig)に構成されている。図1に示した駆動伝達部8は、駆動ベルト12及び歯車22により概略的にのみ示されている。本発明による駆動伝達部8のためには数多くの構成が可能である。本発明によれば、これらの構成はもちろん駆動エネルギのスリップのない伝達部を有しており、これにより、ワインディング比(すなわち、糸の往復行程毎のボビン回転数)が一定不変に保持され、これにより、ボビンへのプレシジョンワインディング(ワインド数一定巻き)が可能になる。これにより、本発明による駆動伝達部8は、巻取りユニット1をプレシジョンワインダとして特徴づけている。ボビン3から綾振り装置7への駆動エネルギの伝達のためには、ボビンスリーブ4は例えば特殊な構造的な手段を有していてよい。これらの構造的な手段は、例えば図面に示したように、1つ又は複数の箇所にリブ11を有していてよい。本発明の有利な1構成では、綾振り装置7のために翼式綾振りが用いられる(翼14参照)。両方の翼は逆向きに回転する。対応した駆動システム(作動装置)は図示していない。さらに図1には摩擦ローラ駆動装置の制御部9が概略的に示されている。(図1による装置では不要である)付加的な駆動装置13の機能形式を次の図2につき説明する。
【0017】
図2は、本発明による巻取りユニット1の別の1実施例を示している。この実施例では駆動エネルギはボビンスリーブ4を介してではなく、ボビン皿20を介して駆動伝達部8に伝達される。ここでもボビン皿20にはエネルギ伝達のための特殊な面10が構成されている。本発明のこの別の構成では、ボビン皿20は、図1のボビンスリーブのように駆動エネルギを伝達するリブ11を有している。もちろん、ボビンから来るねじれエレメントを駆動伝達部8に伝達するための全く異なった可能性が考えられる。溝又はリブ状のエレメントの代わりに摩擦接続な伝達も可能である。もちろんこの構成においてもボビンスリーブ4から両方のボビン皿20へのねじれ伝達時にはスリップは生じない。ここでもボビンスリーブ4とボビン皿20との間の形状接続的又は摩擦接続的な結合が可能である場合にはこのことが保証されている。
【0018】
図2のこれまでの構成、すなわち、ボビン皿を介した本発明による駆動伝達部の構成とは無関係に、図2は本発明の思想の別の変化態様を示している。すなわち、本発明の有利な1構成では、駆動伝達部8をボビン3から連結解除することができるようになっており、その代わりに綾振り装置のための付加的な独立した駆動装置13が設けられていることが可能である。これにより、同じ巻取りユニット1がプレシジョンワインダとしてもランダムワインダとしても作動され得る。これにより、付加的な独立した駆動装置13が、有利には、摩擦ローラ駆動装置の制御部9に結合されており、従って、この摩擦ローラ駆動装置が駆動装置13の制御をも担うことが保証されている。本発明の有利な構成は、同じ装置により種々異なったワインディング形式を作製することができるという利点を有している。これにより、プレシジョンワインディング(ワインド数一定巻き)と並んで前記綾角一定巻き(ランダムワインディング)も、ステップ−プレシジョンワインディングも作製することができる。
【0019】
摩擦ローラ駆動装置の制御部9は、有利には、本発明の全ての構成において精紡張力19を測定するための装置に結合されている。有利には、摩擦ローラ6の回転数は前記精紡張力を介して制御される。
【0020】
図3は、精紡機15の精紡箇所16を示している。この精紡箇所16には本発明のよる巻取りユニット1が装備されている。有利には、この巻取りユニット1はモジュール式に構成されている、すなわち、ユニットの形で組み込み、取り外すか若しくは交換することができる。有利には、図示の精紡モジュール18は同様にモジュール式に構成されており、交換可能である。もちろん本発明は種々異なった精紡方法及び精紡機のために使用することができる。有利には、精紡ユニット18の精紡箱17内では空気精紡法、ロータ式精紡法(オープンエンド精紡法)、摩擦精紡法、又は仮撚り式精紡法(2ノズル式精紡)により糸が作製される。
【0021】
本発明は、上に明確に述べた可能性及び構成に制限されるものではない。これらの変化態様は、むしろ本発明の思想をできるだけ有効に実施するために専門家のための提案として考案されたものである。それ故、同様に本発明の思想を再現しており、本出願により保護されるべき別の有利な用途及び組合せを上記構成から容易に導き出すことが可能である。開示された幾つかの特徴がこの実施例の説明で組み合わされており、以下の請求項で組み合わせて請求される。しかしながら、これらの実施例の説明の個々の特徴を単独で、又は別の組合せで本発明の思想を用いて請求することも可能である。それ故、出願人は本発明の思想を用いた別の組合せを最大限に明示的に保持している。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ボビンへの本発明による駆動伝達部を示す図である。
【図2】ランダムワインダとして作動される本発明による駆動伝達部を示す図である。
【図3】本発明による巻取りユニットを有する精紡機の精紡箇所を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精紡された糸(2)をボビン(3)又はボビンスリーブ(4)に巻き取るための巻取りユニット(1)であって、該巻取りユニット(1)が、ボビン(3)を駆動するための摩擦ローラ駆動装置(5)及び綾振り装置(7)を有している形式のものにおいて、
綾振り装置(7)が、ボビン(3)の、スリップのない、有利には形状接続的又は摩擦接続的な駆動伝達部(8)を介して駆動され、綾振り装置(7)の駆動伝達部(8)が、ワインディング比が一定不変に保持されるように構成されていることを特徴とする、巻取りユニット(1)。
【請求項2】
駆動伝達部(8)が、駆動エネルギをボビン(3)から綾振り装置(7)へ、ボビンスリーブ(4)を介して、又は該ボビンスリーブ(4)にスリップなしに結合されたボビン皿(20)を介して伝達するようになっている、請求項1記載の巻取りユニット(1)。
【請求項3】
摩擦ローラ駆動装置(5)が、制御部(9)を有しており、該制御部(9)が、摩擦ローラ(6)の回転数を、測定された精紡張力(19)により制御する、請求項1又は2記載の巻取りユニット(1)。
【請求項4】
ボビンスリーブ(4)又はボビン皿(20)が、駆動伝達部(8)へ駆動エネルギを形状接続的に伝達するための特殊に形成された面(10)を有しており、該面(10)が、有利には前記伝達のための溝、リブ(11)、又は凹部を有している、請求項2又は3記載の巻取りユニット(1)。
【請求項5】
駆動伝達部(8)が、1つ又は複数の駆動ベルト(12)を有している、請求項1から4までのいずれか1項記載の駆動ユニット。
【請求項6】
綾振り装置(7)のための駆動伝達部(8)が、連結解除できるようになっており、巻取りユニット(1)が、付加的な独立した駆動装置(13)を有しており、該駆動装置(13)により、綾振り装置(7)を作動することができるようになっており、これにより、巻取りユニット(1)によりランダムワインディングも作製され得るようになっている、請求項1から5までのいずれか1項記載の巻取りユニット(1)。
【請求項7】
綾振り装置(7)が、翼式綾振り装置(14)である、請求項1から6までのいずれか1項記載の巻取りユニット(1)。
【請求項8】
摩擦ローラ駆動装置(5)及び/又は、綾振り装置(7)のための付加的な独立した駆動装置(13)が、シンクロナスモータ、有利にはリラクタンスモータとして形成されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の巻取りユニット(1)。
【請求項9】
巻取りユニット(1)が、全体を交換可能なモジュラー式に構成されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の巻取りユニット(1)。
【請求項10】
精紡機(15)であって、該精紡機に少なくとも1つの精紡箇所(16)が設けられており、該精紡箇所(16)が、請求項1から9までのいずれか1項記載の巻取りユニット(1)を有していることを特徴とする、精紡機(15)。
【請求項11】
精紡機(15)の精紡箇所(16)が、ヤーンを次のいずれか1つの方法、すなわち、空気精紡法、ロータ精紡法、摩擦精紡法、仮撚法により糸を作製する、請求項10記載の精紡機(15)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−509064(P2008−509064A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525142(P2007−525142)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【国際出願番号】PCT/CH2005/000408
【国際公開番号】WO2006/015502
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(590005597)マシーネンファブリク リーター アクチェンゲゼルシャフト (93)
【氏名又は名称原語表記】Maschinenfabrik Rieter AG
【住所又は居所原語表記】Klosterstrasse 20,CH−8406 Winterthur,Switzerland
【Fターム(参考)】