説明

精製前粗油中成分分析法

【課題】精製前粗油中成分の分析方法において、極性の夾雑成分あるいは脂肪酸、又はその両方を除去する。
【解決手段】精製前粗油中残留農薬分析法は、前処理工程に水洗浄工程とPSA固相カラム処理工程を加えるものであり、水洗浄工程によって極性の夾雑成分を除去し、PSA固相カラム処理によって脂肪酸を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製前粗油中成分分析法に関し、特に、食品残留農薬等の精製前粗油中に残留する農薬の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品への農薬残留については食品衛生法によって残留基準が設定され、残留基準が設定されていない農薬が残留する食品の流通を制限する制度としてポジティブリスト制が知られている。ポジティブリスト制は、残留基準が設定されていない農薬の残留を禁止し、残留を認めるもののみを一覧表として示す方式である。
【0003】
農産物中に残留する農薬を分析する方法として、例えば、厚生労働省ポジティブ制度によるGC/MS(ガスクロマトグラフ・質量分析計)一斉分析法が提案されている(非特許文献1)。
【0004】
上記したGC/MS一斉分析法を適用することにより、精製前粗油中に残留する農薬等の成分を分析することが考えられる。図8は上記したGC/MS一斉分析法を適用した精製前粗油中成分の分析手順のフローチャートを示している。
【0005】
図8に示すフローチャートでは、例えば、50mLの遠沈管に分析対象である精製前粗油を0.2g採取する(S101)。採取した精製前粗油にヘキサン飽和アセトニトリル/ヘキサンを加えて、例えば10分間振とうして、液々分配にて脂肪分を分離し脱脂し(S102)、分離したアセトニトリル層を40℃以下で減圧濃縮する(S103)。
【0006】
次に、カラムクロマトグラフィーにて精製する。このカラムクロマトグラフィーによる精製では、例えば、ENVI−Carb/LC−NH2を用い、25%のトルエン/アセトニトリル20mLでコンディショニングする(S104)。
【0007】
この溶出液を分取して、50%アセトン/ヘキサン1mLに溶解して試験溶液を得て(S105)、GC/MS(ガスクロマトグラフ・質量分析)により目的とする成分を測定する(S106)。
【0008】
なお、油脂に関する用語では、粗油は油糧原料から圧搾または抽出した状態の油を言い、精製油は粗油に含まれる夾雑物を除去した油をいう。
【非特許文献1】食品に残留する農薬等のポジティブ制度に係る分析法の検討状況について 厚生労働省医薬食品局 平成17年8月25日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したような、従来技術を適用した精製前粗油中成分の分析における前処理方法では、抽出溶液には粗油由来の成分が非常に多く残留してしまい、測定対象の農薬が検出できないという問題がある。特に、粗油由来の成分に含まれる極性成分や脂肪酸などの妨害成分を除去する過程が無いため、これらの極性成分や脂肪酸が抽出溶液に残留し、ガスクロマトグラフでは測定対象の農薬の成分とピークが重なるマトリックス状態となり、成分検出が困難である。
【0010】
そこで、本発明は上記課題を解決して、精製前粗油中成分の分析方法において、極性の夾雑成分あるいは脂肪酸、又はその両方を除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の精製前粗油中残留農薬分析法は、前処理工程に水洗浄工程とPSA固相カラム処理工程を加えるものであり、水洗浄工程によって極性の夾雑成分を除去し、PSA固相カラム処理によって脂肪酸を除去する。
【0012】
本発明の精製前粗油中残留農薬分析法は、前処理、精製前粗油を水洗浄にて極性の夾雑成分を除去する工程と、この水洗浄溶液を液液分配にて脱脂する工程と、前記工程で脱脂した溶液からPSA(Primary/Secondary Amine)固相カラム処理にて脂肪酸を除去する工程と、前記工程で脂肪酸を除去した溶液をカラムクロマトグラフィー処理にて精製する工程とを含み、この前処理で抽出した溶出液をGC/MS分析により精製前粗油中の成分を分析する。より詳細には、水洗浄は、ヘキサンに溶解した精製前粗油にヘキサンと同量の水を加えて振とうする工程と、振とう後に得られるヘキサン層を無水の硫酸ナトリウムにて脱水する工程を含む。
【0013】
本発明の前処理によれば、水洗浄工程により極性の夾雑成分を除去することができ、また、PSA固相カラム処理工程によって脂肪酸を除去することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の前処理によれば、精製前粗油中成分の分析方法において、極性の夾雑成分あるいは脂肪酸、又はその両方を除去することができる。
【0015】
本発明の前処理によれば、従来法と比較して粗油試料に対し高いクリーンアップ効果が得られ、これにより従来技術による前処理では夾雑成分に埋もれてしまって検出できなかった農薬を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の精製前粗油中残留農薬分析法の工程を説明するためのフローチャートである。図1のフローチャートにおいて、精製前粗油の試料を採取し(S1)、採取した試料を水洗浄工程によって、試料中に含まれる極性の夾雑成分を除去する(S2)。
【0018】
前記水洗浄工程で極性の夾雑成分を除去した溶液を脱脂し(S3)、濃縮した後(S4)、PSA(Primary/Secondary Amine)固相カラム処理にて脂肪酸を除去する(S5)。
【0019】
抽出液をカラムクロマトグラフィーで精製し(S6)、溶出液を分取して試験溶液を抽出する(S7)。前記S2〜S6の前処理で抽出した試験溶液をGC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析)で測定する(S9)。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の精製前粗油中残留農薬分析法の一実施例について説明する。図2は、本発明の精製前粗油中残留農薬分析法の一実施例を説明するためのフローチャートである。
【0021】
採取した試料について、試料量0.2gにヘキサン20mLを加え(S11)、ヘキサン量と同量の水を加えて10分間振とうして水洗浄する(S12)。水洗浄した溶液のうち、ヘキサン層を採取し、硫酸ナトリウム(無水)にて脱水する(S13)。
【0022】
脱水して得られた溶液にヘキサン飽和アセトニトリル20mLを加えて液液分配にて脂肪分を分離し脱脂する工程を2回繰り返す(S14)。
【0023】
液々分配にて脱脂した溶液のアセトニトリル層をC18カラム(オクタデシルシリル化シリカゲル)に通して濃縮する。C18カラムの充填量は、実施例では1000mgとする(S15)。
【0024】
次に、25%トルエン/アセトニトリルを20m用いて、LENVI−Carb/LC−NH2(グラファイトカーボンブラック/アミノプロピル基)とPSA(Primary/Secondary Amine)固相カラムの連結カラムにて精製する。PSA固相カラムは、例えば、エチレンジアミン−N−プロピルシリル化シリカゲルを用いる。PSA固相カラムは、実施例では500mgとする(S16)。
【0025】
精製した溶液を50%アセトン/ヘキサン1mLに溶解し(S17)、得られた試験溶液をGC/MS(ガスクロマトグラフ・質量分析)により目的とする成分を測定する(S18)。
【0026】
なお、上記した試料量、溶媒量、混合溶媒の溶媒比率、添加する水の量、固相カラム 充填量は一例であり、試料中の妨害となる成分の種類と量により異なる。
【0027】
前処理工程に試料の水洗浄工程とPSA固相カラム処理を加えることで、測定の妨害となった極性の夾雑成分や脂肪酸が取り除かれ測定対象農薬分析が可能となる。
【0028】
以下に、実施例による分析結果を示す。
【0029】
精製前粗油にα−BHC、γ−BHC、ダイアジノン、マラソン、パラチオン、p,p’DDE、o,p’DDT、EDDP、EPNの9農薬を添加し、従来法に示した前処理を行った分析結果と本発明法による分析結果を、それぞれ図3、図4に比較して示す。
【0030】
図3は、従来法による粗油抽出溶液のGC/MSスキャン測定によるトータルイオンクロマトグラムを示している。このクロマトグラムによれば、従来法による前処理では保持時間約8〜18分まで広範囲にわたる夾雑成分ピークが検出される。
【0031】
一方、図4は、本発明による粗油抽出溶液のGC/MSスキャン測定によるトータルイオンクロマトグラムを示している。このクロマトグラムによれば、本発明による前処理では、保持時間約14〜15分に大きな夾雑成分ピークが見られる。
【0032】
図5は、これらを強度軸を同一スケールにてクロマトグラムを描き比較して示している。図5において、同一強度で比較を行うと、本発明の前処理によれば、保持時間約8〜18分の夾雑成分の除去効果が確認できる。
【0033】
以下、農薬を添加した粗油について、従来法により前処理した試料をスキャン測定結果と、本発明により前処理した試料をスキャン測定結果とを比較する。
【0034】
この比較では、表1に示す農薬1〜9を精製前粗油試料に添加したものを試料とする。なお、表1では、GC/MSスキャン測定した際に農薬から検出される特徴的な質量数と各農薬の保持時間を示している。
【0035】
【表1】

【0036】
図6は、農薬を添加した粗油を従来法により前処理した試料をスキャン測定した際に得られる、添加農薬各成分のマスクロマトグラムを示している。なお、図6のNo.1〜No.9は、表1の1〜9の農薬と対応している。
【0037】
図6のNo.1〜No.5の農薬に関してはマスクロマトグラムによる検出が可能であるが、No.5〜No.9は夾雑成分の影響によりピークが埋もれてしまい検出できない。
【0038】
図7は、農薬を添加した粗油を本発明により前処理した試料をスキャン測定した際に得られる、添加農薬各成分のマスクロマトグラムを示している。なお、図7のNo.1〜No.9は、表1の1〜9の農薬と対応している。
【0039】
図7のNo.1〜No.9の全農薬に関してマスクロマトグラムによる検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の精製前粗油中残留農薬分析法の工程を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の精製前粗油中残留農薬分析法の一実施例を説明するためのフローチャートである。
【図3】従来法による粗油抽出溶液のGC/MSスキャン測定によるトータルイオンクロマトグラムである。
【図4】本発明による粗油抽出溶液のGC/MSスキャン測定によるトータルイオンクロマトグラムである。
【図5】強度軸を同一スケールとしたクロマトグラムである。
【図6】従来法により前処理した試料の添加農薬各成分のマスクロマトグラムである。
【図7】本発明法により前処理した試料の添加農薬各成分のマスクロマトグラムである。
【図8】GC/MS一斉分析法を適用した精製前粗油中成分の分析手順のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製前粗油を水洗浄にて極性の夾雑成分を除去する工程と、
前記水洗浄溶液を液液分配にて脱脂する工程と、
前記脱脂した溶液からPSA固相カラム処理にて脂肪酸を除去する工程と、
前記脂肪酸を除去した溶液をカラムクロマトグラフィー処理にて精製する工程とを含む前処理を行い、
前記前処理で抽出した溶出液をGC/MS分析により精製前粗油中の成分を分析することを特徴とする、精製前粗油中成分分析法。
【請求項2】
前記水洗浄は、ヘキサンに溶解した精製前粗油にヘキサンと同量の水を加えて振とうする工程と、振とう後に得られるヘキサン層を無水の硫酸ナトリウムにて脱水する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の精製前粗油中成分分析法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−248157(P2007−248157A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69832(P2006−69832)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】