説明

精製合成ガス流を生成する方法

主成分の一酸化炭素及び水素以外に、硫化水素、HCN及び/又はCOSも含むフィード合成ガス流から、精製合成ガス流を生成する方法であって、該方法は、(a)蒸気/水の存在下のHCN/COS反応器において、フィード合成ガス流を触媒と接触させることによりHCN及び/又はCOSを除去して、HCN及び/又はCOSが激減した合成ガス流を得るステップ、(b)硫黄の融点未満の温度において、十分な溶液対ガス比及びHSを硫黄に変換し、硫黄付着を抑制するために有効な条件で、可溶化された有機酸のFe(III)キレートを含有する水性反応剤溶液と合成ガス流を接触させることによって、HCN及び/又はCOSが激減した合成ガス流中の硫化水素を元素硫黄に変換して、硫化水素が激減した合成ガス流を得るステップ、(c)硫化水素が激減した合成ガス流から二酸化炭素を除去して、精製合成ガス流及びCOを富化したガス流を得るステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染物質を含むフィード合成ガス流から精製合成ガス流を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成ガス流は、主に一酸化炭素及び水素を含む気体流である。合成ガス流は、一般的に、天然ガス、炭層メタン、蒸留油及び残油を含む炭化水素の部分酸化又は水蒸気改質によって、及びバイオマス又は石炭又はコークスなどの固体化石燃料のガス化によって生成される。
【0003】
バイオマス、無煙炭、褐炭、歴青炭、亜歴青炭、亜炭、石油コークス、泥炭などの固形燃料、及び重質残油、例えば、タールサンドから抽出された炭化水素、原油から直接誘導された、又は熱分解、接触分解、水素化分解などの油変換プロセスからの360℃を上回り沸騰する残油留分などの精油所からの残留物を含む、合成ガスを生成するための原料として使用され得る多くの固体の又は非常に重い(粘性のある)化石燃料が存在する。燃料の全てのこのような種類は、炭素及び水素の様々な割合、並びに汚染物質とみなされる様々な物質を有する。
【0004】
合成ガスを生成するために使用される原料に応じて、合成ガスは、二酸化炭素、硫化水素、硫化カルボニル及び二硫化カルボニル(COS)などの汚染物質を含有し、一方、窒素、窒素含有成分(例えば、HCN及びNH)、金属、金属カルボニル(特にニッケルカルボニル及び鉄カルボニル)、及び場合によってメルカプタンも含有する。
【0005】
精製合成ガスは、触媒化学変換において又は発電するために使用され得る。世界のエネルギー供給の相当な部分が、発電所における燃料、特に天然ガス又は合成ガスの燃焼によって提供されている。合成ガスは、1つ又は複数のガスタービンにおいて空気と一緒に燃焼され、得られるガスは、蒸気を生成するために使用される。次いで、蒸気は発電するために使用される。
【0006】
発電において合成ガスを使用するために特に適したシステムは、統合ガス化複合サイクル(IGCC)システムである。IGCCシステムは、ガスタービン発電所において燃料の供給源として石炭を使用するための一方法として考案された。IGCCは、2つのシステムの組合せである。第1のシステムは、合成ガスを生成するために石炭を使用する石炭ガス化である。次いで、シンガス(syngas)は、汚染物質を除去するために精製される。精製合成ガスは、発電するために燃焼タービン中で使用され得る。
【0007】
IGCCにおける第2のシステムは、商業的に発電する効率的な方法である複合サイクル、又は発電サイクルである。複合サイクルは、燃焼タービン/発電機、排熱回収ボイラー(HRSG)、及び蒸気タービン/発電機を含む。燃焼タービンからの排熱は、蒸気を生成するためにHRSGにおいて回収することができる。次いで、この蒸気は、蒸気タービンを通過して、より多く発電する別の発電機に動力を供給する。複合サイクルは、廃熱を再び使用してより多く発電するので、一般的に従来の発電システムより効率的である。IGCCシステムは、クリーンであり、一般的に従来の石炭発電所より効率的である。
【0008】
本明細書で上述の通り、合成ガスが発電に使用される場合、ガスタービン部品への汚染物質の付着を避けるために、汚染物質の除去がしばしば必要である。
【0009】
合成ガスが、触媒化学変換に使用される場合、触媒被毒を防ぐために、汚染物質の除去による低レベル化が必要である。
【0010】
精製合成ガス流を生成する方法は、一般的に高価なラインアップの使用を伴う。例えば、低温のメタノールが、物理的吸収によって硫化水素及び二酸化炭素を除去するために使用される場合がある。精製合成ガス中のこれらの汚染物質の濃度は、まだppmv範囲である。合成ガスが触媒変換される用途については、ppmv範囲の汚染物質濃度は、まだ高すぎる。メタノールに基づく方法を使用して合成ガス流をより高度に精製することは、メタノールを再生するために必要な不釣り合いに大量のエネルギーのために不経済である。さらに、吸収されたHSは、通常、HSを含むメタノールをストリッピングガスと高温で接触させて、HSを含むストリッピングガスを生ずることによって除去しなければならない。次いで、このストリッピングガス中のHSは、元素硫黄に変換されるが、このために相当な資本及び操業経費が必要である。
【0011】
US 2007/0072949において、シンガスは、溶媒の使用によって別の装置で硫化水素を除去するために処理される。したがって、硫化水素は、元素硫黄に変換される前に、Claus又はSCOT法によって合成ガスから最初に分離される。
【0012】
US 2005/0135983において、ガス流が高圧及び中程度の温度で直接Claus法にかけられる直接硫黄回収システムが開示されている。US 2005/0135983に開示された方法の不利点は、複数の反応器が、露点以下のClaus法の装置において必要であることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0072949号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0135983号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
精製合成ガスが、さらなる用途、特に発電に適するように、一連の炭素質燃料から誘導される合成ガス流の精製のための最適化された方法を提供することが、本発明の1つの目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
現在、フィード合成ガス流中のHSを直接元素硫黄に変換することによって、この目的を達成し得ることが見出された。
【0016】
したがって、本発明は、主成分の一酸化炭素及び水素以外に、硫化水素、HCN及び/又はCOSも含むフィード合成ガス流から、精製合成ガス流を生成する方法を提供し、該方法は、(a)蒸気/水の存在下のHCN/COS反応器において、フィード合成ガス流を触媒と接触させることによりHCN及び/又はCOSを除去して、HCN及び/又はCOSが激減した合成ガス流を得るステップ、(b)硫黄の融点未満の温度において、十分な溶液対ガス比及びHSを硫黄に変換し、硫黄付着を抑制するために有効な条件で、可溶化された有機酸のFe(III)キレートを含有する水性反応剤溶液と合成ガス流を接触させることによって、HCN及び/又はCOSが激減した合成ガス流中の硫化水素を元素硫黄に変換して、硫化水素が激減した合成ガス流を得るステップ、(c)硫化水素が激減した合成ガス流から二酸化炭素を除去して、精製合成ガス流及びCOを富化したガス流を得るステップを含む。
【0017】
本方法によって、硫化水素、硫化カルボニル及び/又はシアン化水素の除去による低レベル化が可能になる。精製合成ガスは、汚染物質のこの低レベル化のために、適切にガスタービンの燃料としての使用に、又は触媒化学変換における使用に適している。精製合成ガスは、統合ガス化複合サイクル(IGCC)における使用に特に適している。
【0018】
ステップ(c)において、適切には4から12バールの範囲の高圧の二酸化炭素流が得られる。この二酸化炭素流は、さらに加圧し、例えば原油の回収増進に使用することができる。
【0019】
本方法は、合成ガス流中のHSが、元素硫黄に直接変換されるので経済的である。HSが激減した合成ガス流は、非常に低い濃度のHSを有し、残留HS及びCOを除去するために、安価な非選択的酸ガス除去装置の使用を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】精製合成ガス流を生成する方法を示す。
【図2】図1による方法で生成された精製合成ガス流が、ガスタービン(1)及び熱回収蒸気発生装置(2)を含む発電所に導かれる図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
フィード合成ガス流中の汚染物質の量及び種類は、様々であり、フィード合成ガス流を生成するために使用される原料油に存在する汚染物質の量によって決まり得ることは理解されよう。
【0022】
一般的に、フィード合成ガス流は、原料油のガス化によって得られる。
【0023】
原料油としてバイオマス又は石炭などの固体化石燃料を使用する場合、一般的に、ガス化装置を出る合成ガス流中のHS及びCOSの量は、合成ガス流に対して15体積%未満、一般的に5体積%未満である。
【0024】
原料油として残油を使用する場合、一般的に、ガス化装置を出る合成ガス流中のHS及びCOSの量は、合成ガス流に対して20体積%未満、一般的に10体積%未満である。
【0025】
原料から生成された合成ガス流は、粒子状物質、例えば、フライアッシュ又は煤粒子を含むことがある。したがって、好ましい一実施形態において、合成ガス生成装置を出る合成ガスを、煤スクラバー中のスクラビング液と接触させて粒子状物質、特に煤を除去し、これによりフィード合成ガス流を得る。合成ガス生成装置を出る合成ガス流は、一般的に、高温及び/又は高圧にある。特に、合成ガスがガス化装置で生成される場合、ガス化装置を出る合成ガス流は、高温及び/又は高圧にある。さらなる冷却及び/又は減圧ステップを避けるために、煤スクラバーにおけるスクラビングステップは、好ましくは高温及び/又は高圧で実施される。好ましくは、合成ガスをスクラビング液と接触させる温度は、40から160℃、より好ましくは110から150℃の範囲である。好ましくは、合成ガス流をスクラビング液と接触させる圧力は、20から80バール、より好ましくは20から60バールの範囲である。
【0026】
フィード合成ガス流中のHCN及び/又はCOSの量は、それから合成ガスが誘導される原料油の組成及び合成ガスの生成に使用された技術によって決まる。一般的に、固体化石燃料、特に石炭から誘導されるフィード合成ガス流中のCOSの量は、フィード合成ガス流に対して約100から3000ppmvである。バイオマスについて、COSの量は、一般的に、1から100ppmvの範囲である。
【0027】
ステップ(a)において、HCN及び/又はCOSは、触媒変換によりフィード合成ガス流から除去される。
【0028】
HCN及び/又はCOSの加水分解用の触媒は、当業者に知られており、例えば、TiOベースの触媒又はアルミナ及び/若しくは酸化クロムに基づく触媒を含む。好ましい触媒は、TiOベースの触媒である。
【0029】
水/蒸気の量は、好ましくは、蒸気に対して、5体積/体積%から80体積/体積%の間、より好ましくは、10体積/体積%から70体積/体積%の間、一層より好ましくは、15体積/体積%から50体積/体積%の間である。
【0030】
ステップ(a)の好ましい一実施形態において、フィード合成ガス流を、シフト反応器中で水性ガスシフト触媒と接触させて、HCN及び/又はCOSを除去し、一酸化炭素の少なくとも一部を水とさらに反応させて二酸化炭素及び水素を形成する。
【0031】
ステップ(a)の1つの特に好ましい実施形態において、フィード合成ガス流中の一酸化炭素を、1つ又は複数の固定床反応器に存在する触媒の存在下で少量の蒸気を用いて変換する。それぞれの反応器において水性ガスシフト変換ステップが実施される一連のシフト反応器を使用することができる。最初の又は唯一の水性ガスシフト反応器に供給されるフィード合成ガス流中の乾燥ベースの一酸化炭素の含有量は、好ましくは、少なくとも50体積%、より好ましくは、55から70体積%の間である。フィード合成ガス流は、好ましくは、触媒を硫化された活性な状態に保つために硫化水素を含有する。硫化水素の最小含有量は、シフト反応器の運転温度、空間速度(GHSV)及びフィード合成ガス流中に存在する硫黄種に応じて決まる。好ましくは、少なくとも300ppmのHSが、フィード合成ガス流中に存在する。触媒活性の観点から、HSの最大量の制限はない。
【0032】
ステップ(a)の好ましい実施形態において、最初の又は唯一の水性ガスシフト反応器に入る時のフィード合成ガス流中の蒸気の一酸化炭素に対するモル比は、好ましくは、0.2:1から0.9:1の間である。シフト反応器に入る時のフィード合成ガス流の温度は、好ましくは、190から230℃の間である。さらに、入口温度が、それぞれの水性ガスシフト変換ステップへのフィードの露点を10から60℃の間上回ることが好ましい。反応器中の空間速度は、好ましくは、6000−9000h−1である。圧力は、好ましくは、2から5MPaの間、より好ましくは、3から4.5MPaの間である。
【0033】
一酸化炭素の変換率は、反応器のフィードに存在する化学量論量以下の蒸気のために、一般的に、100%ではなくてよい。好ましい一実施形態において、固定床反応器を使用するシフト反応器流出ガス中の一酸化炭素の含有量は、乾燥ベースで55から70体積%の間の一酸化炭素を含むフィード合成ガス流から出発した場合、乾燥ベースで35から50体積%の間であり、0.2から0.3モルの蒸気/CO比である。一酸化炭素のさらなる変換が求められる場合、シフト反応器流出ガスを、次の水性ガスシフト変換ステップにかけることが好ましい。
【0034】
このような続いての水性ガスシフト変換ステップについての好ましい蒸気/水の一酸化炭素に対するモル比、入口温度及び空間速度は、最初の水性ガスシフト変換ステップについて記載された通りである。上述の通り、フィード合成ガス流は、ガス化プロセスから適切に得られ、水スクラビングステップに適切にかけられる。このようなステップにおいて、水は蒸発し、シンガス混合物になる。このような洗浄されたシンガス中の得られた蒸気のCOに対するモル比は、適切に上述された好ましい範囲にある。これによって、シンガスが最初の水性ガスシフト変換ステップに供給される時に、蒸気又は水をシンガスに添加する必要がなくなる。続くステップのために所望の蒸気のCOに対するモル範囲を達成するために、蒸気又はボイラー用水が、それぞれの前ステップの流出ガスに添加されなければならない。
【0035】
水性ガスシフトステップを繰り返して、それぞれの次のシフト反応器のシフト反応器流出ガス中の一酸化炭素含有量を、乾燥ベースで5体積%未満のCO含有量まで段階的に低減することができる。4から5ステップで、換言すれば、4から5反応器で、このようなCO変換が達成され得ることが見出された。
【0036】
それぞれのシフト反応器における温度上昇を制御することが重要であることが見出された。1つの反応器の触媒床の最大温度が、440℃を超えないように、より好ましくは400℃を超えないように、それぞれのシフト反応器を操作することが好ましい。より高い温度において、発熱メタン生成反応が起こり、制御されていない温度上昇をもたらす場合がある。
【0037】
シフト反応器に使用される触媒は、好ましくは、水性ガスシフト触媒であり、これは、メタン生成などの副反応に有利に働くことなく、好ましい低い蒸気のCOに対するモル比において活性であり、比較的低い入口温度で活性である。適切には、触媒は、担体及びモリブデン(Mo)の酸化物又は硫化物、より好ましくは、モリブデン(Mo)及びコバルト(Co)の酸化物又は硫化物の混合物を含み、一層より好ましくは、銅(Cu)、タングステン(W)及び/又はニッケル(Ni)も含む。触媒は、カリウム(K)、ランタン(La)、マンガン(Mn)、セリウム(Ce)及び/又はジルコニウム(Zr)などの1種又は複数の助触媒/抑制剤も適切に含む。担体は、例えば、アルミナ、MgAl又はMgO−Al−TiOなどの耐火材であってよい。
【0038】
適切な触媒の一例は、活性γ−Al担体及び1−8重量%の間のCoO及び6−10重量%の間のMoOを含む。触媒は、好ましくは、押出物として存在する。
【0039】
ステップ(a)の好ましい一実施形態において、フィード合成ガス流は、少なくとも50体積%の一酸化炭素を含み、1つのシフト反応器又は複数のシフト反応器に入る時のフィード合成ガス流中の蒸気の一酸化炭素に対するモル比は、好ましくは、0.2:1から0.9:1の間であり、1つのシフト反応器又は複数のシフト反応器に入る時のフィード合成ガス流の温度は、190から230℃の間である。
【0040】
ステップ(a)が、本明細書で上記に記載されたシフト反応を含む場合、好ましくは、「シフトされた」合成ガス流の一部が、場合によって汚染物質の除去後に、例えば圧力スイング吸着法(PSA)ステップにおけるような、水素製造に使用される。水素製造に使用されるシフトされた合成ガス流の割合は、一般的に、15体積%未満、好ましくは、約1−10体積%である。次いで、このように製造された水素は、炭化水素合成反応の生成物の水素化分解における水素源として使用することができる。この配置は、水素の別の供給源、例えば、利用可能な場合、別に通例使用される外部供給源の必要性を低減又は排除さえする。したがって、炭素質燃料供給原料は、液体生成物変換へのバイオマス又は石炭の全体のプロセスに求められるさらなる反応物を提供することができ、全体のプロセスの自給自足を増す。
【0041】
ステップ(a)において、シアン化水素及び/又はCOSが激減した合成ガス流が得られる。
【0042】
ステップ(b)において、シアン化水素及び/又はCOSが激減した合成ガス流中の硫化水素の少なくとも一部が、元素硫黄に変換される。
【0043】
ステップ(b)において、硫化水素を、硫黄の融点未満の温度で、十分な溶液のガスに対する比及びHSを硫黄に変換し、硫黄の付着を抑制するために有効な条件で、シアン化水素及び/又はCOSが激減した合成ガス流を、可溶化された有機酸のFe(III)キレートを含有する水性反応剤溶液と接触させることによって元素硫黄に変換し、これによって、分散された硫黄粒子を含有する水性反応剤溶液及び硫化水素が激減した合成ガス流を生成する。上記方法の利点は、これが、排ガス処理を必要としない非常に選択的な方法であることである。さらに、これは、1つの反応器しか必要としない。
【0044】
使用される鉄キレートは、鉄が酸とキレートを形成している配位錯体である。酸は、式
【0045】
【化1】

[式中、
−基Yの2から4個は、酢酸及びプロピオン酸基から選択され、
−基Yのゼロから2個は、2−ヒドロキシ−エチル、2−ヒドロキシプロピル、及び
【0046】
【化2】

(式中、Xは、酢酸及びプロピオン酸基から選択される。)から選択され、
Rは、エチレン、プロピレン又はイソプロピレン又は代わりにシクロ−ヘキサン又はベンゼン(ここで、窒素で置換された2つの水素原子は、1,2位にある。)、及びこれらの混合物である。]を有し得る。
【0047】
鉄の例示的なキレート化剤には、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、1,2−プロピレンジアミン、及び1,3−プロピレンジアミンから誘導されるアミノ酢酸、例えば、EDTA(エチレンジアミン4酢酸)、HEEDTA(N−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸)、DETPA(ジエチレントリアミン5酢酸)、環式、1,2−ジアミンのアミノ酢酸誘導体、例えば1,2−ジアミノシクロヘキサン−N,N−4酢酸、及び1,2−フェニレン−ジアミン−N,N−4酢酸、及びBersworthの米国特許第3,580,950号に開示されているポリアミノ酢酸のアミドが含まれる。適切には、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン3酢酸(HEEDTA)の鉄キレートが使用される。
【0048】
さらなる適切な鉄キレートは、鉄がニトリロ3酢酸(NTA)とキレートを形成する配位錯体である。
【0049】
鉄キレートは、鉄キレートのアンモニウム又はアルカリ金属塩(又はこれらの混合物)などの可溶化された種として溶液に供給される。本明細書で使用される「可溶化された」という用語は、前述の1種の陽イオン若しくは複数の陽イオンの1種の塩若しくは複数の塩としてでも、又は、1種の鉄キレート又は複数の鉄キレートが、溶液中に存在する他の形態であっても、溶解された1種の鉄キレート又は複数の鉄キレートを意味する。キレートが溶解しにくく、より高い濃度のキレートが望ましい場合、欧州特許出願公開第215,505号に記載されたようにアンモニウム塩が使用できる場合がある。
【0050】
しかし、鉄キレートの沈殿を防ぐために取られるステップが重要ではない、鉄キレートのより希薄な溶液でも本発明を使用することができる。
【0051】
反応物の再生は、好ましくは空気としての酸素の使用によって好ましく達成される。本明細書で使用される「酸素」という用語は、「純粋な」酸素に限定されず、空気、酸素を富化した空気、又は他の酸素含有気体を含む。酸素は、2つの機能、即ち、反応物のFe(II)鉄のFe(III)状態への酸化、及び水性混合物からの残留溶解ガス(もともと存在する場合)のストリッピングを達成する。酸素(いずれの形態で供給されるかに関わらず)は、Fe(III)状態に酸化される溶解された鉄キレートの量に関して化学量論当量又は過剰に供給される。好ましくは、酸素は、約20パーセントから約500パーセント過剰の量で供給される。電気化学的再生も使用することができる。
【0052】
ステップ(b)の別の実施形態において、硫化水素は、触媒の存在下で二酸化硫黄とさらに反応して元素硫黄を形成し得る。この反応は、Claus反応として当技術分野で知られている。好ましくは、シアン化水素及び/又はCOSが激減した合成ガス流が、SOを含むガス流と一緒に、1種又は複数のClaus触媒連続ステージを含む硫黄回収システムに提供される。Claus触媒ステージのそれぞれは、硫黄凝縮器と接続されたClaus触媒反応器を含む。Claus触媒反応器において、元素硫黄を形成するHSとSOとの間のClaus反応が起こる。元素硫黄並びに未反応HS及び/又はSOを含む生成物流出ガスは、Claus触媒反応器を出て、Claus触媒反応器に接続された硫黄凝縮器で硫黄の露点未満に冷却され、凝縮しClaus反応器流出ガスから元素硫黄の大部分を分離する。元素硫黄を形成するHSとSOとの間の反応は、発熱性であり、入ってくるフィードガス流中のHSの濃度増加に伴い、Claus触媒反応器中に通常、温度上昇を引き起こす。30%を上回る又はさらに15%を上回るシアン化水素及び/又はCOSが激減した合成ガス流中のHS濃度において、Claus反応に従って反応するために十分なSOが存在する場合、Claus触媒反応器中で生成される熱は、Claus反応器中の温度が、所望の操作範囲を上回るほどになることが考えられる。好ましくは、Claus触媒反応器の操作温度は、約200から約500℃、より好ましくは、約250から350℃の範囲に維持される。
【0053】
ステップ(c)において、二酸化炭素は、硫化水素が激減した合成ガス流から除去される。
【0054】
ステップ(c)の第一の実施形態において、二酸化炭素は、HSが激減した合成ガス流を、吸収液体と接触させて二酸化炭素及び残留硫化水素を除去することによって除去される。
【0055】
適切な吸収液体は、化学溶媒若しくは物理的溶媒又はこれらの混合物を含んでよい。
【0056】
好ましい吸収液体は、適切には水溶液としての化学溶媒及び/又は物理的溶媒を含む。
【0057】
適切な化学溶媒は、立体障害アミンを含む第一級、第二級及び/又は第三級アミンである。
【0058】
好ましい化学溶媒は、第二級又は第三級アミン、好ましくは、エタノールアミンから誘導されるアミン化合物、より特別には、DIPA、DEA、MMEA(モノメチル−エタノールアミン)、MDEA(メチルジエタノールアミン)、TEA(トリエタノールアミン)、又はDEMEA(ジエチル−モノエタノールアミン)、好ましくは、DIPA又はMDEAを含む。これらの化学溶媒は、HSなどの酸性化合物と反応することが考えられる。
【0059】
ステップ(c)の第二の実施形態において、二酸化炭素は、膜を使用して除去される。
【0060】
二酸化炭素に対する高い選択性を有する膜を使用することは有利である。選択性は、単一ガス実験で測定された一酸化炭素及び水素の透過性に対する二酸化炭素の透過性の比として定義される。好ましくは、膜の選択性は、10から200の間、好ましくは、20から150の間である。
【0061】
適切には、膜材料は、ポリエチレンオキシドベースの材料、好ましくは、ブロックコポリマーを含むポリエチレンオキシドベースの材料、特にPEO 600/5000 T6T6T又は架橋PEO、ポリイミド又はポリアラミドベースの材料、酢酸セルロースベースの材料、ゼオライトベースの材料、好ましくは、シリカ−アルミナホスフェートベースの材料、より好ましくは、SAPO−34、細孔性シリカ材料及び炭素分子篩材料の群から選択される。
【0062】
ステップ(c)の第三の実施形態において、二酸化炭素は、二酸化炭素がガス流から分離する温度にガス流を冷却することによって除去される。適切には、二酸化炭素が、液体又は固体になり、これがガス流から分離され得る温度にガス流を冷却する。
【0063】
ステップ(c)で得られる精製合成ガスは、適切にはppmv又はppbv範囲の低レベルの汚染物質を有する。
【0064】
適切には、ステップ(c)で得られるCOを富化したガス流は、3から15バール、好ましくは、5から15バールの範囲の圧力にある。COを富化したこの加圧ガス流は、有利には、あまり圧縮装置を必要とせずに、強化された油回収用に使用することができる。
【0065】
COを富化したガス流が、高圧である必要がある用途において、例えば、これが地下累層への注入に使用される場合、COを富化したガス流が既に高圧であることが有利である。
【0066】
一実施形態において、COを富化したガス流を、さらに加圧し、これが代わりに油に溶解する傾向がある油層にこれを適切に注入し、これによりこの粘度を低減し、したがって生産井に向けての移動のためにこれをより可動性にすることによって強化された油回収に使用する。
【0067】
別の実施形態において、COを富化したガス流を、さらに加圧し、貯蔵のために帯水層にポンプで送り込む。
【0068】
さらに別の実施形態において、加圧したCOを富化したガス流を、さらに加圧し、貯蔵のために空の油層にポンプで送り込む。
【0069】
全ての上記の選択肢について、COを富化したガス流を所望の高圧に加圧するために一連の圧縮機が必要である。COを富化したガス流を大気圧から約10バールに加圧するには、一般的に大きく高価な圧縮機が必要である。上記方法が、好ましくは約10バールを上回る高圧に既にあるCOを富化したガス流をもたらす場合、非常に大規模な圧縮機は必要ではない。
【0070】
好ましい一実施形態において、精製合成ガスを、特にIGCCシステムにおける発電のために使用する。
【0071】
IGCCシステムにおいて、一般的に、燃料及び酸素含有ガスが、ガスタービンの燃焼セクションに導入される。ガスタービンの燃焼セクションにおいて、燃料は燃やされて高温の燃焼ガスを生成する。高温の燃焼ガスは、通常、列をなして配置された膨張器羽根(expander blade)の配列を経て、ガスタービン中で膨張させられ、発電機により発電するために使用される。ガスタービンで燃焼されるのに適した燃料には、天然ガス及び合成ガスが含まれる。
【0072】
ガスタービンを出る高温の排気ガスは、熱回収蒸気発生装置に導入され、ここで、高温の排気ガスに含まれる熱は、第一の量の蒸気を生成するために使用される。
【0073】
適切には、高温の排気ガスは、350から700℃、より好ましくは、400から650℃の範囲の温度を有する。高温の排気ガスの組成は、ガスタービン中で燃焼される燃料ガス及びガスタービン中の条件によって変化し得る。
【0074】
熱回収蒸気発生装置は、高温の排気ガスから熱を回収し、この熱を蒸気に変換する手段を提供する任意の装置である。例えば、熱回収蒸気発生装置は、書架のように据え付けられた複数の管を含み得る。水はポンプで送り込まれ管を通して循環され、高温で高圧下に維持され得る。高温の排気ガスは管を加熱し、蒸気を生成するために使用される。
【0075】
熱回収蒸気発生装置は、3種類の蒸気:即ち、高圧蒸気、中圧蒸気及び低圧蒸気を生成するように設計することができる。
【0076】
好ましくは、蒸気発生器は、高圧蒸気が発電するために使用され得るため、少なくとも相当量の高圧蒸気を生成するように設計される。適切には、高圧蒸気は、90から150バール、好ましくは90から125バール、より好ましくは100から115バールの範囲の圧力を有する。適切には、低圧蒸気も生成され、低圧蒸気は、好ましくは2から10バール、より好ましくは、8バールまで、一層より好ましくは、4から6バールの範囲の圧力を有する。
【0077】
熱回収蒸気発生装置において、好ましくは、高圧蒸気は、蒸気タービン中で生成され、この高圧蒸気は、例えば、蒸気タービンに接続された発電機によって電力に変換される。
【0078】
精製合成ガスは、汚染物質のこの低レベル化のために、フィッシャー・トロプシュ合成、メタノール合成、ジメチルエーテル合成、酢酸合成、アンモニア合成、代替天然ガス(SNG)を製造するためのメタン化、及びカルボニル化又はヒドロホルミル化反応を伴うプロセスの群から好ましく選択される触媒プロセスにおける使用にも適する。
【0079】
特定の実施形態に限定されることを望まないが、ここで本発明が図面を参照にしてより詳細に記載される。図1において、精製合成ガス流を生成する方法が示されている。これは、硫化水素、HCN及び/又はCOSを含むフィード合成ガス流を形成するためのガス化装置1におけるバイオマス又は石炭の酸素によるガス化で始まる。好ましくは、スラグ、煤などの固体の除去が、固体除去装置(示されていない)で行われる。得られるフィード合成ガス流を、シフト触媒と接触させ、COをCOに変換し、HCN及びCOSを加水分解するシフト装置2に導く。装置2から出てくるHCN及びCOSが激減した得られる合成ガス流は、HSが元素硫黄に変換される硫黄回収装置3に導かれる。HSが激減した得られる合成ガス流を、硫黄回収装置3から吸収液体と接触させてCO及び残留HSを除去する酸ガス除去装置4に導く。これによって精製合成ガス流がもたらされる。
【0080】
図2において、好ましい一実施形態が描かれており、ここで、精製合成ガス流が発電に使用される。図2において、図1による方法で生成された精製合成ガス流が、ガスタービン(1)及び熱回収蒸気発生装置(2)を含む発電所に導かれる。ガスタービンにおいて、酸素含有ガスが、管路4を経由して圧縮機5に供給される。図1に記載された方法で生成された精製合成ガスは、管路6を経由して燃焼器7に供給され、圧縮された酸素含有ガスの存在下で燃やされる。得られる燃焼ガスは、膨張器8で膨張させられ、発電機9で発電するために使用される。CO及び酸素を含む残留排気ガスは、管路10を経由して熱回収蒸気発生装置2に導かれる。熱回収蒸気発生装置において、加熱セクション11で水が高温排気ガスと接触して加熱されて蒸気を発生する。蒸気は、管路12を経由して蒸気タービン13に導かれ、発電機14で追加の電力を生成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)蒸気/水の存在下のHCN/COS反応器において、フィード合成ガス流を触媒と接触させることによりHCN及び/又はCOSを除去して、HCN及び/又はCOSが激減した合成ガス流を得るステップ、
(b)硫黄の融点未満の温度において、十分な溶液対ガス比及びHSを硫黄に変換し、硫黄付着を抑制するために有効な条件で、可溶化された有機酸のFe(III)キレートを含有する水性反応剤溶液と合成ガス流を接触させることによって、HCN及び/又はCOSが激減した合成ガス流中の硫化水素を元素硫黄に変換して、硫化水素が激減した合成ガス流を得るステップ、
(c)硫化水素が激減した合成ガス流から二酸化炭素を除去して、精製合成ガス流及びCOを富化したガス流を得るステップ
を含む、主成分の一酸化炭素及び水素以外に、硫化水素、HCN及び/又はCOSも含むフィード合成ガス流から、精製合成ガス流を生成する方法。
【請求項2】
ステップ(a)が、水性ガスシフト触媒を使用して実施され、HCN/COS反応器が、一酸化炭素の少なくとも一部をさらに反応させて二酸化炭素にするためのシフト反応器である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フィード合成ガス流がシフト反応器に入る時のフィード合成ガス流中の蒸気/水の一酸化炭素に対するモル比が、好ましくは0.2:1から0.9:1の間であり、フィード合成ガス流がシフト反応器に入る時のフィード合成ガス流の温度が、190から230℃の範囲にあり、フィード合成ガス流が、乾燥ベースで少なくとも50体積%の一酸化炭素を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(c)において、硫化水素が激減した合成ガス流を、低温及び高圧で吸収液体と接触させて、これにより、ガス流から二酸化炭素を吸収液体に移して二酸化炭素を富化した吸収液体及び精製ガス流を得ることによって、二酸化炭素が除去される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(c)において、二酸化炭素が、膜を使用して除去される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(c)において、硫化水素が激減した合成ガス流を、二酸化炭素がガス流から分離する温度に冷却することによって、二酸化炭素が除去される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
精製合成ガス流が、発電するために燃焼タービンで使用される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
高温排気ガスが、燃焼タービンから放出され、この高温排気ガスが、熱回収蒸気発生装置に導入されて蒸気を生成し、この蒸気がさらに発電をするために使用される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
さらなる精製合成ガスが、好ましくは、フィッシャー・トロプシュ合成、メタノール合成、ジメチルエーテル合成、酢酸合成、アンモニア合成、代替天然ガス(SNG)を製造するためのメタン化、及びカルボニル化又はヒドロホルミル化反応を伴うプロセスの群から選択される触媒プロセスにおいて使用される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
COを富化したガス流が、5から50バール、好ましくは10から50バール、より好ましくは20から50バールの範囲の圧力にある、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
COを富化したガス流が、さらに加圧され、好ましくは強化された油回収における使用のため又は帯水層への貯蔵のため又は空の油層への貯蔵のため、地下累層へ注入される、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−521955(P2012−521955A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502633(P2012−502633)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054185
【国際公開番号】WO2010/112500
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】