説明

糖タンパク質の生産

細胞培養中で糖タンパク質を大規模生産するための改善されたシステムを提供する。本発明に従って、糖タンパク質を発現する細胞を、マンガンを約10から600nMの間の濃度で含有する培地中で増殖させる。かかるシステムの使用により、増加したグリコシル化パターンおよび/または自然に存在する糖タンパク質のグリコシル化パターンをより正確に反映するグリコシル化パターンを有する糖タンパク質の生産が可能になる。本発明に従って発現された糖タンパク質を医薬組成物の調製において有利に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガンを含む細胞培養培地中で糖タンパク質を生産する方法、およびかかる方法において用いられる細胞培養培地に関する。
【関連出願の相互参照】
【0002】
本出願は、2006年7月13日に出願された米国仮特許出願番号60/830,658(その内容は、全体として本発明の一部として参照される)と同時係属中であり、少なくとも1人の発明者が共通であり、これに対して優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質およびポリペプチドは、ますます重要な治療薬になってきている。ほとんどの場合、これらのタンパク質およびポリペプチドは、細胞培養中、非常に高レベルの目的の特定のタンパク質またはポリペプチドを生産するために操作および/または選択された細胞から生産される。細胞培養条件の制御および最適化は、タンパク質およびポリペプチドの有効な商業的生産にきわめて重要である。
【0004】
細胞培養において生産される多くのタンパク質およびポリペプチドは、オリゴ糖鎖を含む共有結合した炭水化物構造を含む糖タンパク質である。これらのオリゴ糖鎖は、N結合またはO結合のいずれかにより小胞体とゴルジ装置中のタンパク質と結合する。オリゴ糖鎖は、糖タンパク質の量のかなりの部分を含むことができる。オリゴ糖鎖は、糖タンパク質の正しい折りたたみの促進、タンパク質−タンパク質相互作用への関与、安定性の付与、有利な薬力学的および/または薬物動態学的特性の付与、タンパク分解の阻害、糖タンパク質の適切な分泌経路への標的化、および糖タンパク質の特定の器官へのターゲティングをはじめとする糖タンパク質の機能において重要な役割を果たすと考えられる。
【0005】
一般に、N結合型オリゴ糖鎖を、小胞体内腔中の発生期の転座タンパク質(translocating protein)に添加する(Molecular Biology of the Cell、Albertsら著、1994年(本発明の一部として参照される)を参照のこと)。オリゴ糖をAsn−X−Ser/Thr(Xはプロリン以外のアミノ酸である)の標的コンセンサス配列内に含まれるアスパラギン残基の側鎖上のアミノ基に添加する。最初のオリゴ糖鎖は通常、小胞体中の特異的グリコシダーゼ酵素により切断され、その結果、N−アセチルグルコサミンおよび3つのマンノース残基からなる、短い分岐コアオリゴ糖が得られる。
【0006】
小胞体における最初の処理の後、糖タンパク質を小胞によりゴルジ装置へと往復させ、このゴルジ装置で、オリゴ糖鎖はさらに処理された後、細胞表面に分泌される。いくつかのマンノース残基を添加することにより、切断されたN結合型オリゴ糖鎖を修飾することができ、その結果、高マンノースオリゴ糖が得られる。別法として、N−アセチルグルコサミンの1以上の単糖類単位をコアマンノースサブユニットに添加して、複合オリゴ糖を得ることができる。ガラクトースをN−アセチルグルコサンサブユニットに添加することができ、シアル酸をガラクトースサブユニットに添加することができ、その結果、シアル酸、ガラクトースまたはN−アセチルグルコサミン残基のいずれかを末端とする鎖を得る。さらに、フコース残基をコアオリゴ糖のN−アセチルグルコサミン残基に添加することができる。これらの添加のそれぞれは、特異的グリコシルトランスフェラーゼにより触媒される。
【0007】
N結合型グリコシル化経路により修飾することに加えて、糖タンパク質は、ゴルジ装置においてプロセッシングされるので、O結合型オリゴ糖鎖を特定のセリンまたはトレオニン残基に付加することにより、修飾することもできる。O結合型オリゴ糖の残基を一つずつ添加し、各残基の添加は特異的酵素により触媒される。N結合型グリコシル化と対照的に、O結合型グリコシル化のコンセンサスアミノ酸配列は明確に定義されていない。
【0008】
タンパク質グリコシル化の基本的性質および範囲は、細胞培養の条件により大きく影響を受ける。例えば、従来のバッチ培養法および流加培養法(fed−batch culture)法は、生産されたペプチドの最終的なレベルに焦点を当て、あまり広範囲でないグリコシル化パターンおよび/またはそのオリゴ糖鎖の糖残基が、糖タンパク質の天然に存在する形態で存在する糖残基を十分に反映しないグリコシル化パターンを有する糖タンパク質が得られることが多い。糖タンパク質の自然の形態で存在するグリコシル化のレベルおよび組成をより厳密に反映するように、グリコシル化の程度の増加および/または糖残基の組成の調節により、より効力が大きく、改善された薬力学的および/または薬物動態学的特性を有し、副作用が少ない治療用糖タンパク物質が得られる可能性がある。細胞培養において生産された糖タンパク質のグリコシル化の質および量を改善することがある程度努力されているが、依然としてさらなる改善が必要とされている。合成培地中での細胞培養により、改善されたグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を生産するためのシステムの開発が特に必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国仮特許出願番号60/830,658
【特許文献2】米国仮特許出願番号60/605,097
【特許文献3】米国特許出願番号11/213,308
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Molecular Biology of the Cell、Albertsら著、1994年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の方法および組成物は、細胞培養において改善されたグリコシル化パターンを有する糖タンパク質の大規模生産のための改善されたシステムを提供する。例えば、ある実施形態において、本発明は、約10から600nMの間のマンガンのモル累積的濃度を含有する培地を用いる商業規模(例えば、500L以上)の培養法を提供する。ある実施形態において、培地中のモル累積的グルタミン濃度は、約8mM未満である。ある実施形態において、培地中のモル累積的グルタミン濃度は、約4mM未満である。本明細書において用いられる「累積的」とは、細胞培養の過程全体にわたって添加される特定の成分(培養の開始時に添加される成分およびその後に添加される成分を包含する)の合計量をさすと理解すべきである。本発明のある実施形態において、長時間にわたって培養物の「フィード」を最小限にすることが望ましく、したがって、最初に存在する量を最大にすることが望ましい。もちろん、培地成分は培養中に代謝され、したがって、同じ累積量の所定の成分を有する培養物は、これらの成分が異なる時間に添加されるならば、異なる絶対的レベルを有するであろう(例えば、最初からすべて存在する場合とフィードにより一部添加される場合)。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、このような培地の使用により、望ましいグリコシル化パターンを含む糖タンパク質の生産が可能になる。いくつかの実施形態において、糖タンパク質は、より広範囲のグリコシル化パターンを有し得る、および/または天然の宿主細胞により糖タンパク質に適用されるオリゴ糖鎖の分布と非常によく似たオリゴ糖鎖の分布を有し得る。いくつかの実施形態において、本発明の系を使用する結果、糖タンパク質が内因性ヒト細胞において発現されるならば存在するであろうグリコシル化パターンと類似しているか、または同一であるグリコシル化パターンを有する糖タンパク質が生産され得る。
【0013】
当業者は、本発明の培地処方が合成培地および複合培地の両方を包含することを理解するであろう。ある実施形態において、培地は、培地の組成が既知であり、制御されている合成培地である。
【0014】
いくつかの実施形態において、米国仮特許出願番号60/605,097(本発明の一部として参照される)に記載されている1以上の条件下で細胞を増殖させる。いくつかの実施形態において、米国特許出願番号11/213,308(本発明の一部として参照される)に記載される1以上の条件下で細胞を増殖させる。
【0015】
本発明の細胞培養に、任意に、栄養素および/またはホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、およびホスフェート)、緩衝液、ビタミン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、もしくはグルコースまたは他のエネルギー源をはじめとする他の培地成分を添加してもよい。ある実施形態において、培地に化学誘発物質(chemical inductant)、例えば、ヘキサメチレン−ビス(アセトアミド)(HMBA)および酪酸ナトリウム(NaB)を添加することが有益である。このような任意の添加は、培養の開始時に添加することができるか、あるいは消耗した栄養素を補充するため、または別の理由で、後の時点で添加することができる。一般に、本発明による補充を最小限に抑えるために初期培地組成を選択することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、UF/DF保持物質におけるグリコシド活性の調査を示す。各実験に関して、様々なK4およびK4’種を表わす棒グラフは左から右に向かって:K4(Fuc−GlcNAc−Gal−SA)、K4’(Fuc−GlcNAc−Gal)、K4’(Fuc−GlcNAc)およびK4’(Fuc)である。
【図2】図2は、振盪フラスコ培養で生産されたrFIX遺伝子におけるK4種の分布を示す。各実験に関して、様々なK4およびK4’種を表す棒グラフは、左から右へ向かって:K4(Fuc−GlcNAc−Gal−SA)、K4’(Fuc−GlcNAc−Gal)、K4’(Fuc−GlcNAc)およびK4’(Fuc)である。
【図3】図3は、様々な培地添加剤を含む振盪フラスコ培養から得られるK4種の分布を示す。各実験に関して、様々なK4およびK4’種を表す棒グラフは、左から右へ向かって:K4(Fuc−GlcNAc−Gal−SA)、K4’(Fuc−GlcNAc−Gal)、K4’(Fuc−GlcNAc)およびK4’(Fuc)である。
【図4】図4は、添加培地を含む振盪フラスコ培養のK4種の分布を示す。各実験に関して、様々なK4およびK4’種を表す棒グラフは、左から右へと向かって:K4(Fuc−GlcNAc−Gal−SA)、K4’(Fuc−GlcNAc−Gal)、K4’(Fuc−GlcNAc)およびK4’(Fuc)である。
【図5】図5は、様々な培地添加剤を含む振盪フラスコ培養から得られるK4種の分布を示す。各実験に関して、様々なK4およびK4’種を表す棒グラフは、左から右へ向かって:K4(Fuc−GlcNAc−Gal−SA)、K4’(Fuc−GlcNAc−Gal)、K4’(Fuc−GlcNAc)およびK4’(Fuc)である。
【図6】図6は、様々なマンガンレベルでの振盪フラスコ培養から得られるK4種の分布を示す。各実験に関して、様々なK4およびK4’を表す棒グラフは、左から右へ向かって:K4(Fuc−GlcNAc−Gal−SA)、K4’(Fuc−GlcNAc−Gal)、K4’(Fuc−GlcNAc)およびK4’(Fuc)である。
【図7】図7は、G0、G1、およびG2HPAEC−PEDピークについての合計ピーク面積の割合のグラフによる比較を示す。各実験に関して、複合N結合型二分岐グリカンを表す棒グラフは、左から右へ向かって:G0、G1およびG2である。
【図8】図8は、G0、G1、およびG2HPAEC−PEDピークについての合計ピーク面積の割合のグラフによる比較を示す。各実験に関して、複合N結合型二分岐グリカンを表す棒グラフは、左から右へ向かって:G0、G1およびG2である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
「アミノ酸」:「アミノ酸」という用語は、本明細書では、ポリペプチドの形成において通常用いられる20の自然に存在するアミノ酸、またはこれらのアミノ酸の類似体もしくは誘導体または自然に存在しないアミノ酸のいずれかをさす。本発明のアミノ酸を、培地中で細胞培養に提供する。培地中に提供されるアミノ酸は、塩または水和物形態として提供することができる。
【0018】
「抗体」:「抗体」という用語は、本明細書では、イムノグロブリン分子あるいはイムノグロブリン分子、即ち、FabまたはF(ab’)フラグメントなどの、抗原と特異的に結合する抗原結合部位を含む分子の免疫学的に活性な部分をさす。ある実施形態において、抗体は、当業者に公知の典型的な天然の抗体、例えば、4つのポリペプチド鎖、即ち2つの重鎖および2つの軽鎖を含む糖タンパク質である。ある実施形態において、抗体は単鎖抗体である。例えば、いくつかの実施形態において、単鎖抗体は、典型的な天然の抗体の変異体を含み、重および/または軽鎖の2以上のメンバーは、例えば、ペプチド結合により共有結合している。ある実施形態において、単鎖抗体は、重鎖および軽鎖からなる2ポリペプチド鎖構造を有するタンパク質であり、この鎖は、例えば、鎖間ペプチドリンカーにより安定化され、このタンパク質は、抗原と特異的に結合することができる。ある実施形態において、抗体は、重鎖のみ、例えば、ラマおよびラクダを包含するラクダ科のメンバーにおいて自然に見出されるもののみを含む抗体である(例えば、米国特許第6,765,087号(Castermanら)、第6,015,695号(Castermanら)、第6,005,079号(Castermanら)(それぞれは全体として本発明の一部として参照される)を参照のこと)。「モノクローナル抗体」および「モノクローナル抗体組成物」という用語は、本明細書において用いられる場合、1種のみの抗原結合部位を含有し、従って、通常、1つのエピトープまたは特定の抗原と相互作用する抗体分子の集団をさす。モノクローナル抗体組成物はしたがって、典型的には、これらが免疫反応する特定のエピトープに対して単一の結合親和性を示す。「ポリクローナル抗体」および「ポリクローナル抗体組成物」という用語は、特定の抗原と相互作用する複数種の抗原結合部位を含有する抗体分子の集団をさす。
【0019】
「バッチ培養」:「バッチ培養」という用語は、本明細書では、培地(下記「培地」の定義を参照)ならびに細胞それ自体を包含する細胞の培養において最終的に使用される全ての成分が、培養プロセスの最初に提供される、細胞を培養する方法をさす。バッチ培養は、典型的には同じ時点で停止され、培地中の細胞および/または成分を回収し、任意に精製してもよい。
【0020】
「バイオリアクター」:「バイオリアクター」という用語は、本明細書では、哺乳動物細胞培養の増殖に用いられる任意の容器をさす。バイオリアクターは、哺乳動物細胞の培養に有用である限り、任意のサイズであってよい。典型的には、かかるバイオリアクターは少なくとも1リットルであり、10、100、250、500、1000、2500、5000、8000、10,000、12,000リットル以上、またはその間の任意の容積であってよい。バイオリアクターの内部条件、例えば、pH、溶解酸素および温度を包含するが、これらに限定されないものは、典型的には、培養期間中に制御される。バイオリアクターは、ガラス、プラスチックまたは金属をはじめとする本発明の培養条件下で哺乳動物細胞培養を培地中に懸濁した状態に保持するために適した任意の物質から構成され得る。「生産用バイオリアクター」という用語は、本明細書では目的の糖タンパク質の生産において使用される最終バイオリアクターをさす。生産用バイオリアクターの容積は、典型的には、少なくとも500リットルであり、1000、2500、5000、8000、10,000、12,000リットル以上、またはその間の任意の容積であってよい。当業者は、本発明の実施における使用に好適なバイオリアクターを知っており、選択できるであろう。
【0021】
「細胞密度」:「細胞密度」という用語は、本明細書では、所定の体積の培地中に存在する細胞の数をさす。
【0022】
「細胞生存性」:「細胞生存性」という用語は、本明細書では、所定の組の培養条件または実験変動のもとで、培養物中の細胞が生存できる能力を意味する。この用語は、本明細書では、その時点で、培養物中で生きている細胞および死んでいる細胞の総数に対する、特定の時間で生存している細胞の部分もさす。
【0023】
「天然培地」:「天然培地」という用語は、本明細書では、その同一性または量が未知であるか、または制御されていないかのいずれかである少なくとも1つの成分を含有する培地を意味する。
【0024】
「培養」、「細胞培養」:これらの用語は、本明細書では、細胞集団の生存および/または増殖に適した条件下で、培地(下記「培地」の定義を参照)中に懸濁された細胞集団を意味する。当業者には明らかであるように、ある実施形態において、これらの用語は、本明細書では、細胞集団と、この集団が懸濁されている培地を含む組み合わせを意味する。ある実施形態において、細胞培養の細胞は、哺乳動物細胞を含む。
【0025】
「合成培地」:「合成培地」という用語は、本明細書では、培地の組成が既知であり、かつ制御されている培地を意味する。
【0026】
「流加培養」:「流加培養」という用語は、本明細書では、培養プロセスの開始時または開始後の時点で追加成分が培養に提供される細胞培養法を意味する。このような提供された成分は、典型的には、培養プロセスの間に枯渇した細胞の栄養成分を含む。それに加えて、またはその代わりに、かかる追加成分は、補助成分(下記「補助成分」の定義を参照)を含んでもよい。ある実施形態において、追加成分は、フィード培地(下記「フィード培地」の定義を参照)において提供される。流加培養法は、典型的には、ある時点で停止させ、培地中の細胞および/または成分を回収し、任意に精製してもよい。
【0027】
「フィード培地」:「フィード培地」という用語は、本明細書では、細胞培養の開始後に添加される、増殖する哺乳動物細胞に栄養分を与える栄養素を含有する溶液を意味する。フィード培地は、初期細胞培地において提供されるものと同一である成分を含有し得る。別法として、フィード培地は、初期細胞培地において提供されるものに加えて1以上の追加成分を含有し得る。それに加えて、またはその代わりに、フィード培地は、初期細胞培地中に提供された1以上の成分が欠失している場合もある。ある実施形態において、フィード培地の1以上の成分は、成分が初期細胞培地において提供された濃度またはレベルと同じかまたは類似した濃度またはレベルで提供される。ある実施形態において、フィード培地の1以上の成分は、これらの成分が初期細胞培地において提供された濃度またはレベルと異なる濃度またはレベルで提供される。フィード培地例を表2に示すが、本発明はこれらの培地の使用に限定されない。別のフィード培地を使用することができること、および/または表2に記載されるフィード培地例の組成に対してある変更をなすことができることを、当業者は認めるであろう。ある実施形態において、フィード培地は補助成分(下記「補助成分」の定義を参照)を含有する。
【0028】
「フラグメント」:「フラグメント」という用語は本明細書では、このポリペプチドに特有であるか、または特徴的である、所定のポリペプチドの独立した部分として定義されるポリペプチドを意味する。例えば、この用語は、本明細書では、完全長ポリペプチドにおいて見られる少なくとも1つの確立された配列エレメントを含む所定のポリペプチドの任意の部分を意味する。あるフラグメントにおいて、配列エレメントは、少なくとも4〜5、10、15、20、25、30、35、40、45、50以上の完全長ポリペプチドのアミノ酸の長さである。その代わりに、またはそれに加えて、この用語は本明細書では、完全長ポリペプチドの少なくとも1つの活性を有する少なくとも1つのフラクションを保持する所定のポリペプチドの独立した部分を意味する。ある実施形態において、保持された活性を有するフラクションは、完全長ポリペプチドの活性の少なくとも10%である。ある実施形態において、保持された活性を有するフラクションは、完全長ポリペプチドの活性の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%である。ある実施形態において、保持された活性を有するフラクションは、完全長ポリペプチドの活性の少なくとも95%、96%、97%、98%または99%である。ある実施形態において、フラグメントは、完全長ポリペプチドの活性の100%以上を保持する。ある実施形態において、本発明のフラグメントは、グリコシル化部位として機能するペプチド配列を含有する。いくつかの実施形態において、本発明のフラグメントは、グリコシル化部位の一部を含有するので、グリコシル化部位の他の部分を含有する別のフラグメントと結合する場合、機能的グリコシル化部位が再構成される。
【0029】
「遺伝子」:「遺伝子」という用語は、本明細書では、ヌクレオチド配列、DNAまたはRNAであって、その少なくとも一部は、独立した最終生成物、典型的にはこれに限定されないが、細胞代謝または発生のある態様において機能するポリペプチドををコード化するものを意味する。任意に、遺伝子は、ポリペプチドまたは他の独立した最終生成物をコード化するコーディング配列だけでなく、発現の基礎レベルを調節するコーディング配列の前および/または後の領域(下記「遺伝子制御エレメント」の定義を参照)、および/または個々のコーディングセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)も含む。
【0030】
「遺伝子制御エレメント」:「遺伝子制御エレメント」という用語は、本明細書では、操作可能に結合した遺伝子の発現を調節する配列エレメントを意味する。遺伝子制御エレメントは、発現レベルを増加または減少させるかのいずれかにより機能し、コーディング配列前、配列内または配列後に位置し得る。遺伝子制御エレメントは、例えば、転写の開始、延長もしくは終止、mRNAスプライシング、mRNA編集、mRNA安定性、細胞内のmRNA局在化、翻訳の開始、延長もしくは終止の調節により遺伝子発現の任意の段階で、または遺伝子発現の任意の他の段階で作用することができる。遺伝子制御エレメントは、個々に、または互いとの組み合わせで機能することができる。
【0031】
「糖タンパク質」:「糖タンパク質」という用語は、本明細書では、1以上の共有結合したオリゴ糖鎖を含有するタンパク質またはポリペプチドを意味する。オリゴ糖鎖は、1つの糖残基、糖残基の1つの非分岐鎖からなるか、または1回以上分岐する糖残基の鎖からなる。ある実施形態において、オリゴ糖鎖はN結合している。ある実施形態において、オリゴ糖鎖はO結合している。
【0032】
「グリコシル化パターン」:「グリコシル化パターン」という用語は、所定の糖タンパク質(1つまたは複数)の観察されるグリコシル化を意味する。オリゴ糖鎖中により多数の共有結合した糖残基を有する糖タンパク質は、増大したかまたはさらに広範囲のグリコシル化パターンを有すると考えられている。反対に、オリゴ糖鎖中により少ない共有結合した糖残基を有する糖タンパク質は、減少したかまたはあまり広範囲でないグリコシル化パターンを有すると考えられている。「グリコシル化パターン」という用語は、本明細書では、本発明の教唆に従って発現された個々の糖タンパク質上のいくつかの異なるグリコシル化パターンの特徴的な分布も意味する。この意味では、増加したグリコシル化パターンとは、発現された糖タンパク質のグリコシル化パターンの特徴的分布における増加を意味する。
【0033】
「宿主細胞」:「宿主細胞」という用語は、本明細書では、本明細書において記載されるような望ましいグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を生産するように本発明に従って操作される細胞を意味する。いくつかの実施形態において、宿主細胞は哺乳動物細胞である。
【0034】
「ハイブリドーマ」:「ハイブリドーマ」という用語は、本明細書では、不死化細胞および抗体産生細胞の融合から得られる細胞または細胞の子孫を意味する。このような結果として得られるハイブリドーマは、抗体を産生する不死化細胞である。ハイブリドーマを作製するために使用される個々の細胞は、ラット、ブタ、ウサギ、羊、ヤギ、およびヒトを包含するが、これらに限定されない哺乳動物源由来であり得る。ある実施形態において、ハイブリドーマはトリオーマ細胞系であって、ヒト細胞とネズミ骨髄腫細胞系間の融合の生成物であるヘテロハイブリッド骨髄腫融合物の子孫がその後にプラズマ細胞と融合する場合に得られるトリオーマ細胞系である。ある実施形態において、ハイブリドーマは、抗体を産生する任意の不死化ハイブリッド細胞系、例えば、クアドローマである(例えば、Milsteinら、Nature、537:3053、1983参照)。
【0035】
「培地」、「細胞培地」、「培養培地」:これらの用語は、本明細書では、増殖する哺乳動物細胞に栄養素を与える栄養素を含有する溶液を意味する。典型的には、かかる溶液は、必須および非必須アミノ酸、ビタミン、エネルギー源、脂質、ならびに最小増殖および/または生存のために細胞により必要とされる微量元素を提供する。かかる溶液は、ホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液、ビタミン、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、および/またはグルコースまたは他のエネルギー源を包含するが、これに限定されない、最低率を超えて増殖および/または生存を向上させる補助成分(下記「補助成分」の定義を参照)を含有することもできる。ある実施形態において、培地は、細胞生存および増殖に最適なpHおよび塩濃度に有利に処方される。培地例を表1に記載するが、本発明はこれらの培地の使用に限定されない。当業者は、別の培地を使用できること、および/または、表1に記載される培地例の組成に対してある変更を加えることができることを認めるであろう。ある実施形態において、培地は、細胞培養の開始後に添加されるフィード培地である(前記「フィード培地」の定義を参照のこと)。
【0036】
「ポリペプチド」:「ポリペプチド」という用語は、本明細書では、ペプチド結合により結合したアミノ酸の連続した鎖を意味する。この用語は、任意の長さのアミノ酸鎖をさすために用いられるが、当業者は、この用語が非常に長い鎖に限定されず、ペプチド結合により結合した2つのアミノ酸を含む最小鎖を意味し得ることを認めるであろう。当業者に公知のように、ポリペプチドを処理および/または修飾することができる。例えば、ポリペプチドはグリコシル化されていてもよい(前記「糖タンパク質」の定義を参照のこと)。
【0037】
「タンパク質」:「タンパク質」という用語は、本明細書では、独立した単位として機能する1以上のポリペプチドを意味する。1つのポリペプチドが独立した機能単位であり、独立した機能単位を形成するために他のポリペプチドとの永久的または一時的物理結合を必要としない場合、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は交換可能に用いることができる。独立した機能単位が、互いに物理的に結合した1より多いポリペプチドからなる場合、「タンパク質」という用語は、独立した単位として物理的に結合し、一緒に機能する複数のポリペプチドを意味する。
【0038】
「組み換え発現された糖タンパク質」および「組み換え糖タンパク質」:これらの用語は、本明細書では、人間によってこ糖タンパク質を発現するように操作された宿主細胞から発現された糖タンパク質を意味する。ある実施形態において、宿主細胞は哺乳動物細胞である。ある実施形態において、かかる操作は、1以上の遺伝子改変を含む。例えば、哺乳動物宿主細胞は、発現される糖タンパク質をコード化する1以上の異種遺伝子の導入により遺伝子改変することができる。異種組み換え発現糖タンパク質は、哺乳動物宿主細胞において正常に発現された糖タンパク質と同一であるか、または類似している。異種組み換え発現された糖タンパク質は、宿主細胞に対して外来、即ち、哺乳動物宿主細胞において正常に発現された糖タンパク質に対して異種であり得る。ある実施形態において、異種組み換え発現糖タンパク質は、糖タンパク質の一部が哺乳動物宿主細胞において正常に発現された糖タンパク質と同じかまたは類似したアミノ酸を含有し、一方、他の部分は宿主細胞に対して異質である点でキメラである。あるいは、哺乳動物宿主細胞は、1以上の内在性遺伝子の活性化または上方制御により遺伝子改変できる。
【0039】
「補助成分」:「補助成分」という用語は、本明細書では、ホルモンおよび/または他の成長因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液、ビタミン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、および/またはグルコースまたは他のエネルギー源を包含するが、これらに限定されない、最低率を超えて増殖および/または生存を向上させる成分を意味する。ある実施形態において、補助成分を初期細胞培養に添加できる。ある実施形態において、補助成分を細胞培養の開始後に添加することができる。
【0040】
「力価」:「力価」という用語は、本明細書では、所定の量の培地体積中で哺乳動物細胞培養により生産される組み換え発現された糖タンパク質の合計量を意味する。「力価」は、典型的には、培地1ミリリットルあたりの糖タンパク質のミリグラムの単位で表される。
【発明の詳細な説明】
【0041】
本発明は、細胞培養における糖タンパク質の生産のための改善されたシステムを提供する。特に、望ましいグリコシル化パターンを含む糖タンパク質の生産をもたらすシステムが提供される。例えば、糖タンパク質は、より広範囲のグリコシル化パターンを有し得る、および/または天然の宿主細胞により糖タンパク質に適用されるオリゴ糖鎖の分布によりよく似たオリゴ糖鎖の分布を有し得る。いくつかの実施形態において、本発明のシステムを使用すると、糖タンパク質が内因性ヒト細胞において発現された場合に存在するであろうグリコシル化パターンと類似しているか、または同一のグリコシルパターンを有する糖タンパク質が生産され得る。本発明のある実施形態を以下で詳細に議論する。しかし、当業者らは、これらの実施形態に対する様々な修正は、添付の請求の範囲内に含まれることを理解するであろう。本発明の範囲を規定するのは請求の範囲およびその等価物であって、本発明の範囲は、ある実施形態の説明に限定されないか、またはこの説明により限定されないし、また限定されるべきでない。
培地組成
【0042】
多種多様の哺乳動物増殖培地を、本発明に従って使用できる。ある実施形態において、細胞を様々な化学的合成培地の一つにおいて増殖させることができ、この場合、培地の成分は既知であり、かつ制御される。ある実施形態において、培地の全ての成分が既知および/または制御される天然培地中で、細胞を増殖させることができる。
【0043】
哺乳動物細胞培養のための化学的に規定された増殖培地は、この数十年にわたって、大々的に開発され、公開されてきた。合成培地の全ての成分は十分に特徴づけられており、従って、合成培地は複合添加剤、例えば、血清または加水分解物を含まない。タンパク質生産にほとんどまたは全く関係なく細胞成長および生存性の維持を可能にする初期培地処方が開発された。最近になって、細胞培養を生産する、生産性の高い組み換えタンパク質および/または糖タンパク質を支持する明確な目的をもって培地処方が開発されている。
【0044】
合成培地は、典型的には、既知の水中濃度のおよそ50の化学物質からなる。これらのほとんどは、1以上の十分に特徴づけられたタンパク質 例えば、インスリン、IGF−1、トランスフェリンまたはBSAも含有するが、他のものは、タンパク質成分を必要とせず、従って、無タンパク質合成培地と呼ばれる。培地の化学成分は、5つの広義のカテゴリー:アミノ酸、ビタミン、無機塩、微量元素、およびきちんとした分類ができない種々のカテゴリーに分類される。
【0045】
微量元素は、マイクロモル以下のレベルで含まれる様々な無機塩からなる。ほとんど全ての合成培地中に存在する、4つの最も一般的に含まれる微量元素としては、鉄、亜鉛、セレンおよび銅が挙げられる。鉄(第一鉄または第二鉄塩)および亜鉛は、典型的には、マイクロモル濃度まで添加され、一方、他のものは、通常、ナノモル濃度である。多くのあまり一般的でない微量元素を、通常、ナノモル濃度で添加する。
【0046】
マンガンは、二価カチオン(MnClまたはMnSO)として微量元素中に含まれることが多い。合成培地の初期バージョンにおいて、これは、省略されるか、あるいは約1μMの高濃度で含まれるかのいずれかであった(例えば、BarnesおよびSato、1980年[Medium DMEM/F12]ならびにKitosら.、1962 [Medium MD 705/1]を参照)。最近になって開発された合成培地中にマンガンは通常含まれるが、例えば、かなり低い濃度、例えば、1〜5nMの範囲である(例えば、HamiltonおよびHam、1977 [Medium MCDB 301]およびClevel and Erlanger、1988[命名されていない培地]を参照のこと)。
【0047】
本発明は、これらの極値間のマンガン濃度を含む合成培地中で増殖された細胞の培養により生産された糖タンパク質は、従来の培地、例えば前述の培地中で細胞を増殖させる場合よりも広範囲のグリコシル化パターンを含むという知見を包含する。ある実施形態において、マンガンは約10から600nMの間の濃度で培地中に提供される。ある実施形態において、マンガンは約20から100nMの間の濃度で培地中に提供される。ある実施形態において、マンガンは、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、もしくは600nM、またはこれらの濃度内の任意の範囲で培地中に提供される。
【0048】
本発明はまた、比較的低レベルのグルタミンを含有する合成培地中で増殖された細胞の培養により生産された糖タンパク質は、高レベルのグルタミンを含有する従来の培地中で細胞を増殖させた場合よりも広範囲のグリコシル化パターンを含むという知見も包含する。ある実施形態において、培地中のグルタミンの初期レベルは約8mM以下である。ある実施形態において、培地中のグルタミンの初期レベルは、約4mM以下である。
【0049】
当業者は、実験計画の具体的な特性、例えば、糖タンパク質が発現される細胞の特性、生産される糖タンパク質の特性、および細胞を増殖させる培地中の他の成分の存在または非存在に基づいて、これらの範囲内で正確なマンガン濃度を選択することができる。例えば、N結合型およびO結合型構造間の違い、またはこれらの広範囲の種類のそれぞれの特定のオリゴ糖構造間の違いにより、より広範囲および/またはより多くの天然のオリゴ糖鎖を作製するために増殖培地中で異なるマンガン濃度が要求され得る。
糖タンパク質
【0050】
宿主細胞中で発現できる任意の糖タンパク質を、本発明の教唆に従って生産することができる。糖タンパク質は、宿主細胞に対して内因性である遺伝子から発現することができるか、または宿主細胞中に導入される異種遺伝子から発現することができる。糖タンパク質 は天然に存在するものであるか、あるいは人間によって操作または選択された配列を有し得る。生産される糖タンパク質を、それぞれが天然に存在するポリフラグメントから作製することができ、その少なくとも1つは、グリコシル化部位としての働きをするペプチド配列を含有する。別法として、各ポリペプチドフラグメントはグリコシル化部位の一部のみを有し、この部位はポリペプチドフラグメントの作製に際して再構成される。それに加えて、またはその代わりに、操作された糖タンパク質は、この操作された糖タンパク質がグリコシル化部位としての働きをする少なくとも1つのペプチド配列を含む限り、自然に存在しない1以上のフラグメントを含み得る。
【0051】
本発明に従って望ましくは発現され得る糖タンパク質は、興味深いかまたは有用な生物学的または化学的活性に基づいて選択されることが多い。例えば、本発明は、医薬的または商業的に関連する酵素、レセプター、抗体、ホルモン、調節因子、抗原、結合剤等を発現するために用いることができる。本発明に従って生産できる糖タンパク質の次のリストは、単に例示的であり、限定的な記載であることを意図しない。当業者は、糖タンパク質を本発明に従って発現することができることを理解し、特定の必要性に基づいて生産される特定の糖タンパク質を選択できるであろう。
凝固因子
【0052】
凝固因子は、医薬品および/または商業的薬品として有効であることが証明されている。例えば、血友病などの疾患の治療における組み換え凝固因子の重要性を考慮すると、本発明に従って組み換えにより生産される凝固因子のグリコシル化パターンを最適化することは特に興味深い。例えば、凝固因子IX(IX因子、または「FIX」)は、これが不足すると、患者の血液が凝固できない障害である血友病Bになる単鎖糖タンパク質である。従って、どんな小さな傷でも出血するものは、潜在的に生命を危うくする事象である。
【0053】
FIXは、活性化ペプチドの放出により二本鎖セリンプロテアーゼ(IX因子a)に活性化できる単鎖チモーゲンとして合成される。IX因子aの触媒ドメインは、重鎖中に位置する(Changら、J.Clin.Invest.、100:4、1997(本発明の一部として参照される)参照)。FIXは、N結合型およびO結合型炭水化物の両方を包含する複数のグリコシル化部位を有する。セリン61(Sia−α2,3−Gal−β1,4−GlcNAc−β1,3−Fuc−α1−O−Ser)での1つの特定のO結合型構造は、かつてはFIXに独特であると考えられていたが、その後に哺乳動物およびショウジョウバエ(Drosophila)におけるノッチタンパク質をはじめとするいくつかの他の分子上で見出された(Maloneyら、Journal of Biol.Chem.、275(13)、2000)。細胞培養においてチャイニーズハムスター卵巣(「CHO」)細胞により生産されるFIXは、セリン61オリゴ糖鎖において若干の変動性を示す。これらの異なる糖形態、および他の潜在的な糖形態は、ヒトまたは動物に投与された場合に凝固を誘発する様々な能力を有する、および/または血液中で様々な安定性を有し、その結果、凝固の有効性が低い。
【0054】
臨床的に血友病と区別される血友病Aは、単鎖チモーゲンとして合成され、次に処理されて二本鎖活性形態になる別の糖タンパク質であるヒト凝固因子VIIIの欠乏により引き起こされる。本発明は、その凝固活性を調節するために、凝固因子VIIIのグリコシル化パターンを制御または変更するために用いることもできる。本発明に従って生産でき、そのグリコシル化パターンを制御または変更できる他の糖タンパク質凝固因子としては、例えば、組織因子およびフォンウィルブランド(von Willebrands)因子が挙げられるが、これらに限定されない。
抗体
【0055】
抗体は、特定の抗原と特異的に結合できるタンパク質である。医薬品または他の商業的薬品として現在使用されているか、または調査中である多数の抗体があれば、本発明に従って望ましいグリコシル化パターンを有する抗体を生産することは特に興味深い。さらに、異なるグリコシル化パターンを有する抗体は、投与される個体において免疫応答を開始しにくく、その結果、より有効な治療法をもたらす。それに加えて、またはその代わりに、その定常領域において異なるグリコシル化パターンを有する抗体は、改善された薬物動態的または薬力学的エフェクター機能を示す。それに加えて、またはその代わりに、異なるグリコシル化パターンを有する抗体は、これらが、例えば細胞培養中のプロテアーゼまたは他の成分に対してより耐性であることにより生産され、従ってより高い抗体の最終力価が得られる細胞培養条件において、より安定であり得る。
【0056】
宿主細胞において発現できる抗体は、本開示の教唆に従って使用できる。いくつかの実施形態において、発現される抗体はモノクローナル抗体である。ある実施形態において、モノクローナル抗体はキメラ抗体である。キメラ抗体は、1より多い生物由来のアミノ酸フラグメントを含む。キメラ抗体分子は、例えばヒト定常領域を有する、マウス、ラット、または他の種の抗体由来の抗原結合ドメインである。キメラ抗体を作製するための様々な方法が記載されている(例えば、Morrisonら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 81、6851、1985;Takedaら、Nature 314、452、1985、Cabillyら、米国特許第4,816,567号;Bossら、米国特許第4,816,397号;Tanaguchiら、欧州特許公開EP171496;欧州特許公開0173494、英国特許GB2177096B(それぞれは、本発明の一部として参照される)を参照)。
【0057】
いくつかの実施形態において、モノクローナル抗体はヒト化抗体である。ヒト化抗体は、アミノ酸残基の大部分がヒト抗体由来であり、従って、ヒト対象に送達された場合に起こり得る免疫反応が最小限に抑えられるキメラ抗体である。ヒト化抗体において、超可変領域中のアミノ酸残基は、望ましい抗原特異性または親和性を付与するヒト以外の種由来の残基と置換される。ある実施形態において、ヒト化抗体は、ヒト抗体と80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99パーセント以上同一であるアミノ酸配列を有する。ある実施形態において、ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖細胞置換および/または逆突然変異の導入により最適化される。このような変更されたイムノグロブリン分子は、当該分野において公知のいくつかの技術のいずれかにより作製できる(例えば、Tengら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、80、7308−7312、1983;Kozborら、Immunology Today、4、7279、1983;Olssonら、Meth.Enzymol.、92、3−16.1982(それぞれは、本発明の一部として参照される))。いくつかの実施形態において、変更されたイムノグロブリン分子は、PCT公開WO92/06193またはEP0239400(それぞれは、全体として本発明の一部として参照される)の教唆に従って作製される。
【0058】
ある実施形態において、本開示の教唆に従って生産される抗体は、改善されたグリコシル化パターンを示すイムノグロブリン定常またはFc領域を含有し得る。例えば、本明細書における教唆に従って生産される抗体は、エフェクター分子、例えば、抗体のいくつかの免疫機能、例えばエフェクター細胞活性、溶解、補体が関与する活性、抗体クリアランス、および抗体半減期を制御できる補体および/またはFcレセプターに対して、より強力にまたはより高い特異性で結合し得る。抗体(例えば、IgG抗体)のFc領域と結合する典型的なFcレセプターとしては、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIのレセプターならびに対立遺伝子変異体を含むFcRnサブクラスおよびこれらのレセプターの別のスプライスされた形態が挙げられるが、これらに限定されない。Fcレセプターは、RavetchおよびKinet、Annu.Rev.Immunol 9:457−92、1991;Capelら、Immunomethods 4:25−34,1994;およびde Haasら、J.Lab.Clin.Med.126:330−41,1995(それぞれは、全体として本発明の一部として参照される))で概説されている。
【0059】
ただ1つだけの非制限的例として、本教唆に従って生産し得る抗体は、抗ABeta抗体である。抗ABeta抗体は、アルツハイマー病の治療における特に有望な治療効果への道である。アルツハイマー病(AD)は、結果として老年性認知症になる進行性疾患である(概して:Selkoe、TINS 16:403、1993;Hardyら、WO92/13069;Selkoe、J.Neuropathol.Exp.Neurol.53:438、1994;Duffら、Nature 373:476、1995;Gamesら、Nature 373:523、1995(それぞれは本発明の一部として参照される)を参照のこと)。大まかに言って、この疾患は2種類:後期発症(老齢期(65才+)で起こる)および早期発症(老齢期前、即ち、35から60才の間に十分に発症する)に分類される。両種類の疾患において、病状は同じであるが、さらに若年齢で発症する場合には、異常性はさらに深刻になり、広範囲に及ぶ傾向がある。この疾患は、脳における少なくとも2種の病変、神経原線維変化および老人斑により特徴づけられる。神経原線維変化は、2本1組で互いに撚り合わさった2本の線維からなる微小管結合タウタンパク質の細胞内沈着である。老人斑(即ち、アミロイド斑)は、脳組織断片の顕微鏡分析により見ることができる中心での細胞外アミロイド沈着を有する横幅が最高150μmの解体した神経網の部分である。脳内のアミロイド斑の蓄積は、ダウン症および他の認知症害とも関連する。
【0060】
プラークの主な構成要素は、ABetaまたはベータ−アミロイドペプチドと称するペプチドである。ABetaペプチドは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と称する大膜貫通糖タンパク質という名のタンパク質の39〜43アミノ酸の4kDa内部フラグメントである。異なるセクレターゼ酵素によるAPPのタンパク質分解処理の結果として、ABetaは主に、短形態(40アミノ酸の長さ)、および長形態(42〜43アミノ酸の長さ)の両方で見られる。APPの疎水性膜貫通ドメインの部分は、ABetaのカルボキシ末端で見られ、特に長形態の場合、ABetaが凝集してプラークになる能力の原因であり得る。脳におけるアミロイド斑の蓄積は、最終的に神経細胞死に至る。この種類の神経劣化と関連する身体症状は、アルツハイマー病を特徴づける。
【0061】
APPタンパク質内のいくつかの突然変異は、アルツハイマー病の存在と関連する(例えば、Goateら、Nature 349:704、1991(バリン717からイソロイシン);Chartier Harlanら Nature 353:844、1991(バリン717からグリシン);Murrellら、Science 254:97,1991(バリン717からフェニルアラニン);Mullanら、Nature Genet.1:345,1992(リシン595−メチオニン596からアスパラギン595−ロイシン596へ変更する二重突然変異)(それぞれはその全体として本発明の一部として参照される)を参照のこと)。このような突然変異は、APPからABetaへの増加または変更プロセッシング、特にAPPから、増加量のABetaの長形態(即ち、ABeta1〜42およびABeta1 43)へのプロセッシングにより、アルツハイマー病を引き起こすと考えられる。他の遺伝子、例えば、プレセニリン遺伝子、PS1およびPS2、における突然変異は、増加量の長形態ABetaを作製するためのAPPのプロセッシングに間接的に影響を及ぼすと考えられる(Hardy、TINS 20:154,1997(その全体として本発明の一部として参照される)を参照のこと)。
【0062】
マウスモデルは、アルツハイマーにおけるアミロイド斑の重要性を決定するために有効に使用されてきた(Gamesら、前出;Johnson−Woodら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:1550、1997(その全体として本発明の一部として参照される))。特に、PDAPPトランスジェニックマウス(ヒトAPPの突然変異型を発現し、若年でのアルツハイマー病を発症する)がABetaの長形態とともに注射される場合、これらはアルツハイマー病の進行を軽減し、かつABetaペプチドに対する抗体価を増加させる(Schenkら、Nature 400、173、1999(その全体として本発明の一部として参照される)。前述の観察は、ABeta、特にその長形態のものがアルツハイマー病の原因成分であることを示す。
【0063】
ABetaペプチドは溶液中に存在でき、CNS(例えば、CSF)および血漿中で検出できる。ある条件下で、可溶性ABetaは、ADの患者の老人斑および脳血管において見られる線維性、毒性、Beta−シート形に変換される。ABetaに対するモノクローナル抗体での免疫化を含む治療が研究されてきた。能動および受動免疫化はどちらもADのマウスモデルにおいてと同様に試験されている。能動免疫化の結果、脳におけるプラークロードが若干減少するが、経鼻投与によってのみであった。PDAPPトランスジェニックマウスの受動免疫化も研究されてきた(Bardら、Nat.Med.6:916−19、2000(その全体として本発明の一部として参照される))。ABetaのアミノ末端および中心ドメインを認識する抗体は、ABeta堆積物の食作用を刺激し、一方、カルボキシ末端ドメイン付近のドメインに対する抗体は刺激しないことが判明した。
【0064】
受動または能動免疫化後のABetaのクリアランスのメカニズムは、引き続き調査中である。有効なクリアランスについて2つのメカニズム、即ち、中心劣化および末梢劣化が提案されている。中心劣化メカニズムは、抗体が血液−脳バリヤを横切り、プラークと結合し、前から存在するプラークのクリアランスを誘発することができる抗体に依存する。クリアランスは、Fc−レセプターが関与する食作用により促進されることが示された(Bardら、前出)。ABetaクリアランスの末梢劣化メカニズムは、抗体の投与に際しての脳、CSF、および血漿間のABetaの動的平衡の乱れに依存し、これは区画から区画へのABetaの輸送に至る。中心由来のABetaはCSFおよび血漿中に輸送され、ここで分解される。最近の研究により、脳中のアミロイド沈着の減少がなくても、可溶性および未結合ABetaはADと関連する記憶障害に関与すると結論づけられた。ABetaクリアランスのこれらの経路の作用および/または相互作用を決定するためには、さらなる研究が必要とされる(Dodelら、The Lancet第2巻:215、2003(その全体として本発明の一部として参照される))。
【0065】
抗ABeta抗体は、ABetaまたはアミロイド斑を含む他の成分と結合し、除去できるので、ADの潜在的に有望な治療経路である。本開示の教唆に従って生産された抗ABetaは、例えば、より有効にアミロイド斑の成分を結合させ、除去することによるか、付随する副作用がより少ないかもしくはより軽い状態でアミロイド斑を除去することによるか、またはアミロイド斑の形成もしくは蓄積を予防することにより、アルツハイマーまたは他の関連する疾患のより良好な治療薬としての働きをする。ある実施形態において、本教唆に従って生産された抗ABeta抗体はモノクローナル抗体である。
【0066】
ある実施形態において、本教唆に従って生産された抗ABeta抗体は、可溶性形態と結合することなく、ABeaの凝集形体と特異的に結合する。ある実施形態において、本教唆に従って生産される抗ABeta抗体は、これらが凝集形体と結合しない条件下で、抗ABetaの可溶性形態と特異的に結合する。ある実施形態において、本教唆に従って生産されるABeta抗体は、凝集形態および可溶性形態の両方と結合する。ある実施形態において、本教唆に従って生産されるABeta抗体は、プラーク中のABetaと結合する。ある実施形態において、本教唆に従って生産されるABeta抗体は、血液−脳バリヤを横切る。ある実施形態において、本教唆に従って生産されるABeta抗体は、対象におけるアミロイド負荷を軽減する。ある実施形態において、本教唆に従って生産されるABeta抗体は、対象における神経炎ジストロフィーを軽減する。ある実施形態において、抗ABeta抗体は、シナプス構造(例えば、シナプトフィジン)を維持できる。
【0067】
いくつかの実施形態によると、本教唆に従って生産されるABeta抗体は、ABetaの残基13〜28内のエピトープと結合する(1と標記される天然のABetaの第一N末端残基を有する)。いくつかの実施形態において、本教唆に従って生産されるABeta抗体は、ABetaの残基19〜22内のエピトープと結合する。いくつかの実施形態において、様々な抗ABetaエピトープに対して結合特異性を有する複数のモノクローナル抗体を使用する。例えば、いくつかの実施形態において、ABetaの残基19〜22内のエピトープに対して特異性である抗体を、ABetaの残基19〜22の外側のエピトープに対して特異性を有する抗体と同時に投与する。このような抗体を、連続して、または同時に投与することができる。ABeta以外のアミロイド成分に対する抗体も使用(例えば、投与または同時投与)できる。
【0068】
ある実施形態において、本教唆に従って生産されるABeta抗体は、他の方法で作製される抗ABeta抗体よりも強く、または高い特異性で、ABetaエピトープと結合する。抗体のエピトープ特異性は、公知技術、例えば、様々なメンバーがABetaの様々なサブ配列を示すファージディスプレーライブラリーを形成することにより、決定できる。ファージディスプレーライブラリーを次に、被試験抗体に対して特異的に結合するメンバーについて選択することができる。配列のファミリーを単離する。典型的には、このようなファミリーは、共通のコア配列、および様々なメンバー中に様々な長さのフランキング配列を含む。抗体に対して特異的結合を示す最も短いコア配列は、典型的には抗体により結合されたエピトープを規定する。それに加えて、またはその代わりに、抗体を、そのエピトープ特異性がすでに決定されている抗体との競合検定において、エピトープ特異性について試験することができる。例えば、ABetaに対する結合について15C11抗体と競合する抗体は、15C11と同じかまたは類似したエピトープと、即ち、残基ABeta19〜22内で結合すると考えられる。ある実施形態において、エピトープ特異性について抗体をスクリーニングすることは、治療効果の予測の有用な判断材料である。例えば、ABetaの残基13〜28内のエピトープ(例えば、Aβ19〜22)と結合することが確認された抗体は、本発明の方法によるアルツハイマー病の予防および治療において有用である可能性が高い。
【0069】
ABetaの他の領域と結合することなく、ABetaの好ましいセグメントと特異的に結合する抗体は、他の領域と結合するモノクローナル抗体、またはインタクトABetaに対するポリクローナル血清と比較して、多くの利点を有する。とりわけ、等しい用量について、好ましいセグメントと特異的に結合する抗体の用量は、アミロイド斑の除去に有効な、より高いモル用量の抗体を含む。さらに、好ましいセグメントと特異的に結合する抗体は、インタクトAPPポリペプチドに対する除去応答を誘発することなく、従って、潜在的な副作用を減少させて、アミロイド沈着に対する除去応答を誘発し得る。
【0070】
ある実施形態において、前述のモノクローナル、キメラ、単鎖、またはヒト化抗体は、自然界の任意の種の任意の抗体において天然に存在しないアミノ酸残基を含み得る。このような外来残基を、モノクローナル、キメラ、単鎖またはヒト化抗体に新規または修飾された特異性、親和性またはエフェクター機能を付与するために用いることができる。
酵素
【0071】
医薬品および/または商業的薬品として有効であることが証明されている別の種類の糖タンパク質としては、酵素が挙げられる。酵素は、そのグリコシル化パターンが酵素活性に影響を及ぼす糖タンパク質である。従って、望ましいグリコシル化パターンを有する酵素を本発明に従って生産することも、特に興味深い。
【0072】
ただ一つの非制限的例として、グルコセレブロシダーゼ(GCR)が不足すると、ゴーシェ病として知られる状態になり、この疾患は、ある細胞のリソソーム中にグルコセレブロシダーゼが蓄積することが原因である。ゴーシェ病の患者は、脾腫、肝腫脹、骨障害、血小板減少症および貧血をはじめとする様々な症状を示す。FriedmanとHayesは、第一アミノ酸配列中に1つの置換を含む組み換えGCR(rGCR)は、自然に存在するGCRと比較して、変更されたグリコシル化パターン、特に、フコースおよびN−アセチルグルコサミン残基の増加を示すことを証明した(米国特許第5,549,892号参照)。
【0073】
FriedmanとHayesは、このrGCRが、自然に存在するrGCRと比較して、改善された薬物速度論的特性を示すことも証明した。例えば、自然に存在するGCRの約2倍ものrGCRが肝臓クーパー細胞を標的とした。2つのタンパク質の第一アミノ酸配列は1つの残基で異なるが、FriedmanとHayesは、rGCRの変更されたグリコシル化パターンは、クーパー細胞に対する標的化にも影響を及ぼし得るという仮説を立てた。
【0074】
当業者は、それらのグリコシル化パターンにおける変更の結果として変更された酵素、薬物動態的および/または薬力学的特性を示す酵素の他の公知例を知っているであろう。
成長因子および他のシグナリング分子
【0075】
医薬品および/または商業的薬品として有効であることが示されている別の種類の糖タンパク質としては、成長因子および他のシグナリング分子が挙げられる。従って、望ましいグリコシル化パターンを有するレセプターを本発明に従って生産することも特に興味深い。成長因子は典型的には、細胞により分泌され、他の細胞上のレセプターと結合し、これを活性化し、レセプター細胞における代謝的または発生的変化を開始する糖タンパク質である。
【0076】
哺乳動物成長因子および他のシグナリング分子の非制限的例としては、サイトカイン;上皮成長因子(EGF);血小板由来増殖因子(PDGF);線維芽細胞増殖因子(FGF)、例えば、FGF−5;インスリン様増殖因子IおよびII(IGF−IおよびIGF−II);des(1−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インスリン様増殖因子結合タンパク質;CDタンパク質、例えば、CD−3、CD−4、CD−8、およびCD−19;エリスロポエチン;骨誘導因子;抗毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン、例えば、インターフェロン−アルファ、−ベータ、および−ガンマ;コロニー刺激因子(CSF)、例えば、M−CSF、GM−CSF、およびG−CSF;ほとんどのインターロイキン;腫瘍壊死因子(TNF)ベータ;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;抗凝固因子、例えば、タンパク質C;心房性ナトリウム利尿因子;肺表面活性剤;プラスミノーゲン・アクチベーター、例えば、ウロキナーゼもしくは人尿または組織型プラスミノーゲン活性化因子(t−PA);造血成長因子;およびエンケファリナーゼが挙げられる。当業者は、本発明に従って発現できる他の成長因子またはシグナリング分子を知っているであろう。
【0077】
成長因子または他のシグナリング分子のグリコシル化パターンにおける特異的変化は、それらの治療特性に対して劇的な影響を及ぼすことが示されている。ただ一つの非制限的例として、慢性貧血に罹っている患者の治療の一般的方法は、これらの赤血球生産を高めるために、組み換えヒトエリスロポエチン(rHuEPO)を患者に頻繁に注射することである。rHuEPOの類似体、すなわち、ダーベポエチンアルファ(Aranesp(登録商標))は、正常なrHuEPOよりも長い体内での持続期間を有するように開発された。ダーベポエチンアルファとrHuEPOとの間の主な違いは、2つの余分なシアル酸を含有するN結合型オリゴ糖鎖の存在である。ダーベポエチンアルファの生産は、インビトロ糖鎖工学を用いて行われてきた(Elliottら、Nature Biotechnology 21(4):414−21、2003)。Elliottらは、インビトロ突然変異生成を用いて、追加のグリコシル化部位をrHuEPOポリペプチド骨格中に組み入れ、その結果、ダーベポエチンアルファ類似体を発現した。追加のオリゴ糖鎖は、EPOレセプター結合部位に対して遠位に位置し、明らかにレセプター結合を妨害しない。しかしながら、ダーベポエチンアルファの半減期は、rHuEPOよりも最高3倍高く、その結果、遙かに有効性が高い治療薬が得られる。
【0078】
この例は、成長因子または他のシグナリング分子のグリコシル化パターンにおける変更が、治療用糖タンパク質のインビボ安定性および/または活性に大きな影響を及ぼし得ることを示す。従って、本発明の教唆に従った、目的の成長因子または他のシグナリング分子の発現は、改善されたグリコシル化パターンおよび改善された治療特性を有する、発現された成長因子またはシグナリング分子をもたらし得る。
レセプター
【0079】
医薬品および/または商業的薬品として有効であることが示されている別の種類の糖タンパク質はレセプターである。従って、本発明に従った望ましいグリコシル化パターンを有するレセプターの生産も、特に興味深い。レセプターは典型的には、細胞外シグナリングリガンドを認識することにより機能する、膜貫通糖タンパク質である。リガンド認識ドメインに加えて、レセプターは、リガンドを結合する際に、標的細胞内分子をリン酸化することにより、シグナリング経路を開始する、タンパク質キナーゼドメインを有することが多く、細胞内の発生的または代謝的変化に至る。
【0080】
ある実施形態において、本発明に従って生産される糖タンパク質レセプターは、レセプターチロシンキナーゼ(RTK)である。RTKファミリーは、多くの細胞型の様々な機能に不可欠なレセプターを包含する(例えば、YardenおよびUllrich、Ann. Rev.Biochem.57:433−478、1988;UllrichおよびSchlessinger、Cell 61:243−254、1990(本発明の一部として参照される)を参照のこと)。RTKの非制限的例としては、線維芽細胞増殖因子(FGF)レセプターファミリーのメンバー、上皮成長因子(EGF)レセプターファミリーのメンバー、血小板由来増殖因子(PDGF)レセプター、イムノグロブリンならびにEGF相同ドメイン−1(TIE−1)およびTIE−2レセプターを有するチロシンキナーゼ(Satoら、Nature 376(6535):70−74、1995)ならびにc−Metレセプターが挙げられ、そのいくつかは、直接的または間接的に血管形成を促進することが示唆されている(MustonenおよびAlitalo、J.Cell Biol.129:895−898、1995)。RTKの他の非制限的例としては、胎児肝臓キナーゼ1(FLK−1)(キナーゼ挿入ドメイン含有レセプター(KDR)(Termanら、Oncogene 6:1677−83、1991)または血管内皮細胞成長因子レセプター2(VEGFR−2)と呼ばれる場合もある)、fms様チロシンキナーゼ−1(Flt−1)(DeVriesら Science 255;989−991、1992;Shibuyaら、Oncogene 5:519−524、1990)(血管内皮細胞成長因子レセプター1(VEGFR−1)と呼ばれる場合もある)、ニューロピリン(neuropilin)−1、エンドグリン(endoglin)、エンドシアリン(endosialin)、およびAxlが挙げられる。ある実施形態において、腫瘍壊死因子アルファおよびベータレセプター(TNFR−1;1991年3月20日公開のEP417,563;およびTNFR−2、1991年3月20日公開のEP417,014)は、本発明に従って発現される(総説に関しては、NaismithおよびSprang、J Inflamm.47(1−2):1−7、1995−96(本発明の一部として参照される)を参照のこと)。
【0081】
ある実施形態において、本発明に従って生産される糖タンパク質レセプターは、G−タンパク質結合レセプター(GPCR)である。GPCRは、7つの膜貫通ドメインを有する糖タンパク質である。リガンドのGPCRとの結合により、シグナルが細胞内で変換され、その結果、細胞の生物学的または生理学的性質において変化が生じる。GPCRは、薬物作用および薬剤開発の主な目的である。実際、レセプターは現在公知の薬物の半分以上をもたらし(Drews、Nature Biotechnology、14:1516、1996)、GPCRは治療的介入の最も重要な標的であり、臨床的に処方された薬剤の30%が、GPCRと拮抗するか、または作用するかのいずれかである(Milligan、G.およびRees、S.、TIPS、20:118−124、1999)。このようなレセプターは、治療標的として確立され、証明された歴史があるので、本発明に従った望ましいグリコシル化パターンを有するGPCRの生産も特に興味深い。例えば、本発明の教唆に従って発現された望ましいグリコシル化パターンを有するGPCRの細胞外ドメインは、その内因性GPCRとの結合が有害であるリガンドを滴定または分離することにより、重要な治療薬として機能し得る。
【0082】
GPCRは、G−タンパク質およびエフェクター(G−タンパク質により調節される細胞内酵素およびチャンネル)とともに、細胞外インプットに対する細胞内の第二のメッセンジャーの状態と関連するモジュラーシグナリングシステムの成分である。このような遺伝子および遺伝子産物は、疾患の潜在的な原因物質である。
【0083】
GPCRタンパク質超科は、オルトログ(orthologue)、即ち異なる種由来の同じレセプターに対して250種を超えるパラログ(paralogue)、即ち、遺伝子複製(または他のプロセス)により生産される代表的な変異体であるレセプターを含む。超科は、5ファミリー:ファミリーI、ロドプシンおよびベータ2−アドレナリンレセプターに代表され、現在200を超える独自のメンバーにより示されるレセプター;ファミリーII、最近特徴づけられた副甲状腺ホルモン/カルシトニン/セクレチンレセプターファミリー;ファミリーIII、哺乳動物における代謝型グルタミン酸レセプターファミリー;ファミリーIV、キイロタマホコリカビ(D.discoideum)の走化性および発生において重要なcAMPレセプターファミリー;ならびにファミリーV、真菌性交尾フェロモンレセプター、例えば、STE2に分類できる。
【0084】
GPCRは、生体アミン、炎症の脂質メディエーター、ペプチドホルモン、および感覚シグナルメディエーターのレセプターを包含する。GPCRは、このレセプターがその細胞外リガンドと結合する場合に活性化されるようになる。リガンドレセプター相互作用の結果生じるGPCRにおける構造変化は、Gタンパク質のGPCR細胞内ドメインに対する結合親和性に影響を及ぼす。これにより、GTPはGタンパク質に対して向上した親和性で結合することが可能になる。
【0085】
GTPによるGタンパク質の活性化は、Gタンパク質αサブユニットのアデニル酸シクラーゼまたは他の第二のメッセンジャー分子ジェネレーターとの相互作用をもたらす。この相互作用は、アデニル酸シクラーゼの活性、従って、第二のメッセンジャー分子、即ち、cAMPの生産を調節する。cAMPは、他の細胞内タンパク質のリン酸化および活性化を調節する。別法として、他の第二のメッセンジャー分子、例えば、cGMPまたはエイコシノイド(eicosinoid)の細胞レベルを、GPCRの活性により上方調節または下方調節することができる。Gタンパク質aサブユニットは、GTPのGTPaseによる加水分解によって不活性化され、α、Βετα、およびγサブユニットは再結合する。ヘテロ三量体Gタンパク質は次に、アデニル酸シクラーゼまたは他の第二のメッセンジャー分子ジェネレーターから解離する。GPCRの活性は、細胞内および細胞外ドメインまたはループのリン酸化によっても調節できる。
【0086】
グルタメートレセプターは、神経伝達において重要であるGPCRの群を形成する。グルタメートは、CNSにおける主な神経伝達物質であり、神経可塑性、認知、記憶力、学習およびいくつかの神経障害、例えば、てんかん、卒中、および神経変性において重要な役割を果たすと考えられている(Watson、S.およびS.Arkinstall、1994)The G−Protein Linked Receptor Facts Book、Academic Press、San Diego CA、pp.130−132)。グルタメートのこれらの効果には、イオンチャンネル型および代謝調節型と称する2つの異なる種類のレセプターが関与する。イオンチャンネル型レセプターは内因性カチオンチャンネルを含み、グルタメートの迅速な興奮作用に関与する。代謝調節型レセプターは調節性であり、カルシウム依存性カリウムコンダクタンスを阻害し、イオンチャンネル型レセプターの興奮性伝達を阻害および増強することにより、ニューロンの膜興奮性を増加させる。代謝調節型レセプターは、作用薬理学およびシグナル変換経路に基づいて5つのサブタイプに分類され、脳組織において広範囲に分布する。N結合型グリコシル化は、ヒト1型アルファ代謝調節型グルタメート(mGlu1アルファ)の機能において重要であることが証明されているレセプター(Modyら、Neuropharmacology 38(10):1485−92、1999)。mGlu1アルファは通常、少なくとも部分的には約145および160KDaのモノマーからなるダイマーとして発現される。mGlu1アルファを、N結合型グリコシル化の強力な阻害剤である、ツニカマイシンで処理することにより、Modyらは、細胞表面発現は影響を受けなかったが、その第一アミノ酸配列により予想される130kDaの質量を有する1つのペプチドだけが発現されることを証明した。機能的に、ツニカマイシンでの処理は、非処理細胞集団と比較して、作用薬により刺激されるホスホイノシチド加水分解を約50%減少させた。従って、本発明のシステムに従って発現されるGPCRのグリコシル化パターンは、発現されたGPCRのシグナリング機能の調節において有用であり、発現されたGPCRの医薬的特性または他の特性を潜在的に制御するか、または影響を及ぼし得る。
【0087】
血管活性腸管ポリペプチド(VIP)ファミリーは、その作用にGPCRが関与する関与するポリペプチド群である。このファミリーの重要なメンバーは、VIP自体、セクレチン、および成長ホルモン放出因子(GRF)である。VIPは、平滑筋の弛緩、様々な組織における分泌の刺激または阻害、様々な免疫細胞活性の調節、ならびにCNSにおける様々な興奮および阻害活性をはじめとする広範囲の生理作用特性を有する。セクレチンは膵臓および腸における酵素およびイオンの分泌を刺激し、脳においても少量で存在する。VIPレセプターのグリコシル化は、その同族VIPの結合に対して重要な影響を及ぼすことが証明された(Chocholaら、J.Biol.Chem.268:2312−2318、1993)。VIPレセプターを小麦麦芽凝集素で処理することによりオリゴ糖鎖を立体的にブロックすると、VIP結合が用量に依存した方法で顕著に阻害され、VIPにより刺激されるcAMP応答が減少した。さらに、VIPレセプターにおける特異的N結合型グリコシル化部位の突然変異の結果、小胞体中にレセプターが保持され、このことから、適切なグリコシル化が細胞表面への送達に重要であることが示された(Couvineauら、Biochemistry 35(6):1745−52、1996)。従って、本発明のシステムにより発現されたGPCRのグリコシル化パターンの調節は、発現されたGPCRのその同族リガンドとの結合の調節(例えば、増加または減少のいずれか)に有用であり、潜在的に発現されたGPCRの医薬的特性または他の特性を制御するかまたは影響を及ぼす。
【0088】
一般に、本発明の実施者は、目的の糖タンパク質を選択し、その正確なアミノ酸配列を知っているであろう。本発明の技術は、O結合型(実施例1および2)ならびにN結合型(実施例3および4)糖タンパク質の両方にうまく適用され、このことは、本発明が一般に糖タンパク質の発現に有用であることを示す。所定の、本発明に従って発現される糖タンパク質は、それ自身の独自の特性を有し、培養された細胞の細胞密度または生存能力に影響を及ぼし、同じ培養条件下で増殖させた別の糖タンパク質よりも低いレベルで発現させることができ、正確な培養条件および行われる段階に応じて1以上の部位で異なってグリコシル化することができる。当業者は、細胞増殖ならびに所定の発現された糖タンパク質の生産および/またはグリコシル化パターンを最適化するために、本発明の教唆に従って特定の糖タンパク質を生産するために使用される段階および組成物を適切に変更することができる。
【0089】
ある実施形態において、腫瘍壊死因子アルファおよびベータレセプターの形態の腫瘍壊死因子阻害剤(TNFR−1;1991年3月20日公開のEP417,563;およびTNFR−2、1991年3月20日公開のEP417,014(それぞれはその全体として本発明の一部として参照される))は本発明のシステムおよび方法により発現される(総説については、NaismithおよびSprang、J Inflamm.47(1−2):1−7、1995−96(その全体として本発明の一部として参照される)を参照のこと)。いくつかの実施形態によると、腫瘍壊死因子阻害剤は可溶性TNFレセプターを含む。ある実施形態において、腫瘍壊死因子阻害剤は可溶性TNF−Igを含む。ある実施形態において、本発明のTNF阻害剤はTNFRIおよびTNFRIIの可溶性形態である。ある実施形態において、本発明のTNF阻害剤は可溶性TNF結合タンパク質である。ある実施形態において、本発明のTNF阻害剤はTNFR−Ig融合タンパク質、例えば、TNFR−Fcまたはエタネルセプト(etanercept)である。本明細書において用いられる場合、「エタネルセプト」とは、p75 TNF−αレセプターの細胞外部分の2つの分子の二量体であるTNFR−Fcを意味し、それぞれの分子は、ヒトIgG1の235アミノ酸Fc部分を含む。
宿主細胞中への糖タンパク質の発現のための遺伝子の導入
【0090】
一般に、細胞中に導入される核酸分子は、本発明に従って発現されることが望まれる糖タンパク質をコード化する。別法として、核酸分子は、細胞による望ましい糖タンパク質の発現を誘発する遺伝子産物をコード化することができる。例えば、導入された遺伝子材料は、内因性または異種糖タンパク質の転写を活性化する転写因子をコード化することができる。それに加えて、またはその代わりに、導入された核酸分子は、細胞により発現される糖タンパク質の翻訳または安定性を増加させ得る。
【0091】
哺乳動物宿主細胞中へ目的の糖タンパク質の発現を達成するために十分な核酸を導入するために適した方法は、当該分野において公知である。えば、Gethingら、Nature、293:620−625、1981;Manteiら、Nature、281:40−46、1979;Levinsonら EP117,060;およびEP117,058(それぞれは本発明の一部として参照される)参照。哺乳動物細胞について、遺伝物質を哺乳動物細胞中に導入する慣用法としては、Grahamおよびvan der Erb(Virology、52:456−457、1978)のリン酸カルシウム沈殿法またはHawley−Nelsonのリポフェクタミン(商標)(Gibco BRL)法(Focus 15:73、1993)が挙げられる。哺乳動物細胞宿主システム形質転換の一般的態様は、Axelにより米国特許第4,399,216号(1983年8月16日発行)に記載されている。遺伝物質を哺乳動物細胞中に導入するための様々な技術については、Keownら、Methods in Enzymology、1989、Keownら、Methods in Enzymology、185:527−537、1990、およびMansourら、Nature、336:348−352、1988を参照のこと。
【0092】
いくつかの実施形態において、導入される核酸は、裸の(naked)核酸分子の形態である。例えば、細胞中に導入される核酸分子は、糖タンパク質および必要な遺伝子制御エレメントをコード化する核酸のみからなる。あるいは、糖タンパク質(必要な調節エレメントを包含する)をコード化する核酸は、プラスミドベクター内に含まれる。哺乳動物細胞における糖タンパク質の発現に適したベクターの非制限的代表例としては、pCDNA1;pCD(Okayamaら、Mol.Cell Biol.5:1136−1142、1985参照);pMClneo Poly−A(Thomas、Cell 51:503−512、1987参照);バクロウイルスベクター、例えば、pAC373またはpAC610;CDM8(Seed、B.Nature 329:840、1987参照);およびpMT2PC(Kaufmanら、EMBO J.6:187−195、1987参照)(それぞれはその全体として本発明の一部として参照される)が挙げられる。いくつかの実施形態において、細胞中に導入される核酸分子は、ウイルスベクター内に含まれる。例えば、糖タンパク質をコード化する核酸を、ウイルスゲノム(または部分ウイルスゲノム)中に挿入することができる。糖タンパク質の発現を行う調節エレメントは、ウイルスゲノム中に挿入された核酸とともに含める(即ち、ウイルスゲノム中に挿入された遺伝子と結合する)ことができるか、またはウイルスゲノム自体により提供することができる。
【0093】
DNAおよびリン酸カルシウムを含有する沈殿を形成することにより、細胞中に導入できる。別法として、DNAおよびDEAE−デキストランの混合物を形成し、この混合物を細胞とともにインキュベートするか、または細胞およびDNAを併せて適切な緩衝液中でインキュベートし、この細胞を(例えば、エレクトロポレーションにより)高電圧電気パルスに付すことにより、裸のDNAを細胞中に導入することもできる。裸のDNA細胞を導入するためのさらなる方法は、DNAと、カチオン性脂質を含有するリポソーム懸濁液とを混合することによる。DNA/リポソーム複合体を次に細胞とともにインキュベートする。裸のDNAを、例えば、マイクロインジェクションにより細胞中に直接注入できる。
【0094】
別法として、DNAをカチオン、例えば、細胞表面レセプターのリガンドと結合するポリリシンと複合体形成させることにより、裸のDNAを細胞中に導入することもできる(例えば、Wu、G.およびWu、C.H.J.Biol.Chem.263:14621、1988;Wilsonら、J.Biol.Chem.267:963−967、1992;および米国特許第5,166,320号(それぞれ、その全体として本発明の一部として参照される)を参照のこと)。DNA−リガンド複合体をレセプターと結合させることにより、レセプターが関与するエンドサイトーシスによるDNAの取り込みが促進される。
【0095】
特定の核酸配列、例えば、糖タンパク質をコード化するcDNAを含有するウイルスベクターの使用は、細胞中に核酸配列を導入するための一般法である。細胞をウイルスベクターで感染させることは、大部分の細胞が核酸を受容するという利点を有し、これにより、核酸を受容した細胞を選択する必要がなくなり得る。さらに、ウイルスベクター内で、例えば、ウイルスベクター中に含まれるcDNAによりコード化される分子は、一般に、ウイルスベクター核酸を取り込んだ細胞中で有効に発現される。
【0096】
欠損性レトロウイルスは、遺伝子治療の目的で、遺伝子移入における使用に関して十分に特徴づけられている(総説に関しては、Miller、A.D.Blood 76:271、1990を参照のこと)。レトロウイルスゲノム中に挿入された目的の糖タンパク質をコード化する核酸を有する組み換えレトロウイルスを構築できる。さらに、レトロウイルスゲノムの一部を除去して、レトロウイルスを複製欠損にすることができる。このような複製欠損レトロウイルスを次にビリオン中にパッケージし、これを使用して、標準的技術によるヘルパーウイルスを使用することによって標的細胞を感染させることができる。
【0097】
アデノウイルスのゲノムを操作して、これが目的の糖タンパク質をコード化し、発現するが、通常の溶解ウイルスのライフサイクルにおいて複製するその能力の点で不活性化されるようにすることができる。例えば、Berknerら、BioTechniques 6:616、1988;Rosenfeldら、Science 252:431−434、1991;およびRosenfeldら、Cell 68:143−155、1992を参照のこと。アデノウイルス株Adタイプ5 dl324またはアデノウイルスの他の株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7等)由来の好適なアデノウイルスベクターは、当業者に公知である。組み換えアデノウイルスは、分裂細胞が有効な遺伝子送達ビヒクルであるであることを必要としない点で有利であり、気道上皮(Rosenfeldら、1992、前出)、内皮細胞(Lemarchandら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6482−6486、1992)、肝細胞(HerzおよびGerard、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2812−2816、1993)および筋肉細胞(Quantinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:2581−2584、1992)をはじめとする広範囲におよぶ様々な細胞型を感染させるために使用できる。さらに、導入されたアデノウイルスDNA(およびこれに含まれる外来DNA)は宿主細胞のゲノム中に取り込まれないが、エピソームのままであり、これにより、導入されたDNAが宿主ゲノム(例えば、レトロウイルスDNA)中に取り込まれるようになる状況において、挿入突然変異生成の結果として起こり得る潜在的な問題を回避する。さらに、外来DNAのアデノウイルスゲノムの収容能力は、他の遺伝子送達ベクターに対して大きい(最高8キロ塩基)(Berknerら、前出;Haj−AhmandおよびGraham、J.Virol.57:267、1986)。現在使用されているほとんどの複製欠損アデノウイルスベクターは、ウイルスE1およびE3遺伝子の全部または一部が欠失しているが、アデノウイルス遺伝物質の80%も保持している。
【0098】
アデノ関連ウイルス(AAV)は、有効な複製および生産的ライフサイクルのヘルパーウイルスとして、別のウイルス、例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスを必要とする自然に存在する欠損ウイルスである(総説に関しては、Muzyczkaら、Curr.Topics in Micro.and Immunol.、158:97−129、1992を参照のこと)。これは、そのDNAを非分裂細胞中に組み込むことができ、高頻度の安定な組み入れを示す、いくつかのウイルスの一つでもある(例えば、Flotteら、Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349−356、1992;Samulskiら、J.Virol.63:3822−3828、1989;およびMcLaughlinら、J.Virol.62:1963−1973、1989を参照のこと)。わずか300塩基値のAAVを含有するベクターをパッケージすることができ、組み込むことができる。外因性DNAの空間は約4.5kbに限定されている。Tratschinら(Mol.Cell.Biol.5:3251−3260、1985)に記載されているAAVベクターを用いて、DNAを細胞中に導入することができる。AAVベクターを用いて、様々な核酸が異なる細胞型中に導入されている(例えば、Hermonatら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6466−6470、1984;Tratschinら、Mol.Cell.Biol.4:2072−2081、1985;Wondisfordら、Mol.Endocrinol.2:32−39、1988;Tratschinら、J.Virol.51:611−619、1984;およびFlotteら、J.Biol.Chem.268:3781−3790、1993を参照のこと)。
【0099】
核酸分子を細胞の集団中に導入するために用いられる方法が細胞の大きな集団の修飾および細胞による糖タンパク質の有効な発現をもたらす場合、細胞の修飾された集団を、集団内の個々の細胞をさらに単離またはサブクローニングすることなく用いることができる。即ち、細胞の集団により糖タンパク質が十分生産されるので、さらなる細胞の単離が必要なく、糖タンパク質を生産するために細胞に播種するために、この集団を直ちに使用できる。別法として、糖タンパク質を有効に生産するいくつかの細胞または1つの細胞から細胞の均質集団を単離し、増殖させることが望ましい。
【0100】
目的の糖タンパク質をコード化する細胞中に核酸を導入する代わりに、導入された核酸は、細胞により内因的に生産された糖タンパク質の発現を誘発させるかまたはそのレベルを増加させる別のポリペプチドまたはタンパク質をコード化することができる。例えば、細胞は特定の糖タンパク質を発現できるが、細胞をさらに処理することなく発現することはできない。同様に、細胞は所望の目的に不十分な量の糖タンパク質を発現し得る。従って、目的の糖タンパク質の発現を刺激する薬剤を用いて、細胞による糖タンパク質の発現を誘発または増加させることができる。例えば、導入された核酸分子は、目的の糖タンパク質の転写を活性化または上方調節する転写因子をコード化することができる。このような転写因子の発現は次に、目的の糖タンパク質の発現、またはさらに強固な発現に至る。
【0101】
ある実施形態において、糖タンパク質の発現を行う核酸は、宿主細胞中に安定に導入される。ある実施形態において、糖タンパク質の発現を行う核酸は、宿主細胞中に一時的に導入される。当業者は、各自の実験の必要性に基づいて、細胞中に核酸を安定に導入するか、または一時的に導入するかを選択することができる。
【0102】
目的の糖タンパク質をコード化する遺伝子を任意に1以上の調節遺伝子制御エレメントと結合させることができる。ある実施形態において、遺伝子制御エレメントは糖タンパク質の構成的発現を行う。ある実施形態において、目的の糖タンパク質をコード化する遺伝子の誘導性発現を提供する遺伝子エレメントを使用できる。誘導性遺伝子制御エレメント(例えば、誘導性プロモーター)の使用により、細胞中での糖タンパク質の生産の調節が可能になる。真核細胞において使用するための潜在的に有用な誘導性遺伝子制御エレメントの非制限的例としては、ホルモン調節エレメント(例えば、Mader、S.およびWhite、J.H.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5603−5607、1993を参照のこと)、合成リガンド調節エレメント(例えば、Spencer、D.M.ら、Science 262:1019−1024、1993を参照のこと)およびイオン化放射線調節エレメント(例えば、Manome、Y.ら、Biochemistry 32:10607−10613、1993;Datta、R.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10149−10153、1992を参照のこと)が挙げられる。さらなる細胞特異性または当該分野において公知の他の調節システムを本発明に従って用いることができる。
【0103】
当業者は、本発明の教唆に従って、細胞に目的の糖タンパク質を発現させる遺伝子の導入法を選択し、任意に、適切に修飾することができるであろう。
細胞
【0104】
細胞培養を受けやすく、糖タンパク質を発現しやすい任意の宿主細胞を、本発明に従って使用できる。ある実施形態において、宿主細胞は哺乳動物である。本発明に従って使用できる哺乳動物細胞の非制限例としては、BALB/cマウス骨髄腫株(NSO/l、ECACC No:85110503);ヒト網膜芽細胞(PER.C6(CruCell、Leiden、The Netherlands));SV40により形質転換されたサル腎臓CV1株(COS−7、ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓株(293細胞または懸濁培養での増殖のためにサブクローンされた293細胞、Grahamら、J.Gen Virol.、36:59,1977);新生児ハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞+/−DHFR(CHO、UrlaubおよびChasin、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77:4216、1980);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol.Reprod.、23:243−251、1980);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76、ATCC CRL−1 587);ヒト子宮頸癌細胞(HeLa、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら、Annals N.Y.Acad.Sci.、383:44−68、1982);MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒト肝細胞癌細胞系(Hep G2)が挙げられる。
【0105】
さらに、任意の数の商業的または非商業的に入手可能なハイブリドーマ細胞系で、糖タンパク質を発現するものは、本発明に従って使用できる。当業者は、ハイブリドーマ細胞系が、様々な栄養必要量を有し得ること、および/または最適の増殖および糖タンパク質発現のための様々な培養条件を必要とし得ることを理解し、必要に応じて条件を修飾できるであろう。
【0106】
前述のように、多くの場合、高レベルの糖タンパク質を生産するために、細胞を選択するか、または操作する。しばしば、例えば目的の糖タンパク質をコード化する遺伝子の導入および/または遺伝子(内因性であるかまたは導入されたかのいずれか)の発現を調節する遺伝子制御エレメントの導入により、細胞は人間によって操作されるであろう。
【0107】
当業者は、様々な細胞型において生産される糖タンパク質が、様々な結果として得られるグリコシル化パターンを含み得ることを理解するであろう。例えば、Przybyloらは、カドヘリンのグリコシル化パターンは、非悪性上皮尿管細胞、v−rafトランスフェクトHCV29細胞および膀胱の翻訳細胞癌において発現された場合に異なることを証明した(Przybyloら、Cancer Cell International、2(1):6、2002を参照のこと)。Lifelyらは、ヒト化IgG抗体のグリコシル化パターンおよび生物学的活性は、CHO、Y0骨髄腫およびNS0骨髄腫細胞系において発現された場合に異なることを証明した(Lifelyら、Glycobiology.5(8):813−22、1995を参照のこと)。当業者は、必要以上の実験をせずに特定の糖タンパク質の生産に望ましい細胞系を選択できる。どの細胞系が最終的に選択されるかどうかに関わらず、糖タンパク質を本発明に従って発現でき、その結果、さらに広範囲のグリコシル化パターンが得られる。
【0108】
ある糖タンパク質は、細胞増殖、細胞生存性または目的の糖タンパク質の生産を何らかの方法で最終的に制限する細胞の他の特性に対して有害な影響を及ぼし得る。特定の糖タンパク質を発現するように操作された1つの特定の型の細胞集団においてでさえ、細胞集団内に多様性が存在するので、個々の細胞はより良好に増殖するか、より多くの目的の糖タンパク質を生産するか、より広範囲のグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を生産するか、または自然に存在する糖タンパク質のグリコシル化パターンをより正確に反映する。ある実施形態において、細胞系は、細胞を培養するために選択された特定の条件下で、強固な増殖を得るために実施者により経験的に選択される。いくつかの実施形態において、特定の糖タンパク質を発現するように操作された個々の細胞を、細胞増殖、最終細胞密度、細胞生存性(%)、発現された糖タンパク質の力価、オリゴ糖側鎖の範囲および組成または実施者により重んじられるこれらまたは他の条件に基づいて、大規模生産に関して選択する。
細胞の培養
【0109】
糖タンパク質を発現しやすい任意の細胞培養法とともに本発明を使用できる。例えば、細胞をバッチ培養または流加培養において増殖させることができ、この場合、糖タンパク質の十分な発現後に培養を停止させ、その後、発現された糖タンパク質を回収する。別法として、細胞を潅流培養において増殖させることができ、この場合、培養を停止させず、新しい栄養素および他の成分を定期的または連続して培養に添加し、その間、発現された糖タンパク質を定期的または連続して回収する。
【0110】
細胞を、実施者により選択された任意の都合のよい容積中で増殖させることができる。例えば、細胞を、数ミリリットルから数リットルまでの範囲の容積の小規模反応容器中で増殖させることができる。別法として、細胞を、およそ少なくとも1リットルから10、100、250、500、1000、2500、5000、8000、10,000、12,000リットル以上、またはその間の任意の範囲の容積の大規模な商業的バイオリアクター中で増殖させることができる。
【0111】
細胞培養の温度は、細胞培養が実行可能なままである温度範囲、高レベルの糖タンパク質が生産される範囲および/または発現された糖タンパク質が望ましいグリコシル化パターンを含む範囲に主に基づいて選択される。例えば、CHO細胞は、約37℃で十分に増殖し、商業的に適切なレベルで望ましいグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を生産できる。一般に、ほとんどの哺乳動物細胞は、約25℃から42℃の範囲内で十分に増殖し、商業的に適切なレベルで所望のグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を生産できるが、本開示により教唆される方法はこれらの温度に限定されない。ある哺乳動物細胞は、約35℃から40℃の範囲内で、十分に増殖し、商業的に適切なレベルのグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を生産できる。ある実施形態において、細胞培養は、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45℃の温度で、細胞培養プロセス中に1回以上増殖する。当業者らは、細胞の特定の必要性および実施者の特定の要求生産量に応じて、細胞を増殖させるために適切な温度を選択できるであろう。
【0112】
さらに、培養の過程において培養を1以上の温度シフトに付すことができる。培養の温度がシフトする場合、この温度シフトは、比較的緩やかであってよい。例えば、温度変化が完了するために数時間または数日を要し得る。あるいは、温度シフトは比較的急激であってよい。温度は培養プロセスの間に着実に増加または減少し得る。あるいは、温度は培養過程の様々な時点で不連続な量で増加または減少し得る。その後の温度または温度範囲は、初期または事前の温度または温度範囲よりも低いか、または高くてもよい。当業者は、複数の不連続な温度シフトがこの実施形態に含まれることを理解するであろう。例えば、温度は一旦(高いかまたは低い温度または温度範囲に)シフトすると、細胞はある期間、この温度または温度範囲に維持され、その後、温度は新しい温度または温度範囲に再度シフトし、この温度は事前の温度または温度範囲よりも高いかまたは低くてもよい。それぞれの不連続なシフト後の培養の温度は、一定であるか、またはある温度範囲内で維持され得る。
【0113】
初期温度または温度範囲に関して、温度シフト後の細胞培養の温度または温度範囲は、一般に、細胞培養が実行可能なままである温度、高レベルの糖タンパク質が生産される範囲、および/または発現された糖タンパク質が望ましいグリコシル化パターンを有する範囲に主に基づいて選択される。一般に、ほとんどの哺乳動物細胞は、約25℃から42℃の範囲内で、生存可能なままであり、望ましいグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を商業的に適切なレベルで発現するが、本開示により教唆される方法はこれらの温度に限定されない。ある実施形態において、哺乳動物細胞は、約25℃から35℃の範囲内で生存可能なままであり、商業的に適切なレベルで望ましいグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を発現する。当業者らは、細胞の特定の必要性および実施者の特定の要求生産量に応じて、細胞を増殖させるために適切な温度または温度範囲を選択できるであろう。細胞を、実施者の必要性および細胞自体の要求に応じて、任意の時間増殖させることができる。
【0114】
ある実施形態において、発現された糖タンパク質が十分に高い力価に到達したら、および/または一旦発現された糖タンパク質が、実施者の必要性により決定される望ましいグリコシル化パターンを示したら、バッチおよび流加反応を停止させる。それに加えて、またはその代わりに、細胞が、実施者の必要性により決定される十分高い密度に到達したら、バッチおよび流加反応を停止させることができる。例えば、細胞が最大生存細胞密度の1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または99パーセントに到達したら、培養を停止させることができる。それに加えて、またはその代わりに、例えば、ラクテートおよびアンモニウムなどの代謝廃棄産物が過度に蓄積する前に、バッチおよび流加反応を停止させることができる。
【0115】
ある場合において、その後の生産段階中に、栄養素または細胞により消耗または代謝された他の培地成分を添加することが有利である。非制限的例として、ホルモンおよび/または他の成長因子、無機イオン(例えば、例えば、ナトリウム、クロリド、カルシウム、マグネシウム、およびホスフェート)、緩衝液、ビタミン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素(通常、非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、アミノ酸、脂質、またはグルコースもしくは他のエネルギー源を細胞培養に添加することが有利である。このような追加成分は、全て細胞培養に一度に添加してもよいし、あるいは連続した添加で細胞培養に添加してもよい。
【0116】
ある実施形態において、細胞を米国仮特許出願番号60/605,097(本発明の一部として参照される)に記載される細胞培養法のいずれかに従って増殖させる。ある実施形態において、細胞を米国特許出願番号11/213,308(本発明の一部として参照される)に記載される1以上の条件下で増殖させる。
【0117】
当業者は、増殖速度、細胞生存性、細胞培養の最終細胞密度、ラクテートおよびアンモニウムなどの有害な代謝副生成物の最終濃度、発現された糖タンパク質の最終力価、オリゴ糖側鎖の範囲および組成またはこれらもしくは実施者により重視される他の条件の組み合わせを包含するが、これらに限定されない細胞培養のある特性を最適化するための特異的な細胞培養条件を調整することができるであろう。
発現された糖タンパク質の単離
【0118】
一般に、典型的には、本発明に従って発現された糖タンパク質を単離および/または精製することが望ましい。ある実施形態において、発現された糖タンパク質は培地中に分泌され、従って細胞および他の固体を、例えば精製プロセスの第一段階として遠心分離または濾過により除去することができる。
【0119】
別法として、発現された糖タンパク質を宿主細胞の表面と結合させることができる。例えば、培地を除去することができ、糖タンパク質を発現する宿主細胞は精製プロセスの第一段階として溶解させる。哺乳動物宿主細胞の溶解は、ガラスビーズおよび高pH条件への暴露による物理的破砕をはじめとする任意の数の当業者らに周知の手段により達成することができる。
【0120】
発現された糖タンパク質は、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、サイズ排除、およびヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)、ゲル濾過、遠心分離、または溶解度差(differential solubility)を包含するが、これらに限定されない標準法、エタノール沈殿および/またはタンパク質精製のために利用可能な他の技術(例えば、Scopes、Protein Purification Principles and Practice 第2版、Springer−Verlag、New York、1987;Higgins、S.J.およびHames、B.D.(編)、Protein Expression:A Practical Approach、Oxford Univ Press、1999;ならびにDeutscher、M.P.、Simon、M.I.、Abelson、J.N.(編)、Guide to Protein Purification:Methods in Enzymology(Methods in Enzymology Series、第182巻)、Academic Press、1997(それぞれは本発明の一部として参照される)を参照のこと)により単離し、精製することができる。特に、イムノアフィニティークロマトグラフィーに関して、糖タンパク質は、この糖タンパク質に対して産生させ、固定支持体に固定された抗体を含むアフィニティーカラムと結合させることにより、単離できる。別法として、アフィニティータグ、例えば、インフルエンザコート配列、ポリ−ヒスチジン、またはグルタチオン−S−トランスフェラーゼを標準的組み換え技術により糖タンパク質と結合させて、適切なアフィニティーカラム全体に通すことによる簡便な精製を可能にできる。精製プロセスの間の糖タンパク質の分解を減少または排除するために、プロテアーゼ阻害剤、例えば、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)、ロイペプチン、ペプスタチンまたはアプロチニンを任意の段階または全ての段階で添加することができる。発現された糖タンパク質を単離し、精製するために、細胞を溶解させなければならない場合に、プロテアーゼ阻害剤は特に有利である。それに加えて、またはその代わりに、共有結合したオリゴ糖鎖の酵素トリミングを減少または排除するために、任意の段階または全部の段階で、グリコシダーゼ阻害剤を添加できる。
【0121】
本発明に従って発現される糖タンパク質は、従来の細胞培養条件下で増殖させる場合よりも広範囲に及ぶか、または変更されたグリコシル化パターンを有し得る。従って、精製段階で利用できる本発明の一つの実益は、本発明の方法に従って増殖させた糖タンパク質上の追加および/または変更された糖残基が、より伝統的な方法に従って増殖させた糖タンパク質について可能であるよりも、さらに容易にまたはより高い純度まで、糖タンパク質を精製するために実施者が使用できる明確な生化学的性質をこれに付与できることである。
【0122】
当業者は、正確な精製技術は、精製される糖タンパク質の特徴、糖タンパク質が発現される細胞の特性、および/または細胞が増殖される培地の組成に応じて変わることを理解するであろう。
免疫原性組成物
【0123】
本開示の教唆に従って生産される糖タンパク質は、例えば、ワクチンとして、免疫原性組成物においても使用できる。ある実施形態において、本発明のある方法に従って糖タンパク質を生産することにより得られる改善されたグリコシル化パターンは、さらに有効な免疫原性組成物をもたらし得る。例えば、生産された糖タンパク質を含む免疫原性組成物は、対象の免疫系が糖タンパク質に対するより多くの抗体を生産し、および/または免疫原性糖タンパク質に対してより高い特異性を示す抗体を生産する、より有効な免疫反応を誘発できる。それに加えて、またはその代わりに、このような糖タンパク質は、より少数および/またはより軽度の副作用を伴う免疫反応を誘発できる。ある実施形態において、本発明の免疫原性組成物は、1以上の糖タンパク質を含む。それに加えて、またはその代わりに、本発明の免疫原性組成物は、1以上の生理学的に許容される担体を含み得る。
【0124】
一般に、本発明の免疫原性組成物の成分についての適切な「有効量」または用量の選択は、使用する免疫原性組成物中の選択された糖タンパク質の同一性、糖タンパク質のグリコシル化パターン、および対象の健康状態、最も詳細には、免疫化対象の全体的健康、年齢および/または体重を包含するが、これに限定されない様々な因子に基づく。当該分野において公知であるように、特定の投与法および経路ならびに免疫原性組成物中の追加成分の存在も、DNAプラスミド組成物の用量および量に影響を及ぼし得る。このような選択および有効量の上方または下方調節は当業者の技術範囲内である。保護応答を包含するが、これに限定されない免疫反応を誘発するため、または患者において明らかな有害な副作用なしに外因性効果をもたらすために必要な免疫原性組成物の量は、これらの因子に応じて変化する。好適な用量は、当業者により容易に決定される。
【0125】
本発明のある免疫原性組成物はアジュバントを含むことができる。アジュバントとは、免疫原または抗原とともに投与される場合に、免疫反応を向上させる物質である。多くのサイトカインまたはリンホカイン、例えばこれらに限定されないが、インターロイキン1−α、1−β、2、4、5、6、7、8、10、12(例えば、米国特許第5,723,127号(その全体として本発明の一部として参照される)を参照のこと)、13、14、15、16、17および18(ならびにその突然変位型)、インターフェロン−α、βおよびγ、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(例えば、米国特許第5,078,996号(その全体として本発明の一部として参照される)を参照のこと)、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、GSF、ならびに腫瘍壊死因子αおよびβは、免疫調節活性を有することが証明されており、従って、アジュバントとして使用できる。本発明において有用な、さらに他のアジュバントとしては、ケモカイン、例えば制限無く、MCP−1、MIP−1α、MIP−1β、およびRANTESが挙げられる。接着分子、例えば、セクレチン、例えば、L−セクレチン、P−セクレチンおよびE−セクレチンもアジュバントとして有用である。さらに他の有用なアジュバントとしては、制限無く、ムチン様分子、例えば、CD34、GlyCAM−1およびMadCAM−1、インテグリンファミリーのメンバー、例えば、LFA−1、VLA−1、Mac−1およびp150.95、イムノグロブリン超科のメンバー、例えば、PECAM、ICAM、例えば、ICAM−1、ICAM−2およびICAM−3、CD2およびLFA−3、共刺激因子分子、例えば、CD40およびCD40L、成長因子、例えば、血管増殖因子、神経成長因子、線維芽細胞増殖因子、上皮成長因子、B7.2、PDGF、BL−1、および血管内皮増殖因子、レセプター分子、例えば、Fas、TNFレセプター、Flt、Apo−1、p55、WSL−1、DR3、TRAMP、Apo−3、AIR、LARD、NGRF、DR4、DR5、KILLER、TRAIL−R2、TRICK2、およびDR6が挙げられる。さらに別のアジュバント分子としては、Caspase(ICE)が挙げられる。国際特許公開番号WO98/17799およびWO99/43839(それぞれはその全体として本発明の一部として参照される)も参照のこと。
【0126】
コレラ毒素(CT)およびこれらの突然変異体、例えば、公開された国際特許出願番号WO 00/18434(ここで、アミノ酸29位のグルタミン酸は別のアミノ酸(アスパラギン酸以外)、好ましくはヒスチジンにより置換されている)に記載されているものも、アジュバントとして有用である。類似のCTまたは突然変異体は、公開された国際特許出願番号WO02/098368(ここで、アミノ酸位16のイソロイシンは、他のアミノ酸で、単独またはアミノ酸位68のセリンの別のアミノ酸による置換と組み合わせて置換される;および/またはアミノ酸位72のバリンは別のアミノ酸により置換されている)に記載されている。他のCT毒素は、公開された国際特許出願番号WO 02/098369(ここで、アミノ酸位25のアルギニンは別のアミノ酸により置換されている;および/またはアミノ酸がアミノ酸位49で挿入されている;および/または2つのアミノ酸がアミノ酸35および36で挿入されている)に記載されている。これらの文献のそれぞれは、その全体として本発明の一部として参照される。
【0127】
ある実施形態において、本発明の免疫原性組成物をヒトまたは非ヒト脊椎動物に、鼻内、経口、膣、直腸、非経口、皮内、経皮(例えば、国際特許公開番号WO 98/20734(その全体として本発明の一部として参照される)を参照のこと)、筋肉内、腹腔内、皮下、静脈内および動脈内を包含するが、これに限定されない様々な経路により投与することができる。適切な経路は、使用される免疫原性組成物の性質、対象の年齢、体重、性別および全体的な健康の評価ならびに免疫原性組成物中に存在する抗原、および/または当業者らに公知の他の因子に応じて選択することができる。
【0128】
ある実施形態において、免疫原性組成物を複数回投与する。免疫原性組成物投与の順序および個々の投与の間の時間は、身体特性および方法の適用に対する宿主の正確な反応を包含するが、これに限定されない当業者らに公知の関連する因子に基づいて、当業者が選択することができる。
医薬処方
【0129】
ある実施形態において、生産された糖タンパク質は、薬理活性を有し、医薬の調製に有用である。前述の本発明の組成物を対象に投与することができるか、または非経口(例えば、静脈内)、皮内、皮下、経口、経鼻、気管支、眼、経皮(局所)、経粘膜、直腸、および膣経路を包含するが、これらに限定されない任意の利用可能な経路による送達用にまず処方することができる。本発明の医薬組成物は、典型的には、哺乳動物細胞系から発現された精製糖タンパク質、送達剤(即ち、前述のような、カチオン性ポリマー、ペプチド分子トランスポーター、界面活性剤等)を医薬的に許容される担体との組み合わせで含む。本明細書では、「医薬的に許容される担体」という用語は、医薬投与に適合性の、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌薬、等張および吸収遅延剤などを包含する。補助活性化合物を組成物中に組み入れることができる。例えば、本発明に従って生産される糖タンパク質を、全身性薬物療法用の他の医薬、例えば、毒素、低分子量細胞毒性薬、生物反応修飾物質、および放射性核種とさらに結合させることができる(例えば、Kunzら、Calicheamicin derivative−carrier conjugates、US20040082764 A1参照)。
【0130】
それに加えて、またはその代わりに、本発明に従って生産されるタンパク質またはポリペプチドを、1以上の追加の医薬活性剤と組み合わせて(同時または連続してのいずれかで)投与することができる。これらの医薬活性剤の例は、the Physicians’ Desk Reference、55 Edition、Medical Economics Co.、Inc.(Montvale、NJ)出版、2001年(本発明の一部として参照される)に見出すことができる。これらの列挙された薬剤について、医薬的に有効な用量およびレジメンは当該分野において公知であり;多くはthe Physicians’ Desk Reference自体に記載されている。
【0131】
医薬組成物を有利には、その意図される投与経路と適合性であるように処方する。非経口、皮内、または皮下投与に使用される溶液または懸濁液は次の成分を含む:滅菌希釈剤、例えば、注射用水、塩溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;酸化防止剤例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸;緩衝液例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン鎖塩および等張性の調節のための薬剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース。pHを酸または塩基、例えば、塩酸または水酸化ナトリウムで調節できる。非経口製剤を、アンプル、使い捨てのシリンジまたはガラス製もしくはプラスチック製の複数回投与バイアル中に封入することができる。
【0132】
注射用途に適した医薬組成物は、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液および滅菌注射液または分散液の即時調製のための滅菌粉末を含む。静脈内投与について、好適な担体としては、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、Parsippany、NJ)またはリン酸塩緩衝塩溶液(PBS)が挙げられる。全ての場合で、組成物は滅菌であり、注射針通過が容易である程度に流動性でなければならない。本発明のある医薬処方は、製造および貯蔵条件下で安定であり、微生物、例えば、細菌および真菌の汚染作用に対して保存されなければならない。一般に、関連する担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、ならびにこれらの好適な混合物を含有する溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散液の場合は所望の粒子サイズの維持、および界面活性剤の使用により維持できる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌薬および抗真菌薬、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどにより達成できる。多くの場合、等張剤、例えば、糖、ポリアルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを組成物中に含めるのが有利である。注射可能な組成物の吸収の延長は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅らせる薬剤を組成物中に含めることによりもたらすことができる。
【0133】
精製糖タンパク質を所望の量で、前述の1成分または成分の組み合わせを含む適切な溶媒中に組み入れ、続いて所望により濾過滅菌することにより、滅菌注射液を調製することができる。一般に、哺乳動物細胞系から発現された精製糖タンパク質を、塩基性分散媒および前述の必要な他の成分を含む滅菌ビヒクル中に組み入れることにより、分散液を調製する。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合、調製法は、たとえば、真空乾燥および凍結乾燥を包含し、これにより活性成分+事前の滅菌濾過溶液由来の追加の所望の成分の粉末を得る。
【0134】
経口組成物は、一般に、不活性希釈剤または可食担体を含む。経口治療投与の目的で、精製された糖タンパク質を賦形剤とともに配合し、錠剤、トローチ、またはカプセル、例えば、ゼラチンカプセルの形態で使用できる。経口組成物は、うがい薬として使用される液体担体を用いて調製することもできる。医薬的に適合性である結合剤、および/またはアジュバント材料は、組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチなどは次の成分のいずれか、または類似の性質を有する化合物を含むことができる:バインダー、例えば、微結晶セルロース、トラガカントガムまたはゼラチン;賦形剤、例えば、デンプンまたはラクトース、崩壊剤、例えば、アルギン酸、Primogel、またはコーンスターチ;潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはSterotes;流動促進剤、例えば、コロイド状二酸化ケイ素;甘味剤、例えば、スクロースまたはサッカリン;または矯味矯臭剤、例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジフレーバー。経口送達用処方は、有利には、胃腸管内の安定性を改善するため、および/または吸収を向上させるための薬剤を組み入れることができる。
【0135】
吸入投与するために、哺乳動物細胞系から発現された精製糖タンパク質および送達剤を含む本発明の組成物は、好適なプロペラント、例えば、二酸化炭素などの気体を含む加圧容器もしくはディスペンサー、またはネブライザーからのエアロゾルスプレーの形態で有利に送達される。本発明は、特に、鼻腔用スプレー、吸入器を用いた組成物の送達、または他の上および/または下気道への他の直接送達を想定する。インフルエンザウイルスに対するDNAワクチンの鼻内投与は、CD8T細胞応答を誘発することが証明され、このことは、この経路により送達され、本発明の送達剤が細胞取り込みを向上させる場合に、気道中の少なくとも一部の細胞はDNAを取り込むことができることを示す。ある実施形態によると、哺乳動物細胞系から発現された精製糖タンパク質および送達剤を含む組成物は、エアゾル投与のための大多孔質粒子として処方される。
【0136】
全身投与は、経粘膜または経皮手段によるものであってもよい。経粘膜または経皮投与に関して、通過されるバリヤに対して適切な浸透剤を処方において使用する。このような浸透剤は、一般に当該分野において公知であり、例えば、経粘膜投与に関しては、洗剤、胆汁塩、およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻腔用スプレーまたは坐剤の使用により達成できる。経皮投与に関して、精製された糖タンパク質および送達剤を、一般に当該分野において公知のように、軟膏、ゲル、またはクリームに処方する。
【0137】
組成物は、坐剤(例えば、通常の坐剤基剤、例えば、カカオ脂および他のグリセリドを含む)または直腸送達のための停留浣腸の形態で調製することもできる。
【0138】
ある実施形態において、本発明の医薬組成物は、任意の賦形剤例えば、局所麻酔薬、ペプチド、カチオン性脂質、リポソームまたは脂質粒子を包含する脂質、ポリカチオン、例えば、ポリリシン、分岐、三次元ポリカチオン、例えば、デンドリマー、炭水化物、カチオン性両親媒性物質、洗剤、ベンジルアンモニウム界面活性剤、または細胞へのポリヌクレオチド移動を促進する別の組成物を含有する。このような促進剤としては、局所麻酔薬、ブピバカインまたはテトラカイン(例えば、米国特許第5,593,972号;第5,817,637号;第5,380,876号;第5,981,505号および第6,383,512号ならびに国際特許公開番号WO98/17799(その全体として、そのそれぞれは本発明の一部として参照される)を参照のこと)が挙げられる。
【0139】
ある実施形態において、移植物およびマイクロカプセル化デリバリーシステムを含む制御放出処方などの組成物を、身体から迅速に除去されることに対して糖タンパク質を保護する担体を用いて、組成物を調製する。生物分解性、生体適合性ポリマー、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリアンヒドリド、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸を使用できる。このような処方を調製する方法は、当業者には明らかであろう。材料は、Alza Corporation and Nova Pharmaceuticals、Inc.からも商業的に入手できる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローム抗体で感染細胞を標的とするリポソームを包含する)も医薬的に許容される担体として使用できる。このような懸濁液は、例えば、米国特許第4,522,811号(その全体として本発明の一部として参照される)に記載されているような、当業者に公知の方法に従って調製できる。
【0140】
投与の容易性および用量の均一性のために、単位投与形態で経口または非経口組成物を処方することが有利である。単位投与形態とは、本明細書では、治療される対象の単位用量として適した、物理的に独立した単位を意味し、各単位は、必要とされる医薬担体と併せて望ましい治療効果をもたらすために計算された所定量の活性糖タンパク質を含有する。
【0141】
本発明に従って発現される糖タンパク質を様々な間隔で、必要とされる時間、例えば、1週あたり1回を、約1から10週間、2から8週間、約3から7週間、約4、5、または6週間などにわたって投与することができる。当業者は、ある因子、例えばこれらに限定されないが、疾患または障害の重篤度、前処置、対象の全体的な健康および/または年齢、および存在する他の疾患が、対象を有効に治療するために必要な用量および時期に影響を及ぼし得ることを理解するであろう。一般に、本発明において前述のような糖タンパク質を用いた対象の治療は、単回治療を包含し、あるいは多くの場合では、一連の治療を包含し得る。適切な用量は、糖タンパク質の効力に依存し、例えば、あらかじめ選択された所望の反応が達成されるまで、用量を増加させて投与することにより、特定の受容者に対して任意に調整することができる。特定の動物対象に特異的な投与レベルは、用いた特定の糖タンパク質の活性、対象の年齢、体重、全体的な健康、性別、および食事、投与時間、投与経路、排出速度、任意の薬剤の組み合わせ、および/または調節される発現または活性の程度をはじめとする様々な因子に依存することがさらに理解されるであろう。
【0142】
本発明は、ヒト以外の動物の治療のための本発明の組成物の使用を包含する。従って、投与量および方法を、獣医薬理学および医学の公知原則に従って選択できる。例えば、Adams、R.(編)、Veterinary Pharmacodynamics and Therapeutics、第8版、Iowa State University Press;ISBN:0813817439;2001に指針を見出すことができる。
【0143】
本発明の医薬組成物を、服薬指導書とともに、容器、パック、またはディスペンサー中に含めることができる。
【0144】
前記内容は単に例示であると理解されるべきであり、制限することを意図しない。本発明を実施するための別の方法および材料ならびにさらなる用途も当業者には明らかであり、添付の請求の範囲内に含まれることが意図される。
【実施例】
【0145】
(実施例1:培地処方)
【0146】
本発明は、1以上の本発明の濃度でマンガンを含有する培地中で増殖させた細胞の培養により生産される糖タンパク質は、細胞を従来の培地中で増殖させた場合よりも広範囲に及ぶグリコシル化パターンを含むという知見を包含する。細胞の増殖を支持できる任意の培地にマンガンを添加することができる。本発明の濃度のいずれかの範囲内でマンガンを添加できる培地例を表1に記載するが、本発明はこれらの培地の使用に限定されない。当業者には理解されるように、細胞を増殖させるために他の培地を使用できる、および/または表1に記載される培地例の組成にある変更を加えることができる。
【表1−1】


【表1−2】


【表1−3】


【表1−4】

【0147】
ある実施形態において、初期培養を始めた後に1回以上、1以上のフィード培地を細胞に添加する。フィード培地の例を表2に記載するが、本発明はこれらのフィード培地の使用に限定されない。当業者には理解されるように、細胞を増殖させるために他のフィード培地を使用できる、および/または表2に記載されるフィード培地例の組成にある変更を加えることができる。例えば、かかる成分の望ましい濃度を達成するために、かかるフィード培地の1以上の成分の濃度を増加または減少させることができる。ある実施形態において、各フィード培地成分の濃度を同じ因子により増加または減少させる。例えば、各フィード成分の濃度を、1x、2x、3x、4x、5x、6x、7x、8x、9x、10x、11x、12x、13x、14x、15x、16x、17x、18x、19x、20x、25x、30x、35x、40x、45x、50xまたはそれ以上増加または減少させることができる。
【表2−1】


【表2−2】


【表2−3】


【表2−4】


【表2−5】


(実施例2:rFIXペプチドマッピングの小規模調査)
【0148】
序論:組換えヒト血液凝固因子IX(rFIX)バルク製剤原料(BDS)の製造の間に、ペプチドマップ内のK4ペプチドの相対的ピーク面積比(RPAR)においてバッチ間で差が観察された。アクロモバクター・リチカス(Achromobacter lyticu)(「AchroK」、Wakoカタログ番号129−02541)からのリシルエンドヌクレアーゼで消化し、続いて逆相HPLCにより分割することにより、サンプルを調製した。K4ペプチドのRPARは、あるバッチ中の基準物質の対象サンプルの82%の下限を下回り、対照サンプルの78%の最小値に達した。物質の残余は、K4’ピークにおいてみられた。2つのピーク間の差は、もっぱらSer−61でのグリコシル化の程度による。K4種は、セリンと結合したSia−α2,3−Gal−β1,4−GlcNAc−β1,3−Fuc−α1−O四糖類を有し、一方、比例的に増加するK4’種はフコースだけを有する。
【0149】
フルスケールの細胞培養実験をペプチドマップ差が起こる期間で行った。FeSO、CuSOおよび塩化コリンをそれぞれ2X、7Xおよび2Xに添加した細胞培地中で細胞を増殖させた。実験バッチの小規模精製により生産されるBDSは、改善されたK4 RPARを示したが、同じ方法で精製された対照物質は示さなかった。BDSロットはペプチドマップ要件(対照サンプルの82%以上)を合格したが、基準物質においてみられるレベルに到達しなかった。このことは、TRPARマップにおいて観察される差は、細胞培養プロセスの結果であり、栄養不足に関連する可能性があることを示す。
【0150】
インプロセスサンプル分析:精密濾過(MF)および限外濾過/ダイアフィルトレーション(UF/DF)段階により細胞培地から細胞を除去し、その結果、分析について利用可能な個々のバイオリアクターからかなり純度の高い物質が得られた。
【0151】
細胞から分泌された後に、K4種が分解されて、K4’(フコースのみ)種に戻るかどうかを調べるために、UF/DF未透過物(retentate)からのインプロセスサンプルに関して改善された分析を行った。未透過物の大サンプルを2つの等しいアリコートに分割した。1つを直ちに小規模捕捉カラム上で精製し;これは負の対照としての働きをした。他の2つをそれぞれ37℃で一夜インキュベートした後、同じ方法で精製した。シアル酸がいくつかの他のグリコシダーゼの活性をブロックする場合には、K4種から末端シアル酸を除去するために一夜アリコートの1つにシアリダーゼを添加しておいた。小規模精製後、3つのサンプル全てを前述のようにK4種について分析した。図1は、シアリダーゼにより触媒された以外のサンプルでは分解はなかったことを示す。これは、ペプチドマップの問題が同化作用であることを非常に強く示唆し、このことは、Ser−61の「欠失している」糖残基は、新生鎖には決して添加されなかったことを意味する。非常に起こりにくいが、これらの糖残基の除去の原因であるグリコシド活性は、MFおよびUF/DF段階により不活性化または除去された可能性がある。この結果によっても、Qセファロース段階の上流からのサンプルを分析するための小規模精製の有用性がわかる。
【0152】
小規模モデリング:振盪フラスコ中で増殖させた小規模rFIX培養を、様々な培地および添加剤のK4種に対する効果を評価するためのモデルとして使用した。各場合で、振盪フラスコからの順化培地を直接(UF/DFなしで)、体積ベースのピーク収集を用いて小規模捕捉カラム上で精製し、サンプルにおけるK4分布を決定した。
【0153】
小規模モデルの有用性を、フルスケール実験と同じ添加剤を用いて証明した。マンガン添加も分析した。その理由は、文献調査により、ミバエ酵素の同様のグリコシル化活性にMn++が必要であることが判明したからである(Moloneyら、J.Biol.Chem.275(13):9604−9611、2000;Brucknerら、Nature 406:411−415、2000参照のこと)。振盪フラスコ中、4代継代にわたって比較を行い、結果を図2に示す。各サンプルについて2回の注入を示す。「P#」は、各条件の継代数を示す。P1〜2についてMnの濃度は1nMであり;P3〜4については10nMであった。対照と添加培地K4種の分布の違いは、生産用バイオリアクターにおいてみられる違いに匹敵する。1継代後に違いが現れ、複数継代はどんな傾向も示さない。
【0154】
添加剤が3成分(FeSO、CuSOおよび塩化コリン)を含んでいたので、次の実験は、これらの成分のうちのどれが改善されたK4種の分布の原因であるかに取り組んだ。3成分を3つのrFIX振盪フラスコ培養に添加した。相乗効果を明らかにするために、成分を対ごとに添加した。他の培養は正(全3成分)および負(添加剤なし)の対照を含んでいた。
【0155】
図3は、FeSOが、K4種の分布の改善を助ける添加剤であることを示す。各サンプルについて2回の注入を示す。添加は実験濃度であった。CuSOおよび塩化コリンの添加は、FeSOの非存在下では、分布を悪化させるようであった。理由はわからないが、K4’の脱シアル化形態は、試験サンプルと分析基準の両方で非常に多く現れ始めた。この傾向は、図3において明らかであり、その後の実験でも継続する。
【0156】
培地粉末の鉄成分の誘導結合プラズマプラズマ分光(ICP)分析により、適切な量の鉄が粉末中に存在することが証明された。このこよから、添加されたFeSOから得られる利点は、実際には原材料の微量汚染物質が原因であるという仮説が導かれた。もとの培地条件において使用されたFeSOロットをICP分析により分析し、いくつかの微量不純物は、検出限界を超えるレベルで現れた。既知阻害剤およびrFIX細胞培地の成分を除去することにより、リストは次の9の潜在的に有益な元素:Sb、Bi、B、Co、Ge、Mn、Mo、Ni、およびVに絞られた。
【0157】
次に、もとの培地添加剤を補足し得る他の可能な添加剤を調査するために、小規模モデリング実験を行った。追加のCuSO、ZnSOおよびMnSO(10nMまで)を試験した。亜鉛は他の二価カチオンの取り込みを競合的に阻害できるので、ZnSOを含めた。理由はわからないが、対照および実験条件は非常によく似たK4種の分布をもたらし、これは対象条件についてすでに観察されたものよりも似ていた(各サンプルについての2回注入を示す図4を参照のこと)。しかし、MnSOを実験条件に添加すると、K4種の分布が明らかに改善された。添加されたZnSOはK4種の分布を悪化させ得るようであるが、差の有意性は明らかではない。
【0158】
脱シアル化 K4’ピークのレベルの増加が図3で観察されたことをすでに記載した。この現象は、記載した小規模研究の過程で継続し、上昇傾向があった。この傾向によって、上述のような結果の解釈は変わらない。
【0159】
結論:インプロセスおよび小規模捕捉カラム溶出液の詳しい検査により、培地粉末における差はK4 RPARのシフトを引き起こし、これは次に複数のペプチドマップの差をもたらしたことの強力な証拠が得られた。ある成分を細胞培地に添加することにより、シフトが一部逆転されるので、培地粉末の差は、1以上の成分がさらに低いレベルにシフトすることである可能性が高かった。見出された最も有効性が高い添加剤はFeSOであり、ICP分析により、培地粉末が適切な量のFeを含んでいたことが示されたので、FeSO中の微量不純物はSer−61での適切なグリコシル化に必要であるという仮説を立てた。FeSOのICP分析に基づくと、微量不純物は培地粉末の特定の成分ではなく、むしろ培地中にすでに常に存在していた偶発的な栄養素であった。
(実施例3:培地添加剤のrFIXペプチドマップに対する影響の小規模研究)
【0160】
序論:実施例2により、Ser−61でのグリコシル化の程度におけるバッチ間の差は様々なrFIXバッチにおいて観察され、これはK4ペプチド集団分布におけるシフトとして観察されたことがわかる。全てのrFIXバッチは 完全長四糖類(Sia−α2,3−Gal−β1,4−GlcNAc−β1,3−Fuc−α1)が占めるこの部位での差長の分布を有するが、いくつかのバッチは、フコースのみの形態の非常に高いフラクションを有していた。
【0161】
実施例2はさらに、バイオリアクター中でK4分布においてシフトが起こり、これは培地粉末のロット変化と密接に関連することも証明した。実施例2の結果は、糖型分布における変化は同化作用であり、異化作用でないことを強く支持した。さらに、これらの実験は、添加されたFeSOは部分的にシフトを逆転させ得ることを証明したが、ICP分析により、培地粉末ロット間のFeSO濃度において優位な差は無かったことがわかった。従って、様々な培地粉末ロットに関して様々なレベルで存在するFeSOの別の未確認の微量成分がシフトの原因であったと仮説を立てた。
【0162】
添加剤の効果:実施例2において議論したように、ICP分析は、実験培養条件に使用したFeSOロット中の9の測定可能な量の微量元素を明らかにした。これらの微量元素を確立された培地処方中の微量元素に対して比較することにより、SbまたはBiを添加する必要がなくなった。培地処方およびFeSOのICP分析に基づいて、5化合物の混合物を作製して、rFIX培養に添加した(最終培地濃度を記載):1nM(NHMo24、10nM CoCl、5.5nM NHVO、1.5nM NiSO、および20nM HBO。MnSOを別に添加した。その理由は、以前の文献概説により、マンガンがグリコシルトランスフェラーゼ活性に重要であり得ることが示されたからである(BretonおよびImberty、Curr.Opinion in Structural Biol.9:563−571、1999;Brucknerら、Nature 406:411−415、2000を参照のこと)。同じ実験において、追加のFeSO(2Xまたは4X)を試験して、四糖類の相対量をさらに増加させ得るかどうかを決定した。それぞれの場合で、実施例2で記載された補足物に加えて、添加剤を使用した。
【0163】
この添加実験の結果を図5に示す。種の分布を決定し、報告された値は、4つのK4ピークの、これらの合計に対する面積の比である。この図は、基準物質、対照(添加剤なし)および添加された(実施例2においてと同様)培養も示す。各サンプルについて2回の注入を示す。柱状グラフの各組において、一番左の柱状グラフはSer−61に四糖類を有する分子のフラクションに対応し、一番右の柱状グラフはフコースのみを有するフラクションである。正の対照培養および負の対照培養(それぞれ、添加されたものと、添加されていないもの)間に観察される差は、事前にみられたものよりも小さかった。とにかく、図5は、微量元素の混合物がK4種の分布に対して影響を及ぼさず、一方、FeSOおよびMnSOの添加は、どちらもK4種の分布を改善したことを明らかに示す。補足物に添加された場合、15nMのMnSOはK4種の分布に対して追加の12μMのFeSOとほぼ同じ効果を有していた。
【0164】
マンガンに対する強力な反応により、rFIX細胞培地中のマンガンの最適濃度を見出すために設計された実験が得られる。図6は、この実験により、マンガンが添加された培養の全てが、添加された培養または対照培養のいずれかよりも低いフコースのみのK4を有していたので、図5に示す結果と一致した結果が得られたことがわかる。実際、40nM以上のマンガンを含む培養は、分析基準物質と同様に、ほぼ同じ量のフコースのみのK4を有していた。しかし、100または500nMで、40nMのマンガンよりも多くの三糖類が存在するようである。従って、40nMは、Ser−61でのさらに広範囲のFIXグリコシル化に関して、予想外に有利であることが確認された。
【0165】
小規模モデルの有用性:これらの小規模実験、および実施例2に示されるものの1つの異常な特性は、実験ごとに三糖類または脱シアル化種のレベルが様々であることである。この種は分析基準と同様に変化するので、これはシングルポット消化法の結果であると考えられる。所定の実験の全てのサンプルを同時に、同じ原材料を使って消化したので、このばらつきは、この実施例または実施例2に示される分析に影響を及ぼさないと考えられる。
【0166】
結論:これらの実験は、40nMのMnSOをrFIX細胞培地に添加すると、K4種の分布が改善されることを証明した。
(実施例4:抗ABeta培地サンプルのN結合型オリゴ糖分析)
【0167】
序論:ヒト化抗ABetaペプチドIgG1モノクローナル抗体を発現するCHO細胞(抗ABeta細胞)のN結合型オリゴ糖フィンガープリントを4つの培地条件下で調査した。サンプル同定および関連する情報を表3に記載する。
【表3】

【0168】
手順:抗ABeta培養1を増殖させ、フィード培地を定期的に供給した。抗ABeta培養2において、微量元素Eをはじめに添加した。表4は微量元素Eの組成を記載する。抗ABeta培養3を、初期グルタミンレベルが4mMである以外は培養2と同じ条件で増殖させた。抗ABeta培養4を、微量Eを添加せず、フィード培地にグルタメートを2g/Lまで添加する以外は、培養3と同じ条件で増殖させた。
【0169】
各サンプルの糖型分布を、PNGase F消化と、それに続く高pHアニオン交換クロマトグラフィーとパルス電気化学検出(HPAEC−PED)分析により決定した。簡単に説明すると、サンプルを、Amicon Ultra 30,000MWCOタンパク質濃縮器を用いて、pH7.3に中和された50mMアンモニウムホルミエート中に緩衝液交換した。回収後、各サンプルを5μLのPNGase F(グリセロールを含まない)で消化し、37℃で一夜インキュベートした。サンプルを次に高速真空遠心分離により乾燥し、精製水中で復元した。サンプルを次に、HPAEC−PED分析のためにオートサンプラーバイアルに移した。HPAEC−PEDシステムは、Dionex CarboPac PA100ガードおよび分析カラム(2x250mm)、ならびにED−40検出器を備えている。酢酸ナトリウムの線形勾配を使用し、これは2つの溶離液:100mMのNaOHからなる溶離剤Aおよび100mMのNaOH/500mM酢酸ナトリウムからなる溶離剤Bを含む。
【表4】

【0170】
データ分析:抗ABeta抗体と関係する3種の複合N結合型二分岐グリカンは、0(G0)、1(G1)または2(G2)のガラクトース残基をそれらの外側N結合型二分岐アーム上に有していた。すべてのサンプルは、G0、G1、およびG2糖形態の代表的な3つのピークの存在を示した。図7は、各サンプルのG0、G1、およびG2HPAEC−PEDピークに対する合計ピーク面積の割合の比較のグラフを示す。追加の小さなピークの存在が、すべての提示されたサンプルの特性において観察された。観察されたピークは低レベルのモノおよびジシアリル化糖形態を表わす。
【0171】
考察:これらの実験は、さまざまな実験条件下でフィード培地を添加された抗ABeta培養のG0:G1:G2ピークの相対的分布を試験した。微量元素Eが添加された培養は、G0レベルにおいて減少を示し、微量元素Eが欠失した培養条件に対してG1およびG2レベルが対応して増加した(図7)。低グルタミンを含む培養条件は、同様の効果を有し、この効果は付加的であった。微量元素Eが添加された低グルタミン(4mM)培養は、N結合型糖形態の分布において劇的なシフトを示し、G0とG1の比がほぼ等しく、G2は全ピーク面積の約10%であった(図7)。微量元素Eが添加された培養は、156nMの濃度のマンガンを含んでいた。しかし、培養は高レベルの他の金属も含んでいたことにも留意すべきである。したがって、マンガンに加えて、他の培養条件も、観察される改善されたグリコシル化パターンに寄与することが可能である。
【0172】
結論:抗ABetaサンプルで観察されるグリコシル化分布における差は、培養条件のそれぞれの変化による可能性が高い。本発明者らのデータは、低いグルタミン(4mM)の存在および/または100mM MnSOを含有する微量元素Eの添加の結果、抗ABetaにおける様々なN結合型糖形態分布(%)において劇的な差が起こることを強く示唆する。これらの効果は独立し、付加的であるようである。
(実施例5:抗ベータマンガン研究サンプルのN結合型オリゴ糖分析)
【0173】
序文:実施例4は、抗ABetaサンプルのグリコシル化分布における改善は、微量元素Eを培養条件に添加し、グルタミンレベルを低く維持することにより達成できることを示した。ここで、本発明者らは、培養条件におけるマンガン単独の添加が、グリコシル化分布において同様の改善をもたらし得るかどうかを試験した。
【0174】
手順:抗ABeta培養を、40mMマンガンを含むかまたは含まないかのいずれかである培地中で増殖させた。培養をフィード培地の合計体積の40%で供給した。サンプルを、実施例4に記載された方法に従って回収し、分析した。
【0175】
データ分析:分析されたサンプルを、ピークの存在および各ピークについての合計ピーク面積の割合に関して比較した。図8は、各サンプルのG0、G1、およびG2HPAEC−PEDピークについての合計ピーク面積の割合のグラフによる比較を示す。
【0176】
考察:抗ABeta抗体と結合する3種の複合N結合型二分岐グリカンは、G0、G1、およびG2構造であり、これらはそれぞれ、0、1または2個のガラクトース残基をその外側N結合型二分岐アーム上に含む。40mMマンガンを含まないか、または含むかのいずれかである培地中で増殖させた細胞から回収されたサンプルは、G0、G1、およびG2糖形態の代表的な3つのピーク全ての存在を示す。G0ピークは、対照サンプルにおける合計ピーク面積の68%から、添加されたマンガンを含む培地から回収されたサンプルにおける53%まで減少した(図8を参照のこと)。合計ピーク面積のG1およびG2割合の増加は、マンガンを含有する培地から回収されたサンプルにおいても見られた。合計ピーク面積のG1割合は、対照サンプルにおいて26%、マンガン添加サンプルにおいて39%であった。合計ピーク面積のG2割合は、対照サンプルにおいて6%、マンガン添加サンプルにおいて9%であった(図8)。
【0177】
結論:これらのデータは、マンガン単独を培地に添加すると、これらのサンプルにおけるG0:G1:G2の分布におけるシフト(%)により示されるように、さらに広範囲のグリコシル化パターンが得られることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖タンパク質を細胞培養において生産する方法であって:
約10nMから600nMの間のマンガンを含む細胞培地中、糖タンパク質の発現を可能にするために十分な条件および時間で、目的のタンパク質をコード化する遺伝子を含有する哺乳動物細胞を培養することを含み、発現された糖タンパク質のグリコシル化パターンは、マンガンが欠失している以外は同じ培地中、それ以外は同じ条件下で観察されるグリコシル化パターンよりも広範囲に及ぶ方法。
【請求項2】
約10nMから600nMの間のマンガンを含む細胞培地中で目的の糖タンパク質をコード化する遺伝子を含有する哺乳動物細胞を培養する段階;
培養が第一温度範囲で維持される場合、約20%〜80%の範囲内の生存細胞密度に細胞が繁殖することを可能にするために十分な時間の第一期間の間、第一温度で培養を維持する段階;
培養を第二温度範囲にシフトさせる段階(ここで、第二温度範囲の少なくとも1つの温度は、第一温度範囲の最低温度よりも低い);
培養を第二期間中、糖タンパク質の発現を可能にするために十分な条件および時間維持する段階(ここで、発現された糖タンパク質のグリコシル化パターンは、マンガンが欠失している以外は同じ培地中でそれ以外は同じ条件下で観察されるグリコシル化パターンよりも広範囲に及ぶ)
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第一温度範囲が、約30から42℃の温度範囲を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記第一温度範囲が、約37℃の温度を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記第二温度範囲が、約25から41℃の温度範囲を含む、請求項2から4のいずれか1項記載の方法
【請求項6】
前記第二温度範囲が、約31℃の温度を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記第一シフト段階後に、培養を第三温度または温度範囲にシフトさせることを含む第二シフト段階をさらに含み、前記第三温度または温度範囲の少なくとも1つの温度が前記第二温度範囲の最低温度よりも低い、請求項2から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記第三温度範囲が、約25〜40℃である温度範囲を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記細胞培地が、約20から200nMの間のマンガンを含む、請求項1から8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記細胞培地が約40nMマンガンを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記細胞培地が約8mM以下の初期濃度でグルタミンを含む、請求項1から10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記細胞培地の初期グルタミン濃度が4mM以下である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
細胞培養の体積が少なくとも約500Lである、請求項1から12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記細胞培養に、初期細胞培養が始まった後に、フィード培地が提供される、請求項1から13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記細胞培養に、補助成分がさらに提供される、請求項1から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記補助成分が、ホルモンおよび/または他の成長因子、無機イオン、緩衝液、ビタミン、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド、微量元素、アミノ酸、脂質、グルコースまたは他のエネルギー源、およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記細胞培養に約2グラム/リットルのグルコースが添加される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記細胞培地が合成培地である、請求項1から17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
目的の糖タンパク質が凝固因子IXを含む、請求項1から18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記凝固因子IXが組み換えヒト凝固因子IXである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
目的の糖タンパク質が抗ABeta抗体を含む、請求項1から18のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
前記抗ABeta抗体がモノクローナル抗体である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記抗ABeta抗体がヒト化抗ABetaペプチドIgG1モノクローナル抗体である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
約10から600nMの間のマンガンを含む細胞培地。
【請求項25】
約20から200nMの間のマンガンを含む、請求項24記載の細胞培地。
【請求項26】
約40nMマンガンを含む、請求項25記載の細胞培地。
【請求項27】
前記細胞培地が約8mM以下の初期濃度でグルタミンを含む、請求項24から26のいずれか1項記載の細胞培地。
【請求項28】
前記初期グルタミン濃度が約4mM以下である、請求項27記載の細胞培地。
【請求項29】
前記培地が合成培地である、請求項24から28のいずれか1項記載の細胞培地。
【請求項30】
請求項1から23のいずれか1項記載の方法により得られる糖タンパク質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−543550(P2009−543550A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519501(P2009−519501)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/015767
【国際公開番号】WO2008/008360
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】