説明

糖ペプチド結合ポリマー

【課題】インフルエンザウイルス捕捉用途に用いることのできる新規な糖ペプチド結合ポリマーを提供すること。
【解決手段】Neu5Acα2−6LacNAc構造を含有する11糖ジシアリルオリゴペプチドのアミノ基と、カルボキシル基含有ポリマーのカルボキシル基とが共有結合してなり、
前記カルボキシル基含有ポリマーが、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、ペクチン酸、コンドロイチン、カルボキシメチルキチン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、並びに下記式(I)及び(II)を構造単位として含むポリエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、糖ペプチド結合ポリマー。
式(I):


式(II):

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖ペプチド結合ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生命分子として、核酸(DNA)及びタンパク質に加え、糖鎖が注目されている。
膜タンパク質や細胞外などに存在する糖鎖は、細胞間の認識及び相互作用に関わる働きを有すると考えられている。そして、細胞間の認識や相互作用における変化が、癌、慢性疾患、感染症、及び老化などを引き起こす原因であるとも考えられている。
例えば、癌化した細胞においては、糖鎖に構造変化が起こっていることが知られている。また、インフルエンザウイルスなどの病原性ウイルスなどは、ある特定の糖鎖を認識し結合することにより、細胞に侵入し感染することが知られている。
【0003】
中でも、エンベロープ上に存在するヘマグルチニンが宿主細胞膜上の複合型糖鎖に存在するα2→6結合型又はα2→3結合型シアリルラクトサミンを認識することにより、インフルエンザウイルスが、宿主細胞に感染することが知られている。
非特許文献1及び2には、これらの受容体認識糖鎖構造に対応する糖鎖を用いたインフルエンザウイルス捕捉型感染阻害剤などが開示されている。
また、特許文献1には、NeuAcα2−6Galβ1−4GlcNAcの多価誘導体が開示され、該誘導体を非適応化ヒトインフルエンザウイルスのウイルス性接着阻害剤として使用することが開示されている。
さらに、特許文献2には、アグリコン部分にホルミル基を有するグリコシドのアルデヒド基がキトサンの少なくとも一つ以上のアミノ基に還元縮合したことを特徴とするアスパラギン結合型糖タンパク質糖鎖含有キトサン誘導体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−514186号公報
【特許文献2】特開2003−301002号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】梅村 舞子、伊藤 正恵、牧村 裕、芦田 久、山本 憲二、日本農芸化学会2008年会講演要旨集、p.179, 講演番号 3A05a09
【非特許文献2】Makoto Ogata, Takeomi Murata, Kouki Murakami, Takashi Suzuki, Kazuya I.P.J. Hidari, Yasuo Suzuki, Taichi Usui, Bioorg. Med. Chem., 2007, vol.15, p.1383-1393
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、いずれの複合糖質も工程数を要する糖鎖合成や酵素による糖転移合成手法といった複雑な合成反応系を用い多糖や合成ポリマー担体との複合体を調製している。
本発明が解決しようとする課題は、インフルエンザウイルス捕捉用途に用いることのできる新規な糖ペプチド結合ポリマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、Neu5Acα2−6LacNAc構造を含有する11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドのアミノ基と、特定のカルボキシル基含有ポリマーのカルボキシル基と、が共有結合してなる、新規な糖ペプチド結合ポリマーとすることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下のとおりである。
[1]
Neu5Acα2−6LacNAc構造を含有する11糖ジシアリルオリゴペプチドのアミノ基と、カルボキシル基含有ポリマーのカルボキシル基とが共有結合してなり、
前記カルボキシル基含有ポリマーが、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、ペクチン酸、コンドロイチン、カルボキシメチルキチン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、並びに下記式(I)及び(II)を構造単位として含むポリエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、糖ペプチド結合ポリマー。
式(I):
【化1】


式(II):
【化2】


[2]
前記カルボキシル基含有ポリマーが、前記ポリエーテルである、[1]に記載の糖ペプチド結合ポリマー。
[3]
前記11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドが、鳥類卵脱脂卵黄から精製された糖ペプチドである、[1]又は[2]に記載の糖ペプチド結合ポリマー。
[4]
前記11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドを、0.001〜10質量%の割合で含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の糖ペプチド結合ポリマー。
[5]
架橋マトリクス構造を有する、[1]〜[4]のいずれかに記載の糖ペプチド結合ポリマー。
[6]
前記カルボキシル基含有ポリマーの重量平均分子量が、1,000〜400,000である、[1]〜[5]のいずれかに記載の糖ペプチド結合ポリマー。
[7]
前記カルボキシル基含有ポリマーが、前記式(I)を0.1〜50モル%含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の糖ペプチド結合ポリマー。
[8]
前記11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドが下記式(III)で表わされる糖ペプチドである、[1]〜[7]のいずれかに記載の糖ペプチド結合ポリマー。
式(III):
【化3】


[9]
[1]〜[8]のいずれかに記載の糖ペプチド結合ポリマーを含むインフルエンザウイルス捕捉剤。
[10]
[1]〜[8]のいずれかに記載の糖ペプチド結合ポリマーを用いてインフルエンザウイルスを捕捉する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、インフルエンザウイルス捕捉用途に用いることのできる新規な糖ペプチド結合ポリマーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】製造例1において製造された糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図2】製造例1において製造された糖ペプチドのH−NMRチャートを示す。
【図3】製造例2において製造された糖ペプチドのHPLCチャートを示す。
【図4】実施例1において製造された糖ペプチド結合ポリマーのGPCチャートを示す。
【図5】実施例1で用いたポリエーテルのGPCチャートを示す。
【図6】実施例2において製造された糖ペプチド結合ポリマーのGPCチャートを示す。
【図7】実施例2で用いたポリアクリル酸のGPCチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本実施の形態の糖ペプチド結合ポリマーは、Neu5Acα2−6LacNAc構造を含有する11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドのアミノ基と、カルボキシル基含有ポリマーのカルボキシル基と、が共有結合してなる糖ペプチド結合ポリマーである。
【0013】
(11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチド)
本実施の形態において用いられるNeu5Acα2−6LacNAc構造を含有する11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドとは、非還元末端に、Neu5Acα2−6LacNAc糖鎖構造を有する糖ペプチド(以下、単に「糖ペプチド」と記載する場合がある。)である。
Neu5Acα2−6LacNAc構造とは、Neu5Acがα2→6結合により、LacNAcに結合していることを意味し、具体的には、N−アセチルノイラミン酸の2位とN−アセチルラクトサミンの6位とがα−グリコシド結合により結合していることを意味する。
LacNAcは、ガラクトースがN−アセチルグルコサミンとβ1→4結合によりグリコシド結合した、Galβ1−4GlcNAcを意味し、LacNAcの6位水酸基は、LacNAcのガラクトースの6位水酸基を意味する。
【0014】
糖ペプチドは、11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドであり、鳥類卵脱脂卵黄から精製される糖ペプチドであることが好ましく、11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドとしては、下記式(III)で表される糖ペプチドであることが好ましい。
【0015】
式(III):
【化4】

【0016】
上記式(III)で表わされる糖ペプチドにおいては、糖鎖部分が、Lys−Val−Ala−Asn−Lys−ThrのAsn残基に結合している。
本実施の形態において、Lys、Val、Ala、Asn、及びThrは、アミノ酸の3文字表記であり、それぞれ、リジン、バリン、アラニン、アスパラギン、及びスレオニンを意味する。
アミノ酸としては、L−アミノ酸であっても、D−アミノ酸であってもよく、L−アミノ酸とD−アミノ酸の任意の比率の混合物であってもよいが、L−アミノ酸であることが好ましい。また、各アミノ酸は、各アミノ酸と等価な誘導体であってもよい。
【0017】
(カルボキシル基含有ポリマー)
本実施の形態に用いられるカルボキシル基含有ポリマーは、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、ペクチン酸、コンドロイチン、カルボキシメチルキチン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、並びに下記式(I)及び(II)を構造単位として含むポリエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0018】
式(I):
【化5】

【0019】
式(II):
【化6】

【0020】
カルボキシル基含有ポリマーとしては、上記カルボキシル基を含有するポリマーであれば特に限定されるものではないが、生体に取り込まれても安全であること又は生分解性であることが好ましく、天然由来のカルボキシル基含有ポリマーであることも好ましい。
【0021】
アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、ペクチン酸、及びコンドロイチンは、もともとカルボキシル基をポリマー構造中に有しているので、そのまま天然に由来するものを用いてもよく、架橋構造を有するように誘導体化したものであってもよい。
カルボキシル基含有ポリマーとして、ヘパリンを用いる場合、血液抗凝固活性を軽減させる目的で、必要に応じて、例えばDanishefskyなどの方法に従い、脱N−硫酸化工程を経て、抗凝固活性を失活させた後にカルボキシル基含有ポリマーとして用いてもよい(Methods in Carbohydrate Chemistry, 2007, vol 5, p.407-409を参照)。
【0022】
カルボキシメチルキチンはキチンに対しアルカリ条件下でモノクロル酢酸を処理することによりカルボキシメチル基を導入することができる (Biol. Pharm. Bull., 2001, vol 24, p.535-543を参照) 。
【0023】
ポリアクリル酸やポリメタクリル酸は、合成ポリマーであるが安全性の面で好適に用いることができる。ポリアスパラギン酸やポリグルタミン酸は生分解性の点で好適に用いることができる。
【0024】
カルボキシル基含有ポリマーは、1種で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
カルボキシル基含有ポリマーが、下記式(I)及び(II)を構造単位として含むポリエーテル(以下、単に「ポリエーテル」と記載する場合がある。)である場合には、
【0026】
式(I):
【化7】

【0027】
式(II):
【化8】

【0028】
ポリエーテルの構造単位のモル比は、(I)及び(II)の構造単位の全量を100モル%として、(I)のモル比は、0.1〜50モル%であることが好ましい。この場合、(II)のモル比は、50〜99.9モル%であることが好ましい。
【0029】
ポリエーテルは、特開2009−149728号公報に記載の方法により製造することができる。
【0030】
カルボキシル基含有ポリマーの重量平均分子量は、有機溶媒−水混合系において、該ポリマーの種類に関わらずその溶解性においては、1,000〜400,000であることが好ましい。
本実施の形態において、重量平均分子量は、下記実施例に記載の方法により測定することができる。
【0031】
(糖ペプチド結合ポリマーの製造方法)
本実施の形態の糖ペプチド結合ポリマーは、糖ペプチドと、カルボキシル基含有ポリマーとを縮合させることにより製造することができる。
糖ペプチド及びカルボキシル基含有ポリマーを縮合させる方法としては、アミド結合を形成させる公知の方法を用いることができるが、例えば、水中又は含水有機溶媒液中で、カルボキシル基含有ポリマーを、ペプチド合成用縮合剤を用いてカルボキシル基を活性化させた後、糖ペプチドのアミノ基との間で縮合反応を行うことにより得ることができる。
ペプチド合成用縮合剤としては、特に限定されないが、HBTU(1-[Bis(dimethylamino)methylene]-1H-benzotriazolium-3-oxide hexafluoro phosphate)、EEDQ(N-Ethoxycarbonyl-2-ethoxy-1,2-dihydroquinoline)WSC(Water-soluble carbodiimid)、及びEDC(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide)などが挙げられる。
【0032】
含水有機溶媒としては、5〜75質量%の、DMF、DMSO、ジオキサン、及びアセトンなどの有機溶媒の水溶液であることが好ましい。
縮合反応を行う温度としては、特に限定されるものではないが、0〜25℃で行うことができる。
また、反応時間としては、特に限定されるものではないが、0.5〜24時間で行うことができる。
【0033】
インフルエンザウイルスを捕捉するために、糖ペプチド結合ポリマー中にNeu5Acα2−6LacNAc構造を適切な量含むことが好ましく、糖ペプチドの含有量としては、糖ペプチド結合ポリマーに対して、0.0001〜50質量%であることが好ましく、0.001〜20質量%であることがより好ましく、0.001〜10質量%であることがさらに好ましい。
糖ペプチド結合ポリマー中の糖ペプチドの含有量は、下記実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
糖ペプチド結合ポリマーは、糖ペプチドのアミノ基と、カルボキシル基含有ポリマーのカルボキシル基とが、アミド結合により縮合しているポリマーである。糖ペプチド結合ポリマーは、カルボキシル基含有ポリマーを介して架橋マトリクス構造により、糖ペプチド結合ポリマーマトリクスとして得ることもできる。
本実施の形態において、糖ペプチド結合ポリマーマトリクスとは、カルボキシル基含有ポリマーと糖ペプチド結合ポリマーとの比較において、GPCによる溶出曲線のプロファイルが高分子量側に変化する場合、あるいは重量平均分子量が高分子量側に変化する場合の糖ペプチド結合ポリマーをいう。
【0035】
糖ペプチド結合ポリマーの製造方法は、糖ペプチドと、カルボキシル基含有ポリマーと、を縮合させる工程を含む方法であれば、特に限定されないが、鳥類卵脱脂卵黄から糖ペプチドを精製する工程をさらに含むことが好ましい。
糖ペプチド結合ポリマーの製造方法としては、鳥類卵脱脂卵黄を水又は塩溶液で抽出して抽出液を得る工程、前記抽出液にエタノールを添加してエタノール沈殿する工程、更にODS樹脂(オクタデシル基結合シリカゲル樹脂)に吸着させ水で洗うことで脱塩させる工程、及び糖ペプチドとカルボキシル基含有ポリマーとを縮合させる工程を含む製造方法であってもよい。
【0036】
本実施の形態の製造方法において、糖ペプチドを精製する工程において、鳥類卵脱脂卵黄を水又は塩溶液で抽出して抽出液を得る工程、前記抽出液にエタノールを添加してエタノール沈殿する工程に加え、エタノール沈殿して得られた沈殿物を脱塩する工程をさらに含むことが好ましく、その工程にODS樹脂を用いることが好ましく、ODS樹脂に吸着させ水で洗浄することで脱塩ができることから好ましく、さらに希有機溶媒水溶液により溶出する工程で純度向上が可能であることから更に好ましい。
本実施の形態の製造方法において、鳥類卵脱脂卵黄より工業的規模で選択的に11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドを精製することができ、安価且つ簡便に11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドを製造することができる。
【0037】
本実施の形態において、11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドとは、非還元末端に、Neu5Acα2−6LacNAc糖鎖構造を有する糖ペプチドであり、11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドとしては、下記式(III)で表される糖ペプチドが挙げられる。
【0038】
式(III):
【化9】

【0039】
鳥類卵脱脂卵黄を水又は塩溶液で抽出して抽出液を得る工程(以下、「抽出工程」と記載する場合がある。)とは、鳥類卵脱脂卵黄を、水又は塩溶液に懸濁し、糖ペプチドの混合物などを抽出する工程である。
鳥類卵脱脂卵黄としては、市販の脱脂卵黄を用いてもよく、鳥類卵から調製した鳥類卵脱脂卵黄を用いてもよい。
鳥類卵としては、特に限定されるものではないが、例えば、ニワトリ、ウズラ、アヒル、カモ、ダチョウ、及びハトなどの卵が挙げられ、卵黄内に含まれる糖ペプチドの量が多いので、ニワトリの卵である鶏卵などが好ましい。
鳥類卵脱脂卵黄は、鳥類卵の全卵又は卵黄を、有機溶媒により脱脂処理することにより得ることができる。
鳥類卵としては、生の卵であってもよく、乾燥して得られる卵の乾燥粉末であってもよく、鶏卵卵黄及び鶏卵卵黄粉末などを用いることが好ましい。
【0040】
脱脂処理する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、鳥類卵に有機溶媒を添加して、沈殿物と有機溶媒層を分離する方法などが挙げられる。
脱脂処理に用いられる有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、及び2−プロパノールなどが挙げられ、これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種の混合溶媒として用いてもよい。
鳥類卵に添加する有機溶媒の量としては、特に限定されるものではないが、鳥類卵に対して、質量で、1〜5倍の有機溶媒を用いることにより脱脂処理を行うことができる。
また、脱脂処理を行う温度としては、特に限定されるものではないが、0〜25℃で行うことができる。
【0041】
鳥類卵に有機溶媒を添加した後、有機溶媒と鳥類卵とをよく撹拌することにより、有機溶媒により鳥類卵に含まれる脂分を除去することができる。
有機溶媒と沈殿物とを分離する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、2,000〜10,000rpmで5〜30分遠心分離してもよい。
有機溶媒を用いた脱脂処理は、2〜6回行うことが好ましい。
【0042】
鳥類卵脱脂卵黄に水又は塩溶液を添加して、鳥類卵脱脂卵黄から糖ペプチドなどを抽出する方法としては、特に限定されるものではない。
抽出工程において用いられる塩溶液としては、塩化ナトリウム水溶液及びリン酸緩衝液などが挙げられ、これらの塩溶液は単独で用いてもよく、2種の混合溶媒として用いてもよい。
塩溶液の濃度としては、0.0001〜2.0%(w/v)であってもよく、鳥類卵脱脂卵黄に添加する水又は塩溶液の量としては、特に限定されるものではないが、鳥類卵脱脂卵黄に対して、質量で、0.1〜50倍の水又は塩溶液を用いることにより糖ペプチドの抽出を行うことができる。
また、糖ペプチドの抽出を行う温度としては、特に限定されるものではないが、4〜25℃で行うことができる。
【0043】
鳥類卵脱脂卵黄に水又は塩溶液を添加した後、鳥類卵脱脂卵黄と水又は塩溶液とをよく撹拌することにより、水又は塩溶液により鳥類卵脱脂卵黄に含まれる糖ペプチドを抽出することができる。
水又は塩溶液に抽出した糖ペプチドを含有する抽出液と鳥類卵脱脂卵黄とを分離する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、2,000〜10,000rpmで5〜30分遠心分離してもよい。
水又は塩溶液を用いた抽出処理は、2〜6回行うことが好ましい。
【0044】
抽出液にエタノールを添加してエタノール沈殿する工程(以下、「エタノール沈殿工程」と記載する場合がある。)とは、糖ペプチドを含有する抽出液にエタノールを添加することにより、糖ペプチドを沈殿物として得るエタノール沈殿工程である。
エタノール沈殿に用いられるエタノールの量としては、特に限定されるものではないが、抽出液に対して、質量で、2〜20倍のエタノールを用いることにより糖ペプチドの抽出を行うことができる。
また、糖ペプチドの抽出を行う温度としては、特に限定されるものではないが、4〜25℃で行うことができる。
【0045】
抽出処理により得られた抽出液は、ろ過することで、清澄な抽出液とすることもでき、また、減圧濃縮などにより濃縮した抽出液として用いてもよい。
【0046】
抽出液と糖ペプチドとを分離する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、2,000〜10,000rpmで5〜30分遠心分離してもよい。
得られた糖ペプチドを、水又は塩溶液に溶解し、再度エタノール沈殿を行うことにより、より精製された糖ペプチドを得ることができる。
【0047】
本実施の形態においては、エタノール沈殿により得られた糖ペプチドをさらに精製する工程を含むことが好ましい。
糖ペプチドをさらに精製する方法としては、公知の糖ペプチドの精製方法を用いることができるが、例えば、カラムクロマトグラフィーなどが挙げられる。
カラムクロマトグラフィーに用いられる担体としては、例えば、オクタデシル基結合シリカゲル(ODS樹脂)、イオン交換樹脂などが挙げられる。
【0048】
ODS樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーによる精製方法においては、エタノール沈殿により得られた糖ペプチド中に含まれる塩を脱塩する工程を含んでいてもよく、有機溶媒水溶液により糖ペプチドを溶出する工程を含んでいてもよい。
糖ペプチドを添加吸着させたODS樹脂に対し、質量で、1〜50倍の水を用いてODS樹脂を洗浄することにより糖ペプチドの脱塩を行うことができる。
【0049】
脱塩を行った後に、有機溶媒水溶液により溶出することにより糖ペプチドを得ることができる。
糖ペプチドを添加吸着させたODS樹脂に対し、質量で、1〜50倍の有機溶媒水溶液を用いてODS樹脂を溶出することにより糖ペプチドを得ることができる。
【0050】
有機溶媒水溶液としては、例えば、アセトニトリル、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される少なくとも1種との水溶液などが挙げられ、有機溶媒水溶液の濃度は、好ましくは0.1〜20%(v/v)であり、より好ましくは10%(v/v)以下、さらに好ましくは5%(v/v)以下である。
有機溶媒水溶液により糖ペプチドを溶出する工程においては、水から徐々に濃度を上げていき、有機溶媒水溶液である溶出液にグラジエントをかけて溶出を行ってもよい。
【0051】
溶出された糖ペプチドは、希有機溶媒水溶液を凍結乾燥など減圧濃縮することにより糖ペプチドとして得ることができる。
本実施の形態において、得られた糖ペプチドは、再度エタノール沈殿を行ってさらに精製してもよい。
【0052】
(糖ペプチド結合ポリマー)
以上の操作により、糖ペプチドのアミノ基とカルボキシル基含有ポリマーのカルボキシル基とが共有結合した糖ペプチド結合ポリマーを得ることができる。
カルボキシル基含有ポリマーに対して糖ペプチドを多数導入することで、糖ペプチド単独でのウイルス捕捉効果に比べてクラスター効果により格段のウイルス捕捉性能の向上が期待されることになる。
糖ペプチド結合ポリマーとしては、例えば、以下の糖ペプチド結合ポリマーを挙げることができる。
糖ペプチド結合ポリマーとしては、例えば、下記式(IV)で表される重量平均分子量400,000以下のカルボキシメチルキチンに結合した糖ペプチドが挙げられる。
【0053】
式(IV):
【化10】


Rは、糖ペプチドのアミノ基以外の残基を意味する。
【0054】
また、糖ペプチド結合ポリマーとしては、下記式(V)及び(VI)を構造単位として含む糖ペプチド結合ポリマーが挙げられる。
【0055】
式(V):
【化11】


Rは、糖ペプチドのアミノ基以外の残基を意味する。
【0056】
式(VI):
【化12】

【0057】
糖ペプチド結合ポリマー中の式(V)のモル比は0.1〜50モル%であることが好ましい。式(V)として、糖ペプチドが結合している構造を例示しているが、上記式(V)のモル比としては、糖ペプチドが結合していない式(I)である構造単位を含めたモル比である。
【0058】
上記式(IV)及び(V)中の、Rは、式(III)のアミノ基以外の残基を意味することが好ましい。
【0059】
糖ペプチド結合ポリマーとしては、糖ペプチド結合ポリマーマトリクスであってもよく、糖ペプチドとして、式(III)で表される11糖シアリルオリゴ糖ペプチドである場合を例示すると、糖ペプチド中の3個のアミノ基とカルボキシル基含有ポリマーのカルボキシル基との結合により構成される、以下のような複合糖鎖マトリクスが挙げられる。
【0060】
【化13】

【0061】
上記式中、(Polymer)は、糖ペプチドにアミド結合しているカルボキシル基含有ポリマーを意味する。
【0062】
糖ペプチド結合ポリマーマトリクスとしては、例えば、糖ペプチドを架橋点としカルボキシル基含有ポリマーと共有結合してなる、以下のような複合糖鎖マトリクスであってもよい。
【0063】
【化14】

【0064】
上記式中、糖ペプチドとしては、式(III)で表される糖ペプチドを、カルボキシル基含有ポリマーとしては、ポリエーテルを例示して説明すると、(SGP)は、以下のように糖ペプチドのアミノ基以外の残基を意味し、(Polymer)は、以下のように、糖ペプチドにアミド結合しているカルボキシル基含有ポリマーのカルボキシル基以外の残基を意味する。
【0065】
【化15】

【0066】
【化16】

【0067】
上記式中、p〜tは、p+r+t=0.1〜50モル%、q+s=50〜99.9モル%である。
【0068】
ところで、糖ペプチド結合ポリマーを被覆、添加又は固定化した複合材料は医療用具として好適に用いられる。従って、糖ペプチド結合ポリマーを基材へ被覆、添加、又は固定化した場合は、多数の糖ペプチドを長期間基材に保持することが可能である。多数の糖ペプチドを基材に保持させることにより、Neu5Acα2−6LacNAc構造によるインフルエンザウイルス捕捉効果を持続することが可能である。
医療用具として、例えば、糖ペプチド結合ポリマーを被覆、添加、又は固定化した不織布及びフィルターなどは、インフルエンザウイルス吸着性に優れることから、ウイルス感染予防マスク又はウイルス感染予防材料などの吸着素材・材料として用いることができ、優れたインフルエンザ感染予防効果を発揮することができる。
本実施の形態において、「医療用具」とは、人又は動物の、疾病の診断、治療、又は予防に使用されること、及び人又は動物の、身体の構造又は機能に影響を及ぼすことを目的とされている器具機械を意味する。
【0069】
本実施の形態において、糖ペプチド結合ポリマーを医療用具に、被覆、添加、又は固定化する方法としては、以下の方法が挙げられる。本実施の形態の糖ペプチド結合ポリマーの希釈溶液を用いて、浸漬法、スプレー法、フローコーター法などの公知の方法により基材に溶液を被覆し、乾燥することにより行われる。被覆した際の被膜の膜厚は限定されないが、好ましくは1mm以下である。溶媒の例としては、水、エタノール、アセトン、イソプロパノール、THFなどの有機溶媒及びそれらの含水溶媒などが挙げられる。また、糖ペプチド結合ポリマーを基材に対して、0.001〜10質量%の範囲で添加する。このようにして得られる糖ペプチド結合ポリマー含有基材は、例えば、フィルム、中空糸を含む糸、編織物、不織布、その他三次元成形体などに成形される。
【0070】
糖ペプチド結合ポリマーには、固定化されたNeu5Acα2−6LacNAc構造が存在する。インフルエンザウイルスのヘマグルチニンが該構造を認識して、糖ペプチド結合ポリマー上にインフルエンザウイルスが捕捉されることで、糖ペプチド結合ポリマーを用いることにより、ヒトへのインフルエンザウイルスの感染を軽減することができる。
本実施の形態の糖ペプチド結合ポリマーは、インフルエンザウイルス捕捉用糖ペプチド結合ポリマーとして、好適に用いることができる。また、本実施の形態において、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンがNeu5Acα2−6LacNAc構造を認識して、糖ペプチド結合ポリマー上にインフルエンザウイルスが捕捉されるので、糖ペプチド結合ポリマーを用いてインフルエンザウイルスを捕捉することができる。本実施の形態のインフルエンザウイルスを捕捉する方法により、ヒトなどの哺乳動物や鳥類へのインフルエンザウイルスの感染を軽減することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施の形態に用いられる測定方法は以下のとおりである。
【0072】
(HPLCの測定)
カラム(Cadenza CD−C18 (Imtakt、150×2mm)を備えたGLサイエンス製HPLC GL−7400システムを用いて、以下の測定条件によりHPLC分析を行った。
測定条件:
グラジエント;2%→17%(15min)、CHCN in 0.1%TFA solution
流速;0.3mL/min
UV;214nm
【0073】
H−NMR測定)
O 0.4mLに試料 2mgを溶解して、JEOL製JNM−600(600MHz)でH−NMRを測定した。
【0074】
(ポリエチレンオキサイド及びプルラン換算重量平均分子量の測定)
アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、ペクチン酸、コンドロイチン及びカルボキシメチルキチン等の天然多糖および多糖誘導体の重量平均分子量を測定する場合は、天然多糖であるプルランを分子量マーカーとして用いた。
ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリエーテル等の重量平均分子量を測定する場合は、直鎖の合成高分子であるポリエチレンオキサイドを分子量マーカーとして用いた。
以下の測定条件により、GPCを行った。
島津製HPLC LC−10Aシステム
カラム:G4000PWXL(東ソー社製)
移動相:20%アセトニトリル in 50mM塩化リチウム
流速:0.8mL/min
検出:UV214nm及び屈折率
カラム温度:40℃
【0075】
重量平均分子量を算出するための検量線は、スタンダードポリエチレンオキサイド(TOSOH製、重量平均分子量が2.4x10,5.00x10,10.7x10,14.0x10)、及びプルランスタンダード(Shodex製、重量平均分子量が12,200,23,700,48,000,100,000、186,000)を使用した。
【0076】
(糖ペプチドの含有量の測定)
糖ペプチド結合ポリマー中の糖ペプチドの含有量は以下のようにして測定した。
糖ペプチド結合ポリマー(5mg)を0.8%トリフルオロ酢酸(50μL)中、80℃で40分間加熱することにより、部分酸分解しシアル酸を遊離させた。遊離したシアル酸を標準シアル酸(雪印乳業(株)、N−Acetyl neuraminic acid)による検量線を用いHPLCで定量した。
HPLCは逆相カラム(Inertsil ODS−3、4.6×150mm、GLサイエンス社製)を用い10.2mMリン酸水溶液を溶出液として、UV220nmで検出した。
【0077】
[製造例1]
鶏卵卵黄10個にエタノール350mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を得た。得られた沈殿物にエタノール300mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を除去する操作を3回繰り返して、沈殿物として脱脂卵黄150gを得た。
得られた上記脱脂卵黄150gに水200mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水100mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した上清をグラスフィルターにて濾過後、100mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液をエタノール700mLに注加し、生じた沈殿物を、8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで回収した。得られた沈殿物を水に溶解し、再度エタノールに注加した。この操作を3回繰り返した。ここで生じた沈殿物を回収することで粗精製糖ペプチド1.58gを得た。
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)25gを用い、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド1.5gを水5mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂を水100mLで洗浄後、2%アセトニトリル溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで117mgの糖ペプチドを得た。
得られた糖ペプチドのHPLC及びH−NMRによる測定結果をそれぞれ図1及び2に示す。HPLCによる純度では95%であった。得られた糖ペプチドは標品(太陽化学製)との比較により上記式(III)で表される構造であることが分かった。
【0078】
[製造例2]
鶏卵卵黄粉末(キューピータマゴ製)120gに水200mL及びエタノール300mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を得た。得られた沈殿物にエタノール400mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を除去する操作を2度繰り返して、沈殿物として脱脂卵黄150gを得た。
得られた上記脱脂卵黄150gに水200mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水200mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した上清をグラスフィルターにて濾過後、100mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液をエタノール800mLに注加し、生じた沈殿物を遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで回収した。ここで生じた沈殿物を水に溶解し、再度エタノールに注加し、遠心分離することで沈殿物を回収した。この操作を3回繰り返した。得られた沈殿物を水に溶解し凍結乾燥することで粗精製糖ペプチド2.0gを得た。
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)25gを用い、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド2.0gを水5mLに溶解し水で置換した樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂を水130mLで洗浄後、2%アセトニトリル溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで62.3mgの糖ペプチドを得た。再度、3mLの水に溶解し20mLのエタノールに注加することにより生じた沈殿物を回収し20mLの水に溶解し凍結乾燥することで、56mgの糖ペプチドを得た。
得られた糖ペプチドのHPLCの測定結果を図3に示す。HPLCによる純度では92%であった。得られた糖ペプチドは標品(太陽化学製)との比較により上記式(III)で表される構造であることが分かった。
【0079】
[製造例3]
鶏卵卵黄粉末(キューピータマゴ製)30gにアセトン100mLを添加し、よく撹拌後、デカンテーションにより上清を除去した。再度アセトン50mLを添加し、よく撹拌後、デカンテーションにより上清を除去する操作を2度繰り返した。
アセトン洗浄後、エタノール50mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで沈殿物を得た。得られた沈殿物にエタノール50mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を除去することで、沈殿物として脱脂卵黄40gを得た。
得られた上記脱脂卵黄40gに水200mLを添加し、よく撹拌した。8,000rpmで20分遠心分離し、デカンテーションにより上清を得た。デカンテーションにより得られた沈殿物に水100mLを添加し、よく撹拌後、遠心分離し、上清を回収する操作を3回繰り返した。回収した上清をグラスフィルターにて濾過後、50mLまで減圧濃縮した。その後、得られた濃縮溶液をエタノール300mLに注加し、生じた沈殿物を遠心分離し、デカンテーションにより上清を除去することで回収した。ここで生じた沈殿物を水に溶解し、再度エタノールに注加し、遠心分離して粗精製糖ペプチド297mgを得た。
ODS樹脂としてシリカゲル樹脂Wakogel(100C18)25gを用い、該樹脂をメタノールで洗浄後、水で置換した。粗精製糖ペプチド297mgを水2mLに溶解し水で置換後の樹脂に添加した。粗精製糖ペプチドを添加した樹脂を水100mLで洗浄後、2%アセトニトリル溶液で糖ペプチドを溶出した。溶出液を凍結乾燥することで10mgの糖ペプチドを得た。
得られた糖ペプチド(データ未開示)は標品(太陽化学製)との比較により上記式(III)で表される構造であることが分かった。
【0080】
[実施例1]
カルボキシル基含有ポリマーとして、特開2009−149728号公報に記載の方法により製造した、下記式(I)及び(II)を構造単位として含むカルボキシル基を有するポリエーテルを用いた。
【0081】
式(I):
【化17】

【0082】
式(II):
【化18】

【0083】
式(I)で表される構造単位を2.1モル%含み、標準ポリエチレンオキサイド換算重量平均分子量が51,000であった。
上記ポリエーテル(101mg)及びEEDQ(50mg)を50%ジメチルホルムアミド(DMF)水溶液6mLに添加し、次いで、HO(1mL)に製造例1で得た糖ペプチド(10.3mg)を溶解した水溶液を添加した。得られた溶液を室温で2時間撹拌した。この反応液を透析膜(分子量カットオフ12,000〜14,000、米国スペクトラム社製)を用い、精製水に対して4℃で3日間透析した。
得られた内液を凍結乾燥して、糖ペプチド結合ポリマー(103mg)を得た。
糖ペプチド結合ポリマーのGPCの測定結果を図4に示す。図5には、糖ペプチドと結合する前のポリエーテルのGPCの測定結果を示す。
糖ペプチド結合ポリマー中の糖ペプチドの含有量は、2.8質量%であった。
【0084】
[実施例2]
カルボキシル基含有ポリマーとしてポリアクリル酸(Aldrich, Poly(acrylic acid), GPCによるポリエチレンオキサイド換算重量平均分子量5,100)を用いた。
ポリアクリル酸(53.8mg)及びEEDQ(40.0mg)を50%DMF水溶液4mLに溶解し、次いで、水(0.5mL)に製造例1で得た糖ペプチド(4.9mg)を溶解した水溶液を添加した。得られた溶液を室温で2時間撹拌した。この反応液を透析膜(分子量カットオフ3,500、米国スペクトラム社製)を用い、精製水に対して4℃で2日間透析した。
得られた内液を凍結乾燥し、糖ペプチド結合ポリマー(40.4mg)を得た。
糖ペプチド結合ポリマーのGPCの測定結果を図6に示す。図7には、糖ペプチドと結合する前のポリアクリル酸のGPCの測定結果を示す。
糖ペプチド結合ポリマー中の糖ペプチドの含有量は4.5質量%であった。
【0085】
[実施例3]
高分子量カルボキシル基含有ポリマーとして、ポリアクリル酸(Aldrich, Poly(acrylic acid), GPCによるポリエチレンオキサイド換算重量平均分子量1,000,000)を用いた。ポリアクリル酸(50.2mg)及びEEDQ(42.0mg)を50%DMF水溶液4mLに溶解し、水(0.5mL)に製造例2で得た糖ペプチド(4.7mg)を溶解した水溶液を添加した。この反応液を室温で2時間撹拌した。この反応液を透析膜(分子量カットオフ12,000〜14,000、米国スペクトラム社製)を用い、精製水に対して4℃で2日間透析した。
得られた内液を凍結乾燥し、糖ペプチド結合ポリマー(43.4mg)を得た。
糖ペプチド結合ポリマー中の糖ペプチドの含有量は4.2質量%であった。
【0086】
[実施例4]
カルボキシル基含有ポリマーとして、ポリアクリル酸(Aldrich, Poly(acrylic acid)、GPCによるポリエチレンオキサイド換算重量平均分子量5,100)とポリメタクリル酸(Aldrich, Poly(methacrylic acid)、GPCによるポリエチレンオキサイド換算重量平均分子量9,500)を用いた。
ポリアクリル酸(25.5mg)、ポリメタクリル酸(25.0mg)及びEEDQ(50.5mg)を50%DMF水溶液4mLに溶解し、水(0.5mL)に製造例2で得た糖ペプチド(5.1mg)を溶解した水溶液を添加した。この反応液を室温で2時間撹拌した。この反応液を透析膜(分子量カットオフ3,500、米国スペクトラム社製)を用い、精製水に対して4℃で2日間透析した。
得られた内液を凍結乾燥し、糖ペプチド結合ポリマー(38.7mg)を得た。
糖ペプチド結合ポリマー中の糖ペプチドの含有量は3.9質量%であった。
【0087】
[実施例5]
カルボキシル基含有ポリマーとして、天然多糖由来のカルボキシメチルキチン(Biol. Pharm. Bull., 2001, vol 24, p.535-543を参照)、GPCによるプルラン換算重量平均分子量50,000、糖残基あたりのカルボキシメチル基導入率0.6を用いた。
カルボキシメチルキチン(50mg)及びEEDQ(50mg)を50%DMF水溶液6mLに溶解し、水(0.5mL)に製造例2で得た糖ペプチド(5mg)を溶解した水溶液を添加した。この反応液を室温で2時間撹拌した。この反応液を透析膜(分子量カットオフ12,000〜14,000、米国スペクトラム社製)を用い、精製水に対して4℃で2日間透析した。
得られた内液を凍結乾燥し、糖ペプチド結合ポリマー(35mg)を得た。
糖ペプチド結合ポリマー中の糖ペプチドの含有量は2.2質量%であった。
【0088】
[実施例6]
5%牛胎児血清(FCS)を含むEMEM培地で単層培養したMDCK細胞をEMEM培地(0.2%BSA)で洗浄した後、インフルエンザウイルス、実施例1で得られた糖ペプチド結合ポリマーを処理したインフルエンザウイルス、陽性対照としてシアル酸含有糖蛋白質であるFetuinを処理したインフルエンザウイルスを含むEMEM培地中34.5℃で5時間培養した。
インフルエンザウイルスは、ヒトインフルエンザAウイルス (H1N1)株を使用し、接種量は100×TCID50(50% Tissue−culture infectious dose)とした。糖ペプチド結合ポリマー中に含有される糖ペプチドの添加量は、培地中の濃度が0.01, 0.1, 1, 10, 100, 1000, 10,000μg/mLになるようにした。ウイルス接種後のMDCK細胞を2回無血清EMEM培地で洗浄した後、5%FCSを含むEMEM培地で34.5℃、20時間再度単層培養した。
MDCK細胞は、インフルエンザウイルス感染により、細胞傷害を受け、乳酸脱水素酵素(LDH)が漏出する。従って、培地中のLDHを定量することにより、間接的にウイルス感染阻害効果を知ることができる。そこで、プロメガ社の細胞毒性試験キット(CytoTox 96 Assay)を用い、培地中のLDHを比色法により定量した(492nmにおける吸光度)。ヒトインフルエンザAウイルス (H1N1)株に対して、糖ペプチド結合ポリマーは、対照として用いたFetuinに比べ50%感染阻害を引き起こす有効濃度がおよそ1/100であった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の糖ペプチド結合ポリマーは、糖ペプチドの非還元末端にNeu5Acα2−6LacNAc構造を有するので、インフルエンザウイルス捕捉用途に用いることにより、ヒトへのインフルエンザウイルスの感染を軽減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Neu5Acα2−6LacNAc構造を含有する11糖ジシアリルオリゴペプチドのアミノ基と、カルボキシル基含有ポリマーのカルボキシル基とが共有結合してなり、
前記カルボキシル基含有ポリマーが、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、ペクチン酸、コンドロイチン、カルボキシメチルキチン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、並びに下記式(I)及び(II)を構造単位として含むポリエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、糖ペプチド結合ポリマー。
式(I):
【化1】


式(II):
【化2】

【請求項2】
前記カルボキシル基含有ポリマーが、前記ポリエーテルである、請求項1に記載の糖ペプチド結合ポリマー。
【請求項3】
前記11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドが、鳥類卵脱脂卵黄から精製された糖ペプチドである、請求項1又は2に記載の糖ペプチド結合ポリマー。
【請求項4】
前記11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドを、0.001〜10質量%の割合で含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の糖ペプチド結合ポリマー。
【請求項5】
架橋マトリクス構造を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の糖ペプチド結合ポリマー。
【請求項6】
前記カルボキシル基含有ポリマーの重量平均分子量が、1,000〜400,000である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の糖ペプチド結合ポリマー。
【請求項7】
前記カルボキシル基含有ポリマーが、前記式(I)を0.1〜50モル%含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の糖ペプチド結合ポリマー。
【請求項8】
前記11糖ジシアリルオリゴ糖ペプチドが下記式(III)で表わされる糖ペプチドである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の糖ペプチド結合ポリマー。
式(III):
【化3】

【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の糖ペプチド結合ポリマーを含むインフルエンザウイルス捕捉剤。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の糖ペプチド結合ポリマーを用いてインフルエンザウイルスを捕捉する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−52139(P2011−52139A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203341(P2009−203341)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(000173924)公益財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】