説明

糖化システム、糖化液の製造方法、及び発酵システム

【課題】セルロースを含む廃棄物系バイオマスからセルロースを効率良く回収することによってセルロースの収率を向上させることができるため、糖を収率良く得ることができる糖化液の製造方法を提供する。
【解決手段】セルロース及び夾雑物を含む廃棄物系バイオマス1と、少なくともセルラーゼを含む酵素(a)11と、水13とが投入される離解槽及び離解槽内に設置された離解機を備える離解処理装置3を用い、水13の存在下で、廃棄物系バイオマス1を離解機及び酵素(a)11によって解繊してセルロース及び夾雑物を含む解繊パルプを得る離解処理工程26と、得られた解繊パルプから夾雑物15,16,17,18を分離し、精製パルプを得る精製工程30と、得られた精製パルプ中のセルロースを糖化して糖化液9を得る糖化反応工程33と、を有する糖化液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖化システム、糖化液の製造方法、及び発酵システムに関し、更に詳しくは、セルロースを含む廃棄物系バイオマスからセルロースを効率良く回収することによってセルロースの収率を向上させることができるため、糖の収率を向上させることが可能な糖化システム、糖化液の製造方法、及び発酵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車燃料は、石油などの化石資源に依存していたが、化石資源は有限資源であり、代替資源の開発が望まれていた。近年、化石資源に代わる自動車燃料として、例えば、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、木材チップ等の植物資源を原料とするバイオマスから製造されたエタノールを利用する技術が注目を集めている。このようなエタノールの利用は、地球温暖化防止策の一環として今後更に進められることが予想される。
【0003】
しかし、サトウキビやトウモロコシは、食用資源であり、これらの食用資源を工業用資源とすることは、サトウキビやトウモロコシの価格を引き上げ、また、その他の食料の価格も引き上げるという問題などが生じることが懸念されている。そこで、廃棄物系バイオマス、例えば、段ボールや雑誌などの古紙を有効利用することが注目されている。
【0004】
廃棄物系バイオマスからエタノールを得るための方法としては、例えば、以下のような方法が知られている。まず、段ボールや雑誌などの古紙から、粘着剤、及びホチキスなどの金属類などのセルロース以外の成分(以下、「夾雑物」と記す場合がある)の除去を行い、次に、酵素または酸によってセルロースを糖化して微生物などにより発酵を行ってエタノールを得る方法である。糖化に際し、酵素を用いる方法としては、例えば、固液分離により長繊維分を取り除き、溶解性の糖と短繊維のみをさらに加水分解してグルコースを得る方法(特許文献1)や、固液分離により溶解性の糖と短繊維のみとして、さらに微生物を追加して、同時糖化発酵させる方法(特許文献2)などが報告されている。また、酸を用いる方法としては、例えば、木材チップを水蒸気で加熱処理した後、希硫酸によって糖化し、発酵する方法(特許文献3)などが報告されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−176997号公報
【特許文献2】特開2002−186938号公報
【特許文献3】特開2007−202518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された方法は、廃棄物系バイオマスから夾雑物を除去する際に、夾雑物とともに多くのセルロースも廃棄していた。そのため、廃棄物系バイオマスから得られる糖の収率が十分ではないという問題があった。具体的には、廃棄物系バイオマスとしてアルミ貼合紙を用いる場合、セルロースとアルミニウムとの接着部分が多いため、セルロースとアルミニウムとを十分に分離することが難しく、アルミニウムの廃棄に伴って多くのセルロースが廃棄されていた。
【0007】
なお、特許文献1及び2に記載された方法には、夾雑物として廃棄されたものはセルロースを多く含むため、この夾雑物を再利用することが開示されている。しかし、廃棄された夾雑物を再利用するということは、セルロース以外の成分も糖化槽に再投入されることになるため、セルロース以外の成分が装置内に滞留して、装置の処理能力が低下するという問題があった。また、セルロース以外の成分によって糖化反応が阻害されるという問題などがあった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、セルロースを含む廃棄物系バイオマスからセルロースを効率良く回収することによってセルロースの収率を向上させることができるため、糖収率を向上させることが可能な糖化システム、糖化液の製造方法、及び発酵システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示す糖化システム、糖化液の製造方法、及び発酵システムが提供される。
【0010】
[1]セルロース及び夾雑物を含む廃棄物系バイオマスと、少なくともセルラーゼを含む酵素(a)と、水とが投入される離解槽及び前記離解槽内に設置された離解機を備え、水の存在下で、前記廃棄物系バイオマスを前記離解機及び前記酵素(a)によって解繊してセルロース及び夾雑物を含む解繊パルプを得る離解処理装置と、得られた前記解繊パルプから前記夾雑物を分離して、精製パルプを得る精製装置と、得られた前記精製パルプ中のセルロースを糖化して糖化液を得る糖化反応装置と、を備える糖化システム。
【0011】
[2]前記廃棄物系バイオマスが、パルプスラッジ、オフィス古紙、段ボール、雑誌、磁気用紙、感熱紙、アルミ貼合紙、フィルムコーティング紙、及び、衛生用品廃棄物よりなる群から選択される少なくとも一種である前記[1]に記載の糖化システム。
【0012】
[3]前記精製装置が、比重の違いによって分離する装置、大きさの違いによって分離する装置、または、これらの装置を組み合わせた装置である前記[1]または[2]に記載の糖化システム。
【0013】
[4]前記離解処理装置によって前記廃棄物系バイオマスを前記解繊パルプにするとともに、前記離解処理装置で得られた前記解繊パルプを前記精製装置に供給することを連続的に行う前記[1]〜[3]のいずれかに記載の糖化システム。
【0014】
[5]前記離解処理装置によって前記廃棄物系バイオマスを前記解繊パルプにするとともに、前記離解処理装置で得られた前記解繊パルプを前記精製装置に供給することを回分的に行う前記[1]〜[3]のいずれかに記載の糖化システム。
【0015】
[6]前記糖化反応装置が前記セルロースを、少なくともセルラーゼを含む酵素(b)によって糖化するものであり、前記解繊パルプ中の前記酵素(a)のFPU活性が、前記糖化液中の全酵素のFPU活性よりも低い前記[1]〜[5]のいずれかに記載の糖化システム。
【0016】
[7]前記精製装置で分離された前記夾雑物を洗浄する洗浄装置と、前記夾雑物を洗浄した洗浄液を回収し、前記離解処理装置の前記離解槽に投入する再利用装置とを更に備える前記[1]〜[6]のいずれかに記載の糖化システム。
【0017】
[8]セルロース及び夾雑物を含む廃棄物系バイオマスと、少なくともセルラーゼを含む酵素(a)と、水とが投入される離解槽及び前記離解槽内に設置された離解機を備える離解処理装置を用い、水の存在下で、前記廃棄物系バイオマスを前記離解機及び前記酵素(a)によって解繊してセルロース及び夾雑物を含む解繊パルプを得る離解処理工程と、得られた前記解繊パルプから前記夾雑物を分離し、精製パルプを得る精製工程と、得られた前記精製パルプ中のセルロースを糖化して糖化液を得る糖化反応工程と、を有する糖化液の製造方法。
【0018】
[9]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の糖化システムによって得られる糖化液を微生物によって発酵する発酵装置を備える発酵システム。
【0019】
[10]前記糖化反応装置に微生物を添加し、前記糖化反応装置を前記発酵装置として用いる前記[9]に記載の発酵システム。
【発明の効果】
【0020】
本発明の糖化システムは、セルロースを含む廃棄物系バイオマスからセルロースを効率良く回収することによってセルロースの収率を向上させることができるため、糖収率を向上させることが可能であるという効果を奏するものである。
【0021】
本発明の糖化液の製造方法は、セルロースを含む廃棄物系バイオマスからセルロースを効率良く回収することによってセルロースの収率を向上させることができるため、糖を収率良く得ることができるという効果を奏するものである。
【0022】
本発明の発酵システムは、本発明の糖化システムを備えているため、糖を収率良く得ることができるとともに、発酵物を収率良く得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0024】
[1]糖化システム:
本発明の糖化システムの一実施形態は、セルロース及び夾雑物を含む廃棄物系バイオマスと、少なくともセルラーゼを含む酵素(a)と、水とが投入される離解槽及びこの離解槽内に設置された離解機を備え、水の存在下で、廃棄物系バイオマスを離解機及び酵素(a)によって解繊してセルロース及び夾雑物を含む解繊パルプを得る離解処理装置と、得られた解繊パルプから夾雑物を分離し、精製パルプを得る精製装置と、得られた精製パルプ中のセルロースを糖化して糖化液を得る糖化反応装置と、を備えるものである。
【0025】
このような糖化システムは、セルロースを含む廃棄物系バイオマスからセルロースを効率良く回収することによってセルロースの収率を向上させることができるため、糖の収率を向上させることができる。なお、糖化液は、例えば、後述する微生物により発酵を行ってエタノールなどの発酵物とすることもできる。例えば、エタノールは、石油などの化石資源に代わる新しい資源として有効に利用することができる。
【0026】
本実施形態の糖化システムは、離解処理装置によって廃棄物系バイオマスを解繊パルプにするとともに、離解処理装置で得られた解繊パルプを精製装置に供給することを連続的に行うもの、いわゆる連続式で行うものであってもよく、また、離解処理装置によって廃棄物系バイオマスを解繊パルプにするとともに、解繊パルプを精製装置に供給することを回分的に行うもの、いわゆるバッチ式で行うものであってもよい。なお、離解処理装置による処理時間は、酵素(a)のFPU活性によっても異なるが、バッチ式の場合は、15〜240分であることが好ましく、20〜60分であることが更に好ましい。連続式の場合は、平均滞留時間が15〜240分であることが好ましく、20〜60分であることが更に好ましい。
【0027】
[1−1]離解処理装置:
本実施形態の糖化システムに備えられた離解処理装置は、セルロース及び夾雑物を含む廃棄物系バイオマスと、少なくともセルラーゼを含む酵素(a)と、水とが投入される離解槽及び離解槽内に設置された離解機を備え、水の存在下で、廃棄物系バイオマスを離解機及び酵素(a)によって解繊してセルロース及び夾雑物を含む解繊パルプを得るものである。このような離解処理装置によって、例えば、アルミニウム箔貼合紙(以下、アルミ貼合紙と略す)のようにセルロースとアルミニウムとの接着部分が多いものであっても、セルロースとアルミニウム、即ち夾雑物とを十分に分離することができ、糖の収率を向上させることができる。
【0028】
セルロース及び夾雑物を含む廃棄物系バイオマスと、酵素(a)と、水とが投入される離解槽及びこの離解槽内に設置された離解機を備え、水の存在下で、廃棄物系バイオマスを離解機及び酵素(a)によって解繊してセルロース及び夾雑物を含む解繊パルプを得るものであれば特に制限はないが、例えば、高濃度パルパー、低濃度パルパー、ドラムパルパーなどを挙げることができる。
【0029】
本発明が対象とする廃棄物系バイオマスは、セルロースパルプを主成分とする紙または製紙スラッジ、及び夾雑物を含む廃棄物である。具体的には、パルプスラッジ、オフィス古紙、段ボール、雑誌、磁気用紙、感熱紙、アルミ貼合紙、フィルムコーティング紙、衛生用品廃棄物などを挙げることができる。本実施形態の糖化システムに用いる廃棄物系バイオマスは、上述した、パルプスラッジ、オフィス古紙、段ボール、雑誌、磁気用紙、感熱紙、アルミ貼合紙、フィルムコーティング紙、及び、衛生用品廃棄物よりなる群から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。これらのパルプスラッジなどの廃棄物を原料として用いることにより、廃棄物を工業資源として有効利用することができる。
【0030】
なお、廃棄物系バイオマスに含まれる夾雑物は、例えば、雑誌などに使用されている粘着剤、紙をコーティングしているフィルムなどの樹脂や、ホチキスの針、酸化鉄などの磁性体、アルミ貼合紙のアルミニウムなどの金属等であり、廃棄物系バイオマスから高い収率で糖を得るためには、廃棄物系バイオマスから上記夾雑物を除去する必要がある。
【0031】
廃棄物系バイオマスの使用割合は、水と廃棄物系バイオマスとの合計量に対して、3〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることが更に好ましい。上記使用割合が3質量%未満であると、セルロース濃度が低くなりすぎて、糖化液や発酵液の濃度が低くなり、目的の生産物(糖やエタノール)の回収及び濃縮が効率的に行われず、高コストになるおそれがある。一方、30質量%超であると、酵素(a)が廃棄物系バイオマス全体に行渡らず、夾雑物の分離が不十分になるおそれがある。
【0032】
酵素(a)は、少なくともセルラーゼを含み、廃棄物系バイオマスを解繊してセルロース及び夾雑物を含む解繊パルプにすることができるものである限り特に制限はなく、夾雑物をセルロースから引き剥がすことに適したものや、夾雑物の存在によって酵素活性が左右されにくいものを適宜選択することができる。酵素(a)は、処理条件に応じて、それぞれのpH及び温度に適した条件で作用する酵素を選択する。例えば、反応溶液がpH4〜5の酸性領域では、トリコデルマ(Trichoderma)属、アクレモニウム属(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ファネロケエテ(Phanerochaete)属、トラメテス属(Trametes)などに由来するセルラーゼ製剤を使用することができる。pH6〜7の中性領域では、フーミコラ(Humicola)属などに由来するセルラーゼ製剤を使用することができる。pH8以上のアルカリ領域では、バチルス(Bacillus)属などに由来するセルラーゼ製剤を使用することができる。このようなセルラーゼ製剤の市販品としては、全て商品名で、例えば、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラーゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)等を挙げることができる。
【0033】
また、セルラーゼ製剤には、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、β−グルコシダーゼなどのセルロース分解酵素の他、キシラン分解酵素、マンナン分解酵素、ペクチン分解酵素、アラビナン分解酵素などの一連のヘミセルロース分解酵素のうちから選ばれる少なくとも一つの酵素を含むことが好ましい。例えば、広葉樹に由来する材料を多く含む廃棄物系バイオマスを使用する場合には、キシラナーゼ、キシロシダーゼなどのキシラン分解酵素を含むセルラーゼ製剤が好ましく、針葉樹に由来する材料を多く含む廃棄物系バイオマスを使用する場合には、マンナナーゼなどのマンナン分解酵素を含むセルラーゼ製剤が好ましい。更に、廃棄物系バイオマスには、澱粉などが含まれていることもあることから、アミラーゼなどが含まれても良い。
【0034】
酵素(a)の使用割合は、廃棄物系バイオマス1gに対して、後述するFPUの活性測定法により測定したときの値が、10〜500FPUになるように設定することが好ましく、30〜300FPUになるように設定することが更に好ましい。上記使用割合が10FPU未満であると、セルロース分と夾雑物の分離が不十分となり、セルロースの回収率が低下するおそれがある。一方、500FPU超であると、夾雑物に付着して、夾雑物とともに廃棄される酵素が増えてしまい、生産コストが高まるおそれがある。
【0035】
ここで、本明細書において「FPU活性」は、以下のFPUの活性測定法によって測定した値である。まず、濾紙(ワットマン社製の「No.1」)50mgを基質とし、これに酵素液0.5mlとクエン酸緩衝液(pH4.8、0.05M)1.0mlとを加え、50℃で1時間酵素反応を行う。その後、ジニトロサリチル酸試薬3.0mlを加え、100℃で5分間加熱し発色させる。冷却後、これにイオン交換水または蒸留水20mlを加え、540nmの波長で比色定量する。1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1ユニット(FPU)とした。
【0036】
廃棄物系バイオマスに含まれるセルロースは、酵素(a)によって全部分解されないことが好ましい。即ち、酵素(a)は、廃棄物系バイオマスを解繊するためのものとして用いられることが好ましく、例えば、pH4〜7、30〜55℃、15〜240分の条件で廃棄物系バイオマス中のセルロースを処理することが好ましい。
【0037】
pHは、上述したように、4〜7であることが好ましく、4.5〜5.5が更に好ましい。上記pHが4未満であると、酵素(a)が酸変性し、失活するおそれがある。一方、7超であると、酵素活性が低く、セルロース分と夾雑物の分離が不十分となり、セルロースの回収率が低下するおそれがある。温度は、上述したように、30〜55℃であることが好ましく、35〜50℃であることが更に好ましい。上記温度が30℃未満であると、酵素活性が低い状態であるため、セルロースと夾雑物の分離が不十分となり、セルロースの回収率が低下するおそれがある。一方、55℃超であると、酵素(a)が温度変性し、失活するおそれがある。また、反応時間は、上述したように、15〜240分であることが好ましく、20〜60分であることが更に好ましい。上記反応時間が15分未満であると、セルロースと夾雑物の分離が不十分となり、セルロースの回収率が低下するおそれがある。一方、240分超であると、セルロースの分解が進みすぎて、短繊維化または糖化してしまうため、セルロースを長い繊維の状態で回収することが困難になるおそれがある。
【0038】
離解処理装置の離解槽は、この離解槽内の温度を上記範囲内に調整するため、ジャケット構造を備えるものであってもよく、コイルヒーターや冷却管を備えるものであってもよい。また、離解処理装置は、各供給配管によって離解槽に接続された、廃棄物系バイオマス、酵素(a)、及び水をそれぞれ貯留する貯留タンクを備えていてもよく、各供給配管には開閉弁を設置することもできる。この開閉弁を開閉することによって廃棄物系バイオマス、酵素(a)、及び水を自動で離解槽に適宜供給することができる。
【0039】
離解機は、離解槽内に設置されるものであり、廃棄物系バイオマスを解繊することができるものである限り特に制限はないが、例えば、回転棒とこの回転棒の先端に複数の撹拌羽とを備える撹拌機、軸のほぼ全体に亘ってタブが形成されるスパイラル型ロータ、ヘリディスク型ロータなどを挙げることができる。このような離解機によって、水と廃棄物系バイオマスとをミキシングすると、廃棄物系バイオマス中の繊維がほぐれ、夾雑物が分離した解繊パルプを得ることができる。
【0040】
[1−2]精製装置:
本実施形態の糖化システムに備えられた精製装置は、得られた解繊パルプから夾雑物を分離し、精製パルプを得るものである。このような精製装置によって、廃棄物系バイオマスに含まれる粘着剤、フィルムなどの樹脂や、ホチキスの針、磁性体、アルミニウムなどの金属等の夾雑物を除去することができるため、糖を高い収率で得ることができる。
【0041】
精製装置は、得られた解繊パルプから夾雑物を分離することができるものであれば特に制限はなく、例えば、パルパーに備えられたバケットスクリーンなどであってもよいが、比重の違いによって分離する装置(以下、「比重差分離装置」と記す場合がある)、大きさの違いによって分離する装置(以下、「サイズ差分離装置」と記す場合がある)、または、これらの装置を組み合わせた装置であることが好ましい。なお、サイズ差分離装置と比重差分離装置とを組み合わせて用いる場合、それぞれ2つ以上用いてもよい。
【0042】
サイズ差分離装置と比重差分離装置とをそれぞれ2つずつ用いる場合、図1に示すように、サイズ差分離装置4、比重差分離装置5、サイズ差分離装置6、及び比重差分離装置7の順に配置することもできるし、サイズ差分離装置、サイズ差分離装置、比重差分離装置、及び比重差分離装置の順に配置することもできるし、比重差分離装置、サイズ差分離装置、サイズ差分離装置、及び比重差分離装置の順に配置することもできる。なお、比重差分離装置は、サイズ差分離装置の後に配置することが好ましい。
【0043】
比重の違いによって分離する装置(比重差分離装置)としては、例えば、液体サイクロン、沈殿槽等を挙げることができる。液体サイクロンとしては、例えば、重量クリーナー、軽量クリーナーなどを挙げることができる。重量クリーナーは、アルミ等の金属などの比重の重いものを分離することができる。軽量クリーナーは、発泡スチロールやビニールなどの比重の軽いものを分離することができる。液体サイクロンなどによる処理方法としては、連続式が好ましい。なお、軽量クリーナーを用いる場合、各分離装置の最後に配置することが好ましい。
【0044】
大きさの違いによって分離する装置(サイズ差分離装置)としては、例えば、遠心力型ドラムスクリーン、遠心力型加圧スクリーン、バグフィルターなどを挙げることができる。本実施形態の糖化システムは、スクリーンなどの大きさの違いによって分離する装置を複数配置することが好ましい。具体的には、まず、発泡スチロール、硬質のプラスティック、アルミ箔、フィルム、金属、紐などが除去するため、目の大きさが2〜50mmのスクリーンを用い、次に、目の大きさが0.1〜2mmのスクリーンを用いる。このように多段階で分離処理をすることによって、セルロースの回収率が高くなる。なお、分離処理は連続的に行うことが好ましい。
【0045】
なお、粘着剤、フィルムなどの樹脂やホチキスの針などの金属類が多く含まれる廃棄物系バイオマスを用いる場合には、後段で詰りなどを発生させないために、まず、目が大きめのサイズ差分離装置を配置した後、比重差分離装置、例えば、後述する重量クリーナーを配置することが好ましい。このような重量クリーナーを配置することによって、廃棄物系バイオマス中に大きめの重量の夾雑物が含まれている場合であっても、精製装置を傷つけ難いという利点がある。
【0046】
[1−3]糖化反応装置:
本実施形態の糖化システムに備えられた糖化反応装置は、得られた精製パルプ中のセルロースを糖化して糖化液を得るものである。このような糖化反応装置によって、セルロースを良好に糖化して糖化液を得ることができる。
【0047】
精製パルプの固形分含量は、5〜30質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることが更に好ましい。上記使用割合が5質量%未満であると、セルロース濃度が低くなりすぎて、糖化液や発酵液の濃度が低くなり、目的の生産物(糖や発酵物)の回収及び濃縮が効率的に行われず、高コストになるおそれがある。一方、30質量%超であると、粘性が高くなりすぎて、攪拌が困難になるおそれがある。なお、糖化反応装置における精製パルプ固形分含量を上記範囲に調整するために、精製パルプを脱水して糖化反応装置に供給しても良く、その場合に、脱水された水分は、離解処理装置に循環して使用できる。
【0048】
セルロースを糖化する方法は、特に制限はなく、セルラーゼを含む酵素による方法、酸加水分解法などの従来公知の方法を用いることができる。酵素によってセルロースを糖化する場合、使用することのできる酵素(b)としては、酵素(a)と同様のものを使用しても良く、異なるものであっても良い。なお、糖化反応装置内に残存する酵素(a)だけで糖化に必要な量の酵素の量に達している場合には、新たに酵素(b)を添加しなくても良い。糖化反応装置内の酵素(b)の割合(即ち、糖化反応装置に添加する酵素(b)の割合)は、精製パルプの固形分含量1gに対して、FPU活性が30〜1000FPUになるように設定することが好ましく、50〜500FPUになるように設定することが更に好ましい。上記FPU活性が30FPU未満であると、セルロースの分解が不十分となり、糖の収率が低下するおそれがある。一方、1000FPU超であると、原料に対して十分量以上の酵素量となるため、糖の収率は向上することがないにも係わらず、活性化状態で酵素が保持されるために、過多分の酵素の失活が起こり、生産コストの上昇を招くおそれがある。
【0049】
なお、酵素(a)は、精製装置において夾雑物に付着している分が存在し、夾雑物とともに廃棄されてしまうおそれがあるため、解繊パルプ中の酵素(a)のFPU活性が、糖化液中の全酵素(酵素(a)+酵素(b))のFPU活性よりも低いことが好ましい。
【0050】
また、図示してはいないが、酵素(a)及び酵素(b)は、後の糖化反応、または発酵反応の後で、生成物である糖や発酵物を分離した後の液に含まれる酵素を再利用しても良い。この際、消費され低下したFPU活性の分のみを新規の酵素を添加する形で補っても良い。
【0051】
糖化は、従来公知の方法によって行うことができる。具体的には、pHは4〜7であることが好ましく、4.5〜5.5であることが更に好ましい。温度は30〜55℃であることが好ましく、35〜50℃であることが更に好ましい。また、必要に応じて、水を追加しても良い。
【0052】
[1−4]その他の装置:
本実施形態の糖化システムは、離解処理装置、精製装置、及び、糖化反応装置以外に、殺菌装置を備えることもできる。殺菌装置は、離解処理装置に投入する前の廃棄物系バイオマスを殺菌するものであり、離解処理装置で処理する前に廃棄物系バイオマスを殺菌することによって、廃棄物系バイオマスに付着している雑菌によって糖化液中の糖が消費されてしまうことを防止することができる。殺菌装置における殺菌方法は、特に制限はなく、廃棄物系バイオマスを酸やアルカリに晒す方法、廃棄物系バイオマスを高温雰囲気下に晒す方法、これらの方法を組み合わせた方法などを挙げることができる。なお、酸またはアルカリに晒す方法を用いて殺菌を行う場合、殺菌後は、離解処理装置で用いる酵素(a)を失活させないpH、例えば、弱酸性付近に調整することが好ましい。また、廃棄物系バイオマスを高温雰囲気下に晒す方法を用いて殺菌を行う場合、殺菌後は、離解処理装置で用いる酵素(a)を失活させない温度、例えば、室温にすることが好ましい。
【0053】
本実施形態の糖化システムは、精製装置で分離された夾雑物を洗浄する洗浄装置と、夾雑物を洗浄した洗浄液を回収し、離解処理装置の離解槽に投入する再利用装置とを更に備えることが好ましい。このような洗浄装置及び再利用装置を備えることによって、精製装置において夾雑物に付着している酵素(a)を再び利用することができるため、運転コストを低減させることができる。
【0054】
洗浄装置は、精製装置で分離された夾雑物を洗浄するものであり、例えば、洗浄液を貯める洗浄液タンクと、スクリーンなどの精製装置に溜まっている夾雑物に洗浄液を放出する洗浄ノズルと、夾雑物を洗浄した洗浄液を貯留する洗浄液貯留タンクと、を備えるものを用いることができる。
【0055】
洗浄装置による洗浄方法としては、具体的には、廃棄物系バイオマスとしてアルミ貼合紙を使用する場合、解繊パルプを精製装置を用いて精製パルプにするとき、精製装置には夾雑物としてアルミニウムが残る。残ったアルミニウムを洗浄装置の洗浄液によって洗浄し、アルミニウムに付着している酵素(a)を洗い落とす。このようにして洗浄した夾雑物は、そのまま埋め立てや焼却廃棄することができる。なお、酵素(a)を洗い落とす際に、夾雑物も一緒に回収されるおそれがあるが、再利用装置に備える分離装置によって分離することができる。洗浄液としては、滅菌水などを用いることができる。
【0056】
なお、精製装置で分離された夾雑物を洗浄装置によって洗浄する前に、上記夾雑物を、例えば、ベルトフィルター、フィルタープレス、スクリュープレス、傾斜エクストラクターなどで脱水することが好ましい。このように夾雑物を脱水しておくことによって、洗浄液貯留タンクに不要な水分が加えられることを防止することができるため、酵素(a)を効率的に回収することができる。
【0057】
また、洗浄装置によって洗浄した後の夾雑物を、上述した、ベルトフィルター、フィルタープレス、スクリュープレス、傾斜エクストラクターなどで脱水することも好ましい。このように洗浄した後の夾雑物を脱水することによって、夾雑物を焼却廃棄する際に、熱量的に有利であり、また、重量が減るため、廃棄物処理業者に良好に引き渡すことができる。
【0058】
このようにして夾雑物を洗浄した洗浄液は、再利用装置よって回収し、離解処理装置の離解槽に投入することが好ましい。再利用装置としては、例えば、洗浄装置の洗浄液貯留タンクに接続された分離装置と、この分離装置と離解処理装置とを接続する再利用配管と、分離装置で分離回収された回収水を離解処理装置に供給するための供給ポンプとを備えるものを用いることができる。
【0059】
[2]糖化液の製造方法:
本発明の糖化液の製造方法の一の実施形態は、図1に示すように、セルロース及び夾雑物を含む廃棄物系バイオマス1と、少なくともセルラーゼを含む酵素(a)11と、水13とが投入される離解槽及び離解槽内に設置された離解機を備える離解処理装置3を用い、水13の存在下で、廃棄物系バイオマス1を離解機及び酵素(a)11によって解繊してセルロース及び夾雑物を含む解繊パルプを得る離解処理工程26と、得られた解繊パルプから夾雑物15,16,17,18を分離し、精製パルプを得る精製工程30と、得られた精製パルプ中のセルロースを糖化して糖化液9を得る糖化反応工程33と、を有するものである。
【0060】
このような製造方法によって、セルロースを含む廃棄物系バイオマスからセルロースを効率良く回収することによってセルロースの収率を向上させることができるため、糖を収率良く得ることができる。
【0061】
[2−1]離解処理工程:
本実施形態の糖化液の製造方法は、まず、セルロース及び夾雑物を含む廃棄物系バイオマスと、少なくともセルラーゼを含む酵素(a)と、水とが投入される離解槽及び離解槽内に設置された離解機を備える離解処理装置を用い、水の存在下で、廃棄物系バイオマスを離解機及び酵素(a)によって解繊してセルロース及び夾雑物を含む解繊パルプを得る離解処理工程を行う。このような離解処理工程によって、例えば、アルミ貼合紙のようにセルロースとアルミニウムとの接着部分が多いものであっても、セルロースとアルミニウムとを十分に分離することができ、セルロースの収率を向上させ得る。従って、糖の収率を向上させることができる。離解処理工程に用いる装置としては、例えば、本発明の糖化システムに備えられる離解処理装置を好適に用いることができる。
【0062】
[2−2]精製工程:
次に、本実施形態の糖化液の製造方法は、得られた解繊パルプから夾雑物を分離し、精製パルプを得る精製工程を行う。このような精製工程によって、廃棄物系バイオマスに含まれる粘着剤、フィルムなどの樹脂や、ホチキスの針、磁性体、アルミニウムなどの金属等の夾雑物を除去することができるため、高い収率でセルロースを回収することができ、糖の収率を高めることができる。精製工程に用いる装置としては、例えば、本発明の糖化システムに備えられる精製装置を好適に用いることができる。
【0063】
図1に示すように、精製工程は、サイズ差分離装置4、比重差分離装置5、サイズ差分離装置6、及び比重差分離装置7の順に各分離装置を配置した精製装置を用いて行うことができる。サイズ差分離装置4としては、例えば、目の大きさが1.0〜2.0mmのスクリーンを用いることができ、比重差分離装置5としては、例えば、重量クリーナーなどを用いることができ、サイズ差分離装置6としては、例えば、目の大きさが0.1〜0.5mmのスクリーンを用いることができ、比重差分離装置7としては、例えば、軽量クリーナーなどを用いることができる。
【0064】
サイズ差分離装置4では夾雑物15が分離され、比重差分離装置5では夾雑物16が分離され、サイズ差分離装置6では夾雑物17が分離され、比重差分離装置7では夾雑物18が分離される。なお、これらの夾雑物15,16,17,18は、後述する洗浄装置20によって洗浄された後、回収水23を離解処理装置3に戻すことができる。
【0065】
[2−3]糖化反応工程:
次に、本実施形態の糖化液の製造方法は、得られた精製パルプ中のセルロースを糖化して糖化液を得る糖化反応工程を行う。このような糖化反応工程によって、セルロースを良好に糖化し、高い収率で糖を得ることができる。糖化反応工程に用いる装置としては、例えば、本発明の糖化システムに備えられる糖化反応装置を好適に用いることができる。
【0066】
図1に示すように、糖化反応工程33は、糖化反応装置8に、精製工程30によって得られた精製パルプと、酵素(b)12と、水14とを加え、精製パルプ中のセルロースを酵素(b)12によって糖化して糖化液9を得る工程である。このとき、水14として、後述する洗浄装置20によって夾雑物15,16,17,18を洗浄して得られる回収水23を用いることもできる。
【0067】
[2−4]その他の工程:
本実施形態の糖化液の製造方法は、離解処理工程、精製工程、及び糖化反応工程以外に、図1に示すように、離解処理工程26の前に、廃棄物系バイオマス1を殺菌する殺菌工程2を行ってもよい。このように離解処理装置で処理する前に廃棄物系バイオマスを殺菌することによって、廃棄物系バイオマスに付着している雑菌によって糖化液中の糖が消費されてしまうことを防止することができる。殺菌工程に用いる装置としては、例えば、本発明の糖化システムに備えることのできる殺菌装置を好適に用いることができる。
【0068】
更に、本実施形態の糖化液の製造方法は、精製装置で分離された夾雑物を洗浄する洗浄工程と、夾雑物を洗浄した洗浄液を回収し、離解処理装置の離解槽に投入する再利用工程とを更に有することができる。このような洗浄工程及び再利用工程を有することによって、精製工程で分離された夾雑物に付着している酵素(a)を回収し、再利用することができるため、運転コストを低減させることができる。洗浄工程に用いる装置としては、例えば、本発明の糖化システムに備えられる洗浄装置を好適に用いることができる。また、再利用工程に用いる装置としては、例えば、本発明の糖化システムに備えられる再利用装置を好適に用いることができる。
【0069】
図1に示すように、再利用工程35では、まず、洗浄装置20によって夾雑物を洗浄した洗浄液をサイズ差分離装置21によって洗浄液に混在しているおそれのある夾雑物24を分離する。次に、比重差分離装置22によって、サイズ差分離装置21で夾雑物24を分離した分離液から夾雑物25を分離する。次に、比重差分離装置22で夾雑物25を分離した回収水23を補給水(水13)として離解処理装置3に投入する。このようにして酵素(a)を回収し、再利用することができる。
【0070】
[3]発酵システム:
本発明の発酵システムの一実施形態は、本発明の糖化システムで得られる糖化液を微生物によって発酵する発酵装置を備えるものである。このような発酵システムによって、発酵物を収率良く得ることができる。
【0071】
発酵装置は、糖化システムで得られる糖化液を微生物によって発酵することができるものである限り特に制限はないが、例えば、糖化液と微生物とが投入される発酵槽と、この発酵槽内の内容物を撹拌する撹拌機と、発酵槽内の温度を調整するコイルヒーター、冷却管、ジャケット、熱交換器などを備えるものを用いることができる。また、発生する炭酸ガスを放出する換気口やpH調整機能を有していることが好ましい。
【0072】
微生物としては、糖を発酵することができるものであれば特に制限はないが、例えば、酵母、大腸菌、乳酸菌、カビなどを用いることができる。これらの中でも、酵母が好ましい。酵母の使用量は、発酵装置内の液量に対して、1.0×10〜1.0×1010個/mlであることが好ましく、1.0×10〜1.0×10個/mlであることが更に好ましい。上記使用量が1.0×10個/ml未満であると、糖化に対して発酵の速度が追いつかず、生産性を低下させるおそれがある。一方、1.0×1010個/ml超であると、微生物の密度が高すぎて、栄養分が十分に行き渡らず、生産性が低下するおそれがある。
【0073】
また、発酵に際し、培地成分などを添加することができる。培地成分を添加することによって、発酵反応を促進させることができる。
【0074】
発酵は、微生物によって糖化液を発酵させることができれば特に制限はなく公知の条件で行うことができるが、例えば、25〜45℃で15〜120時間とすることができる。
【0075】
また、本実施形態の発酵システムは、本発明の糖化システムに備える糖化反応装置に微生物を添加し、上記糖化反応装置を、上記発酵装置を兼ねた併行糖化発酵装置として用いることができる。このように、糖化と発酵を同時に行うことによって、別途発酵装置を設ける必要がないという利点がある。また、糖化のみを別工程で行うと、即ち、糖化と発酵を別の装置で行うと、糖化で生成した糖によって糖化反応装置内の酵素が生成物阻害を受ける。即ち、分解後の物質にも酵素は結合できるために、分解すべき物質への結合の頻度が減る。従って、糖濃度が高くなるにつれて、糖化速度が低下してしまう傾向がある。一方、糖化と発酵を同時に行う併行糖化発酵装置を用いると、糖化で生成した糖は、発酵によって順次発酵物に変換されるために、酵素が生成物阻害を受けず、糖化速度は常に最速の状態が維持され、発酵物の生産性を高く維持することができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
感熱紙14質量%、ノーカーボン紙7質量%、磁気乗車券7質量%、アルミ蒸着段ボール7質量%、フィルム付重袋3.5質量%、タック剥離紙6.5質量%、雑誌古紙11質量%、及びオフィス古紙44質量%の割合で含む廃棄物系バイオマスを314kg、酵素(a)としてジェネンコア社製のセルラーゼ「マルティフェクトCX10L」150kg(廃棄物バイオマス1gに対してFPU活性が65FPU)を、バケットスクリーン(精製装置)を備えたパルパー(離解処理装置)に投入した後、廃棄物系バイオマスの使用割合が水と廃棄物系バイオマスとの合計量に対して、5質量%になるように水を加えた。その後、処理温度を50℃、pHを5として、攪拌機の回転数130rpmで240分間離解処理を行って解繊パルプ液を得た。
【0078】
パルパーのバケットスクリーンにより解繊パルプ液中の夾雑物を除去(表1中、「パルパー処理」と示す)した後、更に、粗選マルチソータースクリーン、精選スリットスクリーン、重量クリーナー、及び、軽量クリーナーの順に配置した精製装置によって解繊パルプ液から夾雑物を分離し(表1中、それぞれ「1.4mmスクリーン処理」、「0.15スクリーン処理」、「重量クリーナー処理」、及び「軽量クリーナー処理」と示す)、精製パルプ液を得た。得られた精製パルプ液に上記セルラーゼを150kg添加し、精製パルプ液中のセルロースを糖化反応装置内で糖化させ、糖化液を得た。
【0079】
その後、糖化反応装置に酵母を、1.0×10個/mlになるように添加し、糖化反応装置を発酵装置として用いて発酵を行い、エタノールを得た。なお、発酵は、30℃、24時間の条件で行った。
【0080】
本実施例におけるセルロース収率、夾雑物除去率、糖収量、糖収率、エタノール収量、及びエタノール収率は、以下のようにして測定した。
【0081】
[セルロース収率]
パルパー処理に用いた廃棄物系バイオマス固形分量から、含まれていた夾雑物の量を差し引いた量(α)(314kg−18.8kg=295.2kg)と、軽量クリーナーから排出された固形分量から、含まれていた夾雑物の量を差し引いた量(β)(205kg−0kg=205kg)と、により算出({差し引いた量(β)/差し引いた量(α)}×100)した。
【0082】
[夾雑物除去率]
パルパー処理に用いた廃棄物系バイオマスに含まれる夾雑物量(18.8kg)に対する、バケットスクリーン、粗選マルチソータースクリーン、精選スリットスクリーン、重量クリーナー、及び、軽量クリーナーによって除去された固形分の総量(18kg+0.72kg+0.08kg+0.02kg+0kg=18.82kg)の割合を夾雑物除去率として算出した。
【0083】
[糖収量]
糖化反応装置内の糖化液中の糖をフェノール硫酸法によって測定した。
【0084】
[糖化率]
夾雑物を除去された後のセルロース量に対して、得られた糖収量の割合により算出した。
【0085】
[糖収率]
パルパー処理に用いた廃棄物系バイオマス量(314kg)に対する糖量(168.6kg)により算出した。
【0086】
[エタノール収量]
王子計測機器社製のバイオセンサー「モデルBF−4」(商品名)を用いて測定した。
【0087】
[エタノール収率]
上記[セルロース収率]によって算出した差し引いた量(α)(314kg−18.8kg=295.2kg)に対する上記[エタノール収量]によって測定したエタノール収量(64.1kg)により算出した。
【0088】
本実施例においてセルロース収率は、72.0%であり、夾雑物除去率は100%であり、糖収量は168.6kgであり、糖化率は82.3%であり、糖収率は57.1%であり、エタノール収量は64.1kgであり、エタノール収率21.7%であった。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
なお、表1中の「夾雑物量」は固形分中の夾雑物量を示し、「夾雑物率」は固形分に対する夾雑物の比率を示す。表1中の「入」は、バケットスクリーン、粗選マルチソータースクリーン、精選スリットスクリーン、重量クリーナー、または、軽量クリーナーにそれぞれ供給されたものの各値(固形分、夾雑物量、及び夾雑物率)を意味し、「出」は、バケットスクリーン、粗選マルチソータースクリーン、精選スリットスクリーン、重量クリーナー、または、軽量クリーナーからそれぞれ排出されたものの各値(固形分、夾雑物量、及び夾雑物率)を意味し、「除去」は、バケットスクリーン、粗選マルチソータースクリーン、精選スリットスクリーン、重量クリーナー、または、軽量クリーナーによってそれぞれ除去されたものの各値(固形分、夾雑物量、及び夾雑物率)を意味する。
【0091】
各処理前後の固形分の量、即ち、表1中の各処理の「入」及び「出」の値(但し、パルパー処理の「入」の値を除く)は、各精製装置の前後でサンプリングしたパルプ液中の固形分量から算出した。具体的には、サンプリングした所定量のパルプ液を、0.15mmのフラットスクリーンによってろ過した後、フラットスクリーン及び残渣を乾燥させて乾燥重量を測定した。その後、乾燥重量から、予め測定しておいたフラットスクリーンの重量を差し引いて残渣量を算出した。そして、ろ過したパルプ液の量及び残渣量から固形分を算出した。
【0092】
(比較例1)
実施例1で使用したものと同様のものを同様の割合で含む廃棄物系バイオマス382kgをパルパーに投入した後、廃棄物系バイオマスの使用割合が、水と廃棄物系バイオマスとの合計量に対して、10質量%になるように水を加えて原料物を得た。処理温度を40℃とし、NaOHを上記原料物の全量に対して0.5%添加した。攪拌機の回転数310rpmで30分間離解処理を行って解繊パルプ液を得た。その後、実施例1と同様にして糖化液を得た。本比較例におけるセルロース収率、夾雑物除去率、糖収量、糖化率、糖収率、エタノール収量、及びエタノール収率の測定結果を表1に示す。
【0093】
表1から明らかなように、比較例1の糖化システムは、夾雑物除去率が99.2%であり、実施例1の糖化システムに比べて、若干劣るだけでなく、また、セルロース回収率も64.0%であり、低かった。また、比較例1の糖化システムは、糖収率は51.2%であった。即ち、比較例1の糖化システムは、実施例1の糖化システムに比べて、夾雑物が除去されにくいだけでなく、夾雑物とセルロースとの分離が不十分であるため、夾雑物と共にセルロースもロスしてしまっていた。
【0094】
実施例1の糖化システムは、パルパー処理において、即ち、バケットスクリーンによって94%の夾雑物を除去できるのは、酵素(a)により夾雑物とセルロースとが分離され、効率よく夾雑物の除去ができたためである。
【0095】
設備の簡略化のために、パルパー処理のみで夾雑物の除去を終了させた場合は、実施例1の糖化システムでは、夾雑物除去率が95.7%((18.0kg/18.8kg)×100)、セルロース収率が99.6%であるのに対して、比較例1の糖化システムでは、夾雑物除去率が52.4%((12.0kg/22.9kg)×100)、セルロース収率が97.6%であった。このように、夾雑除去率、及びセルロース収率ともに差が確認できた。
【0096】
実施例1の糖化システムでは、パルパー処理によってほとんどの夾雑物を除去できているが、原料の種類や比率によっては、他の精製設備の効力が高まる場合もある。例えば、廃棄物系バイオマスとして磁気乗車券を使用する場合は、夾雑物である磁気粒子が細かいために、バケットスクリーンでは十分に除去することは困難である。そのため、重量クリーナーなどの精製装置を更に用いることが好ましく、重量クリーナーなどを用いることによって効率よく夾雑物を除去することが可能になる。
【0097】
以上のように、実施例1の糖化システムは、夾雑物を効率よく除去するだけでなく、セルロースの回収率も高い。更に、夾雑物を少なくすることができることで酵素の働きが阻害されることなく糖化されるために糖収率も高い、即ち、高い収率で糖を生産することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の糖化システムは、廃棄物系バイオマスからエタノールなどの発酵物を得るための原料である糖化液を好適に製造することができるものである。
【0099】
本発明の糖化液の製造方法は、廃棄物系バイオマスからエタノールなどの発酵物を得るための原料である糖化液(糖)を好適に製造することができるものである。
【0100】
本発明の発酵システムは、廃棄物系バイオマスからエタノールなどの発酵物を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の糖化液の製造方法の一の実施形態の工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0102】
1:廃棄物系バイオマス、2:殺菌工程、3:離解処理装置、4:サイズ差分離装置、5:比重差分離装置、6:サイズ差分離装置、7:比重差分離装置、8:糖化反応装置、9:糖化液、11:酵素(a)、12:酵素(b)、13:水、14:水、15:夾雑物、16:夾雑物、17:夾雑物、18:夾雑物、19:洗浄液、20:洗浄装置、21:サイズ差分離装置、22:比重差分離装置、23:回収水、24:夾雑物、25:夾雑物、26:離解処理工程、30:精製工程、33:糖化反応工程、35:再利用工程、37:洗浄工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース及び夾雑物を含む廃棄物系バイオマスと、少なくともセルラーゼを含む酵素(a)と、水とが投入される離解槽及び前記離解槽内に設置された離解機を備え、水の存在下で、前記廃棄物系バイオマスを前記離解機及び前記酵素(a)によって解繊してセルロース及び夾雑物を含む解繊パルプを得る離解処理装置と、
得られた前記解繊パルプから前記夾雑物を分離して、精製パルプを得る精製装置と、
得られた前記精製パルプ中のセルロースを糖化して糖化液を得る糖化反応装置と、
を備える糖化システム。
【請求項2】
前記廃棄物系バイオマスが、パルプスラッジ、オフィス古紙、段ボール、雑誌、磁気用紙、感熱紙、アルミ貼合紙、フィルムコーティング紙、及び、衛生用品廃棄物よりなる群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載の糖化システム。
【請求項3】
前記精製装置が、比重の違いによって分離する装置、大きさの違いによって分離する装置、または、これらの装置を組み合わせた装置である請求項1または2に記載の糖化システム。
【請求項4】
前記離解処理装置によって前記廃棄物系バイオマスを前記解繊パルプにするとともに、前記離解処理装置で得られた前記解繊パルプを前記精製装置に供給することを連続的に行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の糖化システム。
【請求項5】
前記離解処理装置によって前記廃棄物系バイオマスを前記解繊パルプにするとともに、前記離解処理装置で得られた前記解繊パルプを前記精製装置に供給することを回分的に行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の糖化システム。
【請求項6】
前記糖化反応装置が、前記セルロースを、少なくともセルラーゼを含む酵素(b)によって糖化するものであり、前記解繊パルプ中の前記酵素(a)のFPU活性が、前記糖化液中の全酵素のFPU活性よりも低い請求項1〜5のいずれか一項に記載の糖化システム。
【請求項7】
前記精製装置で分離された前記夾雑物を洗浄する洗浄装置と、前記夾雑物を洗浄した洗浄液を回収し、前記離解処理装置の前記離解槽に投入する再利用装置とを更に備える請求項1〜6のいずれか一項に記載の糖化システム。
【請求項8】
セルロース及び夾雑物を含む廃棄物系バイオマスと、少なくともセルラーゼを含む酵素(a)と、水とが投入される離解槽及び前記離解槽内に設置された離解機を備える離解処理装置を用い、水の存在下で、前記廃棄物系バイオマスを前記離解機及び前記酵素(a)によって解繊してセルロース及び夾雑物を含む解繊パルプを得る離解処理工程と、
得られた前記解繊パルプから前記夾雑物を分離し、精製パルプを得る精製工程と、
得られた前記精製パルプ中のセルロースを糖化して糖化液を得る糖化反応工程と、を有する糖化液の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の糖化システムによって得られる糖化液を微生物によって発酵する発酵装置を備える発酵システム。
【請求項10】
前記糖化反応装置に微生物を添加し、前記糖化反応装置を前記発酵装置として用いる請求項9に記載の発酵システム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−183211(P2009−183211A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26776(P2008−26776)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】