説明

糖化血色素測定用遠心力基盤の微細流動構造物、糖化血色素測定用遠心力基盤の微細流動装置、及び糖化血色素の測定方法

糖化血色素測定用遠心力基盤の微細流動構造物、糖化血色素測定用遠心力基盤微細流動装置及び糖化血色素の測定方法を開示する。本開示にしたがって、免疫吸着アッセイと親和性測定を一つのデバイスのみで同時に実施することによって血色素の変異体や干渉物質を検知し、それにより、検知結果を測定結果の分析に適用し、糖化血色素の測定誤差を排除又は補完したり、又は校正することによって、糖化血色素のより正確な測定を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の各実施例は、糖化血色素(ヘモグロビン)測定用遠心力基盤の微細流動構造物(centrifugal micro-fluidic structure)、糖化血色素測定用遠心力基盤の微細流動装置(centrifugal micro-fluidic device)及び糖化血色素の測定方法に関する。より詳細には、各実施例は、糖化血色素を測定するための多様な方法から特別に選ばれた免疫・免疫吸着アッセイと親和性クロマトグラフィ測定を一つのデバイスで同時に実施することによって血色素の変異体や干渉物質を検知する。この検知結果を測定結果の分析に適用して糖化血色素の測定誤差を排除及び/又は補完したり、又は校正することによってより正確な糖化血色素の測定を達成することができる。さらに、上述した構造物及びこれを用いた糖化血色素の測定方法を含む糖化血色素測定用遠心力基盤の微細流動装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
一般に微細流動構造物内で流体を移動するためには駆動圧力が必要であるが、駆動圧力として、毛細管圧又は別途のポンプによって発生する圧力が用いられる。最近は、このような流体の少量に存在する標的物質の検出を低廉かつ容易に行えるように設計された臨床診断分析装置として、例えば、円形のディスクタイプの回転体プラットホームに配置される微細流動構造物を有する遠心力基盤の微細流動装置、すなわち、ラボ・オン・ア・ディスク(lab―on―a disk)又はラボCD(Lab CD)が提案されている。
【0003】
「ディスク上の実験室」という意味のラボ・オン・ア・ディスク(lab―on―a disk)は、実験室で使用される生物分子の分析に必要な各種装備がCDタイプの装置に集積された装置である。ディスクの微細流動構造物に血液などの生体試料を注入すると、流体を移送するために駆動圧力などの別途の駆動システムがなくても遠心力のみを用いることによって試料、試薬などの流体を所望の位置に移動できるという長所を有する。
【0004】
糖化血色素、グリコシル化血色素又は血色素A1c(以下、「HbA1c」と記述する場合もある。))は、糖尿病をスクリーニングし、糖尿病の初期段階の人たちの血糖制御を確認し、糖尿病患者の血糖制御をモニタリングするための有用な手段として認識されている。赤血球の正常な120日寿命においては、グルコース分子が血色素と反応することによって糖化血色素を形成する。一度血色素分子が糖化されると、その状態で残存する。そのため、赤血球内の糖化血色素の蓄積は、ライフサイクルの間に細胞が露出したグルコースの平均レベルを反映する。糖化血色素の測定は、長期間の血清グルコース調整をモニタリングすることによって糖尿病治療の有効性を評価する。HbA1cレベルは、以前の4週間から3ヶ月にわたる平均血糖濃度に比例する。
【0005】
血色素の糖化は、心臓血管疾病、腎症、及び糖尿病性網膜症と関連すると報告されている。1型糖尿病患者におけるHbA1cのモニタリングは、治療を改善することができる。
【0006】
救急外来患者の検査がHbA1cレベルに必要であると、検査の開始から検査の結果報告が30分以内で行われるべきである。その結果によって、次の段階の指針が決定されるので、迅速かつ正確な検査が要求される。
【0007】
現在、糖化血色素を測定するための多くの検査機器が市販されて広く用いられている。これらの糖化血色素を測定するための従来の方法としては、ボロネート親和性測定法又は免疫凝集法に基づいた測定法のうち一つの方法のみを使用する。ボロネート親和性測定法は、ボロン酸が糖のcis-ジオール(diol)基と結合するメカニズムによって糖化血色素を非糖化血色素から分離する原理を用いている。また、免疫凝集法に基づいた測定法は、糖化血色素に対して特異的な抗体を用いて抗原―抗体複合体の凝集反応を用いている。
【0008】
しかし、上述した二つの方法は、各測定法自体の内在的特性によって発生する固有誤差という共通した短所を有する。例えば、ボロネート親和性測定法の場合、血中に存在するcis-ジオール基を収容する他の物質との交差反応を起し、測定された糖化血色素の値の偽り減少をもたらす。一方、免疫凝集法の場合、HbF、HbS、HbCなどの血色素の変異体を測定できないので、測定された糖化血色素の値の偽り減少をもたらす。
【0009】
したがって、血色素の変異体の種類及び/又は測定法の種類によって、HbA1c測定結果が臨床状態と正確に合わない場合が発生する。したがって、より正確なHbA1c測定のためには、上述した二つの測定法を共に使用する必要があるが、これら測定法は互いに異なる測定原理に基づいているので、一つのデバイスで両方の方法を実施するには技術的難点がある。
【0010】
そのため、上述した技術的制限を解消するための新しい測定法を提示する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
生体試料内の糖化血色素レベルを測定するための新しい測定方法が提供され、HbA1c測定結果は、これに関する臨床状態に対応する。
【0012】
本発明の一実施例は、糖化血色素のみならず、糖化血色素の変異体や干渉物質を検知するために特別に選択された免疫吸着アッセイと親和性クロマトグラフィ測定を一つのデバイスで同時に実施することによって、生体試料内の糖化血色素レベルをより正確に測定するための遠心力基盤の微細流動構造物を提供する。また、この検知結果を測定結果の分析に適用し、糖化血色素の測定誤差を排除及び/又は補完したり校正することによって、糖化血色素レベルをより正確に検知する。さらに、上述した遠心力基盤の微細流動構造物のみならず、回転体を含む糖化血色素を測定するための遠心力基盤の微細流動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面によると、複数のチャンバーと、前記各チャンバーを互いに連結する通路と、前記各通路を開閉するためのバルブとを含む遠心力基盤の微細流動構造物を提供し、前記微細流動構造物は、少なくとも二つの異なる糖化血色素親和性粒子をそれぞれ収容するチャンバー及び対照チャンバーをさらに含む。
【0014】
HbA1c粒子の一つのタイプは、表面に固定されるHbA1cに選択的に結合する抗体を有し、他のタイプは、表面に固定されるHbA1c内のcis-ジオール基と結合するボロン酸、ボロネート又はボロネート誘導体を有する。
【0015】
また、HbA1c親和性粒子は、遠心力下で血液サンプル内のHbA1cとHbA1粒子との均一な混合及び/又は結合したHbA1c粒子の沈降を行うのに十分な比重を有する固体担体と結合される。一実施例において、このような固体担体は、1.3〜2.0の比重を有し、2〜12%の架橋アガロース、ガラクトース多糖類、及びポリアクリルアミドゲルから選ばれる物質からなり得る。
【0016】
また、抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であり得る。
【0017】
また、微細流動構造物は、HbA1c親和性粒子を収容する各チャンバーに連結される沈降チャンバーをさらに含み、前記沈降チャンバーは、遠心力によって沈降された前記HbA1c親和性粒子と結合したHbA1cを収容することができる。
【0018】
また、微細流動構造物は、HbA1c親和性粒子を収容する各チャンバー及び対照チャンバーに連結される検出チャンバーをさらに含むことができる。
【0019】
また、HbA1c親和性粒子を収容する各チャンバー及び対照チャンバーは、回転中心から半径方向に等間隔に位置し得る。
【0020】
本発明の他の側面によると、回転体、少なくとも一つの微細流動構造物及び検出ユニットを含む遠心力基盤の微細流動装置を提供し、前記微細流動構造物は、複数のチャンバーと、各チャンバーを互いに連結する通路と、通路を開閉するためのバルブとを含み、微細流動構造物は、少なくとも二つの異なる糖化血色素親和性粒子をそれぞれ収容するチャンバー及び対照チャンバーを含み、回転体の回転によって発生する遠心力を用いて前記微細流動構造物内の流体を移送する。
【0021】
また、検出ユニットは、単色光を放出する光学系を有し、前記光学系は、400〜600nmの波長を有する光を用いて前記第1〜第3のそれぞれの検出チャンバーの吸光度を測定することができる。
【0022】
本発明の更に他の側面によると、遠心力基盤の微細流動装置を用いたHbA1c測定方法を提供し、この方法は、HbA1cと選択的に結合する抗体が固定されたHbA1c粒子の一つのタイプを含む第1の収容チャンバーと、HbA1c内のcis-ジオール基と結合するボロン酸、ボロネート又はボロネート誘導体が固定されたHbA1c粒子の他のタイプを含む第2の収容チャンバーとを含む装置を準備すること;微細流動装置に注入された血液サンプルの溶血を行うこと;第1及び第2の収容チャンバー(以下では、「第1及び第2のチャンバー」と略称する。)及び対照チャンバーに前記の溶血した血液サンプルの以前に計量された体積を導入すること;前記の溶血した血液サンプルと前記第1及び第2のチャンバーに収容された前記粒子とをそれぞれ結合すること;遠心力下で前記粒子と結合したHbA1cを沈降させ、前記各チャンバーに上清液を与えること;前記第1及び第2の収容チャンバー及び前記対照チャンバーの上清液の吸光度を測定すること;下記の第1の式による抗体に関して第1の吸光度比を算出し、抗体に関して標準検量曲線から第1のHbA1cレベル(%)を推定すること;下記の第2の式によるボロネート親和性に関して第2の吸光度比を算出し、ボロネート親和性に関して他の標準検量曲線から第2のHbA1cレベル(%)を推定すること;及び前記第1のHbA1レベル(%)と第2のHbA1cレベル(%)とを比較することを含む。
【0023】
第1の式:第1の吸光度比={(対照チャンバー内の上清液の吸光度−第1のチャンバー内の上清液の吸光度)/対照チャンバー内の上清液の吸光度}
【0024】
第2の式:第2の吸光度比={(対照チャンバー内の上清液の吸光度−第2のチャンバー内の上清液の吸光度)/対照チャンバー内の上清液の吸光度}
【0025】
また、前記方法は、第1のHbA1cレベル(%)が第2のHbA1cレベル(%)より小さい場合、血液サンプル内に血色素の変異体が存在するという情報を提供することをさらに含むことができる。
【0026】
また、前記方法は、第1のHbA1c(%)が第2のHbA1c(%)より大きい場合、血液サンプル内にcis-ジオール基を有する干渉物質が存在するという情報を提供すること;をさらに含むことができる。
【0027】
このとき、結合したHbA1cの沈降は、前記第1及び第2のチャンバーにそれぞれ連結された沈降チャンバー内で行うことができる。
【0028】
また、吸光度の測定は、第1及び第2のチャンバー及び対照チャンバーに連結された各検出チャンバーに流体を移送した後で行うことができる。
【0029】
また、吸光度の測定は、400〜600nmの波長を有する光を用いて行うことができる。
【0030】
このとき、前記各段階の間には、反応していない及び/又は反応できない物質を除去するための洗浄段階を行うことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一実施例は、糖化血色素のみならず、糖化血色素の変異体や干渉物質を検知するために特別に選択された免疫吸着アッセイと親和性クロマトグラフィ測定を一つのデバイスで同時に実施することによって、生体試料内の糖化血色素レベルをより正確に測定するための遠心力基盤の微細流動構造物を提供する。また、この検知結果を測定結果の分析に適用し、糖化血色素の測定誤差を排除及び/又は補完したり、校正することによって、糖化血色素レベルをより正確に検知する。さらに、上述した遠心力基盤の微細流動構造物のみならず、回転体を含む糖化血色素を測定するための遠心力基盤の微細流動装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例に係る微細流動装置の構造を示した概略図である。
【図2】本発明の他の実施例に係る微細流動装置の構造を示した概略図である。
【図3】血色素のモル吸光係数と波長との関係を示したグラフである。
【図4】抗体に関して標準検量曲線を示し、x軸は、[全ての血色素の吸光度(At)− 血色素の濃度減少の吸光度(A1)]/抗体に関して全ての血色素の吸光度(At)の比率で、y軸は、HbA1c(%)である。
【図5】ボロネート親和性に関して標準検量曲線を示し、x軸は、[全ての血色素の吸光度(At)−血色素の濃度減少の吸光度(A2)]/ボロネート親和性に関して全ての血色素の吸光度(At)の比率で、y軸は、HbA1c(%)である。
【図6】HbA1c(%)の測定方法の一部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の利点、特徴及びこれを行う各方法は、下記の望ましい例示的な具体例に対する詳細な説明及び添付の各図面を参照することによってより容易に理解できるだろう。しかし、本発明の一つ以上の例示的な具体例は、多様な形態で実施することができ、ここで言及した例示的な具体例のみに限定して構成されるものではない。
【0034】
糖化血色素測定用微細流動構造物及びこれを有する遠心力基盤の微細流動装置は、血色素分子間の構造的な差に根拠した免疫吸着アッセイとボロネート親和性測定(boronate affinity measurements)を一つのデバイスで同時に実施することによって糖化血色素を測定し、血色素の変異体を検知することができる。
【0035】
本発明の一側面によると、遠心力基盤の微細流動構造物は、複数のチャンバーと、前記各チャンバーを互いに連結する通路と、前記各通路を開閉するためのバルブとを含み、前記微細流動構造物は、他のチャンバーと異なるHbA1c親和性粒子を収容する少なくとも二つのチャンバー、及び対照チャンバーをさらに含む。
【0036】
図1は、本発明の一側面に係る微細流動装置の構造を示した概略図である。
【0037】
すなわち、図1は、多様な分析に必要なバッファ液を貯蔵するチャンバー120と、生物学的及び/又は化学的反応を行うための各チャンバーと、血液サンプルを収容する試料チャンバー110と、処理された流体及びバッファ液を移送させるための流体通路と、これら流体通路を開閉するためのバルブとを含む微細流動装置の一つの例示的な具体例の構成を示す。
【0038】
図1を参照すると、本発明の一つの具体例で使用された回転体は、円形のディスクタイプのプラットホームであり得る。しかし、回転体の形状がこれに限定されることはない。このようなプラットホームは製造が容易で、その表面を生物学的に非活性アクリル又は他のプラスチック素材を用いて形成することができる。しかし、回転体を製造するための原料は特別に限定されなく、化学的又は生物学的安定性、光学的透明性及び/又は機械的加工性を有する素材であれば如何なる素材も含むことができる。
【0039】
プラットホームには、一つ又は複数の微細流動構造物を準備することができる。例えば、プラットホームを複数の領域に分けた後、それぞれの微細流動構造物を各領域ごとに互いに独立的に置くことができる。
【0040】
前記回転体は、プラスチック、PMMA(Polymethylmethacrylate)、ガラス、雲母、シリカ、又はシリコンウェハ材料などの多様な材料から選ばれた少なくとも一つを用いて製造することができる。望ましくは、プラスチック材料が経済的利点及び加工容易性を考慮して使用される。使用可能なプラスチック材料としては、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートなどを挙げることができる。これらのうち、ポリプロピレン及びポリカーボネートが望ましく使用され、ポリカーボネートがより望ましく使用される。
【0041】
血液サンプル、血液サンプル混合物、バッファ液、反応液などは、前記回転体の回転によって発生する遠心力を用いて各チャンバーに移送することができる。
【0042】
微細流動構造物100は、前記回転体に位置し、試料チャンバー110と、例えば、血液サンプルから血色素を分離するバッファーを収容するバッファーチャンバー120と、バッファーチャンバーで溶血した血液サンプルが以前に計量された体積で注入される第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150と、第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150にそれぞれ連結され、遠心力によって沈降された溶血した血液サンプルの一部を含む第1〜第3の沈降チャンバー160、170、180と、第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150にそれぞれ連結され、第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150の上清液を含む第1〜第3の検出チャンバー190、200、210と、各チャンバーを連結する通路と、各チャンバーを開閉するためのバルブとを含む。
【0043】
試料チャンバー110とバッファーチャンバー120との間にはバルブ220を配置することができる。バルブ220は、試料チャンバー110とバッファーチャンバー120との間のチャンネル内の血液サンプルの流れを制御する。バルブは、異なるタイプの微細流動バルブから選ばれたいずれか一つであり得る。例えば、バルブ220は、外部の動力によってバルブを開放する前には流体が流れないようにするために、バルブのチャンネルを閉鎖しているノーマルクローズバルブ(normally closed valve)であり得る。
【0044】
バッファーチャンバー120は、試料チャンバー110に収容された血液サンプルの溶血のための赤血球溶血バッファー(red blood cell lysis buffer)を収容する。赤血球溶血バッファーは、一般的に使用される赤血球溶血剤を含むことができ、例えば、界面活性剤を含んでいるバッファー溶液である20mMのHEPES(N―2―Hydroxyethylpiperazine―N’―2―ethane sulfonic acid;pH8.1)と、1MのTris(pH7.6)10ml、MgCl5ml、NaCl10ml、蒸溜水975mlなどで製造した赤血球溶解緩衝溶液とを含むことができる。溶血した血液サンプルは、血色素、糖化血色素の他に、白血球、血小板などの他の血球及び血漿成分を収容する。
【0045】
溶血した血液サンプルは、バッファーチャンバー120から第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150に一定に計量された体積で導入される。
【0046】
血液サンプルの計量された体積を第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150に注入するために、バッファーチャンバー120と各チャンバー130〜150との間での溶血した血液サンプルの移動距離などのパラメーターを制御し、等加速円運動で回転体内の各チャンバー130〜150に、等体積の血液サンプルを同時に注入することができる。
【0047】
また、他の実施例を示す図2に示したように、微細流動構造物において、等体積の血液サンプルを注入するために、計量チャンバー300、301、320は、バッファーチャンバー120と第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150との間にそれぞれ置くことができる。各計量チャンバー300〜320は、測定に必要な溶血した血液サンプルの望ましい量を収容するのに十分な体積を有する。この場合、計量チャンバー300〜320の出口には、溶血した血液サンプルの流れを制御するためのバルブが固定され、これら各バルブは、図1を参照して説明したバルブ220と同一のノーマリークローズバルブであり得る。計量チャンバー300〜320は、各チャンネルを介して第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150とそれぞれ連結される。
【0048】
第1のチャンバー120は第1のHbA1c親和性粒子を収容し、第2のチャンバー130は第2のHbA1c親和性粒子を収容し、これら親和性粒子は、溶血した血液サンプル内のHbA1cと結合される。
【0049】
第1及び第2のHbA1c親和性粒子は、遠心力によってHbA1c粒子とHbA1cとの混合又は結果的に結合したHbA1c(例えば、粒子に結合されるHbA1c)の沈降を行うのに十分な比重を有する固体担体と結合することができる。
【0050】
このような固体相は、例えば、マイクロパーティクル、磁性パーティクル、チューブなどを含むが、これに限定されることはない。また、固体相は、アガロース、セルロース、セファロース、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(polymethylmetacrylate;PMMA)、ポリビニルトルエン、ポリアクリルアミド、ラテックス、シリカ、ガラスなどで形成できるが、固体相の物質は、HbA1c粒子とHbA1cとの混合及び/又は結果的に結合したHbA1c(例えば、粒子に結合されるHbA1c)の沈降を行うのに十分な比重を有するものであれば特別に制限されない。
【0051】
また、第1及び第2のHbA1c親和性粒子は、親水性表面特性を有することができる。親水性表面特性のため、溶血した血液サンプル内の血色素は、第1及び第2のHbA1c親和性粒子と容易に結合される。固体相は、例えば、アルデヒド、脂肪性アミン、芳香性アミン、アミド、カルボン酸、スルフヒドリル、クロロメチル、エポキシ、ヒドラジド、ヒドロキシなどの親水性作用基を有する物質からなり得る。また、固体相の表面は、親水性表面特性を有するように処理することもできる。
【0052】
また、第1及び第2のHbA1c親和性粒子は、各チャンバーで液体又は乾燥状態で存在し得る。液体状態で存在するとき、第1及び第2のHbA1c親和性粒子の濃度は0.01〜10wt%であり得る。
【0053】
HbA1c親和性粒子の大きさは、各チャンバーを連結する通路の直径の1/10以下であり得る。一般的に通路は50〜500μmの直径を有するので、HbA1c親和性粒子の直径は5〜50μmであり得る。
【0054】
より詳細に、第1のHbA1c親和性粒子は、粒子の表面に固定された、HbA1cと選択的に結合する抗体を有することができる。
【0055】
抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及び抗原結合位置(antigen binding site)又は相補性決定領域(complementarity determining region;CDR)を有する抗体断片から選ぶことができる。
【0056】
また、第2のHbA1c親和性粒子は、粒子の表面に固定されるボロン酸、ボロネート又はボロネート誘導体を含むことができ、このようなボロン酸、ボロネート又はボロネート誘導体はHbA1cのcis-ジオール基と結合する。ボロネート又はボロネート誘導体の例としては、4―カルボキシフェニルボロン酸(4―carboxyphenyl boronic acid)、3―ニトロ―5―カルボキシフェニルボロン酸(3―nitro―5―carboxy phenyl boronic acid)、m―アミノフェニルボロン酸(m―aminophenyl boronic acid)、4―メルカプトフェニルボロン酸(4―mercaptophenyl boronic acid)、チオフェン―3―ボロン酸(thiophene―3―boronic acid)、フェニルボロン酸末端アルカンチオール(phenyl boronic acid terminated alkane thiol)から選ぶことができるが、これに限定されることはない。
【0057】
糖化血色素は、グルコースがβチェーン基盤のバリン(valine)末端アミンに共有結合された形態で二つのβチェーンにそれぞれ結合されたcis-diolを有する。このcis-ジオール基にボロン酸、ボロネート又はボロネート誘導体などのボロネート部分が結合される。
【0058】
第1及び第2のチャンバー内に収容された第1及び第2のHbA1c親和性粒子を溶血した血液サンプル内のHbA1cに結合するために、溶血した血液サンプルは、十分な期間の間(例えば、3〜15分)第1及び第2のHbA1c親和性粒子と接触するようになる。その後、第1及び第2のチャンバー130、140内の結合したHbA1c(例えば、HbA1cと第1のHbA1c親和性粒子との複合体、及びHbA1cと第2のHbA1c親和性粒子との複合体)は、微細流動構造物の回転によって第1及び第2の沈降チャンバー160、170にそれぞれ沈降される。このとき、第1及び第2のチャンバーの第1の出口に設けられたバルブ240、250を開放した後、微細流動装置を回転させる。第3のチャンバー(対照チャンバー)150は、溶血した血液サンプルのみを収容し、結合したHbA1cの沈降は発生しない。
【0059】
本発明の他の実施例によると、結合したHbA1cが第1及び第2のチャンバー130、140から第1及び第2の沈降チャンバー160、170に沈降されるとき、溶血した血液サンプル内に存在する血色素より比重の大きい他の血液構成成分(例えば、白血球)を対照チャンバー150から第3の沈降チャンバー180に沈降させることができる。このような構成成分の追加的な沈降は、抗体又はボロネート部分と接触しなくなる溶血した血液サンプル内の全ての血色素の吸光度をより正確に測定するために行うことができる。
【0060】
このとき、第1〜第3の沈降チャンバー160〜180は、回転中心から半径方向に等間隔に位置し得る。
【0061】
第1及び第2のチャンバー130、140から第1及び第2の沈降チャンバー160、170にHbA1c親和性粒子と結合したHbA1cの沈降を完了すると、バルブ240、250、又は必要に応じてバルブ260を閉鎖し、流体の流れを停止させる。各バルブ240〜260は、上述したバルブ220と同一のノーマリークローズバルブであり得る。
【0062】
その後、第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150の上清液は、血色素及び各上清液に収容される自由HbA1cを含む血色素の濃度を測定するために第1〜第3の検出チャンバー190、200、210に移送することができる。より詳細に、第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150の第2の出口に設けられたバルブ270、280、290を開放した後、微細流動構造物を回転させる。また、バルブの開放と同時に微細流動構造物を回転させたり、微細流動構造物を回転させた後でバルブを開放することもできる。また、前記第1〜第3の検出チャンバー190、200、210は、回転中心から半径方向に等間隔に位置し得る。
【0063】
第1〜第3の検出チャンバー190、200、210では、移送した上清液の吸光度を測定する。
【0064】
図3は、血色素のモル吸光係数と波長との関係を示すグラフである。図3に示すように、血色素によって吸収される400〜600nmでの光を用いて血色素の吸光度を測定することができる。血色素による400〜600nmでの吸光度は、血色素の糖化可否とは関係なく、試験サンプル内に収容された血色素のレベルのインジケーターである。そのため、サンプルが血色素及び糖化血色素を全て収容するとき、吸光度は、血色素及び糖化血色素の総量の濃度に比例する。
【0065】
より詳細に、第1の検出チャンバー190では、抗体に結合されるHbA1cの沈降による血色素の濃度減少を測定することができ、第2の検出チャンバー200では、ボロネート部分に結合されるHbA1cの沈降による血色素の濃度減少を測定することができ、第3の検出チャンバー210では、全ての血色素の濃度を測定することができる。
【0066】
第1の検出チャンバー190では、抗体結合に対する血色素の濃度減少を示す吸光度A1を得ることができ、第2の検出チャンバー200では、ボロネート部分結合に対する血色素の濃度減少を示す吸光度A2を得ることができる。また、第3の検出(対照)チャンバー210では、全ての血色素(如何なる減少もない)の吸光度Atを得ることができる。
【0067】
後述するように、第3の検出チャンバー210内の吸光度Atと、第3の検出チャンバー210内の吸光度Atに対する前記第1の検出チャンバー190内の吸光度A1との間の差の比率、又は、第3の検出チャンバー210内の吸光度Atと、第3の検出チャンバー210内の吸光度Atに対する第2の検出チャンバー200内の吸光度A2との間の差の比率を標準検量曲線(図4及び図5)に代入し、全ての血色素内のHbA1cのパーセント(例えば、糖化血色素+非糖化血色素)を指示することができる。
【0068】
一方、一実施例において、遠心力を用いた流体の移送経路を考慮すると、前記微細流動構造物の各チャンバーは回転体内に配置され、図1及び図2に示すように、試料チャンバー、収容チャンバー及び検出チャンバーが回転体の中心軸から外周に向けて半径方向に配置される。
【0069】
本発明の他の側面によると、遠心力基盤の微細流動装置を用いたHbA1cの測定方法を提供し、この方法は、固定化した抗糖化血色素抗体を含む第1の反応チャンバー、糖化血色素におけるcis-ジオール基を結合できる固定化したボロン酸化合物を含む第2の反応チャンバー、及び固定化した抗糖化血色素抗体及び固定化したボロン酸化合物のない第3の反応チャンバーを含む微細流動装置を提供すること;固定化した抗糖化血色素抗体及び固定化したボロン酸化合物が溶血した血液サンプル内の糖化血色素と結合するのに十分な時間の間、第1の反応チャンバー内の固定化した抗糖化血色素抗体及び第2の反応チャンバー内の固定化したボロン酸化合物とそれぞれ接触させること;溶血した血液サンプルから結合した糖化血色素を分離し、抗糖化血色素抗体に結合された糖化血色素が除去される溶血した血液サンプルの第1の上清液、及びボロン酸化合物に結合された糖化血色素が除去される溶血した血液サンプルの第2の上清液を提供すること;前記第1の上清液、第2の上清液、及び未反応の溶血した血液サンプルの吸光度をそれぞれ測定すること;下記の第1の式を用いて第1の上清液に関して第1の吸光度比を算出し、抗体に結合された糖化血色素に関して標準検量曲線から第1のHbA1cレベル(%)を得ること;下記の第2の式を用いて第2の上清液に関して第2の吸光度比を算出し、ボロネート化合物に結合された糖化血色素に関して標準検量曲線から第2のHbA1cレベル(%)を得ること;及び前記第1のHbA1cレベル(%)と第2のHbA1cレベル(%)とを比較すること;を含む。
【0070】
第1の式:第1の吸光度比={(未反応の溶血した血液サンプルの吸光度−第1の上清液の吸光度)/未反応の溶血した血液サンプルの吸光度}
【0071】
第2の式:第2の吸光度比={(未反応の溶血した血液サンプルの吸光度−第2の上清液の吸光度)/未反応の溶血した血液サンプルの吸光度}
【0072】
前記方法は、前記各段階の間に、未反応及び/又は非反応の物質を除去するための洗浄段階をさらに含むことができる。
【0073】
以下では、前記微細流動装置を用いたHbA1cの測定方法を詳細に説明する。
【0074】
<試料の注入>
本実施例の微細流動装置には、検査のためのバッファーと洗浄液が予め注入される。すなわち、バッファーチャンバー120は、血液サンプルの溶血のための赤血球溶血バッファーを収容する。洗浄液チャンバー(図示せず)は洗浄液を収容する。また、第1のチャンバー130は、HbA1cに選択的に結合する抗体が表面に固定されたHbA1c親和性粒子を収容し、第2のチャンバー140は、HbA1cのcis-ジオール基と結合するボロン酸、ボロネート又はボロネート誘導体などのボロネート部分(ボロン酸化合物と総称する。)が表面に固定されるHbA1c親和性粒子を収容する。このような第1及び第2のHbA1c親和性粒子が液体状態で存在するとき、HbA1c親和性粒子の濃度は0.01〜10wt%である。抗体又はボロネート部分が固定化された粒子は、球状、平面、又は起伏のある表面及び不整形状から選ぶことができ、球状表面は、ビード、菱形又は不整形からなる群から選ぶことができる。ビードは、少なくとも0.5〜100μmの大きさを有することができる。既に述べたように、粒子には、親水性を増加させるための既知の方法を用いて表面処理を行うことができる。
【0075】
HbA1cを測定するために、全血の5〜20μlだけの少量が使用される。被検者から採取された血液サンプルは、微細流動装置の試料チャンバー110に注入される。
【0076】
<血液溶血>
微細流動装置を回転させ、血液サンプルを試料チャンバー110からバッファーチャンバー120に移送させる。血液サンプルは、バッファーチャンバー120内に収容された赤血球溶血バッファー溶液によって溶血される。このとき、血液サンプルとバッファー溶液とを均一に混合するために、微細流動装置を回転させたり、上下に揺らすこともできる。
【0077】
<収容チャンバー及び対照チャンバーへの血液サンプルの移送>
微細流動装置を回転させると、バッファーチャンバー120内の溶血した血液サンプルは、第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150に移送される。
【0078】
第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150には、正確に測定された量(以前に計量された体積)の溶血した血液サンプルが注入されなければならない。このためには、上述したように、バッファーチャンバー110と第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150との間の通路の直径及び/又は長さなどの制御パラメーターを調整し、各チャンバーに同一量で血液サンプルを注入する。また、血液サンプルの以前に軽量された体積は、図2に示したように、バッファーチャンバー110と第1及び第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150との間の各通路の中間に設置された計量チャンバー300、310、320を通して導入される。
【0079】
<結合反応>
バッファーチャンバー110から第1及び第2のチャンバー130、140に移送された溶血した血液サンプルは、各チャンバー130、140にそれぞれ収容される第1及び第2のHbA1c親和性粒子と接触するようになる。
【0080】
微細流動装置の回転は、溶血した血液サンプルがHbA1c親和性粒子と混合されるように促進することができる。HbA1cに選択的に結合する、表面に固定化される抗体を含む第1のチャンバー130内のHbA1c親和性粒子は、第1のHbA1cの試験を受ける溶血した血液サンプルと混合される。また、粒子に固定化されるボロン酸、ボロネート又はボロネート誘導体などのボロネート部分を含む第2のチャンバー140内のHbA1c親和性粒子は、HbA1cの試験を受ける溶血した血液サンプルと25〜37℃から選ばれる特定温度で3〜15分間混合される。
【0081】
<沈降段階>
溶血した血液サンプル内のHbA1cが第1及び第2のチャンバー130、140内の親和性粒子と結合される前記段階が完了すると、バルブ240、250を開放する。微細流動装置の回転により、第1及び第2のチャンバー130、140内のHbA1c親和性粒子とHbA1cとの複合体が第1及び第2の沈降チャンバー160、170内に沈降される。上述したように、HbA1c親和性粒子が、遠心力下でHbA1c粒子と溶血した血液サンプルとの均一な混合及び結果としてのHbA1cと粒子との複合体の沈降を行うのに十分な比重を有する固体相と結合されるので、結果としての複合体は、溶血した血液から容易に分離され、微細流動装置の回転によって第1及び第2の沈降チャンバー160、170に沈降される。
【0082】
また、バルブ240、250を開放すると同時に、バルブ260を開放することができる。対照チャンバー150及び第1及び第2のチャンバー130、140に同一の遠心力が適用され、対照チャンバー150内の溶血した血液サンプルに存在する白血球などの血色素より比重の大きい血液成分を第3の沈降チャンバー180に沈降させることができる。これによって、後述する全ての血色素(血色素+糖化血色素)の吸光度を精密に測定することができる。
【0083】
<検出段階>
沈降段階が完了すると、バルブ270〜290を開放し、微細流動装置を回転させる。
【0084】
その結果、第1〜第2のチャンバー130、140及び対照チャンバー150内に残っている上清液が第1〜第3の検出チャンバー190、200、210に移送される。適切な検出器を用いて、各検出チャンバー190〜210内の血色素の吸光度を測定する。検出ユニット、すなわち、検出器は、吸光度を測定するための既知の光学系であり得る。例えば、単色光を放出するフォトダイオード及びLEDを含む光学系を使用することができる。このとき、血色素に特異的に吸光を示す400〜600nmの波長を有する光を用いて血色素の吸光度を測定することができる。図3は、血色素のモル吸光係数(波長)を示すグラフである。
【0085】
以上では、固定化した抗体と固定化したボロン酸化合物が、粒子及び結合したHbA1c(例えば、抗体又はボロン酸化合物が固定化された粒子に結合されるHbA1c)と結合されて沈降される段階を説明した。他の実施例では、抗体及びボロン酸化合物がチャンバーの内側上に固定化され、結合したHbA1cがチャンバー内に残る。そして、上清液のみが吸光度を測定するための検出チャンバーに移動する。他の実施形態では、抗体及びボロン酸化合物は、出口の内径より大きい直径を有する粒子の表面に固定化され、結合したHbA1cはチャンバー内に残る。そして、上清液のみが吸光度を測定するための検出チャンバーに移動する。
【0086】
図6は、HbA1cを測定する方法の一部を説明するフローチャートである。
【0087】
第1及び第2の検出チャンバー190、200では、HbA1c親和性粒子と結合されたHbA1cの沈降によって生じる血色素の濃度減少を光学的に測定する。
【0088】
したがって、第1の検出チャンバー190では、抗体親和性に関して血色素の濃度減少を示す吸光度A1を得ることができ、第2の検出チャンバー200では、ボロネート親和性に関して血色素の濃度減少を示す吸光度A2を得ることができる。また、第3の検出チャンバー210では、全ての血色素の吸光度Atを得ることができる(S101)。
【0089】
標準検量曲線を用いて、HbA1cのパーセントは、第3の検出チャンバー210内の吸光度Atと、第3の検出チャンバー内の吸光度Atに比べて減少した、前記第1の検出チャンバー190内の減少した血色素の吸光度A1との間の差(At−A1)の比率、及び/又は第3の検出チャンバー210内の吸光度Atと、第3の検出チャンバー内の吸光度Atに比べて減少した、前記第2の検出チャンバー200内の減少した血色素の吸光度A2との間の差(At−A2)の比率を適用することによって測定することができる。
【0090】
図4は、抗体に関して標準検量曲線を示し、x軸は、[全ての血色素の吸光度(At)−血色素の濃度減少の吸光度(A1)]/抗体に対する全ての血色素の吸光度(At)の比率で、y軸は、HbA1c(%)である。図5は、ボロネート親和性に関して標準検量曲線を示し、x軸は、[全ての血色素の吸光度(At)−血色素の濃度減少の吸光度(A2)]/ボロネート親和性に関して全ての血色素の吸光度(At)の比率で、y軸は、HbA1c(%)である。
【0091】
図4及び図5に示した標準検量曲線に(At−A1)/At比率及び(At−A2)/Atの比率を代入し、HbA1cレベル(%)を算出することができる。
【0092】
以下では、図4の標準検量曲線を作成し、作成された標準検量曲線を用いてHbA1cレベル(%)を算出する例を説明する。
【0093】
いくつかの血液サンプルを既知のHbA1cレベルで試料チャンバー110に注入した後、上述した方法によって抗体を基準にする第1〜第3の検出チャンバー190〜210内の吸光度を測定する。本実施例では、4個の血液サンプルで第1〜第3の検出チャンバー190〜210内の吸光度を測定する。
【0094】
下記の表1に示すように、(At−A1)/Atの値を測定することができる。
【0095】
【表1】

【0096】
前記表1の1〜4の結果を用いて、図4に示すような標準検量曲線を作成することができる。
【0097】
未知のHbA1c濃度で血液サンプルを試料チャンバー110に注入した後、前記方法によって作成された標準検量曲線を用いて検出チャンバー190内の吸光度A1及び第3の検出チャンバー210内の吸光度Atを測定し、(At−A1)/Atを算出した後、算出された値を同一の検量曲線に代入し、最終的に抗体に対するHbA1cを得る。本実施例では、(At−A1)/Atが0.224で、この値を図4の検量曲線に代入すると、7.0%のHbA1cを最終的に算出することができる。
【0098】
同一の方法で、第2及び第3の検出チャンバー200、210内の吸光度を測定し、ボロネート部分親和性を基準にするHbA1cレベルを図5の標準検量曲線を用いて算出することができる。
【0099】
抗体を基準にする第1のHbA1cレベル(%)と、ボロネート部分親和性を基準にする第2のHbA1cレベル(%)とを互いに比較する。
【0100】
血液サンプルがcis-ジオール基を収容する物質を含む場合、第1のHbA1cレベル(%)が第2のHbA1cレベル(%)より高い。一方、血色素の変異体が血液サンプルに存在する場合、第1のHbA1cレベル(%)が第2のHbA1cレベル(%)より小さい。
【0101】
【表2】

【0102】
表2に示すように、血液サンプルがcis-ジオール基を収容する物質を含む場合、第1のHbA1cレベル(%)が第2のHbA1cレベル(%)より高い。一方、血色素の変異体が血液サンプルに存在する場合、第1のHbA1cレベル(%)が第2のHbA1cレベル(%)より小さい。
【0103】
第1のHbA1cレベル(%)と第2のHbA1cレベル(%)とを比較した結果、血液サンプル内へのcis-ジオール基を収容する干渉物質及び/又は血色素の変異体の存在有無及び/又は血色素の変異体の存在有無を検出することができる。
【0104】
第1のHbA1cレベル(%)が第2のHbA1cレベル(%)より高い場合(S103の「はい」)、血液サンプル内にHbA1c以外の糖類などの干渉物質が存在すると判断することができる(S104)。一方、第1のHbA1cレベル(%)が第2のHbA1cレベル(%)より低い場合(S105の「はい」)、血液サンプル内に血色素の変異体が存在すると判断することができる(S106)。このような判断結果は検査者に提供し、検査者は適切な措置を取ることができる。
【0105】
また、第1のHbA1cレベル(%)が第2のHbA1cレベル(%)と実質的に同一であるか、又はそれら間の差が有意でない場合(S105の「いいえ」)、血液サンプルが血色素の変異体を収容しないと判断することができる(S107)。
【0106】
第1及び第2のHbA1cレベル間の有意な差のための判断基準は、人種、地域などの個別グループの固有の特性を反映し、臨床実験を通して統計的に決定することができる。
【0107】
したがって、前記方法は、抗体を基準にするHbA1cレベル(%)及びボロネート親和性を基準にするHbA1cレベル(%)のみならず、血液サンプル内に血色素の変異体及び/又はHbA1cの正確な測定と干渉する糖類などの干渉物質が存在するかどうかに関する情報を提供する。血色素の変異体又は干渉物質が血液サンプルに存在する場合、検査者は、上述した情報に基づいてHLPCなどの追加的な分析を行い、正確かつ精密なHbA1cレベル(%)を測定することができる。一方、血色素の変異体/干渉物質が存在しないという結果が出た場合、前記方法によって測定したHbA1cレベル(%)を糖化血色素のパーセントとして規定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチャンバー;
前記各チャンバーを互いに連結する通路;及び
前記通路を開閉するためのバルブ;
を含み、
複数のチャンバーは、糖化血色素に第1の親和性を有する第1の物質を含む第1の反応チャンバー;
糖化血色素に前記第1の親和性とは異なる第2の親和性を有する第2の物質を含む第2の反応チャンバー;及び
前記第1の物質及び前記第2の物質が存在せず、対照チャンバーとして機能する第3の反応チャンバー;
を含む遠心力基盤の微細流動構造物。
【請求項2】
前記第1の物質は、抗糖化血色素抗体であり、前記第2の物質は、糖化血色素のcis-ジオール基への結合を可能にするボロン酸化合物である、請求項1に記載の遠心力基盤の微細流動構造物。
【請求項3】
前記第1の物質は粒子に固定化され、前記第2の物質は粒子に固定化される、請求項1に記載の遠心力基盤の微細流動構造物。
【請求項4】
前記第1の物質は、前記第1のチャンバーの内側上に固定化され、前記第2の物質は、前記第2のチャンバーの内側上に固定化される、請求項1に記載の遠心力基盤の微細流動構造物。
【請求項5】
前記粒子は、1.3〜2.0の比重を有する固体担体である、請求項3に記載の遠心力基盤の微細流動構造物。
【請求項6】
前記抗体はモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体である、請求項3に記載の遠心力基盤の微細流動構造物。
【請求項7】
前記第1の物質が固定化される前記粒子に結合する糖化血色素を収容する第1の沈降チャンバー;及び
前記第2の物質が固定化される前記粒子に結合する糖化血色素を収容する第2の沈降チャンバー;
をさらに含む、請求項3に記載の遠心力基盤の微細流動構造物。
【請求項8】
前記第1の物質が固定化される前記粒子に結合する糖化血色素を収容する第1の沈降チャンバー;及び
前記第2の物質が固定化される前記粒子に結合する糖化血色素を収容する第2の沈降チャンバー;
をさらに含む、請求項5に記載の遠心力基盤の微細流動構造物。
【請求項9】
前記第1の物質に結合する前記糖化血色素から分離される試験サンプルの上清液を収容する第1の検出チャンバー;
前記第2の物質に結合する前記糖化血色素から分離される試験サンプルの上清液を収容する第2の検出チャンバー;及び
前記第3の反応チャンバーから前記試験サンプルの上清液を収容する第3の検出チャンバー;
をさらに含む、請求項1に記載の遠心力基盤の微細流動構造物。
【請求項10】
前記第1、第2及び第3の反応チャンバーは、前記遠心力基盤の微細流動構造物の回転軸から等間隔を有して配置され、
前記第1、第2及び第3の検出チャンバーは、前記遠心力基盤の微細流動構造物の回転軸から等間隔を有して配置され、
前記第1、第2及び第3の検出チャンバーは、それぞれ前記第1、第2及び第3の反応チャンバーより回転軸から遠く半径方向に置かれる、請求項1に記載の遠心力基盤の微細流動構造物。
【請求項11】
回転体;
少なくとも一つの微細流動構造物;及び
検出ユニット;
を含む、遠心力基盤の微細流動構造物であって、
複数のチャンバー;
前記各チャンバーを互いに連結する通路;及び
前記通路を開閉するためのバルブ
;を含み、
前記複数のチャンバーは、糖化血色素に第1の親和性を有する第1の物質を含む第1の反応チャンバー;
糖化血色素に前記第1の親和性とは異なる第2の親和性を有する第2の物質を含む第2の反応チャンバー;及び
前記第1の物質及び前記第2の物質が存在せず、対照チャンバーとして機能する第3の反応チャンバー;
を含み、
前記微細流動構造物内の流体は、前記回転体の回転によって発生する遠心力を用いて移送される、遠心力基盤の微細流動装置。
【請求項12】
前記検出ユニットは、単色光を放出する光学系を有し、
前記光学系は、400〜600nmの波長を有する光を用いて前記第1〜第3の検出チャンバーのそれぞれの吸光度を測定する、請求項9に記載の遠心力基盤の微細流動装置。
【請求項13】
遠心力基盤の微細流動装置を用いた糖化血色素の測定方法であって、
固定化した抗糖化血色素抗体を含む第1の反応チャンバー、糖化血色素におけるcis-ジオール基を結合できる固定化したボロン酸化合物を含む第2の反応チャンバー、及び前記固定化した抗糖化血色素抗体及び前記固定化したボロン酸化合物が存在しない第3の反応チャンバーを含む微細流動装置を提供すること;
等体積の溶血した血液サンプルを、前記固定化した抗糖化血色素抗体及び前記固定化したボロン酸化合物が溶血した血液サンプル内の糖化血色素と結合するのに十分な時間の間、前記第1の反応チャンバー内の前記固定化した抗糖化血色素抗体及び前記第2の反応チャンバー内の前記固定化したボロン酸化合物とそれぞれ接触させること;
前記溶血した血液サンプルから前記結合した糖化血色素を分離し、前記抗糖化血色素抗体に結合された前記糖化血色素が除去される前記溶血した血液サンプルの第1の上清液、及び前記ボロン酸化合物に結合された前記糖化血色素が除去される前記溶血した血液サンプルの第2の上清液を提供すること;
前記第1の上清液、前記第2の上清液、及び未反応の溶血した血液サンプルの吸光度をそれぞれ測定すること;
下記の第1の式を用いて前記第1の上清液に関して第1の吸光度比を算出し、前記抗体に結合された前記糖化血色素に関して標準検量曲線から第1のHbA1cレベル(%)を得ること;
下記の第2の式を用いて前記第2の上清液に関して第2の吸光度比を算出し、ボロネート化合物に結合された前記糖化血色素に関して標準検量曲線から第2のHbA1cレベル(%)を得ること;及び
前記第1のHbA1cレベル(%)と前記第2のHbA1cレベル(%)とを比較すること;
を含む、糖化血色素を測定する方法:
第1の式:第1の吸光度比={(未反応の溶血した血液サンプルの吸光度−第1の上清液の吸光度)/未反応の溶血した血液サンプルの吸光度}
第2の式:第2の吸光度比={(未反応の溶血した血液サンプルの吸光度−第2の上清液の吸光度)/未反応の溶血した血液サンプルの吸光度}。
【請求項14】
前記第1のHbA1cレベル(%)が前記第2のHbA1cレベル(%)より小さいとき、前記血液サンプル内に血色素の変異体が存在するという情報を提供することをさらに含む、請求項13に記載の糖化血色素を測定する方法。
【請求項15】
前記第1のHbA1cレベル(%)が前記第2のHbA1cレベル(%)より大きいとき、前記血液サンプル内にcis-ジオール基に結合するための糖化血色素を備えた物質が存在するという情報を提供することをさらに含む、請求項13に記載の糖化血色素を測定する方法。
【請求項16】
前記分離段階は、前記抗糖化血色素抗体に結合される糖化血色素及び前記ボロン酸化合物に結合される糖化血色素を第1の沈降チャンバー及び第2の沈降チャンバーにそれぞれ沈降させることをさらに含み、
前記第1及び第2の沈降チャンバーは、前記第1の反応チャンバー及び前記第2の反応チャンバーにそれぞれ連結される、請求項13に記載の糖化血色素を測定する方法。
【請求項17】
前記吸光度は、400〜600nmの波長を有する光を用いて測定する、請求項13に記載の糖化血色素を測定する方法。
【請求項18】
前記吸光度は、400〜600nmの波長を有する光を用いて測定する、請求項16に記載の糖化血色素を測定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−513794(P2013−513794A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543011(P2012−543011)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【国際出願番号】PCT/KR2010/008261
【国際公開番号】WO2011/071256
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(503447036)サムスン エレクトロニクス カンパニー リミテッド (2,221)
【Fターム(参考)】