説明

糖尿病用米粒及びそれを用いた米飯

【課題】 血糖値を低下させ、或いは血糖値を一定の範囲内に維持する抗糖尿病作用を有する糖尿病用米粒及びそれを用いた米飯を提供する。
【解決手段】 本糖尿病用米粒は、米粒(精白米等)と米粒に付与された抗糖尿病作用を有するアラビノガラクタンとを備える。上記アラビノガラクタンは、β−1,6結合したガラクトース糖鎖がβ−1,3結合により高度に枝分かれした骨格を有し、骨格を構成するガラクトースに側鎖として(1)α−アラビノースがα−1,3結合、若しくは(2)α−アラビノシル(1→5)α−アラビノースがα−1,3結合するとともに、(3)α−ラムノシル(1→4)β−グルクロン酸が骨格の末端ガラクトースの一部若しくは全部にβ−1,6結合しており、ラムノース:グルクロン酸の構成比が1:0.7〜1.2、アラビノース:ガラクトースが1:1.8〜2.3、ラムノース:アラビノースが1:4.5〜6.5であるものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病用米粒及びそれを用いた米飯に関する。更に詳しくは、血糖値を低下させ、或いは血糖値を一定の範囲内に維持する抗糖尿病作用を有する糖尿病用米粒及びそれを用いた米飯に関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病において、最も深刻な問題となっているのは糖尿病と言える。厚生労働省の「平成14年糖尿病実態調査」によると、糖尿病患者及び糖尿病予備軍を合計するとその数は約1620万人にのぼると推計されており、増加の一途を辿っている。糖尿病を含め生活習慣病の増加は、食生活の変化が主な原因であると言われており、特に、脂肪摂取量の増加や食塩の過剰摂取が大きな原因として指摘されている。中でも、食物繊維の不足が深く関与していると考えられ、生活習慣病の予防や治療には食物繊維の十分な摂取が重要であり、1日当たり20〜30gの摂取が推奨されている。
【0003】
食物繊維には、それぞれセルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン等からなる不溶性食物繊維とコンニャクマンナン(グルコマンナン)、グアーガム(ガラクトマンナン)、アラビノキシラン、アラビノガラクタンなどからなる水溶性食物繊維があるが、両者ともこれまで人の消化酵素では分解されず、栄養的な価値もなく、しかも栄養素の利用効率を阻害する物質とみなされ食物の不要物として扱われてきた。しかし、腸内細菌叢の改善、消化管運動の活発化、糖質・脂質などの消化吸収を低下させるなどその有効性が次第に明らかになり、注目されるようになった。そのメカニズムは、未だ明らかにはされていないが、腸内細菌による発酵時に生じる短鎖脂肪酸などが体内のホルモン分泌調節をすることで、肝臓でのコレステロール合成や糖の代謝に影響を与えているのではないかと考えられている(J Am Diet Ass,103(1),86−96,2003、Diabetes care.,23(1),9−14,2000、Am J Gastroenterol.,85,549−553,1990)。この他にも、水溶性食物繊維は免疫活性、抗腫瘍活性など多くの生理機能を有することが明らかにされてきている(Carbohydr Polym.,25,269−276,1994、Phytochemistry,27(8),2511−2517,1988)。食物繊維の本質は多糖類であって、これら多糖類の中でも不溶性多糖類は高摂取量の必要性があると言われており、近年ではより低容量で効果が得られる水溶性多糖類に注目が注がれている。
【0004】
これまでに、水溶性多糖類であるガラクトマンナン(Nutr.Res.,20(9),1301−1307,2000)やアラビノキシラン(Clin. Exper.Pharm.Phys.,27(1−2),41−45,2000)が抗糖尿病作用を有することが明らかにされているが、同じく水溶性多糖類であるアラビノガラクタンについては、そのほとんどは免疫賦活作用を示す報告であって、わずかに、ガラクトース(Gal)がβ−1,3結合したガラクタンを主鎖に持ち、そのガラクタンの6位にβ−アラビノピラノース(Arap)とα−アラビノフラノース(Araf)がα−1,3結合したオリゴ糖やArafとGalがβ−1,3結合したオリゴ糖、GalとGalがβ−1,6結合したオリゴ糖が側鎖として結合したアラビノガラクタン(AGII)が糖尿病に有効であるとの報告がなされているに過ぎない(2001 IFT Annual Meeting)。
【0005】
アラビノガラクタンは、細分化されているが大別すると2つの種類に分類される。即ちペクチン性アラビノガラクタン(以下AG−Iタイプ)とアラビノ−3,6−ガラクタン(以下AG−IIタイプ)とに分類される。前者のAG−Iタイプは、ガラクトース(Gal)がβ−1,4結合したβ−1,4−ガラクタンを主鎖に持ち、その構成成分であるGal残基の3位に2個のα−アラビノフラノース(α−Araf)がα−1,5結合したオリゴ糖(α−Araf(5→1)α−Araf(5→)が結合した構造を有する。一方AG−IIタイプは、主にカラマツやアカシアの樹液などから得られ、アラビノ−3,6−ガラクタン構造を主鎖に持ち、Araf及びGalなどからなる側鎖が主鎖にβ−1,3結合しているものが多い。また、Ara及びGalの構成比率は植物種により大きく異なるが、一般的にはGalが多く含まれている。また、アラビノガラクタンには、主要構成糖であるAra、Galの他にフコース(Fuc)、ラムノース(Rha)、キシロース(Xyl)、グルクロン酸(GlcUA)などを含むものもあり、その構造は非常に多岐にわたる。また、当帰中のAGIIaは、ガラクトースがβ−1,6結合したβ−1,6−ガラクタンを主鎖に持ち、その構成成分であるGal残基の3位に、α−Arafや2個のα−Arafがα−1,5結合したオリゴ糖(α−Araf(5→1)α−Araf(5→)若しくはGalやα−ArafとGalがα−1,3結合したオリゴ糖(α−Araf(1→3)α−Gal(1→)が結合した構造を有している。
【0006】
このような状況下において、糖尿病治療においては、長期にわたる自己管理を必要とすることから、食事療法によるのが最も負担が少なく優れており、副作用や摂取容易性を考慮すれば、食品形態の抗糖尿病薬の開発が望まれるところである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願人は、既に特定のアラビノガラクタン(特に白甘藷由来のもの)がヒトに対する抗糖尿病作用を有することを見出し、抗糖尿病作用物質に関する出願(特願2004−135533)をしている。そして、更に鋭意検討を重ねた結果、上記のようなアラビノガラクタンを米粒に付与することにより、抗糖尿病作用を有する糖尿病用米粒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、血糖値を低下させ、或いは血糖値を一定の範囲内に維持する抗糖尿病作用を有する糖尿病用米粒及びそれを用いた米飯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1.米粒と、該米粒に付与された抗糖尿病作用を有するアラビノガラクタンと、を備えることを特徴とする糖尿病用米粒。
2.上記アラビノガラクタンは、β−1,6結合したガラクトース糖鎖がβ−1,3結合により高度に枝分かれした骨格を有し、該骨格を構成するガラクトースに側鎖として(1)α−アラビノースがα−1,3結合、若しくは(2)α−アラビノシル(1→5)α−アラビノースがα−1,3結合するとともに、(3)α−ラムノシル(1→4)β−グルクロン酸が上記骨格の末端ガラクトースの一部若しくは全部にβ−1,6結合しており、且つラムノース:グルクロン酸の構成比が1:0.7〜1.2であり、アラビノース:ガラクトースの構成比が1:1.8〜2.3であり、ラムノース:アラビノースの構成比が1:4.5〜6.5である上記1に記載の糖尿病用米粒。
3.上記アラビノガラクタンは、白甘藷の皮部分或いは塊根部分の水系抽出液を濃縮し、沈殿を除去して得られたものである上記1又は2に記載の糖尿病用米粒。
4.上記アラビノガラクタンは、白甘藷の皮部分或いは塊根部分の水系抽出液に低級アルコール若しくは低級ケトン処理を施し、沈殿を除去した後に、該低級アルコール若しくは低級ケトンを除去した水溶液の低分子部分を除去して得られたものである上記1又は2に記載の糖尿病用米粒。
5.上記アラビノガラクタンは、白甘藷の皮部分或いは塊根部分の水系抽出液に低級アルコール若しくは低級ケトン処理を施し、沈殿を除去した後に、該低級アルコール若しくは低級ケトンを除去した水溶液の低分子部分を除去し、得られた画分を弱塩基性イオン交換樹脂及び/又はゲルろ過によって精製して得られたものである上記1又は2に記載の糖尿病用米粒。
6.α−アミラーゼ抑制作用物質、α−グルコシダーゼ抑制作用物質、グルコース吸収抑制作用物質及びグルコース代謝促進物質のうちの少なくとも1種の機能性物質を更に備える上記1乃至5のいずれかに記載の糖尿病用米粒。
7.上記米粒が、玄米、胚芽米又は精白米である上記1乃至6のいずれかに記載の糖尿病用米粒。
8.上記アラビノガラクタンは、上記米粒を該アラビノガラクタンの溶液に浸漬させることによって、該米粒に付与されている上記1乃至7のいずれかに記載の糖尿病用米粒。
9.上記1乃至8のいずれかに記載の糖尿病用米粒を炊飯して得られる米飯であって、該米飯が、インスタント米飯、冷凍米飯又は乾燥米飯であることを特徴とする米飯。
【発明の効果】
【0009】
本発明の糖尿病用米粒は、血糖値を低下させ或いは血糖値を一定の範囲内に維持可能なアラビノガラクタンが米粒に付与されているため、安全に摂取することができる。このアラビノガラクタンは、グリコマンナンやアラビノキシランと同様に水溶性食物繊維の一種であるため、抗糖尿病作用だけでなく排便促進など他の食物繊維と同じような作用も同時に期待できる。
また、アラビノガラクタンの抗糖尿病作用とは異なる作用機作を有する、α−アミラーゼ抑制作用物質、α−グルコシダーゼ抑制作用物質、グルコース吸収抑制作用物質及びグルコース代謝促進物質のうちの少なくとも1種の機能性物質を更に備える場合には、より優れた抗糖尿病作用が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の糖尿病用米粒は、米粒と、この米粒に付与された抗糖尿病作用を有するアラビノガラクタンと、を備えることを特徴とする。
【0011】
上記「米粒」は特に限定されず、例えば、玄米、胚芽米及び精白米等が挙げられる。より健康に留意するのであれば、玄米、胚芽米が好ましく、特に玄米が好ましい。
【0012】
上記「アラビノガラクタン」は、どのように得られたものであってもよく、抗糖尿病作用(例えば、血糖値を低下させる作用、血糖値を一定の範囲内に維持する作用等)を備えるものであり、炊飯米の味を損なわなければ、純度等は特に限定されず(粗抽出物であってもよい)、精製品であっても、部分精製品であってもよい。
【0013】
本発明において、上記アラビノガラクタンは、β−1,6結合したガラクトース糖鎖がβ−1,3結合により高度に枝分かれした骨格を有し、この骨格を構成するガラクトースに側鎖として(1)α−アラビノースがα−1,3結合、若しくは(2)α−アラビノシル(1→5)α−アラビノースがα−1,3結合するとともに、(3)α−ラムノシル(1→4)β−グルクロン酸が上記骨格の末端ガラクトースの一部若しくは全部にβ−1,6結合しており、且つラムノース:グルクロン酸の構成比が1:0.7〜1.2であり、アラビノース:ガラクトースの構成比が1:1.8〜2.3であり、ラムノース:アラビノースの構成比が1:4.5〜6.5であるものとすることができる。
具体的には、ガラクトースがβ−1,6結合した糖鎖からなり、β−1,3結合によって高度に枝分かれした図1に示すような基本骨格を有する。即ち、ガラクトースがβ−1,6結合した主鎖に対して、ガラクトースがβ−1,6結合したオリゴ糖若しくはガラクトグリカンがβ−1,3結合した側鎖を多数有し、また、この側鎖に対してガラクトースがβ−1,6結合したオリゴ糖若しくはガラクトグリカンがβ−1,3結合した側鎖を有するというように、ガラクトースがβ−1,6結合した糖鎖がβ−1,3結合によって複雑に分岐した骨格を有している。その結果、比較的かさ高な構造を有するものとなっている。
【0014】
そして、このアラビノガラクタンは、図1に示すような基本骨格に対して、図2の(A)、(B)に示すように、3種の側鎖(1)、(2)及び(3)が結合している。側鎖(1)は末端α−アラビノース(α−Araf)であり、側鎖(2)は2個のアラビノース(アラビノフラノース)がα−1,5結合したオリゴ糖[α−アラビノシル(1→5)α−アラビノース、図2では、α−Araf(1→5)α−Araf(1→と示す]であり、側鎖(3)はラムノースがグルクロン酸にα−1,4結合したオリゴ糖[α−ラムノシル(1→4)β−グルクロン酸、図2では、α−Rha(1→4)β−GlcUA(1→と示す]であって、側鎖(1)及び(2)はそれぞれ上記骨格を構成するガラクトースに対してβ−1,3結合し、側鎖(3)はグルクロン酸が上記骨格を構成するガラクトースに対してβ−1,6結合している。
尚、側鎖(1)、(2)及び(3)の結合位置やガラクトース糖鎖の分岐位置は特に限定されないが、上記骨格を構成するガラクトースの約65〜75%に側鎖(1)及び側鎖(2)が結合し、上記骨格を構成するガラクトースの約5〜10%に側鎖(3)が結合しているものが好ましい。
【0015】
即ち、このアラビノガラクタンは、図1に示すようにガラクトースがβ−1,6結合した糖鎖に対して、ガラクトースがβ−1,6結合した糖鎖が随所でβ−1,3結合によって分岐するとともに、β−1,6結合したガラクトース糖鎖に対して図2(A)、(B)に示すように側鎖(1)又は(2)が随所で上記糖鎖のガラクトースにβ−1,3結合するとともに図2(B)に示すごとくガラクトースの糖鎖末端の一部若しくはその全てに側鎖(3)がβ−1,6結合した構造を有している。
【0016】
また、上記アラビノガラクタンの平均分子量は特に限定されないが、約1万〜50万であることが好ましく、より好ましくは約5万〜50万、更に好ましくは約10万〜20万である。尚、この平均分子量は、後述の実施例において述べる方法で求めた値を意味する。
【0017】
更に、上記アラビノガラクタンを構成する各々の成分の構成比は、ラムノース:グルクロン酸が1:0.7〜1.2(特に1:0.7〜1、更には1:0.8〜0.9)であり、アラビノース:ガラクトースが1:1.8〜2.3(特に1:1.9〜2.2、更には1:2〜2.2)であり、ラムノース:アラビノースが1:4.5〜6.5(特に1:5〜6、更には5.3〜5.8)であることが好ましい。
【0018】
上記アラビノガラクタンとしては、例えば、白甘藷などの甘藷類、大根、ほうれん草などの根菜類、朝鮮人参などの薬用植物類及び樹液等から抽出、分離することができる。
上記白甘藷は、その学名を「Ipomoea Batatas sp」といい、さつま芋(ヒルガオ科の草本「Ipomoea Batatas Poiret」)の一種であり、「シモン芋」、「カイアポ芋」及び「白サツマイモ」などと称される場合もある。本発明においては、白甘藷の塊茎、特にその皮から得られたものが好ましく用いられる。
【0019】
本発明におけるアラビノガラクタンは、例えば、白甘藷の皮部分或いは塊根部分の水系抽出液を濃縮し、沈殿を除去して得られたものとすることができる。また、沈殿除去前に、得られた濃縮液に低級アルコール若しくは低級ケトン処理を施してもよい。
更に、このアラビノガラクタンは、白甘藷の皮部分或いは塊根部分の水系抽出液に低級アルコール若しくは低級ケトン処理を施し、沈殿を除去した後に、この低級アルコール若しくは低級ケトンを除去した水溶液の低分子部分(例えば、10000Da程度以下)を除去して得られたものとすることができる。また、白甘藷の皮部分或いは塊根部分の水系抽出液に低級アルコール若しくは低級ケトン処理を施し、沈殿を除去した後に、この低級アルコール若しくは低級ケトンを除去した水溶液の低分子部分(例えば、10000Da程度以下)を除去し、得られた画分を弱塩基性イオン交換樹脂及び/又はゲルろ過によって精製して得られたものとすることができる。尚、上記水系抽出液は、濃縮液であってもよい。
【0020】
具体的には、例えば、図3に示す方法により得ることができる。まず、白甘藷、いわゆるカイアポイモの皮の乾燥物を破砕若しくは粉末にし、水を加える。アラビノガラクタンは主として塊茎の皮に多く存在していると考えられているので、収率の観点から原料には主として塊茎の皮が好ましく用いられる。もちろんイモ全体を原料として用いても差し支えなく、また、地上茎や全草を用いても差し支えない。他の植物等から抽出する場合も同様に、高い収率が見込まれる部分が好ましく用いられる。
【0021】
アラビノガラクタンは、水溶性多糖類の一種であるため、他の水溶性多糖類の抽出と同様にまず最初に水系の抽出溶媒が用いられる。この抽出溶媒としては、水が最も好ましく、エタノールなどの低級アルコール、アセトンなどの親水性溶媒や水にこのような親水性溶媒を加えたものでもよい。
また、抽出時には適宜、加温加熱してもよい。抽出方法も特に限定されず、ジューサーやミキサ等にかけて破砕・搾汁し、その後、遠心分離法やろ過等により不溶物を除去する。また、一度抽出した残燈に再度抽出溶媒を加えて、先の抽出液に加えてもよい。これらは、多糖類の一般的な抽出方法である。
【0022】
次に、得られた抽出液を脱イオン交換水にて透析する。脱イオン交換水にて透析することによって、不純物である抽出液中の塩類や単糖類などの低分子物質が除去される。使用する透析膜は排斥分子量が12000〜15000Da程度以上のものが好適である。これよりも小さな排斥(限界)分子量のものでも十分目的を達成できるが透析時間が長くなるので不利となる。また、12000〜15000Da程度の透析膜には透析効率のよい透析膜、即ちメンブレン当たりの透析孔の数が多いものが市販されており(例えば、フナコシ社製スペクトラバイオテックメンブレン/ポア2.1)、効率性が望まれるからである。また、透析によって沈殿物が生じる場合があるので、適宜遠心分離などにより沈殿物を取り除く。こうして、10000Da程度以下の低分子量である夾雑物を除去する。この工程は必須の工程ではないが、この工程を行うことにより以下の工程であるゲルろ過クロマトグラフィーにおける作業効率を著しく高めることができる。そして、得られた透析内液を用いて更に精製を進める。このとき、透析内液中の濃度は十分に高いものとは言えないので必要に応じて濃縮を行うのがよい。濃縮はエバポレータなどを用いて減圧下、好ましくは40℃程度の低い温度で行う。
【0023】
そして、得られた透析内液(濃縮液)に低級アルコール若しくは低級ケトンを用いて更に目的物質以外の不純物を沈殿除去する。この低級アルコールとしてはエタノールが、低級ケトンとしてはアセトンが好適である。この除去はアルコール等を加えても沈殿が生じなくなるまで繰り返され、その後、上清液を分取して、溶媒を除去して粗抽出物を得る。このとき、アルコール(エタノール、アセトン)濃度を次第に高めていくのが好ましい方法であって、アルコール濃度を少なくとも20v/v%以上にするのがよい。また、アルコール濃度が約60v/v%を超えないように注意する必要がある。アルコール濃度が約60v/v%を超えてしまうと目的とする物質が沈殿されてしまうおそれがあるので、アルコール濃度に留意しながら添加する。そして、上澄液を遠心分離等によって分取、濃縮して粗抽出物を得る。尚、本発明におけるアラビノガラクタンは、構成糖であるラムノースの含有量が比較的多いので、エタノール濃度を60v/v%程度にまで高めても沈殿を生じにくいが、低温下における操作では、エタノール濃度が低い場合でも目的物質が沈殿する場合(例えば、液温4℃では60v/v%エタノールで沈殿されてしまう。)もあるので注意が必要である。また、放置時間も長時間、例えば48時間程度放置すれば目的物が沈殿する場合があるので、好ましくは24時間程度の静置で沈殿を生じさせる。この精製手法は多糖類を精製するための一般的な手法であるが、ラムノース含有量の多さに鑑み、本発明におけるアラビノガラクタンが沈殿しない程度にアルコールを加えて不純物をほぼ沈殿除去した上で、最終段階にてアルコールを高濃度に添加し、目的物を沈殿させて粗抽出物を得ることもできる。
【0024】
そして、次にこの粗抽出物を更に分画して、目的となるアラビノガラクタンを得る。分画は、ゲルろ過クロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィーの組み合わせにより行われる。
【0025】
ゲルろ過クロマトグラフィーによる分画において、充填剤として、商品名「トヨパールHW−65S」(限界分子量デキストラン70〜130万、東ソー株式会社)や商品名「Sephacryl S−400HR」(限界分子量デキストラン1〜200万、球状タンパク2〜800万、アマシャムバイオサイエンス株式会社)が挙げられる。また、その溶離液は、用いる充填剤によっても異なるが、好ましくは水である。そして、溶出液について波長280nm及びフェノール硫酸による発色後波長490nmにおける各吸光度を測定し、波長280nmの紫外領域に吸収がなく490nmに吸収を示す、分子量約10〜20万Daに相当するピークを分取することが好ましい。
【0026】
次に、この分取された物質を、イオン交換樹脂により更に分画して目的となるほぼ単一な物質であるアラビノガラクタンを得る。このとき、用いられるイオン交換樹脂は、例えば、「DEAE−セファデックスA50」(アマシャムバイオサイエンス株式会社製)や「アンバーライトIRA96SB」、「アンバーライトIRA67」などに代表される弱塩基性イオン交換樹脂である。そして、イオン交換樹脂に捕捉されたアラビノガラクタンは、強イオン電解液で溶出される。
この強イオン電解液としては、イオン強度が100〜400mM、好ましくは150〜300mM、より好ましくは170〜230mM、特に好ましくは200mMの塩化ナトリウム水溶液、若しくはそのイオン強度に匹敵するものが好適である。このイオン強度が400mMを超えると目的物質以外の、例えば、タンパク質のような塩基性物質までもが一緒に溶出される可能性がある。また、この分画に際しても、溶出液の波長280nm及びフェノール硫酸による発色後の波長490nmにおける吸光度が用いられ、ほぼ単一のピークを示す画分として分取される。
【0027】
そして、分取された溶出液を例えば減圧濃縮後、凍結乾燥することにより、粉末状をしたほぼ単一な物質としてのアラビノガラクタンを得ることができる。
また、この糖の構成比は、上記述べたような比率である。尚、抗糖尿作用物質として実際に使用するためには、ゲルろ過クロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーによる両分画工程は必須ではなく、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーの一方のみとしてもよく、この工程を設けなくても差し支えないが、この工程を設けることで、より純度の高いアラビノガラクタンを得ることができる。
【0028】
また、本発明の糖尿病用米粒において、上記アラビノガラクタンは、上記米粒をこのアラビノガラクタンの溶液に浸漬させることによって、米粒に付与することができる。
上記アラビノガラクタンの溶液における溶媒としては、例えば、水、水と低級アルコール(例えば、エタノール等)又は低級ケトン(例えば、アセトン等)との混合液等が挙げられる。特に、糖尿病用米粒の大量生産時において、浸漬液の防菌、防黴の効果が得られるため、濃度が5〜20%のエタノール水を用いることが好ましい。
この溶液におけるアラビノガラクタンの含有量は、アラビノガラクタンの溶液を100質量%とした場合に、0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%、更に好ましくは1〜6質量%、特に好ましくは3〜6質量%である。このアラビノガラクタンの含有量が0.1〜20質量%である場合には、十分な量のアラビノガラクタンを付与することができる。
【0029】
また、上記浸漬の条件は特に限定されず、常圧下での処理であっても、減圧下での処理であっても、高圧下での処理であってもよい。これらのなかでも、減圧処理、高圧処理が好ましく、特に高圧処理が好ましい。高圧処理される場合には、本発明におけるアラビノガラクタンは米粒に含有されるアミロースに対して相溶性を有するものであるため、高圧で処理されることにより、アミロースとアラビノガラクタンとのコンプレックスが形成され、米粒の内部まで浸透し、米粒の表面だけでなく内部にもアラビノガラクタンを十分に付与することができる。
【0030】
例えば、常圧処理する際の温度は10℃以上であることが好ましく、より好ましくは10〜60℃、更に好ましくは15〜50℃、特に好ましくは20〜40℃である。処理時間は10分以上であることが好ましく、より好ましくは10〜120分、更に好ましくは20〜80分、特に好ましくは30〜60分である。
また、減圧処理する際の減圧度は0.05MPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.07MPa以下、更に好ましくは0.09MPa以下である。温度は10℃以上であることが好ましく、より好ましくは10〜60℃、更に好ましくは15〜50℃、特に好ましくは20〜40℃である。処理時間は2分以上であることが好ましく、より好ましくは2〜60分、更に好ましくは5〜40分、特に好ましくは10〜30分である。
更に、高圧処理する際の圧力は10気圧以上であることが好ましく、より好ましくは10〜8000気圧、更に好ましくは100〜8000気圧、特に好ましくは2000〜6000気圧である。温度は10℃以上であることが好ましく、より好ましくは10〜60℃、更に好ましくは15〜50℃、特に好ましくは20〜40℃である。処理時間は2分以上であることが好ましく、より好ましくは2〜60分、更に好ましくは5〜40分、特に好ましくは10〜30分である。
【0031】
また、本発明の糖尿病用米粒おいて、上記米粒には、α−アミラーゼ抑制作用物質、α−グルコシダーゼ抑制作用物質、グルコース吸収抑制作用物質及びグルコース代謝促進物質のうちの少なくとも1種の機能性物質を更に付与することができる。前記アラビノガラクタンとは異なる作用機序を有するこれらの機能性物質を更に付与した場合には、より優れた抗糖尿病作用が得られるため好ましい。尚、この機能性物質は、炊飯時に、各作用が失活されないものが適宜選択して用いられる。
上記α−アミラーゼ抑制作用物質としては、例えば、グアバ由来のポリフェノール、フォセオラン及び月桂樹葉エキス等が挙げられる。
上記α−グルコシダーゼ抑制作用物質としては、例えば、豆レクチン、ポリフェノール、桑葉抽出物、アラビノース及び豆鼓トリス等が挙げられる。
上記グルコース吸収抑制作用物質とは、腸管からのブドウ糖の吸収を抑制する作用を有するものである。このグルコース吸収抑制作用物質としては、例えば、難消化性デキストリン、ケフィラン、ポリデキストロース、ペクチン、アラビノキシラン、グルコノマンナン、ガラクトマンナン及びパインファイバなどの水溶性食物繊維、レイシやマイタケ由来のキノコ抽出多糖類、ギムネマ酸などのギムネマ抽出物、及びサイリウムなどのオオバコ抽出物等が挙げられる。
上記グルコース代謝促進物質としては、例えば、コロソース酸などのバナバ抽出液等が挙げられる。
【0032】
上記機能性物質を上記米粒に更に付与させる場合には、上記米粒を浸漬する際に、上記アラビノガラクタンの溶液に、予め溶解又は分散させておけばよい。この機能性物質がたとえ高分子であってもアミロースと相溶関係にある物質であれば、高圧処理した際に、機能性物質を米粒の表面だけでなく内部にも十分に付与することができる。
【0033】
機能性物質を付与する場合は、アラビノガラクタン及び機能性物質が共存する溶液を100質量%とした場合に、アラビノガラクタン及び機能性物質の含有量の合計が、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%、更に好ましくは1〜6質量%、特に好ましくは3〜6質量%である。尚、アラビノガラクタンの含有量は、通常、0.1質量%以上である。従って、アラビノガラクタンと異なる作用機作を有する上記機能性物質を共存させることによって、浸漬液に添加するアラビノガラクタンの量を軽減することができる。
【0034】
また、本発明の米飯は、上記本発明の糖尿病用米粒を炊飯して得られるものであり、この米飯が、インスタント米飯、冷凍米飯又は乾燥米飯であることを特徴とする。
上記「インスタント米飯」は、本発明の糖尿病用米粒を炊飯し、得られた米飯を凍結乾燥するか、本発明の糖尿病用米粒と水とを密閉可能なパックに入れ、加熱炊飯することで得ることができる。
上記「冷凍米飯」は、本発明の糖尿病用米粒を炊飯し、得られた米飯を急速に冷凍(例えば、−15℃以下)させることで得ることができる。
上記「乾燥米飯」は、本発明の糖尿病用米粒を炊飯し、得られた米飯を、急速熱風乾燥、凍結乾燥、膨化乾燥等などの方法により急速に乾燥させることで得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[1]糖尿病用米粒の作製(実施例1〜4)
〔実施例1〕
(1)アラビノガラクタンの精製
アラビノガラクタンは、図3に準じた精製工程を経ることにより得た。まず、白甘藷の皮乾燥粉末(皮破砕物)1kgに対し水10Lを加え、4時間室温にて攪拌抽出した。得られた混合液を遠心分離(7500rpm/30分間)して残燈を濾別した。次に、得られた抽出液を脱イオン水を用いて3日間室温にて透析を行った。透析は、商品名「ダイアライシスメンブランSize36」(ポアサイズ24Å、限界分子量12000〜14000Da、和光純薬工業株式会社製)の透析用チューブに前記抽出液を入れ、抽出液1Lに対し脱イオン水5〜6Lを用い、1日3回脱イオン水を交換することにより行った。そして、透析内液に生じた不溶部分は遠心分離(7500rpm/30分間)により除去した。
【0036】
上記沈殿除去した透析内液をエバポレータにて40℃程度で加温濃縮し、次いで約20v/v%の濃度となるようにエタノールを適量加え、4℃にて一晩静置した。生じた沈殿を遠心分離(7500rpm/30分間)により除去した。更に、その上清にエタノールを加えてアルコール濃度を約40v/v%とし上記と同様に静置して生じた沈殿を除去した。そして、再びエタノールを加えてアルコール濃度を約60v/v%にした上で1昼夜静置後(温度:4℃)、その上清液を分取して濃縮後凍結乾燥して粗多糖抽出物(3.8g)を得た。
【0037】
この粗多糖抽出物についてゲルろ過クロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーを行い、更に精製を行った。上記粗多糖抽出物の1w/v%水溶液(1g/100mL)を調製し、遠心分離(15000rpm/20分間)を行い、水溶性部分を分取した。これをゲルろ過クロマトグラフィーを用いて分画した。この分画は、担体に「トヨパールHW−65S」(東ソー株式会社製:880mLを4.5×700cmカラムに充填)を、溶出液に流速0.5mL/minの水を用いて、15mL/1チューブで行った。そして、このチューブにおける溶出液について、フェノール硫酸法(波長490nm)及びUV吸収(280nm)により、490nmに吸収を示し、波長280nmの紫外線領域に吸収がなく、分子量約10万〜20万Daに相当するピークを分取した。
【0038】
次に、分種された抽出物について、イオン交換クロマトグラフィーを行い更に精製を加えた。イオン交換樹脂に「DEAE−セファデックスA−50」(アマシャムバイオサイエンス株式会社製)を用い、上記抽出物を負荷した後、200mMの塩化ナトリウム水溶液で溶出させた。溶出は、流速0.5mLで行い、15mL/1チューブで溶出液を分取した。また、このチューブにおける溶出液について、フェノール硫酸法(波長490nm)及びUV吸収(280nm)により、490nmに吸収を示し、波長280nmの紫外線領域に吸収がなく、分子量約10万〜20万Daに相当するピークを分取した。尚、得られた抽出物の白甘藷皮乾燥物に対する収率は、約0.09%であった。
【0039】
次に、上記成分について、多角度光散乱検出器(MALLS)及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて分子量及び分子サイズを測定した。測定条件は次の通りである。使用したカラムはOH−pak SB−806MHQ(昭和電工株式会社製)、検出器は多角度光散乱検出器DAWN・E(Wyatt社製)及び示差屈折率検出器RI−8020(東ソー株式会社製)、カラム温度は室温(25℃)、移動相は200mMNaCl水溶液、サンプル濃度は1mg/mL(移動相で溶解したもの)、流速は0.5mL/min、注入量は100μLである。尚、注入時はシリンジにシリンジフィルター(ポアサイズ0.2μm)を装着、ろ過しながら注入した。その結果を図4に示す。図4から理解されるように、この物質の保持時間は約19分であって、ほぼ単一のピークであった。また、このものの分子量は小さいところでは約10万程度、大きなところでは約20万程度であって、その平均分子量は約13万程度であった。その分子量分布の幅は約20万程度と狭く、ほぼ単一のピークを示す高純度で比較的均質なものである。尚、ここにいう平均分子量は、上記測定装置を用いて測定して得られた当該物質を示す単一ピークにおける平均分子量を言う。
【0040】
本発明におけるアラビノガラクタンの構造を次のようにして確認した。まず、最初に構成糖の組成比を調べた。イオン交換クロマトグラフィーによる200mM溶出画分について、ギ酸及びトリフルオロ酢酸による完全加水分解後、HPAEC−PAD法により糖組成を確認した。測定条件は次のとおりである。使用カラムはCarboPac PA−1(4×250mm:日本ダイオネクス株式会社製)、溶出は0.2MNaOH(0→5分)の後、リニアグラジエント0→0.45M酢酸ナトリウム(in0.2N NaOH/5→35min)、流速は1.0mL/min、検出器はパルスドアンペロメトリ検出器である。その結果を図5及び表1に示した。その結果、Rha、Ara、Gal及びGlcUAは、1.2:6.7:14.1:1.0の比率で構成されていることが確認できた。
【0041】
【表1】

【0042】
次に、200mM塩化ナトリウム水溶液による溶出画分について、部分メチル化分析を行った。分析は、ガスマス分析計(GC−17A、GCMS−QP5000:株式会社島津製作所製)、DB−225GC用カラム(J&W Scientific社製:0.25μm×30m×0.25μm)、170℃5分、170→210℃(昇温速度2℃/min)のカラム昇温プログラム下、気化室温度230℃、検出器温度230℃の条件下で行った。その結果を図6及び表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
図6及び表2から理解されるように、本発明におけるアラビノガラクタンは、末端α−Araf若しくは末端Rha(ピーク1)及び末端Gal(ピーク3)、1,5結合を有するα−Araf(ピーク2)、1,3結合を有するGal(ピーク5)、1,6結合を有するGal(ピーク7)、1,3,6結合を有するGal(ピーク8)並びに1,3,5結合を有するGaI(ピーク4)の8種類の結合様式を有することが確認できた。尚、Rha由来のピークが検出されていないが、末端Arafとの保持時間が非常に近接し、両者が十分に分離されずに同位置に検出されたものと考えられる。
【0045】
次に、各糖の連結を確認するため各種NMRスペクトル(H、13C−NMR、H−HCOSY、HOHAHA、HMQC、HMBC)の解析を行った。まず、各糖のケミカルシフトを確認した。その結果を表3に示す。更に、この結果を元にHMBC解析(図7参照)を行い、図2に示す部分構造及び糖鎖の連結を確認した。即ち、Gal(ガラクトース)がβ−1,6結合をしたガラクトース鎖にβ−1,3結合で枝分かれしたガラクトース鎖を有し、その65〜75%のガラストースに(1)末端α−アラビノース(α−Araf)或いは(2)2個のアラビノース(アラビノフラノース)がα−1,5結合した2単糖のオリゴ糖[α−アラビノシル(1→5)α−アラビノース、図2では、α−Araf(1→5)α−Araf(1→と示す]がβ−1,3結合し、そして(3)ラムノースがグルクロン酸にα−1,4結合した2単糖のオリゴ糖[α−ラムノシル(1→4)β−グルクロン酸、図2では、α−Rha(1→4)β−GlcUA(1→と示す]がその5〜10%のガラクトースにβ−1,6結合している。
【0046】
【表3】

【0047】
(2)アラビノガラクタンの抗糖尿病作用
(血糖降下作用の確認)
5週齢のdb/dbマウス(雄性)を用いて血糖降下作用試験を実施した。飼育環境は、明暗周期を7:00−19:00照明ONの12時間周期とし、温度23〜24℃、湿度60〜70%RH条件下で、試験前1週間予備飼育を行った後、血糖値に群間有意差が出ないように2群(各群6匹)に分けた。投与群は無投与群(生理食塩水)と上記(1)で得たアラビノガラクタン投与群(20mg/kg)とにした。投与はゾンデによる5週間連続経口投与とした。試験期間中、飼料及び飲料水はともに自由摂取とした。投与前及び投与開始後1週間ごとにマウス尾静脈より採血を行い、得られた血清を用いて血糖降下作用の確認を行った。その測定結果を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
(耐糖能改善作用の確認)
血糖降下作用の確認試験終了後、各群にグルコースを2g/kgで経口投与し、0(糖負荷前)、60分後及び120分後と経時的にマウス尾静脈より採血を行い、血糖値の経時変化を調べた。その結果を表5に示す。尚、この試験は血糖降下作用試験終了後12時間絶食後に行った。
【0050】
【表5】

【0051】
表4及び表5の結果より、本実施例におけるアラビノガラクタンは、血糖降下作用及び耐糖能改善作用を有していることが確認できた。
【0052】
(3)アラビノガラクタンの米粒への付与(高圧処理)
上記(1)の方法に準じて精製したアラビノガラクタンを水に溶解させ、3質量%水溶液を調製した。その後、別々の密封ポリ袋にこの水溶液150mlと無洗精白米又は玄米100gとを入れ、密封した後、水を張った加圧機(石川島播磨重工業社製)に入れて6000気圧、温度20℃、処理時間10分の条件で高圧処理を行った。復圧後、内容物をザルに開け、浸漬液を除いた米粒を乾燥し、糖尿病用米粒を得た。
また、得られた糖尿病用米粒のアラビノガラクタンの含有量を後述の方法により測定した。その結果、精白米を用いた糖尿病用米粒におけるアラビノガラクタンの含有量は1.8質量%であった。また、玄米を用いた糖尿病用米粒におけるアラビノガラクタンの含有量は3.1質量%であった。
【0053】
(アラビノガラクタンの含有量の測定)
上記アラビノガラクタンの含有量は、AOAC(Association of Official Agricultural Chemists)の公定法に準じて、次のように測定した。
アラビノガラクタンを付与した米粒1gをトールビーカに採り、0.08Mリン酸緩衝液(pH6.0)50mlとターマミル120L(ノボザイムズ社製)0.1mlを加えて沸騰水浴中で30分間反応させる。放冷後、0.275MのNaOHを用いてpH7.5に調整し、プロテアーゼ P−5380(シグマ社製)を5mg加え、60℃、30分間振とう下で反応させる。放冷後、0.325MのHClでpH4.3に調整した後、アミログルコシダーゼ溶液 A−9913(シグマ社製)0.1mlを加え、60℃、30分間の振とう反応を行う。反応終了後、60℃に加温した95%エタノールを反応終了液の1.5倍量加え、室温にて1時間静置した後、セライト545を用いて吸引ろ過する。ろ過残渣を60%エタノール水20mlで3回、95%エタノール10mlで3回洗浄し、ろ液を全て回収してエバポレータ濃縮を行う。内部標準として使用するグリセリンを加えて100mlにフィルアップ(水を使用)した後、その50mlを脱塩し、エバポ濃縮して得られる液10mlを0.45μmのメンブランフィルタでろ過し、HPLC分析(カラム:ULTRON PS−80N、信和化工社製、温度:80℃、移動相:水、流量:0.3ml/min、検出:示差屈折計、サンプル注入量:20μl)を行う。使用したアラビノガラクタンについて予めHPLC分析を行い、その溶出位置を参考にして、内部標準の添加量及びピークの面積を指標にしてアラビノガラクタンのHPLC上の面積及び内部標準とのピーク比から計算によって水溶性食物繊維含有量を求める。
そして、アラビノガラクタン付与操作に使用した米粒について、アラビノガラクタンを添加しないで加圧処理した米粒について上記と同様な分析操作を行い、得られる水溶性食物繊維の含有量を上記の値から差しひくことによって、アラビノガラクタンの含有量を求めた。
【0054】
〔実施例2〕(浸漬方法によるアラビノガラクタン付与量の違い)
(常圧処理)
密封できるポリ袋に、実施例1と同様にして調製した3質量%のアラビノガラクタン水溶液150mlと無洗精白米100gを入れて密封し、温度25℃、処理時間30分の条件で浸漬した。その後、開封し、内容物をザルに開け、浸漬液を除いた米粒を乾燥し、糖尿病用米粒を得た。次いで、得られた糖尿病用米粒のアラビノガラクタンの含有量を上記と同様に測定した。その結果、この糖尿病用米粒のアラビノガラクタン含有量は1.0質量%であった。
(減圧処理)
実施例1と同様にして調製した3質量%のアラビノガラクタン水溶液150mlと無洗精白米100gをトレー(20cm×20cm×10cm)に入れ、このトレーを減圧メータ付きのデシケータ(乾燥剤を除去)に入れて真空機(ULVAC DA−20D、アルバック機工社製)で引き、減圧度0.06〜0.07MPa、温度25℃、処理時間10分の条件で減圧処理を行った(尚、減圧処理中、2度デシケータを振動させて米粒についている泡を除いた。)。次いで、常圧に戻した後、デシケータよりトレーを取り出し、ザルに開けて米粒を分け採り、米粒を乾燥して糖尿病用米粒を得た。その後、得られた糖尿病用米粒のアラビノガラクタンの含有量を上記と同様に測定した。その結果、この糖尿病用米粒のアラビノガラクタン含有量は1.2質量%であった。
(高圧処理)
密封できるポリ袋に、実施例1と同様にして調製した3質量%のアラビノガラクタン水溶液150mlと無洗精白米100gを入れて密封し、水を張った加圧機(石川島播磨重工業社製)に入れて1000気圧、温度25℃、処理時間10分の条件で高圧処理を行った。復圧後、内容物をザルに開け、浸漬液を除いた米粒を乾燥し、糖尿病用米粒を得た。その後、得られた糖尿病用米粒のアラビノガラクタンの含有量を上記と同様に測定した。その結果、この糖尿病用米粒のアラビノガラクタン含有量は1.4質量%であった。
以上のことから、高圧処理した場合に、最も多量のアラビノガラクタンを米粒に付与できることが分かった。
【0055】
〔実施例3〕(アラビノガラクタン+パインファイバ(グルコース吸収抑制作用物質))
実施例1と同様にして調製した1.5質量%のアラビノガラクタン水溶液150mlにパインファイバ(松谷化学工業社製)3.0gを入れて溶解した水溶液と玄米100gを密封ポリ袋に入れ、実施例1と同様にして高圧処理を行った。次いで、糖尿病用米粒のアラビノガラクタン及びパインファイバの含有量を上記と同様に測定した(尚、パインファイバの含有量も、上記アラビノガラクタンと同様の方法を用いて測定することができる。)。得られた糖尿病用米粒のアラビノガラクタンとパインファイバとの総和含有量は4.1質量%であった。
【0056】
〔実施例4〕(アラビノガラクタン+桑葉エキス(α−グルコシダーゼ抑制作用物質))
乾燥した桑葉50gを1Lの沸騰水に入れ、時々攪拌しながら5分間室温に置く。ろ過することにより、ろ液を得、このろ液をエバポレータで減圧濃縮し、生じた沈殿物を遠心除去して上澄液を得、水を足して50mlにフィルアップする。ポリ袋に、この濃縮液10mlと、3質量%のアラビノガラクタン水溶液140mlと、精白米100gを入れて密封する。高圧処理機に水を張り、このポリ袋を沈めて高圧処理を行う。液温20℃、4000気圧、処理時間10分の条件で高圧処理を行った。復圧後、ポリ袋の中身をザルに開けて浸漬液を除去し、乾燥機で乾燥することにより糖尿病用米粒を得た。その後、得られた糖尿病用米粒のアラビノガラクタンの含有量を上記と同様に測定した。その結果、この糖尿病用米粒のアラビノガラクタン含有量は1.6質量%であった。
また、α−グルコシダーゼ阻害活性は以下の方法で測定したところ、1gの糖尿病用米粒はα−グルコシダーゼ活性を90%以上阻害した。
【0057】
(α−グルコシダーゼ阻害活性の測定方法)
4%シュークロース水溶液0.4mlと酵素溶液0.5ml(調製方法:α−グルコシダーゼのアセトン粉末(シグマ社)50mgに0.1Mリン酸緩衝液、pH6.5を15ml加えて超音波処理を施した後、遠心上清液を使用する。)と水又は阻害剤水溶液0.1ml(調製方法:処理米1gを乳鉢に採り、よく砕いた後、水5mlを加えて懸濁し、遠心除沈によって得られる上清液を使用する。)を混合して37℃、30分間反応させる。反応終了は0.05NのNaOH溶液0.1mlに上記反応液0.1mlを加えることによって行い、この反応停止液0.1mlにグルコースCII−テストワコー(和光純薬工業社製)の3mlを加え、U−3010 spectrophotometer(日立製作所社製)を用い、所定の方法に準じて行った。
阻害%={(A30−A)−(S30−S)}×100/(A30−A
30:阻害剤水溶液の代わりに水を使用した時の反応30分後の吸光度
:阻害剤水溶液の代わりに水を使用した時の反応0分の吸光度
30:阻害剤水溶液が入った時の反応30分後の吸光度
:阻害剤水溶液が入った時の反応0分の吸光度
【0058】
〔実施例5〕(アラビノガラクタン+アラビノース(α−グルコシダーゼ抑制作用物質))
実施例1と同様にして調製した3質量%のアラビノガラクタン水溶液150mlにL−アラビノース(和光純薬工業社製)を3g加えて溶解した液と、無洗精白米100gを密封ポリ袋に入れて、温度30℃、減圧度0.06〜0.07MPa、処理時間10分の条件で減圧処理を行い、浸漬液を除いて乾燥することによって糖尿病用米粒を得た。この米粒のアラビノガラクタン及びアラビノースの含有量はそれぞれ1.3質量%及び1.6質量%であった。尚、アラビノガラクタンの含有量は、上記と同様に測定した。また、アラビノースの含有量は、次のように測定した。
【0059】
(アラビノースの含有量の測定)
前記アラビノガラクタンの含有量の測定方法における、HPLCの操作条件のカラム温度を60℃、サンプル注入量を10μlとすること以外は全て同様に操作する。
そして、L−アラビノースの溶出位置を確認後(R.T.は約8分)、サンプルをフィードし、付与操作に使用した米粒及び付与後の米粒について、アラビノースと同じR.T.位置の含有量を求め、各値の差により、アラビノースの含有量を求めた。
【0060】
[3]加工米飯の作製
上記[1]の実施例1と同様にして得られた糖尿病用米粒を用いて、以下のように、各加工米飯を作製した。
(1)インスタント米飯
上記糖尿病用米粒と水とを密閉可能な容器に入れ、加熱炊飯して、インスタント米飯を得た。
(2)冷凍米飯
上記糖尿病用米粒を炊飯し、得られた米飯を−15〜−40℃にて急速に冷凍して、冷凍米飯を得た。
(3)乾燥米飯
上記糖尿病用米粒を炊飯し、得られた米飯を急速熱風乾燥して、乾燥米飯を得た。
【0061】
上記の各加工米飯は、本発明の糖尿病用米粒を用いたものであるため、優れた抗糖尿病作用を有するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係るアラビノガラクタンの基本骨格を示す図である。
【図2】本発明に係るアラビノガラクタンの基本骨格への側鎖の結合様式を例示する図である。
【図3】本発明に係るアラビノガラクタンの精製工程の概略を示す図である。
【図4】イオン交換クロマトグラフィーにおける200mMNaClフラクションのMALLS−SECによる分析チャートである。図中のドット状の線はアラビノガラクタンの分子量分布を示す。
【図5】イオン交換クロマトグラフィーにおける200mMNaC/フラクションのHPAEC−PADによる分析チャートである。
【図6】イオン交換クロマトグラフィーにおける200mMNaC/フラクションのGS−MSによる分析チャートである。
【図7】本発明に係るアラビノガラクタンのHMBC解析図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粒と、該米粒に付与された抗糖尿病作用を有するアラビノガラクタンと、を備えることを特徴とする糖尿病用米粒。
【請求項2】
上記アラビノガラクタンは、β−1,6結合したガラクトース糖鎖がβ−1,3結合により高度に枝分かれした骨格を有し、該骨格を構成するガラクトースに側鎖として(1)α−アラビノースがα−1,3結合、若しくは(2)α−アラビノシル(1→5)α−アラビノースがα−1,3結合するとともに、(3)α−ラムノシル(1→4)β−グルクロン酸が上記骨格の末端ガラクトースの一部若しくは全部にβ−1,6結合しており、
且つラムノース:グルクロン酸の構成比が1:0.7〜1.2であり、アラビノース:ガラクトースの構成比が1:1.8〜2.3であり、ラムノース:アラビノースの構成比が1:4.5〜6.5である請求項1に記載の糖尿病用米粒。
【請求項3】
上記アラビノガラクタンは、白甘藷の皮部分或いは塊根部分の水系抽出液を濃縮し、沈殿を除去して得られたものである請求項1又は2に記載の糖尿病用米粒。
【請求項4】
上記アラビノガラクタンは、白甘藷の皮部分或いは塊根部分の水系抽出液に低級アルコール若しくは低級ケトン処理を施し、沈殿を除去した後に、該低級アルコール若しくは低級ケトンを除去した水溶液の低分子部分を除去して得られたものである請求項1又は2に記載の糖尿病用米粒。
【請求項5】
上記アラビノガラクタンは、白甘藷の皮部分或いは塊根部分の水系抽出液に低級アルコール若しくは低級ケトン処理を施し、沈殿を除去した後に、該低級アルコール若しくは低級ケトンを除去した水溶液の低分子部分を除去し、得られた画分を弱塩基性イオン交換樹脂及び/又はゲルろ過によって精製して得られたものである請求項1又は2に記載の糖尿病用米粒。
【請求項6】
α−アミラーゼ抑制作用物質、α−グルコシダーゼ抑制作用物質、グルコース吸収抑制作用物質及びグルコース代謝促進物質のうちの少なくとも1種の機能性物質を更に備える請求項1乃至5のいずれかに記載の糖尿病用米粒。
【請求項7】
上記米粒が、玄米、胚芽米又は精白米である請求項1乃至6のいずれかに記載の糖尿病用米粒。
【請求項8】
上記アラビノガラクタンは、上記米粒を該アラビノガラクタンの溶液に浸漬させることによって、該米粒に付与されている請求項1乃至7のいずれかに記載の糖尿病用米粒。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の糖尿病用米粒を炊飯して得られる米飯であって、該米飯が、インスタント米飯、冷凍米飯又は乾燥米飯であることを特徴とする米飯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−182738(P2006−182738A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380733(P2004−380733)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(504173600)有限会社 IPE (12)
【Fターム(参考)】