説明

糖鎖の製造法

【課題】 医薬品あるいは機能性素材となり得る糖鎖、特にシアル酸含有糖鎖の安価で効率的な製造法を提供する。
【解決手段】複数の糖転移酵素を用いて、糖供与体としての糖ヌクレオチドの糖部分(A1)を糖受容体(B)に転移させて糖鎖(A1−B)を合成し、次いで別の糖供与体としての糖ヌクレオチドの糖部分(A2)を得られた糖鎖(A1−B)に転移させて新たな糖鎖(A2−A1−B)を合成し、このような反応を複数回繰り返して目的とする糖鎖(An−・・・A2−A1−B)(ただし、nは整数を示す)を製造する方法において、(a)酵母菌体を併用する、(b)糖ヌクレオチドをヌクレオチドと糖から系内で合成及び再生する、(c)途中で精製処理を行わない、ことを特徴とする目的とする糖鎖の製造法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖、特にシアル酸含有糖鎖の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、糖鎖についての研究が急速に進み、その機能が明らかになるにつれ、生理活性を有する糖鎖あるいは複合糖質の医薬品または機能性素材としての用途開発が注目を集めている。特に細胞表面のシアル酸を含有する糖鎖(シアル酸含有糖鎖)は、多くの微生物、ウイルス、毒素等の受容体として機能することが明らかであり、特定のシアル酸含有糖鎖(オリゴ糖)及びその類似体は、それらの感染や結合を阻止するのに有用と考えられている。
【0003】
シアル酸含有糖鎖の1つであるシアリルN−アセチルラクトサミン(NeuAcα2,3Galβ1,4GlcNAc、「SialylLacNAc」)は、リンパ組織や炎症部位への白血球の集積に関与する接着分子・セレクチンのリガンドとして機能することが知られ、またセレクチンとの相互作用を介して癌転移に関与すると言われているシアリルルイスX(NeuAcα2,3Galβ1,4(Fucα1,3)GlcNAc)やシアリルルイスA(NeuAcα2,3Galβ1,4(Fucα1,4)GlcNAc)の前駆体となる糖鎖である。
【0004】
さらに、SialylLacNAcは、インフルエンザウイルス感染時の宿主受容体である複合糖質の糖鎖構造でもあり、SialylLacNAcをポリグルタミン酸に付与した所謂人工ムチンは、極めて高いインフルエンザウイルス吸着活性を示すことが報告されている。
【0005】
このように、SialylLacNAcは、機能糖鎖のコア構造であり、複合糖質の医薬品あるいは機能素材としての開発、商品化の重要な基材となる糖鎖(オリゴ糖)である。
【0006】
ところで、現在市販されている糖鎖はごく限られた種類のものしかなく、しかも極めて高価である。たとえば、SialylLacNAcは、試薬レベルでしか製造できず、その大量製造法が確立されていない。
【0007】
従来、糖鎖の製造は、天然物からの抽出法、化学合成法あるいは酵素合成法、さらにはそれらの併用により行われていたが、その中でも酵素合成法が大量製造に適した方法であると考えられている。すなわち、(1)酵素合成法が化学合成法にみられる保護、脱保護といった煩雑な手順を必要とせず、速やかに目的の糖鎖を合成できる点、(2)酵素の基質特異性により、きわめて構造特異性の高い糖鎖を合成できる点などが他の方法より有利と考えられるためである。さらに、近年のDNA組換え技術の発達により種々の合成酵素が安価にしかも大量に生産できるようになりつつあることが、酵素合成法の優位性をさらに押し上げる結果となっている。
【0008】
酵素合成法により糖鎖を合成する方法としては、糖鎖の加水分解酵素の逆反応を利用する方法および糖転移酵素を利用する方法の2通りの方法が考えられている。前者の方法は、基質として単価の安い単糖を用いることができるという利点はあるものの、反応自体は分解反応の逆反応を利用するものであり、合成収率や複雑な構造を持つ糖鎖合成への応用といった点では必ずしも最良の方法とは考えられていない。
【0009】
一方、後者の糖転移酵素を用いる合成法は、合成収率や複雑な構造を持つ糖鎖合成への応用といった点で前者の方法よりも有利であると考えられており、また、近年のDNA組換え技術の進歩により各種糖転移酵素の量産化も該技術の実現化への後押しとなっている。しかしながら、糖転移酵素を利用した合成法で用いる糖供与体である糖ヌクレオチドは、一部のものを除き依然として高価で、量的にも試薬レベルのわずかな供給量でしか提供し得ないと言う問題点も指摘されていた。
【0010】
たとえば、糖ヌクレオチドを糖供与体とし、糖転移酵素によりSialylLacNAcを合成する場合、第1段階として糖受容体としてN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)、糖供与体としてウリジン5’−二リン酸ガラクトース(UDP−Gal)、糖転移酵素としてβ1,4−ガラクトース転移酵素を用いてガラクトースを転移させてN−アセチルラクトサミン(Galβ1,4GlcNAc)を合成する。
【0011】
次に、N−アセチルラクトサミンを糖受容体とし、シチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を糖供与体とし、シアル酸転移酵素によりシアル酸(N−アセチルノイラミン酸、以後「NeuAc」とも略記)を転移させることで、目的とするSialylLacNAcを合成する。
【0012】
糖転移酵素反応で生成・蓄積するヌクレオチドは、一般には更なる糖転移反応を阻害する。例えば、シアル酸転移反応によりシチジン5’−モノリン酸(CMP)が生成するが、CMPはシアル酸転移酵素活性を阻害するため、CMPを反応系より除去しないとシアル酸転移反応の効率は低下する。そのため、通常、ホスファターゼなどの添加によりCMPを分解するなどの操作も必要となり、このような理由からも、CMP−NeuAcなどの高価な糖ヌクレオチドを直接原料としてSialylLacNAcを合成することは、実用的な方法とは到底なり得なかった。
【0013】
このため、糖ヌクレオチドのサイクル合成と糖転移反応の組み合せによる糖鎖の合成法が考案されている。糖ヌクレオチドのサイクル合成は、糖転移反応により生成するヌクレオシド5’−ジリン酸(NDP)あるいはヌクレオシド5’−モノリン酸(NMP)をリン酸化して糖転移酵素活性を阻害するNDPあるいはNMPの蓄積を排除するとともに、糖ヌクレオチド合成の基質となるヌクレオシド5’−トリリン酸(NTP)まで再生し、酵素的に糖ヌクレオチドを再生させるというものである。
【0014】
NMPもしくはNDPからのNTPの再生には、(1)MyokinaseやPyruvate kinaseなどの酵素、及びアデノシン5’−三リン酸(ATP)あるいはホスホエノールピルビン酸などのリン酸供与体を用いてNMPもしくはNDPを酵素的にリン酸化する方法(Pure & Appl. Chem., 65, 803-808 (1993), J. Am. Chem., 113, 6300-6302 (1991), U.S. Patent 5,728,554、Nature Biotech., 16, 769-772 (1998))、(2)微生物生菌体(Corynebacterium ammnoniagenusや大腸菌)を用いてNMPもしくはNDPをリン酸化する方法(Nature Biotech. 16, 847-850 (1998), Carbohydorate Res. 316, 179-183 (1999), Appl. Microbiol. Biotechnol., 53: 257-261 (2000), Org. Biomol. Chem., 1, 3058 (2003), Appl. Environ. Microbiol., 69, 2110 (2003))、及び(3)酵母菌体を用いる方法(特開2002−335988)が報告されている。
【0015】
しかしながら、上記(1)の方法は、リン酸供与体となるATPあるいはホスホエノールピルビン酸が高価であるという問題がある。また、NTPを基質とした糖ヌクレオチド合成の際にピロリン酸が生成するが、蓄積したピロリン酸は糖ヌクレオチド合成を抑制するため、ピロリン酸分解酵素を添加して無機リン酸に分解する必要がある。さらに、無機リン酸は反応の進行と共に蓄積するが、糖転移酵素反応に必要な金属イオン(マグネシウムあるいはマンガンなど)と不溶性沈殿を形成するため、酵素反応の進行が抑制される。そのため、反応途中に金属イオンを再添加するなど煩雑な工程とならざるを得ない問題もあり、実用化に適していない。
【0016】
また、上記(2)の方法においては、NMPもしくはNDPのリン酸化反応に膨大な微生物菌体量が必要であるため、その調製のための設備及びコスト面での問題がある。また、Corynebacterium菌や大腸菌自身のピロリン酸分解活性は低く、pyrophophatase添加あるいは該酵素生産菌の添加も必要となる問題がある。
【0017】
さらに、上記(1)〜(3)の方法では、1種類の糖ヌクレオチドをサイクル合成させて糖転移反応を行わせた報告のみで、複数の糖ヌクレオチドをサイクル合成させて、複数の異なる糖転移反応を起こさせ、オリゴ糖の伸長に成功した例は報告されていない。
【0018】
従って、UDP−Galのサイクル合成に伴うガラクトース転移反応のみで合成できるN−アセチルラクトサミンの大量製造は可能である(Carbohydr. Res., 316, 179 (1999)、特開2002−335988)が、2段階の異なる糖転移反応を必要とするSialylLacNAcを合成できるかは不明であり、効率的な製造法は確立されていない。
【0019】
一方、シアル酸含有糖鎖製造上の問題として、シアル酸転移反応の際使用するシアル酸の供与体であるCMP−NeuAcが高価な原料であることは前述したが、糖部分であるNeuAc自身も高価であり、糖ヌクレオチドのサイクル合成を利用したとしてもNeuAcの直接使用は製造コストを押し上げる要因となる。そのため、安価な原料であるGlcNAcを原料とするNeuAcの製造法(特開平5−211884、特開平2001−136982)、及びGlcNAcとCMPを原料とするCMP−NeuAcの製造法(国際公開WO2001/009830)が開発されているが、これらの系を利用したCNP−NeuAcのサイクル合成をオリゴ糖へのシアル酸転移反応に適用できるかどうかは不明であり、そのことに関する報告もない。
【0020】
【特許文献1】特開2002−335988
【特許文献2】特開平5−211884
【特許文献3】国際公開WO2001/009830
【特許文献4】U.S.Patent 5,728,554
【特許文献5】特開平2001−136982
【非特許文献1】Pure & Appl. Chem., 65, 803-808 (1993)
【非特許文献2】J. Am. Chem., 113, 6300-6302 (1991)
【非特許文献3】Nature Biotech., 16, 769-772 (1998)
【非特許文献4】Nature Biotech. 16, 847-850 (1998)
【非特許文献5】Carbohydorate Res. 316, 179-183 (1999)
【非特許文献6】Appl. Microbiol. Biotechnol., 53: 257-261 (2000)
【非特許文献7】Org. Biomol. Chem., 1, 3058 (2003)
【非特許文献8】Appl. Environ. Microbiol., 69, 2110 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
このように、SialylLacNAcを糖転移酵素を用いて製造する場合、現状ではGlcNAcへのガラクト−ス転移反応を行わせ、N−アセチルラクトサミンを生成させ、合成反応液からN−アセチルラクトサミンを精製し、次にシアル酸転移反応によりシアル酸(NeuAc)を付与させてSialylLacNAcを合成し、合成反応液から目的物質を精製するという2段階の煩雑な製造工程が必要であり、必ずしも実用的な製法とは言えない。
【0022】
また、原料として使用するシアル酸(NeuAc)は高価であり、NeuAcの直接使用も工業化においては大きな問題となる。
【0023】
従って、UDP−GalとCMP−NeuAcのサイクル合成と糖転移酵素を組み合わせたSialylLacNAcの実用的な製造法、より効率的には、糖原料としてNeuAcを使用せず、代わりにGlcNAcを原料とするNeuAc合成を伴うSialylLacNAcの製造法を提供することができれば、工業的に極めて有利な方法となり得る。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、(1)酵母菌体は、長時間に渡り高いヌクレオチドのリン酸化活性及びピロリン酸分解活性を保持し、酵母菌体を利用することで連続的な複数の糖ヌクレオチドのサイクル合成が可能であり、連続的な複数の糖転移反応をワンポットで実行できること、(2)このような系は3糖以上のすべての糖鎖合成に利用できること、(3)さらに、GlcNAcを原料とするNeuAc合成系を上記糖鎖合成系に組み合わせることで、高価なNeuAcを使用せずにシアル酸含有糖鎖が製造可能であることを見出し、本発明を完成させた。したがって、本発明は、以下の通りのものである。
【0025】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 複数の糖転移酵素を用いて、糖供与体としての糖ヌクレオチドの糖部分(A1)を糖受容体(B)に転移させて糖鎖(A1−B)を合成し、次いで糖供与体としての別の糖ヌクレオチドの糖部分(A2)を得られた糖鎖(A1−B)に転移させて新たな糖鎖(A2−A1−B)を合成し、このような反応を複数回繰り返して目的とする糖鎖(An−・・・A2−A1−B)(ただし、nは整数を示す)を製造する方法において、(a)酵母菌体を併用する、(b)糖ヌクレオチドをヌクレオチドと糖から系内で合成及び再生する、(c)途中で精製処理を行わない、ことを特徴とする糖鎖の製造法。
【0026】
[2] 1以上の糖転移酵素と糖ヌクレオチドを用いて、糖ヌクレオチドの糖部分(A)を糖受容体(B)に転移させて糖鎖(Am・・・A1−B)(ただし、mは1以上の整数を示す)を調製し、最後に糖供与体としてシチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を用い、シアル酸転移酵素によりシアル酸(N−アセチルノイラミン酸)を糖鎖(Am−・・・−A1−B)に転移させ、目的とするシアル酸含有糖鎖(シアリル化Am−・・・−A1−B)を合成する、上記[1]記載の製造法。
【0027】
[3] 糖供与体としてウリジン5’−二リン酸ガラクトース(UDP−Gal)、糖転移酵素としてガラクトース転移酵素を用いてガラクトースを糖受容のN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)に転移させてN−アセチルラクトサミン(Galβ1,4GlcNAc)を合成し、次いで、糖供与体としてシチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を用い、シアル酸転移酵素によりシアル酸(N−アセチルノイラミン酸)をN−アセチルラクトサミン(Galβ1,4GlcNAc)転移させ、シアリルN−アセチルラクトサミン(NeuAcα2,3Galβ1,4GlcNAc)を合成する、上記[1]記載の製造法。
【0028】
[4]N−アセチルノイラミン酸(NeuAc)とシチジン5’−モノリン酸(CMP)を原料としてシチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を合成及び再生する、上記[2]又は[3]記載の製造法。
[5]N−アセチルノイラミン酸(NeuAc)とウリジン5’−モノリン酸(UMP)を原料としてシチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を合成及び再生する、上記[2]又は[3]記載の製造法。
【0029】
[6]N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)とシチジン5’−モノリン酸(CMP)を原料としてシチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を合成及び再生する、上記[2]又は[3]記載の製造法。
[7]N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)とウリジン5’−モノリン酸(UMP)を原料としてシチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を合成及び再生する、上記[2]又は[3]記載の製造法。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、医薬品あるいは機能性素材となる複合糖質の用途開発、製造のための基材となる糖鎖、特にシアル酸含有糖鎖、具体的にはSilylLacNAcの安価かつ効率的に製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、上述したように、複数の糖転移酵素を用いて、糖供与体としての糖ヌクレオチドの糖部分(A1)を糖受容体(B)に転移させて糖鎖(A1−B)を合成し、次いで糖供与体としての別の糖ヌクレオチドの糖部分(A2)を得られた糖鎖(A1−B)に転移させて新たな糖鎖(A2−A1−B)を合成し、このような反応を複数回繰り返して目的とする糖鎖(An−・・・A2−A1−B)(ただし、nは整数を示す)を製造する方法において、(a)酵母菌体を併用する、(b)糖ヌクレオチドをヌクレオチドと糖から系内で合成及び再生する、(c)途中で精製処理を行わない、ことを特徴とする糖鎖の製造法に関するものである。
【0032】
使用する糖転移酵素としては、目的とする糖鎖に応じ、公知の糖転移酵素の中から適宜選択して使用すればよい。そのような糖転移酵素としては、グルコース転移酵素、ガラクトース転移酵素、N−アセチルクルコサミン転移酵素、N−アセチルガラクトサミン転移酵素、シアル酸転移酵素、フコース転移酵素、マンノース転移酵素、グルクロン酸転移酵素などを例示することができる。
【0033】
このような糖転移酵素は、当該活性を有する限りどのような形態であってもよい。なお、酵素調製の簡便さと共に調製効率を高めるため、該酵素遺伝子をクローン化し、微生物菌体内で大量発現させ、該酵素の大量調製を行う、いわゆる遺伝子操作技術を用いた酵素生産が最も都合が良い。使用する酵素標品としては具体的には、微生物の菌体、該菌体の処理物または該処理物から得られる酵素調製物などを例示することができる。
【0034】
微生物の菌体の調製は、当該微生物が生育可能な培地を用い、常法により培養後、遠心分離等で集菌する方法で行うことができる。具体的に、大腸菌(Escherichia coli)属する細菌を例に挙げ説明すれば、培地としてはブイヨン培地、LB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1%食塩)または2×YT培地(1.6%トリプトン、1%イーストエキストラクト、0.5%食塩)などを使用することができ、当該培地に種菌を接種後、20〜50℃で5〜50時間程度必要により撹拌しながら培養し、得られた培養液を遠心分離して微生物菌体を集菌することにより糖転移酵素活性を有する微生物菌体を調製することができる。
【0035】
微生物の菌体処理物としては、上記微生物菌体を機械的破壊(ワーリングブレンダー、フレンチプレス、ホモジナイザー、乳鉢などによる)、凍結融解、自己消化、乾燥(凍結乾燥、風乾などによる)、酵素処理(リゾチームなどによる)、超音波処理、化学処理(酸、アルカリ処理などによる)などの一般的な処理法に従って処理して得られる菌体の破壊物または菌体の細胞壁もしくは細胞膜の変性物を例示することができる。
【0036】
酵素調製物としては、上記菌体処理物から当該酵素活性を有する画分を通常の酵素の精製手段(塩析処理、等電点沈澱処理、有機溶媒沈澱処理、透析処理、各種クロマトグラフィー処理など)を施して得られる粗酵素または精製酵素を例示することができる。
【0037】
糖供与体としての糖ヌクレオチドは、糖ヌクレオチドそのものを反応系に添加するのではなく、酵母菌体や合成酵素を用いてヌクレオチドと糖から系内で合成及び再生する。
使用するヌクレオチド(NMP,NDP,NTP)は、糖ヌクレオチドに応じて市販の製品を使用することができる。具体的には、ウリジン5’−モノリン酸、シチジン5’−モノリン酸、グアノシン5’−モノリン酸などを例示することができ、使用濃度としては1〜200mM、好ましくは10〜50mMの範囲から適宜設定できる。
また、糖も糖ヌクレオチドに応じて対応する市販の製品が使用できる。具体的には、グルコース、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルノイラミン酸、マンノースなど例示することでき、使用濃度としては、1〜200mM、好ましくは20〜100mMの範囲から適宜設定できる。
【0038】
添加する酵母菌体としては、市販のパン酵母あるいはワイン酵母などを使用することができる。このような酵母菌体は、生酵母、乾燥酵母いずれであってもかまわないが、反応収率の点からは乾燥酵母を用いるのが好ましい。添加量は1〜10%(w/v)、好ましくは2〜5%の範囲から適宜設定できる。
【0039】
上記酵母菌体によりヌクレオチドと糖をから目的とする糖ヌクレオチドを合成できない場合には、合成に必要な公知の酵素を反応系に添加する。そのような酵素としては、ガラクトキナーゼ、N−アセチルグルコサミンキナーゼ、N−アセチルガラクトサミンキナーゼ等のキナーゼ類、ヘキソース1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ等のトランスフェラーゼ類、UDPグルコースピロホスホリラーゼ、GDPマンノースピロホスホリラーゼ等の糖ヌクレオチドピロホスホリラーゼ類、CMP−NeuAcシンセターゼ(合成酵素)、N−アセチルグルコサミン6−P2−エピメラーゼなどのエピメラ−ゼ類、N−アセチルノイラミン酸リアーゼなどを例示することができ、目的とする糖鎖に必要な糖ヌクレオチドの合成に必須な各種酵素を前記転移酵素と同様に調製して使用すればよい。
【0040】
糖受容体としては、目的とする糖鎖に応じて、単糖、オリゴ糖、およびそれらを直接又はスペーサーを介して担体に結合させた担持物を使用することができる。
【0041】
単糖としては、ガラクトース、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、アラビノース、キシロース、キシリロース、リブロース、エリトロース、トレオース、リキソース、アロース、アルトロース、グロース、イドース、タロース、タガトース、ソルボース、プシコース、D−グリセロ−D−ガラクトヘプトース、D−グリセロ−グルコヘプトース、DL−グリセロ−D−マンノヘプトース、アロヘプツロース、アルトヘプツロース、タロヘプツロース、マンノヘプツロース、オクツロース、ノヌロース、D−グリセロ−L−ガラクトオクツロース、D−グリセロ−D−マンノオクツロース、ノムロース、フコース、ラムノース、アロメチロース、キノボース、アンチアロース、タロメチロース、ジキタロース、ジギドキソース、シマロース、チベロース、アベロース、パラトース、コリトース、アスカリロース、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸、グルロン酸、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、ノイラミン酸、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルマンノサミン、N−アセチルノイラミン酸、N−アセチル−O−アセチルノイラミン酸、N−グリコイルノイラミン酸、ムラミン酸、並びにその誘導体が挙げられる。
【0042】
オリゴ糖としては、例えばマルトース、セロビオース、ラクトース、キシロビオース、イソマルトース、ケンチオビオース、メリビオース、プランテオビオース、ルチノース、プリメベロース、ビシアノース、ニゲロース、ラミナリビオース、ツラノース、コージビオース、ソホロース、スクロース、トレハロース、キトビース、ヒアロビオウロン酸、コンドロシン、セロビオウロン酸、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトース、ブランテオース、ケストース、マルトトリオース、パノース、イソマルトトリオース、スタキオース、ベルバスコース、シクロデキストリン、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、乳汁オリゴ糖(例えばフコシルラクトース、シアリルラクトース、ラクト−N−テトラオース、ラクト−N−フコペンタオース、ラクト−N−ネオテトラオースなど)、ヒアルロン酸、コンドロイチン、デルマタンなどのグリコサミノグリカン、ABO型血液型糖鎖、各種N−結合型糖鎖、各種ムチン(O−結合)型糖鎖、スフィンゴ糖脂質、グリセロ糖脂質などの糖脂質糖鎖、並びに以上の誘導体などが挙げられる。
【0043】
担体としては、例えば、タンパク質、脂質、核酸などの生体試料、金、白金などの金属微粒子、鉄、酸化鉄などの磁性金属微粒子、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、アガロース、デキストランなどの高分子ポリマーなどが挙げられる。これらの担体と糖鎖とのスペーサーとしては、例えば(ポリ)エチレングリコール、種々のアルキル鎖(例えば、炭素数1〜20のアルキル)などが挙げられる。
【0044】
上記ヌクレオチド、糖、酵母菌体、糖受容体以外に、好ましくは無機リン酸とエネルギー源を反応系に添加する。使用する無機リン酸としては、リン酸カリウムなどをそのまま使用することもできるが、リン酸緩衝液の形態で使用するのが好ましい。使用濃度は、たとえば1〜500mM、好ましくは50〜200mMの範囲から適宜設定することができる。また、リン酸緩衝液のpHも6.0〜8.0の範囲から適宜設定すればよい。また、エネルギー源としては、グルコース、フラクトースなどの糖類、酢酸、クエン酸などの有機酸を使用することができる。
【0045】
糖鎖の合成反応は、転移酵素毎に、リン酸緩衝液などの緩衝液中、5〜35℃以下、好ましくは10〜30℃で1〜40時間程度、必要により撹拌しながら反応させることにより実施できる。なお、各転移反応間で単離精製処理を行う必要はない。
【0046】
SialylLacNAcを例に挙げ、本発明を具体的に説明すると、SialylLacNAcの製造の第1段階のN−アセチルラクトサミンの合成には、リン酸緩衝液中に酵母、ウリジン5’−モノリン酸(UMP)、ガラクトース、ガラクトース転移の基質(受容体)となるGlcNAc、エネルギー源としてグルコースなどの糖類、ウリジン5’−ジリン酸(UDP)−グルコースからのUDP−ガラクトース合成に関与する酵素(ガラクトキナーゼ及びヘキソース−1−リン酸ウリジルトランスフェラーゼ),さらにβ1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼを添加し、5〜35℃以下、好ましくは10〜30℃で1〜40時間程度、必要により撹拌しながら反応させることにより実施できる。
【0047】
次ぎに、第2段階として、N−アセチルラクトサミン生成後、これを単離精製することなく、当該合成液にCMP、NeuAc、シアリルトランスフェラーゼを添加し、エネルギー源として糖類をさらに添加し、5〜35℃以下、好ましくは10〜30℃で1〜40時間程度、必要により撹拌しながら反応させることにより実施できる。なお、3’−SialylLacNAc合成の場合にはα2,3−シアリルトランスフェラーゼ、6’−SialylLacNAcを合成する場合には、α2,6−シアリルトランスフェラーゼを用いれば良い。
【0048】
第2段階のシアル酸転移反応を行う際、CMP添加の代わりに、CTP合成酵素とグルタミンなどアミノ基の供与体を添加することにより合成反応液中に生成しているUTPをCTPに変換させること(国際公開WO99/49073)でCMP−NeuAcのサイクル合成を可能ならしめシアル酸転移反応を実施することもできる。
【0049】
さらに、第2段階のNeuAc添加の代わりに公知のGlcNAcからのNeuAc変換活性を有する組換え大腸菌(国際公開WO2004/009830)などNeuAc合成系を添加して残存するGlcNAcをNeuAcへ変換させることで、CMP−NeuAcのサイクル合成を可能ならしめシアル酸転移反応を実施することも可能である。
【0050】
こうして合成して得られたSialylLacNAc等の糖鎖は、通常のオリゴ糖の精製法(ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、塩析など)を用いて単離精製することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明がこれに限定されないことは明らかである。なお、実施例において、反応液中のオリゴ糖の定量はDIONEX法により行った。すなわち、分離には日本ダイオネクス社製のCarboPacPA1カラムを用い、溶出液として0.1M水酸化ナトリウム水溶液および0.1M水酸化ナトリウム+0.5M酢酸ナトリウム水溶液を用いた。
【0052】
本実施例で使用した糖転移酵素(β1,4−ガラクトース転移酵素及びα2,3−シアル酸転移酵素)及びUDP−Gal合成に使用した大腸菌酵素(ガラクトキナーゼ及びヘキソース1―リン酸ウリジルトランスフェラーゼ)、並びに大腸菌CMP−NeuAc合成酵素の調製及び活性の測定は、公知の方法(特開2002−335988)に従って実施した。また、大腸菌CTP合成酵素は、公知の方法(国際公開WO99/49073)に従って調製し、活性を測定した。
【0053】
実施例1:3’-SilaylLAcNAcの合成(1)
(NeuAcとCMPからのCMP−NeuAcの再生利用)
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)、40mM塩化マグネシウム、20mM UMP、50mMガラクトース、100mM GlcNAc、400mMグルコースを含む溶液に、β1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素液(0.1units/ml反応液)、ガラクトキナーゼ活性(7.5units/ml反応液)及びヘキソース1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ活性を有する酵素液(3.2units/ml反応液)および乾燥パン酵母(オリエンタル酵母工業)3.0%(w/v)を添加し、25℃で撹拌しつつ反応を行った。反応開始18時間後にN−アセチルラクトサミンは、30.3mM生成していた。
【0054】
次に、このN−アセチルラクトサミン合成液に50mM NeuAc、30mM CMP、CMP−NeuAc合成酵素液(1.5units/ml反応液)及びα2,3−シアリルトランスフェラーゼ酵素液(0.4units/ml反応液)を添加し、25℃で攪拌を続けた。また、反応18、28、40時間後にグルコースを200mM添加した。その結果、反応開始48時間後に25.3mM(17.1g/L)の3’−SialylLacNAcの生成が認められた。
【0055】
実施例2:3’-SilaylLAcNAcの合成(2)
(NeuAcとUMPからのCMP−NeuAcの再生利用)
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)、40mM塩化マグネシウム、20mM UMP、50mMガラクトース、100mM GlcNAc、400mMグルコースを含む溶液に、β1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素液(0.1units/ml反応液)、ガラクトキナーゼ(7.5units/ml反応液)及びヘキソース1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(3.2units/ml反応液)および乾燥パン酵母(オリエンタル酵母工業)3.0%を添加し、25℃で撹拌しつつ反応を行った。
【0056】
反応開始18時間後(N−アセチルラクトサミンは、29.9mM生成)に、50mM NeuAc、30mMグルタミン、大腸菌CTP合成酵素液(1.5units/ml反応液)、CMP−NeuAc合成酵素液(1.5units/ml反応液)及びα2,3−シアリルトランスフェラーゼ酵素液(0.4units/ml反応液)を添加し、25℃で撹拌を継続した。また、反応18、26、40時間後にグルコースを200mM添加した。その結果、反応開始46時間後に38.0mM(25.7g/L)の3’−SialylLacNAcの生成が確認された。
【0057】
実施例3:3’-SilaylLAcNAcの合成(3)
(GlcNAcとCMPからのCMP−NeuAcの再生利用)
N−アセチルグルコサミン6−P2−エピメラーゼ、及びN−アセチルノイラミン酸リアーゼ遺伝子を含有するプラスミドpTrc−NENB(国際公開番号WO2004/009830)を用いて大腸菌DH1株(ATCC33849)を常法(「Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition」(Sambrookら編、Cold spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York (1989))に従い形質転換し、アンピシリン耐性の形質転換体DH1/pTrc−NENBを取得した。得られた形質転換体を100μg/mlのアンピシリンを含有する2xYT培地500mlに植菌し、37℃で振とう培養した。菌体数が4x10個/mlに達した時点で、培養液に最終濃度0.2mMになるようにIPTG(isopropylβ-D-thiogalactopyranoside)を添加し、さらに37℃で18時間振とう培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000×g、10分)により菌体を回収した。
【0058】
200mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)、30mM塩化マグネシウム、20mM UMP、50mMガラクトース、100mM GlcNAc、200mMフルクトースを含む溶液に、β1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ酵素液(0.1units/ml反応液)、ガラクトキナーゼ(20units/ml反応液)及びヘキソース1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(10units/ml反応液)および乾燥パン酵母(オリエンタル酵母工業)4.0%(w/v)を添加し、28℃で撹拌しつつ反応を行った。
【0059】
反応開始8時間後(N−アセチルラクトサミンは31.3mM生成)に、100mMピルビン酸ナトリウム、20mM CMP、0.5%キシレン、CMP−NeuAc合成酵素液(1.7units/ml反応液)、α2,3−シアリルトランスフェラーゼ(0.1units/ml反応液)及び前述の回収した大腸菌DH1/pTrc−NENB菌体(反応液の5倍量の培養液分の菌体)を添加した。また、反応開始8、28、40時間後にグルコースを200mM添加した。反応50時間後に13.4mM(9.0g/L)の3’−SialylLacNAcの生成が確認された。
【0060】
実施例4:6’−SialylLacNAcの合成
(1)フォトバクテリウム・ダムセラ由来β-ガラクトシドα2,6-シアリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子のクローニング
フォトバクテリウム・ダムセラ subsp. damsela (NBRC No.15633叉はATCC 33539)からの染色体DNAの調製は、該菌の凍結乾燥菌体を100μLの50mM トリス塩酸緩衝液(pH 8.0), 20mM EDTAに懸濁したのちに10μLの10%SDS溶液を添加して室温で5分静置により溶菌させ、この溶菌液からフェノール抽出ならびにエタノール沈殿により得られた沈殿を20μLのTEバッファー(10mM トリス塩酸緩衝液(pH 8.0), 1mM EDTA)に溶解することにより行った。
【0061】
以上のように調製したDNAを鋳型として、以下に示す2種類のプライマーDNA(A)および(B)を常法に従って合成し、PCR法によりフォトバクテリウム・ダムセラのβ-ガラクトシドα2,6-シアリルトランスフェラーゼをコードするbst遺伝子(Submitted to NCBI、Accession No.AB012285)を含む領域のDNAを増幅した。
【0062】
プライマー(A):5’-GTGTGGCATAGTACGCACTT-3’
プライマー(B):5’-AGGTCGCCACATTTACGATG-3’
【0063】
PCRによるbst遺伝子を含む領域のDNA増幅は、反応液100μl(10xPyrobest Buffer(タカラバイオ社) 10μl、0.2mM dATP、0.2mM dGTP、0.2mM dCTP、0.2mM dTTP、鋳型DNA 0.1ng、プライマーDNA(A)および(B)各々0.2μM、Pyrobest DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社) 2.5units)をDNA Thermal Cycler Dice(タカラバイオ社)を用いて、熱変性(94℃、1分)、アニーリング(47℃、1分)、伸長反応(72℃、2分)のステップを36回繰り返すことにより行った。
【0064】
増幅後のDNAを、文献(Molecular Cloning、(Maniatisら編、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、New YorK(1982))の方法に従ってアガロースゲル電気泳動により分離し、2.3kbのDNA断片を精製した。該DNAを鋳型として、以下に示す2種類のプライマーDNA(C)および(D)を使って、PCR法によりフォトバクテリウム・ダムセラのbst遺伝子を増幅した。
【0065】
プライマー(C):5’-CTTGGATCCTGTAATAGTGACAATACCAGC-3’
プライマー(D):5’-TAAGTCGACTTAAGCCCAGAACAGAACATC-3’
【0066】
PCRによるbst遺伝子の増幅は、反応液100μl(10xPyrobest Buffer(タカラバイオ社) 10μl、0.2mM dATP、0.2mM dGTP、0.2mM dCTP、0.2mM dTTP、鋳型DNA 0.1ng、プライマーDNA(C)および(D)各々0.2μM、Pyrobest DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社) 2.5units)をDNA Thermal Cycler Dice(タカラバイオ社)を用いて、熱変性(94℃、1分)、アニーリング(52℃、1分)、伸長反応(72℃、2分)のステップを30回繰り返すことにより行った。
【0067】
遺伝子増幅後、DNAをアガロースゲル電気泳動により分離し、1.5kbのDNA断片を精製した。得られたDNA断片を制限酵素BamHI及びSalIで切断し、同じく制限酵素BamHI及びSalIで消化したプラスミドpTrc12-6(特開2001−103973)とT4DNAリガーゼを用いて連結した。連結反応液を用いて大腸菌K12株JM109菌(タカラバイオ株式会社より入手)を形質転換し、得られたカナマイシン耐性形質転換体よりプラスミドp12-6-pstΔNを単離した。
【0068】
(2)α2,6-シアリルトランスフェラーゼ酵素液の調製
プラスミドp12-6-pstΔNを保持する大腸菌JM109株を、25μg/mlのカナマイシンを含有する培地(2%ペプトン、1%酵母エキス、0.5%NaCl、0.15%グルコース)100mlに植菌し、30℃で振とう培養した。5時間後培養液に最終濃度0.2mMになるようにIPTGを添加し、さらに18℃で20時間振盪培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000xg,10分)により菌体を回収し、2.5mlの緩衝液(20mM酢酸ナトリウム(pH5.5))に懸濁した。ブランソン社製超音波破砕機(モデル450ソニファー)を用いて氷冷下で超音波処理を行い(50W,2分,3回)、4℃、12,000xgの条件下で20分間遠心分離し、可溶性画分(上清)を回収した。
【0069】
このように得られた上清画分を酵素標品とし、酵素標品におけるα2,6シアリルトランスフェラーゼ活性を測定した。その結果、0.44 units/min/ml 酵素液であった。
【0070】
なお、α2,6シアリルトランスフェラーゼ活性は、以下に示す方法でCMP−NeuAcとN−アセチルラクトサミンから6’−SialylLacNAcへの転換活性を測定、算出したものである。すなわち、25mMトリス塩酸緩衝液(pH5.5)、50mM CMP−NeuAc、10mM N−アセチルラクトサミンにα2,6シアリルトランスフェラーゼ酵素標品を添加して37℃で10分反応させる。反応液を3分間の煮沸にて反応を停止し、HPAEC−CD(High-perfoemance anione-exchange chromatography coupled with conductimetric detection)による糖分析を行う。分離にはダイオネクス社製のCarbopac PA1カラム(4×250mm)を用い、溶出液として(A)0.1M NaOH溶液と(B)0.1M NaOH,0.5M 酢酸ナトリウム溶液の濃度勾配(0−10分:B=0%、10−25分:B=45%、25−30分:B=100%)を用いる。HPAEC−CD分析結果から反応液中のLacNAc消費量および6’−SialylLacNAcの生成量を算出し、37℃で1分間に1μmoleのNeuAcをN−アセチルラクトサミンに転移させる活性を1unitとする。
【0071】
(3)6’−SialylLacNAcの合成
200mMリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)、40mM塩化マグネシウム、10mM UMP、50mMガラクトース、50mM GlcNAc、200mMフルクトースを含む液にβ1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素液(0.18units/ml反応液)、ガラクトキナーゼ活性(45.6units/ml反応液)及びヘキソース1−リン酸ウリジルトランスフェラーゼ活性(26.5units/ml反応液)を有する酵素液、および乾燥パン酵母(オリエンタル酵母工業)3.0%(w/v)を添加し、28℃で攪拌しつつ反応を行った。反応開始7時間後にN−アセチルラクトサミンは、20.2mM生成していた。
【0072】
次に、このN−アセチルラクトサミン合成液に50mM NeuAc、10mM CMP、CMP-NeuAc合成酵素液(5.8units/ml反応液)及びα2,6−シアリルトランスフェラーゼ酵素液(0.04units/ml反応液)を添加し、28℃で攪拌を続けた。また、反応開始7、22、30時間後にグルコースを200mM添加した。その結果、反応開始46時間後に35.6mM(24.1g/L)の6’−SialylLacNAcの生成が認められた。
なお、フォトバクテリウム・ダムセラ subsp. damselaは独立行政法人製品評価技術機構より入手可能である。
【0073】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糖転移酵素を用いて、糖供与体としての糖ヌクレオチドの糖部分(A1)を糖受容体(B)に転移させて糖鎖(A1−B)を合成し、次いで別の糖供与体としての糖ヌクレオチドの糖部分(A2)を得られた糖鎖(A1−B)に転移させて新たな糖鎖(A2−A1−B)を合成し、このような反応を複数回繰り返して目的とする糖鎖(An−・・・A2−A1−B)(ただし、nは整数を示す)を製造する方法において、(a)酵母菌体を併用する、(b)糖ヌクレオチドをヌクレオチドと糖から系内で合成及び再生する、(c)途中で精製処理を行わない、ことを特徴とする糖鎖の製造法。
【請求項2】
1以上の糖転移酵素と糖ヌクレオチドを用いて、糖ヌクレオチドの糖部分(A)を糖受容体(B)に転移させて糖鎖(Am・・・A1−B)(ただし、mは1以上の整数を示す)を調製し、最後に糖供与体としてシチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を用い、シアル酸転移酵素によりシアル酸(N−アセチルノイラミン酸)を糖鎖(Am−・・・−A1−B)に転移させ、目的とするシアル酸含有糖鎖(シアリル化Am−・・・−A1−B)を合成する、請求項1記載の製造法。
【請求項3】
糖供与体としてウリジン5’−二リン酸ガラクトース(UDP−Gal)、糖転移酵素としてガラクトース転移酵素を用いてガラクトースを糖受容のN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)に転移させてN−アセチルラクトサミン(Galβ1,4GlcNAc)を合成し、次いで、糖供与体としてシチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を用い、シアル酸転移酵素によりシアル酸(N−アセチルノイラミン酸)をN−アセチルラクトサミン(Galβ1,4GlcNAc)転移させ、シアリルN−アセチルラクトサミン(NeuAcα2,3Galβ1,4GlcNAc)を合成する、請求項1記載の製造法。
【請求項4】
N−アセチルノイラミン酸(NeuAc)とシチジン5’−モノリン酸(CMP)を原料としてシチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を合成及び再生する、請求項2又は3記載の製造法。
【請求項5】
N−アセチルノイラミン酸(NeuAc)とウリジン5’−モノリン酸(UMP)を原料としてシチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を合成及び再生する、請求項2又は3記載の製造法。
【請求項6】
N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)とシチジン5’−モノリン酸(CMP)を原料としてシチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を合成及び再生する、請求項2又は3記載の製造法。
【請求項7】
N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)とウリジン5’−モノリン酸(UMP)を原料としてシチジン5’−モノホスホリルN−アセチルノイラミン酸(CMP−NeuAc)を合成及び再生する、請求項2又は3記載の製造法。



【公開番号】特開2006−271372(P2006−271372A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365991(P2005−365991)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】