説明

糸条巻取機及び糸条巻取方法並びに糸条パッケージ

【課題】 糸条巻取機において、リボン巻きの悪影響を出来る限り排除し、解舒性の良好なパッケージを形成する。
【解決手段】 ワインド数一定巻きによる糸条巻取工程においてリボンワインド数Wrを跳び越えるようにワインド数Wをジャンプさせる際、リボンワインド数Wrの上位側のジャンプ幅aを、リボンワインド数Wrの下位側のジャンプ幅bよりも大きくなるよう設定する。これにより、リボンワインド数Wrの上位側において、上下に重なる糸条それぞれの糸層端部におけるターン位置を大きくずらすことができるから、パッケージから糸条を解舒するときに、リボンワインド数Wrを通過した直後で解舒不良が生じやすいという従来の問題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば紡糸巻取機等の糸条巻取機において糸条をパッケージに巻き取るための技術に関し、ワインド数を適切に制御することにより、リボン巻きの悪影響を出来る限り排除して、解舒性の良好なパッケージを形成することを目的とする。詳しくは、リボンワインド数をジャンプさせているにもかかわらず、解舒不良が生じるという現象の解決を図るための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】糸条巻取機で糸条パッケージを形成する工程は一般に、トラバース装置により適当な綾角を付しつつ、糸条をボビンに巻き取ることにより行われる。糸条巻取時の制御方式には、例えば、次のような態様がある。すなわち図6の、縦軸をパッケージの巻径、横軸を綾角としたグラフに表す如く、綾角をほぼ一定にして糸条を巻き取る方法(同図(A))、綾角をあらかじめ設定されたパターンに則し変化させて巻き取る方法(同図(B))、トラバース回数に対するパッケージの回転数の比率(ワインド数)を一定にして糸条を巻き取る方法(同図(C))などである。
【0003】ところで一般に、ワインド数が特定の値になると、糸条が同じ箇所に重なって巻かれるリボン巻きが発生して、糸条パッケージの解舒性を悪くすることが知られている。同じ位相に糸のターン点が戻ってくるまでのトラバース装置のダブルストローク回数をP、パッケージの回転数をQとすると、ワインド数Wは、W=Q/Pで表される。リボン巻きが発生するワインド数(リボンワインド数)の代表的な値は、W=N,N/2,N/3(Nは自然数)などである。
【0004】綾角一定で巻き取ると、トラバース1回当たりのパッケージ回転数が減少するため、巻取工程の進行によりパッケージ径が増大するのに応じて、ワインド数W=Q/P中のQの値が減少し、ワインド数Wは小さくなる。またワインド数一定巻き(図6(C)参照)にあっても、綾角の変化量を抑えるため、定期的にワインド数を所定の小さい値へ変更する制御を行っている。すなわち、前記図6の各グラフに示すとおり、糸条巻取工程の進行に従い、ワインド数を連続的又は断続的に減少させている。それ故、ワインド数Wがリボンワインド数Wr(=N,N±1/2,N±1/3,N±2/3等)と一致しないように、ワインド数を大きくジャンプさせてリボン巻きを回避するという操作を行っている。なお、パッケージの解舒性を向上させるため、綾角を常時微細に振動させながら巻き取る方法が併用される場合もある。
【0005】糸条巻取工程の途中で、リボンワインド数に近づいたらワインド数をジャンプさせる方法として、従来、次のような方式が知られている。特開平7−267493号公報には、図7(A)に示す如く、リボンワインド数Wrの前後に一定幅の危険領域(Wr±Z:Z=0.05〜0.2)を設定し、ワインド数Wが上記危険領域の上限(Wr+Z)に達したならば、瞬間的にトラバース速度を上昇させることで綾角を増大させ、ワインド数Wを上記危険領域の下限(Wr−Z)まで変化させることが記載されている。また、特開平8−26595号公報には、図7(B)に示す如く、綾角を常時微細に振動させつつ糸条巻取を行う場合において、綾角のジャンプ幅Dをあらかじめ設定しておき、綾角をジャンプさせた前後のワインド数の中間値がリボンワインド数と一致する場合に、綾角ジャンプを実行することが記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】前述のようにして、リボン巻き防止手段を講じて形成した糸条パッケージであっても、必ずしも良好に糸条の解舒が行えるわけではなく、ラッチングや輪抜け等の問題が起こることがあった。とりわけ、高速解舒時に問題が発生し易い。
【0007】前記問題点について本出願人が精査研究したところ、パッケージから糸条を解舒する際に、リボンワインド数を飛び越した直後のワインド数となっている箇所において、前記ラッチングや輪抜け等の問題発生率が高くなっていることが判明した。すなわち、ワインド数が、リボンワインド数の上位側であって且つ最も近い値となっている箇所で解舒不良が起こっている。
【0008】前述のとおり、従来の糸条巻取方法は、リボンワインド数Wrの前後に均等なジャンプ幅を設定して、リボン巻きを回避しようとするものである。しかし、ワインド数のジャンプ幅をあまり大きく設定するのは、綾角の急激な変化を伴うため糸条の大きい張力変動を招き、糸品質を悪くするおそれがあるので好ましくない。それ故、ワインド数のジャンプ幅は比較的小さい一定値以内に制限される。ジャンプ幅が狭いため、ジャンプ前後のワインド数の値がリボンワインド数に接近することになり、パッケージから解舒される糸条とその下層の糸条とが、リボン巻きと近似的な形態を形成する。しかも、その悪影響は、糸条を解舒する際、リボンワインド数を飛び越した直後が最も受け易い。以上述べたような事情が、従来、ワインド数(綾角)をジャンプさせているにも拘わらず、ラッチングや輪抜け等の解舒不良の問題を発生させる原因であると推測される。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記従来の課題に鑑み、糸条パッケージの解舒性を改善できる手段を提供するものである。本発明に係る糸条巻取機の特徴とするところは、糸条を巻き取るボビンを保持して回転させるボビンホルダと、糸条を左右にトラバースさせるトラバース装置と、上記ボビンホルダの回転駆動及び上記トラバース装置の駆動を制御する制御装置とを備え、巻取工程の途中でワインド数をリボンワインド数より値が大きい上位側から値が小さい下位側へジャンプさせるジャンプ幅に関し、リボンワインド数よりも上位側領域のジャンプ幅と下位側領域のジャンプ幅とを異なる幅に設定可能な設定手段を備えていることにある。
【0010】また本発明に係る糸条巻取方法の特徴は、糸条をトラバースしつつボビンに巻き取ってパッケージを形成する方法であって、ワインド数がリボン巻きを形成するリボンワインド数に一致するのを回避すべく、ワインド数をリボンワインド数より値が大きい上位側から値が小さい下位側へジャンプさせて変更するに際し、前記ワインド数のジャンプ幅のうち、リボンワインド数の上位側領域のジャンプ幅を下位側領域のジャンプ幅よりも大きく設定したことにある。
【0011】なお上記巻取方法を実施するにあたり、ワインド数のジャンプ幅を、飛び越し対象とするリボンワインド数の値に応じて変更する態様を採用してもよく、さらに、ワインド数のジャンプ幅のうち、リボンワインド数より上位側領域のジャンプ幅のみを変更する態様を採用することも可能である。
【0012】また本発明は、前記巻取方法の実施の結果得られる糸条パッケージを提供するものである。本発明に係る糸条パッケージの特徴は、糸層の一周違いで上下に重なって巻かれた上側糸条と下側糸条それぞれの糸層端部におけるターン位置が互いに接近し、且つ、糸条の解舒時に解舒に従って前記ターン位置が巻取回転方向に沿ってずれるように設定された巻取状態を有するものであり、糸条解舒時に、前記ターン位置が巻取回転方向とは反対方向へずれる状態から、前記ターン位置が巻取回転方向と同方向へずれる状態に変化する巻取状態を含み、前記ターン位置のずれ方向が巻取回転方向と同方向の状態に変化した後におけるターン位置のずれ幅が、前記ターン位置のずれ方向が巻取回転方向とは反対方向である状態におけるずれ幅よりも大きく設定されていることにある。
【0013】前記の如く構成された本発明に係る糸条パッケージは、糸条解舒時に、前記ターン位置が巻取回転方向とは反対方向へずれる状態から、前記ターン位置が巻取回転方向と同方向へずれる状態に変化する巻取状態を含んでおり、これはすなわち、リボンワインド数を飛び越すようにして糸条を巻き取ったものであることを意味している。そして本発明は、ターン位置のずれ方向が巻取回転方向と同方向の状態に変化した後におけるターン位置のずれ幅が、ターン位置のずれ方向が巻取回転方向とは反対方向である状態におけるずれ幅より大きく設定されているので、リボンワインド数を飛び越した後の糸層において、上側の糸条が、その下側の糸条との間でリボン巻きに近い関係となるのが回避されており、糸条解舒時に上側の糸条が下側の糸条に引っかかるという現象を防止することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】図1は、本発明が適用される糸条巻取機Mの一例の構成を概略的に示すものであり、例えば紡糸装置(図示は省略)から連続的に紡糸される合成繊維のマルチフィラメント糸などを巻き取る紡糸巻取機である。ここに示す糸条巻取機Mは、複数個のボビンBがそれぞれ装着される2本のボビンホルダBH,BHと、巻取位置に在るボビンホルダBHのボビンBに形成される糸条パッケージPと接触するコンタクトローラCRと、糸条SをボビンBの軸方向に綾振りするためのトラバース装置Tとを備える。
【0015】コンタクトローラーCRには駆動用モータmcが取り付けられている。2本のボビンホルダBH,BHは、回転可能なターレットRに取り付けられて巻取位置と待機位置との間で交互に位置切り換えを行えるようになされる共に、それぞれ個別に駆動用モータm1,m2を備えている。トラバース装置Tは、コンタクトローラーCRに隣接して配設され、駆動用モータmtが備えられている。上記ボビンホルダBHの駆動用モータm1,m2、コンタクトローラーCRの駆動用モータmc、及び、トラバース装置Tの駆動用モータmtは、いずれもインバータを介し制御装置Uによって制御される。さらに、上記トラバース装置T、コンタクトローラーCR、及び、ボビンホルダBH,BHの回転速度を検知する速度センサーb1,b2,b3,b4が設けられ、各センサーb1〜b4の検知信号が制御装置Uに入力されるよう構成されている。
【0016】制御装置Uは、ボビンホルダBHとトラバース装置Tの駆動を制御することにより、ワインド数又は綾角を設定あるいは変更する手段を有する。該制御装置Uには設定器Xが付設され、該設定器Xにより、糸条巻取工程を開始する際の、糸速度・ボビン半径・巻き始め時のボビンホルダの回転初速度・トラバース幅・綾角・巻き密度等の各種条件の初期設定と、巻取工程中におけるワインド数又は綾角の制御プログラムの設定とがなされる。さらに設定器Xは、リボンワインド数よりも上位側領域のジャンプ幅と下位側領域のジャンプ幅とを、それぞれ個別に設定できるようになっている。すなわち、リボンワインド数より上位側領域のジャンプ幅と下位側領域のジャンプ幅とを、同じ幅にも異なる幅にも設定可能なようになされている。
【0017】[第1の実施形態]前記糸条巻取機Mを用いて、ワインド数一定巻きにより、糸条SをボビンBに巻き取ってパッケージPを形成する工程を説明する。ここで説明するワインド数一定巻きは、図2に示す如く、リボンワインド数Wrを回避した所定の値にワインド数Wを保って糸条の巻き取りを行うと共に、定期的にワインド数を下位の小さい値に切り替える方法であり、巻径の増加に従い綾角が減少する。従ってワインド数Wの切替時期を、巻径の増加量又は綾角の減少量に基づき決定することができる。
【0018】ワインド数Wを上位の大きい値から下位の小さい値へ変更する際、リボンワインド数Wrを跳び越えるようにジャンプさせるのは、従来と同様である。本例では図2(A)に示すとおり、回避するリボンワインド数Wrとして、W=N,N±1/2,N±1/3,N±2/3(Nは自然数)を設定してある。そして本発明は、上記リボンワインド数Wrを飛び越してワインド数をジャンプさせるにあたり、図2(B)に示す如く、ジャンプ幅のうち、リボンワインド数Wrよりも上位側領域のジャンプ幅aを、リボンワインド数Wrの下位側領域のジャンプ幅bよりも大きくなるように設定したところに特色を有している。すなわち、ジャンプ幅a、bの割合が従来a=bであったのを、本発明ではa>bとしたものである。但し、ジャンプ幅の合計a+bの値については、糸品質を確保するため、原則として従来と同等とすることが望ましい。
【0019】リボンワインド数Wrを回避するためのワインド数Wのジャンプ幅、及び、上位側ジャンプ幅aと下位側ジャンプ幅bの比率は、ボビンホルダ回転速度とトラバース速度とを制御することにより設定することが可能である。すなわち、糸速度を一定に保つという条件下で、ある巻径におけるボビンホルダ回転速度は一義的に決定される。従って、当該巻径において所定のワインド数を与えるトラバース速度も一義的に算出される。このことは反対に、一定の糸速度で糸条を巻き取る工程で、巻径とワインド数の条件を与えれば、これに必要なボビンホルダ回転速度とトラバース速度とが求められることを意味する。従って、ワインド数のジャンプ時期(巻径又は綾角により決定)とジャンプ幅とをあらかじめ設定しておけば、ボビンホルダ回転速度とトラバース速度とを制御して、リボンワインド数Wrに対し上位側のジャンプ幅aと下位側のジャンプ幅bの比率が所望の値となるように、ワインド数をジャンプさせることが可能である。
【0020】なお、ワインド数Wのジャンプ幅や、上位側ジャンプ幅aと下位側ジャンプ幅bの比率の設定方式としては、上に述べたワインド数の値を直接設定する方式のほか、ジャンプ対象とするリボンワインド数Wrを基準とし、これに対する比率で上位側・下位側のジャンプ幅を決める方法、あるいは、基準となるリボンワインド数Wrに対応する綾角を求め、この綾角に対する変化率でジャンプ幅を決める方法も考えられる。
【0021】本発明に基づき、リボンワインド数Wrの上位側ジャンプ幅aを大きく設定したことにより、糸条パッケージの解舒性が向上する理由は、以下のように考えられる。図3(A)(B)は、それぞれ本発明の糸条パッケージを解舒している途中の状態であって、リボンワインド数Wrをジャンプさせる直前及びジャンプ直後の状態にあるパッケージP1,P2(図2(B)中の矢印位置参照)を示している。糸条パッケージから糸条を解舒していくのに従い、図3(B)の状態から図3(A)の状態へ移行する。
【0022】仮に糸条をリボンワインド数で巻き取った場合、上下に重なる糸条それぞれの糸層端部における糸条ターン位置が重なり、リボン巻きを生じさせる。リボンワインド数をジャンプする直前のパッケージP1は、ワインド数W=Wr+aであり、リボンワインド数Wrより大きいワインド数で糸条を巻き取っている。このため、一周違いで上下に重なる糸条を比較すると、図3(A)に示す如く、上側の糸条mのターン位置t1が、下側の糸条m−1のターン位置t2よりも、巻取回転方向の後ろ側(巻取回転方向と反対方向)にずれており、リボン巻きを回避している。一方、ジャンプ直後のパッケージP2は、ワインド数W=Wr−bであり、リボンワインド数Wrより小さいワインド数で糸条を巻き取っている。従って、図3(B)に示す如く、上下に重なる糸条の上側糸条nのターン位置t3は、下側の糸条n−1のターン位置t4よりも、巻取回転方向の前側(巻取回転方向と同方向)にずれており、同様にリボン巻きが回避されている。
【0023】前記の如くリボンワインド数をジャンプさせて形成した糸条パッケージにおいて、糸条を図3中の矢印方向へ引き出して解舒する場合を考える。図3(B)に示す如く、ワインド数Wがリボンワインド数Wrよりも小さい値の下位側領域にある糸条パッケージP2では、上側の糸条nのターン位置t3が、下側の糸条n−1のターン位置t4よりも巻取回転方向の前側にずれている。このため、矢印方向に糸条を解舒する際に、上側糸条nのターン位置t3と、下側糸条n−1のターン位置t4とのずれ幅βの値が多少小さくても、上側糸条nが、下側糸条n−1を引っかける等の問題を起こす可能性はきわめて小さく、糸条の解舒性に悪影響を与えるおそれがない。
【0024】これは図3(B)を見ればわかるように、上側糸条n及び下側糸条n−1におけるターン位置t3,t4よりも巻取回転方向の後ろ側の部分は、下側糸条n−1の方が上側糸条nよりも糸解舒方向の前側に位置している。それ故、上側糸条nを引き出す際に下側糸条n−1を引っ掛ける可能性が有るが、下側糸条n−1は上側糸条nにq点で押さえられているため、たとえ引っ掛かったとしても、下側糸条n−1が上側糸条nにつられて解舒されることがないからである。また、上側糸条n及び下側糸条n−1のターン位置t3,t4よりも巻取回転方向の前側の部分については、下側糸条n−1が上側糸条nよりも糸解舒方向の後ろ側に位置しているから、上側糸条nを矢印方向へ解舒する際に、下側糸条n−1を引っ掛ける可能性はない。
【0025】これに対し、図3(A)に示す如く、ワインド数Wがリボンワインド数Wrよりも大きい上位側領域にある糸条パッケージP1では、上側糸条mのターン位置t1が、下側糸条m−1のターン位置t2よりも、巻取回転方向の後ろ側に位置しており、糸条解舒の際に、上側糸条mが下側糸条m−1を引っ掛ける可能性が高くなっている。図3(A)を見ればわかるように、上側糸条m及び下側糸条m−1におけるターン位置t1,t2よりも巻取回転方向の後ろ側の部分では、下側糸条m−1の方が上側糸条mよりも糸解舒方向の後ろ側に位置しているから、上側糸条mを矢印で示す解舒方向へ引き出す際に、下側糸条m−1を引っ掛ける可能性はない。しかるに、上側糸条m及び下側糸条m−1におけるターン位置t1,t2よりも巻取回転方向の前側の部分については、下側糸条m−1が上側糸条mよりも糸解舒方向の前側に位置しており、しかも下側糸条m−1は上側糸条mに押さえられていない。このため、上側糸条mを矢印方向へ解舒する際に、下側糸条m−1が上側糸条mにつられて解舒される可能性がある。これが従来、リボンワインド数を回避しても解舒不良を招く原因であったと推察される。
【0026】そこで本発明では、リボンワインド数Wrに対し上位側領域のジャンプ幅aを下位側領域のジャンプ幅bよりも大きく設定することにより、リボンワインド数Wrの上位側領域にある糸条パッケージP1において、上側の糸条mのターン位置t1とその下側の糸条m−1のターン位置t2とのずれ幅αを増大させた。その結果、上側の糸条mのターン位置t1が、下側の糸条m−1のターン位置t2よりも解舒回転方向の前側へ十分離れるから、上側の糸条mを解舒したときに、これが下側の糸条m−1に対し、引っかかる等の悪影響を及ぼすおそれを無くせる。すなわち本発明方法に基づいて製作された糸条パッケージは、糸条を解舒したときに、リボンワインド数Wrを通過した直後でラッチングや輪抜け等の解舒不良が生じ易いという従来の問題が解消されている。
【0027】ところで、リボン巻きを確実に回避するうえで必要とされるワインド数ジャンプ幅の大きさは一定ではなく、ジャンプ時の巻径や、ジャンプするリボンワインド数Wrに応じ適宜設定される。本発明者が考察するところ、巻径の小さいときにはジャンプ幅を大きくする必要がある。また、値が自然数のリボンワインド数Wrをジャンプ対象とするときには、非自然数のリボンワインド数Wrを跳び越えるときよりも、ジャンプ幅を大きく設定する必要がある。さらに、パッケージの巻径や、ジャンプ対象とするリボンワインド数Wrの値に応じ、ジャンプ幅を変更する場合において、リボンワインド数Wrに対し上位側領域のジャンプ幅のみを変更するよう設定する態様も可能である。
【0028】ワインド数のジャンプ時期は、巻径または綾角に基づき設定されるが、いずれの場合も巻径の算出が必要となる。巻径の算出方法は、速度センサーb3,b4で検知したボビンホルダBHの回転速度から求める手法、フィードバック制御により算出したボビンホルダBHへの指令回転速度に基づき算出する手法、さらには初期設定値から時間tの関数として理論的に算出する手法などが挙げられる。
【0029】前記糸条巻取機MにおけるボビンホルダBHの回転速度の制御は、通常、速度センサーb2が検知するコンタクトローラCRの回転速度が、糸の生産速度に対応した一定速度となるようフィードバック制御して行う。すなわち速度センサーb2でコンタクトローラCRの回転速度を計測し、目標回転速度との偏差に基づきPI制御等のフィードバック制御により実行する。但し場合によっては、巻き始めからの経過時間tの関数である理論式に基づいて、ボビンホルダBHの回転速度を制御する方式を採用することも妨げない。
【0030】一方、トラバース速度は、巻径に基づき制御されるが、前述したように、巻径は、ボビンホルダBHの回転速度から算出される。従ってトラバース速度の制御は、速度センサーb3又はb4が検知したボビンホルダBHの実測回転速度に基づき行ってもよい。あるいはフィードバック制御により糸条巻取を行っているときは、フィードバック制御により算出したボビンホルダBHへの指令回転速度を用いて制御することが可能である。さらに、ボビンホルダ回転速度を、フィードバック制御によらずに理論式により制御する場合は、巻き始めからの経過時間tの関数である理論式に基づいて、t時間経過後のボビンホルダ回転速度の理論値を算出し、該理論値に基づいてトラバース速度の制御を行ってもよい。
【0031】以上述べたところから、ワインド数Wのジャンプ時期及びジャンプ幅は、巻径とワインド数に基づき設定されるが、これらは、ボビンホルダの回転速度とトラバース速度とから算出される。それ故、ワインド数Wのジャンプ時期及びジャンプ幅を、ボビンホルダ回転速度及びトラバース速度の関数として設定することが可能である。
【0032】ところで本例では、ワインド数を一定に保持している期間中、綾角を微少な値だけ(通常1%未満)振動させる巻取方法を併用している。この綾角の微少振動により、例えば、ワインド数W=N/10(Nは自然数)におけるリボン巻きが回避され、糸条パッケージの解舒性を向上させている。
【0033】[第2の実施形態]図4は、本発明を綾角一定巻きに適用した実施形態を示すものである。綾角一定巻きは、図4(A)に示すとおり、リボンワインド数Wrのジャンプ及び復帰のとき以外は、原則として綾角を一定値に保持しながら糸条の巻き取りを行う方法である。但し、糸解舒性向上のため、1%未満の微少な綾角振動を併用することも可能である。
【0034】本例にあっても、図4(B)に示す如く、リボンワインド数Wrを飛び越すようにワインド数Wをジャンプさせるにあたり、リボンワインド数Wrの上位側のジャンプ幅aを、下位側ジャンプ幅bよりも大きく設定したところに、特色を有している。本例の場合、ワインド数のジャンプ幅合計a+b、及び、ジャンプ幅の比率a:bは、いずれもほぼ一定値に保つことが望ましい。
【0035】[第3の実施形態]図5は、本発明を、綾角を所定のスケジュールに従って変化させる綾角変化巻きに適用した実施形態を示すものである。綾角変化巻きは、図5(A)に示すとおり、ワインド数Wについても通常は一定値に保持されない。
【0036】本例にあっても、図5(B)に示す如く、リボンワインド数Wrを飛び越すようにワインド数Wをジャンプさせるにあたり、リボンワインド数Wrの上位側のジャンプ幅aを、下位側ジャンプ幅bよりも大きく設定する。本例の場合、ワインド数のジャンプ幅合計a+b、及び、ジャンプ幅の比率a:bについては、巻径やジャンプするリボンワインド数Wrの値に応じて適宜設定される。
【0037】
【発明の効果】本発明によれば、糸条をボビンに巻き取ってパッケージを形成するにあたり、リボンワインド数を回避すべくワインド数をジャンプさせるに際し、リボンワインド数の上位側領域のジャンプ幅を、下位側領域のジャンプ幅より大きくなるよう設定したので、リボンワインド数の上位側領域において、上下に重なる糸条それぞれの糸条のターン位置を、大きくずらすことができる。それ故、従来、リボンワインド数の上位側領域において起こりやすかったラッチングや輪抜け等の解舒不良を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明が適用される糸条巻取機の一例を示す概略構成図である。
【図2】 本発明に係る糸条巻取方法の第1の実施形態を示すものであって、図(A)は糸条巻取工程中の綾角変化を示すグラフ、図(B)はワインド数をジャンプさせる工程の詳細を示すグラフである。
【図3】 本発明に係る糸条巻取方法により形成される糸条パッケージの解舒途中状態を示すものであって、図(A)はリボンワインド数をジャンプさせた直後の状態を示す斜視図、図(B)はジャンプ直前の状態を示す斜視図である。
【図4】 本発明に係る糸条巻取方法の第2の実施形態を示すものであって、図(A)は糸条巻取工程中の綾角変化を示すグラフ、図(B)はワインド数をジャンプさせる工程の詳細を示すグラフである。
【図5】 本発明に係る糸条巻取方法の第3の実施形態を示すものであって、図(A)は糸条巻取工程中の綾角変化を示すグラフ、図(B)はワインド数をジャンプさせる工程の詳細を示すグラフである。
【図6】 従来の糸条巻取方法を説明するためのグラフであって、図(A)は綾角一定巻きに関するもの、図(B)は綾角変化巻きに関するもの、図(C)はワインド数一定巻きに関するものである。
【図7】 従来のワインド数のジャンプ工程に関するものであって、図(A)はリボンワインド数の前後に一定幅の危険領域を設定する方式、図(B)はジャンプ幅の中間点をリボンワインド数に一致させる方式をそれぞれ示すグラフである。
【符号の説明】
M…糸条巻取機 B…ボビン BH…ボビンホルダ CR…コンタクトローラP…糸条パッケージ S…糸条 T…トラバース装置 U…制御装置 X…設定器 m1,m2…ボビンホルダの駆動用モータ mc…コンタクトローラーの駆動用モータ mt…トラバース装置の駆動用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 糸条を巻き取るボビンを保持して回転させるボビンホルダと、糸条を左右にトラバースさせるトラバース装置と、上記ボビンホルダの回転駆動及び上記トラバース装置の駆動を制御する制御装置とを備える糸条巻取機であって、巻取工程の途中でワインド数をリボンワインド数より値が大きい上位側から値が小さい下位側へジャンプさせるジャンプ幅に関し、リボンワインド数よりも上位側領域のジャンプ幅と下位側領域のジャンプ幅とを異なる幅に設定可能な設定手段を備えていることを特徴とする糸条巻取機。
【請求項2】 糸条をトラバースしつつボビンに巻き取ってパッケージを形成する方法であって、ワインド数がリボン巻きを形成するリボンワインド数に一致するのを回避すべく、ワインド数をリボンワインド数より値が大きい上位側から値が小さい下位側へジャンプさせて変更するに際し、前記ワインド数のジャンプ幅のうち、リボンワインド数の上位側領域のジャンプ幅を下位側領域のジャンプ幅よりも大きく設定したことを特徴とする糸条巻取方法。
【請求項3】 ワインド数のジャンプ幅を、飛び越し対象とするリボンワインド数の値に応じて変更する請求項2に記載の糸条巻取方法。
【請求項4】 ワインド数のジャンプ幅のうち、リボンワインド数より上位側領域のジャンプ幅のみを変更する請求項3に記載の糸条巻取方法。
【請求項5】 糸層の一周違いで上下に重なって巻かれた上側糸条と下側糸条それぞれの糸層端部におけるターン位置が互いに接近し、且つ、糸条の解舒時に解舒に従って前記ターン位置が巻取回転方向に沿ってずれるように設定された巻取状態を有する糸条パッケージであって、糸条解舒時に、前記ターン位置が巻取回転方向とは反対方向へずれる状態から、前記ターン位置が巻取回転方向と同方向へずれる状態に変化する巻取状態を含み、前記ターン位置のずれ方向が巻取回転方向と同方向の状態に変化した後におけるターン位置のずれ幅が、前記ターン位置のずれ方向が巻取回転方向とは反対方向である状態におけるずれ幅よりも大きく設定されていることを特徴とする糸条パッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2003−2536(P2003−2536A)
【公開日】平成15年1月8日(2003.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−184288(P2001−184288)
【出願日】平成13年6月19日(2001.6.19)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】