説明

糸測長貯留装置

【課題】 糸種に拘らずに、安全にまた糸を正しく測長して、貯留可能であると共に、糸を引き出す際に、どんな糸種であっても、糸を損傷することなく確実に送り出すことができる糸測長貯留装置を提供することである。
【解決手段】 糸進行方向に回動する少なくとも一対の無端ベルト20と、該無端ベルトの周囲を回動する糸案内ガイド10とを有する糸貯留部2とし、該糸貯留部2に所定長さの糸を巻回貯留しながら、前記無端ベルトを同時に前進させて、前記糸を前方に送り出す構成の糸測長貯留装置1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は所定長さの糸を巻き取る定長巻取装置に適用される糸測長貯留装置に関するものであり、更に詳しくは、所定長さの糸を測長して貯留し、さらに貯留された糸を引き出す際に、抵抗を少なくして引き出し可能とする糸測長貯留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の給糸パッケージから糸を連続して解舒していき、種々の多数の糸からなる巻取パッケージを製造する際には、各給糸パッケージの糸長を所定長さに測長して、順次糸継しながら巻き取っていく構成とされている。
【0003】
さらに、複数の給糸パッケージから、糸量の少ない多数の小パッケージを形成する際にも、それぞれの各給糸パッケージの糸長を所定長さに測長しながら巻き取っていくようにしている。
【0004】
従来の糸貯留装置は、糸を回転させながら円筒形状の測長ドラムに糸を貯留する構成が一般的である。また、貯留された糸を引き出す際には、前記測長ドラムに巻回された糸を引き出すようにして解除している。
【0005】
また、前記測長ドラムに糸を巻回する際に、糸同士が重ならないように、溝部を有する送り片を備える測長貯留装置が既に公開されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
さらには、織機の緯糸を貯留して緯入れする際に、外周部に複数の無端ベルトを配設し、該無端ベルトの外周を周回するように糸を巻回して貯留すると共に、糸を引き出す際には、前記無端ベルトを駆動して糸を送り出す構成とした貯留装置を備える緯入れ方法も既に公開されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−232189号公報(第1−9頁、第1図)
【特許文献2】特公昭49−32738号公報(第1−9頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、一旦測長ドラムに巻回した糸、特に弾性糸のように締まり易い糸の場合では、糸の解舒が困難であり、糸張力の変動も大きくなって、解舒異常や糸絡みが生じる等の問題が起こり易い。
【0008】
さらには、単に無端ベルトを周囲に配設して、糸を巻回して貯留する方式では、上記の弾性糸の場合はもちろん、一本の繊維が細いデリケートな糸の場合でも、糸を傷めずに十分安全に確実に解舒して送り出すことは困難である。
【0009】
本発明の目的は、糸種に拘らずに、安全にまた糸を正しく測長して、貯留可能であると共に、糸を引き出す際に、どんな糸種であっても、糸を損傷することなく確実に送り出すことができる糸測長貯留装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために請求項1に係る発明は、複数の給糸パッケージから少なくとも一本の糸を選択装置により選択し、糸継装置により糸継すると共に、糸の測長と貯留を同時に行い、それぞれの糸を所定長さに測長しながら連続的に巻取パッケージに巻き取る巻取装置に設けられる糸測長貯留装置であって、所定長さの糸を巻回して貯留する糸貯
留部が、糸進行方向に回動する少なくとも一対の無端ベルトと、該無端ベルトの周囲を回動する糸案内ガイドとを有していることを特徴としている。
【0011】
上記の構成を有する請求項1に係る発明によれば、少なくとも一対の無端ベルトの周囲に所定長さの糸を順次巻回して貯留することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記無端ベルトを上下左右の四方に配設し、これらの無端ベルトがそれぞれ駆動プーリと従動プーリとの一対のプーリを備えていると共に、上側左右一対の二箇所の前記無端ベルトでは、その上側の無端ベルトを、下側左右一対の二箇所の前記無端ベルトでは、その下側の無端ベルトとの四本の無端ベルトを、それぞれ糸進行方向に回動することで、これら四本の無端ベルトの周囲に糸を巻回貯留して糸進行方向に送り出すことを特徴としている。
【0013】
上記の構成を有する請求項2に係る発明によれば、上下左右の四箇所に配設する無端ベルトを周回するように糸を巻回貯留すると共に、巻回した糸を糸進行方向に送り出すことができるので、糸を巻回貯留しながら糸を送り出すことができ、糸を解舒する際に糸を無理に引っ張らず糸を損傷しない。
【0014】
請求項3に係る発明は、前記糸案内ガイドが、回転軸と該回転軸と共に回転する回転アームを備えると共に、前記回転軸の中心部を貫通して前記回転アームの外縁部に設けられる糸出口部に至る糸挿通路が形成され、駆動モータにより回転駆動される前記回転軸の回転を歯車伝達機構を介して前記無端ベルトに伝達して、全ての無端ベルトを、糸を巻回する回転に連動して駆動することを特徴としている。
【0015】
上記の構成を有する請求項3に係る発明によれば、回転アームを回転するだけで、糸を上下左右の四本の無端ベルトに巻回することができる。さらに、糸を巻回する速度に同調して、巻回する位置をずらしていく構成となっているので、糸同士が重ならないように順次巻回し、順に解舒していくことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、糸種に拘らずに、安全にまた糸を正しく測長して、貯留可能であると共に、糸を引き出す際に、どんな糸種であっても、糸を損傷することなく確実に送り出すことができる糸測長貯留装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る糸測長貯留装置の実施の形態について、図1から図6に基づいて詳細に説明する。
【0018】
先ず、図5により本発明に係る糸測長貯留装置1を備える巻取装置の全体概要について説明する。
【0019】
本発明に係る糸測長貯留装置1を備える巻取装置は、複数の色の異なる給糸パッケージや複数の糸種の異なる給糸パッケージから少なくとも一本の糸を選択装置により選択し、糸継装置により糸継すると共に、糸の測長と貯留を同時に行い、糸の長手方向に種々の色糸や糸種をそれぞれ所定長さに測長しながら連続的に巻取パッケージを巻成する構成の巻取装置である。そのために、図中に示すクリール40に装着されたパッケージP1,P2,P3・・・から糸Y1,Y2,Y3をそれぞれ引き出して張力付加部材G1を挿通して糸の選択装置41、糸継装置45、糸測長貯留装置1を通り、第二の張力付加部材であるヤーンガイドG2を介して、巻取部50に装着され巻取ドラム51と連れ回りする空ボビンCBに糸Yを巻回して巻取パッケージPWを製造する構成としている。また、製造され
た前記巻取パッケージPWは、該パッケージPWを把持しているクレードル52を矢印R2方向に回動した後、前記パッケージPWの把持を解除して、傾斜面54に降下し、集積部55に集積する構成である。
【0020】
前記パッケージP1,P2,P3・・・は、それぞれ色や糸種の異なるパッケージであってもよく、糸継装置45により、給糸側の糸と巻取側の糸とを糸継しながら連続的に糸測長貯留装置1に供給していく。また、所望の織物を製造するのに必要な色種・糸種の糸を順に巻き取っていく際には、それぞれの糸種のパッケージをクリール40に装着して、順に巻き取っていく構成であり、図示した3個に限定されず、6個もしくは12個装着されることもあって、数量には制限がない。
【0021】
糸の選択装置41はパッケージP1,P2,P3毎に配設された糸ガイド42をそれぞれ有していて、例えばエアシリンダ等の駆動装置により糸継装置45へ糸Yを案内する糸ガイド位置(図中42aに相当)と、糸Yを吸引部材44Cへ案内する位置(図中42bに相当)とに移動自在に制御される構成であり、所望される糸Yを選定して巻き取るように構成されている。
【0022】
前記吸引部材44Cに吸引されている糸Yは、糸保持ローラ44Bと糸保持板44Aにより挟持されている。糸保持ローラ44Bは、外周面にウレタン等の弾性材が被覆されたローラ部材であり、糸保持板44Aは、シリンダー44により、前記糸保持ローラ44Bに当接・離反する構成である。
【0023】
糸継装置45により糸Yの切断と糸継を行っており、選択装置41により選択された所望の糸Yが糸継装置45へ案内されて糸継された後で、糸測長貯留装置1を駆動し所定長さの糸として巻き取る構成である。この糸継装置45としては空気渦流により糸継するスプライサー装置でもよいし、糸結びを行うノッター装置でもよい。スプライサー装置を採用するかノッター装置を採用するかは、使用する糸種や求められる糸継形態によって選択される。
【0024】
また、選択された糸Yを糸継装置45にて糸継した後で、糸測長貯留装置1を駆動して所定長さの糸を巻き取る際に、前記糸測長貯留装置1は、織成後の紋柄を考慮して決定される糸選択制御プログラムにより、所定の糸長さを測長して貯留するように回転角度を制御しながら回転駆動されるパルスモータもしくは角度制御可能なサーボモータを備えている。
【0025】
上記のように、選択装置41と糸継装置45と糸測長貯留装置1とで、巻取パッケージPWに巻き取る糸Yの選択と所定長の貯留を行う。また、前記糸測長貯留装置1に測長され巻き取られた糸Yを、巻取部50にて巻取パッケージPWに巻成する。所定長さの糸長を有する巻取パッケージPWの巻成が終了すると、該巻取パッケージPWを取り外して、新たな空ボビンCBを装着して、次の巻取を開始する。
【0026】
次に、本発明に係る糸測長貯留装置1について図1から図3により詳細に説明する。
【0027】
図1は本発明に係る糸測長貯留装置1全体の概略側面図である。図2は回転軸の駆動を無端ベルトの駆動力とする歯車伝達機構を説明する平図面である。図3には糸を巻回して貯留する糸貯留部を示しており、(a)は概略側面図であり、(b)糸の巻回状態を示す概略断面図である。
【0028】
図1に示すように、糸測長貯留装置1は、クリール40に装着されるパッケージから引き出される糸Yを、所定の糸長さに測定して貯留する装置であって、糸貯留部2と糸案内
ガイド10とを備えている。前記糸貯留部2に貯留された糸Yは、円弧状の摺動面を有するガイド板3の外周摺動面3aをガイドとして、ヤーンガイドG2を介して引き出されて、前述した巻取部において巻取パッケージPWに巻成される。
【0029】
前記糸案内ガイド10は、回転軸11と該回転軸11の糸送り出し方向先端部11A側から半径方向に突出する回転アーム12を備えている。
【0030】
前記糸案内ガイド10を支持する本体筒10Aの中心空洞筒部にベアリング11a、11bを介して回転軸11が装着されており、前記回転軸11に(タイミング)プーリ15を装着し、外部に設置する駆動モータMにより駆動プーリ17とタイミングベルト16を介して回転自在な構成としている。
【0031】
前記本体筒10Aには、前記回転アーム12が回転可能な空隙部10Bが設けられており、前記回転アーム12は、回転軸11と共に本体筒10Aと干渉することなく、本体筒10Aに設ける空隙部10B内を回動可能な構成である。そして、前記回転軸11の中心部を貫通して前記回転アーム12の外縁部に配設する糸出口部12Aに至る糸挿通路11Bを備えている。そのために、糸Yを前記糸挿通路11Bに挿通した状態で、前記駆動モータMにより回転軸11と回転アーム12が一回転すると、前記糸出口部12Aも一回転する構成としている。
【0032】
また、前記空隙部10Bにその一部を埋設するように糸貯留部2を設けている。前記糸貯留部2は、上下左右の四方に配設される無端ベルト駆動系から構成されている。前記無端ベルト駆動系は、それぞれ鉛直方向に配設される駆動プーリと従動プーリとの一対のプーリと、これらのプーリ間に装着される無端ベルト20を備えている。つまり、上下左右の四箇所にそれぞれ別体の無端ベルト駆動系が配設されていて、この四個の無端ベルト駆動系の周囲を前記回転アーム12の糸出口部12Aが周回する構成である。
【0033】
そのために、上下左右の四方に設けられた無端ベルト20の外周囲を前記糸出口部12Aがグルグル周回可能となっている。この四方に配置される無端ベルトの周囲を前記糸出口部12Aが巻回する構成であるので、糸挿通路11Bを挿通して糸出口部12Aから引き出される糸Yは、前記四方に配置される無端ベルト20の周囲を巻回する構成である。
【0034】
つまり、回転軸11と回転アーム12を備える糸案内ガイド10が、無端ベルト20の外周囲を回動することで、前記回転軸11の中心部を貫通して前記回転アーム12の外縁部に設けられる糸出口部12Aに至る糸挿通路11Bを挿通する糸Yが前記無端ベルト20の外周囲に巻回される構成となる。
【0035】
前記無端ベルト20を上下左右の四箇所に設けるとした本実施の形態においては、上側左右両方の二箇所ではその上側の無端ベルト(図3(b)に示す20AA、20AB)と、下側左右両方の二箇所ではその下側の無端ベルト(図3(b)に示す20BA、20BB)との四本の無端ベルトで糸貯留部2を構成している。
【0036】
前記無端ベルトの駆動は、前記回転軸11の回転力を利用しており、回転軸11の先端部11A側に設ける傘歯車13から歯車伝達機構を介して減速伝達し、全ての無端ベルトを同一速度で同一方向に駆動している。つまり、前記回転軸11を回転駆動する駆動モータMにより前記無端ベルトも駆動している。
【0037】
前記歯車伝達機構は、図2に示すように、傘歯車13に噛合う歯車30から軸25を回転し、軸端に設けられる歯車31から、該歯車31と噛合う歯車32により軸26を回転駆動する。さらに軸26に装着される歯車33から歯車34を介して軸27を回転駆動し
、軸27に装着されている歯車35から歯車36Aを介して駆動軸22を回転駆動する構成とされている。
【0038】
また、上下2段構成の歯車伝達機構の場合では、一方の駆動軸、例えば上側の駆動軸22Aを歯車36Aを介して回転駆動し、該回転を、歯車36Bから下側の駆動軸22Bに装着する歯車36Cに伝達する構成とすればよい(図3参照)。この時、前記歯車36Bと前記歯車36Cとは同一歯数の歯車であって、上側の駆動軸22Aと下側の駆動軸22Bとが同一速度で回転する構成としている。
【0039】
前記駆動軸22(22A、22B)の両端には、駆動プーリ21Aがそれぞれ装着されている。つまり、糸送り出し方向に駆動プーリ21Aが配置されており、糸Yを巻回する無端ベルトを緊張した状態で牽引している。
【0040】
上記のような歯車伝達機構を用いて、前記駆動モータMにより回転駆動される前記回転軸11の回転を無端ベルトに伝達して、全ての無端ベルトを、糸を巻回する回転に連動して駆動する構成としているので、糸を糸貯留部2に巻回する速度に同調して、巻回する位置をずらしていく構成となり、糸同士が重ならないように順次巻回し、順に解舒していくことができる。
【0041】
前記のそれぞれの軸25、26、27と駆動軸22は、側壁24Aと側壁24Bに、ベアリング等の回転補助具を介してそれぞれ回転自在に支持されている。しかし、上記で説明した歯車伝達機構ではなく、別に設ける減速手段を介して、前記傘歯車13の回転を直接減速して前記駆動軸22を駆動する構成としてもよく、特に限定するものではない。
【0042】
また、側壁24Aに軸23を固着し、該軸23に対して回転自在となるように従動プーリ21Bを設けた。前記駆動プーリ21Aと前記従動プーリ21Bに無端ベルト20AAを架け渡して無端ベルト駆動系を構成している。
【0043】
反対側の側壁24Bにも同様にして従動プーリ21Bを配設して、駆動プーリ21Aとの間に無端ベルト20ABを架け渡している。
【0044】
また、図中の一部拡大図に示すように、全てのプーリの溝部の幅寸法を巻回する無端ベルトの大きさ(無端ベルトが丸ベルトであればその径)よりも小さな寸法として、図中に示す寸法tだけ、ベルト端部が突出する構成としている。そのために、上下左右に配置される無端ベルトを周回するように糸Yを巻回させた時に、糸Yは必ず無端ベルトの端面に当接するようにしている。すなわち、糸Yを巻回しても、糸Yはゴム組成体からなるベルトに接するだけとなり、金属等の硬い部品に接することがないので、毛羽立つこともなく、糸切れもしない。
【0045】
図3に、上下左右の四方に配設する無端ベルトを周回するようにして糸Yを貯留しているところを示すが、糸Yが挿通している糸出口部12Aを回転していくことで、糸Yが周回して順次貯留されていく。この時に、図3(a)に示すように、回転軸11の先端部11Aに装着される傘歯車13の矢印Rの回転に同調してそれぞれの無端ベルトが矢印D方向に少し進行するので、図中の上側の無端ベルト20ABと下側の無端ベルト20BBとに巻回していく糸Yは所定の間隔離れて順次巻回されていく。
【0046】
前記傘歯車13の回転により、糸送り出し方向にある駆動プーリ21Aを図中の矢印方向に回転駆動して、無端ベルト20AB、20BBをそれぞれ糸送り出し方向に引張駆動するので、糸貯留部となる無端ベルトが緊張された状態となり、巻回貯留する位置がずれず安定するので、ほぼ等しい離間間隔で順次巻回して貯留していくことができる。
【0047】
この離間距離は、歯車伝達機構の減速率により設定される間隔であり、糸種や糸の太さに応じて予め所定の間隔の設計寸法としておくこともできる。
【0048】
つまり、前記駆動モータMにより回転駆動される前記回転軸11の回転を歯車伝達機構を介して前記無端ベルト駆動系に伝達しているので、糸Yを巻回する回転速度に応じた所定の速度で糸Yを送り出し、糸同士が重ならないようにして順次巻回していくことができる。さらには、巻回した糸Yを順次前方に向けて送り出すので、糸Yの解舒張力を一定とし、安定して引き出すことができる。
【0049】
この時に、巻回されている糸Yが駆動プーリに巻き込まれないようにガイドプレートを装着している。すなわち、上部の一対の駆動プーリ21A間にガイドプレート28Aを装着し、下部の一対の駆動プーリ21AB間にはガイドプレート28Bを装着して、適当な位置で糸Yが無端ベルトから離反する構成としている。
【0050】
糸Yを巻回貯留する際に、貯留される糸Yの糸長さは、図3(b)に示すように、上側の無端ベルト20AA、20ABと下側の無端ベルト20BA、20BBとを配設した時に、それぞれのベルトの水平間距離L1と垂直間距離L2とにより、明確に算出し、設定することができる。また、この時、前述したように、糸Yは緊張状態の無端ベルトに接して巻回する構成となるので、巻回される糸長さが正しくなり変動することもなく、また糸Yが損傷することもない。そのために、多種類の糸を貯留する装置として使用することができ、少量多品種の巻取装置にとって好適である。
【0051】
上記のような構成であるので、前記駆動モータMは、所定の糸長さを測長して貯留可能なように回転角度を制御しながら回転駆動可能なパルスモータもしくは角度制御可能なサーボモータが好ましい。
【0052】
また図1に示すように、巻回されて貯留される糸Yの前進端を規制する規制ガイド14を設けると共に、該規制ガイドにより規制される前端の巻回糸を検知する光電センサである第一センサ18Aと、所定長さの糸が巻回された位置に配設される第二センサ18Bとを備えた構成としている。そのために、前記第一センサ18Aが巻回される糸Yを検知している間は、糸Yが貯留保持された状態であると判断できる。また、前記第二センサ18Bが巻回した状態の糸Yを検知すると、糸Yの貯留が満杯であると判断できるので、糸Yの巻回操作を停止する制御とすることができる。また、前記第一センサ18Aが巻回される糸Yを検知しなくなると、巻取操作を行うべき所定長さの糸Yが貯留されていないと判断して、巻取部での巻取操作を停止する構成とすることもできる。
【0053】
これらの制御は図中に示すように、糸を検知する光電センサである第一センサ18Aと第二センサ18Bとの信号の受信機能と、前記駆動モータMの駆動および駆動回転角度のオン・オフ制御機能を備える制御装置19により行うことができる。
【0054】
上側の左右一対の無端ベルト間に配設される前記規制ガイド14はソレノイド等の駆動部材14Aにより旋回し、前記無端ベルト間に向けて降下して図中の破線に示す糸Yを規制する位置と、上方に向けて上昇し図中の実線に示す規制を解除する位置とを旋回自在なものであって、糸Yの巻き始め等の糸貯留時に使用する装置である。
【0055】
前記規制ガイド14は丸棒でも平板状のガイド体でもよく、糸Yが接触しても毛羽立ったり損傷しないように滑らかな糸当接部を備えておればよい。また、前記規制ガイド14を旋回降下させた状態で、糸Yを巻回して貯留した後、前記規制ガイド14を旋回上昇して規制解除位置に戻して、糸Yの巻取を開始する。この旋回上昇する際に、前記規制ガイ
ド14は、巻回貯留している糸Yから離反する方向に旋回しているので、糸Yを損傷せずに好適である。
【0056】
巻取が開始されてヤーンガイドG2を介して引き出される糸Yは、糸貯留部2の周回外形よりも大きな径の円弧状の摺動面を有するガイド板3の外周摺動面3aに向かって、貯留されている無端ベルト表面から引き離されて、巻取部50で巻取パッケージPWに巻き取られる。
【0057】
そのために、ゴム組成体からなる無端ベルトを上下左右の四箇所に配置して、糸を周回させる糸貯留部としても、ゴム製の無端ベルト表面から糸Yを損傷せずに引き出すことができる。さらには、糸Yを巻回している無端ベルトを糸引き出し方向に所定速度で送り出す構成としているので、収縮性の大きい弾性糸であっても、確実に巻回した糸を解舒して送り出すことができる。
【0058】
前記無端ベルト20は糸を損傷しない表面の素材であれば丸ベルトでも平ベルトでも構わない。しかし、断面が円形の丸ベルトを用いれば、上下左右の四方に配設される円形断面の丸ベルトを周回して糸Yが巻回貯留されるので、糸Yが容易に巻回可能であると共に糸Yを損傷しないためにさらに好適といえる。
【0059】
さらに、図4に示すように、上下左右の四方のうち対角線上に位置する二箇所に無端ベルト20CA、20CBを配設して、残りの二箇所にスライドバー29A、29Bを配設した糸貯留部2Aとすることも可能である。
【0060】
前記スライドバー29A、29Bは、巻回される糸Yが滑らかに摺動可能な程度の表面粗度を有するガイドバーであって、対角線上の二箇所に配設する無端ベルトの回動に追随して前記糸Yが容易に摺動して移動可能である。
【0061】
つぎに、図5により、巻取部50にて所定の糸長が巻回された満巻の巻取パッケージPWを取り外して、新たな空ボビンCBを第一ストッカー70からボビン載置部材71を介して第二ストッカー60へ搬送し、該第二ストッカー60から巻取部50へ装着する動作について簡単に説明する。
【0062】
図に示すように、糸Yをトラバースさせる螺旋溝が設けられた巻取ドラム51と空ボビンCBを回転自在に支持するクレードル52とを備える巻取部50において、回転している前記巻取ドラム51に当接して連れ回りする空ボビンCBに糸を巻回している。所定の糸長が巻回されると、巻取ドラム51の回転を停止し、クレードル52に保持されている満巻の巻取パッケージPWの払い出し動作が開始される。
【0063】
クレードル52はシリンダー53により支軸52a回りに回動自在であり、満巻の巻取パッケージPWが巻成されると、巻取ドラム51の回転が停止された後で、矢印R2方向に回動されて、クレードル位置52Aにて、巻取パッケージPWの保持を解除する。
【0064】
クレードル52A位置にて満巻の巻取パッケージPWの保持を解除した後、空ボビンCBを受取る位置60Aにある第二ストッカー60を矢印R1方向に回動し、受け渡し位置60Bとして、先頭の空ボビンCBをクレードル52に装着して、次の巻取を開始する構成としている。
【0065】
クレードルの保持を解除された満巻の巻取パッケージPWは傾斜面54に落下し、集積部55に集積される。該集積部55は集積用の箱であってもよいし、また搬送コンベアであってもよい。
【0066】
上記のような構成としているので、本発明に係る糸測長貯留装置1を備える巻取装置は、少なくとも一対の無端ベルトに糸を巻回して貯留し、糸の送り出し方向に前記無端ベルトを移動させるので、種々の糸、特に伸縮性の大きい弾性糸であっても、また、マイクロフィラメント糸のような繊細な糸であっても、糸を確実に貯留し安全に送り出すことができる。
【0067】
そのために、少量多品種となっている最近の繊維工場においては、いろんな糸種の糸を測長しながら所定の大きさの巻取パッケージに巻成することが可能であるので特に好適といえる。
【0068】
一般に、織物や編物のサンプルを作成する際には、少量の糸長の巻糸パッケージを多数必要とする。また各パッケージも単一の糸種ではなく、各種の色糸を所定の糸長毎にして巻回されたパッケージが必要である。そのために、本発明に係る糸測長貯留装置1を備える巻取装置を採用することで、必要な糸種と糸長のパターン化されたパッケージを連続的に、また大量に自動製造することができる。
【0069】
図6(a)に巻成される巻取パッケージPWの一例を示している。図6(b)には、その時の糸の構成例を示しており、空ボビンCBに糸Yaと糸Ybと糸Ycを順に糸継しながら一個の巻取パッケージとして巻成したことを示している。
【0070】
上記したように、本糸測長貯留装置1は、糸種に拘らずに、多種の糸を確実に貯留して送り出すことができるので、いろんな糸を同時にまた自動的に処理することができ、利用範囲がさらに広がり、繊維産業上非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る糸測長貯留装置全体の概略側面図である。
【図2】回転軸の駆動を無端ベルトの駆動力とする歯車伝達機構を説明する平図面である。
【図3】糸を巻回して貯留する糸貯留部を示しており、(a)は概略側面図であり、(b)糸の巻回状態を示す概略断面図である。
【図4】糸を巻回して貯留する糸貯留部の別の実施例を示す概略断面図である。
【図5】本発明に係る糸の巻取装置の全体概略図である。
【図6】巻取パッケージの一例を示す概略説明図であり、(a)は全体斜視図であり、(b)には巻回されている糸の配列を示している。
【符号の説明】
【0072】
1 糸測長貯留装置
2 糸貯留部
10 糸案内ガイド
11 回転軸
12 回転アーム
12A 糸出口部
20 無端ベルト
50 巻取部
P1、P2、P3 給糸パッケージ
Y 糸
PW 巻取パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の給糸パッケージから少なくとも一本の糸を選択装置により選択し、糸継装置により糸継すると共に、糸の測長と貯留を同時に行い、それぞれの糸を所定長さに測長しながら連続的に巻取パッケージに巻き取る巻取装置に設けられる糸測長貯留装置であって、
所定長さの糸を巻回して貯留する糸貯留部が、糸進行方向に回動する少なくとも一対の無端ベルトと、該無端ベルトの周囲を回動する糸案内ガイドとを有していることを特徴とする糸測長貯留装置。
【請求項2】
前記無端ベルトを上下左右の四方に配設し、これらの無端ベルトがそれぞれ駆動プーリと従動プーリとの一対のプーリを備えていると共に、上側左右一対の二箇所の前記無端ベルトでは、その上側の無端ベルトを、下側左右一対の二箇所の前記無端ベルトでは、その下側の無端ベルトとの四本の無端ベルトを、それぞれ糸進行方向に回動することで、これら四本の無端ベルトの周囲に糸を巻回貯留して糸進行方向に送り出すことを特徴とする請求項1に記載の糸測長貯留装置。
【請求項3】
前記糸案内ガイドが、回転軸と該回転軸と共に回転する回転アームを備えると共に、前記回転軸の中心部を貫通して前記回転アームの外縁部に設けられる糸出口部に至る糸挿通路が形成され、駆動モータにより回転駆動される前記回転軸の回転を歯車伝達機構を介して前記無端ベルトに伝達して、全ての無端ベルトを、糸を巻回する回転に連動して駆動することを特徴とする請求項1または2に記載の糸測長貯留装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−143380(P2006−143380A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335041(P2004−335041)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】