説明

糸走行情報取得装置及び糸巻取機

【課題】正確な糸走行情報を取得することができる糸走行情報取得装置を提供する。
【解決手段】第1糸ムラセンサ43は、走行する糸の太さムラを検出して第1糸太さムラ信号を出力する。第2糸ムラセンサ44は、前記第1糸ムラセンサ43から所定の間隔を隔てて配置され、前記糸の太さムラを検出して第2糸太さムラ信号を出力する。類似度評価部65は、下流側フレームと上流側フレームを比較して、前記第1糸太さムラ信号と前記第2糸太さムラ信号との類似度を求める類似度評価処理を、上流側フレームの先頭位置を変化させて複数回行うことで複数の前記類似度を求める。重み付け処理部66は、前記複数の類似度に対して重み付けを行い、複数の重み付き類似度を求める。走行情報取得部67は、前記重み付き類似度に基づいて、前記第1糸太さムラ信号と前記第2糸太さムラ信号との時間的なズレ量を算出するとともに、前記ズレ量に基づいて糸走行情報を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、走行する糸の状態を検出するための糸走行情報取得装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
糸の巻き取りを行う糸巻取機においては、当該巻き取りの制御を行うために、糸の走行状態に関する情報が必要になる場合がある。そこで、このような糸巻取機は、糸の走行状態に関する情報(糸走行情報)を取得するための糸走行情報取得装置を備えている。上記走行状態としては、例えば糸の走行速度等が考えられる。
【0003】
このような糸走行情報取得装置は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1に開示された糸長・糸速測定装置は、走行する糸の毛羽や太さムラ等を、一定距離隔てた2つの非接触式センサによって検出し、一方のセンサの出力信号が他方のセンサの出力信号に対してどの程度遅れているかに基づいて、糸速、糸長を求めるように構成されている。特許文献1は、この糸長・糸速測定装置は、非接触的であるからスリップ等の問題がなく、正確な測定が可能であるとしている。
【0004】
ところで、特許文献1は、相関関数のピークを求めることにより、2つのセンサが出力した信号の時間的なズレを検出する構成である。この点、特許文献2は、このような相関関数に基づいた糸走行速度算出の問題点を指摘している。即ち、特許文献2によれば、相関関数は主最大点の他にもいくつかの副次的最大点を有しているため、前記副次的最大点へのロックインにより、時間的なズレの値として誤った値を求めてしまうおそれがある。換言すれば、走行する糸を監視している上記非接触式センサからの出力信号は、良く似た波形が続くことがあるため、本来ロックインする箇所以外でロックインしてしまうことがあるのである。このように、ズレ量の算出に誤りがあった場合、糸走行速度を正確に算出することができない。
【0005】
この点について、特許文献2は、繊維速度にほぼ比例する信号を送出する信号発生器からの信号を用いて、モデル走行時間を領域設定する構成の繊維糸速度測定装置を開示している。特許文献2は、これにより、走行時間相関器の閉ループ制御回路は、著しく迅速に、相関関数の正しいむだ時間最大値にロックインされるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭51−60551号公報
【特許文献2】特開平6−186242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2は、上記領域の範囲を設定するに際し、副次的最大点が領域外にあるように当該領域を狭く選定することが重要である旨を記載している(0031段落)。即ち、前記領域が広過ぎると、当該領域内に副次的最大点が含まれてしまい、当該副次的最大点(誤った最大点)にロックインしてしまう危険性が高くなる。一方、前記領域が狭過ぎると、糸速度が急激に変動した場合に主最大点が領域外に移動してしまう。この場合、特許文献2の構成では、主最大点にロックインすることができない。
【0008】
しかしながら実際には、このように都合良く上記領域の範囲を選定することは困難である。従って、特許文献2の構成では、相関関数の副次的最大点(誤った最大点)にロックインしてしまうことを排除することができない。この結果、糸の走行速度を正確に算出するという課題を解決することはできない。
【0009】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、2つのセンサの出力波形のズレ量を正確に算出し、これにより正確な糸走行情報を取得することができる糸走行情報取得装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0011】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の糸走行情報取得装置が提供される。即ち、この糸走行情報取得装置は、第1検出部と、第2検出部と、類似度評価部と、重み付け処理部と、走行情報取得部と、を備える。前記第1検出部は、走行する糸の太さムラを検出して第1糸太さムラ信号を出力する。前記第2検出部は、糸走行方向において前記第1検出部から所定の距離を隔てて配置され、前記糸の太さムラを検出して第2糸太さムラ信号を出力する。前記類似度評価部は、所定の第1時間範囲の間に取得された前記第1糸太さムラ信号と、前記第1時間範囲よりも長い第2時間範囲の間に取得された前記第2糸太さムラ信号と、に基づいて、前記第1糸太さムラ信号と前記第2糸太さムラ信号との複数の類似度を求める。前記重み付け処理部は、前記複数の類似度に対して重み付け処理を行い、複数の重み付き類似度を求める。前記走行情報取得部は、前記重み付き類似度に基づいて、前記第1糸太さムラ信号と前記第2糸太さムラ信号との時間的なズレ量を算出するとともに、前記所定の距離と、前記ズレ量と、に基づいて糸の走行情報を取得する。
【0012】
上記のように、類似度に対して重み付け処理を行うことにより、類似度の最大点が複数存在する場合に誤った最大点を選択する確率を低くすることができる。これにより、糸走行情報取得装置は、第1糸太さムラ信号に対する第2糸太さムラ信号の時間的なズレ量を正確に算出することができる。この結果、糸走行情報取得装置は、正確な糸の走行情報を取得することができる。
【0013】
前記の糸走行情報取得装置において、前記第1検出部は、前記第2検出部の下流側に配置されることが好ましい。
【0014】
これにより、糸走行情報取得装置は、下流の最新の糸太さムラ信号に対して、上流の過去の糸太さムラ信号との時間的なズレ量を算出することができるため、糸の走行情報をリアルタイムで検出することができる。
【0015】
前記の糸走行情報取得装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記類似度評価部は、第1仮想フレームと、第2仮想フレームと、を比較することにより前記類似度を求めるように構成される。前記第1仮想フレームは、前記第1時間範囲の間に取得された前記第1糸太さムラ信号から構成される。前記第2仮想フレームは、前記第2時間範囲の間に取得された前記第2糸太さムラ信号のうち、前記第1時間範囲と同じ長さの時間範囲内に取得された前記第2糸太さムラ信号から構成される。そして前記類似度評価部は、前記第2仮想フレームの時間軸上での位置を、前記第2時間範囲内で複数選択することにより、複数の前記類似度を求める。
【0016】
これにより、第2時間範囲内で複数の類似度を得ることができるので、重み付け処理部は、当該複数の類似度に対して重み付けを行うことができる。
【0017】
前記の糸走行情報取得装置において、前記走行情報取得部は、前記所定の距離と、前記ズレ量と、基づいて、前記糸の一定長のサンプリングのための信号、時間あたりの前記糸の走行長さ、及び前記糸の走行速度のうち少なくとも何れか1つの走行情報を取得することが好ましい。
【0018】
即ち、本願発明の構成によれば、上記のとおり、第1糸太さムラ信号と第2糸太さムラ信号とのズレ量を正確に算出することができるので、糸走行情報取得装置は、糸の一定長のサンプリングのための信号、時間あたりの前記糸の走行長さ、及び前記糸の走行速度などを正確に求めることができる。
【0019】
前記の糸走行情報取得装置において、前記重み付け処理部は、1つの極大点を有する重み付けカーブによって指定される重み係数を用いて、前記類似度に対して前記重み付け処理を行うことが好ましい。
【0020】
このように、1つの極大点を有する適切な重み付けカーブを設定しておくことにより、糸走行情報取得装置は、当該極大点に対応する重み付き類似度に基づいて時間的なズレ量を算出し易くなる。その結果、糸走行情報取得装置は、第1糸太さムラ信号と第2糸太さムラ信号とのズレ量を正確に算出することができる。
【0021】
前記の糸走行情報取得装置において、前記重み付けカーブの極大点は、過去の前記複数の重み付き類似度のうち最大の重み付き類似度に対応する時間的なズレ量に基づいて設定されることが好ましい。
【0022】
即ち、糸走行情報取得装置が取得する糸の走行情報は、前回取得した走行情報と大きく変わらない場合が多い。そこで、前回取得した走行情報と大きく変わらない結果を検出し易いように、過去の最大の重み付き類似度に対応する類似度に対して大きな重み付けを行うことにより、重み付き類似度の信頼性が向上する。
【0023】
前記の糸走行情報取得装置は、以下のよう構成されていることが好ましい。即ち、この糸走行情報取得装置は、前記糸の走行速度の基準速度を取得する基準速度取得部を備える。前記重み付けカーブの極大点は、前記基準速度に対応する時間的なズレ量に基づいて設定される。
【0024】
即ち、走行する糸の走行速度は、ある基準速度を中心として変動すると考えられる。そこで糸走行情報取得装置を上記のように構成し、基準速度に対応する類似度に対して大きな重み付けを行うことにより、重み付き類似度の信頼性が向上する。
【0025】
前記の糸走行情報取得装置は、以下のように構成されていることが好ましい。即ち、この糸走行情報取得装置は、前記糸の走行速度の基準速度を取得する基準速度取得部を備える。前記重み付けカーブの極大点は、過去の前記複数の重み付き類似度のうち最大の重み付き類似度に対応する時間的なズレ量に基づく重み付けカーブと、前記基準速度が対応する時間的なズレ量に基づく重み付けカーブと、に基づいて設定されている。
【0026】
このように、複数の特性に基づいて重み付けカーブを設定することにより、糸走行情報取得装置は、糸の走行情報をより正確に取得することができる。
【0027】
前記の糸走行情報取得装置において、前記基準速度取得部は、前記糸が巻き取られるパッケージを駆動する巻取ドラムの回転情報を取得して、当該回転情報に基づいて前記基準速度を求めることが好ましい。
【0028】
即ち、糸の走行速度は、巻取ドラムの回転速度と相関関係がある。そこで上記のように、基準速度取得部は、巻取ドラムの回転情報を取得し、これに基づいて基準速度を求めることができる。
【0029】
前記の糸走行情報取得装置は、過去の前記最大の重み付き類似度が前記重み付けカーブの形状に与える影響度、及び基準速度が前記重み付けカーブの形状に与えるの影響度の少なくとも何れか一方を調整するカーブ調整部を備えていることが好ましい。
【0030】
これにより、糸走行情報取得装置の特性、即ち、基準速度の精度と、糸走行速度の変化の大小(ある瞬間における糸走行速度の変化)との特性に応じて適切な重み付け処理を行うことができる。この結果、糸走行情報取得装置は、糸走行情報取得装置の特性等に基づいて、糸の正確な走行情報を取得することができる。
【0031】
前記の糸走行情報取得装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記走行情報取得部は、前記重み付き類似度が最大値をとるときの類似度が、過去の類似度に基づいて決定された閾値未満であった場合には、過去の重み付き類似度に基づいて前記糸の走行情報を取得する。
【0032】
これにより、糸走行情報取得装置は、適切な類似度に基づいて糸の走行情報を取得することができるため、当該走行情報の精度を更に向上させることができる。
【0033】
前記の糸走行情報取得装置は、前記閾値が時間の経過とともに小さくなる処理を行う閾値再評価部を備えることが好ましい。
【0034】
即ち、糸の走行速度等の走行情報は絶えず変化しており、過去の類似度は信頼性が低下していく。そこで、上記のように閾値を時間の経過とともに小さく評価することにより、信頼性が低下した過去の類似度がいつまでも使用されてしまうことを防止できる。
【0035】
本発明の第2の観点によれば、前記の糸走行情報取得装置と、前記糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取部と、前記糸走行情報取得装置が検出した前記糸の走行情報に基づいて、前記巻取部による巻取りを制御する制御部と、を備える糸巻取機が提供される。
【0036】
この糸巻取機は、上記の糸走行情報取得装置を備えているので、糸の正確な走行情報を取得可能である。そして、この糸巻取機は、正確な糸の走行情報に基づいてパッケージを形成するので、均一かつ高品質なパッケージを生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】ワインダユニットの側面図。
【図2】ワインダユニットの正面図。
【図3】クリアラの構成を示すブロック図。
【図4】リングバッファに蓄積されるデータ系列を例示するグラフ。
【図5】計算フレームについて説明する図。
【図6】バイアス成分除去及び正規化について説明する図。
【図7】類似度のピークが複数存在する場合を例示するグラフ。
【図8】糸走行速度取得処理のフローチャート。
【図9】重み付けカーブによる重み付けを説明する図。
【図10】採用判定処理のフローチャート。
【図11】重み付き類似度採用判定を具体的に説明する図。
【図12】ユーザ定数を変化させたときの重み付けカーブを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施形態に係る自動ワインダが備えるワインダユニット10の側面図である。図2はワインダユニット10の概略的な構成を示した正面図である。
【0039】
図1及び図2に示すワインダユニット10は、給糸ボビン21から解舒される紡績糸20をトラバースさせながら巻取ボビン22に巻き付けて、所定長で所定形状のパッケージ30とするものである。本実施形態の自動ワインダ(糸巻取機)は、並べて配置された複数のワインダユニット10と、その並べられた方向の一端に配置された図略の機台制御装置と、を備えている。
【0040】
それぞれのワインダユニット10は、正面視で左右一側に設けられたユニットフレーム11(図1)と、このユニットフレーム11の側方に設けられた巻取ユニット本体16と、を備えている。前記巻取ユニット本体16は、マガジン式供給装置60と、巻取部31と、給糸ボビン保持部71と、を備えている。
【0041】
マガジン式供給装置60は、図1に示すように、ワインダユニット10の下部から正面上方向に斜めに延出するマガジン保持部61と、このマガジン保持部61の先端に取り付けられているボビン収納装置62と、を備えている。このボビン収納装置62はマガジンカン63を備え、このマガジンカン63には複数の収納孔が円状に並べて形成されている。この収納孔のそれぞれには、供給ボビン70を傾斜姿勢でセットすることができる。前記マガジンカン63は図略のモータによって間欠的な回転送り駆動が可能であり、この間欠駆動とマガジンカン63が備える図略の制御弁とによって、マガジン保持部61が有する図略のボビン供給路に供給ボビン70を1つずつ落下させることができる。前記ボビン供給路に供給された供給ボビン70は、傾斜姿勢のまま給糸ボビン保持部71へ導かれる。
【0042】
給糸ボビン保持部71は図略の回動手段を備えており、供給ボビン70を前記ボビン供給路から受け取った後、当該供給ボビン70を斜め姿勢から略直立姿勢に引き起こすように回動する。これにより、給糸ボビン保持部71は、供給された給糸ボビン21を略直立姿勢で保持することができる。なお、図1に示すようなマガジン式供給装置60に代えて、自動ワインダ下部に設けられた図略の搬送コンベアにより給糸ボビン21を図略の給糸ボビン供給部から各ワインダユニット10の給糸ボビン保持部71に供給する形態であっても良い。
【0043】
巻取部31は、給糸ボビン21から解舒された糸を、巻取ボビン22の周囲に巻き取ってパッケージ30を形成するように構成されている。具体的には、巻取部31は、巻取ボビン22を把持可能に構成されたクレードル23と、紡績糸20をトラバースさせるとともに前記巻取ボビン22を駆動するための巻取ドラム24と、を備えている。クレードル23は、巻取ドラム24に対し近接又は離間する方向に揺動可能に構成されており、これによって、パッケージ30が巻取ドラム24に対して接触又は離間される。図2に示すように、前記巻取ドラム24の外周面には螺旋状の綾振溝27が形成されており、この綾振溝27によって紡績糸20をトラバース(綾振り)させるように構成している。
【0044】
前記巻取ボビン22は、当該巻取ボビン22に対向して配置される巻取ドラム24が回転駆動することにより、従動回転する。紡績糸20は、前記綾振溝27によってトラバースされつつ、回転する巻取ボビン22の周囲に巻き取られる。図2に示すように、この巻取ドラム24はドラム駆動モータ53の出力軸に連結されており、このドラム駆動モータ53の作動はモータ制御部54により制御される。このモータ制御部54は、ユニット制御部(制御部)50からの制御信号を受けて前記ドラム駆動モータ53を運転及び停止させる制御を行うように構成している。
【0045】
なお、前記巻取ドラム24には回転センサ42が取り付けられており、この回転センサ42は、後述のクリアラ15が備えるアナライザ52等に電気的に接続されている。この回転センサ42は例えばロータリエンコーダとして構成され、巻取ドラム24が所定角度回転するごとにパルス状の信号をアナライザ52に送信するように構成されている。この回転センサ42が出力するパルス状の信号を、回転パルス信号と呼ぶ。
【0046】
また、前記巻取ユニット本体16は、給糸ボビン21と巻取ドラム24との間の糸走行経路中に、給糸ボビン21側から順に、解舒補助装置12と、テンション付与装置13と、糸継装置14と、クリアラ(糸走行情報取得装置)15が備えるクリアラヘッド49と、を配置した構成となっている。
【0047】
解舒補助装置12は、芯管に被さる規制部材40を給糸ボビン21からの糸の解舒と連動して下降させることにより、給糸ボビン21からの糸の解舒を補助するものである。規制部材40は、給糸ボビン21から解舒された糸が振り回されることにより給糸ボビン21上部に形成されるバルーンに対し接触し、当該バルーンに適切なテンションを付与することによって糸の解舒を補助する。
【0048】
テンション付与装置13は、走行する紡績糸20に所定のテンションを付与するものである。テンション付与装置13としては、例えば、固定の櫛歯に対して可動の櫛歯を配置するゲート式のものを用いることができる。可動側の櫛歯は、櫛歯同士が噛み合わせ状態又は解放状態になるように、ロータリー式のソレノイドにより回動することができる。このテンション付与装置13によって、巻き取られる糸に一定のテンションを付与し、パッケージ30の品質を高めることができる。なお、テンション付与装置13には、上記ゲート式のもの以外にも、例えばディスク式のものを採用することができる。
【0049】
クリアラ15は、紡績糸20の太さムラを適宜のセンサで検出することで欠陥を検出するように構成されている。具体的には、このクリアラ15は、クリアラヘッド49と、アナライザ52(図2)と、を備えている。前記クリアラヘッド49には2つの糸ムラセンサ43,44が設置されており、これらの糸ムラセンサ43,44からの信号をアナライザ52で処理することで、スラブ等の糸欠点を検出可能に構成されている。なお、前記クリアラヘッド49の近傍には、前記クリアラ15が糸欠点を検出したときに直ちに紡績糸20を切断するための図略のカッタが付設されている。
【0050】
前記クリアラ15は、紡績糸20の走行情報を取得する糸走行情報取得装置としても機能させることができる。ここで、糸の走行情報とは、走行中の糸がどのような状態にあるかを示す情報である。なお、クリアラ15によって紡績糸20の走行情報を取得する構成については後述する。
【0051】
糸継装置14は、クリアラ15が糸欠点を検出して行う糸切断時、又は給糸ボビン21からの解舒中の糸切れ時等に、給糸ボビン21側の下糸と、パッケージ30側の上糸とを糸継ぎするものである。糸継装置14としては、機械式のものや、圧縮空気等の流体を用いるもの等を使用することができる。
【0052】
糸継装置14の下側及び上側には、給糸ボビン21側の下糸を捕捉して案内する下糸案内パイプ25と、パッケージ30側の上糸を捕捉して案内する上糸案内パイプ26と、が設けられている。下糸案内パイプ25の先端には吸引口32が形成され、上糸案内パイプ26の先端にはサクションマウス34が備えられている。下糸案内パイプ25及び上糸案内パイプ26には適宜の負圧源がそれぞれ接続されており、前記吸引口32及びサクションマウス34に吸引流を作用させることができる。
【0053】
この構成で、糸切れ時又は糸切断時においては、下糸案内パイプ25の吸引口32が図1及び図2で示す位置で下糸を捕捉し、その後、軸33を中心にして上方へ回動することで糸継装置14に下糸を案内する。また、これとほぼ同時に、上糸案内パイプ26が図示の位置から軸35を中心として上方へ回動し、ドラム駆動モータ53によって逆転されるパッケージ30から解舒される上糸をサクションマウス34によって捕捉する。続いて、上糸案内パイプ26が軸35を中心として下方へ回動することで、糸継装置14に上糸を案内するようになっている。そして、下糸と上糸の糸継ぎが、糸継装置14によって行われる。
【0054】
次に、図3を参照して前記クリアラ15について詳しく説明する。
【0055】
図3に示すように、前記クリアラヘッド49は、2つの糸ムラセンサ43,44と、2つのA/Dコンバータ45,46と、を備えている。前記アナライザ52は、CPU47、RAM48、ROM(図略)等のハードウェアと、前記ROMに記憶されたプログラム等のソフトウェアと、から構成されている。そして、前記ハードウェアと前記ソフトウェアとが協働することにより、前記CPU47を、類似度評価部65、重み付け処理部66、走行情報取得部67、糸品質測定部68、基準速度取得部72、閾値再評価部73、カーブ調整部74等として機能させることができるように構成されている。また、前記アナライザ52には、巻取ドラム24の回転を検出する前記回転センサ42からのパルス信号が入力されている。
【0056】
第1糸ムラセンサ(第1検出部)43と第2糸ムラセンサ(第2検出部)44は、糸走行方向に適宜の距離を開けて並べられ、第1糸ムラセンサ43が下流側、第2糸ムラセンサ44が上流側に配置されている。本実施形態において、前記糸ムラセンサ43,44は、紡績糸20の太さのムラを検出するように構成される。具体的には、糸ムラセンサ43,44は、光センサとして構成されている。一方、紡績糸20の糸道を挟んで糸ムラセンサ43,44の反対側には、光源としてLED36,37を配置する。糸ムラセンサ43,44は、LED36,37からの受光量を検出する。この構成で、走行する紡績糸20の太さが変化すると、糸ムラセンサ43,44の受光量が変化するので、紡績糸20の太さムラを検出することができる。この糸ムラセンサ43,44の出力信号(糸太さムラ信号)は、A/D変換された後、アナライザ52に出力される。
【0057】
アナライザ52が備えるCPU47は、A/D変換された糸太さムラ信号を監視して紡績糸20の品質の測定を行う。例えば、紡績糸20の品質に問題がある箇所においては紡績糸20の太さに異常がみられるので、CPU47において紡績糸20の太さの異常を検出することにより、紡績糸20の欠陥を検出することができる。このようにCPU47によって紡績糸20の品質を測定しているので、CPU47は、糸品質測定部68として機能するというとができる。
【0058】
なお、給糸ボビン21は、通常、リング精紡機において紡出された糸を有している。このような糸には、僅かな太さムラが周期的に生じることがある。この周期的な糸太さムラの原因としては、例えばリング精紡機でスライバを延伸するドラフトローラが芯ズレしていること等が考えられる。この精紡工程の周期的な太さムラは、後の製織工程において織布にモアレが生じる原因となる。そこで、糸品質測定部68としてのCPU47は、糸太さムラ信号のFFT演算を行うことにより、紡績糸20の周期的な太さムラを検出することができるように構成されている。ここで、上記FFT演算を正確に行うためには、糸太さムラ信号をA/Dコンバータでサンプリングする際に、紡績糸20の単位長さあたりの波形データ数を正確に一定にする必要がある。
【0059】
そこで本実施形態のCPU47は、紡績糸20の走行状態に関する情報を取得し、当該走行状態に応じて第2のA/Dコンバータ46のサンプリング周期を変化させるように構成されている。具体的には、CPU47は、紡績糸20が一定長(例えば1mm)走行するごとにパルス信号を生成して、第2のA/Dコンバータ46に対して送信するように構成されている。このパルス信号を、定長パルス信号と呼ぶ。第2のA/Dコンバータ46は、この定長パルス信号に基づいて、第1糸ムラセンサ43からのアナログ信号をサンプリングして、デジタル信号に変換する。これにより、紡績糸20の単位長さあたりのデータ数を正確に一定に保つことができるので、CPU47において上記FFT演算を正確に行い、周期的な太さムラを確実に検出することができる。また、紡績糸20の単位長さあたりのデータ数を正確に一定に保つことにより、CPU47は、周期性のない単発的な糸欠陥であっても紡績糸20の太さムラの長さ評価が正確に行えるため、アナライザ52の検出精度が向上する。なお、定長パルス信号は、糸の走行状態に関する情報であるから、糸走行情報の一種であると言える。このように、CPU47は、糸走行情報を取得しているので、走行情報取得部67として機能していると言うことができる。
【0060】
次に、上記定長パルス信号を取得する構成について説明する。
【0061】
本実施形態のクリアラ15は、上記第2のA/Dコンバータ46とは別に、第1のA/Dコンバータ45を備えている。
【0062】
第1のA/Dコンバータ45は、CPU47が上記定長パルス信号を取得するために糸太さムラ信号のサンプリングを行うA/Dコンバータである。具体的には、第1のA/Dコンバータ45は、2つの糸ムラセンサ43,44からのアナログ信号をサンプリングして、デジタル信号に変換する。こうして得られたデジタル信号がアナライザ52に入力される。アナライザ52が備えるCPU47は、類似度評価部65、重み付け処理部66、走行情報取得部67等として機能することにより、入力されたデジタル信号を用いて糸の走行速度の検出を行う。なお、この糸の走行速度も糸の走行状態に関する情報であるから、糸走行情報の一種であると言える。この点でも、CPU47は、走行情報取得部67として機能していると言うことができる。
【0063】
糸の走行速度がわかると、これに基づいて所定時間の間に糸が走行した長さを検出することができる。そこでCPU47は、紡績糸20の走行速度に基づいて定長パルス信号を生成して取得し、第2のA/Dコンバータ46に対して前記定長パルス信号を送信するように構成されている。以上の構成により、第2のA/Dコンバータ46において紡績糸20の一定長ごとに糸太さムラ信号のサンプリングを行うことができる。
【0064】
次に、クリアラ15による紡績糸20の走行速度(糸走行情報)の取得方法について詳しく説明する。
【0065】
まず、第1のA/Dコンバータ45において、糸ムラセンサ43,44が出力したアナログ波形のサンプリングが行われる。この時のサンプリング周波数fs1は、巻取ドラム24の回転速度に比例させて随時変更するように構成されている。これによって、糸ムラセンサ43,44の信号波形を第1のA/Dコンバータ45によってサンプリングした際、紡績糸20の単位長さあたりに取得されるデータ数を略一定に保つことができる。従って、サンプリング周波数を固定する場合よりもCPU47の計算負荷を軽減することができる。
【0066】
具体的には以下のとおりである。即ち、前述のように、回転センサ42は、巻取ドラム24が所定角回転するごとに回転パルス信号を出力している。従って、単位時間あたりに出力される回転パルス信号の数は、巻取ドラム24の回転速度に比例している。そこで、アナライザ52の前記CPU47は、回転センサ42から受信した前記回転パルス信号に基づいて、巻取ドラム24の回転情報を取得するように構成されている。ここで、巻取ドラム24の回転情報とは、当該巻取ドラム24の回転速度に関する情報であり、例えば当該巻取ドラム24の周速であっても良いし、当該巻取ドラム24の角速度であっても良いし、単位時間あたりに出力された回転パルス信号の数であっても良い。要は、回転パルス信号に基づいて、巻取ドラム24の回転速度に関する情報を何らかの形式で取得することができれば良い。
【0067】
そして、CPU47は、上記のようにして得られた巻取ドラム24の回転情報に所定の係数を乗じる等の処理によりサンプリング周波数fs1を求め、求めたサンプリング周波数fs1を第1のA/Dコンバータ45に設定する。以上の構成で、第1のA/Dコンバータ45のサンプリング周波数fs1を、巻取ドラム24の回転速度に比例させて随時変更することができる。
【0068】
アナライザ52は、第1のA/Dコンバータ45から入力されてくる波形データを一時的に保持しておくために、リングバッファとして構成された記憶領域(下流側リングバッファ55及び上流側リングバッファ56)を、RAM48上に有している。具体的には、第1糸ムラセンサ43からの出力信号(第1糸太さムラ信号)をサンプリングしたデータは、下流側リングバッファ55に蓄積される。また、第2糸ムラセンサ44からの出力信号(第2糸太さムラ信号)をサンプリングしたデータは、上流側リングバッファ56に蓄積される。この下流側リングバッファ55及び上流側リングバッファ56のサイズは特に限定されないが、本実施形態では、それぞれ128点のデータを保持可能としている。
【0069】
リングバッファ55,56に蓄積されるデータ系列(波形データ系列)をグラフで示すと、例えば図4のようになる。図4のグラフにおいて、縦軸は、波形データが示す信号レベルを表しており、横軸は、波形データが格納されたリングバッファのindexを表している。なお、図4の横軸のindexは、リングバッファの中で古いデータほど小さい値を割り振るものとする。即ち、リングバッファの中で一番古いデータが格納されたindexをindex[0]、最新のデータが格納されたindexをindex[127]、としている。従って、図4の横軸は時間軸であると言うこともできる。
【0070】
ところで、紡績糸20に加わる張力が一定であるとすれば、第1糸ムラセンサ43と第2糸ムラセンサ44の測定位置における紡績糸20の伸びは同じであるため、2つの糸ムラセンサ43,44では同じ波形が観測されるものと考えることができる。ただし、第1糸ムラセンサ43は第2糸ムラセンサ44よりも糸走行方向下流側に配置されているため、第1糸ムラセンサ43が出力する信号(第1糸太さムラ信号)の波形は、第2糸ムラセンサ44が出力する信号(第2糸太さムラ信号)の波形に対して時間的な遅れがある。この遅れにより、上流側リングバッファ56に格納されている波形データ系列は、下流側リングバッファ55に格納されている波形データ系列に比べて、時間軸で過去方向(図4の左方向)にΔTだけズレている。この時間的な遅れをΔT、2つの糸ムラセンサ43,44の検出位置の間の距離をLとすると、糸速度Vは、
V=L/ΔT ・・・(1)
で求めることができる。このように、アナライザ52は、第2糸太さムラ信号の波形に対する第1糸太さムラ信号の波形の時間的な遅れΔTを検出することにより、紡績糸20の走行速度を算出することができる。
【0071】
本実施形態において、CPU47は、第1糸太さムラ信号の波形(下流側リングバッファ55に蓄積された波形データ系列)と、第2糸太さムラ信号の波形(上流側リングバッファ56に蓄積された波形データ系列)と、を比較して、前記時間的な遅れΔTを求めるように構成されている。ところで、「波形」と言ったときにはある程度の時間的な幅が想定されるので、ある瞬間にサンプリングされた単独の波形データのみでは「波形」と言うことはできない。即ち、信号の波形を比較する、と言った場合、具体的な処理としては、ある程度の時間範囲内で連続して取得されたデータ系列同士を比較することになる。
【0072】
そこでCPU47は、下流側リングバッファ55に蓄積されている下流側の波形データのうち所定の第1時間範囲内に連続して取得された波形データ系列(第1波形データ系列)と、上流側リングバッファ56に蓄積されている波形データのうち所定の第2時間範囲内に連続して取得された波形データ系列(第2波形データ系列)と、を比較するように構成されている。
【0073】
なお図4に示すように、本実施形態において、前記第1時間範囲は、リングバッファのindex[64]からindex[127]までの範囲としている。従って、第1波形データ系列は、下流側リングバッファ55に蓄積された波形データの中で最新の64点の波形データから構成されている。また、第2時間範囲は、リングバッファのindex[32]からindex[127]までの範囲としている。従って、第2波形データ系列は、上流側リングバッファ56に蓄積された波形データの中で最新の96点の波形データから構成されている。
【0074】
次に、CPU47によって行われる波形同士の比較について、具体的に説明する。CPU47は、第1波形データ系列と第2波形データ系列とを比較して、第1糸太さムラ信号の波形と第2糸太さムラ信号の波形との類似度を求める。ここで類似度とは、2つの波形がどの程度重なり合うか(2つの波形がどの程度似ているか)を示す指標である。
【0075】
類似度の算出方法としては各種の方法が考えられるが、本実施形態では、以下のようにして算出している。即ち、比較対象となる2つの波形を重ね合わせ、2つの波形グラフの間の面積(図6において斜線でハッチングされた部分)を取得する。ここで、2つの波形が全く異なっていれば2つの波形は全く重ならないので、上記面積は2になる。一方、2つの波形が完全に一致していれば、上記面積は0となる。そして、上記の面積を用いて、以下の式により類似度を算出する。
類似度=1−(2つの波形の間の面積)÷2 ・・・(2)
即ち、上記類似度の定義によれば、類似度が0に近いほど2つの波形は異なっており、類似度が1に近いほど2つの波形は似ているといえる。
【0076】
ところで前述のように、第2波形データ系列は96点の波形データから構成され、第1波形データ系列は64点の波形データから構成されているので、第2波形データ系列の範囲は、第1波形データ系列の範囲よりも広く設定されている。言い換えれば、本実施形態では、第2時間範囲は第1時間範囲よりも長く設定されている。一方で、上記類似度を算出するためには、比較する2つの波形の時間軸上での長さ(波形データ系列の長さ)が一致していなければならない。そこでCPU47は、第1波形データ系列と第2波形データ系列とを比較する際には、第2波形データ系列の中から第1波形データ系列と同じ長さの波形データ系列を抜き出して、抜き出した波形データ系列と第1波形データ系列との類似度を求めるように構成されている。
【0077】
以下、より具体的に説明する。CPU47は、リングバッファ55、56内の波形データのうち、所定の時間範囲の間に取得された波形データ系列を仮想的に取り出す仮想フレーム(下流側フレーム、上流側フレーム)を用意している。そしてCPU47は、下流側フレーム(第1仮想フレーム)内の波形データと、上流側フレーム(第2仮想フレーム)内の波形データの重なり合い(類似度)を評価するように構成されている。
【0078】
下流側フレーム(第1仮想フレーム)は、下流側リングバッファ55に蓄積された波形データの中から、前記第1時間範囲内に連続して取得された波形データ系列(前記第1波形データ系列)を仮想的の取り出すための仮想フレームである。具体的には図5に示すように、下流側フレームは、下流側リングバッファ55に格納された波形データの中で最新の64点のデータ(下流側リングバッファのindex[64]からindex[127]までの範囲の波形データ)を含むように設定される。なお、以下の説明で、仮想フレームに含まれる波形データのうち最も古いデータのindexを、仮想フレームの先頭位置と表現する。例えば下流側フレームの場合、先頭位置はindex[64]である。
【0079】
上流側フレーム(第2仮想フレーム)は、前記第2時間範囲内に取得された上流側リングバッファ56の波形データ系列(前記第2波形データ系列)の中から、前記第1時間範囲と同じ長さの時間範囲の波形データ系列(64点の波形データ)を仮想的に取り出すための仮想フレームである。即ち、上流側フレームには、上流側リングバッファ56のindex[32]からindex[127]までの範囲(第2時間範囲)の波形データのうち、連続する64点のデータを格納できるように設定される。
【0080】
ところで、第2波形データ系列は、第1波形データ系列に比べて、時間軸で過去方向に向かって32点の波形データ分だけ範囲が広くなっている。そこで、上流側フレームの先頭位置は、下流側フレームの先頭位置よりも過去方向に32点以内でズラした位置に設定することができる。ここで、下流側フレームの先頭位置と上流側フレームの先頭位置のindexの差を、「フレームズレ量」、または単に「ズレ量」と呼ぶ。
【0081】
上記のようにして上流側フレーム及び下流側フレームが設定されると、CPU47は、上流側フレームに含まれる波形と下流側フレームに含まれる波形がどの程度重なり合っているかの指標である類似度を求める。ただし、糸ムラセンサ43,44の出力信号にはバイアス成分が含まれており、また糸ムラセンサ43,44の感度のバラツキにより、そのままでは2つの波形がうまく重なり合わない場合がある。そこで、CPU47は、上流側フレームと下流側フレーム内の波形データに対して、バイアス成分除去と正規化の処理を行う。なお、バイアス成分除去とは、図6に示すように、計算フレーム内におけるデータの最小値を検索し、各データの値から前記最小値を減算する処理である。また、正規化とは、計算フレーム内のデータの合計値で各データの値を割る処理である。これにより、計算フレーム内の波形のグラフの面積が1に正規化される。このように、上流側と下流側の波形データそれぞれに対して、バイアス成分除去及び波形の正規化を行うので、糸ムラセンサ43,44ごとのバイアス成分のバラツキや、糸ムラセンサ43,44ごとの感度差を吸収することができる。
【0082】
上記のようにバイアス成分除去と正規化の処理を行うと、CPU47は、下流側フレーム内のデータ系列(第1糸太さムラ信号の波形)と、上流側フレーム内のデータ系列(第2糸太さムラ信号の波形)と、の類似度を求める類似度評価処理を実行する。このように2つの波形の類似度を評価しているので、CPU47は、類似度評価部65として機能していると言うことができる。
【0083】
前述のように、上流側フレームの先頭位置は、下流側フレームの先頭位置よりも過去方向に32点以内でズラした位置に設定することができる。即ち、フレームズレ量を0〜32の範囲で変化させることができる。そこで、類似度評価部65は、上記範囲内でフレームズレ量を変化させながら上記類似度評価処理を繰り返し実行する。言い換えれば、類似度評価部65は、第2時間範囲の中で上流側フレームの時間軸上での位置を複数選択し、当該複数の位置それぞれに対する類似度を評価する。これにより、類似度評価部65は、複数の類似度を取得する。このように、第1時間範囲よりも第2時間範囲を長く設定することにより、当該第2時間範囲内で上流側フレームを移動させて複数回の類似度評価が可能となるので、CPU47は複数の類似度を取得することができる。これにより、フレームズレ量に対応した複数の類似度が取得される結果、CPU47は、例えば図7のように、ズレ量と類似度との関係を得ることができる。
【0084】
ここで、類似度が最大となったとき(類似度がピークを示すとき)が、上流側フレームの波形と下流側フレームの波形が最も良く重なり合っているときである。別の観点から言えば、このとき、上流側リングバッファ56の波形データ系列と下流側リングバッファ55の波形データ系列との間にあった時間的なズレΔTが解消された状態にあるといえる。従って、類似度が最大になったときのフレームズレ量は、上流側リングバッファの波形と下流側リングバッファの波形の時間的なズレΔTに対応していると考えられる。即ち、類似度が最大となるときのズレ量を、第1のA/Dコンバータ45のサンプリング周波数fs1で割ることにより、波形の時間的なズレΔTを算出することができる。
ΔT=(類似度が最大になるときのズレ量)÷fs1 ・・・(3)
【0085】
クリアラ15は、上記のようにして求めたΔTを前記の式(1)に代入することにより、紡績糸20の走行速度を算出することができる。以上のようにして、クリアラ15は、2つの波形の類似度に基づいて紡績糸20の走行速度を求めることができる。但し、本実施形態のクリアラ15では、上記のように類似度をそのまま用いて紡績糸20の走行速度を算出するのではなく、後述するように、重み付けを行った類似度を用いて紡績糸20の走行速度を算出している。
【0086】
なお、本実施形態では、上記のように上流側フレームを時間軸上で移動させることで複数の類似度を求めているが、これに代えて下流側フレームを時間軸上で移動させることも考えられる。但し、本実施形態のように上流側フレームを時間軸上で移動させるように構成すれば、下流側フレームは、下流側リングバッファ55に含まれる波形データのうち最新の波形データを含むように時間軸上での位置を固定することができる(図5において、下流側フレームを一番右に寄った位置に固定することができる)。これにより、クリアラ15は、下流側の最新の糸太さムラ信号を用いて時間的なズレ量ΔTを算出することができるので、紡績糸20の走行速度をリアルタイムで求めることができる。
【0087】
ところで、走行する紡績糸20の太さムラは、似たような状態が続くことがあるため、糸ムラセンサ43,44が出力する信号も似たような波形が続く場合がある。この場合、上流側の波形と下流側の波形が複数の位置で重なり合うため、図7のように、上流側フレームの移動範囲内で、類似度が大きなピーク(極大値)を示すズレ量が複数存在することになる。このように上流側フレームの移動範囲内で類似度の大きなピークが複数存在すると、どのピークのズレ量を用いて式(3)の演算を行えば良いのかまぎらわしく、誤ったズレ量を用いて糸走行速度を算出してしまう場合がある。
【0088】
そこで本実施形態では、上記のような類似度のピークのまぎらわしさを解消するため、類似度に対して重み付けを行っている。以下、本実施形態においてCPU47が実行する糸走行速度取得処理について、図8を参照して説明する。
【0089】
CPU47は、第1のA/Dコンバータ45で新しいデータがサンプリングされ、当該新しい波形データがリングバッファ55,56に追加されるごとに、図8のフローチャートに示す糸走行速度取得処理を実行する。糸走行速度取得処理を開始すると、CPU47は、下流側フレーム内の波形データのバイアス成分除去と波形の正規化を行う(ステップS101)。
【0090】
次に、CPU47は、フレームズレ量の初期化(上流側フレームの位置の初期化)を行う(ステップS102)。本実施形態では、フレームズレ量を32に初期化する。これにより、上流側フレームは、下流側フレームから波形データ32点に相当する過去にズレた位置に設定される。従って、上流側フレームには、上流側リングバッファのindex[32]からindex[95]までの範囲の波形データが含まれることになる(図5参照)。
【0091】
上流側フレームの位置が決まると、CPU47は、上流側フレーム内の波形データについて、バイアス成分除去と、波形の正規化を行う(ステップS103)。
【0092】
続いて、CPU47は、上流側フレーム内の波形データと下流側フレーム内の波形データについて、類似度を求める類似度評価処理を行う(ステップS104)。
【0093】
次に、CPU47は、前記類似度に対して重み付けを行い、重み付き類似度を算出する重み付け処理を行う(ステップS105)。このように重み付け処理を行うので、CPU47は、重み付け処理部66として機能していると言うことができる。なお以下の説明において、重み付き類似度と区別する必要がある場合には、重み付けをする前の類似度のことを特に「生の類似度」と呼ぶことがある。上記重み付け処理は、生の類似度の値に、重み係数を乗算することによって行う。即ち、ズレ量c_indexのときの生の類似度をSc_index、前記ズレ量c_indexに対する重み係数をWc_indexとすると、重み付き類似度S´c_indexは以下の式で求めることができる。
S´c_index=Sc_index×Wc_index ・・・(4)
【0094】
或るズレ量c_indexのときの重み係数Wc_indexをどのような値とするかは、ズレ量と重み係数との関係を指定する重み付けカーブによって決定する。この重み付けカーブの例を、図9の上側に示す。図9に示すように、重み付けカーブは、所定のズレ量c_indexの位置で重み係数がピークとなる極大値を1つ持つように設定されており、当該ピークから離れるに従って、重み係数の値がなだらかに減少するように設定されている。従って、この重み付けカーブで指定される重み係数を用いて類似度に対する重み付けを行うことにより、当該重み付けカーブのピーク近傍に位置する類似度は強調し、それ以外の類似度は抑圧することができる。この結果、図9の下側に示すように、生の類似度に含まれていた複数の大きなピークのうち、不要なピークの強さを抑えることができるので、類似度のピークのあいまいさを低減することができる。なお、上記重み付けカーブの具体的な設定方法については後述する。
【0095】
以上のようにして重み付き類似度が新しく算出されると、CPU47は、当該新たに算出された重み付き類似度と、当該重み付け類似度に対して重み付けを行う前の値(生の類似度)と、当該重み付き類似度を算出したときのズレ量と、を保存する(ステップS106)。なお、ステップS103からステップS108までのループの実行が2回目以降の場合、ステップS106を実行する時点で、以前算出された重み付き類似度が既に保存されている。この場合、CPU47は、新たに算出された重み付き類似度と、保存された重み付き類似度とを比較し、新たに算出された重み付き類似度の方が大きかった場合のみ、当該新たに算出された重み付き類似度と、生の類似度と、ズレ量とを上書き保存する。
【0096】
続いて、CPU47は、上流側フレームの移動範囲が終了したか否かの判定を行う(ステップS107)。本実施形態では、上流側フレームを、フレームズレ量が32から0までの範囲で(即ち、上流側フレームが第2時間範囲に収まる範囲内で)移動させることとしている。上記移動範囲が終了していない場合、ステップS108でフレームズレ量を1つ減らして(上流側フレームを図5の右方向に1つずらして)、ステップS103に戻る。一方、上記移動範囲が終了している場合、ステップS109に進む。
【0097】
以上のループ処理により、上流側フレームの時間軸上での位置をずらしながらステップS103〜S108の処理が繰り返し行われる。これにより、上流側フレームの移動範囲(フレームズレ量が0から32の範囲)の中で類似度評価処理及び重み付け処理が複数回行われるので、CPU47は、複数の類似度(生の類似度)と、複数の重み付き類似度と、を取得することができる。そして、ステップS106の処理を繰り返すことにより、CPU47は、重み付き類似度の最大値と、当該最大値のときの生の類似度及びズレ量を得ることができる。以下の説明では、重み付き類似度の最大値を「重み付き類似度最大値」、重み付き類似度が最大となるときの生の類似度のことを「最大値対応類似度」、重み付き類似度が最大となるときのズレ量を「最大値対応ズレ量」と呼ぶことがある。なお、ステップS106で保存されたデータは、新たな糸走行速度取得処理が開始される度にリセットされる。従って、重み付き類似度最大値、最大値対応類似度、最大値対応ズレ量は、糸走行速度取得処理ごとに取得される。
【0098】
ところで、上記のようにして重み付けを行って最大値対応ズレ量を求めた場合であっても、当該最大値対応ズレ量の信頼性が低い場合がある。即ち、重み付けを行う前の値(生の類似度)がそもそも低い値であった場合である。生の類似度の値が低いということは、第1糸太さムラ信号と第2糸太さムラ信号がうまく重なっていないということである。従って、最大値対応類似度が小さい場合は、そのときの最大値対応ズレ量の信頼性も低いということになる。
【0099】
そこで、本実施形態においては、上記のような信頼性の低い最大値対応ズレ量に基づいて糸速度Vが算出されてしまうことを防ぐため、CPU47は、新たに取得された最大値対応ズレ量を採用するか否かを判定する採用判定処理(ステップS109)を行うように構成されている。
【0100】
以下、図10のフローチャートを参照して、採用判定処理の内容について具体的に説明する。以下の説明では、現在実行中の糸走行速度取得処理を「今回の糸走行速度取得処理」と呼び、今回の糸走行速度取得処理で得られた重み付き類似度最大値、最大値対応類似度、最大値対応ズレ量を、それぞれ、「今回の重み付き類似度最大値」、「今回の最大値対応類似度」、「今回の最大値対応ズレ量」と呼ぶ。また、今回の糸走行速度取得処理の直前に実行された糸走行速度取得処理のことを、「前回の糸走行速度取得処理」と呼ぶ。また、前回の糸走行速度取得処理で得られた最大値対応類似度のことを、「前回の最大値対応類似度」と呼ぶ。
【0101】
CPU47は、採用判定処理を開始すると、今回の最大値対応類似度が所定の閾値以上か否かの判定を行う(ステップS201)。ここで、上記閾値は、0から1までの範囲の値をとるように設定されている。即ち、最大値対応類似度の値が1に近いほど上流側フレームの波形と下流側フレームの波形が良く重なっていることを示しているから、最大値対応類似度の値が1に近いほど最大値対応ズレ量の信頼性は高い。逆に、最大値対応類似度の値が0に近いほど、最大値対応ズレ量の信頼性は低い。そこで上記のように、今回の最大値対応類似度が所定の閾値以上か否かを判定することにより、今回の最大値対応ズレ量が一定の信頼性を備えているか否かを判断することができる。
【0102】
今回の最大値対応類似度が閾値以上だった場合(今回の最大値対応ズレ量の信頼性が高い場合)、CPU47は、今回の最大値対応ズレ量を採用する(ステップS202)。一方、今回の最大値対応類似度が閾値未満だった場合(今回の最大値対応ズレ量の信頼性が低い場合)、CPU47は、前回の糸走行速度取得処理で採用された最大値対応ズレ量を採用する(ステップS202)。なお、以下の説明では、前回の糸走行速度取得処理で採用された最大値対応ズレ量のことを、「前回採用の最大値対応ズレ量」と呼ぶ。以上の処理により、信頼性の低い最大値対応類似度をCPU47が採用してしまうことを防ぐことができる。
【0103】
続いて、CPU47は、次回に実行される糸走行速度取得処理の採用判定処理において用いられる閾値(次回の閾値)を決定する。次回の閾値は、今回の最大値対応類似度に基づいて決定される。具体的には、ステップS201において、今回の最大値対応類似度が閾値(今回の閾値)以上であると判断されている場合には、今回の最大値対応類似度に対して1以下の所定の定数(本実施形態では0.95)を乗じた値を次回の閾値として採用する(ステップS204)。一方、ステップS201において、今回の最大値対応類似度が閾値(今回の閾値)未満であると判断されている場合には、今回の閾値に1以下の所定の定数(0.95)を乗じた値を、次回の閾値として採用する(ステップS205)。
【0104】
なお、今回の最大値対応類似度又は今回の閾値に対して1以下の定数を乗じているのは、以下のような理由による。即ち、ステップS201の判断において閾値の値が大き過ぎると、今回の最大値対応ズレ量が採用される機会(ステップS202に進む機会)が減り、過去に採用された最大値対応ズレ量が延々と採用され続けることになる。しかしながら、紡績糸20の走行速度は時間の経過とともに変化しているので、過去のデータの信頼性は時間とともに低下していく。従って、過去に採用された最大値対応ズレ量が延々と採用され続ける状況は好ましくない。そこで上記のように、今回の閾値又は最大値対応類似度に1以下の定数を乗じて次回の閾値とすることにより、時間の経過とともに閾値を小さくして、過去に採用された最大値対応ズレ量が延々と採用され続けてしまうことを防ぐことができる。このように、時間の経過とともに閾値が小さくなる処理を行っているので、CPU47は閾値再評価部73として機能していると言うことができる。
【0105】
ここで、図11を参照して、採用判定処理について具体例に沿って説明する。図11には、n−2回目、n−1回目、及びn回目の糸走行速度取得処理について、閾値、今回の最大値対応類似度、今回の最大値対応ズレ量、及び今回採用した最大値対応ズレ量を示している。
【0106】
まず、n−2回目の糸走行速度取得処理に着目して説明する。このn−2回目の糸走行速度取得処理は、最大値対応ズレ量の信頼性が高い場合を例示するものである。この糸走行速度取得処理においては、閾値は0.7、今回の最大値対応類似度は0.9であり、今回の最大値対応ズレ量は16であったことが示してある。
【0107】
このn−2回目の糸走行速度取得処理では、今回の最大値対応類似度(0.9)は、閾値(0.7)以上であると判定される(ステップS201の判断)。即ち、今回の最大値対応ズレ量の信頼性が高いと判断されたので、CPU47は、今回の最大値対応ズレ量(16)を採用する(ステップS202)。続いて、CPU47は、今回の最大値対応類似度に所定の定数(0.95)を乗じた値(0.86)を、次回(n−1回目の糸走行速度取得処理)の閾値として採用する(ステップS204)。
【0108】
次に、n−1回目の糸走行速度取得処理に着目して説明する。このn−1回目の糸走行速度取得処理は、最大値対応ズレ量の信頼性が低い場合を例示するものである。この糸走行速度取得処理においては、閾値は0.86、今回の最大値対応類似度は0.6であり、今回の最大値対応ズレ量は7であったことが示されている。
【0109】
このn−1回目の糸走行速度取得処理では、今回の最大値対応類似度(0.6)は、閾値(0.86)未満であると判定される(ステップS201の判断)。即ち、今回の最大値対応ズレ量の信頼性が低いと判断されたので、CPU47は、前回採用の最大値対応ズレ量(16)を採用する(ステップS203)。このように、低い類似度が算出されてしまった場合(最大値対応ズレ量の信頼性が低い場合)は、過去に採用された最大値対応ズレ量を採用するので、信頼性の高いズレ量を利用することができる。続いてCPU47は、閾値(0.86)に所定の定数(0.95)を乗じた値(0.81)を、次回(n回目の糸走行速度取得処理)の閾値として採用する(ステップS205)。
【0110】
次に、n回目の糸走行速度取得処理に着目して説明する。このn回目の糸走行速度取得処理は、再び最大値対応ズレ量の信頼性が高くなった場合を例示するものである。この糸走行速度取得処理においては、閾値は0.81、今回の最大値対応類似度は0.9であり、今回の最大値対応ズレ量は15であることが示されている。
【0111】
このn回目の糸走行速度取得処理では、今回の最大値対応類似度(0.9)は、閾値(0.81)以上であると判定される(ステップS201の判断)。即ち、今回の最大値対応ズレ量の信頼性が高いと判断されたので、CPU47は、今回の最大値対応ズレ量(15)を採用する(ステップS202)。続いて、CPU47は、今回の最大値対応類似度に所定の定数(0.95)を乗じた値を、次回の閾値として採用する(ステップS204)。
【0112】
次に、上記採用判定処理が終了した後の処理について説明する。CPU47は、採用判定処理の実行が終了すると、図8のフローに戻ってステップS110に進む。
【0113】
ステップS110において、CPU47は、ステップS109の採用判定処理で採用されたズレ量を、紡績糸20の走行速度に換算する。なお以下の説明では、ステップS109で採用されたズレ量のことを「今回採用の最大値対応ズレ量」と呼ぶ。今回採用の最大値対応ズレ量は、上流側リングバッファ56の波形データと下流側リングバッファ55の波形データとの時間的なズレΔTに対応していると考えられる。従って、今回採用の最大値対応ズレ量を、第1のA/Dコンバータのサンプリング周波数fs1で割ることにより、波形の時間的なズレΔTを算出することができる。
ΔT=今回採用の最大値対応ズレ量÷fs1 ・・・(5)
【0114】
CPU47は、上記のようにして求めたΔTを前記の式(1)に代入することにより、紡績糸20の走行速度を算出する。このように、重み付けを行った類似度に基づいて紡績糸20の走行速度を算出することにより、生の類似度に極大点(ピーク)が複数存在する場合であっても、CPU47は、紡績糸20の走行速度を正確に算出することができる。また本実施形態では、上記のように、信頼性の低い最大値対応ズレ量が採用されてしまうことを防ぐ採用判定処理を行っている。これにより、低い類似度が算出されてしまった場合(ズレ量の信頼性が低い場合)であっても、CPU47は、信頼性の高い糸走行速度を得ることができる。
【0115】
そして、CPU47は、上記のようにして求めた糸走行速度に基づいて第2のA/Dコンバータ46のサンプリング周期を変化させる。具体的には、CPU47は、糸走行速度に比例した周波数で前記定長パルス信号を生成して、生成した定長パルス信号を第2のA/Dコンバータ46に送信する。前記糸走行速度は、重み付けを行った類似度に基づいて求めた正確な糸走行速度である。従って、この糸走行速度に基づく定長パルス信号に基づいて第2のA/Dコンバータ46による糸太さムラ信号のサンプリングを行うことにより、紡績糸20の単位長さあたりのデータ数を正確に一定にすることができる。
【0116】
また、上記のようにして求められた糸走行速度は、ユニット制御部50に送信される。ユニット制御部50においては、クリアラ15から送信された紡績糸20の走行速度に応じて、モータ制御部54に制御信号を送信し、巻取ドラム24の回転を制御する。これにより、ワインダユニット10は、紡績糸20の正確な走行速度に応じてパッケージ30の巻き取りを行うことができる。またユニット制御部50は、紡績糸20の走行速度を時間で積分することにより、パッケージ30に巻き取った紡績糸20の総長を算出することができる。従って、例えば、ワインダユニット10は、所定の長さの紡績糸20を巻き取り終わったときに、紡績糸20の巻き取りを終了してパッケージの完成とすることができる。これにより、ワインダユニット10は、それぞれのパッケージ30に巻き取られる紡績糸20の長さを均一化することができるので、均一な長さのパッケージを生産することができる。
【0117】
なお、以上の説明において、CPU47は紡績糸20の走行速度を算出するものとして説明したが、必ずしも速度の形式で糸走行情報を取得しなければならないわけではない。例えば、糸が1秒間に2cm動き、次の1秒間で3cm動いた場合、CPU47は「2秒間で合計5cm動いた」という情報を取得できれば良く、必ずしも「毎秒2.5cm」のように速度の態様で情報を取得しなくても良い。なお、このように「時間あたりに糸が動いた長さ」の情報も、糸の走行状態に関する情報であるから、糸走行情報の一種であるといえる。
【0118】
次に、上記重み付けカーブの決定方法について説明する。本実施形態において、上記重み付けカーブは、履歴重みカーブと、基準速度重みカーブと、を合成して設定されている。
【0119】
まず、履歴重みカーブについて説明する。履歴重みカーブは、前回の糸走行速度取得処理において重み付き類似度が最大となったときのズレ量(前回の最大値対応ズレ量)の近傍で、重み係数が大きくなるように設定される。
【0120】
即ち、糸の走行速度は連続的に変化するものであり、今回の糸走行速度取得処理で取得される糸走行速度は、前回の糸走行速度取得処理で取得された糸走行速度とは大きく異ならないと考えられる。従って、今回の糸走行速度取得処理における最大値対応ズレ量は、前回の糸走行速度取得処理における最大値対応ズレ量の近傍である蓋然性が高い。これを別の観点から言うと、前回の最大値対応ズレ量から離れた位置に出現する生の類似度のピークは、糸の走行速度には対応していない偽のピークである可能性が高い。そこで、前回の最大値対応ズレ量から離れた位置における生の類似度に対しては、重み係数を小さくして重要度を下げることが好ましい。
【0121】
より具体的には、履歴重みカーブは、履歴重みの重み係数WPと、フレームズレ量c_indexと、の関係を指定した以下の式で定義される。
P=exp(−(p_max_index − c_index)2 ÷ w) ・・・(5)
なお、p_max_indexは前回の最大値対応ズレ量、wはユーザが設定可能な定数である。
【0122】
図12には、p_max_index=8とした場合の履歴重みカーブが示されている。図12に示すように、c_index=8において、履歴重みカーブがピーク(極大値)を示すようになっている。即ち、この履歴重みカーブは、前回の重み付き類似度最大値に対応する時間的なズレ量(前回の最大値対応ズレ量)に対応した極大点を有している。この履歴重みカーブに基づいて重み付けを行うことにより、前回の最大値対応ズレ量p_max_indexの近傍の類似度は大きくし、前回の最大値対応ズレ量p_max_indexから離れた類似度は小さくなるようにすることができる。これにより、CPU47は、前回の糸走行速度取得処理で取得した糸走行速度と大きく変わらないような糸走行速度を、今回の糸走行速度取得処理でも得ることができる。
【0123】
次に、基準速度重みカーブについて説明する。基準速度重みカーブは、基準速度に対応するズレ量の近傍で、重み係数が大きくなるように設定される。なお、以下の説明では、基準速度に対応するズレ量を、基準ズレ量と表記する。
【0124】
即ち、糸の走行速度は、ある基準速度(平均速度)付近で変化しており、この基準速度から大きく離れることはないと考えることができる。従って、下流側リングバッファ55内の波形データに対する上流側リングバッファ56内の波形データの時間的なズレΔTは、上記基準速度に対応したズレの近傍で変化していると考えられる。これを別の観点から言うと、基準ズレ量から離れた位置に出現する生の類似度のピークは、糸の走行速度には対応していない偽のピークである可能性が高い。そこで、基準ズレ量から離れた位置における生の類似度に対しては、重み係数を小さくして重要度を下げることが好ましい。
【0125】
より具体的には、基準速度重みカーブは、基準速度重みの値WAと、フレームズレ量c_indexと、の関係を指定した以下の式で定義される。
A=exp(−(offset − c_index)2 ÷ w) ・・・(6)
なお、offsetは基準ズレ量、wはユーザが設定可能な定数である。
【0126】
図12には、offset=10とした場合の基準速度重みカーブが示されている。図12に示すように、c_index=10において、基準速度重みカーブがピークを示すようになっている。即ち、この基準重みカーブは、基準速度に対応した時間的なズレ量に極大点を有している。この基準速度重みカーブに基づいて類似度に対して重み付けを行うことにより、基準ズレ量offsetの近傍で類似度に対する重みを大きくし、基準ズレ量offsetから離れた類似度は小さくなるようにすることができる。これにより、アナライザ52は、基準速度から大きく変わらないような糸走行速度を得ることができる。
【0127】
なお本実施形態では、アナライザ52は、ドラム回転情報を利用して上記基準速度を求めている。即ち、回転する巻取ドラム24によって駆動されている巻取ボビン22によって紡績糸20が巻き取られているので、巻取ドラム24の回転速度と紡績糸20の走行速度の平均値(基準速度)とは一定の比例関係にある。一方で前述のように、CPU47は、回転センサ42からの回転パルス信号に基づいて、巻取ドラム24の回転速度に関する情報である回転情報を取得している。そこで、CPU47は、上記のようにして取得した巻取ドラム24の回転情報に基づいて、紡績糸20のおよその走行速度(上記基準速度)を求めるように構成されている。このように基準速度を求めているので、CPU47は、基準速度取得部72として機能していると言うことができる。
【0128】
そして、前述のように、重み付けカーブは、上記履歴重みカーブと基準速度重みカーブを合成して設定されている。従って、CPU47は、この重み付けカーブによって重み付けを行うことにより、過去の最大時ズレ量と、基準速度と、の両方を考慮した重み付けを行うことができる。具体的には、重み付けカーブは、以下の式で定義される。
c_index=S´p×Wp+(1−S´p)×WA ・・・(7)
【0129】
ここで、S´pは、前回の糸走行速度取得処理における重み付き類似度の最大値である。上記式(7)からわかるように、S´pの値が大きいほど、履歴重みがより重視されるようになっている。逆に、S´pの値が小さい場合、基準速度重みがより重視されるようになっている。即ち、S´pの値が小さいということは、前回の糸走行速度取得処理においては、上流側フレームと下流側フレームの波形があまり重ならなかったということであるから、前回の結果に基づいて類似度に対して重み付けを行う履歴重みカーブの信頼性は低い。そこでこのような場合は、基準速度重みの方を重視して類似度に対して重み付けを行うように構成しているのである。図12には、式(7)によって求めた重み付けカーブの例が図示されている。
【0130】
また本実施形態では、上記定数wをユーザが設定できるようにしている。例えば、ユーザは、自動ワインダが備える前記機台制御装置が備える入力装置を操作して、定数wの値を設定することができる。すると、機台制御装置から各ワインダユニット10のCPU47に対して、定数wの変更命令が送信される。そして、前記変更命令を受けたCPU47は、指定された定数wの値を採用して、重み付けカーブを設定する。このように、重み付けカーブを調整することができるので、CPU47は、カーブ調整部74として機能すると言うことができる。
【0131】
定数wを変更した時の重み付けカーブの様子を、図12に示す。図12の上段のグラフは、w=16としたときの重み付けカーブを示している。図12の中段のグラフは、w=64としたときの重み付けカーブを示している。図12の下段のグラフは、w=128としたときの重み付けカーブを示している。図12に示すように、定数wとして小さい値を設定すると、重み付けカーブは尖った曲線となるため、当該重み付けカーブのピーク近傍の類似度がより重く扱われる。一方、定数wとして大きい値を設定すると、重み付けカーブは緩やかな曲線となるため、重み付けカーブによる重み付けの効果が穏かになる。従って、ユーザが状況に応じて定数wを変更し、重み付けカーブを調整することにより、クリアラ15は、紡績糸20の走行速度を適切に求めることができる。
【0132】
例えば、走行する紡績糸20の加速度が大きい場合、前回求めた紡績糸20の走行速度から速度が大きく変わり、類似度のピークの位置が大きく移動することが考えられる。尖った重み付け曲線では、前回の結果の位置から離れると重み付けの値が急激に小さくなるため、類似度のピーク位置が前回の位置から大きく移動すると正しい結果が得られなくなる。そこで、走行する紡績糸20の加速度が大きい場合は、定数wとして大きい値を設定して、重み付けカーブが緩やかな曲線になるように調整する。これにより、CPU47は、前回求めた糸の走行速度から紡績糸20の走行速度が大きく変わっていても対応し易くすることができる。
【0133】
一方、走行する紡績糸20の加速度が小さい場合、前回求めた紡績糸20の走行速度の近傍で速度が推移するので、類似度のピークの位置は大きく移動することはないと考えられる。この場合、類似度のピークの位置を検出するためには、前回のピーク位置の近傍にのみ注目すれば良いので、定数wを小さい値に設定して、前回の結果付近をより重視することで、クリアラ15は、正確に紡績糸20の走行速度を測定することができる。
【0134】
ここで、基準速度重みカーブの式(6)と、履歴重みカーブの式(5)とでは、定数wを異ならせても良い。そしてこの場合、少なくとも何れか一方の定数wを、ユーザが調整することができれば良い。このように構成すれば、例えば基準速度重みカーブは尖った曲線とし、履歴重みカーブは緩やか曲線とする、というように、基準速度重みカーブと履歴重みカーブの形状を異ならせることができる。これにより、前回の重み付き類似度最大値(過去の大きな重み付き類似度)の重み付けカーブに対する影響度と、基準速度の重み付けカーブに対する影響度と、の少なくとも何れか一方を調整することができる。これにより、例えば履歴重みの信頼度の方が高いとユーザが判断した場合には、基準速度重みカーブよりも履歴重みカーブの定数wを小さくして、履歴重みカーブの方を尖った曲線とすることにより、履歴重みが重み付けカーブの極大点に対して大きな影響力を持つようにすることができる。
【0135】
以上で説明したように、本実施形態のクリアラ15は、第1糸ムラセンサ43と、第2糸ムラセンサ44と、類似度評価部65と、重み付け処理部66と、走行情報取得部67と、を備える。第1糸ムラセンサ43は、走行する紡績糸20の太さムラを検出して第1糸太さムラ信号を出力する。第2糸ムラセンサ44は、糸走行方向において前記第1糸ムラセンサ43から所定の距離を隔てて配置され、前記紡績糸20の太さムラを検出して第2糸太さムラ信号を出力する。類似度評価部65は、所定の第1時間範囲の間に取得された前記第1糸太さムラ信号と、前記第1時間範囲よりも長い第2時間範囲の間に取得された前記第2糸太さムラ信号と、に基づいて、前記第1糸太さムラ信号と前記第2糸太さムラ信号との複数の類似度を求める。重み付け処理部66は、前記複数の類似度に対して重み付けを行い、複数の重み付き類似度を求める。走行情報取得部67は、前記重み付き類似度に基づいて、前記第1糸太さムラ信号と前記第2糸太さムラ信号との時間的なズレ量を算出するとともに、前記所定の距離と、前記ズレ量と、に基づいて定長パルス信号を取得する。
【0136】
上記のように、類似度に対して重み付け処理を行うことにより、類似度の最大点が複数存在する場合に誤った最大点を選択する確率を低くすることができる。これにより、クリアラ15は、第1糸太さムラ信号に対する第2糸太さムラ信号の時間的なズレ量を正確に算出することができる。この結果、クリアラ15は、正確な定長パルス信号を取得することができる。
【0137】
また、本実施形態のクリアラ15において、第1糸ムラセンサ43は、第2糸ムラセンサの下流側に配置されている。
【0138】
これにより、クリアラ15は、下流の最新の糸太さムラ信号に対して、上流の過去の糸太さムラ信号との時間的なズレ量を算出することができるため、紡績糸20の走行情報をリアルタイムで検出することができる。
【0139】
また、本実施形態のクリアラ15は、以下のように構成されている。即ち、類似度評価部65は、下流側フレームと、上流側フレームと、を比較することにより前記類似度を求めるように構成される。下流側フレームは、第1時間範囲の間に取得された第1糸太さムラ信号の波形データ系列(第1波形データ系列)から構成される。上流側フレームは、第2時間範囲の間に取得された前記第2糸太さムラ信号の波形データ系列(第2波形データ系列)のうち、前記第1時間範囲と同じ長さの時間範囲内に取得された波形データ系列から構成される。そして類似度評価部65は、上流側フレームの時間軸上での位置を、第2時間範囲内で複数選択することにより、複数の前記類似度を求める。
【0140】
これにより、第2時間範囲内で複数の類似度を得ることができるので、重み付け処理部66は、当該複数の類似度に対して重み付けを行うことができる。
【0141】
また、本実施形態のクリアラ15において、走行情報取得部67は、前記所定の距離と、前記ズレ量と、に基づいて、定長パルス信号、時間あたりの紡績糸20の走行長さ、及び紡績糸20の走行速度を取得することができる。
【0142】
即ち、本実施形態の構成によれば、上記のとおり、第1糸太さムラ信号と第2糸太さムラ信号とのズレ量を正確に算出することができるので、クリアラ15は、定長パルス信号、時間あたりの紡績糸20の走行長さ、及び紡績糸20の走行速度などを正確に求めることができる。
【0143】
また、本実施形態のクリアラ15において、重み付け処理部66は、1つの極大点を有する重み付けカーブによって指定される重み係数を用いて、生の類似度に対して前記重み付けを行っている。
【0144】
このように、1つの極大点を有する適切な重み付けカーブを設定しておくことにより、クリアラ15は、当該極大点に対応する重み付き類似度に基づいて時間的なズレ量を算出し易くなる。その結果、クリアラ15は、第1糸太さムラ信号と第2糸太さムラ信号とのズレ量を正確に算出することができる。
【0145】
また、本実施形態のクリアラ15において、前記重み付けカーブの極大点は、過去の前記複数の重み付き類似度のうち最大の重み付き類似度に対応する時間的なズレ量に基づいて設定されている。
【0146】
即ち、クリアラ15が取得する紡績糸20の走行情報は、前回取得した走行情報と大きく変わらない場合が多い。従って、前回取得した走行情報と大きく変わらない結果を検出し易いように、過去の最大の重み付き類似度に対応する類似度に対して大きな重み付けを行うことにより、重み付き類似度の信頼性が向上する。
【0147】
また、本実施形態のクリアラ15は、紡績糸20の走行速度の基準速度を取得する基準速度取得部72を備える。前記重み付けカーブの極大点は、前記基準速度に対応する時間的なズレ量に基づいて設定される。
【0148】
即ち、走行する糸の走行速度は、ある基準速度を中心として変動すると考えられる。そこで上記のようにクリアラ15を構成し、基準速度に対応する類似度に対して大きな重み付けを行うことにより、重み付き類似度の信頼性が向上する。
【0149】
また、本実施形態のクリアラ15において、重み付けカーブの極大点は、過去の前記複数の重み付き類似度のうち最大の重み付き類似度に対応する時間的なズレ量に基づく重み付けカーブと、前記基準速度が対応する時間的なズレ量に基づく重み付けカーブと、に基づいて設定されている。
【0150】
このように、複数の特性に基づいて重み付けカーブを設定することにより、クリアラ15は、紡績糸20の走行情報をより正確に取得することができる。
【0151】
また、本実施形態のクリアラ15において、基準速度取得部72は、紡績糸20が巻き取られるパッケージを駆動する巻取ドラム24の回転速度を取得して、前記基準速度を求めている。
【0152】
即ち、紡績糸20の走行速度は、巻取ドラム24の回転速度と相関関係がある。そこで、基準速度取得部72は、上記のように巻取ドラム24の回転情報を取得し、当該回転情報に基づいて基準速度を求めることができる。
【0153】
また、本実施形態のクリアラ15は、過去の最大の重み付き類似度が重み付けカーブの形状に与える影響度、及び基準速度が重み付けカーブの形状に与える影響度の少なくとも何れか一方を調整するカーブ調整部74を備えている。
【0154】
これにより、クリアラ15は、クリアラ15の特性、即ち、基準速度の精度と、糸走行速度の変化の大小(ある瞬間における糸走行速度の変化)との特性に応じて適切な重み付け処理を行うことができる。この結果、クリアラ15は、クリアラ15の特性等に基づいて、紡績糸20の正確な走行情報を取得することができる。
【0155】
また、本実施形態のクリアラ15は、以下のように構成されている。即ち、走行情報取得部67は、最大値対応類似度が、前回の最大値対応類似度に基づいて決定された閾値未満であった場合には、過去の重み付き類似度最大値に基づいて紡績糸20の走行速度を取得する。
【0156】
これにより、クリアラ15は、適切な類似度に基づいて紡績糸20の走行情報を取得することができるため、当該走行情報の精度を更に向上させることができる。
【0157】
また、本実施形態のクリアラ15は、閾値が時間の経過とともに小さくなる処理を行う閾値再評価部73を備える。
【0158】
即ち、紡績糸20の走行速度等の走行情報は絶えず変化しており、過去の類似度は信頼性が低下していく。そこで、上記のように閾値を時間の経過とともに小さく評価することにより、信頼性が低下した過去の類似度がいつまでも使用されてしまうことを防止できる。
【0159】
また、本実施形態の自動ワインダは、前記のクリアラ15と、紡績糸20を巻き取ってパッケージ30を形成する巻取部31と、クリアラ15が検出した紡績糸20の走行情報に基づいて、巻取部31による巻取りを制御するユニット制御部50と、を備えている。
【0160】
この自動ワインダは、上記のクリアラ15を備えているので、紡績糸20sの正確な走行速度を取得可能である。そして、この自動ワインダは、紡績糸20の正確な走行速度に基づいてパッケージを形成するので、均一かつ高品質なパッケージを生産することができる。
【0161】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0162】
上記実施形態では、回転する巻取ドラム24によってパッケージを回転させつつ、当該パッケージの表面に糸を綾振りする構成としたが、これに限定されず、パッケージの駆動と綾振りとが独立した構成の糸巻取機であっても本発明の構成を適用することができる。このような糸巻取機としては、例えば、旋回運動するアームによって糸を綾振りするアーム式トラバース装置や、ベルトによって左右往復運動する糸掛け部材によって糸を綾振りするベルト式トラバース装置を備えた自動ワインダ等を挙げることができる。
【0163】
また、本発明の構成は、自動ワインダに限らず、例えば精紡機など、他の種類の糸巻取機にも適用することができる。
【0164】
上記実施形態では、糸ムラセンサ(検出部)によって受光量の変化を見る構成としたが、例えば走行する糸の静電容量の変化を検出するタイプの糸ムラセンサであっても良い。この構成の場合は、糸の単位長さあたりの質量の変化を検出することができる。要は、何らかの方法で糸の太さムラを検出するように構成されていれば良い。
【0165】
上記実施形態では、重み付けカーブは、履歴重みと、基準速度重みと、を合成したものを用いるとして説明したが、この構成に限らない。例えば、基準速度重みカーブのみを、単独で重み付けカーブとして用いても良い。また、重み付けカーブは実施形態で説明したように指数関数の形である必要は無く、何らかの形で重み付けを行うことができれば良い。なお、ユーザによって重み付けカーブを調整する必要が無ければ、カーブ調整部は省略することもできる。
【0166】
上記実施形態では、重み付けカーブを指数関数(exp関数)によって定義しているが、これに限らず、極大点を1つ持つ関数であれば任意の関数を重み付けカーブの定義に用いることができる。
【0167】
重み付き類似度採用判定処理は、省略しても良い。
【0168】
クリアラ15においては、定長パルス信号、糸の走行速度等の糸走行情報を取得するものとして説明したが、これ代えて、他の糸走行情報を取得するように構成しても良い。例えば、クリアラ15において、求めた走行速度を時間で積分することにより、走行した糸の総長を求めるように構成しても良い。
【0169】
また、クリアラ15においては、糸の走行速度を算出することなく、例えば波形の時間的なズレΔTのみを求めるよう構成しても良い。波形の時間的なズレΔTは糸が走行することにより生じるものであるから、糸の走行情報であると言うことができる。なお、この場合、クリアラ15が求めた波形の時間的なズレΔTは、ユニット制御部50に出力し、当該ユニット制御部50において、前記ΔTを用いた糸の走行速度の算出を行うように構成することもできる。
【0170】
なお、上記実施形態では、クリアラ15で算出した糸の走行速度をユニット制御部50に出力するとしたが、数値データとして走行速度を出力しても良いし、他の形式で出力しても良い。例えば、前述の定長パルス信号をユニット制御部50に出力するように構成することもできる。
【0171】
クリアラ15が備える第2のA/Dコンバータ46は、FFT演算を行うためのものであるから、FFT演算を行わない場合は第2のA/Dコンバータ46を省略しても良い。
【0172】
上記実施形態では、ロータリエンコーダからの回転パルス信号に基づいて基準速度を取得する構成としたが、これに限らない。要は、糸の平均的な走行速度(基準速度)を何らかの方法により検出できれば良い。
【0173】
上記実施形態では、最大値対応ズレ量に基づいて上流側リングバッファ56の波形データと下流側リングバッファ55の波形データとの時間的なズレΔTを求め、更にこのΔTに基づいて糸の走行速度を算出する構成とした。しかし糸走行速度の算出方法はこれに限らず、例えば、最大値対応ズレ量と基準ズレ量との比に基づいて求めても良い。具体的には、糸の走行速度Vは、基準速度V_ave、基準ズレ量offset、を用いて、以下の式で算出することもできる。
V=V_ave×(今回採用の最大値対応ズレ量/offset)
【0174】
上記実施形態では、下流側フレームの先頭位置は固定とし、上流側フレームの先頭位置をズラしながら類似度を求めている。この構成に代えて、上流側フレームの先頭位置を固定とし、下流側フレームの先頭位置をズラしながら類似度を求めても良い。また、下流側フレームと上流側フレームの両方をズラしながら類似度を求めても良い。ただし、下流側フレームを、下流側リングバッファに含まれる波形データのうち最新のデータを含む位置に固定しておけば、常に最新のデータを用いてリアルタイムで類似度を算出することができるので特に好適である。
【0175】
上記実施形態では、類似度評価部65、重み付け処理部66、走行情報取得部67、糸品質測定部68、基準速度取得部72、閾値再評価部73、カーブ調整部74等の機能を、ハードウェアとソフトウェアとによって実現する構成としたが、当該機能の一部又は全部を、専用のハードウェアによって実現する構成であっても良い。
【符号の説明】
【0176】
10 ワインダユニット
15 クリアラ(糸走行情報取得装置)
43 第1糸ムラセンサ(第1検出部)
44 第2糸ムラセンサ(第2検出部)
65 類似度評価部65
66 重み付け処理部
67 走行情報取得部
71 基準速度取得部
73 閾値再評価部
74 カーブ調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する糸の太さムラを検出して第1糸太さムラ信号を出力する第1検出部と、
糸走行方向において、前記第1検出部から所定の距離を隔てて配置され、前記糸の太さムラを検出して第2糸太さムラ信号を出力する第2検出部と、
所定の第1時間範囲の間に取得された前記第1糸太さムラ信号と、前記第1時間範囲よりも長い第2時間範囲の間に取得された前記第2糸太さムラ信号と、に基づいて、前記第1糸太さムラ信号と前記第2糸太さムラ信号との複数の類似度を求める類似度評価部と、
前記複数の類似度に対して重み付け処理を行い、複数の重み付き類似度を求める重み付け処理部と、
前記重み付き類似度に基づいて、前記第1糸太さムラ信号と前記第2糸太さムラ信号との時間的なズレ量を算出するとともに、前記所定の距離と、前記ズレ量と、に基づいて糸の走行情報を取得する走行情報取得部と、
を備えることを特徴とする糸走行情報取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載の糸走行情報取得装置であって、
前記第1検出部は、前記第2検出部の下流側に配置されていることを特徴とする糸走行情報取得装置。
【請求項3】
請求項2に記載の糸走行情報取得装置であって、
前記類似度評価部は、
前記第1時間範囲の間に取得された前記第1糸太さムラ信号から構成される第1仮想フレームと、
前記第2時間範囲の間に取得された前記第2糸太さムラ信号のうち、前記第1時間範囲と同じ長さの時間範囲内に取得された前記第2糸太さムラ信号から構成される第2仮想フレームと、
を比較することにより前記類似度を求めるように構成されるとともに、
当該類似度評価部は、前記第2仮想フレームの時間軸上での位置を、前記第2時間範囲内で複数選択することにより、複数の前記類似度を求めることを特徴とする糸走行情報取得装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の糸走行情報取得装置であって、
前記走行情報取得部は、前記所定の距離と、前記ズレ量と、に基づいて、前記糸の一定長のサンプリングのための信号、時間あたりの前記糸の走行長さ、及び前記糸の走行速度のうちの少なくとも何れか1つの走行情報を取得することを特徴とする糸走行情報取得装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の糸走行情報取得装置であって、
前記重み付け処理部は、1つの極大点を有する重み付けカーブによって指定される重み係数を用いて、前記類似度に対して前記重み付け処理を行うことを特徴とする糸走行情報取得装置。
【請求項6】
請求項5に記載の糸走行情報取得装置であって、
前記重み付けカーブの極大点は、過去の前記複数の重み付き類似度のうち最大の重み付き類似度に対応する時間的なズレ量に基づいて設定されることを特徴とする糸走行情報取得装置。
【請求項7】
請求項5に記載の糸走行情報取得装置であって、
前記糸の走行速度の基準速度を取得する基準速度取得部を備え、
前記重み付けカーブの極大点は、前記基準速度に対応する時間的なズレ量に基づいて設定されることを特徴とする糸走行情報取得装置。
【請求項8】
請求項5に記載の糸走行情報取得装置であって、
前記糸の走行速度の基準速度を取得する基準速度取得部を備え、
前記重み付けカーブの極大点は、過去の前記複数の重み付き類似度のうち最大の重み付き類似度に対応する時間的なズレ量に基づく重み付けカーブと、前記基準速度が対応する時間的なズレ量に基づく重み付けカーブと、に基づいて設定されていることを特徴とする糸走行情報取得装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の糸走行情報取得装置であって、
前記基準速度取得部は、前記糸が巻き取られるパッケージを駆動する巻取ドラムの回転情報を取得して、当該回転情報に基づいて前記基準速度を求めることを特徴とする糸走行情報取得装置。
【請求項10】
請求項6から9までの何れか一項に記載の糸走行情報取得装置であって、
過去の前記最大の重み付き類似度が前記重み付けカーブの形状に与える影響度、及び基準速度が前記重み付けカーブの形状に与えるの影響度の少なくとも何れか一方を調整するカーブ調整部を備えていることを特徴とする糸走行情報取得装置。
【請求項11】
請求項1から10までの何れか一項に記載の糸走行情報取得装置であって、
前記走行情報取得部は、前記重み付き類似度が最大値をとるときの類似度が、過去の類似度に基づいて決定された閾値未満であった場合には、過去の重み付き類似度に基づいて前記糸の走行情報を取得することを特徴とする糸走行情報取得装置。
【請求項12】
請求項11に記載の糸走行情報取得装置であって、
前記閾値が時間の経過とともに小さくなる処理を行う閾値再評価部を備えることを特徴とする糸走行情報取得装置。
【請求項13】
請求項1から12までの何れか一項に記載の糸走行情報取得装置と、
前記糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取部と、
前記糸走行情報取得装置が検出した前記糸の走行状態に基づいて、前記巻取部による巻取りを制御する制御部と、
を備えることを特徴とする糸巻取機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−51672(P2012−51672A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194581(P2010−194581)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】