説明

紙を基材とするプラスチック壁紙分離処理法。

【課題】大量に生産される製造工場に於いて又施工時に生ずる端物更には住宅等のリホ−ムに伴い廃棄されるプラスチック壁紙は、基材である紙とプラスチックが完全に密着した状態であるため、リサイクル(資源再利用)が極めて困難であった。此等の困難を排除し、壁紙のリサイクルを可能とする分離処理方法を提供する。
【解決手段】繊維改質酵素或いは繊維素分解酵素等の名目で市販されている酵素を使用し、プラスチック壁紙の基材である紙の部分を分離分解し、プラスチックと分離することで、壁紙のリサイクルを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック壁紙のリサイクル(資源再利用)を容易にする分離処理法に関する。
【発明の背景】
【0002】
本発明の背景は、内装材として大量に生産されている紙を基材とするプラスチック壁紙が、製造段階、施工時及び内装リホ−ム時大量に産業廃棄物として廃棄されている。
【0003】
しかも、此等の製品は基材である紙とプラスチックが完全密着状態であるがために、簡単に分離分別することでリサイクル(資源再利用)を行なうことは不可能である。
【0004】
此等の壁紙に使用されるプラスチック類は軟質ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・メチル・メタアクリレ−ト(EMMA)等で、其の90%程度はポリ塩化ビニルが使用されている。
【0005】
又、更に其の壁紙にはにそれ自体の風合い、そして防音性を付与するため、アゾジカルボンアミド(ADCA)、4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、等の有機系熱分解型発泡剤を使用し、発泡製品として製造されている。
【0006】
現在、此等の製品は殆どリサイクル(資源再利用)されることなく、その大部分は産業廃棄物として焼却処分もしくは埋め立て廃棄処分されている。
【0007】
特に此等の製品の中で、軟質ポリ塩化ビニルをプラスチック部分に使用されている物を焼却処分する場合、ポリ塩化ビニルが起因するとされるダイオキシンの問題は、最近の焼却炉技術の改善で問題視されなくなっているが、焼却処分で生ずる塩化水素が起因する酸性成分である塩酸の焼却炉への影響が懸念されている。
【0008】
又、此等の製品を埋め立て廃棄する場合、発泡製品で有るが為かさ比重が小さく埋め立効率が極めてよくない。埋め立て処分された此等製品の紙の部分は土壌に含まれる酵素で分解されるがプラスチック部分は長年月に亙って土壌中に温存される。
【0009】
【特許文献1】 特開2006−75007
【特許文献2】 特開2006−149343
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上に述べた壁紙の廃棄処分は、地球環境の面からも適切なる処分方法ではなく、更に今後廃棄される不要な壁紙は増加の方向にある。
【0011】
産業廃棄物として廃棄される此等の壁紙は、例えば其れを機械的な手段で微粉末化し、プラスチック部分と基材である紙を比重の差で分離する方法が試みられているが、完全な分離は不可能である。
或いは、プラスチックを溶剤で溶解分離する方法も試みられているが処理コスト、環境の面で問題が残されている。
【0012】
又、資源有効利用促進法に基づき塩ビ壁紙リサイクルブロック(商品名、パイン・ブロック)としての利用も進められている。
【0013】
本発明は、此等の処理方法と異なり、壁紙の基材の紙の主成分がセルロ−ズ繊維で有ることに着眼し、セルロ−ズ分解酵素(繊維素分解酵素剤)によりそれらを分離分解し、プラスチック部分と基材である紙を完全に分離することでプラスチック部分はリサイクル(資源再利用)可能な物として再生し、更にセルロ−ズ分解酵素(繊維素分解酵素剤)でプラスチックと分離分解された紙の部分は再生紙への転用も可能とする。
【0014】
此等の繊維状物質はセルロ−ズ分解酵素で分解を進め更に糖化酵素で糖(C12)にまで分解した後、醗酵酵母による醗酵でエチルアルコ−ル、グリセリン、アセトン、ブタノ−ル、イソブタノ−ル、更にはイソブチレン、ジイソブチレン、イソオクタン等高付加価値のある有機化合物の原料に転化することが出来る。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、極めて困難な壁紙のリサイクル(資源再利用)に着眼し、誠意検討を進めた結果、対象とする壁紙を適当なサイズに裁断し、通常の水に分散した状態にセロ−ズ分解酵素(繊維素分解酵素剤)を加え、適切な条件下でプラスチック部分と紙を完全に分離することが可能であることを発見した。
【0016】
分離されたプラスチック部分は簡単な洗浄と乾燥を行うことで再利用可能なプラスチックとしての物性を有する物で有ることを確認した。
【0017】
本発明の具体的な手段は、リサイクルを対象とする此等製品を適当なサイズに裁断し、繊維改質剤或いは繊維処理剤の名目で比較的安価に市販されている繊維改質酵例えばGODO TCL(合同酒精株式会社製)、セルラ−ゼ”オノズカ”3S(ヤクルト薬品工業株式会社製)、エンチロンCM−40L(洛東化成工業株式会社製)、ドリラ−ゼ20(協和醗酵株式会社製)、セルラ−ゼA「アマノ」3(天野エンザイム株式会社)等々を此等の製品の製造会社の仕様にもとずく処理温度並びに水素イオン濃度の適切な管理処理を行うことでプラスチック部分と紙とを完全に分離することが出来る。
【0018】
本発明は、此等通常に市販されている繊維改質酵素剤を0.1〜20重量%、好ましくは1〜5重量%の水溶液で、水溶液の水素イオン濃度pHはクエン酸、酒石酸、りんご酸、酢酸、しゅう酸、琥珀酸、グルコン酸等の水溶性有機弱酸の0.005〜0.02重量%の使用でpH4〜5の範囲に調整することで、本発明の目的を確認することができた。
【0019】
此の様に調整された水溶液に対する分離対象の壁紙の仕込量は、壁紙の発泡倍率により異なる。
低発泡製品(2〜4倍)の場合、水溶液100重量部に対して15乃至25重量部の仕込みが可能である。
高発泡製品(5〜8倍)の場合は、水溶液100重量部に対して8乃至15重量部程度の仕込量となる。
【0020】
本発明に関わる分離を対象とする壁紙は、其れを粉砕機により粉砕供与することは、処理後分離分解された紙の部分との分離が不可能となるため好ましくない。
【0021】
本発明に関わる対象とする壁紙は、処理設備の規模にもよるが、処理後のプラスチック部分の分離を容易にするため2cm〜50cm角、好ましくは4cm〜15cm角程度に裁断されることが望ましいが、必ずしも正四角形の必要はない。
【0022】
適切なる繊維改質酵素剤並びに適切な水素イオン濃度に調整された水溶液を使用することでプラスチック部分と基剤である紙は、ほぼ完全に分離されプラスチック部分は1メッシュ程度の網で分別する。
【0023】
プラスチック部分を分別し繊維改質酵素剤で分離、一部は分解された繊維状の紙の部分は合成繊維製不織布或いはガラス繊維製の濾過布を使用し、掻き出し可能な遠心分離機等を使用して濾別する。
【0024】
プラスチック並びに紙の部分を分別した残水溶液は、水素イオン濃度pHを調整することで繰り返し使用することが可能である。
【0025】
本発明に関わる紙の分離作業中の水素イオン濃度pH及び反応温度は使用する分解酵素の酵素失活を避けるため、製造会社の仕様に従う。
【発明の効果】
【0026】
上述したように、本発明は排出される不要壁紙のリサイクル(資源再利用)処理方法として、現在主として行われている埋め立て処理、或いは焼却処理に伴う問題を解決し、容易にしかも環境にも優しく、経済的にも有利な処理方法である。
【0027】
本発明に関わるプラスチック壁紙の分離操作に必要とする反応時間は、反応温度を50℃に設定して、壁紙製造に使用されのプラスチックの種類、重合度、可塑剤の種類及び使用量、発泡倍率、エンボッシングの程度並びに分解酵素の違い或いは使用量等で幾分違いは有るが、大略2時間30分乃至5時間程度で、本発明の目的を達成することが出来る。
【発明を実施するための最良の手段】
【0028】
以下実施例によって本発明を説明するが、本発明はこれらによつて限定されるものではない。
尚、以下に説明する実施例は、製造される壁紙の90%を占めるポリ塩化ビニル製壁紙に限定する。
【実施例1】
【0029】
ポリ塩化ビニル製壁紙(竹野株式会社より入手した製品)を約2cm角に裁断した物100gを、水1Lに洛東化成工業株式会社製エンチロンCM−40Lを50g、更にpH調整としてクエン酸0.01gを溶解した水溶液(pH4.3)に分散し、50℃に保たれた状態で3時間攪拌を続けた後、プラスチック部分を繊維状に分解された水溶液部分から分別する。
【0030】
分別したプラスチックを簡単に水で洗浄後、充分に乾燥し80.5gの軟質ポリ塩化ビニルを得た。
【0031】
プラスチック部分を分離した残水溶液を、合成繊維製の濾布で繊維状の紙を濾別取出し、充分に乾燥し18.5gの繊維状の物を得た。
【0032】
塩化ビニル樹脂(重合度1100)100部、DINP(ジ・イソノニルフタレ−ト)50部、Ba−Zn系液状安定剤2部を混合した物に分別して得た軟質ポリ塩化ビニル30部を混合し、表面温度170℃に保たれた6インチ2本テスト・ロ−ルで5分間混練し、厚み0.5mmの繊維状物質を全く認めない、均一な軟質ポリ塩化ビニルシ−トを得ることが出来た。
【0033】
プラスチック部分並びに繊維状の紙の部分を濾過分離した水素イオン濃度pHが5.0を示す水溶液を、クエン酸0.002gを加えて水素イオン濃度pHを4.3とし、同様の分離処理を行うことで、上記と同様の結果を得た。
【0034】
上記と同様に、僅かに失われた水と、其れに必要とする分解酵素と水素イオン濃度pHの調整で、3回の分離操作を行い、全く同様の結果を得ることが出来た。
【0035】
尚、3回目に使用した水溶液の分析結果は、Ba,14ppm、Zn,50ppm、Ca,634ppm、その他Cd、Pb等の重金属並びに有機錫も検出しない。
Ba、Zn金属は、壁紙製造時に使用された塩化ビニル樹脂用安定剤からである。Ca金属は壁紙プラスチック部分に使用された充填材(炭酸カルシュウム)からの物である。
【実施例2】
【0036】
ヤクルト薬品工業株式会社製の繊維素分解酵素剤、セルラ−ゼ“オノズカ”3S、50gとpH調整剤として0.01gの酒石酸を1Lの水に溶解し、pH5に調整した水溶液に約2cm角に裁断した軟質ポリ塩化ビニル製高発泡壁紙(裏糊処理の無い市販品)80gを分散し、温度を50℃に保持した状態で5時間攪拌を継続したのちプラスチック部分と繊維の状態で分散している水溶液部分を分離する。
【0037】
プラスチック部分を洗浄し、充分に乾燥することで密着しているプラスチックと紙が完全に分離していることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に紙が使用される<プラスチック壁紙の紙質基材の主成分であるセルロ−ズ(繊維素)をセルロ−ズ分解酵素(繊維素分解酵素剤)により紙質を分離分解し、プラスチック部分を分別することで、基材に紙を使用し生産されるプラスチック壁紙のリサイクルを可能とする分離処理法。
【請求項2】
前記セルロ−ズ分解酵素の酵素種類は、セルラ−ゼ、グルカナ−ゼ、キシラナ−ゼ、ヘミセルラ−ゼ、マンナナ−ゼ、ペクチナ−ゼ等で、其々単独もしくは混合した0.1乃至20重量%の水溶液を使用する分離処理法。
【請求項3】
前記セルラ−ゼ酵素等の活性と安定性を保持するため要求される水素イオン濃度pHを保持するために、クエン酸、酒石酸、りんご酸、酢酸、しゅう酸、琥珀酸、グルコン酸等の水溶性有機弱酸0.01乃至0.5重量%を使用する分離処理法。
【請求項4】
基剤に紙が使用されるプラスチック壁紙を請求項1,2で調整された水溶液でプラスチックと紙を分別分離した後の水溶液は、追加する水と其れに必要とするセルロ−ズ分解酵素を追加し、更に水素イオン濃度を調整することで、繰り返し使用を可能とする分離処理法。

【公開番号】特開2009−18293(P2009−18293A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196700(P2007−196700)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(591273041)大協化成工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】