説明

紙容器及びその製造方法

【課題】板紙のプレス成形により、底部・周壁部・フランジ部から成る紙容器を製造する方法において、紙容器の保形性・耐水性を向上させる。
【解決手段】表面に合成樹脂層を設けた板紙をプレス成形して底部1と周壁部2とを形成した後、周壁部2を構成する板紙の端縁部を外側に巻き込んでカール部を形成し、引き続き当該カール部を圧縮して、板紙の端縁部3cが内側に折り込まれた折り畳み構造のフランジ部3を形成したのち、さらにフランジ部3を加熱圧縮することにより、合成樹脂を溶融させて、折り込まれた板紙端縁部3cを対向するフランジ基部3aに融着させる。カール部の圧縮により保形性が向上し、融着によりフランジ部3に水分を浸入させる隙間が無くなるので、紙容器Pの耐水性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板紙をプレス成形することにより製造される紙容器の技術に関し、紙容器の保形性・耐水性の向上を図ることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
板紙をプレス成形することにより製造される皿やトレイ等の紙容器の保形性を向上させるため、図5に示すように、紙容器Qの上端部に、板紙の端縁部を巻き込んだカール部C(縁巻とも呼ばれる)を形成することは、従来より、よく知られた技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平6−6775号公報
【特許文献2】実用新案登録第2604577号公報
【特許文献3】特許第2796646号公報
【特許文献4】特許第3448435号公報
【特許文献5】特許第3788595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
紙容器Qの上端部に形成されるカール部Cは、通常、板紙を外側に巻き込んだ構造であり、図5(B)に示す如く、巻き込みの基端部分に隙間Dが形成されざるを得ない。それ故、巻き込み部分の隙間Dからカール部C内へ水分の浸入を許す構造となっているため、カール部C内へ浸入した水分を板紙が吸収することによって板紙が膨張し、周壁部のギャザーが広がって紙容器Qが変形するという問題があった。
また、紙容器Qを外力に対して一層変形しにくくするため、カール部Cよりも保形性に優れた構造の開発も望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者が前記課題の解決するために創案した手段の特徴とするところは、板紙をプレス成形することにより、底部と、底部の周縁から起立する周壁部と、周壁部の上端部に形成されたフランジ部とから成る紙容器を製造する方法において、板紙をプレス成形して底部と周壁部とを形成した後、板紙の端縁部を外側に巻き込んで周壁部の上端部にカール部を形成し、引き続き当該カール部を圧縮して、板紙の端縁部が内側に折り込まれた折り畳み構造のフランジ部を形成することである。
【0006】
前記製造方法において、前記板紙は表面に合成樹脂層が形成されたものとし、前記カール部を圧縮してフランジ部を形成するときに、当該フランジ部を加熱することにより前記板紙表面の合成樹脂を溶融させて、折り込まれた板紙の端縁部を、対向する板紙部分に融着させることが望ましい。
【0007】
また、本発明のより望ましい態様として、板紙をプレス成形することにより、底部と、底部の周縁から起立する周壁部と、周壁部の上端部に形成されたフランジ部とから成る紙容器を製造する方法において、前記板紙の表面に合成樹脂層を設け、板紙をプレス成形して底部と周壁部とを形成した後、板紙の端縁部を外側に巻き込んで周壁部の上端部にカール部を形成し、引き続き当該カール部を圧縮して、板紙の端縁部が内側に折り込まれた折り畳み構造のフランジ部を形成したのち、さらに当該フランジ部を加熱圧縮することにより、前記板紙表面の合成樹脂を溶融させて、折り込まれた板紙の端縁部を、対向する板紙部分に融着させるという手法を採用することもできる。
【0008】
さらに本発明に係る前記紙容器の製造方法において、前記カール部を圧縮したときに、フランジ部の位置が、周壁部の上端よりも低くなるように設定することが望ましい。
【0009】
前述した板紙表面に形成する合成樹脂層は、従来の紙容器製品に用いられているものと共通でよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂をラミネートして形成することが考えられる。
【0010】
また本発明は、前記製造方法に基づき、底部と、底部の周縁から起立する周壁部と、周壁部の上端部に形成されたフランジ部とから成り、前記フランジ部は板紙の端縁部が内側に折り込まれた折り畳み構造を有していることを特徴とする紙容器を提供する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る本発明方法により形成されるフランジ部は、カール部を圧縮して、板紙の端縁部を内側に折り込んだ折り畳み構造としたから、内部にほとんど隙間を持たない。よって、内部に中空部を持つ従来のカール部と比較して、剛性が向上する。
【0012】
請求項2に係る本発明によれば、板紙の表面に形成した合成樹脂層を、フランジ部を形成する際に加熱して、折り込まれた板紙の端縁部を対向する板紙部分に融着させたので、水分が浸入する隙間が無くなる。その結果、紙容器の耐水性が向上する。
【0013】
請求項3に係る本発明によれば、フランジ部を2回圧縮することにより、フランジ部の密度が高まるから、保形性が一層向上する。またフランジ部を加熱圧縮することにより、板紙表面の合成樹脂を溶融させて、折り込まれた板紙の端縁部を対向する板紙部分に融着させるので、水分を浸入させる隙間が無くなり、その結果、紙容器の耐水性が向上する。
【0014】
請求項4に記載する如く、カール部を圧縮したときに、フランジ部の位置が周壁部の上端よりも低くなるように設定した場合は、周壁部上端が折曲部の多い形態となるので、曲げ剛性が増大し、保形成の向上がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る紙容器の一例を示すものであって、図(A)は全体の斜視図、図(B)は要部の正面断面図、図(C)はフランジ部の拡大断面図である。
【図2】本発明に係る紙容器の製造工程を説明する断面図である。
【図3】本発明に係る紙容器のフランジ部に関する異なる実施形態を例示する断面図である。
【図4】本発明に係る紙容器の保形性(耐変形強度)を従来品と比較する試験の実施要領を説明する平面図である。
【図5】従来の紙容器を示すものであって、図(A)は正面断面図、図(B)はカール部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、本発明に係る紙容器Pの一実施形態を示す。本例の紙容器Pは、平面形状が円形であって、1枚の板紙からプレス成形により製造したのであり、底部1と、底部1の周縁から起立する周壁部2と、周壁部2の上端部に形成したフランジ部3とを有している。周壁部2及びフランジ部3は、板紙をプレス成形する際に、板紙が絞り加工されることにより発生する多数のギャザー2aを有している。また、図1(B)(C)に示すように、周壁部2の上端に平坦なトップ部4を設け、フランジ部3が、トップ部4より若干低い位置から外方へ張り出すように設定されている。かかる構成により、周壁部2の上端部が折曲部の多い構造となるので、曲げ剛性の増大がもたらされる。
【0017】
本発明に係る紙容器Pは、大きさについて特に制限はない。基本形状についても、従来の製品と共通でよく、平面形状が円形・楕円形・小判型・長円形など特に限定されない。また、成形材料となる板紙の材質についても、従来製品と共通のものを使用でき、特に、表面にラミネート加工により合成樹脂層を形成した板紙を使用するのが好ましい。
【0018】
本発明に係る紙容器Pは、フランジ部3が、図1(C)に示す如く、板紙の端縁部3cを内側に折り込んだ構造となっているところに特色を有している。すなわち、フランジ部3におけるトップ部4から連続する基部3aと、基部3の先端から折り返された折返し部3bとの間に、端縁部3cが折り込まれている。
【0019】
次に、本発明に係る紙容器Pの製造工程を、図2を参照して説明する。まず同図(A)に示すように板紙10を準備する。板紙10には、表面に合成樹脂層を形成したものを用いる。これをプレス加工して、同図(B)に示す如く、底部1と、底部1の周縁から起立する周壁部2と、周壁部2の上端から連続するフランジ予定部3aとを形成する。次いで同図(C)に示すように、トップ部4を周壁部2の上端に残して、フランジ予定部3aの途中を上方へ折り曲げる。
【0020】
続いて図2(D)に示す如く、フランジ予定部3aを外側に巻き込んでカール部Cを形成する。カール部Cの巻き込み量は、後続のプレス加工でフランジ部3を形成する際に、板紙10の端縁部がフランジ部3の内側へ確実に折り込まれるように設定すればよい。
【0021】
引き続き、カール部Cをプレス加工して上下方向に圧縮し、図2(E)に示すようなフランジ部3を形成する。このとき、フランジ部3の位置が、トップ部4よりも若干下方となるように設定する。
また、カール部Cを圧縮してフランジ部3を形成する際に、フランジ部3を加熱して内側に折り込まれた板紙10の端縁部表面の合成樹脂を溶融させ、フランジ部3の基部3a(図1(C)参照)に対し融着させてヒートシールを形成する。
【0022】
あるいは、1度目はカール部Cを加熱せずに圧縮して、図2(E)に示すフランジ部3を形成した後、再度、フランジ部3に対し加熱圧縮を行なうことにより、板紙端縁部3cをフランジ基部3aに融着させて(図1(C)参照)、フランジ部3のヒートシールを完成させることも可能である。
【0023】
このように本例にあっては、板紙10の端縁部3cと、これに対向する基部3aとを、端縁部3cの表面に形成した合成樹脂層の融着により接合して、両者間の隙間を閉塞する構造と成した。従って、フランジ部3内部への水分の浸入が阻止されるため、耐水性が向上する。従来のカール部(図5参照)は、巻き込み部分の隙間から水分の浸入を許す構造となっていたため、カール部内へ浸入した水分を板紙が吸収することによって板紙が膨張し、周壁部のギャザーが広がって紙容器が変形するという問題があった。しかるに本発明によれば、フランジ部3内へ水分が浸入することがないので、板紙が給水することによる紙容器の変形を招くおそれがないという効果が得られる。
【0024】
本発明に係る紙容器Pの製造は、従来の紙容器製造装置に、カール部を圧縮する手段を付け加えることで実現できる。例えば、紙容器の製造装置に、成形型とは独立して動作するプレス機構を組み込み、カール部の形成直後にカール部を圧縮することが考えられる。また、フランジ部を2回プレス加工する場合は、別の専用プレス装置を用意し、1回プレス後の紙容器を移送して、2度目の圧縮を別工程で行ない、その際に加熱することも可能である。
【0025】
図3は、本発明に係る紙容器Pのフランジ部3に関する異なる実施形態を例示する図面である。同図(A)に示すように、フランジ部3の内側に折り込まれる端縁部3cの長さが長くなるように設定することも可能である。これは、製造工程途中におけるカール部Cの巻き込み量(図2(D)参照)を調整することで実現できる。
また同図(B)に示す如く、周壁部2の上端から連続してフランジ部3を形成し、トップ部を省略した構造とすることも妨げない。
さらに同図(C)に示す如く、フランジ部3をプレス加工で圧縮する際に、若干フランジ部を湾曲させることも考えられる。これにより、フランジ部3の剛性及び耐水性が一層向上する。
【0026】
本発明に係る紙容器Pが、従来製品と比較して、保形性が向上していることを、試験により実証した。
試験方法は、図4に示すように、試験対象となる紙容器P(従来品Q)を試験台21上に設置し、これに対し、デジタルフォースゲージ20で水平方向の力を加えて、紙容器P(Q)の直径Lが10mm変形したときの圧力の大きさを測定することにより行なった。(単位N:1N=約0.102kg)
用いた紙容器は、発明品・従来品ともに、同一種類の板紙から製造した円形の紙製トレイであり、外形寸法は共通で、直径170mm深さ30mmである。
測定機器には、株式会社A&D社製デジタルフォースゲージAD−4932A−50Nを用いた。
【0027】
試験結果は下記の通りである。なお、P1はカール部の圧縮を1回だけ行なったもの、P2はカール部の圧縮を2回行い、2度目に加熱したもの、Qは従来品(カール部を形成したもの)である。また、試験サンプル数は各6個ずつである。
【0028】
P1:平均圧力1.47N(最大値1.63N/最小値1.33N)
P2:平均圧力2.93N(最大値3.44N/最小値2.63N)
Q :平均圧力1.37N(最大値1.44N/最小値1.15N)
【0029】
前記試験結果より、カール部を圧縮してフランジ部を形成することにより、保形性(耐変形強度)が向上することが分かる。しかも、2回の圧縮工程を施した場合には、保形性の著しい向上が見られる。
【符号の説明】
【0030】
P…紙容器 1…底部 2…周壁部 2a…ギャザー 3…フランジ部 3a…基部 3b…折返し部 3c…端縁部 4…トップ部 10…板紙 20…フォースゲージ 21…試験台 C…カール部 Q…紙製品(従来)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板紙をプレス成形することにより、底部と、底部の周縁から起立する周壁部と、周壁部の上端部に形成されたフランジ部とから成る紙容器を製造する方法において、
板紙をプレス成形して底部と周壁部とを形成した後、板紙の端縁部を外側に巻き込んで周壁部の上端部にカール部を形成し、引き続き当該カール部を圧縮して、板紙の端縁部が内側に折り込まれた折り畳み構造のフランジ部を形成することを特徴とする紙容器の製造方法。
【請求項2】
前記板紙は表面に合成樹脂層が形成されたものであって、前記カール部を圧縮してフランジ部を形成するときに、当該フランジ部を加熱することにより前記板紙表面の合成樹脂を溶融させて、折り込まれた板紙の端縁部を、対向する板紙部分に融着させた請求項1に記載する紙容器の製造方法。
【請求項3】
板紙をプレス成形することにより、底部と、底部の周縁から起立する周壁部と、周壁部の上端部に形成されたフランジ部とから成る紙容器を製造する方法において、
前記板紙の表面に合成樹脂層が設けられ、
板紙をプレス成形して底部と周壁部とを形成した後、板紙の端縁部を外側に巻き込んで周壁部の上端部にカール部を形成し、引き続き当該カール部を圧縮して、板紙の端縁部が内側に折り込まれた折り畳み構造のフランジ部を形成したのち、
さらに当該フランジ部を加熱圧縮することにより、前記板紙表面の合成樹脂を溶融させて、折り込まれた板紙の端縁部を、対向する板紙部分に融着させたことを特徴とする紙容器の製造方法。
【請求項4】
前記カール部を圧縮したときに、フランジ部の位置が、周壁部の上端よりも低くなるように設定した請求項1〜3のいずれかに記載する紙容器の製造方法。
【請求項5】
底部と、底部の周縁から起立する周壁部と、周壁部の上端部に形成されたフランジ部とから成り、前記フランジ部は板紙の端縁部が内側に折り込まれた折り畳み構造を有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法により製造された紙容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−116392(P2011−116392A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273414(P2009−273414)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(393000180)天満紙器株式会社 (7)
【Fターム(参考)】