説明

紙用柔軟剤

【課題】紙強度の低下を押さえながら紙の柔軟性を十分に向上させることができる紙用柔軟剤を提供する。
【解決手段】本発明に係る紙用柔軟剤は、式(1)で示される化合物を有する。
[化1]
/(EO)m1(AO)n1−X
N−(EO)m2(AO)n2−X ・・・(1)
\(EO)m3(AO)n3−X
(式(1)中−X、X、Xは炭素数10〜24のアシル基または水素原子である。EOはオキシエチレン基である。AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基である。前記オキシエチレン基および前記オキシアルキレン基はブロック状またはランダム状である。式(1)のエステル化率は60〜100%である。またm1≧1、m2≧1、m3≧1であり、かつ5≦m1+m2+m3≦30である。更に0≦n1+n2+n3≦3である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙用柔軟剤に関する。より詳細には、紙の強度低下を抑制しつつ紙に十分な柔軟性を付与する同紙用柔軟剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ペーパーバックやコミック本などが近年急速に普及している。開いたまま机上においても自然にページが閉じないようにするため、またページをめくりやすくするため、これらの本に用いる柔軟な紙が求められている。
【0003】
柔軟な紙を得るための紙用柔軟剤としては、ラノリンおよびラノリン誘導体を含有する柔軟剤(例えば、特許文献1参照)、ウレタンアルコールまたはその4級化物を含有する柔軟剤(例えば、特許文献2参照)、ピロリドンカルボン酸もしくはその塩(例えば、特許文献3参照)からなる柔軟剤、脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとからなるアミドアミンにエピハロヒドリンを反応させて得られる化合物からなる柔軟剤(例えば特許文献4参照)、ジ長鎖アルキルアミノアンモニウム塩からなる柔軟剤(例えば特許文献5参照)等が報告されている。また、紙強度の低下が小さい紙用柔軟剤としては、多価アルコールと高級不飽和脂肪酸とのエステル化物と、多価アルコールと飽和脂肪酸とのエステル化物の混合物を含有する柔軟剤(例えば特許文献6参照)も報告されている。
【特許文献1】特開昭53−147803号公報
【特許文献2】特開昭60−139897号公報
【特許文献3】特開平7−189171号公報
【特許文献4】特開昭51−38600号公報
【特許文献5】特開2001−355197号公報
【特許文献6】特開2004−324024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜特許文献5に示される紙用柔軟剤はいずれも紙の強度を大きく低下してしまう。また、特許文献6に示される紙用柔軟剤は紙の強度低下は小さいものの、柔軟効果は十分でない。このように強度低下を抑えつつ紙の柔軟性を十分に向上させる紙用柔軟剤は得られていない。
【0005】
本発明はかかる実情に鑑みてなされたもので、紙強度の低下を抑えながら紙の柔軟性を十分に向上させることができる紙用柔軟剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記従来の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のトリス(ポリオキシアルキレンアミン)の脂肪酸エステルが上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明に係る紙用柔軟剤は、 式(1)で示される化合物を有する。
【0008】
[化1]
/(EO)m1(AO)n1−X
N−(EO)m2(AO)n2−X ・・・(1)
\(EO)m3(AO)n3−X
(式(1)中−X、X、Xは炭素数10〜24のアシル基または水素原子である。EOはオキシエチレン基である。AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基である。前記オキシエチレン基および前記オキシアルキレン基はブロック状またはランダム状である。式(1)のエステル化率は60〜100%である。
またm1≧1、m2≧1、m3≧1であり、かつ5≦m1+m2+m3≦30である。
更に0≦n1+n2+n3≦3である。)
【0009】
また本発明にかかる化合物の全部または一部に換えて、前記化合物が酸により中和された塩を有していてもよい。式(1)で示される化合物の全部または一部を中和し、塩にすることで、紙用柔軟剤の分散液を調製することが容易となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る紙用柔軟剤によれば、紙の強度低下を抑制しつつ紙に十分な柔軟性を付与することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る紙用柔軟剤は、式(1)で示される化合物を有する。そこで、以下においてこの化合物につきまず説明し、しかる後、本発明を具体化した紙用柔軟剤および紙用柔軟剤を含有する紙の実施例を説明する。
【0012】
1.式(1)で示される化合物
/(EO)m1(AO)n1−X
N−(EO)m2(AO)n2−X ・・・(1)
\(EO)m3(AO)n3−X
(式(1)中−X、X、Xは炭素数10〜24のアシル基または水素原子である。EOはオキシエチレン基である。AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基である。前記オキシエチレン基および前記オキシアルキレン基はブロック状またはランダム状のどちらでも良い。式(1)のエステル化率は60〜100%である。
またm1≧1、m2≧1、m3≧1であり、かつ5≦m1+m2+m3≦30である。
更に0≦n1+n2+n3≦3である。)
【0013】
式(1)中のEOはオキシエチレン基である。オキシエチレン基の数m1、m2、m3はいずれも1より大きく、m1、m2、m3は同一であっても異なっていても良い。またその総数m1+m2+m3が5より小さい場合は紙の強度低下の抑制効果が不十分であり、30を超えると柔軟性の向上効果が不十分である。よって、5≦m1+m2+m3≦30であることが好ましい。
【0014】
式(1)中のAOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、具体的にはオキシプロピレン基およびオキシブチレン基があげられ、単独であっても混合物であってもよい。オキシアルキレン基の総数n1+n2+n3が3以下であることが取り扱い性の面から好ましい。また、上述のオキシエチレン基とオキシブチレン基の付加の形態に制限はなく、ブロック状であってもランダム状であってもかまわない。
【0015】
式(1)中のX、X、Xは炭素数10〜24のアシル基、または水素原子であり、同一であっても異なっていても良い。X、X、Xがアシル基の場合に、炭素数が10未満であると、本形態にかかる紙用柔軟剤が紙に与える柔軟性の向上が不十分であり、24を超えても紙に与える柔軟性の向上は十分であるが、炭素数の増加に見合った効果が得られず、入手も困難である。
【0016】
本条件を満たすアシル基は炭素数10〜24の脂肪酸の残基であり、この脂肪酸は飽和、不飽和、直鎖、分岐のいずれでもよい。具体的にはカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸などが挙げられる。またこれらの脂肪酸を成分として含む椰子油脂肪酸、パーム油脂肪酸、牛脂脂肪酸、豚脂脂肪酸、大豆油脂肪酸、なたね油脂肪酸、トール油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、カカオ油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸等の混合脂肪酸、およびこれらの水素添加物が挙げられる。これら脂肪酸を単独で用いても混合させて用いてもよい。またこれらのうち、柔軟性の向上の観点より、炭素数14〜18の脂肪酸が好ましい。
【0017】
式(1)で示される化合物のエステル化率が60%未満の場合には、柔軟性が十分に得られない。よってエステル化率が60%〜100%となるように調製することが好ましい。
【0018】
ここでエステル化率とは、原料アルコールの水酸基のうち、エステル化された水酸基の割合をいい、以下の式で表される。
【0019】
エステル化率[%]={1−(反応後の水酸基価)/(反応前の水酸基価)}×100
【0020】
式(1)で示される化合物の無機性値と有機性値の比(無機性値/有機性値)が0.4〜0.8であることが好ましい。ここで、無機性値/有機性値とは化合物の親水性、親油性の指標であり、この値が小さいほど親油性が高く、この値が大きいほど親水性が高い(甲田善生著、「有機概念図−基礎と応用−」、三共出版、1984年)。よって、この値が0.4より小さいと親油性が高くなるためパルプへ付着しにくくなるおそれがある。また、無機性値/有機性値が0.8より大きいと親水性が高くなりすぎて、水に溶解してしまい、パルプへ付着しにくくなる恐れがある。
【0021】
無機性値/有機性値は、アシル基の炭素数、エステル化率、オキシエチレン基の平均付加モル数、およびオキシアルキレン基の炭素数、平均付加モル数により変動する。よってこれらの値を調整する事により、分子全体の親水性、親油性を調整する事ができる。
【0022】
2.紙用柔軟剤の製造
【0023】
式(1)で示される化合物は、アルキレンオキシド付加反応およびエステル化反応により得ることができる。例えば、アンモニアまたは市販のトリアルカノールアミンにアルキレンオキシドを付加し、更にエステル化触媒の存在下において脂肪酸を反応させる。また、市販のトリアルカノールアミンに脂肪酸を反応させてからアルキレンオキシドを付加してもよい。用いるトリアルカノールアミンとしては、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0024】
式(1)で示される化合物はそのまま使用することもできるが、紙用柔軟剤の分散液の調製を容易にするために、無機酸あるいは有機酸で中和して塩とすることが好ましい。無機酸としては、塩酸、硫酸、炭酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。有機酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、乳酸、グルコン酸、サルチル酸、ヒドロキシ吉草酸、アストラギン酸、グルタミン酸、タウリン、スルファミン酸等が挙げられる。これらのうち、蟻酸、酢酸、プロピオン酸が好ましい。酸で中和する場合は、式(1)で示される化合物のアミン価を測り、同アミン価に等量の酸を添加する。
【0025】
3.紙用柔軟剤を含有する紙の製造
【0026】
紙用柔軟剤を含有する紙は抄紙工程のいずれかの段階で上記紙用柔軟剤を抄紙材料に添加することにより製造される。
【0027】
紙用柔軟剤はパルプ100重量部に対して0.03〜8重量部添加することが好ましく、0.10〜4重量部添加することが更に好ましい。0.03重量部未満の添加では柔軟性の向上が十分でなく、8重量部以上添加しても柔軟性の向上効果が鈍くなる。
【0028】
使用するパルプの種類は特に限定されない。例えば化学パルプ(針葉樹または広葉樹の晒しまたは未晒しのクラフトパルプ等)、機械パルプ(グランドパルプ、サーモメカパルプ、ケミサーモメカパルプ等)、脱墨パルプ(新聞や雑誌の古紙等)等が使用でき、これらを単独で使用しても混合して使用しても良い。
【0029】
紙用柔軟剤の添加は抄紙工程のいずれの段階で行なっても良い。例えば、ミキシングチェスト、マシンチェスト、種箱等の工程で紙用柔軟剤を内部添加する方法をとることができる。パルプと水とを含む混合物(例えばパルプスラリー)中にこの紙用柔軟剤および必要に応じて他の添加剤を添加し、得られた混合物を用いて通常の方法により抄造を行なうことにより、製造工程の煩雑化を招かずに紙用柔軟剤を含有する紙を製造できる。この抄造方法は特に限定されず、長網抄紙機、ツインワイヤー機、ヤンキー機等あらゆる抄紙機が使用できる。
【実施例】
【0030】
本発明を実施例および比較例により更に具体的に説明する。なお、シート強度の評価は裂断長により行った。裂断長とは、紙の一端を固定懸垂した際、自重で切れるときの長さをあらわしたものである。紙の強度は、裂断長が大きいほど強くなる。
【0031】
〔紙用柔軟剤の製造例〕
【0032】
まず、式(1)化合物の合成例、および紙用柔軟剤を使用した紙の製造例を示す。
【0033】
(紙用柔軟剤の合成)
【0034】
本発明の式(1)で示される化合物の例として化合物a−1〜a−8およびその比較対象となる化合物a−9〜a−12を合成した。これら化合物の詳細については表1に示している。
【0035】
・合成例(a−1)
【0036】
表1に示したアミンと脂肪酸を用いて化合物a−1を下記に示す方法で合成した。この化合物a−1は、式(1)中のオキシエチレン基(EO)の総数m1+m2+m3が18、オキシアルキレン基(AO)の総数n1+n2+n3が0(なし)、アシル基(X、X、X)としてラウリン酸(炭素数12)由来物で示される。
【0037】
攪拌機、冷却管、温度計および窒素導入管を備えた1リットル容量の4つ口フラスコにラウリン酸300.5g(1.5モル)、トリエタノールアミン(TEA)のエチレンオキシド(EO)15モル付加物450.4g(0.56モル)、およびパラトルエンスルホン酸3.75g(仕込み総重量に対して0.5重量%)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら220℃まで昇温し、生成水を反応系外へ除去しながら10時間反応させ、水酸基価14.5の化合物a−1を得た。
【0038】
ここでトリエタノールアミンのエチレンオキシド15モル付加物の水酸基価は207.6であり、その仕込み量が450.4gであるので、反応前の水酸基価は、
反応前の水酸基価=207.6×450.4/(300.5+450.4+3.75)
=123.9
である。したがって、このときのエステル化率は、
【0039】
エステル化率[%]=(1−14.5/123.9)×100=88.3
である。
【0040】
・合成例(a−2〜a−8)、比較例(a−9〜a−12)
【0041】
表1に示す化合物を用い、化合物a−1の合成と同様に反応させ、合成例(a−2〜a−8)、比較例(a−9〜a−12)を得た。ここで化合物a−6、a−12についてはオキシアルキレン基(AO)を付加させる為オキシプロピレン基(PO)を用いた。また化合物a−4は原料アミンとしてオキシアルキレン基(AO)を含むトリイソプロパノールアミン(TIPA)を用いているため、n1+n2+n3が3となる。
【0042】
また、化合物a−9はアシル基(X、X、X)として炭素数6であるカプロン酸残基を使用しているため式(1)で示される化合物の要件を満たさない。化合物a−10はエステル化率が42.9であるため式(1)で示される化合物の要件を満たさない。化合物a−11はオキシエチレン基(EO)の総数m1+m2+m3が39であり式(1)で示される化合物の要件を満たさない。化合物a−12は同じくm1+m2+m3が1であり式(1)で示される化合物の要件を満たさない。
【0043】
【表1】

【0044】
(紙用柔軟剤の製造)
【0045】
1リットル容量のビーカーにイオン交換水716.3g、化合物a−1を80.0gおよび酢酸3.7gを仕込み、70℃に昇温し、ホモミキサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて5000rpmで5分間攪拌し、紙用柔軟剤1の10重量%分散液を調製した。このときの式(1)で示される化合物に対する酸の当量(以下中和当量とする)は1.0である。
【0046】
調製例1と同様にして、表2に記載の紙用柔軟剤と、酸とを用いて紙用柔軟剤2〜12の10重量%分散液を調製した。
【0047】
(紙の製造例)
【0048】
フリーネスが400mlであるLBKP(広葉樹晒パルプ)を離解機(熊谷理研株式会社製)で離解し、パルプを1質量%含有するパルプスラリーを調製した。このパルプスラリーを200ml容量のビーカーに100.0g(パルプ質1.0g)入れ、紙用柔軟剤1の分散液を0.05g(有効成分として対パルプ0.5質量%)添加して、外径4.5cmのタービン羽根により、250rpmで1分間攪拌した。この攪拌後のスラリーを、TAPPIスタンダードマシン(安田精機株式会社製)により抄紙し、油圧プレス機(安田精機株式会社製)により0.35MPaで5分間プレスした後、ドラム式ドライヤー(安田精機株式会社製)により105℃で2分の乾燥を行い、坪量50g/mの紙を製造した。この紙を温度23℃、湿度50%に調節した恒温恒湿室に17時間入れ、調湿した。
【0049】
この調湿後の紙を以下単にシートと呼び、上記工程において紙用柔軟剤1〜12の分散液を使用して製造したシートをそれぞれシート1〜12とする。
【0050】
また、ブランクとして紙用柔軟剤を添加していないシートを製造した。これをシート0とする。
【0051】
〔評価方法および評価結果〕
続いて、紙用柔軟剤および紙用柔軟剤を含有する紙の評価方法および評価結果を説明する。
【0052】
(評価方法)
【0053】
・柔軟性評価(曲げ剛度)
【0054】
曲げ剛度を以下のように測定した。直径158mmの円形のシートを任意の方向に曲げるときの曲げ強度を、純曲げ試験機(カトーテック株式会社製KES−FB2)にて測定する。次に先の折り曲げ方向と直行する方向に曲げたときの曲げ強度を、純曲げ試験機(カトーテック株式会社製KES−FB2)にて測定する。これら2方向の曲げ強度の平均値を求め、以下の基準で評価した。
【0055】
点数 曲げのしなやかさ
4.41×10−5N・m/m未満 柔軟性良好 ○
4.41×10−5N・m/m以上 柔軟性不十分 ×
【0056】
なお、女性評価者10人による官能性評価の結果、7名以上が4.41×10−5N・m/m未満のシートを柔軟であると評価したため、上記のように4.41×10−5N・m/mを基準として柔軟性を評価した。
【0057】
・柔軟性評価(容量)
【0058】
シート1〜12の坪量をJIS P 8124に従って測定した。また、シート1〜12の厚さをJIS式紙測定機(シチズン時計株式会社製、MEI−10)により測定した。このときシート一枚あたり10箇所の厚みを測定し、その平均値を同シートの厚さとした。この坪量と厚さより次式のようにシート容量を算出した。
容量[cm/g]=厚さ[μm]/坪量[g/m]
この容量により柔軟性を以下のように評価した。
【0059】
1.60cm/g以上 柔軟性良好 ○
1.60cm/g未満 柔軟性不十分 ×
【0060】
・シート強度
【0061】
各シートより120×15mmの試験片を3枚ずつ裁断する。この試験片を両端から引張ることにより破断するまでの引張り強度を引張圧縮試験機(株式会社今田製作所製SV−201−0−SH)でJIS P 8113に準じて測定し、以下の式より裂断長を計算した。
【0062】
裂断長(km)=(引張り強度×1000)/(9.81×試験片の幅(mm)×試験片の坪量(g/m2))
3枚の試験片について同じ操作を行い、平均値を求めた。
【0063】
更に各シートの裂断長をシート0(ブランク)の断裂長で除してその比を求め、以下の基準で紙の強度を評価した。
【0064】
80%以上 紙の強度良好 ○
80%未満 紙の強度不十分 ×
【0065】
(評価分析)
以上の評価方法を用いた評価の結果を表2に示す。表2および前出の表1より以下のことが確認できる。
【0066】
【表2】

【0067】
(1)本発明に係る紙用柔軟剤の効果の確認
【0068】
本発明に係る紙用柔軟剤を使用した実施例(シート1〜8)は、柔軟性、紙強度がいずれも良好(○)である。このことより、本発明にかかる紙用柔軟剤は紙強度の低下を抑制しつつ紙に柔軟性を付与することが判る。
【0069】
更に詳細に述べると、以下のことが確認できる。
【0070】
・飽和脂肪酸であるラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸由来のアシル基であっても、不飽和脂肪酸であるオレイン酸由来のアシル基であっても、更に混合脂肪酸である椰子油脂肪酸由来のアシル基であっても、柔軟性、紙強度がいずれも良好(○)であることより、炭素数が10〜24であれば、いずれの脂肪酸も使用することができることが判る。
【0071】
・アルキレン基(AO)の総数(n1+n2+n3)が0〜3であれば、その種類は紙用柔軟剤の効果に特に影響をおよばさない。
【0072】
・中和用の酸の種類は酢酸であっても(シート1、2、4、6、7、8)、蟻酸であっても(シート3)紙用柔軟剤の効果に特に影響をおよばさない。また酸を使用しなくても紙用柔軟剤の効果に特に影響をおよばさない。すなわち、式(1)で示される化合物が酸により中和された塩であれ、式(1)で示される化合物自体であれ、いずれかが必要量紙用柔軟剤中に含まれておれば、効果に差がないことが推認される。
【0073】
但し酸を用いる事により紙用柔軟剤の分散液を調整することが容易となる。
【0074】
(2)実施例と比較例との効果の比較
【0075】
・式(1)で示される化合物のアシル基(X、X、X)の炭素数が10以下であると、柔軟性が不十分(×)となることがシート9の柔軟性評価より判る。よって、式(1)で示される化合物のアシル基(X、X、X)の炭素数は10〜24であることが好ましい。
【0076】
・式(1)で示される化合物のエステル化率が60%未満であるとであると柔軟性が不十分(×)となることがシート10の柔軟性評価より判る。よっては式(1)で示される化合物のエステル化率が60%以上であることが好ましい。
【0077】
・式(1)で示される化合物のオキシエチレン基(EO)の総数m1+m2+m3が5未満であると、紙の強度が不十分(×)となることがシート12の紙強度評価より判る。また、同総数m1+m2+m3が30を超えると、柔軟性が不十分(×)となることがシート11の柔軟性評価より判る。よって式(1)で示される化合物のオキシエチレン基(EO)の総数m1+m2+m3は5≦m1+m2+m3≦30であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、紙の強度低下を抑制しつつ紙に柔軟性を付与することができる紙用柔軟剤が提供される。同柔軟剤を用いて製造された紙は、新聞用紙、記録用紙、包装用紙、板紙、ライナー、中芯などのダンボール用紙、壁紙、襖紙原紙や裏打ち紙などの紙製品、トイレットペーパー、ティシュペーパー等の衛生紙など広く利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される化合物を有する紙用柔軟剤。
[化1]
/(EO)m1(AO)n1−X
N−(EO)m2(AO)n2−X ・・・(1)
\(EO)m3(AO)n3−X
(式(1)中−X、X、Xは炭素数10〜24のアシル基または水素原子である。EOはオキシエチレン基である。AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基である。前記オキシエチレン基および前記オキシアルキレン基はブロック状またはランダム状である。式(1)のエステル化率は60〜100%である。
またm1≧1、m2≧1、m3≧1であり、かつ5≦m1+m2+m3≦30である。
更に0≦n1+n2+n3≦3である。)
【請求項2】
請求項1に記載の化合物の全部または一部に換えて、前記化合物が酸により中和された塩を有する紙用柔軟剤。

【公開番号】特開2009−41156(P2009−41156A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210434(P2007−210434)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】