説明

紙葉類分離装置

【課題】
フィードローラに対するゲートローラのオーバーラップ量を設定するには特殊な工具等が必要となるため、生産性が悪くコストアップに繋がっていた。
【解決手段】
複数枚積層された紙葉類に接触することによって生じる摩擦力で前記紙葉類を1枚ずつ繰り出す第1の搬送ローラと、この第1の搬送ローラに所定の圧力で前記紙葉類を押し付ける押板と、前記第1の搬送ローラで繰り出された紙葉類を下流側に搬送するため、回転軸方向に複数個設けられた第2の搬送ローラと、この第2の搬送ローラに対し僅かにオーバーラップして設けられた無回転ローラとを備えた紙葉類分離装置において、前記第2の搬送ローラ間に回転自在に第3の搬送ローラを設け、この第3の搬送ローラに対して前記無回転ローラを当接して前記無回転ローラの前記第2のローラに対するオーバーラップ量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙葉類分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の分離装置として、例えば、特開平9−180021号公報がある。この従来例に示された紙葉類分離機構は、紙葉類に搬送力を与えるフィードローラと、二重分離搬送を防ぐために紙葉類に搬送抵抗力を与えるゲートローラが互いに圧接される圧接分離方式と呼ばれる分離装置である。
【0003】
他の分離装置としては、フィードローラとゲートローラが互いに入れ子の状態で配置され、半径方向にオーバーラップさせてギャップを形成し、紙葉類の変形力を利用するオーバーラップ分離方式(ギャップ方式とも呼ばれる)がある。
【0004】
【特許文献1】特開平9−180021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来例の圧接分離方式の紙葉類分離機構は、後述のオーバーラップ式分離機構のように、紙葉類を変形させることなく繰り出すことができるため、多様な厚さや剛性の紙葉類を繰り出すことが可能である。
【0006】
しかしながら、フィードローラとゲートローラは圧接状態となっているため、分離部へ紙葉類が侵入する際に作用する抵抗力は大きい。したがって、この圧接状態を押し開くためには、束状に積層された紙葉類に大きな加重をかけて押し込むことになるので、表面の紙葉類のみならず、その下の紙葉類にまで加重が加わり、複数枚の紙葉類を分離してしまう可能性があった。
【0007】
また、フィードローラはゲートローラに接触した状態で回転するためにゲートローラが摩耗してしまうという問題や、フィードローラとゲートローラの軸位置が固定されているので、所定の厚さ以外の紙葉類を分離することができないという問題がある。このような問題があることから、圧接分離方式は一定の厚み紙しか用いないプリンターに採用するのが一般的である。
【0008】
そこで、圧接分離方式に代えてゲートローラをフィードローラ間にオーバーラップさせる、オーバーラップ方式をこのプリンターに採用するには、組立時におけるオーバーラップ量の調整が極めて困難であり、高度な調整技術を要することから製造コストアップに繋がるとう問題があり、安価が要求されるプリンターには不向きである。
【0009】
本発明の目的は、フィードローラとゲートローラのオーバーラップ量を簡単に調整可能な紙葉類分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、複数枚積層された紙葉類に接触することによって生じる摩擦力で前記紙葉類を1枚ずつ繰り出す第1の搬送ローラと、この第1の搬送ローラに所定の圧力で前記紙葉類を押し付ける押板と、前記第1の搬送ローラで繰り出された紙葉類を下流側に搬送するため、回転軸方向に複数個設けられた第2の搬送ローラと、この第2の搬送ローラに対し僅かにオーバーラップして設けられた無回転ローラとを備えた紙葉類分離装置において、前記第2の搬送ローラ間に回転自在に第3の搬送ローラを設け、この第3の搬送ローラに対して前記無回転ローラを当接して前記無回転ローラの前記第2のローラに対するオーバーラップ量が決定されることにより達成される。
【0011】
また、上記目的は、前記第3の搬送ローラは前記第2の搬送ローラに比べて小径であることにより達成される。
【0012】
また、上記目的は、前記無回転ローラを柔軟部材で成形したことにより達成される。
【0013】
また、上記目的は、前記無回転ローラを柔軟部材で成形し、前記無回転ローラの中心部と外表面との間に中空部を形成したことにより達成される。
【0014】
また、上記目的は、前記無回転ローラを前記第3の搬送ローラに圧接させたことにより達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、フィードローラとゲートローラのオーバーラップ量を簡単に調整可能な紙葉類分離装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明が適用される金融機関等の現金自動取引装置について説明する。
図1は現金自動取引装置の一例を示す斜視図である。
図1において、現金自動取引装置90は、紙幣を処理する紙幣取扱手段91と、硬貨を処理する硬貨取扱手段92と、利用客が現金自動取引装置90に、取引に必要な情報を入力して現金自動取引装置90から利用客に操作案内および取引項目を表示する表示操作部93と、通帳記帳等の処理を行う通帳取扱手段94と、利用客の取引媒体であるキャッシュカード等の情報の読み取り、書き込み、および取引明細票の発行処理を行うカード伝票取扱手段95と、取引項目を表示する案内表示部96と、各取引手段の制御を行う制御部97を備えている。この現金自動取引装置90が扱う紙葉類は紙幣であり、紙幣取扱手段91には以下に説明する紙幣を装置内へ供給するための紙幣分離装置を備えている。
【0017】
図2は、紙幣分離装置の要部側面図である。
図2において、まず、モータ(図示せず)により押板26をピックアップローラ22(第1の搬送ローラ)側(矢印イ方向)へ動かすことによってガイド27上に積載された紙幣1をピックアップローラ22へ所定の押圧力で押し付ける。この押圧力によりピックアップローラ22と紙幣1の間で摩擦力が発生する。ピックアップローラ22は矢印ロの方向に回転し、摩擦部22aによって紙幣1束の先頭紙幣1枚若しくは複数枚が繰り出される。繰り出された紙幣1は、フィードローラ23(第2の搬送ローラ)とゲートローラ24(無回転ローラ)で構成される分離部Aへ到達する。分離部Aに到達した紙幣1は,フィードローラ23とゲートローラ24に押し付けられた状態となり、その状態でフィードローラ23を矢印ハの方向へ回転すると、摩擦部23aと紙幣の間の摩擦力によって紙幣はそのまま繰り出され、停止しているゲートローラ24に接触している紙幣は滞留するので、紙幣は1枚だけ分離されて矢印二の方向へ搬送される。
【0018】
さて、図2で説明した紙幣分離装置のフィードローラ23とゲートローラ24がオーバーラップ方式である。このオーバーラップ方式とプリンタ等に搭載されている圧接方式とを比較して説明するために、図3に圧接方式、図4にオーバーラップ方式を示す。
【0019】
図3の(a)〜(c)は、圧接方式の構成を説明する概略図である。
図4の(a)〜(b)は、オーバーラップ方式を説明する概略図である。
図3において、ゲートローラ軸24sにはばね25を設置されているので、ゲートローラ24とフィードローラ23は圧接状態となっている。ゲートローラ24とフィードローラ23との間に紙幣が侵入すると、図3(b)のように紙幣1がばね25のばね力に抗してゲートローラ24は押し下げられる。紙幣1はフィードローラ23及びゲートローラ24に押し付けられるので、紙幣1は図3(c)ように分離される。
【0020】
この方式であると、上述したように、フィードローラとゲートローラは圧接状態になっているため用紙がフィードローラとゲートローラとの間に入り込むためには圧接関係を押し広げてなくてはならないため、その分用紙の分離力が高めなくてはならないことが分かる。したがって、用紙束の先頭1枚だけを分離したいにもかかわらず、押し付け力が強いため、2枚目、3枚目までも同時に分離してしまうという問題が発生してしまう。
【0021】
一方、図4において、複数あるフィードローラ23の隙間にゲートローラ24が入り込んだ状態(本明細書ではオーバーラップと表現)となっている。これは、フィードローラ23とゲートローラ24との間に隙間をつけてやることによって紙幣が入り込みやすくすることと、紙幣じたいに剛性をつけてやることにある。
【0022】
すなわち、フィードローラ23とゲートローラ24との間に隙間をつけておけば、ピックアップローラ22で紙幣1の先頭1枚だけを分離するときの押し圧力が少なくてすむので2枚目の紙幣まで繰り出してしまうことがなくなるものである。尚、外的要因で二重分離が発生する場合はあるが、現実にはほとんど問題なく分離されている。
【0023】
ところで、二重分離の発生がないオーバーラップ方式を図3に示した分離に採用することも考えられるが、オーバーラップ量管理のために、複雑な調整機構、および工程が必要になり、またローラの外形寸法も精度よく仕上げなければならないことから、製作コストが上昇し、低価格が要求されるプリンタにオーバーラップ方式を採用したものは現在存在していない。
【0024】
そこで、以下に記載した実施例ではオーバーラップ量の設定を容易にするとともに、厚さが異なる紙幣以外の紙葉類にも対応可能な分離装置の構成を説明したものである。
【実施例1】
【0025】
本発明の第1の実施例を、図5を参照して説明する。
図5(a)、(b)、(c)は、それぞれ、本発明の一実施例を備えたフィードローラとゲートローラの斜視図、側面図、正面図である。
図5(a)において、フィードローラ23は、回転軸23cに複数個取り付けられている。このフィードローラ23の外周の一部にはゴムなどによる高摩擦係数部23aが設けられており、この高摩擦係数部23aで紙葉類の分離を行う。複数のフィードローラ23の間にはフィードローラ23の直径より小さい直径であり、少なくとも分離方向に対して回転自由なオーバーラップ量基準ローラ23bが取り付けられている。この回転自由なオーバーラップ量基準ローラ23bには回転しないゲートローラ24が圧接するように配置されている。
【0026】
図5(b)において、フィードローラ23は矢印で示すように反時計方向に回転すると、紙幣(図示せず)とフィードローラ23の高摩擦部23aとが擦れ合うことによって分離する一方、回転しないゲートローラ24突き当たった重合紙幣は分離されない。
【0027】
図5(c)は、図5(b)を正面から見た図であり、ゲートローラ24とオーバーラップ量基準ローラ23bとが接触していることが分かる。
【0028】
本実施例によれば、分離装置の製造段階においてゲートローラ24をフィードローラ23間にラップさせるとき、所定深さの径にオーバーラップ量基準ローラ23b径を設定されているので、ゲートローラ24はオーバーラップ量基準ローラ23bに突き当てるだけで簡単に設定できるという効果を奏する。本実施例の場合、そのオーバーラップ量は0.32mmに設定してある。
【0029】
ところで、ゲートローラ24のオーバーラップ量が設定された後はオーバーラップ量基準ローラ23bを取り外しても構わないが、そのまま取り付けておくことによってゲートローラ24の磨耗防止の効果がある。
【0030】
すなわち、回転しないゲートローラ24の特定部分に対して紙葉類が接触しながら常に通過しているため、その特定部分が磨耗してくるという問題は避けられない。そこで、ゲートローラ24の磨耗量を予め予測しておき、その磨耗量分だけゲートローラ24をオーバーラップ量基準ローラ23bに圧接しておけば、仮にゲートローラ24が磨耗したとしてもゲートローラ24に対する紙葉類に接触位置が変わらないので
【実施例2】
【0031】
図6は、ゲートローラの斜視図である。
図6において、上述したように、金融機関等に設置されている現金自動取引装置は、紙幣以外の紙葉類を流すことはあり得ないため、ゲートローラ24は硬質材で形成されている。しかしながら、今後現金自動取引装置の多用途化を考慮すると紙幣以外の紙葉類(例えば海外紙幣、株券、有価証券など)も取り扱うようになることが予想される。その場合、紙葉類の厚みや硬さが異なるため、ゲートローラ24が硬質であると紙葉類によっては硬質のゲートローラ24に馴染まないものが発生する可能性がある。lそこで、本実施例では、図6に示すようにゲートローラ24を柔軟性部材で形成し、紙葉類の材質や厚みに応じて撓みやすくしたものである。24aは支持部24bと外周部24cとを連結する部材である。
【0032】
これにより、例えば厚い紙葉類がゲートローラ24の外周部24cに接触する連結部材24aが撓んで厚みを吸収することができる。なお、軟質材として発泡性部材を用いることとしてもよい。
【0033】
図7(a)(b)は、本分離機構により紙幣が分離される様子を示す図である。
図7(a)において、分離部に突入した紙幣1は、紙幣1は波型に変形している。
【0034】
図7(b)において、図6に示した柔軟なゲートローラ24は楕円形に変形するので、厚い紙葉類が分離部分に突入してもスムーズに侵入することが可能である。また、このゲートローラ24は適度な柔軟性を有するため、様々な厚さの紙幣を分離することが可能である。また、図7(a)のように紙幣が変形することにより、上述のオーバーラップ方式と同様に紙幣を分離することが可能である。
【0035】
以上のごとく、本発明による分離装置では、装置の組立時、ゲートローラ24が回転自由であるローラ23bを接触させることでフィードローラ23とゲートローラ24の間のオーバーラップ量が決定するため、その微調整が不要となる。また、ゲートローラ24に対向するオーバーラップ量基準ローラ23bも回転するようにしたため、ゲートローラ24の摩耗を抑制することができる。さらにゲートローラ24が、柔軟な部材でできているため、どのような厚さの紙幣にも対応し分離することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の適用例である現金自動取引装置の一例を示す斜視図である
【図2】本発明に係わる紙幣分離装置2の構成と分離動作を示す図である
【図3】従来の圧接分離方式を表す図である
【図4】従来のオーバーラップ分離方式を表す図である
【図5】本発明の第一の実施例を表す図である
【図6】本発明におけるゲートローラを表す図である
【図7】本発明の分離機構により紙幣が分離される様子をしめす図である
【符号の説明】
【0037】
90…現金自動取引装置、91…紙幣取扱手段、92…硬貨取扱手段、93…表示操作部、94…通帳取扱手段、95…カード伝票取扱手段、96…案内表示部、97…制御部、1…紙幣、2…紙幣分離装置、22…ピックアップローラ、23…フィードローラ、23a…搬送ローラ、23b…オーバーラップ量基準ローラ、24…ゲートローラ、イ…紙幣分離時の押板の移動方向、ロ…紙幣分離時のピックアップローラの回転方向、ハ…紙幣分離時のフィードローラの回転方向、二…紙幣分離方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚積層された紙葉類に接触することによって生じる摩擦力で前記紙葉類を1枚ずつ繰り出す第1の搬送ローラと、この第1の搬送ローラに所定の圧力で前記紙葉類を押し付ける押板と、前記第1の搬送ローラで繰り出された紙葉類を下流側に搬送するため、回転軸方向に複数個設けられた第2の搬送ローラと、この第2の搬送ローラに対し僅かにオーバーラップして設けられた無回転ローラとを備えた紙葉類分離装置において、
前記第2の搬送ローラ間に回転自在に第3の搬送ローラを設け、この第3の搬送ローラに対して前記無回転ローラを当接して前記無回転ローラの前記第2のローラに対するオーバーラップ量が決定されることを特徴とする紙葉類分離装置。
【請求項2】
請求項1記載の紙葉類分離装置において、
前記第3の搬送ローラは前記第2の搬送ローラに比べて小径であることを特徴とする紙葉類分離装置。
【請求項3】
請求項1記載の紙葉類分離装置において、
前記無回転ローラを柔軟部材で成形したことを特徴とする紙葉類分離装置。
【請求項4】
請求項3記載の紙葉類分離装置において、
前記無回転ローラを柔軟部材で成形し、前記無回転ローラの中心部と外表面との間に中空部を形成したことを特徴とする紙葉類分離装置。
【請求項5】
請求項1若しくは3のいずれかに記載の紙葉類分離装置において、
前記無回転ローラを前記第3の搬送ローラに圧接させたことを特徴とする紙葉類分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−327797(P2006−327797A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156546(P2005−156546)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】