説明

紙葉類疲労判別装置、紙幣処理装置、紙葉類疲労判別方法

【課題】装置の大型化やコストの増大を回避又は抑制しながら、紙幣の新旧を正確に判別できる紙葉類疲労判別装置、紙幣処理装置及び紙葉類疲労判別方法を提供する。
【解決手段】集音制御部は、所定位置を通過する紙幣から発せられる音の集音動作をマイクロホンに行わせ、サンプリング部は、マイクロホンの出力信号を一定の周期でサンプリングする(♯12)。振幅差算出部は、各サンプリングデータについて、1つ前及び1つ後のサンプリングデータとのデータ値の差をそれぞれ第1振幅差及び第2振幅差として算出する(♯14)。プロット部は、前記第1,第2振幅差をX軸,Y軸とする2次元座標系に、各サンプリングデータについての第1,第2振幅差をX,Y座標とする点をプロットし(♯15)、座標系変換部は、各プロット点の分布を極座標系で表した分布に変換する(♯16)。判定部は、このプロット点の分布に基づいて紙幣の疲労状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労した紙幣を検出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動販売機、遊技場での遊技媒体貸出機、券売機、両替機等の各種用途において、複数金種の紙幣の取込み、収納及び紙幣の払出しが可能な紙幣処理装置は種々知られている。この種の紙幣処理装置において、下記特許文献1〜5には、疲労した紙幣を検出する技術が提案されている。
【0003】
下記特許文献1には、搬送路を紙葉類が通過するときに発生する通過音を集音し、集音した通過音の電気信号を低周波成分と高周波成分とに分離して、低周波成分があるときの高周波成分のパルス数に基づいて紙葉類の正損を判定する技術が開示されている。
【0004】
下記特許文献2には、紙幣を屈曲させたときに発生した音の周波数成分のうち紙幣に固有の周波数成分の強弱に基づいて、正券及び損券の判別を行う技術が開示されている。
【0005】
下記特許文献3には、紙幣を打撃したときに発生した音の周波数成分のうち紙幣に固有の周波数成分の強弱に基づいて、正券及び損券の判別を行う技術が開示されている。
【0006】
また、下記特許文献4には、紙幣を屈曲させたときに発生する音に含まれる雑音のレベルに基づいて紙葉の剛性を測定する装置が、下記特許文献5には、貨幣や有価証券を打撃したときの音を集音し、その集音した音の周波数成分をフーリエ展開し、最も多い周波数成分によって、その真贋を識別する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−53602号公報
【特許文献2】特開昭61−169983号公報
【特許文献3】特開昭61−168084号公報
【特許文献4】特開昭58−86436号公報
【特許文献5】特開2000−251108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記各引用文献1〜5の技術にあっては、周波数の分析や雑音成分の抽出処理等を要し、これらの処理を行うべく相応の回路部品が必要となって装置の大型化やコストの増大を招来する。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みて為された発明であり、装置の大型化やコストの増大を回避又は抑制しながら、紙幣の疲労状態を正確に判別できる紙葉類疲労判別装置、紙幣処理装置及び紙葉類疲労判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、紙葉類の搬送中に発せられる音に応じた信号をサンプリングデータとして複数回サンプリングするサンプリング部と、前記各サンプリングデータと当該サンプリングデータより前にサンプリングされた所定のサンプリングデータとのデータ値の差、及び、前記各サンプリングデータと当該サンプリングデータより後にサンプリングされた所定のサンプリングデータとのデータ値の差を、それぞれ第1及び第2振幅差として算出する振幅差算出部と、1つのサンプリングデータについて算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータを予め定められた座標系にプロットし、プロットされたデータの分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別する判別部とを備える紙葉類疲労判別装置である。
【0011】
請求項7に記載の発明は、サンプリング部が、紙葉類の搬送中に発せられる音に応じた信号をサンプリングデータとして複数回サンプリングするサンプリングステップと、振幅差算出部が、前記各サンプリングデータと当該サンプリングデータより前にサンプリングされた所定のサンプリングデータとのデータ値の差、及び、前記各サンプリングデータと当該サンプリングデータより後にサンプリングされた所定のサンプリングデータとのデータ値の差を、それぞれ第1及び第2振幅差として算出する算出ステップと、判別部が、1つのサンプリングデータについて算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータを予め定められた座標系にプロットし、プロットされたデータの分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別する判別ステップとを有する紙葉類疲労判別方法である。
【0012】
本発明者は、請求項1,7に記載の発明のように、各サンプリングデータと当該サンプリングデータの前後にそれぞれサンプリングされた所定のサンプリングデータとのデータ値の差をそれぞれ第1及び第2振幅差として算出し、1つのサンプリングデータについて算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータを予め定められた座標系にプロットして得た分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別することで、紙葉類の疲労状態を正確に判別できるという知見を得た。
【0013】
その際、請求項1,7に記載の発明においては、従来技術のように、周波数の分析や雑音成分の抽出処理等の装置の大型化やコストの増大を招来する処理ではなく、前記第1及び第2振幅差の演算及びこれらの振幅差から構成される一組のデータの前記予め定められた座標系における分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別するため、比較的簡単な演算や処理で前記紙葉類の疲労状態を判別することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の紙葉類疲労判別装置において、前記判別部は、前記第1振幅差と第2振幅差とをそれぞれ座標軸として設定される2次元座標系に、前記各サンプリングデータについてそれぞれ算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータをプロットし、前記2次元座標系にプロットされたデータの分布を、前記予め定められた座標系としての極座標系で表した分布に変換し、前記極座標系にプロットされたデータの分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別するものである。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の紙葉類疲労判別方法において、前記判別ステップは、前記判別部が、前記第1振幅差と第2振幅差とをそれぞれ座標軸として設定される2次元座標系に、前記各サンプリングデータについてそれぞれ算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータをプロットするステップと、前記判別部が、前記2次元座標系にプロットされたデータの分布を、前記予め定められた座標系としての極座標系で表した分布に変換するステップと、前記判別部が、前記極座標系にプロットされたデータの分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別するステップとを有するものである。
【0016】
請求項2,8に記載の発明によれば、前記2次元座標系に各サンプリングデータについてそれぞれ算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータをプロットして得られる分布を極座標系で表した分布に変換し、この分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別するようにしたので、比較的簡単な演算や処理で前記紙葉類の疲労状態を判別することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の紙葉類疲労判別装置において、前記判別部は、前記第1振幅差と第2振幅差とをそれぞれ座標軸として設定される、前記予め定められた座標系としての2次元座標系に、前記各サンプリングデータについてそれぞれ算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータをプロットし、前記2次元座標系にプロットされたデータの分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別するものである。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項7に記載の紙葉類疲労判別方法において、前記判別ステップは、前記判別部が、前記第1振幅差と第2振幅差とをそれぞれ座標軸として設定される、前記予め定められた座標系としての2次元座標系に、前記各サンプリングデータについてそれぞれ算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータをプロットするステップと、前記判別部が、前記2次元座標系にプロットされたデータの分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別するステップとを有するものである。
【0019】
請求項3,9に記載の発明によれば、前記2次元座標系に、前記各サンプリングデータについてそれぞれ算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータをプロットして得られる分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別するようにしたので、比較的簡単な演算や処理で前記紙葉類の疲労状態を判別することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の紙葉類疲労判別装置において、前記判別部は、前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出し、各分割領域についてそれぞれ検出されたデータの数を、分割領域ごとに複数の疲労状態に対応させて予め定められた複数の基準値のうち当該分割領域に対応する複数の基準値と比較し、前記検出されたデータの数が前記比較対象の複数の基準値の中で最も近い基準値に対応する疲労状態を、当該紙葉類の疲労状態として判別するものである。
【0021】
請求項10に記載の発明は、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の紙葉類疲労判別方法において、前記判別ステップは、前記判別部が、前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出するステップと、前記判別部が、各分割領域についてそれぞれ検出されたデータの数を、分割領域ごとに複数の疲労状態に対応させて予め定められた複数の基準値のうち当該分割領域に対応する複数の基準値と比較し、前記検出されたデータの数が前記比較対象の複数の基準値の中で最も近い基準値に対応する疲労状態を、当該紙葉類の疲労状態として判別するステップとを有するものである。
【0022】
請求項4,10に記載の発明によれば、前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出し、各分割領域についてそれぞれ検出されたデータの数を、分割領域ごとに複数の疲労状態に対応させて予め定められた複数の基準値のうち当該分割領域に対応する複数の基準値と比較し、前記検出されたデータの数が前記比較対象の複数の基準値の中で最も近い基準値に対応する疲労状態を、当該紙葉類の疲労状態として判別するようにしたので、比較的簡単な演算や処理で前記紙葉類の疲労状態を判別することができる。
【0023】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の紙葉類疲労判別装置において、前記判別部は、予め用意された複数の境界設定用紙葉類について、前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出し、前記各分割領域におけるデータの数をそれぞれ座標軸として設定された判定用座標系において、前記各分割領域におけるデータ数を示す座標をそれぞれ求め、この求められた前記判定用座標系上での座標のうち複数の座標を境界導出用の座標として設定し、境界導出用の座標に基づいて境界を求めて、該境界により前記判定用座標系の領域を複数の領域に分割した後、判別対象の紙葉類について、前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出し、そのプロットされたデータの数に相当する前記判定用座標系上での座標を求め、該座標が、前記境界により分割されてなる複数の領域のうちどの領域に属するものであるかを検出し、その検出結果に基づいて当該紙葉類の疲労状態を判別するものである。
【0024】
請求項11に記載の発明は、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の紙葉類疲労判別方法において、前記判別ステップは、前記判別部が、予め用意された複数の境界設定用紙葉類について、前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出するステップと、前記判別部が、前記各分割領域におけるデータの数をそれぞれ座標軸として設定された判定用座標系において、前記各分割領域におけるデータ数を示す座標をそれぞれ求めるステップと、前記判別部が、この求められた前記判定用座標系上での座標のうち複数の座標を境界導出用の座標として設定するステップと、前記判別部が、境界導出用の座標に基づいて境界を求めて、該境界により前記判定用座標系の領域を複数の領域に分割するステップと、前記判別部が、その後、判別対象の紙葉類について、前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出するステップと、前記判別部が、そのプロットされたデータの数に相当する前記判定用座標系上での座標を求め、該座標が、前記境界により分割されてなる複数の領域のうちどの領域に属するものであるかを検出し、その検出結果に基づいて当該紙葉類の疲労状態を判別するステップとを有するものである。
【0025】
請求項5,11に記載の発明によれば、前記各分割領域におけるデータの数をそれぞれ座標軸として設定された判定用座標系において、前記各分割領域におけるデータ数を示す座標のうち複数の座標を境界導出用の座標として設定し、この境界導出用の座標に基づいて境界を求めるとともに、判別対象の紙葉類について検出された各分割領域におけるデータの数に相当する座標が、前記境界により分割された領域のうちどの領域に属するかに基づいて紙葉類の疲労状態を判別するようにしたので、正確に紙葉類の疲労状態を判別することができる。
【0026】
請求項6に記載の発明は、前記紙葉類は、紙幣であり、紙幣を投入する投入口と、前記投入口から投入された紙幣の疲労状態を判別する紙葉類疲労判別装置と、前記紙葉類疲労判別装置による判別結果に基づき、前記紙幣を疲労状態別に分別して収納する収納部とを備える紙幣処理装置において、前記紙葉類疲労判別装置を、請求項1乃至5の何れか一項に記載の紙葉類疲労判別装置とした紙幣処理装置である。
【0027】
この発明によれば、紙幣処理装置に紙葉類の疲労状態を判別する機能を搭載する場合に、該機能の搭載によって紙幣処理装置が大型化したりコストアップを招いたりするのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、紙葉類の疲労状態を正確に判別することができる。また、周波数の分析や雑音成分の抽出処理等の装置の大型化やコストの増大を招来する処理ではなく、前記第1及び第2振幅差の演算及びこれらの振幅差から構成される一組のデータの前記予め定められた座標系における分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別するようにしたので、比較的簡単な演算や処理で前記紙葉類の疲労状態を判別することができ、装置の大型化やコストの増大を招来するのを防止又は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る紙幣処理装置の一実施形態の内部構造を示す図である。
【図2】紙幣処理装置の一実施形態の内部構造を示す図である。
【図3】紙幣処理装置の外観を示す図である。
【図4】紙幣処理装置の外観を示す図である。
【図5】紙幣処理装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図6】サンプリング部によるサンプリング動作の説明図である。
【図7】プロット部による処理の説明図である。
【図8】プロット部による処理の説明図である。
【図9】全てのサンプリングデータについての2次元座標系におけるプロット点の分布の一例を示す図である。
【図10】(a)は、旧札の搬送中に発せられる音を集音したマイクロホンの出力信号(音信号)の信号波形を示し、(b)は、新札の搬送中に発せられる音を集音したマイクロホンの出力信号(音信号)の信号波形を示す図である。
【図11】極座標系をπ/2刻みで分割し、角度「0」〜「π/2」の分割領域1と、角度「π/2」〜「π」の分割領域2と、角度「π」〜「3π/2」の分割領域3と、角度「3π/2」〜「2π」の分割領域4との4つの分割領域を設定して、図9に示した2次元座標系における各プロット点を極座標系で表したときの分布を示した図である。
【図12】極座標系における旧札及び新札についてのプロット点の分布の態様例を示す図である。
【図13】基準値記憶部に記憶されているテーブルの一例である。
【図14】紙幣処理装置による入金時の紙幣の流れを示すフローチャートである。
【図15】紙幣の疲労状態識別処理の流れを示すフローチャートである。
【図16】紙幣の疲労状態識別処理の変形例の説明図である。
【図17】本発明に係る紙幣処理装置で、予め用意した所定枚数の紙幣の疲労状態を識別させる実験を行ったときの実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る紙幣処理装置の実施形態について説明する。図1,図2は、本発明に係る紙幣処理装置の一実施形態の内部構造を示し、図3,図4は、前記紙幣処理装置の外観を示している。
【0031】
図1〜図4に示すように、紙幣処理装置1は、後述する各ユニット2,3,4A〜4Cを収容可能とする所定の大きさの箱状に形成されたケーシング1aを有し、該ケーシング1aは、前面側(図1の右側)が開口した箱状のケーシング本体11と、このケーシング本体11の前面を塞ぐ扉12とを備えている。ケーシング1a前面の扉12の上部には、紙幣挿入用の開口14及び払出用の開口15が配設されている。
【0032】
前記ケーシング1aの内部には、最上部に位置する入出金用ユニット2と、最下部に位置するベースユニット3と、これらのユニット2、3の間に位置する一乃至複数段(図示の例では3段)の中間部ユニット4A〜4Cとが配備されている。各中間部ユニット4A〜4C及びベースユニット3には金種別に紙幣が収納され、例えば中間部ユニットのうちの上段のユニット4Aに千円札、中段のユニット4Bに五千円札、下段のユニット4Cに一万円札がそれぞれ収納され、ベースユニット3に疲労度の高い紙幣(後述する旧札)が収納される。
【0033】
さらに必要に応じ、いずれか1つもしくは複数の中間部ユニットの上方に紙幣収納スペース増量のための補助ユニット5が配置され、図示の例では中間部ユニット4Aの上に補助ユニット5が配置されている。
【0034】
入出金用ユニット2、ベースユニット3及び中間部ユニット4A〜4Cは、それぞれ相互に分離可能で、かつ、それぞれケーシング1aに対して着脱可能となっている。そして、各ユニット2,3,4A〜4Cの一側部にそれぞれ設けられた被支持部17が、ケーシング1aの一側部に設けられたスライドガイド16に、前後方向に摺動可能に結合されることにより、ケーシング1aに対して各ユニット2,3,4A〜4Cが個別に前方へ引出し可能な状態で片持ち状態に支持されている。
【0035】
また、図4に示すように、ケーシング1aの側部にはメインCPU基板101、サブCPU基板102等を含む制御基板部100及び電源部105が装備され、これら制御基板部100及び電源部105に対して各ユニット2,3,4A〜4Cが着脱可能なコネクタを介して電気的に接続されるようになっている。
【0036】
入出金用ユニット2は、挿入口20a及び払出口20bを備えたフレーム20内に、前記挿入口20aから紙幣を導入する紙幣導入機構21と、前記払出口20bへ紙幣を導出する紙幣導出機構23と、搬送機構29とを配備しており、挿入口20a及び払出口20bがケーシング1aの開口14,15から突出する状態でケーシング1a内の上部に収容されている。
【0037】
紙幣導入機構21は、挿入口20aの近傍に紙幣の真贋及び金種を識別する識別装置22を有するとともに、挿入口20aから識別装置22を介して取込んだ紙幣をユニット2の後方部下方向へ向かわせるように案内する紙幣導入路210を有し、さらに紙幣導入路210の上流側及び下流側に配置された送りローラ211,212,紙幣導入路210の途中に配設されたガイドローラ213等を備えている。ローラ211,212,213,214は、モータ215によりベルト等の伝動機構216を介して駆動される。
【0038】
紙幣導出機構23は、出金指令に応じて紙幣を払出口20bに払出す機構と、不正紙幣等をリジェクトする機構とを含んでおり、払出口20bに対応する高さ位置に配置した払出しリジェクト用送りベルト装置24と、このベルト装置24の上方のスペースで構成される一時貯留部25と、この一時貯留部25に紙幣を導く案内装置26と、紙幣をベルト装置24上の一時貯留部25に堆積させるためのプッシャー装置27と、前記ベルト装置24の下方のスペースに形成されたリジェクト室28とを備えている。なお、リジェクト室28の前面は扉280によって開放可能とされ、扉280には錠281が設けられている。
【0039】
ベースユニット3には、紙幣収納部31と、該紙幣収納部31の後方において紙幣の搬送を行う搬送機構32と、この搬送機構32の駆動源である搬送モータ33と、搬送機構32と紙幣収納部31との間で紙幣の取込み、繰出しを行う取込み繰出し機構34と、紙幣収納部31において紙幣の集積を行う紙幣集積機構35と、この紙幣集積機構35を駆動する駆動機構36とが設けられている。
【0040】
前記紙幣収納部31は、両側板、底板及び前面側の扉310(図2参照)等で構成され、内部に紙幣を集積状態で収納し得るスペースを有するように形成されている。前記扉310には錠311が設けられている。紙幣収納部31内には、所定高さ位置に紙幣支持テーブル312が設けられている。
【0041】
前記各中間部ユニット4A〜4Cは、同一構造を有し、それぞれ、紙幣収納部41と、この紙幣収納部41の後方において当該ユニットの上端から下端にわたる範囲で紙幣の搬送を行う搬送機構42と、この搬送機構42と紙幣収納部41との間で紙幣の取込み、繰出しを行う取込み繰出し機構44と、紙幣収納部41において紙幣の集積を行う紙幣集積機構45とを有する。
【0042】
前記紙幣収納部41は、ベースユニット3の紙幣収納部31と同様に、両側板、底板、前面側の錠411付の扉410(図2参照)等で構成されている。
【0043】
また、補助ユニット5には、その下方に位置するユニット4Aの紙幣収納部41に通じる収納スペース増量部51が形成されるとともに、その後方に搬送機構52が設けられている。この搬送機構52は、詳細な図示は省略するが、中間部ユニット4A〜4Cの搬送機構42と同様に、上下一対ずつのローラを備えるとともに、各ローラ軸に設けられたギヤ、上下各一方のローラ軸に設けられたプーリ間に掛け渡された伝動用ベルト、上部の一方のローラ軸に設けられたギヤに噛合する中間伝動ギヤを備えている。そして、各ローラが相互に連動するとともに、下段側のユニットから駆動力が伝達される一方、上段側のユニットに駆動力を伝達し得るようになっている。
【0044】
次に、図1〜図4に示した紙幣処理装置1の電気的な構成について説明する。図5は、紙幣処理装置1の電気的な構成を示すブロック図である。なお、図1〜図4に示す部材と同一の部材については同一の番号を付し、その説明を省略する。
【0045】
図5に示すように、紙幣処理装置1は、入出金用ユニット2、ベースユニット3、中間部ユニット4A〜4Cに加え、マイクロホン501、紙幣挿入センサ502、紙幣通過センサ503及び制御部600を備える。
【0046】
マイクロホン501は、音を電気信号(アナログ信号)に変換するものであり、紙幣の搬送中に発せられる音を収集する。マイクロホン501は、識別装置22によって真贋及び金種が識別された紙幣が搬送される搬送路又はその近傍に設置され、本実施形態においては、図1に示すように、紙幣から音がたちやすい、伝動機構216に備えられるローラ214の近傍に、前記マイクロホン501を設置されている。
【0047】
紙幣挿入センサ502は、図1に示すように、紙幣挿入口20aの近傍位置に設置されており、該開口14への紙幣の挿入を検知するものである。紙幣挿入センサ502は、例えば一対の反射型投受光器を備えて構成されており、搬送される紙幣が検知位置に進入すると、前記投光器から出力した光がその紙幣により反射されて受光器により受光される。紙幣挿入センサ502は、前記受光器が紙幣からの反射光が受光している間、受光信号(オン信号)を制御部600に出力する。紙幣挿入センサ502から出力されるオン信号の立ち上がりタイミング及び立下りタイミングは、紙幣導入機構21に備えられるモータ等の動作開始及び停止のタイミングを決定するために用いられる。
【0048】
紙幣通過センサ503は、図1に示すように、伝動機構216に備えられるローラ214の近傍位置であって、前記マイクロホン501の近傍位置(マイクロホン501の下流側の位置)に設置されており、予め設定された検知位置における紙幣の通過を検知するものである。紙幣通過センサ503は、前記紙幣挿入センサ502と同様の構成を有しており、前記受光器が紙幣からの反射光が受光している間、受光信号(オン信号)を制御部600に出力する。紙幣通過センサ503から出力されるオン信号の立ち上がりタイミング及び立下りタイミングは、マイクロホン501の集音動作の開始及び停止のタイミングを決定するために用いられる。
【0049】
制御部600は、図略のCPU(Central Processing Unit:中央演算処理部)、そのCPUの動作を規定するプログラムを格納するROM(Read Only Memory)やデータを一時的に保管する機能や作業領域としての機能を有するRAM(Random Access Memory)等を備えて構成されたマイクロコンピュータを有してなり、当該紙幣処理装置1の全体制御を司るものである。なお、制御部600は、制御基板部100に設置されたメインCPU基板101及びサブCPU基板102上の回路部品により構成される。
【0050】
ところで、本実施形態に係る紙幣処理装置1は、識別装置22によって真贋及び金種が識別された紙幣を対象として、疲労(紙葉類のよれや皺の程度)が小さく張りや腰の程度が大きい紙幣(以下、この紙幣を新札という)であるのか、それとも前記疲労が大きく張りや腰の程度が小さい紙幣(以下、この紙幣を旧札という)であるのかを識別して、当該紙幣処理装置1に投入された紙幣の中から旧札を抽出し、該旧札が再び利用に供されることのないように当該装置1の内部で保管する機能を有する。
【0051】
制御部600は、この機能を実現するために、集音制御部601と、サンプリング部602と、振幅差算出部603と、プロット部604と、座標系変換部605と、領域別プロット数計数部606と、基準値記憶部607と、判定部608とを備える。
【0052】
集音制御部601は、マイクロホン501の集音動作を制御するものであり、紙幣通過センサ503の出力信号のオフからオンへの立ち上がりタイミング(紙幣通過センサ503の検知位置を紙幣の先端が通過するタイミングに相当)に基づいて、マイクロホン501による集音動作を開始させ、また、紙幣通過センサ503の出力信号のオンからオフへの立ち下がりタイミング(紙幣通過センサ503の検知位置を紙幣の後端が通過する開始タイミングに相当)に基づいて、マイクロホン501による集音動作を停止させる。
【0053】
図10(a)は、旧札の搬送中に発せられる音を集音したマイクロホン501の出力信号(音信号)の信号波形を示し、図10(b)は、新札の搬送中に発せられる音を集音したマイクロホン501の出力信号(音信号)の信号波形を示す図である。図10(a),(b)から判るように、新札の場合、旧札に比べて前記信号波形の振幅が大きい。一方、旧札の場合、新札に比べて前記信号波形が滑らか(振幅の増減の態様が小刻み)に変化する。
【0054】
サンプリング部602は、図6に示すように、マイクロホン501から出力されるアナログ信号Sを一定のサンプリング周期T(例えばT=1/5000秒)でサンプリングするものである。以下、サンプリングしたデータをサンプリングデータというものとする。紙幣の搬送方向における長さが例えば16cm、紙幣の搬送速度を8cm/秒とし、1/5000(秒)のサンプリング周期でサンプリングした場合、1枚の紙幣につき10000(個)のサンプリングデータが得られることになる。
【0055】
振幅差算出部603は、前記サンプリング部602により取得された各サンプリングデータについて、1つ前のサンプリングデータとのデータ値の差、及び、1つ後のサンプリングデータとのデータ値の差を算出するものである。例えば図6の矢印Q1で示すサンプリングデータに着目した場合、振幅差算出部603は、このサンプリングデータのデータ値と直前の矢印Q2で示すサンプリングデータのデータ値との差を第1振幅差として算出する。また、振幅差算出部603は、矢印Q1で示すサンプリングデータのデータ値と直後の矢印Q3で示すサンプリングデータのデータ値との差をそれぞれ算出する。振幅差算出部603は、このような処理を前記サンプリング部602により取得された全てのサンプリングデータについて実施する。
【0056】
これを一般的な形で表現すると、振幅差算出部603は、i番目のサンプリングデータD(i)について、該サンプリングデータD(i)とその1つ前のサンプリングデータとD(i−1)の差「D(i)−D(i−1)」を第1振幅差、前記サンプリングデータD(i)とその1つ後のサンプリングデータD(i+1)との差「D(i+1)−D(i)」を第2振幅差として算出する。
【0057】
プロット部604は、前記第1振幅差をX軸、前記第2振幅差をY軸とする2次元座標系を設定し、各サンプリングデータについて前記振幅差算出部603により算出された前記第1振幅差及び第2振幅差をそれぞれX座標及びY座標とする点を前記2次元座標系にプロットするものである。すなわち、プロット部604は、図7に示すように、前記振幅差算出部603により算出された、i番目のサンプリングデータD(i)についての第1振幅差「D(i)−D(i−1)」をX座標Xi、前記振幅差算出部603により算出された、i番目のサンプリングデータD(i)についての第2振幅差「D(i+1)−D(i)」をY座標Yiとし、図8に示すように、点Pi(Xi,Yi)を2次元座標系にプロットする。全てのサンプリングデータについてのプロット点の分布の一例を図9に示す。
【0058】
座標系変換部605は、プロット部604の処理により得られた、2次元座標系における各プロット点の分布を、極座標系で表した分布に変換するものである。これにより、各プロット点の位置は、前記2次元座標系における当該プロット点と原点との距離r(=(Xi+Yi1/2)と、前記2次元座標系における当該プロット点と原点とを結ぶ線分のX軸に対する角度θ(=tan−1(Yi/Xi))とで表される。
【0059】
領域別プロット数計数部606は、前記極座標系を角度θに応じて複数の領域に分割し、各領域内のプロット点の数(プロット数)を算出するものである。図11は、前記極座標系をπ/2刻みで分割し、角度「0」〜「π/2」の分割領域1と、角度「π/2」〜「π」の分割領域2と、角度「π」〜「3π/2」の分割領域3と、角度「3π/2」〜「2π」の分割領域4との4つの分割領域を設定して、図9に示した2次元座標系における各プロット点を極座標系で表したときの分布を示している。
【0060】
そして、領域別プロット数計数部606は、前記極座標系に設定した各分割領域1〜4の各々におけるプロット点の数を計数する。図11は、分割領域1には5354個のプロット点が、分割領域2には2145個のプロット点が、分割領域3には5025個のプロット点が、分割領域4には1985個のプロット点がそれぞれ存在することを領域別プロット数計数部606が検出したことを示している。
【0061】
なお、旧札の場合には、発生音の絶対量が小さく且つ比較的滑らかなものとなるため、各サンプリングデータについての第1振幅差と第2振幅差は絶対量が小さく且つ第1振幅差と第2振幅差との正負が互いに逆となる。一方、新札の場合には、発生音の絶対量が大きく且つ強弱の激しいものとなるため、各サンプリングデータについての第1振幅差と第2振幅差は絶対量が大きく且つ第1振幅差と第2振幅差との正負が同一となる傾向になり易い。
【0062】
以上の点を総合すると、図12に示すように、極座標系を前記のように4つの分割領域1〜4に分割した場合は、旧札についてのプロット点は、分割領域2及び分割領域4の原点寄りに分布しやすくなり、新札についてのプロット点は、分割領域1及び分割領域3の原点から離れる方向に分布しやすくなる。
【0063】
判定部608は、前記領域別プロット数計数部606により算出された各分割領域1〜4におけるプロット点の数に基づいて、紙幣の疲労状態を判定するものである。本実施形態では、前記プロット点の数につき、新札用の基準値と旧札用の基準値とが分割領域1〜4ごとに予め設定されており、基準値記憶部607には、図13に示すように、これらの基準値がテーブル形式で記憶されている。例えば、基準値記憶部607には、分割領域1についての新札用の基準値として「E」が、分割領域3についての旧札用の基準値として「F」が記憶されている。
【0064】
判定部608は、分割領域別に、領域別プロット数計数部606により検出された当該分割領域におけるプロット点の数と、当該分割領域に対応付けられた新札用の基準値との差を算出する。例えば、領域別プロット数計数部606により検出された分割領域1〜4のプロット点の数がそれぞれ「D」,「D」,「D」,「D」であったものとすると、判定部608は、|D−E|,|D−E|,|D−E|,|D−E|を算出する。そして、判定部608は、これらの値を加算する。この加算結果を加算結果1という。
【0065】
同様にして、判定部608は、分割領域別に、領域別プロット数計数部606により検出された当該分割領域におけるプロット点の数と、当該分割領域に対応付けられた旧札用の基準値との差を算出する。例えば、領域別プロット数計数部606により検出された分割領域1〜4のプロット点の数がそれぞれ「D」,「D」,「D」,「D」であったものとすると、判定部608は、|D−F|,|D−F|,|D−F|,|D−F|を算出する。そして、判定部608は、これらの値を加算する。この加算結果を加算結果2という。
【0066】
そして、判定部608は、前記加算結果1と加算結果2とを比較して、加算値が小さい方の加算結果を導出し、この加算結果に基づいて、今回の判定対象の紙幣の疲労状態(新札/旧札)を判定する。具体的には、判定部608は、今回の判定対象の紙幣は、加算値が小さい方の加算結果の導出時に用いた基準値に対応する疲労状態(新札/旧札)の紙幣であると判定する。すなわち、判定部608は、各プロット点の数がどちらの基準値により近いかを判定し、近い方の基準値に対応する疲労状態であると判定する。
【0067】
例えば、判定部608は、前記加算結果2の示す値の方が加算結果1の示す値よりも小さい場合には、前記加算結果2に着目し、この加算結果2の導出に用いた方の基準値は旧札用の基準値であり、今回の判定対象の紙幣は、旧札であると判定する。このように、判定部608は、領域別プロット数計数部606により検出された各分割領域におけるプロット点の数が、全体的にみて、新札用の基準値に近似しているのか、それとも旧札用の基準値に近似しているのかを判別し、近似している方の基準値に対応する疲労状態(新札/旧札)の紙幣であると判定する。
【0068】
次に、紙幣処理装置1の動作を次に説明する。図14は、紙幣処理装置1による入金時の紙幣の流れを示すフローチャートである。
【0069】
図14に示すように、紙幣挿入口20aから紙幣が挿入されたことを示す検出信号(オン信号)が、前記紙幣挿入口20a付近に設けられた紙幣挿入センサ502から出力されると(ステップ♯1でYES)、制御部600は、紙幣導入機構21の図略のモータを駆動して該紙幣導入機構21に紙幣を装置1の内部に取り込ませる(ステップ♯2)。このとき、該モータの駆動による紙幣の導入は比較的低速で行われる。
【0070】
次に、制御部600は、該紙幣の搬送中に金種の判定を行い(ステップ♯3)、金種の判定が可能であるものについては(ステップ♯4でYES)、紙幣の真贋を判定する(ステップ♯5)。制御部600は、前記紙幣が真札であると判定した場合には(ステップ♯6でYES)、該紙幣について後述する疲労状態の識別を行った後(ステップ♯7)、識別された紙幣の金種及び疲労状態に応じてその紙幣を取込むべきユニットに紙幣を取り込ませる(ステップ♯8)。
【0071】
なお、金種の識別が不可能である場合(ステップ♯4でNO)、及び、前記紙幣が贋札であると制御部600が判定した場合には(ステップ♯6でNO)、紙幣を払出口20bに向けて搬送する(ステップ♯9)。
【0072】
次に、図14におけるステップ♯7の疲労状態判定処理について説明する。図15は、疲労状態識別処理の流れを示すフローチャートである。
【0073】
図15に示すように、紙幣通過センサ503により紙幣の先端が検出されると(ステップ♯11でYES)、集音制御部601は、マイクロホン501に集音動作を開始させ、また、サンプリング部602は、マイクロホン501から出力されるアナログの出力信号を一定のサンプリング周期T(例えばT=1/5000秒)でサンプリングする動作を開始する(ステップ♯12)。
【0074】
紙幣通過センサ503により紙幣の後端が検出されると(ステップ♯13でYES)、集音制御部601はマイクロホン501による集音動作を停止させ、また、サンプリング部602は前記サンプリング動作を停止し、振幅差算出部603は、前記サンプリング部602により取得された各サンプリングデータについて、前述の第1振幅差及び第2振幅差を算出する(ステップ♯14)。
【0075】
次に、プロット部604は、前記第1振幅差をX軸、前記第2振幅差をY軸として予め設定された2次元座標系に、各サンプリングデータについて算出された前記第1及び第2振幅差をそれぞれX座標及びY座標とする点をプロットし(ステップ♯15)、座標系変換部605は、プロット部604の処理により得られた、2次元座標系における各プロット点の分布を、極座標系で表した分布に変換する(ステップ♯16)。
【0076】
そして、領域別プロット数計数部606は、前記極座標系を角度θで複数に分割されてなる各分割領域のプロット点の数を分割領域別に検出(計数)し(ステップ♯17)、判定部608は、ステップ♯17で検出したプロット数と新札用の基準値との差を分割領域別に求め、それらを加算した値を加算結果1として導出する(ステップ♯18)。また、判定部608は、ステップ♯17で検出したプロット数と旧札用の基準値との差を分割領域別に求め、それらを加算した値を加算結果2として導出する(ステップ♯19)。
【0077】
そして、判定部608は、加算結果1と加算結果2とを比較し、前記加算結果1の示す値の方が前記加算結果2の示す値より小さいか否かを判断し(ステップ♯20)、小さくない場合には(ステップ♯20でNO)、当該紙幣は旧札と判定して、回収対象紙幣として設定する(ステップ♯21)。回収対象紙幣として設定された紙幣は、ベースユニット3に収納される。ベースユニット3に収納された旧札は、市場に再び流通させると、当該紙幣処理装置1、或いは自動販売機や両替機等の機器において、紙幣詰まりを起こし、故障を来たす虞があるため、市場に流通させない(再び利用に供されることのない)ように他の紙幣と分別するようにしている。
【0078】
一方、判定部608は、前記加算結果1の示す値の方が前記加算結果2の示す値より小さい場合には(ステップ♯20でYES)、当該紙幣は新札と判定して、回収対象外紙幣として設定する(ステップ♯22)。回収対象外紙幣として設定された紙幣は、中間ユニット4A〜4C等に収納される。
【0079】
以上のように、本実施形態では、サンプリングデータからなる時系列信号における振幅の変動に着目して、各サンプリングデータ間のデータ値の差を特徴量とし、この特徴量を用いて前述のような比較的簡単な処理を行うことで紙幣の疲労状態を判別するようにしたので、装置の大型化やコストの増大を回避又は抑制しながら、紙幣の疲労状態を正確に判別することができる。
【0080】
また、本発明者は、このような紙幣処理装置1を用いて所定枚数の紙幣の疲労状態について識別度合いを検証する実験を行った。その結果、本出願人は、図17に示すように、新札の識別率は96.1%、旧札の識別率は91.9%という結果を得た。これらの識別率は、非常に高い値であり、本出願人は、本件に係る紙幣処理装置が紙幣の疲労状態を高い識別率で識別できることを確認した。
【0081】
本件は、前記実施形態に代えて、或いは前記実施形態に加えて、次のような変形形態も採用可能である。
【0082】
[1]前記第1の実施形態では、2次元座標系における各プロット点の分布を極座標系で表した分布に変換し、この極座標系の領域を複数に分割した分割領域におけるプロット点の分布に基づいて紙幣の疲労状態を判別するようにしたが、2次元座標系における各プロット点の分布を極座標系で表した分布に変換する処理を行わないで、前記2次元座標系における各プロット点の分布に基づいて紙幣の疲労状態を判別するようにしてもよい。
【0083】
ただし、極座標系上でのプロット点の分布に基づいて紙幣の疲労状態を判別するようにした方が、疲労状態の判別の演算が容易になる。すなわち、前記第1の実施形態では、2次元座標系を4分割にしたが、そうではなく、例えば45度ごとに8等分した場合に、プロット点がどの領域内のものであるのかを識別するためには、該プロット点の位置(座標)と前記2次元座標系を8等分する各直線の位置との関係を比較する演算が必要となるが、極座標系を用いると、このような演算が不要となり、角度と原点までの距離のみで、どの分割領域内のものであるのかを識別することができる。その結果、処理時間の短縮化が図れ、判別の効率化が可能となる。
【0084】
[2]前記第1の実施形態では、新札用の基準値と旧札用の基準値との2つを用いて、識別対象の紙幣が新札であるか旧札であるかのみを識別するようにしたが、この形態に限定されず、紙幣の疲労度として3段階以上設定し、識別対象の紙幣がどの疲労度に該当するかを識別したり、新札用の基準値及び旧札用の基準値をそれぞれ複数設け、識別対象の紙幣がどの疲労度に該当するかを識別したりするようにしてもよい。この場合、設定する疲労度に対応して基準値を予め設定しておき、判定部608は、識別対象の紙幣についてのプロット点の数がどの基準値に最も近いのかを判断し、その基準値に対応する疲労度を、識別対象の紙幣の疲労度として判定する処理が想定される。
【0085】
[3]判定部608による紙幣の疲労状態の判定方法は、前記第1の実施形態に係る判定方法の他、SVM(サポートベクターマシン)技術を用いた判定方法も採用可能である。
【0086】
すなわち、新旧の判別を行うべき紙幣に対して新旧の判別を行う前に、別途、複数のサンプル紙幣(前記境界設定用紙葉類に相当)を予め用意し、前記第1の実施形態と同様に、制御部600は、前記極座標系を角度θ(ここでは90°)に応じて複数の領域(分割領域1〜4)に分割して、各分割領域内のデータの数を算出する。次に、判定部608は、前記各分割領域におけるデータの数をそれぞれ座標軸とする判定用座標系において、前述の各分割領域におけるデータ数に相当する座標をプロットする。判定部608は、この処理を各サンプル紙幣について実施する。
【0087】
そして、判定部608は、各サンプル紙幣について得られた各分割領域におけるデータ数に相当する座標のうち所定の方法で選定された複数の座標を境界導出用の座標として設定し、この境界導出用の各座標に対するマージンが最大となる境界を求めて、該境界により前記判定用座標系の領域を複数の領域に分割する。判定部608は、これで前記サンプル紙幣に係る処理を終える。
【0088】
続いて、制御部600は、判別対象の紙幣につき、前記極座標系に対して予め設定した各分割領域1〜4におけるデータの数を算出し、このデータの数の組み合わせに対応する、前記判定用座標系上での座標を求める。そして、判定部608は、この座標が、前記境界によって生成された複数の領域のうちどの領域に属するものであるかを検出し、その検出結果に基づいて当該紙幣の疲労状態を判別する。
【0089】
例えば、理解の容易化のため、分割領域1〜4のうち分割領域1におけるデータの数と分割領域2におけるデータの数とにのみ着目するものとすると、図16に示すように、判定部608は、分割領域1におけるデータの数と分割領域2におけるデータの数とをそれぞれ座標軸とする2次元座標系を前記判定用座標系として設定する。そして、ここでは、前記境界導出用の座標として、或る新札のサンプル紙幣についての分割領域1におけるデータの数と分割領域2におけるデータの数との組み合わせを示す座標Aと、或る旧札のサンプル紙幣についての分割領域1におけるデータの数と分割領域2におけるデータの数との組み合わせを示す座標Bが設定されたものとする。
【0090】
このとき、判定部608は、各座標A,Bに対するマージンが最大となる前記境界として、点Aと点Bとの中点Cを通り且つ線分ABに直交する直線Lを導出し、この直線Lにより前記2次元座標系の領域を領域Gと領域Hとに分割する。
【0091】
そして、制御部600は、判別対象の紙幣について各分割領域1,2におけるデータの数を夫々検出すると、判定部608は、この分割領域1におけるデータの数と分割領域2におけるデータの数との組み合わせに対応する、前記判定用座標系上での点(以下、検出点という)が、前記領域Gと領域Hとのどちらの領域に属する点であるかを判別し、その結果に基づいて紙幣の疲労状態を判断する。
【0092】
このような処理によっても、比較的簡単な処理で紙幣の疲労状態を正確に判別することができる。
【0093】
なお、ここでは、説明の簡略化のために、分割領域1と分割領域2とにのみ着目したが、実際には、分割領域3及び分割領域4もある。したがって、判定部608は、前記と同様の処理を、分割領域2と分割領域3、分割領域3と分割領域4、分割領域4と分割領域1のそれぞれの組み合わせについて実施することになる。
【0094】
また、前記の説明では、境界を一直線としたが、境界設定用の座標として3点以上の座標が選定される場合には、必ずしも一直線になるとは限らず、曲線や屈曲線になる場合もある。さらに、前記の説明では、分割領域1〜4のうち2つの分割領域の組み合わせに着目し、前記のように2次元座標系を設定して該座標系における境界を求めたが、例えば分割領域1〜4のうち3つの分割領域の組み合わせに着目し、それらの分割領域におけるデータの数を座標軸とする3次元座標系を設定して該座標系における境界を求めるようにした場合には、その境界は、平面や曲面、或いは屈曲面等になる。
【0095】
[4]前記実施形態では、極座標系をπ/2刻みで分割して分割領域を生成したが、極座標系の分割単位はπ/2に限定されず、π/3,π/4,π/5等、適宜変更可能である。この刻み単位は、任意に設定すればよい。また、刻み単位をπ/2ではなく、π/3とかπ/4とかに設定すると、プロット点の分布をより詳細に分析することができ、その分布が示す特徴を抽出しやすくなる。
【0096】
[5]前記実施形態では、疲労状態の識別対象を紙幣としたが、本件は、紙幣に限定されず、紙葉類全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 紙幣処理装置
3 ベースユニット
4A〜4C 中間部ユニット
21 紙幣導入機構
210 紙幣導入路
501 マイクロホン
502 紙幣挿入センサ
503 紙幣通過センサ
600 制御部
601 集音制御部
602 サンプリング部
603 振幅差算出部
604 プロット部
605 座標系変換部
606 領域別プロット数計数部
607 基準値記憶部
608 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉類の搬送中に発せられる音に応じた信号をサンプリングデータとして複数回サンプリングするサンプリング部と、
前記各サンプリングデータと当該サンプリングデータより前にサンプリングされた所定のサンプリングデータとのデータ値の差、及び、前記各サンプリングデータと当該サンプリングデータより後にサンプリングされた所定のサンプリングデータとのデータ値の差を、それぞれ第1及び第2振幅差として算出する振幅差算出部と、
1つのサンプリングデータについて算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータを予め定められた座標系にプロットし、プロットされたデータの分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別する判別部と
を備える紙葉類疲労判別装置。
【請求項2】
前記判別部は、
前記第1振幅差と第2振幅差とをそれぞれ座標軸として設定される2次元座標系に、前記各サンプリングデータについてそれぞれ算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータをプロットし、
前記2次元座標系にプロットされたデータの分布を、前記予め定められた座標系としての極座標系で表した分布に変換し、
前記極座標系にプロットされたデータの分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別する請求項1に記載の紙葉類疲労判別装置。
【請求項3】
前記判別部は、
前記第1振幅差と第2振幅差とをそれぞれ座標軸として設定される、前記予め定められた座標系としての2次元座標系に、前記各サンプリングデータについてそれぞれ算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータをプロットし、
前記2次元座標系にプロットされたデータの分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別する請求項1に記載の紙葉類疲労判別装置。
【請求項4】
前記判別部は、
前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出し、
各分割領域についてそれぞれ検出されたデータの数を、分割領域ごとに複数の疲労状態に対応させて予め定められた複数の基準値のうち当該分割領域に対応する複数の基準値と比較し、前記検出されたデータの数が前記比較対象の複数の基準値の中で最も近い基準値に対応する疲労状態を、当該紙葉類の疲労状態として判別する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の紙葉類疲労判別装置。
【請求項5】
前記判別部は、
予め用意された複数の境界設定用紙葉類について、前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出し、
前記各分割領域におけるデータの数をそれぞれ座標軸として設定された判定用座標系において、前記各分割領域におけるデータ数を示す座標をそれぞれ求め、
この求められた前記判定用座標系上での座標のうち複数の座標を境界導出用の座標として設定し、
境界導出用の座標に基づいて境界を求めて、該境界により前記判定用座標系の領域を複数の領域に分割した後、
判別対象の紙葉類について、前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出し、
そのプロットされたデータの数に相当する前記判定用座標系上での座標を求め、該座標が、前記境界により分割されてなる複数の領域のうちどの領域に属するものであるかを検出し、その検出結果に基づいて当該紙葉類の疲労状態を判別する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の紙葉類疲労判別装置。
【請求項6】
前記紙葉類は、紙幣であり、
紙幣を投入する投入口と、
前記投入口から投入された紙幣の疲労状態を判別する紙葉類疲労判別装置と、
前記紙葉類疲労判別装置による判別結果に基づき、前記紙幣を疲労状態別に分別して収納する収納部とを備える紙幣処理装置であって、
前記紙葉類疲労判別装置は、請求項1乃至5の何れかに記載の紙葉類疲労判別装置である紙幣処理装置。
【請求項7】
サンプリング部が、紙葉類の搬送中に発せられる音に応じた信号をサンプリングデータとして複数回サンプリングするサンプリングステップと、
振幅差算出部が、前記各サンプリングデータと当該サンプリングデータより前にサンプリングされた所定のサンプリングデータとのデータ値の差、及び、前記各サンプリングデータと当該サンプリングデータより後にサンプリングされた所定のサンプリングデータとのデータ値の差を、それぞれ第1及び第2振幅差として算出する算出ステップと、
判別部が、1つのサンプリングデータについて算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータを予め定められた座標系にプロットし、プロットされたデータの分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別する判別ステップと
を有する紙葉類疲労判別方法。
【請求項8】
前記判別ステップは、
前記判別部が、前記第1振幅差と第2振幅差とをそれぞれ座標軸として設定される2次元座標系に、前記各サンプリングデータについてそれぞれ算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータをプロットするステップと、
前記判別部が、前記2次元座標系にプロットされたデータの分布を、前記予め定められた座標系としての極座標系で表した分布に変換するステップと、
前記判別部が、前記極座標系にプロットされたデータの分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別するステップと
を有する請求項7に記載の紙葉類疲労判別方法。
【請求項9】
前記判別ステップは、
前記判別部が、前記第1振幅差と第2振幅差とをそれぞれ座標軸として設定される、前記予め定められた座標系としての2次元座標系に、前記各サンプリングデータについてそれぞれ算出された前記第1及び第2振幅差から構成される一組のデータをプロットするステップと、
前記判別部が、前記2次元座標系にプロットされたデータの分布に基づいて前記紙葉類の疲労状態を判別するステップと
を有する請求項7に記載の紙葉類疲労判別方法。
【請求項10】
前記判別ステップは、
前記判別部が、前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出するステップと、
前記判別部が、各分割領域についてそれぞれ検出されたデータの数を、分割領域ごとに複数の疲労状態に対応させて予め定められた複数の基準値のうち当該分割領域に対応する複数の基準値と比較し、前記検出されたデータの数が前記比較対象の複数の基準値の中で最も近い基準値に対応する疲労状態を、当該紙葉類の疲労状態として判別するステップと
を有する請求項7乃至9のいずれか一項に記載の紙葉類疲労判別方法。
【請求項11】
前記判別ステップは、
前記判別部が、予め用意された複数の境界設定用紙葉類について、前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出するステップと、
前記判別部が、前記各分割領域におけるデータの数をそれぞれ座標軸として設定された判定用座標系において、前記各分割領域におけるデータ数を示す座標をそれぞれ求めるステップと、
前記判別部が、この求められた前記判定用座標系上での座標のうち複数の座標を境界導出用の座標として設定するステップと、
前記判別部が、境界導出用の座標に基づいて境界を求めて、該境界により前記判定用座標系の領域を複数の領域に分割するステップと、
前記判別部が、その後、判別対象の紙葉類について、前記予め定められた座標系を予め定められた形で複数の領域に分割してなる各分割領域にそれぞれプロットされたデータの数を分割領域ごとに検出するステップと、
前記判別部が、そのプロットされたデータの数に相当する前記判定用座標系上での座標を求め、該座標が、前記境界により分割されてなる複数の領域のうちどの領域に属するものであるかを検出し、その検出結果に基づいて当該紙葉類の疲労状態を判別するステップと
を有する請求項7乃至9のいずれか一項に記載の紙葉類疲労判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−286912(P2010−286912A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138541(P2009−138541)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 以下の刊行物にて発表 1.発 行 日:平成20年12月10日 刊行物名:「平成20年度電気学会・電子情報通信学会合同講演会講演論文集」 発 行 所:電気学会九州支部沖縄支所
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【出願人】(000230858)日本金銭機械株式会社 (43)
【Fターム(参考)】