説明

紡機における尻糸切断方法

【課題】スピンドル基部に残る糸(尻糸)を少なくできるとともに、従来に比較して糸切れミスを少なくすることができる紡機における尻糸切断方法を提供する。
【解決手段】玉揚げ停止時にリングレール17を尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの当接部と対応する位置に停止させ、尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの当接部以下の位置に糸Yを巻いた状態でスピンドル11を停止させる。その状態で玉揚げ装置のボビン把持装置36aにより管糸38を抜き上げ、同時にリングレール17を上昇させる。抜き上げ途中まで尻糸切断部材28を管糸38と共に上昇させ、尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの間に管糸38からトラベラTに連なる糸Yを導き、その後、管糸38から離脱した尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの間で糸Yを把持するとともに、カッタ部30で糸Yを切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡機における尻糸切断方法に係り、詳しくはボビン嵌挿部より下側にカッタ部を備えた尻糸切断部材を、スピンドル基部より上方に延びるブレードに沿って昇降可能、かつスピンドル基部との間でトラベラから管糸に連なる糸を把持可能に装備したリング精紡機、リング撚糸機等の紡機における尻糸切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リング精紡機、リング撚糸機等の紡機においては満管時に管替作業を自動的に行うため、管替後の再起動時に糸を空ボビンに自動的に巻付けることができるように、ローラパートに連なる糸がトラベラに通ったままスピンドルに接続していることが要求される。この要求を満たすため、従来、スピンドル基部に尻糸切断部と、その下方に尻糸巻部を設け、満管後、リングレールを急降下させて傾斜巻を行った後、尻糸巻部に糸を巻付け、満管糸の引き抜き時に尻糸巻部から満管糸に連なる糸(尻糸)を尻糸切断部で切断していた。この方法では、玉揚げ時に尻糸を数回巻き付けるため、玉揚げ後に尻糸巻部(スピンドル基部)に残る糸が多くなる。
【0003】
スピンドル基部に残る糸(尻糸)を少なくできる尻糸切断方法として、ボビン嵌挿部より下側にカッタ部を備えた尻糸切断部材を、スピンドル基部より上方に延びるブレードに沿って昇降可能、かつスピンドル基部との間でトラベラから管糸に連なる糸を把持可能に装備して、前記カッタ部で尻糸の切断を行う方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1の尻糸切断方法では、図6(a)に示すように、玉揚げ停止時にリングレール51を尻糸切断部材52とスピンドル基部53aとの当接部近傍に停止させ、尻糸切断部材52とスピンドル基部53aとの当接部以下の位置に糸Yを巻いた状態でスピンドル53を停止させる。次に図6(b)に示すように、玉揚げ装置54により管糸55を抜き上げ、抜き上げ途中まで尻糸切断部材52を管糸55と共に上昇させ、尻糸切断部材52とスピンドル基部53aとの間に管糸55からリング51a上のトラベラ56に連なる糸Yを導く。その後、管糸55から離脱した尻糸切断部材52とスピンドル基部53aとの間で糸Yを把持するとともに、尻糸切断部材52のカッタ部で糸Yを切断する。
【特許文献1】特開2002−173837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の尻糸切断方法においても、玉揚げ装置54による管糸55の抜き上げ時には、リングレール51は停止位置に保持される。そして、通常、管糸55は一定速度で抜き上げられるため、管糸55からトラベラ56及びスネルワイヤ57を経由してフロントローラ(図示せず)に繋がる糸が引っ張られて、トラベラ56が移動する。この移動量は、全錘で同じとは限らず、玉揚げのための巻き取り停止時及び管糸55の抜き上げ時における糸Yやトラベラ56の挙動によって変わる。
【0006】
例えば、管糸55の位置が図6(a)に示す位置から図6(b)に示す位置まで上昇する間に、トラベラ56は、その位置が図6(e)に示す状態から図6(f)に示す状態まで、スピンドル53の中心との成す角度が90°近くリング51a上を移動する場合もある。このようにトラベラ56の移動量が多くなると、糸Yのスピンドル53に巻き付いている角度が小さくなる。そのため、尻糸切断部材52が管糸55から離脱してスピンドル基部53aと当接する位置に移動する際に、糸Yを把持できず、図6(c)に示すように、糸Yは、管糸55から直接トラベラ56を経てスネルワイヤ57に至る状態となる。この状態からさらに玉揚げ装置54による抜き上げ動作が継続されて管糸55が抜き上げられると、抜き上げ途中で管糸55からスネルワイヤ57に至る間で糸Yが切断されて図6(d)の状態となる。
【0007】
本発明は前記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的はスピンドル基部に残る糸(尻糸)を少なくできるとともに、従来に比較して糸切れミスを少なくすることができる紡機における尻糸切断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため請求項1に記載の発明は、ボビン嵌挿部より下側にカッタ部を備えた尻糸切断部材を、スピンドル基部より上方に延びるブレードに沿って昇降可能、かつスピンドル基部との間でトラベラから管糸に連なる糸を把持可能に装備した紡機における尻糸切断方法である。そして、玉揚げ停止時にリングレールを前記尻糸切断部材と前記スピンドル基部との当接部と対応する位置に停止させ、前記尻糸切断部材とスピンドル基部との当接部以下の位置に糸を巻いた状態でスピンドルを停止させ、その状態で玉揚げ装置により管糸を抜き上げる。抜き上げ途中まで前記尻糸切断部材を管糸と共に上昇させ、該尻糸切断部材と前記スピンドル基部との間に管糸からトラベラに連なる糸を導き、その後、管糸から離脱した尻糸切断部材と前記スピンドル基部との間で前記糸を把持するとともに、前記カッタ部で糸を切断する。また、前記玉揚げ装置による前記管糸の抜き上げ時に前記リングレールを上昇させる。
【0009】
ここで、「当接部と対応する位置」とは、尻糸切断部材がスピンドル基部と当接する状態で、トラベラから管糸に繋がる糸をカッタ部とスピンドル基部との間に導入可能な位置を意味する。
【0010】
この発明では、ボビンはその下部が尻糸切断部材のボビン嵌挿部に嵌合された状態でスピンドルに装着される。玉揚げ停止時に、従来と同様な動作でリングレールが下降され、トラベラから管糸に繋がる糸をカッタ部とスピンドル基部との間に導入可能な位置に停止する。そして、尻糸切断部材とスピンドル基部との当接部以下の位置に糸が巻かれた状態でスピンドルが停止する。次に玉揚げ装置により管糸が抜き上げられ、抜き上げ途中まで尻糸切断部材が管糸と共に上昇され、尻糸切断部材とスピンドル基部との間に管糸からトラベラに連なる糸が導かれる。玉揚げ装置による管糸の抜き上げ時にリングレールも上昇される。その後、管糸から離脱した尻糸切断部材とスピンドル基部との間に糸が把持されるとともに、カッタ部で糸が切断される。トラベラに連なる糸の端部は次の玉揚げまで、尻糸切断部材とスピンドル基部との間に把持される。尻糸切断部材とスピンドル基部との間に把持された尻糸は、次回の玉揚げの際に管糸に連なってスピンドルから離脱する。従って、次の糸巻き付けのためにトラベラに連なる糸をスピンドルに固定するのに必要な長さを、複雑な糸把持部を設けなくても短くできる。また、玉揚げ装置による管糸の抜き上げ時にリングレールも上昇されるため、管糸の抜き上げ時に、管糸からトラベラ及びスネルワイヤを経由してフロントローラに繋がる糸が引っ張られるのが抑制されて、トラベラの移動も抑制される。その結果、スピンドルに巻かれた糸のスピンドルに対する巻き付け角度が変化せず、上昇途中で管糸から離脱した尻糸切断部材がスピンドル基部と当接する位置に戻ったときに、管糸からトラベラに繋がる糸の把持をミスする確率が低下し、従来に比較して糸切れミスを少なくすることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記リングレールの上昇速度は、前記管糸の抜き上げ速度と同じである。この発明では、管糸の抜き上げ時に、管糸からトラベラを経てスネルワイヤに繋がる糸の張力増加が最小になり、尻糸切断部材による糸の把持ミスがより抑制される。
【0012】
請求項3に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記リングレールの上昇限は、前記トラベラの位置が前記カッタ部の最上昇時における上面以下となる位置である。トラベラの位置がカッタ部の上面より高い位置に配置された状態、即ち尻糸切断部材の下面とスピンドル基部との間(開口部)からずれた位置において尻糸切断部材が管糸から離脱すると、糸把持が失敗する確率(糸把持ミスの確率)が高くなる。しかし、この発明では、トラベラの位置が必ず尻糸切断部材の下面とスピンドル基部との間に存在する状態で尻糸切断部材が管糸から離脱するため、糸把持ミスがより少なくなる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、請求項3に記載の発明において、前記カッタ部の最上昇限は、尻糸切断部材の上昇を規制するために前記スピンドルに設けられた規制部材により設定される。この発明では、カッタ部の最上昇限が規制部材により設定されるため、リングレールの上昇限を設定し易くなる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記リングレールの上昇限は、前記トラベラの位置が前記尻糸切断部材の前記スピンドル基部との当接状態における前記カッタ部の上面を基準として上方10mm以内となる位置である。トラベラの上昇位置が尻糸切断部材とスピンドル基部との当接部から離れ過ぎると、糸把持ミスに繋がる虞があるが、この発明ではそのような虞が小さくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スピンドル基部に残る糸(尻糸)を少なくできるとともに、従来に比較して糸切れミスを少なくすることができる紡機における尻糸切断方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をリング精紡機の尻糸切断方法に具体化した一実施形態を図1〜図5にしたがって説明する。
図3に示すように、スピンドル11はモータ12により駆動される駆動プーリ13と、被動プーリ14と、両プーリ13,14間に巻き掛けられたタンゼンシャルベルト15とを備えたスピンドル駆動系により回転駆動されるようになっている。
【0017】
スピンドル列に沿ってラインシャフト16が回転自在に配設されている。ラインシャフト16にはトラベラTが走行するリング17aを備えたリングレール17と、スネルワイヤ18aを備えたラペット18(図1,図2に図示)とを昇降させる昇降ユニット19が所定間隔で配設されている(1個のみ図示)。
【0018】
昇降ユニット19はラインシャフト16に一体回転可能に嵌着固定されたねじ歯車20と、リングレール17を支持するポーカピラー21の下部に形成されたスクリュー部21aに螺合するとともにねじ歯車20と噛合するナット体22とを備えている。ラインシャフト16はモータ23の駆動軸に歯車機構(図示せず)を介して連結されており、モータ23が正逆回転駆動されることによりリングレール17が昇降するようになっている。モータ23にはサーボモータが使用されている。なお、これらの構成は例えば特開平7−300728号公報に開示された装置と基本的に同様である。ラインシャフト16、昇降ユニット19、ポーカピラー21等がリフティング駆動系を構成する。ラペット18も同様な昇降機構でリングレール17と同期して昇降可能となっている。
【0019】
次にスピンドル11及びスピンドル11に装備された尻糸切断部材について説明する。スピンドル11及び尻糸切断部材は特許文献1に開示された物と同じ構成である。図5(a)に示すように、スピンドル11は、ブレード部24と、スピンドル軸25とを備え、スピンドルレール26に固定されたボルスタ27に軸受を介して回転可能に支持されている。ブレード部24は、ボビンBが装着されるブレード24aと、ブレード24aの下側に形成されブレード24aより大径のスピンドル基部24bと、スピンドル基部24bの下側に形成されたベルト掛け部とが一体形成されている。
【0020】
スピンドル基部24bより上方に延びるブレード24aには、尻糸切断部材28が昇降可能に設けられている。図5(b)に示すように、尻糸切断部材28はボビンBが嵌挿されるボビン嵌挿部29と、ボビン嵌挿部29より下側に設けられたカッタ部30とを備えている。ボビン嵌挿部29は円筒状に形成されるとともに、内側にコイルばね31を収容する凹部29aが形成されている。ブレード24aには、尻糸切断部材28がスピンドル基部24bに当接した状態において、その下部がボビン嵌挿部29の上端と対向する位置にストッパとしてのカラー32が固定されている。カラー32の外径は凹部29aの内径より若干小さく形成され、尻糸切断部材28はカラー32に沿って摺動する。ボビン嵌挿部29はその外径が上側ほど小さくなるように形成されている。
【0021】
コイルばね31は、下端が凹部29aの下端に当接し、上端がカラー32の下端に当接する状態で凹部29a内に収容されている。コイルばね31は、尻糸切断部材28を常にスピンドル基部24b側に付勢する。また、コイルばね31は、尻糸切断部材28がスピンドル基部24bと当接する位置より所定高さ以上に上昇するのを規制する規制手段を構成する。即ち、この実施形態では、カッタ部30の最上昇限は、コイルばね31及びカラー32により設定される。
【0022】
カッタ部30は円形に、詳しくは偏平な円錐台形状に形成され、この実施形態では刃の先端の径がボビンBの下端の外径より大きく形成されている。ボビン嵌挿部29の下部外周面には環状の溝33が形成され、溝33内にはボビン嵌挿部29とボビンBとの嵌合力を高めるため、一部が溝33の外に出る状態でゴムリング34が収容されている。
【0023】
図4(a),(b)に示すように、リング精紡機には公知の全錘一斉式の玉揚げ装置(管替装置)35が装備されている。玉揚げ装置35はボビン把持装置36aを備えたドッフィングバー36を装備し、スピンドルレール26の下方に配置された搬送装置37のぺッグ37a上の空のボビンBと、スピンドル11上の管糸38とを交換する。玉揚げ作業時に、図4(a)に示すように、ドッフィングバー36に装備されたボビン把持装置36aが、矢印で示す線に沿って移動し、ぺッグ37a上から抜き上げた空のボビンBを中間ぺッグ39に挿入する。次にボビン把持装置36aは、スピンドル11上の管糸38の上方と対応する位置へ移動し、管糸38を把持した後、図4(b)に矢印で示す線に沿って移動し、スピンドル11上の管糸38を抜き上げた後、搬送装置37のぺッグ37a上に挿入する。次に再び図4(a)に矢印で示す線に沿って移動し、中間ぺッグ39上の空のボビンBをスピンドル11に挿入した後、図4(b)に矢印で示す線に沿って移動してぺッグ37aの上方の待機位置に復帰する。
【0024】
次に前記のように構成された装置による作用を説明する。
ボビンBはその下部が尻糸切断部材28のボビン嵌挿部29に嵌合された状態でスピンドル11に一体回転可能に装着される。そして、タンゼンシャルベルト15を介してスピンドル11が回転され、ボビンBがスピンドル11と一体回転される。
【0025】
紡出が継続されて満管になると、所定の停止動作が行われ、従来と同様な動作でリングレール17が急降下されて、スピンドル11に装着されている管糸(満ボビン)38に傾斜巻38aが行われ。その後、リングレール17は、尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの当接部近傍に停止し、リングレール17上のトラベラTは尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの当接部、即ちカッタ部30の下面とスピンドル基部24bとの当接部より少し下側に位置する状態となる。そして、尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの当接部より少し下側の位置に1巻未満(例えば、1/2巻程度)の糸が巻かれた状態となるようにブレーキが掛けられてスピンドル11が停止される。次にラペット18が玉揚げに支障とならない退避位置に配置され、図1(a)に示す状態となる。
【0026】
次に玉揚げ装置35が駆動され、そのボビン把持装置36aにより管糸(満ボビン)38が抜き上げられるとともに、モータ23が駆動されてリングレール17も上昇される。リングレール17は、管糸38の抜き上げ速度と同じ速度で上昇される。抜き上げ途中まで尻糸切断部材28が管糸38と共に上昇され、図1(b)に示すように、尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの間に管糸38からトラベラTに連なる糸Yが導かれる。
【0027】
管糸38の抜き上げ時にリングレール17が同時に上昇されるため、管糸38が図1(a)に示す位置から図1(b)に示す位置まで上昇する間に、管糸38からトラベラTに繋がる糸Yの張力が増加するのが抑制される。その結果、従来技術と異なり、管糸38が上昇しても、図1(c),(d)に示すように、トラベラTの位置は変化しない。そのため、糸Yのスピンドル11に巻き付いている角度が小さくならず、尻糸切断部材28が管糸38から離脱してスピンドル基部24bと当接する位置に移動する際に、糸Yの把持ミスが発生する確率が低くなる。
【0028】
トラベラTの移動のし易さは、紡出糸の太さ、撚り数等の紡出条件の影響を受ける。紡出糸が細くなると、使用されるトラベラTが軽くなり、移動し易くなる。従って、40番手の糸を紡出する場合に比較して、それより細い80番手の糸を紡出する場合は、糸Yに作用する張力の増加量が同じでも、トラベラTは動き易くなる。また、スナールがある状態で糸Yに張力が加わると、糸YがトラベラTから離脱し易くなったり、大きく移動したりする場合もある。従って、紡出条件によって、管糸38の抜き上げ時に糸Yに作用する張力の許容増加割合が異なる。この実施形態では、管糸38の抜き上げ時にリングレール17が同時に、かつ同じ速度で上昇されるため、張力の増加が最小に抑えられる。
【0029】
リングレール17の上昇限は、トラベラTの位置がカッタ部30の最上昇時における上面以下となる位置に設定されている。この実施形態では、リングレール17の上昇限は、トラベラTの位置が尻糸切断部材28のスピンドル基部24bとの当接状態におけるカッタ部30の上面を基準として上方10mm以内となる位置、具体的には5mmとなる位置に設定されている。また、リングレール17の上昇限は、トラベラTの位置が尻糸切断部材28の最大開口量(カッタ部30とスピンドル基部24bとの最大離間距離)の半分の位置と対応する位置になっている。
【0030】
管糸38と共に上昇する尻糸切断部材28が所定の高さに達すると、コイルばね31の付勢力により尻糸切断部材28が管糸38から離脱する。そして、尻糸切断部材28がスピンドル基部24bと当接する位置まで下降し、管糸38からトラベラTに連なる糸Yが尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの間に把持される。管糸38は上昇を継続しているため、糸Yがカッタ部30に緊張状態で圧接されて切断され、図2(a)に示す状態となる。即ち、切断された糸Yは、端部寄りにおいて尻糸切断部材28及びスピンドル基部24bに把持されるとともに、トラベラT、スネルワイヤ18aを経てフロントローラ40(図3に図示)に至る状態になる。
【0031】
管糸38が玉揚げされて図2(b)の状態となった後、空のボビンBがスピンドル11に挿入され、ラペット18が巻取り位置へと回動配置された後、機台が再起動される。トラベラTに連なる糸Yの端部は次の玉揚げまで、尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの間に把持される。そして、尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの間に把持された尻糸は、次回の玉揚げの際に管糸38に連なってスピンドル11から離脱する。
【0032】
この実施形態では以下の効果を有する。
(1)玉揚げ時に、カッタ部30を備えた尻糸切断部材28が、管糸38と共に上昇された後、下降することにより、管糸38からトラベラTに連なる糸Yが尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの間に把持されるとともに、カッタ部30によって切断される。従って、スピンドル11に尻糸を巻き付けて把持する従来装置と異なり尻糸を数回巻き付ける必要がなく、また、特殊な尻糸巻部を形成せずに、簡単な構成で、スピンドル基部に残る糸(尻糸)を少なくできる。
【0033】
(2)玉揚げ装置35による管糸38の抜き上げ時にリングレール17も上昇されるため、管糸38の抜き上げ時に、管糸38からトラベラT及びスネルワイヤ18aを経由してフロントローラ40に繋がる糸Yが引っ張られるのが抑制されて、トラベラTの移動も抑制される。従って、上昇途中で管糸38から離脱した尻糸切断部材28がスピンドル基部24bと当接する位置に戻ったときに、管糸38からトラベラTに繋がる糸Yの把持をミスする確率が低下し、従来に比較して糸切れミスを少なくすることができる。
【0034】
(3)リングレール17の上昇速度は、管糸38の抜き上げ速度と同じである。従って、管糸38の抜き上げ時に、管糸38からトラベラTを経てスネルワイヤ18aに繋がる糸Yの張力増加が最小になり、尻糸切断部材28による糸Yの把持ミスがより抑制される。
【0035】
(4)リングレール17の上昇限は、トラベラTの位置がカッタ部30の最上昇時における上面以下となる位置である。トラベラTの位置がカッタ部30の上面より高い位置に配置された状態、即ち尻糸切断部材28の下面とスピンドル基部24bとの間(開口部)からずれた位置において尻糸切断部材28が管糸38から離脱すると、糸把持が失敗する確率(糸把持ミスの確率)が高くなる。しかし、この実施形態では、トラベラTの位置が必ず尻糸切断部材28の下面とスピンドル基部24bとの間に存在する状態で尻糸切断部材28が管糸38から離脱するため、糸把持ミスがより少なくなる。
【0036】
(5)カッタ部30の最上昇限は、尻糸切断部材28の上昇を規制するためにスピンドル11に設けられた規制部材(コイルばね31)により設定される。従って、カッタ部30の最上昇限を簡単に設定できる。その結果、リングレール17の上昇限も設定し易くなる。
【0037】
(6)リングレール17の上昇限は、トラベラTの位置が尻糸切断部材28のスピンドル基部24bとの当接状態におけるカッタ部30の上面を基準として上方10mm以内となる位置である。トラベラTの上昇位置が尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの当接部から離れ過ぎると、糸把持ミスに繋がる虞があるが、この実施形態ではそのような虞が小さい。
【0038】
(7)リングレール17の上昇限は、トラベラTの位置が尻糸切断部材28の最大開口量の半分の位置と対応する位置になっている。従って、リングレール17の上昇限が尻糸切断部材28の最大開口量の上限に近い位置と対応する場合に比較して、把持ミスが発生し難い。
【0039】
(8)尻糸切断部材28がコイルばね31により常にスピンドル基部24b側に付勢されているため、尻糸切断部材28はスピンドル基部24bに当接した状態でトラベラTに連なる糸Yを確実に把持できる。
【0040】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 玉揚げ装置35による管糸38の抜き上げ時に、リングレール17を上昇させる速度は、抜き上げ速度と同じに限らず、抜き上げ速度より遅くても速くてもよい。しかし、同じにする方が糸Yの張力増加を最小にでき、尻糸切断部材28による糸Yの把持ミスを抑制し易いため好ましい。
【0041】
○ 玉揚げ装置35による管糸38の抜き上げ時に、リングレール17を上昇させる上限は、トラベラTの位置が尻糸切断部材28の最大開口量の半分の位置と対応する位置に限らない。例えば、最大開口量の半分の位置より高い位置でも、低い位置でもよい。しかし、カッタ部30の最上昇時における上面以下となる位置が好ましい。なぜならば、トラベラTの位置がカッタ部30の上面より高い位置に配置された状態、即ち尻糸切断部材28の開口部からずれた位置において尻糸切断部材28が管糸38から離脱すると、尻糸切断部材28による糸把持が失敗する確率(糸把持ミスの確率)が高くなるからである。しかし、糸の太さ、撚り数等の紡出条件によっては、トラベラTの位置が尻糸切断部材28の開口部からずれた位置であっても、糸把持ミスを少なくできる場合もある。
【0042】
○ 玉揚げ装置35による管糸38の抜き上げ時に、リングレール17を上昇させる上限は、トラベラTの位置が尻糸切断部材28のスピンドル基部24bとの当接状態におけるカッタ部30の上面を基準として上方10mm以上であってもよい。しかし、トラベラTの位置が尻糸切断部材28のスピンドル基部24bとの当接状態におけるカッタ部30の上面を基準として上方10mm以内となる位置が好ましい。トラベラTの上昇位置が尻糸切断部材28とスピンドル基部24bとの当接部から離れ過ぎると、糸把持ミスに繋がる虞があるが、10mm以内であれば紡出条件が変更された場合でもそのような虞が低くなる。
【0043】
○ 玉揚げ装置35による管糸38の抜き上げ時に、リングレール17を上昇させるタイミングは、管糸38の抜き上げ開始と同時に限らない。例えば、管糸38の抜き上げ開始に遅れてリングレール17の上昇を開始したり、管糸38の抜き上げ開始より前に上昇を開始したりする構成にしてもよい。しかし、管糸38の抜き上げ開始と同時に上昇を開始する方が、糸Yの張力増加を抑制できるため好ましい。
【0044】
○ 尻糸切断部材28の上昇を規制する規制手段は、カラー32と尻糸切断部材28との間に設けられたコイルばね31に限らない。例えば、コイルばね31及びカラー32を設けずに尻糸切断部材28のボビン嵌挿部29と当接して尻糸切断部材28の上昇を規制するストッパをブレード24aの所定位置に固定してもよい。尻糸切断部材28は管糸38と共に上昇中にストッパと当接することにより、管糸38とから離脱する。
【0045】
○ カッタ部30は円形に限らず、鋸歯状であってもよい。また、円環状の刃体を別体とし、刃体を固定する複数のカシメ部を備えた構成としてもよい。
○ スピンドル11の駆動方式はベルト駆動に限らず、錘毎にモータを設ける、所謂単錘駆動方式であってもよい。また、タンゼンシャルベルトによる駆動ではなく、4錘掛けベルトによる駆動であってもよい。
【0046】
○ リングレール17の駆動方式は、スピンドル駆動系及びドラフト装置の駆動系と独立してリングレール17を昇降可能な構成であればよい。
○ ボビン嵌挿部29とボビンBとの嵌合力を高める部材として、ゴムリング34に代えて板バネを用いてもよい。
【0047】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記リングレールの上昇は前記管糸の抜き上げ開始と同時に開始される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a),(b)は玉揚げ時の作用を説明する一部破断模式側面図、(c),(d)は(a),(b)に対応する管糸とトラベラの関係を示す模式図。
【図2】(a),(b)は玉揚げ時の作用を説明する一部破断模式側面図。
【図3】リング精紡機の概略構成図。
【図4】(a),(b)は精紡機と玉揚げ装置の関係を示す模式図。
【図5】(a)はスピンドルの一部破断模式側面図、(b)は尻糸切断部材の取付け状態を示す断面図。
【図6】(a)〜(d)は従来技術の玉揚げ時の作用を説明する一部破断模式側面図、(e),(f)は(a),(b)に対応する管糸とトラベラの関係を示す模式図。
【符号の説明】
【0049】
T…トラベラ、Y…糸、11…スピンドル、17…リングレール、24a…ブレード、24b…スピンドル基部、28…尻糸切断部材、29…ボビン嵌挿部、30…カッタ部、31…規制部材を構成するコイルばね、35…玉揚げ装置、38…管糸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビン嵌挿部より下側にカッタ部を備えた尻糸切断部材を、スピンドル基部より上方に延びるブレードに沿って昇降可能、かつスピンドル基部との間でトラベラから管糸に連なる糸を把持可能に装備した紡機において、玉揚げ停止時にリングレールを前記尻糸切断部材と前記スピンドル基部との当接部と対応する位置に停止させ、前記尻糸切断部材とスピンドル基部との当接部以下の位置に糸を巻いた状態でスピンドルを停止させ、その状態で玉揚げ装置により管糸を抜き上げ、抜き上げ途中まで前記尻糸切断部材を管糸と共に上昇させ、該尻糸切断部材と前記スピンドル基部との間に管糸からトラベラに連なる糸を導き、その後、管糸から離脱した尻糸切断部材と前記スピンドル基部との間で前記糸を把持するとともに前記カッタ部で糸を切断するようにし、前記玉揚げ装置による前記管糸の抜き上げ時に前記リングレールを上昇させることを特徴とする紡機における尻糸切断方法。
【請求項2】
前記リングレールの上昇速度は、前記管糸の抜き上げ速度と同じである請求項1に記載の紡機における尻糸切断方法。
【請求項3】
前記リングレールの上昇限は、前記トラベラの位置が前記カッタ部の最上昇時における上面以下となる位置である請求項1又は請求項2に記載の紡機における尻糸切断方法。
【請求項4】
前記カッタ部の最上昇限は、前記尻糸切断部材の上昇を規制するために前記スピンドルに設けられた規制部材により設定される請求項3に記載の紡機における尻糸切断方法。
【請求項5】
前記リングレールの上昇限は、前記トラベラの位置が前記尻糸切断部材の前記スピンドル基部との当接状態における前記カッタ部の上面を基準として上方10mm以内となる位置である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の紡機における尻糸切断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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